暇な暇つぶしの仕方


1 :雨一 :2007/07/27(金) 20:38:03 ID:m3knVnum

 暇つぶし1 

 とっても晴れた日。どうして私はここにいるんだろう?
 そう考えてると、まぁどうでも良くなった。ま、いっか〜ッて感じだ。ん、いい加減主義万歳ざいってか?
 こうやって渡るわけでもないのに横断歩道の前に立っている。そして信号が変わって車が言ったり来たりするのを眺めているのだ。
 自分の時間を横臥する。う〜ん素晴らしい。こんな時間を待っていたんだな。
 日本人は急ぎすぎって……納得。車の速度、制限速度なんか余裕で越えてるもんね♪そりゃそうだよ。真っ直ぐな道を60キロで走れなんて……不可抗力だね。重力並みに。
 にしても、マジでいい天気だ。太陽がそれほど強くもなく、風も温かい。春……だね、これは。まだ土曜日に授業があった頃、帰りの通学路でふきのとうとかツクシ見つけると何となく嬉しくなる、あれだ。
 あ〜思い出すな。よもぎ餅喰った後、道ばたのよもぎ拾って帰ったら……捨てられたっけ。犬の散歩コースだしね。危険危険だ、今思うと。
 なんでこんな事考えてるんだろ、私。たしか、たしか、つい最近まではめまぐるしく忙しかったはず。例えで言うと、自転車のヘルメットを付けたくないぐらい忙しい。あ、なんか変か?
 もどかしいな。仕事で忙しいって言えば良かったのか……。
 大人になると休みたくとも休めないって言う。だから子供はいいわね〜………そんなことはない。
『休みたい』
 何となくそうぼやいてみて、
『じゃあ休めば?』
 って言われる。そう言われると休みたくなくなるのは何でだろう?子供だってそうゆうもんだ。それで休めるヤツがいるんだから……それは大人も子供も関係なく、凄いと思う。少なくとも私には無理だ。
 なんか……暇になってきた。考えてみると、こうゆう時間に何をすればいいのかが分からない。何すればいいのだ?スキなこと……したいけど分からない。
 何か……何か暇つぶしになるようなこと。
 クソ、信号の青の時間を数えとくか。そんで心の中で実況中継してやる。やったるゼ!
『1,2,3,……お〜と、現在青の時間は16秒。これは長い……のか?!赤の車が待ちくたびれているようだ!さて、変わる、変わるぞ……よ〜し、目をこらして……3,2,1,スタート!!!』
 暇だ。
 なんて暇なんだ。暇つぶしにもなってない。でも、これ止めてお暇なだけだ。
 暇な暇つぶし。
 なんかひつまぶしみたい。
 私はそう思うと……何となく気づいてしまった。
 それでも意識はまだ、信号に向いているということを。恐るべき、信号マジック!さすが赤と青と黄色の……今思ったけど、なんで黄色だけ黄“色”って付けちゃうのだ?自然と付けてしまう。
 ん〜………不思議だね。
 そんなこと考えている自分!なんて暇人なのだ!!


2 :雨一 :2007/08/03(金) 23:39:22 ID:m3knVnuA

暇つぶし2

「カノカ、何してんだ?」
「ん〜………暇な暇つぶし」
「……………そりゃなんとも暇そうな………」
「ほめ言葉として受けとっとくね」
 カノカはそう言うと再び屋上から空を見上げた。いつものように、この学校のいっち番高いところを占拠し、そこに女のくせに大の字で寝ころぶ。スカートの中が見えても構わないと言うかのように(実際見えるぞとかいっても気にしなさそう)足を大きく開いている。
 空を見ているのかと思い、ちょっと顔を覗き込んでみると眠そうだった。
 どうやら見ているわけでもなく。
「何となく、空を見ているだけ。だって暇だし」
 カノカはそう言うと、手を大きく振って反動を付けると上半身を起こす。そして、そのまま大きく伸びをした。
「暇なのに暇なこと考えちゃうんだよね。だから暇だって言うのに」
 ワケが分からない。
 それはいつもだけど。そこがカノカの変な所って知っていても思ってしまう。まったくもって無駄なことだ。それでもカノカのことを再認識していないと、そのうちカノカは違うモノになってしまいそうなのだ。カノカじゃないモノ。
 あぁ、俺まで意味の分からないものに。これ以上考えていてもそれこそ本当に無駄なのかもしれない。カノカとは何かを考えること自体が無駄なのに、それについて考えたり言葉に出したりすることは、無駄なことのために無駄をやっているようなモノだ。
 これが、カノカの言う暇な暇つぶしという奴か。これと、無駄なことのために無駄をやるということはたいして変わらないのかもしれない。
「何考えてたんだ、カノカ」
「ん〜?だから暇つぶし。暇なね」
「意味がわからん」
「分かんなくっていい。私分かればそれでよし。そうゆーもんじゃない?これって私の美学だね。暇を弄ぶ暇人。あんまかっこよく無いけど」
 カノカがそう言うと確かに格好悪いかもと思うが、別に悪いとも思わない。だったら俺は、無駄なことをする無駄人?こっちの方が格好悪い。(ってゆうか、ネーミングセンスが悪い)だからあえて言わないでおこう。負けた気がするし。
「まぁ、リキ君ならちょいあたしの美学を伝承してもいいかも」
「そりゃありがたい」
「へへへ」
 カノカはあぐらをかくと(やはりスカートの中は気にしないらしい)俺の前に来る。
「暇な時、とっても暇な時、暇で暇で仕方がない時のことだけどね」
 想像する。
「ふと思いつくんだ。そうだ、あいうえおの五十音順を、一文字ずつ感じに置き換えようって。あだったら、亜鉛の亜とか、それこそあだってのを。それを一人で、ずっと考えてる」
 ……暇だ。楽しくない。やる意味が分からない
「暇でしょ〜。でも、それ止めても暇なだけなんだよね。これが美学」
 講座修了。
 カノカはそう言うと、再び寝転がる。その目は何も見ていない。これももしかしたら暇な暇つぶしかもしれない。一応聞いてみた。
「これ?目を開けているのに何も見ないって事やってる」
 やはり何も見ていなかった。
「暇なんだよね、これ」
 これもカノカの美学らしい。
 無駄人には、やはり無駄なことに見える。無駄人の友も無駄なことをする奴が多いらしい。と、勝手に無駄なことを考えてしまう。


3 :雨一 :2007/08/23(木) 09:05:10 ID:mmVcoALc

暇つぶし3

 あたしは鉛筆を一本用意した。そしてカッターを握る。暇なのだ。これぐらいしてもいいだろうと、カッターを鉛筆に当てた。
 そして………削り始める。
 始めるぞ!暇な授業をやり過ごす方法!

「何してんの〜?」
 がさがさがさ

 ぽきっ!

「う゛ぁぁ!!!」
 あたしは思わず椅子から立ち上がった。教室中の人たちが私に視線を向ける。分かっていても私の意識は机の下に転がっている黒鉛に言ってしまう。
 床に膝をつき、両手ですくい上げるように私はその二本に折れてしまった黒鉛を取る。
 声をかけてきたクラスメイトが、かなり不思議そうに私を見る。
「なに、その棒」
 あたしはそのクラスメイトを睨み上げ、そして黒鉛を見せる。
「何してくれるのってワケ?!あたしの涙の結晶を!この暇な時間を有効に、且つ有意義に使っていたという証拠を!!!!」

 すこーーーーーーーーーーーーん

 あたしのおでこに当たったのは石灰の固まりだった。よーするにチョーク。
「なっ?!先生そんな特技を持っていらして!」
「俺の授業で鉛筆削って暇つぶしするな!」
「あい〜」
 あたしは頭を下げると椅子に座る。
「せっかくの暇つぶしが〜………」
「ばれない暇つぶし、教えてあげましょっか?」
「ほい?」
 それは隣の席のクラスメイト、カノカちゃんだった。
 クラス一の不思議ちゃんであり、謎の人物であり、何考えてるのか分かんない人でもあり、そして自称に暇な暇つぶしを考える暇人なんて使ってる。
「教えて〜」
 なんと言っても私は楽しいことがスキだ。暇が嫌い。今までカノカちゃんとは相性悪いかなとか思ってたけど、これきっかけで仲良くなるかも。なんて。
「まず、シャーペン出して」
「うんうん」
「んでノート」
「ほいほい」
「うっすら線が書いてあるでしょ?」
 斜線のことだね。
「ひたすらなぞれ。ソレしてればめっちゃ勉強してるように見えるのだ」
 見えるのだって…………
「暇だ」
「うん、暇」
 カノカは頷く。
「だからあたしは暇なんだって!!!」
「吉住黙れーーーーーー!!!」


4 :雨一 :2007/08/27(月) 14:29:12 ID:mmVcoALc

暇つぶし4

 ある晴れた日。
「んぐぅ」
 カノカさんが変な声を出した。
「大丈夫?」
 私はカーテンを開けてベットで寝ているカノカさんに声をかける。まるでカエルが潰れた時のような声を出したのだ。もしかしたら内蔵の一つや二つ、口からはみ出しているのかもしれない。
 するとカノカさんはうつぶせになって枕に顔を押しつけたままぴくりとも動かなかった。
「あら、窒息?」
 私はとりあえずカノカさんの体勢を直そうと手を伸ばしたけれど、ぱっと手を挙げてカノカさんがそれを制した。
「?」
 大丈夫なのかと思ったけれど、手を挙げる力が残っているのなら当分は大丈夫かなと思って私はとりあえずもしもの時のために酸素マスクを準備する。
 しばらくの長い沈黙。
 私は棚にしまってある生物の解剖図鑑を眺めていた。お気に入り蔵書の一冊でもある解剖図鑑は、今はもういない生物の先生から引退する前に頂いた物。
 彼が授業でいない間に、私は良くこの本をこっそりと見に行っていたらプレゼントしてくれたのだった。他にも何冊かの生物図鑑を渡してくれると言ったが、丁重に断ったのを覚えている。
 私が欲しいのはあくまでも解剖図鑑だったから。生物の先生はその辺をわかっていなかったけれど、特に不審がらずに渡してくれた。
 私にとって興味があるのは死んだモノだけだったから。
 尊敬する人はレオナルド・ダヴィンチ。そして杉田玄白。小学生の頃の作文にそう書いたら、先生の顔が引きつったことが今でも印象的。でも譲れないからね、こればっかしは。
 大人になってこの学校の保健室の先生として働いているけれど、友達には合ってないと言われている。生きている人間の世話なんて……と言われがちだったけれど、それでもここは好き。
 別に血が好きとかじゃないけれど、たまに来る大怪我。結構スリルのある瞬間は、きっとこの学校にしかない。
 この学校のけが人の命は私が握っている。そう思うとなんだか……守ってあげなきゃって思える。ここだけが、私が理性を保っていられる場所なんだって思うの。
 だからこうやって、本や写真で我慢をしている。
「ぷ……ぷは」
「あら」
 ようやくカノカさんが枕から顔を上げた。カノカさんの顔は真っ赤だった。酸欠ぎみにも見えるけれど本人なんて事無しに上半身を起こして首を回す。
「大丈夫だった?」
 私が聞くとカノカさんは大きく頷く。
「時々変な声を出していたけど、何してたの?」
「暇つぶしですよ、せんせー」
 カノカさんはへらっとした顔で笑いかける。ちょっと首を傾げているので彼女の短い髪が顔にかかるが、それでもそのまま体を傾けていくので再びベットにどさりと倒れる。
「あら、やっぱり酸欠?」
「ん〜ん。酸欠じゃないですよせんせー。暇つぶしをしてたんですよ私」
「暇つぶし」
「目を閉じて下さい。ぎゅ〜って」
 目をつぶる。
「んでもって、そのまま目は働かしておいてください。そすると、何か見えてくるんです」
 あらまあ、本当に。
「なんだか輪っかとかが出てきて、すっごく変な気分なんですけどね。とにかくこの輪っかが何重にもなるんですよ。あ、個人差あるかもしれないですねぇ〜」
「見えますよ」
「あ、良かった。じゃあ輪っかを数えましょう。はい、い〜ち・に〜い・さ〜ん。消えたり出てきたり。一瞬で数えなくっちゃって結構忙しかったりしちゃうんですね。時間がたつのを忘れちゃいます」
 カノカさんはそう言うと目をぎゅっと閉じたまま動かなくなる。
「楽しいですか?」
 聞いてみると、カノカさんは目を開けて私を見る。そしてへらっとした顔で答えた。
「暇ですね〜」
 そしてまた目を閉じる。
「あの、カノカさん」
 私は一応言うことにした。
「今は授業の時間だからね。授業が暇だからってここで暇な暇つぶしをしないでね?」
 その時、授業終了を告げるチャイムが鳴りました。


