涙河 


1 :東堂 ツトム :2006/07/16(日) 14:53:40 ID:ommLPesL



「だってこいつ泣かないんだもん」

 その言葉を聞いた時が、私の一番泣きたかった記憶だ。


2 :東堂 ツトム :2006/07/16(日) 16:03:17 ID:ommLPesL

視界

午前11時14分
私立峯山中学校。
3時限目2年2組・3組合同体育中。
山景 匠(ヤマカゲ=タクミ)はサッカーボールを追いかけて走っていた。
ゴールまでは後少しで、右足でボールを蹴ろうとした瞬間。
急に視界が白い物でふさがれる。
驚きで匠の身体は一瞬硬直した。
足にボールの当たった感じがする。

(まただ)

急に白い物。
今回の“それ”は透過性らしく、身体はいとも簡単にすり抜けた。

気が付くと、ボールはキーパーが持っている。
仲間からはため息が零れている。
どうやら蹴り損ねたのを取られたらしい。
タイミングも場所も絶好の瞬間だったのに。
毎回毎回、ゴールまでは良くてもシュートが入らない、と言うか仕損じるのだ。
サッカーだけでなくバスケでも同じだった。
「なんで匠のシュートってこんなに空振りなのかな・・・」
そう言ったのは、残念そうな顔が如何にも可愛らしい崎口だ。

「崎口・・・言うなよ」
どうも他の奴には見えない事も判明ずみだ。

最近気付いたのだが、どうも“それら”はわざと邪魔をするように現われるらしい。

(意思でもあるのかな)
だとしたら迷惑極まりない。
今日は良かったが前回は思い切りぶつかって地面に倒れこんだ。
雰囲気は幽霊に近いが、どちらかと言えば怪物だ。

「悪ィ、気分悪いから俺先に帰るわ」
崎口とかが後ろで文句垂れているが聞こえないふりをする。
構ってられるか。
何故なら。
一度現われたら3時間ほどは消えないのだ。
今までで長い奴は5時間、授業どころかあらゆる事を邪魔する。

保健室の道すがら出会う少女達ににこやかに挨拶をしながらも、頭の中では白い物排除法を考えつづけている。
その横顔が格好い〜とかきゃーだとか言ってくる女子にもいちいち反応を返しているので全く良い考えが浮かばない。
前回はゴキブリフマキラーで消えたし、前前回は自主的に消えて、前前前回は香水だった。
何か吹きかけると良いのかもしれない。
そうこう考えるうちに保健室に着く。

「失礼しまーす」
真夏なのに何処か寒いくらいの保健室に足を踏み入れてから、先生が居ない事に気がついた。
奥に人影が見えるから、無人、と言うわけでもなさそうだが。
「おい、先生知らねぇ?」
「・・・・・・。」
感じ悪い、それが率直な第一感想だった。
「俺寝とくから」
それだけ言って、そいつと一番離れたベットに入り込む。

しばらくすると、
コツ、コツ、コツと、足音が規則的に近付いて来てカーテンを開ける。
どうやらそいつはワザワザ顔を見に来たらしい。
「おい」
言外に、何の用だと言うように薄目を開けて睨みつける。

顔を見て、驚いた。


匠は自分の容姿には自信があった。
何度も雑誌の美少年コンテストに担ぎ出されて優勝していたからだ。
勿論全てが盗撮だったが、悪い気はしなかった。

ただ、目の前のこいつは
格好良くて、思わず見とれてしまうほどで、いつの間にか食い入るように見つめてしまった。

「あんた、誰だ」
素直な感想だった。

目の前にいるのは
純粋な黒髪で、黒目で、切れ長の瞳の、恐ろしく格好いい男子生徒だった。
「斎藤 満春」
「ミハル・・・?」

「初対面に呼び捨てにされる覚えは無いな」
ただし、性格が悪かった。

「・・・・・・・・・・・・。」
思わず返す言葉もない。
「おい、名乗ったんだから名乗れよ」
「何で手前なんかに・・・・・・・・・チッ。山景 匠 だよ。一発で覚えろ」
こいつとは絶対に気が合わない。
初対面でもそれがわかる。
「・・・・・・。養子も態度も顔も名前も、おまけに身体まで男みたいだ」

