グルメイ


1 :四季条 ユウ :2011/09/14(水) 23:21:57 ID:rcoJmAVm

あ ら す じ

地元では有名な女子高生フードファイター、紅野林檎は、突如として現れた深山鶫に菓子パン早食い勝負を挑まれる。普段は目立たず大人しい鶫だったが、その実力は凄まじいものだった。それを切欠にして、林檎はプロのフードファイターも出るという、闘食杯の出場を決意する。森宮胡桃、春園小桃の二人を新たに仲間に加え、マネージャーには胡桃の幼馴染の真名上刃を迎えて、少女達は闘食杯の優勝を目指す!


16 :四季条 ユウ :2011/10/30(日) 19:21:29 ID:rcoJmAzeQA

最終話 僕って不幸だ

  ここは宇都宮市内のとある高級レストラン。床には赤い絨毯が敷かれ、カウンターとテーブル合わせても二十人程度しか入れない小さな店だが、有名人の御用達になるほどの伝統と味をもっていた。ここで最近、父に認められて厨房を任されるようになった刃は、メンバーが来るのを待っていた。彼は鶫達に闘食杯優勝祝いとして食事を振舞うと約束したのだ。大食い少女四人を相手に料理を作る覚悟を決めての事だった。
 刃が料理の準備をしていると、夜の七時きっかりに店の扉が開いて少女たちが入ってきた。
「おお、こんな高級感満点の店に入るのは初めてだ」
「落ち着いてて綺麗だし、良いお店だよ」
「わたくしのお気に入りのお店ですわ」
「お気に入りか…大金持ちのお嬢様は言う事が違うな」
「やあ、いらっしゃい」
 刃が厨房から出て行くと、鶫の隣には瑠璃がいた。
「真名上君、今日は招待してくれてありがとう。姉さんも連れてきたのだけど、まずかったかしら?」
「いや、全然かまわないよ。むしろ瑠璃さんも一緒に祝ってもらうべきだよ」
「呼ばれてもいないのにごめんなさいね。わたしは皆と違ってそんなに食べないから心配しないで、せいぜい三人前くらいが良いところだから」
 十分すぎますよ、と刃は言いかけたが、それは飲み込んだ。
 林檎が刃の白衣にコック帽の姿をまじまじと見つめて言った。
「馬子にも衣装とはよく言ったものだな」
「うるさいよ!」
「お前がこの店の厨房を任されているって本当か?」
「ごく最近の事だけどね。君たちに大分鍛えられたからね、そのお陰さ」
「そうかそうか、あたしたちに感謝しろよ」
「感謝していいのか、よく分からないところだね……」
「ともあれ、刃様の夢に一歩近づきましたわね」
「ああ、今日は腕によりをかけるから、楽しみにしていてね」
 鶫達がテーブルの前に座ると、ウェイターがお茶を用意する。その間に小桃は携帯のメールを弄っていた。それを見て林檎は言った。
「こんな時にメールか?」
「うん、彩ちゃんにメール送ってるの」
「何であんな奴にメール送ってるんだ?」
「だって、お友達だもん」
「なにぃ、友達になったのか!?」
「うん、闘食杯の後にメール交換したんだ」
「まじか……」
「もうすぐ来るって」
 それを耳にした刃が厨房からすっとんでくる。
「小桃ちゃん、それどういう意味なの!!?」
「どう言うって…」
 小桃が言いかけたその時に、店のドアが勢いよく開く。
「高級フレンチ食べ放題と聞いてやって参りました!」
 勢いよく飛び込んできた彩に続き、二つの駄菓子を真剣に見つめながら、桜子も入ってくる。刃は人生ここまでかというくらい青ざめた顔になっていた。
「おお、皆の衆、集まっとるな〜」
「何でお前が来るんだ! 帰れバカドル! しっしっ!」