5 :雨一 :2007/09/08(土) 10:32:58 ID:mmVcoALc

暇つぶし5

 世の中の音が全部名前のある音に聞こえてくる自分の耳とつきあい始めて17年。慣れたから良いけれど、今でも慣れないのが新人歌手とかの歌。
 慣れない音程で歌っているから下手に店とかにはいるとスピーカーからガンガン耳に入ってくる。実音で入ってくる音に何回か耳が耐えきれなくなった事がある。
 主な症状は吐き気と目眩。まるで貧血気味のような症状だが、きっとそれに近いんだろうな。
 俺が聴いていられる音楽があるとすれば、ずっと同じ音程で鳴り続ける楽器ぐらいだ。アレだったら、まぁ……結構聞いていられると思う。
 常に耳に付けているヘッドホンからはそんな音程が安定した楽器による演奏が延々と流れ続けているのだ。
 俺は、『絶対音感』というらしい。
 それのせいでこんなにも音の幅が狭くなってしまったのだ。どんな音でも聞いている内に不愉快になってしまう。
 それがたとえ、人の声でもだ。
 常に付けているヘッドホンのせいで人の話を聞いていないかのように思われがちだが、これが以外と聞こえてくるのだ。
 まるで波のようにうねりながら、音と音の隙間をくぐり抜けて聞こえてくる。そのせいでせっかく安定した音楽を聴いているのにそれすらも不愉快な音となってしまう。
 だから人との会話は嫌いになったのだ。
 そう、ある一人を除いては。
 そのある一人とは、同じ学校の生徒である一人の女子だ。名前はカノカという。初めて名前を聞いた時はとても響きのいい音に感じられた。言いにくそうな名前だったが、忘れられそうにない名前だったこともある。
 綺麗な名前だ。正直にそう言うと、カノカは嬉しそうに笑いながらお礼を言った。
 不思議と、カノカの声は不愉快に感じられないのだ。
 俺とカノカの出会いは、カノカが歌っていた変な歌からだった。いや、アレは歌なのかは分からない。歌と言えるのかも分からない。カノカにしてみれば、それは暇な暇つぶしらしい。まったくもって意味不明だった。
「ん〜……言葉遊び〜?」
 カノカは最後に疑問符を浮かべてそう言った。本人も何をしているのか分かっていないようだ。そんなことをして楽しいのか?そう聞くと、カノカは言った。
「分かんないよ。暇だもん。考える時間が惜しいくらい暇なんだよね、これ。やっている意味が分かんなくなっちゃう」
 じゃあ、やらなくても。そう言ったが、次にカノカは自信満々に宣言した。
「楽しかったら暇な暇つぶしにならないじゃん!」
 妙にはっきりとした口調で言ったのだ。
「これ、私のポリシーね。美学なんだよ〜」
 そう言うとカノカはフフフと笑って再び歌い出した。曲は『カエルのうた』。誰もが知っている歌だが、カノカが歌うとこうなる。
「あ〜え〜う〜お〜う〜あ〜あ〜 い〜お〜え〜え〜う〜う〜お〜 」
 そう。カノカは全てを母音で歌っているのだ。だからその声は、歌は耳障りに良かったのかもしれない。それが耳に残った。だから興味を惹いた。
 言葉で説明すればそれは難しそうに聞こえるが、やってみれば誰にでも出来る簡単な歌い方なのだ。
 メロディーさえしっかりしていれば歌だって理解できるし、知っている歌だから母音だけでも変に感じない。もっとも、これは俺だけかもしれないが。
 そして一番の決定的なことが、カノカ自身だ。カノカは、音程が完璧だったのだ。
 始めはプロかもしれない。練習したのかもしれない。なんて思ったが、自由気ままに、暇な暇つぶしとして歌っているカノカを見ているとどうやらそうでもないらしく。今となってはどうでも良くなってしまった。
 とにかく、カノカとの時間だけが俺にとっては幸せな時間だった。
 カノカは今日も暇な暇つぶしとやらをやっているだろう。ひとによってはその行為は無駄なモノととられるだろうが、俺にとってその暇な飛沫ビシとは、俺の『絶対音感』に無くてはならないモノとなったのだった。
 まぁ……今日もカノカが歌うかは別として、だが。
 その時、ちょうど教室からカノカが出てきた。そして俺に気づく。
「うぃーッス、いーちゃん」
 カノカはにぃっと笑う。『いーちゃん』。カノカが付けてくれたあだ名だった。母音で耳障りが良い。きっと適当に付けたのだろうが、それでも俺はそのあだ名をかなり気に入っている。
 本人に言うつもりはないが。


6 :雨一 :2007/09/22(土) 00:12:43 ID:o3teQGkH

暇つぶし6

「私、この歌手好き〜」
「そなの?」
 カノカはへっどほんを両耳に当てながらそう言う。私はそれを聞いても感情はあまりわいてこない。
 大丈夫。
 この歌手はもう死んでるし。
「どしたの、もりちゃん」
 カノカが顔を覗き込んでくる。そして私と目が合う。めっちゃかわいい。
「何でも無し」
 だから思わず抱きついた。
「おぉ、もりちゃん発情期ぃ?」
 カノカが巫山戯たように言った。うん。半分って言うかおおかた正解。発情期って言うか私の場合はカノカと過ごしている限り発情期真っ盛り。
 何はともあれ、カノカの腰って細い。めっちゃかわいい。愛しがいがある。この小動物っぽいところが好き。テイクアウトしたい。スマイル0円よりもカノカ100万のほうが魅力的。100万は安すぎるけどね。
 とりあえずもぞもぞとくすぐったそうにしているカノカを離す。
「……買ってあげる、そのCD」
「え、ホントに?」
 カノカが満面の笑顔に。悩殺。
「うん、ホント。私、カノカに嘘付いたことある?」
「ないよ!」
 そして次はカノカが抱きつく。
「私が発情期だね」
 襲いたい。でも我慢ね。
 カノカは嬉しそうにへへへと笑う。私はCDを片手にレジまで行く。そして店員に商品を出しす。
「3500円です」
「はい」
 私は財布に入っていたカードを見せる。
 現金は持たない主義って言うよりも持たせてもらえないクチ。
 そんな感じで商品を買ってきた私に、カノカは嬉しそうにお礼を言った。
「ありがと、もりちゃん!今度なにかお礼するね」
 そんなそんな。私は苦笑いする。
 今度と言わず、もう今からでもお礼を受け取ります。もちろんカノカを。テイクアウトOKと言うことで。(本人の了承も得たことだし→お礼)
 まぁ、もちろん脳内に留めておくけどね。
 するとカノカはふと思い出したような顔をする。
「どうしたのカノカ?」
「あ、もりちゃんってカードばっかだよね」
「支払いのこと?そだけど」
 するとカノカは「やった」と言って自分の財布を取り出す。そして中から5円玉をとりだした。
「はい、お礼」
「……お礼」
 カノカは私の手に5円玉を握らせる。別にお金に関しては何も言わない。でも3500に5。まあ、そんな無邪気に小悪魔な所も可愛いけどね。
「これ、5円玉なんだけど」
 カノカはもう一枚取り出して自分の手のひらに乗せる。そしてそれを人差し指と親指で立てに挟んで穴から私の方を覗き込んだ。
「こうやって覗くとなんか見えにくくない?」
「…………うん」
 そだね。カノカの可愛い顔が隠れて台無し。や、台無しではないけど。
「こうやって歩いていると普段味わえないスリルがいつでも味わえるって言うんですよ!これが」
 急にカノカが声を張り上げた。
「………」
「暇な時やってね」
 そう言ってカノカは5円玉をしまう。
「やっててもあんまり暇なのは変わらないけどね」
 暇なんだ。やってても。
「暇な暇つぶし。これマイブーム」
 そう言うとカノカは私の方を見て「ねっ」という。なにが「ねっ」なのかは分からないけれど、思わず鼻血が出そうになるぐらい可愛かった。
 と言うか、目眩が。カノカが眩しい。
「わ、もりちゃん」
 カノカが私を支える。
「大丈夫?どっか座ろうか」
 そう言いながら私の手を引いて歩くカノカ。
 カノカ。
 心中で思う。
 さっきの暇つぶしはとうぶんできそうにない。
 なぜなら……カノカといるかぎり私は暇ではないし、これからしばらくもカノカのことを考えておくのに忙しいからね。
 ね、カノカ。
 大好きだよ。


7 :雨一 :2007/10/13(土) 15:16:11 ID:o3teQ4uc

暇つぶし7

 たまに、メチャクチャ死にたいって思う時がある。
 あなたもない?
 
 そうやって、ある日お昼の放送で聞かれた。
 や、それ……ここで聞くか、普通……。
 放送当番を横目で見つつ、ボクは目で訴える。
 しかし、この学校の放送当番はそんなこと関係ない。っていうか、彼らには責任がない。だって、放送当番はあくまでも紙に書かれた文章を読んでいるだけだから。
 毎週、お昼に放送を流すというまるで小学校か!と、言いたくなる事をしている我が校の放送委員会は、今日も熱心に放送している。
 ご苦労なこって。
 そう思って、普段は弁当のBGMとぐらいしか思っていなかった、この放送。
 しかし、まさか自分がゲストとして呼ばれるとは思っても見なかった。
 予測不可能。
 全校の中から、毎回ゲストはくじ引きで決めるらしい。そして、そのゲストに全校からマジでどうでもいい質問が来る。
 それが、この放送のゲストでアンサーというコーナーだ。

「それ、答えるんですか?」

 たまらず、小声で司会者らしき放送委員会の人に尋ねると、彼女は無言で大きく頷く。
 ボクは少しだけ考える。
 そう。考えなければならない。
 けっして、死にたいとは思っていない。しかし、この質問をした人物は、メッチャ死にたいと思っているらしい。
 ここで軽はずみに、はい。死にたいですねぇ。なんて答えると、『良かった!この気持ち、不自然じゃないんだね!』なんて安心して、その瞬間ハサミで喉を貫くかもしれないし、屋上まで走ってダイブするかもしれない。
 しかし、『無いです』なんて答えても、『あぁ!私って(あくまでも仮に女性)駄目な人間!こんな事考えるなんて、生きていく価値がないんだ』とか思って絶望なんかして、そのまま陸上部のダンベル抱えてプールに飛び込むかもしれない。
 おぉ!なんて奥の深い質問なんだ!
 ボクは頭の中で激しく悩む。これは、人の一生を左右しかねない質問なんだ。
 この放送。今までくだらないと思っていたのに、そんな自分が恥ずかしい。コレからは真面目に聞こう。

「あの、大丈夫ですか?答えられないって感じですか?」
「あ、や……大丈夫です。でも……あの……」
 ボクは口ごもる。
 あぁ!なんでこの人はこんなに決断を迫るんだ。こんなにも重大な質問だというのに。そう、重大なんだ。この質問を議題に、職員会を開いたって、政府が国会で話し合ったって良いぐらいだ。それを……こんな僕一人に任せるなんて!!!
 重い。そして、深い。

「あ〜……菊川君が駄目みたいなので、もう一人のゲストさん」

 え、もう一人?
 その時、ボクは初めて隣にもう一人座っていることに気が付いた。
「ですね〜……死にたいッスか」
 彼女はその質問の紙を見て、もう一度読み上げる。そして、マイクに向かっていった。
「考えている時間、結構暇ッスね」
 ボクは固まる。
 それでも彼女はヘラヘラとした表情でマイクに向かってなおも言葉を続ける。
「そんな、死にたい考えているぐらいなら、もうちょい暇な時間を活用したほうがいいんじゃない?暇なら、暇なりの」
「と、いいますと?」
「暇な時〜もし死にたいって思ったらね」
 彼女はごそごそと筆箱からシャーペンを取り出す。
「フフフのフ、で、じゃーん」
 シャーペンを高々と振りかざす。
 「なんと、コレをッスね。左手で持ちます。そして、芯を持ちます。勿論新品。んでもって、シャーペンのさきっちょにコレを狙い定めます。そして、そ〜っと、中に入れていく」
「……」
 彼女は、シャーペンの芯を身長にそのシャーペンに入れていった。
 あたりが静かになる。
 しかし