そう言って、ごく当たり前のように
胸元に手を置かれた。



数秒。



「ぎゃ―――――――――!!!!」
「悲鳴ぐらい女の子らしくなるべきだな」


もはや何も聞こえ無かった。


3 :東堂 ツトム :2006/08/02(水) 00:12:24 ID:ommLPesL

聴力

「なっ・・・・・・・・・ぁにすんだよ!!!」


ドカッっと派手な音をたてて匠は満春の腹筋に蹴りを喰らわす。
油断してたのだろう、満春は優に数メートル後方に転んで転がっていった。

匠はいらついていた。
女扱いの上にお飾り程度だが確かに膨らんでいる胸を触られた上に勝手な事を言われたのだ。
「俺は何よりも女扱いされるのがだいっ嫌いなんだよ!!
その軽い脳に刻んどけコノたこ!!!」

突然の事態に満春は当然呆然としている。
あの容姿なら女の子にこんな風に扱われた事はまずないだろう。
間抜けとも呼べる美少年の面を見た優越感。
ざまーみろ
、と言おうとした瞬間―――――――――


形容しがたい高音が耳に飛びこんで来る
思わず耳を抑える、が音は小さくなるどころか耳の奥で響いて頭に響く。

それに対して春満は何処か平然と、手を耳でなく鼻に持っていった。
「臭いな」
と、呟いたのを凄まじい音の中で拾った匠が思わず聞き返した。
「臭い?」

匠にしてみれば異常なのは聴覚だけで、匂いなどは感じ取れない。
しかし満春はそれが信じられないといった顔で驚きに目を見開いている。

二人の間で確かに食い違っている部分がある。

だんだん音が鳴り止んでくる中で呆然と三春は零した。
「ばかな」


「めちゃくちゃだ」




その言葉が、今の匠に理解できるはずもなかった。


4 :東堂 ツトム :2006/09/01(金) 21:10:47 ID:ommLPesL

触覚

何がだこの野郎


「何が―――――」
そう言った匠は、言葉の途中で白い物体を口から吐き出した。
というよりは、吐き出しているように見えた。
匠は驚きのあまりに開いた口をそのままにして、口の中を、後頭部からすり抜けてきた物体を唖然として見つめた。
しばらく呆然とした後、手で口をものすごい勢いで塞いでから、寝ていたベットの向こう側にはくような真似をした。事実、得体の知れないものが、すり抜けたとは言え口の中を通ったのだ。吐き出したい衝動に駆られるのも無理は無い。

「・・・・・・・・ってあっ!!こいつさっきの奴じゃねぇか・・・・まだうろついてやがった」
くそぅ、といいながら白い物体を睨みつける匠を、斎藤 満春は観察をするように唯見ていた。
ちょうど匠は、犬を追いやるうように白い物を払おうとしていた。
しっしっ、と口からは漏れてくる。
しかし効果は無く、手は簡単にすり抜けてしまう。

匠は気付かない。満春の目が驚愕に見開かれていた事に。
いきなり満春は匠の手首を掴んだ。
掴んだ力は、満春の腕の細さの割には存外に強い。
匠の手は白い物体を通り抜けている状態で止められていた。
先ほどまでに驚愕に見開かれた満春の目は、今は見極めようとするかのように細められている。
逆に、匠の目が驚いた形を作っていた。
何処か不安げに匠は目の前の容姿の整った少年を見返した。


