闇の帳が下りて来る。
じわりじわりと闇は街に侵入する。
灯り始めたネオンの光に、街灯の明かりに跳ね除けられながらも、闇は確かに滑り込んでいく。
街の至るところに、根を張っていく。
闇に飲まれた屋上で、少年は空を見上げた。
月のない空。
星の見えない空。
闇に飲み込まれた、空。
そんなヤミの中で、今日もヒトは生きていく。
眠るのに特別な準備は要らない。
ふかふかのクッションも、あたたかな毛布も、安眠枕も。
必要なのは感覚だけ。
今いる世界から離脱する。
ふわりとした浮遊感。虚脱感。
その、曖昧な感覚を見失わなければ、こんなにも容易く眠ることが出来るのだから。
いつものように、その感覚に手を伸ばす。
わずかな断片を掴みとる。
そして――
「――暮井、起きて。暮井ってば」
声が、あっさりとその感覚を奪い去っていった。