 パキ

 乾いた音と共に、シャーペンの芯が折れた。
「あ」
 思わず、声が漏れる。
 彼女は、それを見て言った。
「折れましたね」
「……はい」
「だけです」
 それだけ……かよ。
「どでした?暇でしたか?」
「……はい」
「これぞ、暇な時にやる暇つぶしです。暇だけどね」
「意味ねーーーーーーーーー」

 放送委員会の子は、そう言った。
 ボクは考える。
 っていうか、質問の答えになってないじゃん。


8 :雨一 :2007/10/28(日) 10:46:38 ID:mmVco4xF

暇つぶし8

「あぁ、格好良すぎだよレイ様……!」
「俺は、やっぱり……キララよりもリリアだ!」

「……またやってるよあの二人」
「今度はなにネタ?」
「さぁ〜〜〜〜〜〜〜?」
 と、教室の中心で楽しそうに会話をする男女の二人組を、半径3メートルは誰も近寄らず、遠巻きに眺めていました。
 二人は常に一緒です。
 ソレはもう、どんなときでも。当然付き合っているものかと思えば、そうでも無し。ただたんに恥ずかしがっているだけでしょ?とか、そう言うレベルではない。

「私は!3次元的な物体を好きにはなれないの!」
「俺も、手で触れる存在なんて信じられないの!」

 以前、二人はお昼の放送のゲストとして呼ばれた時、声高らかにそう宣言をしました。
それはもう、お昼の放送の歴史に残るぐらい。
 それからというもの、二人は校内認定のバカップルになりました。使い方は間違っていません。
 二人は、その事になると本当に馬鹿になるのです。そして、本当に馬鹿なのです。
 同じクラスの私がいうから、この信憑性は高いのでした。当然のごとく、クラス全員が二人を馬鹿だと認識しています。先生すらも巻き込んで。
 コレはいじめではありません。
 ただ、私たちはアノ幸せそうな二人を遠くから見守ることにしたのでした。

「ケータイから見れるのって、GAIAの便利なとこだよね♪」
 彼女、サクラちゃんは満面の笑顔でいいました。サクラちゃんは、とっても可愛い女の子です。ボブの髪の毛は、色素の薄い茶色です。肌も真っ白で、アーモンドの形をした瞳に、小さな唇。一目見た男子は、一瞬にして胸がキュンとなってしまうでしょう。
「でも、うっかりしてると結構内容量があるから大変だよね〜」
 彼、アルバルト……アルも、にっこりと返す。アルはハーフです。しかし髪の毛は金髪で、瞳は緑といった、かなりの日本人離れをしています。
「発明シリーズ、コレで終わりなんて……死んじゃいそう」
「あ、でもでも、俺は最近ドラプリにはまってる」
「お!私も。むしろ龍は語るのほうが私好きだけどね」
「それも好き。っていうか、最近16歳社長が再開したんで嬉しい。壊し屋!!!って感じだよ」
「う〜私はアヤちゃんが好きぃ!電気コードで切るってすっごいよ!!!」
「今年もクリスマス企画やらないかな〜……」
「絶対子供役だよ」
「サンタさん!」
「私たちに祝福を!」
「去年の、面白かったもんね」

 その時、全く違う第三者の声が乱入したのです。
 異常事態発生。クラスの暗黙の了解が破られてしまいました。
「あ、カノカノちゃん!」
「カノカちゃん」
 それは、クラスきっての変わり者。自称暇な暇つぶし人、カノカちゃんでした。
「白いサンタクロース……面白かったね」
 カノカちゃんは二人の輪にはいっていきます。凄い。勇気がある。と、いうより話が通じるのか〜と、感心中です。
「だよね!!!短編って、すっごい読みやすいし!去年は小説ラウンジまで行くの忘れてたんだよ」
 サクラちゃんはマジで泣きそうです。
「死神87番……泣けた。ムロが最後まで可愛そう」
「あ、そのシリーズ、今は死神××番で連載してるよね〜」
「知ってる〜〜〜〜〜〜〜〜!!!ムロの話しもあるんだよね?!今後の話しかな?それとも過去とか?」
「99番ってなんて読むんだろ?」

 私たちは、信じられない光景を見ています。
 カノカちゃんが楽しそう。ていうか、暇じゃなさそう。なんで二人と会話、しっかりテンポもってやっているのでしょうか?
 謎が深まります。
 謎です。
 このクラス、結構の人が謎すぎます!


9 :雨一 :2007/11/02(金) 22:48:39 ID:mmVco4xF

暇つぶし9

 自動ドアの向こうは、知らない世界でした。
 なんてキャッチフレーズはこの世に存在しない。自動ドアの向こうが知らない世界というのは、かなり無茶がある。知らない世界のはずがない。
 そう、始めていった相手に突っ込まれて早10年以上。
 自分にとって、まだまだ自動ドアの向こうは未知の世界だった。
 中でもずば抜けて未知数な場所は、『コンビニエンスストア』という種類の建物である。
 そう。あの、24時間も休まずに営業をしている、とてつもなく頑張りやさんのお店の名前だ。いや、名前……ではないと思う。
 コンビニエンスストアとは、やはりお店の種類で、それは全国に存在するのだ。友達に「コンビニ行ってくる」
 と言えば、それだけでは何処なのかを絞り込めない。それぐらい色んな場所に存在をしているのが、コンビニエンスストアというものなのだ。
 私が、心のよりどころにしているコンビニエンスストア。
 それは、全国にあると言うことで、どんな地域のコンビニエンスストアにいても、まるで近所にいるような錯覚を起こしてしまう。
 お菓子コーナーに、ちょっとした違いがあっても、それはやはり見慣れた風景。風景ではないか。光景。あ、地域限定なんだ……なんて騙されてはいけない。結構色々な場所で売っている。それが、全国チェーンの恐怖。
 そんな恐怖を知りながらも、私がコンビニエンスストアという場所を心のよりどころにしてしまう理由。
 それは、そこに私を待っているものがあるからに他ならない。
 比較的、どんなコンビニエンスストアでも奥の方に位置する、飲料コーナー。そこが、私のベストポジション。
 今日も私はそこに行き、そしてガラス越しにそれらを見る。

「あぁ!……お〜いお茶の砂時計……コレでコンプリートだ!」

 私は素早くその扉を開け、そして一本のペットボトルを空高く掲げる。眩しい。
 おまけーーーー。
 なんて素晴らしい響きでしょう?なんて素晴らしい特権でしょう。購入したものにしか味わうことのできない、この感動。そして喚起。
 他にも、今日は数本を購入していきました。なんて贅沢でしょう。でも、これぐらいしなければ、きっと分からない領域なんでしょう。
 今日も私はそんな達成感におぼれていました。
 その時です。

「あ、無い」

 ひとりの少女の声が、耳に届く。私はふと横を見ると、私服姿の女の子が中腰の姿勢でガラスケースの中を見ている。そこは、さっき私がお〜いお茶を取ったところ。
「あったの、カノカ?」
 女の子の後ろからは、さらに女の子が出てきました。長い、腰まであるストレートの黒髪に、モデルのような体型。美人という言葉がこれほどに会う女の子は少ないでしょう女の子。
 私は、彼女たちを知っている。

「どうしたの、カノカさん」
「あ、藤森センセーだ」
 カノカさん。私の学校の生徒。後ろにいる子もそう。
「先生、どうしたんですか?休日にこんなにお茶買って」
「カノカさん達こそ。それに、カノカさんは何か捜し物?無いって……」
「じつは、お〜いお茶の砂時計が欲しいってカノカが言って」
「あら」
 私は、自分の手の中にあるお茶を見てドキリとする。でも、ソレでくじける私ではない。そう。私はとても準備が良いのだ。
「それなら、コレをあげるわ」
 私は自分のバックの中からアルものを取り出す。
 それは、今まで集めたお〜いお茶の砂時計達。たくさんの種類があるが、私はそのなかでも2積もっているモノがあった。以前、柄が似ていたため間違えて買ったのだ。
「はい」
 私はカノカさんにソレを渡す。
「おお!センセーありがと!」
 すると、カノカさん達は外へ行ってしまった。私はレジをすませ、外に出る。するろ、カノカさん達はコンビニエンスストアのすぐ外で座っていた。

「あぁ!難しい」
 カノカさんは呻く。
「なにしてるの?」
「あ、センセー。今ね、砂時計を使って計っているわけ」
 カノカさんは、さも当たり前のように言う。たしかに、砂時計を使うなんて計る以外あり得ないだろう。
 でも、なにを?カノカさんの周りには、特になにもない。
「あ、何をかって言うと。私の数え方」
「………数え方?」
「これ、1分なんですよ。だから、コレを見ながら私は60秒を平等に数える。ちょうど全部無くなった時、私が60秒って数えられたら良い」
「……うん」
「それだけですよ〜」
 カノカさんはそう言うと、もう一度やりだす。
「先生、ホントにそれだけですよ。カノカは暇つぶししているだけだから」
「そうですよ〜。モリちゃんの言うとおりです。私、暇な暇つぶしをしてるんです」
 数えているのに、集中しきれないのかカノカさんも口を挟む。
 そして、砂時計は全図の砂を落とした。
 どうやらまた失敗したようだ。それでも、また挑戦するカノカさんは、なんとも暇そうだった。ソレを見つめる彼女も、ずいぶんと幸せそうな顔をしているし……。
 だから、私は良いづらかった。
 その砂時計。
 じつは性格じゃないなんて………。


10 :雨一 :2007/11/09(金) 21:50:21 ID:m3knVnuA

暇つぶし10

 小さい頃の記憶をたどると、何故か自動販売機の前で呆然としている自分が一番に出てくる。
 銀色の百円玉。そして独特な匂いのする十円玉。ソレを一つずつ握りしめ、俺は其処に立っているのだ。百二十円という値段表示に絶望しながら。
「俺はそれ以来、絶対にジュースは百円の紙パックジュースしか飲まなくなったんだぜ」
「ソレ、自慢かよ」
 俺の思い出話に、リキの野郎は呆れた感じに答える。
 しかし、俺にとってあの日は、第2の人生のスタートとも言える日だった。
 幼いながらにも、世の中の不景気というものを肌で感じたし、身にも染みた。そして、この世には自分の思うとおりには行かないんだ……と実感した。
 今でも、絶望の中、握りしめていたお金の匂いが鮮明に思い出せる。ある意味トラウマでもある。
 しかし、世の中では今また、消費税が高くなろうとしている。このままでは紙パックワンコインの道が危ない。
 大昔の太平洋横断よりも危ない。南極大陸横断よりも危ない。
「だから、俺は政府に断固抗議することにしたのだ!」
 教室の一番高い机。ようするに教壇に立って、俺は高らかと宣言した。教室中の視線を俺は一身に受け、それでも訴える。
 リキの野郎は俺から顔を反らしているし、ソレがよく見ると教室の大半の奴等も同じ反応だったりしてたけれど。それでも、俺には権利がある。
「この紙パックに賭けて!俺は消費税増加を許さない!」
 飲みかけだった、100%オレンジジュースの紙パックを、水戸黄門の各さん助さん顔負けに振りかざした。
 大丈夫。
 たとえ世界が君の値を高くしても……俺だけは君を百円として扱い続けるからね、マイハニー……。
 おつりいらずの、黄金値。ミロのヴィーナスよりも美しい存在が、そこにある。
 俺はとりあえず落ち着きを取り戻し(決していかれていたわけではないが)、教壇から降りる。そして、残っていたジュースをぐびりと飲み干した。
「……俺、このために生きているんだ!」
「そっか……」
 もはやリキの野郎は上の空だった。クソッ、つまらねぇ男だ。
「どうせ……この紙パックジュースの良いところが分かるのは、世界広くても俺ぐらいだよ」
「そんなことないよ〜」
「え……?」
 俺は顔を上げる。其処に立っていたのは、クラスメイトのカノカだった。リキもビックリしてカノカを見る。
「私も紙パック、とっても素晴らし〜い物だって思うから」
「……マジで?」
 俺は思わず目頭を押さえる。
 クソ、上を向いて歩こうだよ。俺はカノカの手を取る。
「カノカ!分かってくれるんだ!」
「うん。だって、紙パックだもの」
 カノカはゆるーい笑い顔で俺の手を握り返す。そして、俺の手の中にあった紙パックを取った。
「こーんなに素晴らしいのに」
 そう言いながら、カノカは紙パックの表面のフィルムをめくり出す。
「あ」
 ぺろぺろぺろぺろ
 下から現れたのは、白いただの紙パック。
 カノカはソレが破れないように身長にめくっていく。
 そして、俺の見守る中。紙パックはただの真っ白な紙パックとなった。
「ふぅ」
 カノカはその真っ白紙パックを俺に返した。
「ぁ……え?」
「ありがと。コレがあるから紙パック、良いんだよね〜」
 そう言って、カノカは手をぶらぶらさせる。その手には、めくったうっすいフィルムがくっついていた。
 カノカはソレを取ると、
「静電気、これだけはちょい苦手〜」
 そう言って、教室から出て行った。
 俺は呆然と自分の紙パックを見つめる。
「な……なんだった?今の……」 
 すると、俺の方にリキがぽんっと手を乗せ、そしてカノカの出て行ったドアを見つめながら、
「アイツにとって、紙パックはただの暇つぶしの道具なんだとよ」
 そう言い、リキも出て行った。
 俺は手の中の紙パックを見つめる。
 見つめる。
 そして、思った。