「うっさい! あんたに指図されてたまるか!」
 いきなり激突する彩と林檎、刃にとっては即倒ものの状況だった。
「お姉ちゃん、彩ちゃん、こっちこっち」
 空気を読まない小桃は、勝手に椅子を増やして彩と桜子を促す。更に恐ろしいことに、小桃の隣にいる胡桃も携帯でメールを打っていた。
「胡桃は誰を呼ぶの?」
 鶫は完璧に先読みをして、もう誰かが来ることが確定しているという聞き方をする。陣は更に残酷な現実を目の当たりにする事になった。
「わたくしのお姉様です」
「胡桃ちゃん、お姉さんなんていないよね」
「心のお姉様ですわ」
 にこやかに胡桃が小桃に答える。それを聞いた刃は頭を抱えた。
「うう、胡桃ちゃん、それは駄目だよ、反則だよ、反則すぎるよ……」
 そして、本日八人目のお客様が来店した。
「こんばんは、真名上君」
「エ、エ、エイミさん!!?」
「胡桃ちゃんに呼ばれてきたのだけれど、お邪魔だったかしら?」
「何を言われますか! そんなわけありませんよ! ささ、どうぞこちらへ!」
 刃は自ら席を用意してエイミを座らせる。胡桃の放った最後の一撃が、刃を後戻り出来ない状況に追いやった。
 悲劇的な現実に立たされた刃に、エイミが一筋の光明を与える。
「さすがにこの人数の料理を作るのは大変でしょう。デザートにどうかと思って、アンリ・ロアーヌのケーキを沢山買ってきたわ」
「まあ! それは楽しみです!」
 胡桃が瞳を輝かせる。刃はエイミが買ってきたというケーキを探した。
「えっと、そのケーキはどこに?」
「外に待機させている軽トラックに積んであるわ。後でお店に運ばせるわね」
「軽トラック!? 流石はエイミさん、分かっていらっしゃる」
「伊達に闘食家はやっていないわよ」
 これで少しは刃の肩の荷が降りたものの、まだまだショックは大きい。何せ全国トップクラスの闘食家が三人も加わってしまったのだ。彼の前に立ちはだかる壁はあまりにも高かった。
厨房に入ると刃は言った。
「今日はもう閉店だ! 早く看板を出して!」
 ウェイターが驚きながらも言う通りに出口の方に向かう。刃は他のコックが見ているのも構わずに、何かに押しつぶされるかのように床に四つん這いになる。
「うう、何で勝手に呼ぶんだよ……ああ、僕って不幸だ……」
「真名上君」
「え?」
 鶫がカウンター越しに情けない姿の刃を覗き込んでいた。
「深山さん!?」
刃は慌てて立ち上がる。
「大丈夫?」
「う、うん、大丈夫さ、多分……」
 刃はなんとも情けない返事をした。すると、鶫は彼の瞳を貫くように見つめる。刃は思わず居を正した。
「真名上君、これは試練なのよ。貴方を一流のシェフにする為に、神が試練を与えているの。これを乗り越えれば、貴方の夢は一気に前進するわ。栄光の階段は、もうすぐ目の前なのよ」
 そこへ林檎と彩も来て言った。
「そうだ、お前なら絶対に出来る! 今までだって乗り越えて来たじゃないか!」
「少年よ大志を抱けだ、男なら立ち上がれ!」
「おお! みんな、ありがとう! お陰で目が覚めたよ!」
 刃は腹の底から力が湧き上がるのを感じて意気を取り戻した。
「今美味しい料理を出すから、待っててくれ!」
 刃は厨房の奥に飛び込んでいった。それを見送りながら、林檎が言った。
「…鶫、うまく乗せたな」
「貴方達もね」
「ここまできて高級フレンチおじゃんなんて、洒落にならないもんねぇ」
「あいつ、明日は学校休むな」
「過労で死なないことを祈りましょう」
「あんたら、無情だな」
 彩は少し刃の事が可愛そうになった。

