ホワイトキャットデイズ


1 :akiyuki :2013/01/26(土) 22:39:50 ID:P7PitFPL

 
 今から七年くらい前、いろんな人達からもらったアイデアを、形にするという企画。

 作りかけで終わったこの物語を、完結させたくなりました。


 噂を書き込む方はこちらに
  http://gaia.colun.net/nLounge/200603/06030004.html


5 :akiyuki :2013/01/26(土) 22:43:20 ID:P7PitFPLL7

うみねこ町の噂・注文の多い猫


この町の人は勘違いをしている。
 僕は確かに奇妙な隣人白川実子と仲がいい。
 彼女の奇行に巻き込まれることも多々ある(それはおいおい紹介するとして)。
 けれど僕自身はどこにでもいる普通の人間に過ぎない。
 なのに風の噂では僕は人々にとってその奇妙を構成する一人に見られているらしい。
 
 そしてここは噂が現実になる町、うみねこ町
 僕は十分、奇人なのだ。



 このごろ三時に休憩をとるようになった。
 特に何かきっかけがあったわけでもないけれど、午後の優雅な時間を楽しむ暇があることを確認するだけでも、甲斐がある。このごろは仕事もうまくいき、特に一日中慌てていることもなくなり、コーヒーを淹れるようになった。
 つい最近までコーヒーなんて飲めなかったのだけれど、ある日コンビににジャンプを立ち読みしにいった時に買った缶コーヒーが以外においしかったために最近中毒的に飲むようになった。その話をどこから聞きつけたのか、もともとコーヒー好きだったあの友人も、よく僕の家を訪れるようになった。
 おかげで午後の優雅な時間は日常に侵食されていたが、あの女はなぜか水曜日の午後にはうちには遊びに来ない。
 何をしているのかは知らないが、お互いのプライベートを知り合うような仲でもないので詮索はしないでいた。
 そして今日はその水曜日。
 静かな、いい午後を過ごしていた。


 しかし、招かれざる客というのはこういう時に訪れるものだ。いや、こういう時に来るから招かれざるというのかもしれないが、とにかく。

「加領郷くんー」
 シェフっぽい格好をした童顔の若者がノックもせずに僕の家に飛び込んできた。
「……なんだろう、この非日常」
 少しため息をついてから、極限までミルクで薄めたコーヒーを口にした。
「そんな厭世観出してコーヒー飲まないでよ。大変なんだよ」
 童顔の彼は必死にわめきながらにじみよってきた。彼の名は菅原。僕の同級生であり、今は小さな軽食店の運営を任されているなかなかに立派な人物だ。その頼り無さの割りになかなかいいものを出すので放課後女子高生とかが溜まると評判だ。噂できかなくても、いい店なのだと思う。そんな彼が久しぶりに僕の家にやってくる。それはそれでいいのだが、この時間帯に慌てて何をしにきたのだろう。
 すると菅原は白いコック帽を脱いで叫ぶ。
「助けてよ、加領郷くん。僕の店に『注文の多い猫』が出たんだー」

 脱力してみた。

「ふうんそうなんだよかったね」
 とだけ返答して椅子に座りなおすと、菅原は泣きながらすりよってくる。
「やめてください僕男色の気ないですから」
「どうしてそんな他人行儀で喋りだすのさ」
「係わり合いになりたくないからに決まっているだろうに」
 僕は三時のお茶を続けることにした。