 やっぱ……紙パック、サイコーじゃん。


11 :雨一 :2007/12/23(日) 01:27:55 ID:ncPiWczA

暇つぶし11

 突然ですが、私は人を抱きつくのが大好きなのです!
 ソレはもう……大好きなのです!
 もちろん、誰でも良いってわけではございません。私が抱きつくのは、あくまでも女性のみです。ちなみに、私も女性ですから。
 そう……とにかく、抱きつくのが大好きなのです。
 アノ……腰!
 うあはり、人それぞれ、腰それぞれなのです。
 痩せている人は、やはり手が簡単に届いてしまいます。ぎゅうっと抱きしめれば、腰の骨がちょうど手に当たります。背中にもぴったりとくっつけるし、かなり密着できるのでした。
 そして、ちょっとぽっちゃり型。あくまでもぽっちゃりです。は、正面から堂々と抱きつくのが一番良いのです。胸のあたりに顔を埋め込み、あったかいな〜と思いながら、そのままぎゅ〜っと離れません。
 でも、私が一番好きなのは……痩せていて、なおかつ!柔らかく、ほどよい肉が付いている腰です!
 もう……本当に良いんですよ?!
 あぁ……彼女の腰。
 もう、あれに敵う人は存在しないでしょうね。一日中抱きついていても、私はきっと飽きないでしょう。
 腰!腰なのです!
「はぅ〜……し・あ・わ・せ」
「ビーズクッション抱いてなに言ってるのかな〜?蜜柑さん、あなた元気そうだからベッド開けてくれないかな〜って」
「あう〜、保健室のセンセー……私は現在ベッドに倒れ込んでくる病弱なか弱き乙女の腰を狙うため、ここにこうして巣くっているのですぅ〜……邪魔立てはごめんですよ〜」
「ビーズクッションに敵う腰は……さすがにセンセーもいないと思うけどねぇ」
 センセーはそう言いながら本のページをめくっています。
 あぁ……そういえば、センセーもかなり良い体をしています。セクシー&ナイスボデーって感じです。
 保健室のセンセーがそれって、かなりお決まりですね〜……なんて思いながらも、私はビーズクッションに顔を埋めてぎゅう〜っと抱きしめます。
 あぁ、世界のどこかに、こんな柔らかな腰を持った女性がいないのかしら?
 それは、決して叶うことのない夢。
 でも、私はそんな叶うことのない夢を持ち続けます。こことは永遠の少女です。夢は大きく、そして壮大に!Boy`s Be アンビシャス!ですよ!少年よ、大志を抱けです!
「はう〜……」
「あらあらあらあら」
 その時、センセーの声が困ったような声に変わり、足音が近づいてきました。そして、その足音は私が巣くっているベッドの前に止まり、そしてカーテンが勢い良く開かれる。
 私は顔を上げ、獲物を見る。
 女の子だ!
「カノカさん、今日は先客がいるからサボりは無しよ」
 センセ−が言う。
 カノカちゃんか。見た目は合格だ。ショートカットの似合う、可愛い女の子。慎重は平均。体重も平均。やせ形だが、制服ごしだから判断は鈍る。足の細さを見ると、結構体も細いだろうと予測される。
 私の瞳の奥が、キラリと輝いた。
 こう見えても、バスケで鍛えた跳躍力と、普段から鍛えまくっている腕力。一度食らいついた獲物は逃さないのです。
 と、言うわけで

「いただきまーす」

 私は目の前のカノカちゃんの腰めがけて飛びかかる。
 しかし、後一歩のところで。さらにカーテンが開き、そこから出てきた誰かに、

 ビッターン!!!!

 横っ面に張り倒されたのでした。
「ひゃう!!!」
「おう!も、モリちゃんいきなり」
「なんか、カノカに身の危険を感じたからつい」
 そこから出てきたのは、何処までも黒く、美しい髪を持つ超のつく美女でした。
 その美女を見た瞬間。私の世界は変わったと言ってもいいでしょう。
 私はさっきまでの冷静な分析を一切合切止め、その美女めがけて飛びかかりました。
「うひゃ!!!」
「美ジョーーーーーーーー」
「モリちゃん?!」
 私はぎゅうーっと彼女の細い腰を抱きしめます。
 なんて細いのでしょう。まるで、繊細な飴細工のよう。しかし、女性らしいしなやかな肉付きが、そこには存在していました。
「ややややっややや、なになに、この子!!!!???」
「その子、腰フェチなのー。許してあげて」
 センセーがなにやら説明していますが、私の頭にはすでに一つの命令しか届いていません。
『振り払われるな』
 美女は必死に私を振り払うように体を振ってますが、全く私には効きません。ほほほ。
「か、カノカ!これは誤解の中の誤解だから!変な想像しないでね?!」
「う〜ん……無理かも?」
「そんな!」
 美女は、さっきの可愛い子ちゃんになにやら弁解しているようです。関係なし。しかし、可愛い子ちゃんは一言、こう言いました。
「だって、私もやりたいから」
『へ?』
 そう言った瞬間、可愛い子ちゃんも私の後ろから、私に抱きついてきました。
「おう?!」
 これにはさすがの私も戸惑います。今まで、他人の腰に抱きついたことはあっても、ここまで積極的に抱きつかれたことがないからです。
「な!カノカまで」
「だってー、これ、あれでしょ?」
 ん?
「人の心臓の音を聞いて、聞いて、聞いて………っていう暇つぶしでしょ?」
「……………………………」
 猛烈な勢いで私はソレを想像してしました。
 心臓の音を聞く?
 その瞬間です。
 今までは意識していなかったからでしょう、心臓の音が、急に聞こえだしたのです。しかも、以外と五月蠅い。
「っ?!!」
 私は思わず美女から離れる。
 そして、自分がした行動に驚きました。自分から、離れたのです。
「な………?なんで」
 私はすぐさま近くにいたセンセーに抱きつきます。
 しかし、その瞬間心臓の音が聞こえだしました。
「っぅ!!!」
 私は離れます。
 ヤバイです。意識することによって、普段は別段気にしていなかった音が聞こえ出すのです。ちょうど、静かな部屋では時計の病身が五月蠅いくらい響くかのように。
 私にとって、腰に抱きつくという行為は聴覚など使わない、極めて至福の時でした。何者にも邪魔されない。なぜなら、その瞬間私はその対象にしか興味を持っていないからです。
 しかし、本人の心臓の音は、私の興味の対象より発せられている、しかも体を密着させることによって、より聞こえやすくなってしまいます。
「そ……そんな」
 私は、わなわなと自分の体が震えているのが分かりました。そして、その場にへたりこみます。
「なに?どうしちゃったの〜?」
 可愛い子ちゃんが話しかけてきます。いや、彼女は既に可愛い子ちゃんではありません。
「っーーーーー!!!」
 私は立ち上がり、そして彼女に向かってビシッと人差し指を向けます(結構失礼)。
「あなた……覚えていなさい!いつか、私はこの障害を乗り越えて、あなたから彼女を!」
 ここで私は美女をチラリと見ます。
「奪ってみせる!」
 そう言って私は走り出しました。
 そう。
 いまは、一刻も早く対策を練らなければいけないのです。
 待っていて下さい、全国の乙女達。私は決して諦めません!諦めはせないのです!


 at保健室
「奪ってみせるだって〜、変なの。モリちゃんは私のじゃないのに」
「……その通りよ!」
「ん・どしたの、モリちゃん」
「……なんでもないわ。さ、暇つぶししましょう」
(………私はカノカのものじゃない。でも、いずれは………)
「モリちゃん?」
「ん、なんでもない」
(私がカノカを手に入れる)

「……あのね、保健室はビョーキの人たちのためにあるんだけど………って聞いてないか。まぁ、いいわ。早く『超!改正番解体新書』読もっと」


12 :雨一 :2008/01/12(土) 20:59:45 ID:ncPiWczA

暇つぶし12

 僕は、そっとその刃に触れる。そして、刃に沿って指を滑らせる。
「……綺麗」
 うっとりと眺める。
 僕の指紋が付いてしまった。
 僕は、胸のポケットから、柔らかい絹で出来た布を取りだし、綺麗に指紋をふき取った。そして再び見つめる。
「至福の時間……」
 僕は、はぁと息を吐いた。勿論、刃に僕の息がかからないように顔を背けた。ちょっとの水分でさえ、この美しさを損なわせてしまうのだ。それだけは、あってはいけない。
 布をポケットニ戻し、僕はその歯を見つめ直す。
「あぁ……」
 何度見つめても飽きない。
 いや、飽きるはずがない。
 見る角度からも、幾度も違う輝きを見せる、その至高の存在。
 絶対美。
 職人だからこそ出せる、そのなめらかなボディー。
 繊細さと、鋭さを持つ……アンバランスな存在。
 だからこそ、守ってあげたい、なんて思ってしまう自分は……なんておこがましいのだろう。
「あはぁ……」
 駄目だ。
 顔がにやける。
 このままでは、また周りの人に変な人と呼ばれてしまう。
 しかし……何故、好きな物を目の前にして素直に喜ぶことが罪なのだろうか?
 僕はただ、みんなが好きなお菓子や玩具を目の前にした時に喜ぶのと同じように、この刃を見ると、心の底から嬉しくなるのだ。
 抑えきれない、この気持ち。
 僕は胸を押さえ受ける。
 苦しい。
 なんで、世界の常識はこんなに狭いのだろう?
 なんで、みんなの常識はこんなに狭いのだろう?
 千差万別、十人十色。
 このような言葉を作った偉人ども。
 それを学ぶ凡人ども。
 言葉の真意を理解しながらも、受け入れられない教養力のなさ。
 あぁ……世界はなんで、こんなにも狭いのだろうか?
 苦しい。
 僕はきっと、こんな世界にいるべき人ではないのだ。
 僕の世界。
 そこには、僕と……僕の大好きな刃。
 そして−−−−−−−−−−

「けー君、どしたの……ハサミなんか握っちゃって」
「かの姉!帰ってたんだね」

 最愛の、かの姉だけがいればいい。
 僕はかの姉の腰に、ぎゅうっと抱きつく。
「にゃはは、くすぐったいよ、けー君!」
「だって、かの姉最近会えなかったし。ぼくぼく、すっごく悲しかったんだよ」
「あは、ごめんねー。ちょっと友達付き合いが忙しくって。でも、けー君だって小学校のお友達、いるじゃん」
「7歳なんて、ガキんちょだよ」
「けー君も7歳じゃん」
「精神年齢はかの姉と一緒ーーーーーーー!」
 
 僕は本当にそう思っている。
 あぁ、なんて事だろう。僕の偉大な精神は、こんな小さな器には収まりきっていない。
 速く大人になりたい。
 そして、かの姉と同じ目線で歩きたい。
 僕はもどかしさのあまり、ハサミを握る手の力が強くなる。