「いつっ」
腕を掴む力が強くなったかと思うと、かすり声が聞こえた。
「馬鹿な」


斎藤満春はかすかにも追う一度呟く。
「馬鹿な」







そこで匠はある事に気付く。
「・・・・・・・・お前、見えるのか?」
満春は確かに、白い物を見ていた。
今度は匠が呟く番だった。


5 :東堂 ツトム :2006/09/22(金) 22:33:56 ID:ommLPesL

満散る春の稲荷狐

暫く、一瞬なのか十分なのかわからない時間、匠と満春は見詰め合っていた。
というよりは、お互いを凝視して固まっていた。

匠は状況を全くわからなかったし、満春も理解しようと努力をしていた。

――――――時間が過ぎた
不意に満春の口角が上がった。

しかしそう思えたのは一瞬で、満春はすぐに心配そうな顔を作った。
「匠は・・・見えるんだね?」
「あぁ!?・・・・・・いや、まぁなぁ」
いきなり満春の態度の急変に不信感が募りはしたが、奈何せん雰囲気に流された。
「そうなんだ、僕もだ。それで僕に提案があ」
「待て―――――――!!!」
「なんっ・・・なに?」
出た。今口から吐き出したやつだ。『何だ』そうだ『何だお前』って言いかけやがった!!
「てめぇイキナリ人格変わってんじゃねぇか!!
『僕』ってなんだよアァ!?今までの何処に捨ててきた!?」




「ちっ」





やっぱりか
この顔だけ野郎


6 :麻中 幹 :2006/11/05(日) 15:37:17 ID:ommLPesL

稲荷狐と野狐

「単刀直入に言う」
俺様野郎だ、と思ったがもう何も言わない事にする。
おれは、人格云々を突っ込んでから、事有るごとに文句を言い放っていた。
が、不味かったらしく、抵抗できないように背中に腰掛けられて、手は腕一本で抑えられている。
もやしっ子なのは外見だけらしい。
「手を組め」
「・・・・・・・・・・誰と」
「僕とだ」
『僕』は素らしい。それはともかく、こいつの提案・・・・・
死んでも嫌だ。死んでも嫌だが、ここで拒否すると俺は本当に死んでしまいそうだ。
「手ぇ組んでなにすんだよ」
「キミのその霊感体質をどうにかしてあげようと思っただけだよ」
さっきとはうって変わって満面笑顔で言ってくる。

だんだんと本性がわかってきた。
斎藤 満春・・・・・・・一言で言えば詐欺師、狐、女たらし。
「お前にメリットが無いんじゃねぇの」
そして自己中心主義、もとい自分以外はどうでもいい。
確信めいた笑みを浮かべて、肩越しにあいつの顔を見据える。
するとすぐに満春も同じような笑みを顔に浮かべた。
否、あいつの場合は嘲りだ。
俺を、人を、人間を見下した顔。
人間とは、思えない顔。



「それは教えられない」

これは一種の、狐の化かしあい・・・そう思えた。



「なら、こっちにも答える義理は無い」


7 :麻中 幹 :2007/01/27(土) 13:19:00 ID:ommLPesL

勝者の狐

・・・・・



ぎり。

「いっ・・・・たい痛い痛い!!!」
「手、組むか?」
「組む組む組む!!!」
だから腕を話してくれ・・・!!
心から叫ん声は、どうやら通じたらしい。


「で、組むってなんだよ」
「いや、単に君の身体に興味があってね・・・・・・・・女としてこの場面で今すぐ嘔吐したいような顔をするのはどうなんだ」
「いや、俺の体って・・・・・・・・お前、そういう趣味なの・・・?」
満春は少し呆けた顔をしたかと思うと、すぐにその顔のまま
「いや別に問題は無いかと・・・・・・・・違うそうじゃない」
そして如何にも嫌そうな顔に作り変えた後で
「僕はそんなに趣味は悪くない」
失礼な。と思うより、何だ一応趣味だけは普通だったのか。と思ってしまう自分は少し問題だろう。
「君の体質に興味があるって言ってるんだ」
体質・・・・・あぁ霊感の事か。
「別にあんたも同じだろ?」


「まさか。君のその変な体質とは同じにしたくないな」
「かっちーん。なんだよそれ」
「かっちーんって・・・・・・まぁいい。要はレベルがバラバラなんだ」
レベルって・・・・・こいつゲーマーなのか?
おたく。・・・って俺苦手なんだよなぁ、生理的嫌悪とまでは行かないけど。
「ごめん帰って良い?」
「何を考えたんだ君は」

