鴉と黒猫(仮題)


1 :一八十 :2009/12/09(水) 21:40:35 ID:ocsFuDVe

 今月から会報で連載する小説です。
 会報だけだと淋しいので,ここでも掲載します。
 感想などお願いします。


6 :一八十 :2010/01/06(水) 21:28:07 ID:ocsFucueuc

第二幕『黒猫』


   1.

 鴉は、夢を見ている――

 ――雨が降っている。
 黒い男が歩いていた。黒い髪に黒いベストと黒いスラックス。持っている傘までも黒い。
 そこは、港の倉庫街だった。同じような形をした倉庫がいくつも並んでいる。
 その内の一つの前に辿り着いたとき、男は足を止めた。倉庫のシャッターの落書きを一
瞥し、そこに耳を近づける。中からはかすかに、だが確かに人の気配がある。
「――ここか」
 男はそう呟くと傘をその辺の道路に放り投げ、代わりにコートの内側のポケットからナ
イフを取り出した。刃の部分が異様に長い肉厚なナイフだ。柄のところにはボタンのよう
な突起が付いている。男は、眼鏡を外しナイフを構える。そして、そのボタンを押した。
 ――キィン
 金属が擦れたような音が響き、金属製のシャッターが両断された。中にいた千人近くの
女子校生たちが一度に男の方に振り向く。彼女たちの向こう――倉庫の奥には一人の少女
がコンテナの上に座っている。その少女は男の姿を見るとこう言った。
「待ちくたびれたわよ。戒」
「――そうか」
 気のない返事にも動じず少女は言葉を続ける。
「私の能力は知っているんでしょう? 待たせてくれたのはハンデのつもりかしら?」
「…………」
「いくらザ・ラセレーターでも、一度に千人を相手にするのは辛いんじゃないかしら?」
 少女の周りの女子校生たちが、彼女を取り囲むように立っている。その何れの眼も鴉の
姿を捉えている。
「…………」
「ふふふ。流石の《最強》もだんまりかしら? 勿論、この娘たちは私の能力による強化
を受けている。さぁ。どこまでもつかしら?」
 言い終わるか言い終わらないかの内に、少女は指を鳴らした。その途端――
 ――女子校生たちが一斉に武器を構えた。どこから取り出したのか、様々な武器を持っ
ている。ナイフ、刀、斧などの刃物に加えて、拳銃などの銃火器の類までを取り出した。
その様子を少女はにやにやと眺めている。彼女たちは、少女によって強化を受けているた
め、単純な体力も生命力も常人の比ではない。いくら、《機関最強》と銘打たれるこの男
であっても単身生身であるならば、いくらでも勝機はある、と彼女は考えていた。
 そこに、冷やかな声が掛けられる――
「――今回の任務を確認。任務、『魔女の討伐』。優先度Sの任務の為、妨害する全てを
排除可。目の前の存在の全てを妨害と認識。能力《ソウル・スパイク》を発動――」

   *

 目が覚めた。
「――――」
 白い天井が目に入る。窓からの陽光を受けて、ぼんやりと照り返している。
「――――」
 右に目を移すと、白い室内が見えた。あまり高級でないワンルームマンションの一室で
あろう。自分の位置から玄関までが一望できる。そこで鴉は自分がベッドに横たわってい
ることを悟る。
(――今のはなんだったんだ?)
 鴉は、今見た夢を反芻する。過去の任務を夢で辿ることはよくあるのだが、今のは――。
(いや、そんなことよりここはどこなんだ? 確か窓から落ちて気絶していた筈だが)
 鴉は身を起こそうとするが、うまく力が入らない。体の腕と脚の感覚がなんだか鈍い。
目覚めているというのに、全身からもぼんやりとした感じが抜けない。
(……麻酔薬か。ということは機関に保護されたのか)
 鴉は少し安心する。機関の保護を受けているならばある程度の治療を受けている筈だ。
あの程度のダメージならば早々に復帰することができるだろう。
「――目が覚めた、か」
 男の声に鴉ははっとして振り向いた。鴉のベッドの左側に椅子があって、そこに男が座
っていた。なんだか妙に影の薄い男だった。男を見てもその気配が希薄すぎて捉えきれな
い。なんていうか、幽霊みたいな感じのする男だ。ただ、その手に持っている一冊の手帳
からはおどろおどろしい雰囲気を感じる。
「あ、あぁ。あんたが助けてくれたのか?」
「……助けたという表現はある一面からすると正しいのかもしれないが、この状況を適切
に表現できている訳ではない」
 鴉は、男の要領を得ない発言に絶句する。
(――なんだ? 何を言いたいんだ? こいつは)
 鴉は訝しげに男の顔を覗き込む。ついでに能力を発動するが、特に異状はない。ただこ
の男の前にいると妙な感覚が付き纏う。違和感というべきそれは、まるで病院で少女と会
っていた時のような――
(ん? 待てよ)
「おい。あのガキ共はどうなった?」
 あの病院にいた二人はあきらかに異能者だ。ならば、当然機関の監視対象になる訳で、
少年の方はあれだけの能力があれば危険因子として排除されていてもおかしくはない。そ
して、その排除にあたるのは恐らく当初任務についていたジ・エンドになるだろう。そう
思ったところに――
「彼らは――魔女と黒猫は逃走している」
「なんだと。機関による排除はなかったのか?」
 慌てて鴉は聞き返した。
「――ジ・エンドが任務を放棄した。どうやらアレは、誰かに任務を無断で譲渡していた
らしい。その結果、魔女が復活した。これは、……重大な反逆行為だ」
 鴉の背中を冷汗が伝う。目の前のコイツはどこまで知っているのか、と不安になった。
もし、その譲渡した相手が自分であるということが知られれば、コッチの身にも危害が加
わる可能性がある。
(――なんてことをしてくれたんだ。あの人は!)
 鴉は内心で毒づく。冷汗は背中だけでなく全身に流れる。相手に悟られないように掌を
ベッドのシーツで拭いた。
「――新しい任務だ」
 そこに男が冷やかな声で告げた。どこからか封筒を取り出し、それを破って中身を取り
出す。そこには白い紙が一枚入っていて、手書きで文字が書かれている。その文面を見て
鴉は目を丸くし、先ほどの男の要領を得ない発言の真意を理解した――。


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