 その時、ヤツの存在に気づいた。

「……リキ」
「あ、リキ君でしょ?呼び捨ては駄目だよー」
 かの姉は僕の頭を撫でる。
 しかし、ソイツはそんなかの姉のフォローを危機ながらも、目は全然笑っていなかった。
「ん、じゃあ……ちょい電話かけてくるね。モリちゃんったら遅いし」
 かの姉はそう言って、部屋から出て行った。
 良かった。二人きりで過ごすわけではなかったのだな。
 そして、かの姉がいなくなった部屋で、僕はヤツを見据えながら立ち上がり、そして刃を向ける。
「なにしに来た、この無駄人め」
 出来るだけ冷たく、そして冷酷に。
 しかし、ヤツはそんな俺を見ても口元で笑う。
「ハハ、遊びにだよ、このハサミ野郎」
「勝手に人の家にはいるなよ。それと、かの姉につきまとうの……そろそろ止めないか?うっとうしいし、惨めそのものだ」
「そりゃどうも、猫かぶり。その本性をカノカにも見せてやりてぇよ」
 ヤツはそう言い、ソファに腰をかけようとする。
「座るな。部屋の物に触れるな。そして出て行け」
「嫌だ。俺はカノカに誘われてきたんだ。お前に追い返されるようないわれは無ぇな」
 そして、座る。
 ほんっとに気にくわない。
 この男。
 かの姉が急に友達を連れてきたかと思えば、男の姿。リキとか言っていたが、どこか、かの姉と似た雰囲気を持っている。
 冷たくあしらってもこの態度。
 なんて大人げない。
 僕は大人になっても、絶対にコイツのような男にはならない。
 そして、かの姉にも絶対にこんな虫を近づけない。

 駆除してやる。

 僕は、ハサミを握りしめる。
 そう。この相棒さえいれば、僕は何でも出来る。そして、かの姉を守ることが出来る。
「っ……」
 一歩踏み出す。
 相手はなんと言っても、僕よりも大人だ。
 普通に真っ直ぐ行っても返り討ちにされる。だけど、僕には可能だ。
 行くぞ。
 僕は、左手にハサミを持ち替える。

 そして−−−−−−−−−−−−−−

「あぁ!!!」
「っ?!」
「カノカ?!」
 その声を聞いた。
 かの姉の声だ。
 僕は急いで、その声の方向へと駆け出す。ヤツも急いで立ち上がり、そして僕と一緒にかの姉を見た。
 かの姉は、廊下に設置されている電話機の前でへたりこんでいた。
「かの姉、どうしたの?!」
 僕は急いでかの姉の肩に手を置く。
「カノカ?モリがどうかしたのか?」
 ヤツも、かの姉の手から受話器を取り、そしてかの姉の顔を見る。
 すると、かの姉は震えながら立ち上がり、そして再び電話をかけ出した。
「……カノカ?」
「実は」
 かの姉は唐突に口を開く。
「モリちゃんが取るまでの時間……暇つぶししようと思ってたの。それでね……電話置くところに指を置いて」
 そう言うと、かの姉は電話機に手を置く。そこは、受話器を完全に乗せておかないと駄目という、あの……完全に下まで置けば、電話が終わるという……何というか、あの……?んっと、とにかく、『がちゃん』って音が鳴るところだ。
「ギリギリの所まで……何処までいけるかって。限界を夢見て……」
 かの姉の顔に、緊張の色が表れる。指がその『がちゃん』の部分を押さえていく。
「止めよう、でも、あと1oなら……」
 
 『がちゃん』

 鳴った。
「あ」
 思わず、そこにいた全員の口から声が漏れる。
 そして、かの姉は……というと、肩を落として受話器を置くと、僕の方を見て力無く笑いかけた。
「上手く行かないね、人生って」
「…………………………うん」
 僕は頷いた。
 そう。
 だからこそ。
 こんな、自分の価値観を人生と言えるからこそ。
 
 かの姉は、僕の最高の理解者なのだ。


13 :雨一 :2008/02/19(火) 09:30:21 ID:ommLuDYn

暇つぶし13

 ああ……これもハズレだ。
 私は溜息をつく。そして手に持っていた“ぷちぷち君シート”をゴミ箱にダンクシュートする。
 すでに、教室に備え付けているゴミ箱には収まりきらない私の衝動があふれかえっている。でも、そんなの関係ない。
 私は鞄の中から次のシートを取り出すと、全神経を指先に注いで力を込める。
 力のかけ方にもコツがある。ついでに言うと、どの部分を押せば一番グッドなのかもある。それが分かっているからこそ、この行為は初めて認められるのだ!
 それでも……どんなに潰し方が完璧でも、ぷちぷち君にはハズレが存在する。
 それは、空気不足だったり。
 穴が開いてたり。
 そうゆうことがあると、ぷちぷち君は不発するのだ。
 なんて可愛そうなのかしら!ぷちっとされるために生まれてきた彼ら(彼女ら)が、人間の不手際でその使命を全うすることなく潰れていく。
 この世界に生きてきて、最後にはじけることもなく死んでいくぷちぷち君。
 私にはそれが一番許せない。
 この世には、潰されることなく捨てられていくぷちぷち君シートがあふれかえっているのを、私は知っている。
 とても悲しいことだけど、これは仕方がないことなのだ。この世から戦争が無くならないのと同じくらい無理なこと。世界条例に、『ぷちぷち君の正しい逝かせ方』を載せない限り無理。
 それか『PMK』(P・ぷちぷち君を M・守ろうよ!の K・会)を発足しない限り……。
 私は残念ながらそこまで大きな人間じゃない。存在自体は、この小さなニホンという島国に住む……何処にでもいる女子高生。
 でも、そんな私でも出来ることはある。それは、自然を守るのはまず自分だ!みたいなちっさなこと。でも私にはある。
 それは、せめて私の目の届くところにあるぷちぷち君シートだけでも私が人生を全うさせてあげるということ。
 決して楽なことではない。でも私はやる。ぷちぷち君達に感謝しながら、一つ一つのあの膨らみを割る。そうすることで、私の手元にいるぷちぷち君達だけでも守るのだ。
 しかし、それでも守りきれないもの。それが不発弾。ハズレ。
 人間の管理不足による、社会の汚点。社会の乱れはぷちぷち君に出るのだ。これは間違いない。これについての卒業論文なら……私は軽く100枚かける!はず!
 そして私は再び指先に力を込め、最後の一つを潰した。

 ぱちっ!

「ああっ……!!!」
 弾けるような音。まるで、新鮮な果実。
「あたり……あなたは、大当たりだよ!」
 私はそのぷちぷち君をぎゅうっと抱きしめる。
「っていうか、ミサ子ー」
「なに?ずみよし……」
 話しかけてきたのは、私の友達。吉住だから、私は“ずみよし”と呼んでいる。
「なんでそんなのに悶絶してるわけ?中学校の時はそんなことしてなかったじゃん」
「ああ、もう!昔のことを引っ張らないでよ。あの頃の私の方がどうかしていたんだから!今の私がホントの私。やっと分かったの」
 そう……。
 あの頃の自分は本当にどうかしていた。
 でも、それを気づかせてくれたのは一人の少女。
「……感謝してるんだよ、カノカちゃんには」
「……カノカ?あの子?」
「生きること自体に何の意味も見いだせなかった私。そんな私に、このぷちぷち君を教えてくれたの」
 あの日……私はただ、流れていく世の中にうんざりしていた。
 でも、そんな私の耳元で聞こえた命の弾けるような儚い音。思わず振り返ると、その子はぷちぷち君を潰していた。

『なにやってるの?それ……エアーキャップ……』
『ぷちぷち君だよ。潰してるんだ』
『へえ。なんで?』
『暇だから?でも、これも暇だよ』
『じゃあ何でやってるのよ』
『うん。それにはとても長い説明が付くけど、そんなに聞いていられないよね?だから、会えて一言ですますなら……だから、かな』
『は?』
『そうゆーもの。そうゆーものなの。ほら、ものは試しなんだよ』
『えっ……』

 こうして、私はカノカちゃんからシートを渡されたのだ。
 暇な暇つぶし。カノカちゃんは、きっと私にそれを体験して貰うために渡したに違いない。
 しかし、現実は違った。
 こうして、渡しは目覚めてしまったのだ。
 始めの一個を潰した瞬間……世界が変わった。180度変わった。
「変わっちゃったのね」
「なるほど……。それで、なにからも無気力脱力女だったミサ子がこんなにも生き生きしちゃったわけね」
「正解!」
 その言葉とともに、渡しは一つ潰した。
 そしてゴミ箱に入れる。
「人間ね、なにか生き甲斐があると……他のことなんてどーでも良くなっちゃうんだよ。他のことっていうか……他の人だけど」
「うんうん、分かった分かった。でもね……」

 ずみよしはにっこり笑って立ち上がると、ゴミ箱を持ち上げた。

「これ、燃えるゴミじゃないから。プラだから」


14 :雨一 :2008/03/20(木) 23:54:57 ID:ncPiWczA

暇つぶし14

「雨だ……」

 私は空を見上げる。
 そんな私のおでこに雨粒がぴちゃんと音を立てておちてきた。
「ん……」
 手でぬぐって今度は下を見る。
 だんだんとアスファルトに雨の跡がついていく。
 初めは所々だった雨が、次々と広がっていく。そして、やがて乾いているところは見えなくなってしまった。
 周りの人はきゃーきゃー言いながら雨宿りに走る。
 たしか、今日の天気予報は雨だった門ね。誰も傘は持っていない。
 でもでも。
 私はバックのそこをあさる。そこには骨組みのある折りたたみ傘が一つ。やっすい傘だけど、ないよりはマシというもの。私はそれをさす。
 当然のように傘をさす私。周りはそんな私を見て羨ましそうな顔をしている。
 や、違うかな?
『どうして傘なんか持ってるの?!』て顔かも。
 いやいやみんな。むしろ何でみんなは傘を持ってないの?私を見たら傘を持ちに家に帰らなくちゃ。
 なんてったって……私はけっこう有名な“雨女”なのだから。
 昔から行事事は勿論、買い物、習い事、おつかいエトセトラ……高い確率で雨に見舞われているのだ。
 もう自分の自己紹介で、『私は雨女です』って言ったってみんな笑わない。
 だってホントのことだしね。
 そしてそんな私の性質を知った友達軍団。
 調子よく自分たちが嫌な時に私を外に誘う。
 例えばマラソン。例えば例えば。とにかく、都合のいい時に外に来て!とか頼むくせに、いざ何かあると今日は来るなとか行ってくる。
 むかつかないかと聞かれたら……確かにいい気分はしない。
 でも、これってしょうがない。
 雨なんて……一部の地域では恵のうんたらとか言うけれど、たいていの所では降ったってあんまり嬉しいものではないしね。
 私は……だから雨は嫌いだ。
 でも、外に出たい。
 晴れた空を見ると……今日は大丈夫かもと思ってしまう。そして外に出る。
 そして裏切られる。
 自然と、傘の柄を強く握っていた。
 ふと顔を上げてみると……周りには誰もいなかった。みんな近くの建物にでも入っていったんだろう。
 外には私一人。
 こうなると、まるで世界には私しかいないような気持ちになったりしちゃう。絶対に違うって分かっていても。
 
 嫌い。
 雨なんか大嫌い。
 嫌い。
 こんな私は大嫌い。
 嫌い。
 こんな世界は大嫌い。
 嫌い。
 嫌い嫌い嫌い

「だいっっっっっ嫌い!!ぎゃん!!!」
 私はしりもちをついた。
 びちゃんとお尻が濡れる。だんだんと染みてくる。
 急に誰かが私にぶつかってきたのだ。
「いった………」
「あわわ、ごっめんねぇ」
 ぶつかったヒトは、私に手を差しのばす。顔を上げて見てみると、そこにいたのは傘もささずにびしょぬれでいる女の子。
 女の子は制服姿で、そして普通に学校へ行く途中っぽかった。その制服から、その子が私と同じ高校の女の子だと分かった。
「ぁ……えっと大丈夫」
 とりあえず立ち上がって、傘を持ち直す。と言ってもすでに私も濡れている。でも
「あなたこそ……傘も差さずに何やってるの?」
 するとその女の子はへへっと笑って、手にたたんである傘を見せた。
「あ……」
 ようするに、その子は傘を持っているのにわざわざたたんでいた、というわけだ。
「なにやってるの?濡れてるじゃん」
「うん。でも……スリルはたっぷり!」
「はぁ?」
 私が首を傾げると、女の子は嬉しそうに空を見上げて両手を広げた。そしてガンガンに目を開く。
「こうしているとね、雨がよ〜く見えるんだよ。そして、このまま学校まで雨を避けながら登校していこうってゆう登校中の暇つぶしを実行してたわけ」
 そう言うと女の子は再び私の方を向く。
「でも濡れてるじゃん。びちゃびちゃだよ」
「まあね。でも……雨って、降ってないよりは降ってたほうがこうゆう暇つぶしが出来るから好き」
「……好き?」
「うんうん。お天気だったらこんな暇つぶしは思いつかなかったじゃん?だから……今日は雨に感謝!うん、あめあめふ〜れふ〜れか〜さんが〜」
 その子は突然歌をうたいだした。
 その歌は、雨の音で聞こえずらいんじゃないかと思ったが……そんなこと全くないぐらいその子の歌は雨の世界に響き渡った。
 透き通る歌声。
 うたっている歌は小さい頃からうたっているただの童謡なのに……。
 思わず聞き入ってしまった。
 そして歌い終わる。私は拍手をしていた。
「わわ、照れるなぁ」
「あ……とても上手だった。感動しちゃった」
「そう?じゃあ、君も傘を畳んじゃったことだし……一緒に学校まで雨避けながら行かないかな?」
「へ?」
 私はその時初めて自分が傘を畳んでいたことに気がついた。当然私もびしょぬれになっていた。
「やだ……いつの間に」
「ね、いこ!」
 女の子が私に手を差しのばす。
 私は一瞬躊躇した。でも、すぐにその手を握った。
「うん、行こう!」
 そして、私とその女の子は走り出した。雨を避けながら。でも……たくさんの雨粒が二人を濡らす。
 そんなこと関係ないぐらい、私は……雨を受け入れていた。
 生まれて初めて。
 そして学校。
 結局私たちはびしょぬれだった。
 その時