「そんなこと言わずに助けてよ」
「助けるも何も、大体なんだいその『注文の多い猫』って」
「え、知らないの?今うみねこ町で噂になっているんだよ」

やはりそれ系か……。
僕は溜息をついた。
「最近ね、うみねこ町の食事店を食べ荒らしている猫がいるんだって」
「まず猫に料理を出していることにツッコミを入れていいか?」
「しかもすごく味にうるさくて、そのお店の一番自信を持ってる料理をずばっと当てちゃってそれを注文するんだよ」
「いい客じゃないか」
「なのに、食べ終わった後に作った人を呼びつけて料理に注文をつけるんだ。火加減が足りないとかもっと味は薄いほうがいいとか」
「なかなかに舌の肥えた猫様だな」
「それでね、最初は港町のレストランとか食堂とかばっかり狙っていたのに、つい最近から、民家の多いところの喫茶店とかアイス屋さんとかにも出てきてたらしくて、やっぱり当店の自慢メニューを食べ歩いては文句をつけたりこんな田舎町ではおいてないような料理をわざと注文するんだって」
「ふむ、随分とインテリな感じの割りに性格悪そうだな……うん。大体わかった」
「そ、それじゃあ」
ぱあっと顔をあげる菅原に
「じゃあ、頑張っておいしい料理を作ってやってくれ」
励ましのエールを送ってみた。
「な、なんでさ」
ずっこける奴なんて始めてみた。
「だって、その猫……、猫なのか? それがまあ、料理を注文してそれを食べていちゃもんをつけた。そういうことだよな。それで? 無銭飲食だとか、営業妨害だとかがあったのか?」
「な、ないけど」
ないのか。しかし、一体どうやって勘定をしているのだろう。
「ちょっとグルメな客が味に文句つけてるだけだろう? だったら、僕が入る余地はないよ」
「け、けれど」
「五月蝿いなあ。何がいけないんだ」
「だって、猫が食べに着てるんだよ?!」

固まる。


うん、そうだ。おかしい。
注文の多い猫がいたらおかしいんだ。
危ない危ない。
一番大事な部分を気にしないでいた。
「それで、ついに来ちゃったんだ」
「何が?」
「だ、だから『注文の多い猫』だよ」
それはさっきも聞いた。
「……じゃあ、今お前の店に?」
こくりこくりと二回も頷いて菅原は続ける。
「なんか、タキシードみたいな服を着たしっぽの長い猫がやってきて『あの日当たりのいい席に×××を運んでくれたまえ』って言うんだ」
「なんだ×××って」
「僕も知らない国の言葉だったからわからない。きっと僕の知らない料理なんだよ」
「そんなの出せるわけないだろ」
「うん、だからどんなものなのか見た目と味を教えてもらって作って出してみたんだ」
「君、何気にすごい腕だね」
「そうしたらなんだか味が違うって」
「そりゃそうだ」
「だから、助けてー」
「なんで?!」
「僕、これ以上猫と料理の話なんてしたら頭おかしくなっちゃうよ。どうか、一緒に来て『注文の多い猫』の注文を取って欲しいんだ」

なんだか、奇妙なことになった。
「大体みんな勘違いしているけれど、僕はそういう奇妙なこと専門の何でも屋じゃあ、ないんだけれどなあ」
「でも、噂になってるよ、加領郷くんのこと」
「知ってるよ」

この町では、噂になったことは現実になる。

僕にそういう噂がたっているのなら、自然と僕はそういう風になってしまう。
自分の意志に関わらず。
そう、それはちょうど彼女がそういう噂を立てられたから、あんな風になってしまったように。


「で、菅原君、君のお店ってあれだっけ?」
「うん、あれだね」
 そこには小奇麗な店が一つ。町並に溶け込んでいた。
『甘味処 ルーズリーフ』
「火曜日がお休み。まあ、創作料理などもやっています。要予約ですが、ランチなんかもできますよ」
「どうしてそこで営業トーク」
 店にさらに近付くと、店内からこちらが見えて、どうやら店員らしい少女が一人、菅原の姿に気付き大声をあげた。
「あー、この忙しいときに敵前逃亡した店長代理―、お帰りなさーい」
「ちょ、ちょっと添水(ししおどし)ちゃん、そんなまぎらわしいこと言わないでよ」
「だって、今からお客さんが来るって時にうちの料理人はそんな得たいの知れない人を連れて帰ってくるんですもの」
 ああ、得体の知れない人よばわりだ。
「そ、それは失礼だよ」
 ああ、菅原くん、君のような普通な反応をしてくれる友達を残しておいて、僕は本当に嬉しいよ。
「この人は、さっききた『注文の多い猫』の対応にきてくれたボランティアで悪霊退治をしている新興宗教団体の教祖様で……」
「いやちょっと待てなんだそれは」
「え? だってそういう噂が」
「誰だそんな噂流したのは」
くそう、また修正せねば。
「そ、それよりも『注文の多い猫』をどうにかしてよ」
 そうだった。それをさっさと解決して
「店長代理、さっきから『注文が多い猫』って言ってますけれど、なんですかそれ?」
「え?」
「え?」
「いや、さっきお店に来たあの変な南国風のお菓子を注文した猫だよ」
「何寝ぼけたこと言ってるんですか? 猫がお菓子注文するはずないでしょ」
「いや、してたじゃん。僕、さっきまでその猫と話してたでしょ」
「私ずっと厨房で昼寝ってましたから。それでそろそろ休憩が終わると思って店に出たら、店長代理が泣きながらお店を出て行くところでしたから」
「その時、ほらあの日当たりのいい席に」
 菅原の指し示すその先を僕と店員らしき女の子が見るとそこには

