ゆーちゃんは、同じマンションに住む幼馴染だった。
親同士も仲が良くて、小さな頃はよく遊んだ。鬼ごっこや、かくれんぼ。プロレスごっこをすると、いつも僕が負けた。
お姉ちゃんに連れられて、いっしょに近くの公園まで遊びに行ったこともある。滑り台やブランコで、日が暮れるまで遊んだ。
砂場で、砂のおにぎりを握ってもらったりとかしてさ……
「ご飯にしますか? それともお風呂にしますか?」
って、おままごと。
テレビドラマの真似をして
「君が欲しい」
って抱きついたら、ゆーちゃんは泣いてしまった。
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小学校にあがって、作文の宿題があった。
お題は、将来の夢、だった。
僕が何て書こうか迷っていたら、ゆーちゃんは自慢げに夢を語りだした。
「あたしね、スチュワーデスになるのが夢なの。世界中の国を飛び回りたいの」
僕が興味なさそうに聞いてたら、ゆーちゃん、怒り出したっけ。
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親の転勤で、国外へ。
それが急に決まったのは、小学校4年生の時だった。
先生が開いてくれたお別れ会の途中で、ゆーちゃんは泣いちゃった。
「アメリカって、どこにあるのぉ?」
嘆くゆーちゃんの涙を拭いながら、僕は答えた。
「僕、大人になったら、迎えにくるから!」
ゆーちゃんは、僕の胸に飛びついて泣いた。
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日本支社への一ヶ月程度の出張が決まったのは、つい先週のことだった。
商品のコマーシャルに使うイメージキャラクターの基本案作りと、キャンペーン活動の方針を決めなければならない。
「ジュディ、それじゃ、行ってくるよ」
愛する妻を抱きしめながら、俺は言った。
「ヒロ、早く戻ってきてね」
俺は、ああ、と頷いた。
早く戻ってこなければ、出張中に娘が立ち上がってしまうかもしれない。
ニューヨークの郊外にある住み慣れた家にしばしの別れを告げ、俺は愛車を運転して空港へと向かった。
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「ヒロ君、元気にしてるかなぁ」
ユウコはなんとなく、子供の頃のことを思い出していた。
子供の頃の夢をかなえて、フライトアテンダントの仕事をしていた。
今日はニューヨークから成田への便に乗ることになっている。
「アメリカって言っても、広いからなぁ…」
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俺は、機内でも書類整理に追われていた。
ノートパソコンとにらめっこしていると、ついつい眠たくなってしまう。
うとうととしていると、スチュワーデスに声をかけられた。
「魚料理にしますか? それとも肉料理にしますか?」
訊ねられて、俺はふと目をこすった。
視界がぼやけていた。あるはずのない笑顔が、そこにはあった。
もう一度目をこする、そして俺は答えた。
「魚料理を下さい」
と。
もうすぐで、機はニューヨークに到着する。
一ヶ月ぶりの、ジュディと娘の笑顔が待ち遠しかった。