「あれ?カノカったらなにセクシーな格好してるのよ」
 振り向くと、黒髪ロングの超美人さんが傘を差して立っていた。そしてその人は私も見る。
「なに?あなたも……?全く……二人とも速く保健室へ行きなさい」
 美人さんは呆れたように私たちを美人さん自身の陰に隠す。
「あ、あ、えっと……」
 私は突然のことにしどろもどろしてしまった。
 すると、美人さんは私の耳元にそっと顔を近づけてこういった。

「あなた達……スケスケよ」

 雨は、私が学校の校舎に入ってからしばらく経って止んだ。


15 :雨一 :2009/07/06(月) 12:37:01 ID:Wmknzcni

暇つぶし15

 登校中の俺の目の前を走りぬける、二つの影。

 今日は天気予報で雨なんていっていなかった。はずなのに、まるで当然のように雨が降ってきた。お天気お姉さん、信じていたのに。
 周りの連中も当然傘なんて持っていない。だから本当に、アリの子を散らすかのようにみんなが走っていく。もちろん俺も。
 そんな俺も前を走り抜けたのが、冒頭にも言ってた二つの影。
 両方同学年の女子で、ウチの高校は現在移行期で男女ともにブレザーという厚い上着を脱いで登校していたため、そりゃもう……なんともいえない格好で走り去っていく。
 ま、簡単にいえば透けてたってことで……。
 そのとき、気のせいかもしれないがかなり二人は変だった。
 や、気のせいではない。

 なんか……ふらふらしてる。

 酔っ払いかと思うぐらいまっすぐに走っていない。んで、上半身を妙に振りながら……走っている。
 一体全体何事だ。
 とりあえず、この雨はまだやみそうにない。
 俺も学校に向かって走り出した。

 その日のクラス。
 全員、いや……若干助かったやつもいるが、ほとんど全員が着替えていた。本来体育などの授業以外に体操着(ジャージ)に着替えて過ごすことは禁止とされているが、今日ばかりは教師も目を瞑っている。
 そりゃそうだ。風邪でも引かれたら困るのはお互い様。

 んで、そん時に見つけた。そして思い出した。

「もお〜なんで忘れるのかな?どっちにしても、今日は体育あるでしょ」
「へへへ、ごめんね」
「私のが2つなかったらどうしてたのかな、カノカちゃんは」
「ありがと、ずみちゃん」
「でも大きいね。袖の部分が余ってるし」
「いいんだよ。余ってるとその部分でこうやって〜……」
「あ〜はいはい……」

 そんな会話をしている女子二人。
 一人はこのクラスで2番目にかわいいと男子の間では密かに話題に上がる、吉住さんだ(1人目はさくらさん)。そしてその相手として、どうやら彼女から体操着を借りたらしいその人物――――カノカさん。
 ある意味、このクラス、いやこの学年……学校でも名の通る有名人。そして変人でもある。俺のクラスはとりわけ変や癖や趣味を持つ奴がいる。しかし、そのなかでもカノカさんは頭10個分ぐらい出ている。
 そう感じた一番初めの自己紹介では、自称を『暇な暇つぶしをする暇人』と言い、その生活も暇つぶしでその名のとおりつぶしている。しかも本当に暇そうに。
 不思議な子だった。
 本来ならばそんな変わり者はクラスのはしっこにぽつーんといてもおかしくないが、やはりこのクラス。類は友を呼ぶのか、そうゆう集団だったのか……むしろ歓迎される。
 というわけで、このクラスでは普通の人である俺のほうが目立ったりする。まあ、俺としては平凡なクラスにいるよりも面白いし……悪いとは思っていない。
 こうやって一日中、クラスメイトのしでかす珍事に耳を傾け、そして観察する。
 
 うん、悪くない。

 このクラスは異質だ。
 そこで過ごす生徒も、そして関わる人たちも。
 と、いうと俺もすでに異質なものだろうか?
 それではいけない。幸い、俺は誰よりも早くこのクラスの異常に気づき、そしてそれを客観的に観察し、判断するということが出来ている。
 よって俺は異質な状態を免れている。
 俺にとってこのクラスとは、観察対象として存在しているようなものだ。世界はまだ広い。そして無限。
 人の一生ではその世界を見切るなんてことは不可能だろう。まあ、不老不死にでもなれば可能なんだろうけれど。そこまで考えが飛んでしまうと、それでこそファンタジーだ。
 こんな考えをクラスの奴にしたら……例の二人組みが、大量の文庫本を持って押し寄せてくるだろう。
 俺はあくまでも観察者。
 あっちからの接触以外には極力こちらから働きかけることをしないようにする。

 うん……

 今日もいつもどおりだ。


 そうゆうあなたも、けっこう異質なんだよ?
 ある女子生徒がつぶやいた。


16 :雨一 :2009/10/31(土) 17:47:33 ID:mmVcoALD

暇つぶし116

「なぁ、いーちゃ〜〜〜〜ん」

 後ろから全速力で駆けてくる馬鹿一名を、俺は意識的に無視する方向で。

「俺様の大大大大だ〜〜〜〜〜い発見を聞いてくれよ!!いや、むしろ聞け!!」

 それでも全力で話しかけてくる馬鹿。こいつの目は何のためについているんだ?

「なあ、俺が毎日何できてるか知っているか?!」

 知らん。
 心の中でつぶやく。

「お、聞こえるぞ、心の声が。なになに〜〜『電車だろ!!知っているゼ☆むしろ常識!!知らないほうがおかしいって!!だって俺とお前の仲だろ♪』」
「んなこと言ってない」
「あ、反応した」
「―――――」

 俺はヘッドホンをはずして、奴を睨み付ける。
 そんな俺を見ても、奴はニヤニヤと笑いながら嬉しそうにうなずく。
 そして、
「分かる、分かるって。終いまで言うな。『いつそんな仲になった?』だろ?」
 イライラする。
 分かっているのか分かっていないのか、分からないところがイライラする。
 俺は頭の中で全力でAの音を響かせる。すべての要になる音。絶対音。チューニング。感じろ。それ以外を感じるな。
 しかし、
「いつからなんて関係ない!!『出会ったときから俺たち心友☆だろ!!』そう言ったのはお前じゃん。そんなこと聞いた俺様が馬鹿だったって反省だ」
「最初の質問お前からかよ!!」
「あ、反応した」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 思わず椅子から立ち上がり、口をパクパクさせてしまった。
 そんな俺たちを見て、教室中がざわめく。
 意識したとたんに聞こえ出す、人からなる不協和音。

「っう……」
 立ちくらみがした。
 よろりとして、視界が真っ白になる。
「おい、大丈夫かよ心友!!」
 奴が俺の体を支えたという感触が伝わる。
 だから……
「だから、お前うぜぇって」
 俺は奴を押し戻す。いつからか、こいつは急に馴れ馴れしく話しかけて来るようになった。それは本当に突然に。
 いままで、教室にいても話しかけてくる人物はいなかった。ずっとヘッドホンから聞こえてくる音に耳を傾けていれば良かった。それで良かった。いままでそれで良かったのに、どうしていまさらその世界を壊しにくる。

「もう、話しかけるな。お前の声、耳障りなんだよ」

 それは俺の中では最悪な侮辱。
 といっても、世の中の音のほとんどが耳障りな俺にとっては……こいつの声も、結局周りの音と変わらないってことだ。
 周りの世界が不協和音。
 俺に合わない。
 
 いや、違う。

 俺が、合わせられない。

「馬鹿みてぇ」

 笑いたくなった。
 ずっと使っていた不協和音という言葉。けれど、けれど、

「結局、俺が一番不協和音じゃん」

 世界という音に合わせられず。
 社会というハーモニーを見出し。
 調和という決定打を欠かす。

「や、言ってること意味不明だし」
 その思考が突然切られた。
 奴は俺の腕を掴んだままだった。そして、相変わらずうっとうしいぐらいのテンションで俺に語りかけた。
「な。俺様って電車通学だろ。わりとなが〜い距離をがたんごとんと揺られているわけだ。そりゃあもう、暇なんだよ」
「……は?」
「んでな、暇だぁーーーってこの前ついつい改札口を出たら叫んじまったんだよ。まあ、元々かもしれないが、ほとばしる俺様のオーラでみんなが振り向いた」
「……」
「みんなが俺様のオーラに圧倒され去っていく中、一人のガールが俺にこう言ったんだ」

『電車に乗ってる間が暇なら、暇つぶしをすればいいんだよ』

「かわいい子だったな。で、彼女はこう続ける」

『電車の窓からね。見える景色の電信柱の上を、自分が飛びながら走っている姿を想像するのね。もう、もののけ姫ばりで。んで、落ちたら死ぬ。そういうゲーム』

 なんか、知っていた。
「俺様は早速、今日から実践してみようと思ったんだ。で、大発見」
「暇……」
「なんだ!!やっぱり心友、理解してる。チョー―――――――暇だった。やってて意味がわかんなくなった。それが今日の大発見。以上」
 語り終わると、奴は晴れやかな顔で俺の席の正面に移動する。
 なぜかというと、奴は俺の前の席だからだ。

「で、いーちゃんよ。お前ってさっきからなにぐだぐだ話してたっけ?」

 馬鹿は聞く。

「もう……いいって。そろそろ先生来るから前向いとけ」

 俺はいつも通りヘッドホンを耳につけようとした。が、その手を再び掴まれて、ぐいっと前に引っ張られた。

「な、なんだ!!」
 もしかすると、俺の話の続きか?
 そう身構えたが、奴はさっきまでのテンションとは真逆のテンションで俺に言う。

「暇な暇つぶしに夢中になりすぎて……カバン電車に忘れた」

 この馬鹿。


17 :雨一 :2010/02/14(日) 15:42:06 ID:PmQHQHW4Q4

暇つぶし17&記念?