「あ、歯車君ハロー。みんなのレジェンド、シロネコだよ」
タキシードっぽい黒い上着を着た、白川実子が座っていた。
「……白川、お前何してるの?」
「何って、どうみてもお菓子食べてるじゃん」
 確かに白川の目の前にはシュークリームとショートケーキとモンブランとドーナツとチョコドーナツとツナサラダとチーズケーキとカレーパンと当店オリジナルメニュー豆腐ドーナツとホットココアが並んでいる。
「珍しいね、かーくんがこういうお店に来るなんて」
「ああ……。それにしてもよくもまあそんなに頼んだな」
「注文の多い女と呼んでくれたまえ」
 僕は菅原を引っ張って店の奥へと入る。

『菅原、まさかあれが注文の多い猫とか言うんじゃないだろうな』
『ち、違うよ、本当にあの席に猫が座ってたんだってば』
『確かにあいつのあだ名はシロネコだし、俺も一緒にいることはあるけれど、別にあいつ専門というわけではないんだよな』
『いや、本当に猫が喋ってたんだってば』
『店長代理、何の話してるんですか?』

 三人がひそひそとしていると、後ろから声がかかる。
「かーくん、どーせ暇でしょ? これから遊びに行っていい?」
「それは構わないが、さっきのシュークリームはどうした?」
「? そりゃ食べたけど」
「食べるの早いな……。それじゃあ菅原、僕帰るから。実はそんなに暇でもないんだ。あんまり嘘大げさ紛らわしい頼みごとは勘弁な」
「いや、ちょっと待ってよ。本当に猫が」
「店長代理、さっさと働いてください」
「違うんだって、本当に……あー。あれ!」
 菅原が指し示した先、店の玄関口に、一匹の黒い猫がねっころがっていた。
 背中が黒くて内側が白い。まるで黒い上着を着ているような。
「あ、あの猫だよ」
「かーくん、この人どうしたの?」
「いや、別に」
「……店長代理、疲れてたんですね。でも私がいるから安心してくださいね」
「ちが、違うんだってばー」


 そうして、僕と白川はルーズリーフを後にした。
「白川、その紙袋は何?」
「ああ、これ? さっきお店で頼んだお菓子。せっかくだからかーくんの家で食べようと思って袋に詰めて貰ったの」
「ふうん、もちろん僕も食べていいんだろうね」
「いーよ。でも何か飲み物くらいだしてよね。ところでかーくん、『注文の多い猫』の噂知ってる?」
「知ってるよ。色んな店に行ってしつこい注文をつけてくる猫だろ?」
「うん。徳のある料理人のところに現れて、料理のアドバイスをくれたり新メニューを教えてくれたりする猫って話だよ」
 どうやら、菅原は噂を勘違いしていたらしい。
 そして勘違いした噂を信じた菅原の前に現れた『注文の多い猫』は、イタズラだけして、去っていった。
 ということなのかな。

 世の中の人は、勘違いをしやすいものだ。


 そこで、コーヒーを飲みかけにしてしまったことを思い出した。

「ううん、冷めているだろうなあ、あのコーヒー」
「えとさ、かーくん」
「ん?」
「かーくんが今飲んでるあれ、コーヒー豆じゃなくて、黒豆ココアだけど」
「え?!」


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