君たちの頭に合わせてやってるんだ、と満春は高らかに言い放った。
つまりは霊能力者には@認知→A視覚→B嗅覚→C聴覚→D触覚という霊感の発展段階がある。
霊を認知できる→見ることができる→臭いが嗅げる・・・・とできるようになっていくんだ。
さらに、霊だとか妖怪だとかの怪異の地位が上になるほど難易度が高くなる。
「難易度とかって何だよ」
「黙って聞いて欲しいんだがな?」
「痛い痛い!!」
ちなみに今現在の体勢といえば先ほどと同じで背中に馬乗り状態だ。
暴力に訴えるのは法律違反だ――と訴えてみても満春に通用しそうには無かった。
「つまりレベル1のモンスターは見る事ができてもレベル10は見えないものなんだ。それが君はめちゃくちゃなんだ。レベル10どころか100に触れるほどの霊適度が高いくせにレベル1だとかの雑魚の認知も出来ない」
「だから認知だとか霊適度ってなんだよ」
だんだんと怒りマークが満春の顔に増えるが、馬乗りで優位に立っているという自覚があるのだろう。大人しく、且つ比較的丁寧(満春にすれば)に教えてくれた。
「認知は霊を感知するレイザーのような物で最も簡単にできる事だ。因みに触る事は極端に難しくて普通出来ないな。最も高位の霊は自分から人に触らせる事ができるわけだが。
霊適度は本人の霊感の能力の高さのことだ。わかったか?馬鹿。」
 

わかりました、と答えるのが自分の安全のためだった。


8 :東堂 ツトム :2007/04/03(火) 20:57:09 ID:ommLPesG

壊滅的常識破綻者

別に組むって言ったって。
満春は今まで見た事のない奴、つまりは自分と接点の無い人間だ。
早々日常に変化が起こるわけが無い。
それに興味があるって言ったって具体的な案も無い。
――口先だけだろう

「あぁそれから僕は明後日から2年2組に転入だ。よろしく」
甘かった。

どんぴしゃでうちのクラスに来やがった。
「じゃぁ何で今日此処(保健室)に居んだよ」
脱力感と絶望感をごちゃ交ぜにした声で聞いた匠に対して、実に単純な答えを満春は出した。
「見学だ」
返す言葉もない。
「ついでに言えばこれからは観察をしていく予定だ。まぁストーカーだと思えばいい」
組むと言った割には随分と見かけどおりの自己中心主義ぶりだった。おまけにストーカー宣言。
「始めは『お友達になりまショウ』じゃねぇのか・・・・・・」
「なんだ、夜の女子学生は小学校から大学までストーカーに悩ませられる日々だと・・・・いやそうか。お前に一般的尺度を当てはめる事事態が間違いだったな」
小学校って。
「ニュースで話題じゃないか」
「人の性的嗜好に口挟みたくないけど、人間としてどうだよ」
だいたいストーカー事態犯罪じゃねぇか。


最後に、満春は爆弾を落とした。
「それから、始めは普通『交換日記』だろう」
「・・・・・・・・・・・・何をはじめる気だよ」
一般的知識が無いのかこいつ、今時中学生にいないだろそんな奴。
「だって・・・・・手を組むって言ったじゃないか。初心な君のために順当な線をあげてみたんだが」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは男女交際じゃないか?」
しかも今時無い二次元的且つ典型的な。
「ストーと思えと言ったじゃないか」





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」


9 :麻中 幹 :2007/05/01(火) 21:39:27 ID:ommLPesG

盲目心系麻痺

「ねぇ、どういうことか聞いていい?」
小首を傾げた崎口は可愛かった、思わずにやけ顔で頷いてしまうくらい。
そういえば顔を合わせるのが久々の気がする。
体育が終わったばっかりで、崎口はまだスカートにキャミソールだ。
制汗剤を俺にも掛けてくれている。
「あ、あたしも聞きたい」
「分かる!!気になってたんだよねっ」
何故だかいつも遠巻きの女子も今日は話に参加してきた。俺がこんなに男らしくなければ、ちょっとした集団リンチ状態だ。
「なんだよ、みんなして」
思わず笑顔が崩れるところだ。危ない、もっと気をつけなければ。
それでも大抵の女子は顔を赤らめてくれるが。
いやぁ下着姿って女子みんな可愛いなぁ、なんて親父並問題思考の途中だったのだがそこにとんでもない事を言われた。