 閲覧者数2000突破記念

「はい、おめでとお」
「……なんかあまり嬉しそうに感じないのは俺だけか?」
「リキくん、それは気のせいだよ」
「……はあ」
「あら、カノカの隣にいるくせにため息なんて、あなた何しに此処に来たのかしら」
「モリ、おまえ黙っとけ」
「黙れるわけないでしょ。カノカと同じ場所にいるってだけでアドレナリンがばんばん出ているんだから。今だってあんたたちがいなければすぐにでもカノカを―――――」
「ストップゥ!!それ以上は此処では発言禁止!!」
「ずみよし熱くなりすぎよ。ほら、ぷちぷちくんをつぶしながら心を落ち着かせて。平常心平常心」
「ふんぬぅぅぅ」
「きゃああああああ!!やめて!雑巾絞りで一気に潰さないでえええ!!!」
「帰る」
「おいおいいっくん!俺様をおいて帰るなんて勇気のある行動ができるのか?」
「わけが分からん。それのどこに勇気があるんだ」
「俺様という危険物をこの空間においておいて……爆発しても知らねェぜ☆」
「……もういいから誰か他の人に絡んでくれ」
「爆発物というと……まさか君の中には時限爆弾でも仕込んでいるのか?!いや……一人にすると爆発言うフレーズから、もしかすると心電図にあわせた爆発物が?一定値を下回る・上回ると引火する仕組みで……」
「うわあ、みてみてこれ!!電撃文庫は来月とうとうインデックスが20巻でるよ!!」
「それよりメグセロだって。久しぶりの新刊だ!!まだ夏休みの最中なのかなぁ……」
「アル!さらに再来月はバッカーノだよ」
「しかも過去篇。ヒューイとモナモナの関係が気になる」
「す、すみません〜〜!!雨が降り出してきて遅れました!!予想はしていたけど急に降り出してきて……て皆さんもう盛り上がっていますね……」
「うっはぁ!!雨にチョイ濡れの腰もなかなか!!」
「ひぃ?!」
「湿気も混じってなめらかしっとり」
「や、やめて〜〜〜〜」
「相変わらずのこのテンション……どこまで続くかも観察のしがいがある」
「お前、いつまでそんな隅っこでぶつぶつ言ってるんだって。ジュースのもう!そして今日も100円の神様に万歳三唱。ほらほら一緒にって……なにこっち真剣に見てるんだよ」
「この100円馬鹿も消費税が上がったときはどんな反応を問うのだろうか……もしかすると、そんなことはさせんと議員になるという夢をかなえるのだろうか?観察する必要があるのかもしれない」
「……やめてくださいとりあえず」

「ねえねえ、どうして今回はこんなパーティーしてるの?」
 カノカはとりあえず主催者と思われる側に聞いてみた。

―――――――――――――――それは、とりあえず……

「とりあえず?」

―――――――――――――――閲覧者数が2000突破という記念もかねての、なんの意味もない無駄話をしようと思って。ホントに暇かもしれないけど。

「……無駄だ」
「でも愛があるわ」
「つまらないわよ」 
「ぷちぷち」
「耳障りだ」
「俺様が出れたし」
「ちょっと考えてみる」
「アニメ化だね」
「漫画化だよ」
「今日は雨だから」
「抱きつく機会があれば」
「消費税は変わらないよな?!」
「観察は続けるよ」

「まあ、まとめちゃうと〜」

 みんなが注目する中、言い切った。

 ――――――――――――――――「暇だった。今日」


********************************


 暇つぶし17

 なるほど。

 あの子のことを知りたいのね。いいわ。知っている限りを教えてあげる。その代わり……そう、分かっているのね。ならいいわ。最近知らずに迷い込んでくる人が多いから、こっちも確認作業をしなくてはいけないの。
 メモはしないでくれる?別にまずい事はないのだけれど、良い事もないから。出来れば、静かに私の言葉だけに集中してほしいの。忘れてくれてもかまわないから、こっちとしては。

 本当に不思議な子よね。それはこの私でさえそう感じてしまうぐらいよ。これってかなりのこと。私、自分が普通ではないことぐらい重々承知しているつもりなんだけれど、彼女はそれ以上なのよ。
 あなたが思っているとおり、この学校は普通ではない。日常でありながらもどこかずれを持ち、そしてそのずれに気づきながらも誰も違和感を口に出して伝えることが出来ない。まるで、蛙の実験のよう。
 あら、知らないかしら?あの有名な蛙の実験を。
 熱湯に蛙を入れれば死んでしまうけれど、徐々に暑くなっていくというお湯にいる蛙は、その暑さに気づくことなく、いつの間にか死んでしまう……。
 いいえ!!まさか此処がそんなにも危険な場所とは言わないわ。
 
 ただ……
 
 ここの非日常はそれに似ているというだけのこと。
 いつか、誰も気づかないうちに限界が来ちゃうのではないかと私は思っているの。其の時がきたらいったいどうなっちゃうのかしら?

 えっと、話が反れたわ。

 あの子……カノカのことね。
 自称、『暇な暇つぶし人』。全く変な名前よ。本名はとても綺麗な響きをするのに、なんとも変な自称を名づけたもの。けれど、本当にぴったり。
 不思議なことは、彼女がすることはどれも目立たないことばかり。ちょっと日常から外れてはいるけれど、たいしたことは何もしていない。
 なのにね、彼女はなぜか誰しもの会話に出てくるのよ。
 あなたも、一度は彼女の存在について話したことがあるんでしょう?あら、今もそうね。とにかく、意識してもないのに、気づいたら彼女を見てしまう。そして考えてしまう。
 これを人はなんと呼ぶのかしら?
 まるで、彼女には他の誰にもない魅力があるよう。知らず知らずのうちにみんなの意識を引き寄せる力がある……引力のようにね。彼女こそが、もしかするとこの異常な非日常の中心にいるのかもしれない。

 非日常の中心。

 もしかすると、これは結構核心を突いているかもね。
 で、あなたが知りたいこと。カノカという人物についてだけれど……それについてはいくらでも質問してくれて良いわよ。私も情報屋として、誠意を持って答えるわ。
 そう、なんでも。

 え?なんで答えられるかって?

 ……その前に、あなたにも協力してもらいたいことがあるのよ。
 ちょっとした暇つぶしに付き合ってもらうだけ。
 もう、このあたりから意味分からないのよね……。
 あの子、此処にきたと思ったら、なんていったと思う?いいわ、答えないで。この情報料は別だから。
 いきなり、『情報で伝言ゲームさせて』だって。意味が分からないわ。とにかくそう言ってあの子は自分の情報をつらつら語ったと思ったら、『じゃあね〜』なんて言って出て行ったの。
 ……そうよ。
 私が今からあなたに話すのもその情報。そしてあなたはこれを聞いた時点で、あなたも彼女の暇つぶしを付き合うことになるの。私とともにね。
 ったっく……何が楽しいのかしら、こんな伝わるかも分からない伝言ゲーム。私も、誰に伝えればいいのか分からない伝言ゲームほど暇なものはないと思った。
 これが、彼女お得意の暇な暇つぶしってやつ。

 ねえ、本来情報屋ってこんなキャラじゃないわよね。もっと怪しくて、裏方で……影で盤面を操っているような、怪しい人。私、本当はそういう設定なんだけど。こんなに愚痴っぽくしゃべらない筈なんですけど。序盤からヘタレを見せる筈じゃないんですけど!!
 こうやって翻弄されちゃうのよ、あのこの手にかかったらね。

 さて。
 
 じゃあ情報を提供させていただきます。
 もう一度言いますが、メモはしないで下さい。決して伝言ゲームだからというわけでもないけれど。


18 :雨一 :2010/03/02(火) 14:09:33 ID:PmQHQHW4Q4

暇つぶし18

「あ〜……禁断症状だ〜!!薬をくれ!!や・く〜〜〜〜〜〜!!!!」

 私の隣で自分の体を精一杯抱きしめながら、早苗は叫んでいた。
 ここで勘違いの無いように訂正しておくと、早苗は決して危ない薬に手は出していない。そして禁断症状が出るような合法な薬にも手を出していない。もちろんアルコール中毒でもないし、ニコチンが切れているわけでもない。
 じゃあいったいなにがこの子をここまで苦しませるのか。
 それは、

「もなっち耳栓!!」
「あいよ」
「そーちゃく!!」

 私はオペ看も関心するような速さでポケットからかわいいピンクの耳栓を取り出し、隣でわめいている早苗に渡す。
 大げさな動作で耳栓をすると、早苗はぴたりと動かなくなる。
 そのかわり、ぐるりと周りを見回す。
 その様子は、まるで肉食獣が息を潜めて周りの獲物を品定めしているかのよう。実際にそうだから、このたとえはあながち間違っていない。
 なにが間違っていないかというと、早苗は本当に狙っているのだ。

 なにを?

「発見!!ターゲット補足!!行きます!!」

 なんかどっかで聞いたことあるような言葉を言うと、早苗はそのターゲットに向かって耳栓をつけたまま全力で走っていく。

 私と早苗は幼馴染。それこそ、腐れ縁といってもいいぐらいの長い付き合いをしている。決して少なくない生徒数を持つこの学園都市で、生まれてからクラスという集団に所属したそのときから、私は常に早苗と一緒だった。
 出席番号もうまいこと並んでいるため、やたらとペアの活動も多い。
 行動するときも、お互い何を言うとも無く一緒になってしまう。
 そしてそんな早苗には、とっても変わった癖?がある。……癖といっていいのかも分からないけれど、私はもう癖と思ってあきらめているし、それに疑問を感じたときは習性と思うことにしている。
 目の前で繰り広げられている攻防戦を、私は少し離れた場所から見ている。

 早苗は、人の腰に抱きつくのが大好きな女の子だった。

 人、といってもそれは誰でも良いのではなく、女の人限定らしい。そして人に抱きついていないときはビーズクッションに抱きついている、そんな女の子。
 早苗いわく、人が創造したもので神様に近づけた唯一のものは、やわらかいビーズクッションらしい。
 この、抱きつき行動は小学生のときから見られ、中学まで続いた。が、ビーズクッションの誕生とともに落ち着き、高校に入ってからは常にビーズクッションを持ち歩く、ちょっと変わった女の子というポジションに落ち着いた。
 私は毎回、早苗のだきつき被害者に対してしっかりフォローをしていた。もしそれが無かったら小学・中学と彼女は変態と呼ばれていただろう。
 しかし、高校ではその必要も無く落ち着いた毎日が続いていた。
 当然私が周りの人にフォローする必要も無くなり、とても平和な毎日を送っていた。

 その期間、私は確かに死んでいたのかもしれない。

 思えば、私は早苗と行動することで周りの人とかかわるきっかけを作っていた。それが今ではなくなった。
 早苗自身もビーズクッションがあれば何も心配ないというようなスタンスをつくり、私自身もどうしていいのか分からなかった。
 私は、早苗は私がいなければ駄目だとずっと思っていた。こうやって一緒にいてあげなくちゃ、きっと早苗は大変なんだろうな〜と。
 しかし、実際に困ったのは私だった。
 私が早苗に依存していた。
 何も無い毎日。必要最低限の会話しかない日々。

 そんな時、早苗はあの人とであった。

 保健室にさぼりに行っていた早苗が、泣きながら帰ってきたときは本当に驚いた。
 いつもは大切に抱えているビーズクッションを片手で引きずり、そして私に言った。

「どうすれば人の心臓の音は聞こえなくなるの?」

 このとき私は気づいた。
 そこに立っていたのは、ビーズクッション大好きな変わった女の子ではなく、ただ自分の欲望にまっすぐに突き進んでいた女の子、昔の早苗だったということに。

 それ以来早苗はまるで今までの欲望が爆発したこのように、人に抱きつくようになった。
 そう……
 耳栓をしながら。

 はじめは何がなんだか分からなかったけれど、後日こっそり一人で保健室に行って先生に聞いてみた。
 そして、カノカという人物にたどり着く。
 ひとつ上の先輩で、そしてこの学校では学校一の変な人として有名な人。

 ある日、私は中庭でカノカ先輩と遭遇した。
 カノカ先輩は中庭の芝生を、やけに真剣な顔で見つめていた。
 よ〜く見てみると、何かを抜いている。もしかして草抜き?そう思って見てみると、抜いているのは雑草ではなく芝生。

「あの……」
 
 思わず声をかける。
「ほえ?」
 とっても幼い、けれどどこか不思議な響きを持つ声でカノカ先輩は反応してくれた。
「あの、なにしているのですか?芝生……抜いて」
「ああ」
 私の言葉に、カノカ先輩はへにゃっと笑いながら体を起こす。そしてスカートのくせにあぐらをかいて私を手招き。
 その動作にしたがって座ると、カノカ先輩は私の目の前に今しがた抜いたばかりの一本の芝を見せる。
「見てて」
 そういうと、カノカ先輩は手にちょっと真剣な顔になる。
 そして

 きゅっ

 そんな音がふさわしい。
 カノカ先輩は芝の上にかぶっていた汚れた表皮を抜いたのだ。中から現れたのは、とてもきれいな黄緑色をした芝。
 
 ……うん。

「これだけ」
 そう言ってカノカ先輩は再び芝生に寝転び、次の芝を抜いてはきゅっ、抜いてはきゅっを繰り返した。
 本当にうわさどおりの人だった。
 
 この人が、早苗を元に戻した人。
 そして私を再び生き返らせてくれた人。
 私は寄生虫。
 寄生する人がいないと生きていけない。

 私は静かにカノカ先輩を見つめる。
 不思議な人。

 そのとき、遠くで早苗の声が聞こえた。
 どうやら禁断症状で腰に抱きつきたくなったよう。時計を見ると、確かにけっこう時間がたっていた。
 さてと、行きますか。
 私は最後に小さな声でカノカ先輩にさよならと挨拶するとその場を去った。

 待っていてね。
 すぐに行くから、私の大切な大切な宿主。


19 :雨一 :2010/05/09(日) 22:13:34 ID:m3knV3xDLA

暇つぶし19

 あたしは小学生です。
 この学園都市の中にある、数ある小学校の中の一つに通う小学生。
 都市の中でも、他よりすこしだけレベルの高いその小学校は、ちょっとオシャレな制服があったり、同じ系列の中学、高校までがエスカレーターだったりするけれど、あたしにとってはたいしたことは無い。
 今日もあたしは、窓から小学校がよく見える高層マンションから、黒い……なんて名前かよく分かんない、ちょっとほかの車よりも大きい車に乗って学校に来たけれど、そんなこともあたしにとってはたいした事ではない。
 あたしにとって、一日の始まりを告げるのは放課後。

「ここここっここここここ」

「ニワトリのまね?」

「――――――――んにちわ」

「挨拶なんだ。こんにちわ。ぎりぎりの時間だけどね。じゃあ活動を始めようか」

「はいっ」

 あたしは、彼の言葉をかみ締めながら返事をする。
 あぁ……今日もステキです!!

