月読Rewrite sideA


1 :一八十 :2009/09/13(日) 21:18:46 ID:ocsFuctm

 月読rewriteのリライトです。
 もう,これで終わりにしたい。

 sideBと合わせて読んでください。


2 :一八十 :2009/09/13(日) 21:19:41 ID:ocsFuctm

 夢をみる。
 今日も、明日も、昨日も。
 すべて同じ夢をみる。

 崩れかけた工場跡。
 視覚のない暗闇で、ただ聴覚のみが冴えわたる。
 ぶつかり合い、こすれ合う金属の音。
 2人の人間の、かすかな息づかい。
 そして、自分の心臓の音。
 普段ならば絶対に聞くことのできないであろう音を、
 この暗闇の中では、感じることができる。

 僕は、この夢を毎夜見続けている。
 さかのぼること、15日。
 毎夜である。
 しかし、この夢はまったく完全に同じではない。
 ただ一点、決定的に異なる場面がある。

 暗闇の中、
 唐突に、音が消える。
 聴覚が奪われ、そして、光が差しこむ。
 月光が工場の窓から入りこむ。
 僕は、その月を見上げる。

 「満月……か」

 ただ一点。
 この月の形が毎夜、変化する。
 
 気が付いたのは、3日目の夜。
 その日より、4日。
 僕は、夢を拒んだ。
 しかし、7日目の夜。
 映ったのは上弦の月。
 如何に拒んでも、
 強制的に導かれる夢の世界。
 10日目の夜。
 十分に光を湛えた月は、
 二人の男を映し出す。
 14日目。
 僕は、覚悟を決める。

 そして、15日目。
 僕は、人を殺す。

 その凄惨な光景を僕は、瞼を閉じて見送った。

 目の前の僕が、一人の男を殺す。

 それは、
 見る必要もなく知っている未来。
 あるいはこれから起こりうる過去に過ぎない。

 ――時は満ちた。

 減衰する残りの時を前に、
 僕は運命を受け入れた。


3 :一八十 :2009/09/14(月) 21:39:17 ID:ocsFuctm

 東の空に月が浮き出ている。午後六時。
 僕は、あの工場跡にやってきた。
 夢の中に出てきた工場。
 しかし、そこは確かに存在する。

 なぜ、僕はここに来たのか。
 人を殺すとわかっていながら、なぜここ来てしまったのか。
 そんなことを考える事自体がナンセンスであった。
 ――結局、来ちまうんだよな。
 未来の確定事項には抗うことができない。

 そう。
 僕は、未来を見ることができる。
 それは、夢の中に限らず、いつでもどこででも。
 しかし、それは自動的であることが多く、
 自分の意思で未来を見ることは少ない。
 と、いうのも
 未来を見る事自体にはメリットがなく、
 ただひたすらに不自由なだけだからだ。

 さて、
 僕は、金網で作られたフェンスを乗り越えて、敷地内に入った。
 はがれおちた壁が建物の周りに散らばっている。
 窓がほとんど割れているのは、老朽化か、人為的なものなのか。
 ――夢で見ていたよりもぼろいな。
 夢の中では、もう少し整然としたイメージだったが、ここはあま
りにも雑然としすぎている。
 ――所詮は夢か。
 夢と現実は一致しない。それがいかにリアルで、未来の事実を映
し出したとしても、夢と現実が一致することはあり得ない。
 ――その主題を除いて。

 工場の中は、地下駐車場のようなスペースが広がっていた。足も
とにガラスやら廃材やらが散らばっていなければ、完全に駐車場と
して機能するだろう。
 ――使う人はいないだろうが。
 
 フロアをひとしきりうろついていると、下り階段を見つけた。
 暗い。
 下り階段の底が全く見えない。
 下には一切の光が入っていないのだろう。
 まったくの闇。
 ひたすらな暗黒。
 僕は、一瞬ためらって、そして、その黒を覗きこんだ。

 刹那。
 駆け巡る狂気。
 背筋が凍る。
 戦慄のイメージが目の前の広がる。
 
 ――満月が見えている。
   微かな月明かりが、地面に横たわっている体を照らす。
   動かない手足。
   視線が上がる。
   その顔は……。

「あぁ。すこし早いな」
 背後から掛けられた声に、慌てて振り返る。
 だが、振り返るより早く、鈍い感覚が背中をめぐる。
 体が宙に浮く。階段の方に蹴りとばされたのだ。
 相手の息を吐く音が遅れて聞こえてくる。
 落下の感覚。
 僕は、全力で叫び、腹の中の空気を押し出して、衝撃に備える。
 一瞬後、僕の体は叩きつけられた。
 グシャッ、という嫌な音と激痛が襲う。
 それでも転がりながら、階段から距離を取った。

「ふむ。いやどうも、参ったね。コイツは本物だ」
 声の主が階段を降りてくる。
 階段の軋む音が近づいてくる。
 だが、相手の顔は見えない。
 その為には、ここは暗過ぎた。

「ここ数日、雑音が入ると思えば、こんな早くに会うとはな」
 声の主は、一人で呟きながら近付いてきている。
 僕は、音を出さないように距離を広げる。
 この暗闇では、相手も見えていない筈だ。
 僕は、右目に意識を集中しながら、
 フロアの奥へと進んでいく。
「まさか、見えているのか。いや、だとしたら向かってくるか」
「とはいえ、この奥の部屋に行くのであれば、簡単に詰まれる」
「さて、どうする気だ?」
 独り言を呟きながら、相手はゆっくりと確実に接近してくる。

 間違いない。
 夢で僕が殺したのは、あいつだ。
 手段はどうあれ、僕があいつを殺すのは、間違いがない。
 そして、
 そうしなくては僕が殺される。
 では、どうすればいい。
 ――簡単だ。あの場所まで誘導すればいい。

 唐突に光が差した。

 壁に空いた穴から差しこむ光は、
 夢で見た満月。

 ――まもなく、僕は人を殺す。

「さあ、来い」
 僕は、目の前の闇に向かって言った。
 そして、
 ――それが僕の最期の言葉になった。


4 :一八十 :2009/09/16(水) 21:22:44 ID:ocsFuDVe

 目が覚めた。
 上体を起して、身体を確認する。
 外傷はないようだ。
 次に時計を手にとった。
 デジタル表示で日付を確認する。
 ――夢か。

 まさか、夢の中で夢を見るとは思わなかった。
 あるいは、あのどちらかが現実であったのかもしれない。
 しかし、僕が殺されるという未来が見えたことには変わりはない。

 僕は、身震いをした。
 では僕は、誰に殺されたのか。
 それがわからない。
 最期の最後まで相手は姿を見せなかった。
 いや、見ることができなかった。
 僕の言葉の直後、僕は背後から心臓を貫かれて絶命した。
 即死であったために後ろを振り返ることができなかったのだ。

 ――とはいえ、この夢が予知夢ということはありえないだろう。
 僕はそう考える。
 何故か。
 満月は今日であるが、あの夢が確定した未来であるならば、
 その前の夢を見るという事実が必要だ。
 ――だが、そんなことはなかった。
 つまり、あれは単なる夢と割り切ることができる。
 そういうものなのだ。

 僕は、シャワーを浴びてから、
 いつも通り高校に向かうことにした。


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