 三人が席に戻ると、料理が来るまで取り留めのない話が始まる。若い娘が八人も集まると、流石に騒がしい。お店にはいつもとは違う、底抜けの明るさが広がった。
 彩は隣で黙して二つの駄菓子を見つめる桜子に言った。
「桜子さん、ここまで来て駄菓子勝負ですか……」
「今日のは凄いわよ。いまや伝説となっている駄菓子同士の勝負よ」
 桜子は右手に『蒲焼さん太郎』を、左手に『モロッコヨーグル』を持って見比べていた。この二つの駄菓子に関して、結構真剣な議論が展開される。まずは林檎が言った。
「蒲焼さん太郎か、懐かしいな。子供の頃は誰もがお世話になる駄菓子だよな。十円だし、美味いし、値段の割には食べでがあるしな」
「どんな味がするのですか?」
「ここに例外がいやがった……」
 不思議そうに蒲焼さん太郎を見つめる胡桃に桜子は言った。
「蒲焼さん太郎を知らないなんて、日本人じゃないわね」
「桜子さん、日本人じゃないって、そこまで言いますか!?」
 彩の突っ込みの後に、今度は小桃がヨーグルを見て言った。
「わたしはそのヨーグルトみたいなお菓子の方が好きだな〜。あの甘酸っぱさと、お砂糖のシャリっと感がたまんないよね。量の少なさがちょっぴり泣けるけど」
「これはモロッコヨーグルって言うのよ。名前くらい覚えておきなさい!」
「正直、どうでもいいと思う」
 彩が言うと、桜子が凄まじい怒りをもって鋭く睨む。彩は慌てて取り繕うようにして言った。
「あ、でも、それさ、ヨーグルだっけ? 何のクリームなのか未だに分からないんだよね」
「生クリームとヨーグルトを合わせてるのかな?」
 小桃が言うと、桜子が得意な顔になる。そして説明をしようと口を開きかけたとき、先に鶫が言った。
「それは植物性の油をクリーム状にして、酸味と糖分を加えたものよ。だから乳製品ではないわ」
 鶫の見事な回答に、桜子は深く感銘を受けて言った。
「あなた、良く知ってるわね! 実は駄菓子通とか?」
「それはありません…」
「流石は特進クラスのエリート、無駄知識も豊富だな」
 林檎の言う事に、鶫は特に感想は言わず、桜子は再び二つの駄菓子を見比べ始めた。
「内容ではヨーグルの方が上なんだけど、値段が二十円っていうのがね。十円と二十円の差は大きいわ」
「それ、わたしが子供の頃は十円だったのよね」
 瑠璃がヨーグルを指差して言うと、桜子は知られざる真実に胸を打たれて思わず立ち上がった。
「何ですって!!?」
 隣の彩は苦笑いを浮かべつつ、そこまで驚かなくてもという顔をする。
「わたしが小学校に上るくらいまでは十円だったかしら?」
「何という事なの!? 今もヨーグルが十円だったら、圧勝だったわ…」
「そんなに迷っているのなら、わたしが決めてあげる」
 と言ったのはエイミだった。彼女は優雅な線の細い指先でヨーグルの方を指した。
「こっちの勝ち」
「あんたが選んだら、絶対甘い方になるでしょ!」
「そりゃもう、甘いは正義ですから」
「駄目よそんなの! 勝負は公正でなければいけないわ!」
「結局は桜子さんの好みになるんじゃないの?」
「彩、前にも言ったわよね。わたしはこの駄菓子たちの原材料から生い立ちに至るまで、あらゆる方面をリサーチして結論を出すわ! そこに不公平性など有り得ないのよ!」
「おお、お姉ちゃんかっこいい〜」
 小桃が燃え上がる桜子に拍手を送りながら言う。胡桃と小桃以外は桜子を呆れ顔で見ていた。
「左様ですか…もう勝手にして下さい…」
 彩は燃え上がる桜子を放っておくしかないと思った。
 駄菓子議論が一段落したところで、オードブルが運ばれてきた。海老や蟹などの様々な海産物をゼリーで固めたもので、見た目にも美しく、美味しい食事が乙女達をさらに楽しい会話へと誘う。
 刃は少し離れて彼女たちを見ていた。その中でも時折浮かべる鶫の笑顔が眩しかった。
「深山さんって、あんな風に笑えたんだ」
 刃の料理もその笑顔に一役買っているだろうが、それは些細なものだ。人間嫌いだったはずの鶫が、いつの間にか多くの仲間に囲まれていた。鶫自身の努力と、仲間の思いやりが、全てを変えたのだ。
「大変な事も多いけど、このチームに入ってよかったな」
皆の笑顔を見ていると、刃は何だか嬉しくなり、料理人を目指してよかったと、心から思うことが出来た。
次の日、刃が過労で学校を休んだことは言うまでもないが、他のコックまで倒れてしまい、店は臨時休業を余儀なくされてしまうのだった。

僕って不幸だ・・・終わり

グルメイ・・・完


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