「今日は先生が休みなんだ。だから二人しかいないけど」
「はい」
「なにする?クラブ活動」

 あたしは知っていた。
 今日、先生がお休みだということを。
 そしてあたしは緊張しながらも、毎日毎日、お手伝いの者を相手に練習をしていた言葉を口にする。

「ひ、柊君のお家にあると聞いていた名刀を見せて頂きたいのですが!!!」

 言えた!!!!!!

「ああ、この前話してたヤツ?あんなの柳和さんの家にあるものと比べたらガラクタだよ。っていうか、名刀じゃなくて、思い出の品。個人的に大切にしているだけで」
「そ、それでもOKですから」

 ついつい身を乗り出す。
 あたしの勢いに、いつも冷静なはずの柊君も少し身を引きながら頷く。
 ちょっと張り切りすぎちゃった。でも、柊君の家に行くにはこの日しかないと思っていたので、もう引けなかった。
 そして、とりあえず承諾をもらったのでOKとする。

 OK?!

 あぁ、いまさらながら顔が熱くなってきた!!
 とうとう、あの柊君の家にお邪魔することに。

 この学園都市の中では珍しく、家族ごと引っ越してきた一家、柊家の長男である柊君。お父様はコンピューター関連の開発者で、その腕を学園都市に丸ごと買われている。お母様は都市内にある外交関係の役所に勤めいている。
 柊家の子どもは、長男である柊君だけなのだけれど、もう一人の人間が時折出入りする。

 カノカ

 柊君が、とても嬉しそうに名前を呼ぶ女性。
 現在は、都市内にある一般高校に通う2年生。

「かの姉は、僕の唯一の理解者なんだ。僕の思い出の刃物も、かの姉から貰ったものだから」
「柊君は……カノカさんが好きなんですか?」
「うん。これだけは、嘘つきたくない」

 いま、あたしは柊君の家の中にいる。
 さっきまでしていた会話を思い出しながら、あたしは手の中の刃物を見つめる。

 それは、本当にただのカッターナイフの刃。しかも、ほんのひとかけら。

 それが、とても大切そうに、丁寧にケースに収まっている。

(これが、柊君の原点)

 あたしは、さらに思い出す。その話の続きを。

「かの姉は、ある日僕にこのカッターの刃を渡した。そのときはまだ、カッター本体にくっついていたけどね。そして、僕に言ったんだ」

『ほんの少しだけ大人になったけーくんに、プレゼント。よく聞いててね。暇なときは、このカッターを使うんだよ。まずはカッターを……』

「そこまで言って、かの姉は急に用事を思い出して帰った。あれ以来、僕はかの姉の言葉の先を考えることに必死になった。いったい何が言いたかったのか?カッターの刃で何がしたかったのか?見つめて、考えて、そして……たどり着いた」

 それが、柊君の原点。
 彼の、以上に刃物に執着する理由。

「それが分かったとき、僕はかの姉に近づけるような気がする」

 そして、彼はあたしを見た。

「ここまで話したのは、柳和さんが初めてだよ。きっと僕は、君を信頼しているんだね。親よりも」

 そう言い、彼はあたしのためにお茶を入れるといってキッチンに。
 残されたあたしは居間のソファに座っている。

 放課後活動、刃物倶楽部。

 部員2名。

 あたしはね、柊君。

 君のことが好きなんだよ?
 君のことが大好きなんだよ?

 手の中にある刃物を見つめ、あたしはため息をついた。


20 :雨一 :2010/07/20(火) 23:46:38 ID:m3knV3xDoD

暇つぶし20

 初めての土地で、とても緊張していた。
 僕みたいな人なんて、きっと誰も相手にしてくれないと思っていたし、助けてくれないと思っていた。

 だから頼りになるのは自分と、一緒にこの都市に足を踏み入れたこの子だけだと思っていた。その矢先のことだったから、僕の心は余計に沈んでいた。
 その頼りにしていた相手が消えた。
 さっきまで一緒だった。
 あの子は何も考えていない。考えているのは自分のこと……すら考えているのか分からない。そんな子。が、こんな初めての広い土地に来たらどうなるか……もっと考えて行動しなければならなかったんだ。
 いまさらながら後悔。

 僕は現在、この見知らぬ広大な学園都市をあても無く彷徨っている。
 
 しかし、決して一人というわけでは無かったりもする。

 適当に、本当に適当にあたりを探していた僕に対して、声をかけてきた人物がいたのだ。僕と同じくらいの歳の女の子で、たぶん学園都市内にある、どこかの学校の制服を身に着けていた。
 ショートヘアで、両脇にはシンプルなピンがとまっている。
 ぱっと見るととてもかわいい女の子。

「どうしたの〜?」

 とてもゆっくりとした言葉で聞いてきた。
 僕はとりあえず一緒に来た子が迷子になってしまったこと。そして自分もここに来たのが初めてのため、どこを探してよいものなのか見当がつかないということを伝えた。
 すると女の子も手伝ってくれることになったのだった。

 そしてそれから数十分。
 僕はなんとなくあの子が好きそうなお店を見つけたり駿河、そこには僕の知っている姿はまったく無いわけで……。
 結局女の子と約束していた時間になっても見つからなかったので、手ぶらで集合場所へ行った。
 すると、そこには僕と同様手ぶらの女の子。
 と、思ったら、もう一人女の子の隣に人が立っていた。

 その人は女の子と同じ制服を着ていたけれど、本当に同じ学生なのかを疑うくらいに大人っぽい人だった。
 黒い長髪をなびかせながら、その人は僕を見る。

「この人?」
「うん。困ってたからモリちゃんが来るまでの暇つぶしに」
「ふうん。で、見ない制服ね。もしかして外の人?」

 その人があまりにも美人だったからしばらく僕は見とれてしまったけれど、質問されたことに気づき、僕は頷く。
 
「あ、そう。んで……どんな人探してるの?」
「えっとねえ〜……」

 女の子は固まった。
 同時に僕も思い出した。

 そういえば。

「私、誰か聞かずに探してたんだよね〜。意味ないね、こりゃ。まあ、いい暇つぶしにはなったよ!!とっても暇だけど」

 女の子は飛びっきりの笑顔で言い放つ。

 そう。

 これが、僕とカノカという存在とのファーストコンタクト。


21 :雨一 :2010/09/15(水) 22:23:06 ID:mmVco4xem7

暇つぶし21

 ある国にひとりの姫がいた。
 姫は、その国の特別な存在であり、国民の誰もが姫のことを慕っていた。

 しかし、姫は満たされていなかった。

 彼女は暇だったのだ。

 毎朝目覚め、眠るそのときまで、姫は暇だった。
 姫は暇をつぶすありとあらゆる方法を探していたが、その方法もすぐに暇になってしまうため、とうとう暇はつぶせなかった。

 だから姫は考えた。

「うんうん」

「うんうんって……本当に聞いているのか?」

 俺は目の前でニコニコしながら俺の作った話に耳を傾けているであろう、少女に聞く。
 少女、カノカはその質問に対してもまったく表情を変えずに頷きながら、「聞いてるよ〜」と間の延びた返事を返す。
 
 この学校の用務員として働いている俺だからわかるのだが、今は授業中のはず。カノカ以外の生徒の影は見当たらず、この校舎の脇にひっそりと設置してある物置にいるのは、俺とカノカだけ。
 生徒と用務員。
 なんとなく怪しいことが起こりそうな組み合わせでもあるが……ついでに場所も物置だし。
 決して起こらない自信がある。
 それは、目の前にのほほんとしているカノカが、不細工な女だからとかそういうものではない。
 カノカは決して美人ではないが、可愛いといえる部類の少女だし、人当たりのいい笑顔は初対面でも好印象だった。

 しかし、問題はその性格。

 あの性格を目の当たりにすると、とても異性として意識はしがたい。だからまったくの対象外となったのだ。
 よって、物置に生徒と用務員が二人きり……というアダルティーな状況も、蓋を開ければ暇な少女が用務員の仕事を見て暇つぶしに来ているだけというなんとも面白くないものになる。
 さらに、カノカは俺に対して更なる暇つぶしを要求してくるのだ。
 それが、冒頭のストーリー。

「で、姫はどうしたの?」
「ん〜……まだ作ってない」
「えー!!それが楽しみで授業を抜けてきたのにぃ。むぅさんがっちり!!」
「いやいやがっちりって」

 カノカは俺に向かってガッツポーズ。
 ちなみにむぅさんとは、カノカが俺に付けたあだ名だ。
 用務員からとってのむぅさん。なんともひねりの無いあだ名だ。

「むぅさんの話を聞くことが、今日の暇な授業をやり過ごす暇つぶしだったんだよ〜」
「……それは、ようするにカノカの言う暇な暇つぶしというヤツだよな?だったら、俺の話も遠まわしに暇ということじゃないか?」
「えへへ。考えすぎじゃない?むぅさんはきっと作家の才能があるよ」
「ありがとさん。また続きを考えとくよ……暇なときに来いよ、出来れば授業外の時間でな」
「あはは、そだね」

 そういうと、カノカは座っていたゴミ箱から飛び降り、スカートを整える。
「じゃ、そろそろ場所移動するね」
「授業に戻るんじゃないのか?」
「暇な授業なんだよね〜……暇つぶししなくちゃ」
 へらっと笑いながら答える。

 俺はため息をつき、仕事を続けようとカノカに瀬を向け、物を片付けようと手を伸ばした。その時、背中に声がかかる。

「ねえむぅさん。さっきの話の姫ってモデルいるの?」

 分かりきったことを。

「いるぞ。この暇そ〜な暇姫のモデル。毎日暇だ暇だとわめきながら学校中うろうろしている変な女」
「暇姫?そんな名前なんだ。ネーミングセンス無いなぁ」
「お前に言われたくないんだけど」

 と、その瞬間物置の扉がガタンとなる。

 見ると、そこにはひとりの男子生徒がいた。

「リキ君」
「カノカ、サボりで先生探してた。っていうか探して来いって言われてきたから帰るぞ」
「う〜……暇な授業をするほど私の時間は暇ではない」
「今から多分、アイツの演説が始まるから。無駄すぎて暇になるんじゃないのか?」
「それは良いね!じゅあ帰ろうかな」

 クラスの中でしか分からない会話を繰り広げ、どうやらカノカは教室に帰る気になったらしい。
 カノカはニコニコ笑いながら、俺に対してひらひらっと手を振って物置から出て行った。

 残された俺は、カノカを呼びに北男子生徒と目が合う。
 そいつは俺のほうをじっと見ると一言。

「犯罪。ロリコン」

 そう言って出て行った。

 いやいや……だから、そんなんじゃないって。
 そう言い返すことも出来たがとりあえずやめとく。否定したところで証明は出来ないし、こんな狭い空間で女子高生と二人きりというシチュエーション自体が傍から見ると犯罪行為手前かもしれない。
 にしてもろり……
 それ言われるほど俺って歳か?

 俺は再びため息をついて、片付ける荷物を眺める。
 そして、カノカにせがまれた話を考える。

 うん、決めた。

 姫の名前は絶対に暇姫にしてやる。
 単純でも安直でもストレートでも、これは固定。


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