「付き合ってるの!?」






「・・・・・・・・・・・・・・だれがだれと?」
「斎藤君と匠が!!!」
「何でそうなる!!!!????」







ってな事があったわけだ。どう責任とってくれるんだよお前。
「責任もなにもストーカーだと思えと忠告しただろう」
「だーかーらー、何でお前はストーカー=恋人なんだよっおかしいだろどう考えても」
「そうかおかしいのか」
真顔で言っちゃってる時点でアウトだ。こいつ馬鹿だ至上最上級の馬鹿だ。
どうやったらこんな人間になるんだ。普通無理だろこんな超超超鈍感。
「お前はどうしても考えてる事が顔に出るな・・・・失礼な事を考えるな。
大体どうして恋人に思われたんだ、問題の要因を通り除けば済む事だろ」
何も分かってない。こいつ本気で何も分かってない。
見栄っ張りで意地っ張りで頑固だから分からない素振りなんて見せないくせに、自分で墓穴掘ってることに気付いてねぇ。
要因も何も、そりゃぁ毎日(今だって当に)こんな堂々とクラスで一緒に弁当とって登下校まで一緒なのだ。
誰が見てもそう思うに決まっている。




「手前のストーカー行為が『要因』なんだよ。馬鹿だろお前」
「君みたいな奴でも人から見たら女に見えるんだな、てっきり男同士と思われると思っていた」
確かに、と思ってしまう自分はもう女として終わっていた。

その時はそれだけだった。
常識的な知識がないとか、男同士だとか、
こいつの事なんか嫌いじゃないけど好きになんて絶対なれないとか。

そんな風にしか思ってなかった。




.


10 :麻中 幹 :2007/05/21(月) 14:38:06 ID:ommLPesG

沈黙に声

通学路。
「なぁ、お前さぁ」
「・・・・・・・・・」
「なぁ、お前さぁ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「だー―――!!いい加減無視んなこの変態野郎!!」
「誰が変態だ」

この野郎悪口には敏感に反応しやがって。淋しいじゃねぇか。
「アレが見えるかって言いたいんだよ俺は」
なんとも形容しがたい形をしていた。
黄土色で丸い凸凹の体から手やら足やらが沢山生えている。
どちらかといえば体毛全部が手足って言う感じだ。
「あぁアレはちょっと本気でやばい物で下手に指差したり見たり口聞いたりすると呪い殺される上に末代まで祟り続けられるとか言う縁起の悪いもので尚且つ僕でも対処しきれないから無視するしか方法がないな」
一気に言ってからはまた沈黙をした。
あれ、ちょっとまて。今なんかうれしい事が聞こえた気がする。
「じゃぁ最近幽霊うろつかないなぁとか思ってたのも全部お前の所為か?」
「せめて〈おかげ〉と言え」
「へぇ〜・・・・・・っていうか俺もう指差しちゃったしじろじろ見ちゃったけど」
忠告したばかりだと、機嫌最悪の目で睨まれる。
「いやだってお前無視してたし」
まだ睨まれる。
「でも暇だったし」
まだまだ睨まれる。
「・・・・・・・・・いや、悪かったって」

沈黙。
暫くすると満春は盛大なため息をついた。
「僕は知らない、全て匠が引き起こした事でたとえ匠が呪い殺されても骨も拾ってやらないからな」
「何だよ骨くらい拾えって」
「そんな物を拾いに行って巻き添えを食らうのは嫌だ」
「・・・・・・・・・・・・・あれ?もしかして本気でやべぇの?」
まるでもう興味が失せたかのような目で見られる。いやな目だ。
この辺がたまに満春を人間じゃないような錯覚に陥らせる。



「塩でも撒いておけ」
そう言って今日は家までじゃなく道の途中で分かれてしまった。
残念に思う自分がいて、あぁ意外とあいつのこと嫌いじゃないんだなと気付いて。
塩でも用意して寝てみるか、素直に思えた。

後で思えばそのおかげだった。







月も星もなかった。時計の音が聞こえない静かな夜に
窓の外から子供の泣き声がする。





それが窓ではなく枕の下からだと、気付くとそれは笑い声に変わった。







「    あ      そ             ぼ       」








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novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.