白の少女と廃れた少年


1 :アクロス=レザストロ :2007/09/05(水) 20:22:14 ID:kmnktixk

 ───闇の中、少年は歩く。

 一回だけ立ち止まったが、用は無いと言わんばかりに、すぐ歩き出す。

 彼の顔は何故か、大きな事をやり遂げた後のように清々しかった。

「……ハ……ハハ……」

 少年は、乾いた笑い声を漏らす。

 何故か、その笑い声は、少し愉しげに聞こえる。

「……ハハハ……ハーハッハ!!」

 誰もいない闇の中、少年は笑い続ける。

 少年はこの日、大きな事を成し遂げた。







 ───少年はこの日、実の両親を殺した。


2 :アクロス=レザストロ :2007/09/18(火) 17:43:42 ID:kmnktiYn

序章

「……う……うう……」
 ベッドに横たわっている少年───まあ、自分の事だが───は、原因不明の息苦しさで夢の世界からそのまま死の世界まで逝きそうだった。だが、そんな易々と死ぬ訳にはいかない。ゆっくりと眼を開け、元凶らしきモノを見る。そこには───





 ───少女が、自分の腹の上に座っていた。

「……おい。その歳にもなって寝ている奴の上に馬乗りすんじゃねぇ」
「いいじゃん、いつまでも寝てるお兄ちゃんがいけないんだよ?」
 笑顔でそう言ってきたのは俺の妹、瀬内(せうち) 春香(はるか)だ。
 黒の長髪を左右で結んでいて、かわいいと評判の元気な少女だ。……この際、胸の大きさについては言わないでおこう。妹はつるぺたな胸を気にしているんで。身長は155くらいで、今年で十六歳になる。
「普通に起こしゃいいだろ。ほれ、さっさとどけ」
 妹にどくよう促し、ゆっくり起き上がる。……おっと、俺の自己紹介がまだだったか。
 俺の名前は瀬内(せうち) (まもる)。黒の瞳に黒の髪だ。髪型はオールバック。身長は180センチ程度。顔は……一応、美形と女子達は言うけど。年齢は18だ。
「……む〜、何度起こしても起きないのがいけないんじゃん」
 膨れっ面を作る春香。相手にする暇は無いのでさっさとリビングまで歩く。
「お兄ちゃん、ご飯食べる時間無いよ?」
「は? 何で?」
「ほら」
 妹が指を指している方向には、木で出来た古臭い柱時計があった。時刻は……八時ジャスト。
「……ってすぐ出ねえと遅刻確定じゃん! 今月も遅刻王なんて言われたくねぇよ!」
「お兄ちゃん、お弁当そこに置いてあるから。先に行ってるよ〜」
 軽い足取りで玄関を出て行く妹。いつもの様に俺が寝てる間に朝飯を食ったのだろう。
「くっ……さらば朝飯! 遅刻するわけにはいかないから80年代風にパンを咥えていってやるさ!」
 まるで謀ったかの様に焼いてある食パンが皿の上に置いてある。それを口に咥え、俺は玄関を飛び出した。


3 :アクロス=レザストロ :2007/10/07(日) 03:02:12 ID:kmnktiYD

一章

───あ〜、その……結論から言うと……遅刻しました。
 今月二十三回目の遅刻。我ながら、素晴らしい記録だ。留年確定だろ。
「お前なぁ……三年としての自覚あるのか?」
「ありません!」
「そこは自信たっぷりに答えるな!」
 担任の野村先生の説教をある程度聞き流して、席に着く。
「今日も遅刻ってお前ある意味すげえな。何で妹遅刻しねぇんだ?」
 俺に声を掛けてきたのは茶色でショートの髪をしたガッチリとした体付きの男だった。
 こいつは北郷(ほんごう) 一刀(かずと)。剣道部だ。三ヶ月前に転校してきた。
 とりあえずいい奴だ。しかも剣道、剣術ともに凄い。かなりの天才である。成績は……残念だが。
「俺のチャリはパンクしてたんだよ。しかも狙い済まされた様に俺の前で何か起きるし」
 学校に向かっていると目の前でひったくりが起きたり、車が俺の前に突っ込んできたり、道に迷っている外国人が俺に声掛けてきたり、信号が丁度俺の前で赤にかわったり、しかも信号無視しようとすると絶対車が突っ込んでくるし、もう俺の通学路はどうなってるんだ?
 たまに何も無い日があるけどその時は学校の目の前で車に轢かれたんだよな……。しかも、二回。二回目は忘れてたからな……どっちも大きな怪我にはならなかったけど。
「ま、それはいいとして……」
「俺はあんま良くないけどな」
「知ってるか? 連続バラバラ殺人事件、昨日も起きたんだぜ」
「…………」
 そういえば、最近巷を騒がしている連続バラバラ殺人事件。犯人はまだ捕まっていないどころか、見当もつかないようだ。犯行現場に、証拠が残らないらしい。しかも、無差別でもある。それが一番嫌な所だ。───次は自分かもしれない。そんな恐怖と毎日隣り合わせに生きなければならないのだ。これはかなりの苦痛だろう。三年前にこの事件は始まった。犯人は、こう呼ばれている。
「『ジャック・ザ・リッパーの化身』……か。馬鹿らしい」
「お、流石に通り名は知ってるか」
「あんなにニュースで連呼されたら嫌でも覚えるっつーの」
 今ではどのチャンネルをつけても、『ジャック・ザ・リッパーの化身』の事しかやってない。インターネットにも崇拝サイトが出来る程だ。検索ランキングは毎回一位。……恐れられているのか、崇められているのかよくわからない。まぁ、具体的な対処法は無し。出来るだけ夜は一人で外にでるなという事くらい。
「まったく、何が化身だ。バラバラ殺人起きてんのに、よくそんな通り名つけるな……」
「はは……そうだな。崇拝サイトも出来てるし。守、実はクラスの殆どが崇拝サイトのメンバーなんだぜ」
「……この事件をゲームか何かと勘違いしてんのかウチのクラスは」
 俺は溜息をつく。こんな事件があっても能天気でいられるクラスの人間おかしいって。
「でも、警官もバラバラにされた事あったよな」
「……ああ、アレは酷かった。内臓まで全部引きずり出されていたからな」
「しかも、マスコミまで殺されたことあったし……」
「……アレはバラバラだけじゃなくて人目につく公園に吊るしてあったからな……」
 結局、選べるのは二つ。平穏に過ごしていつか殺されるか……犯人を突き止めようとして殺されるか。生き延びるなどという選択はない。
「……ま、俺は毎日楽しく過ごせれば、それでいい」
「同感。余計なことに首は突っ込まないでおこうぜ」
 そう言って俺はノートに計算式の解を書く。それを見た一刀も黒板に向き直り、ノートに写し始めた。


4 :アクロス=レザストロ :2007/10/11(木) 15:30:18 ID:kmnktiYD

二章

 昼休み、俺は一刀を連れて屋上へ向かった。いつもここで昼飯を食べているのだ。……ちょっと日差しが強いのが難点だけど。
「やぁ、守。今日も遅刻したんだって?」
 屋上に行って扉を開けた瞬間に声が掛けられた。
「ああ、遅刻したぜ。……って何でお前が知ってんだ?」
 先客は俺の友人だった。二宮(にのみや) (かおる)。一刀と同じ時期に転校してきた美少年だ。黒の前髪で顔がよく見えないが、女と見間違える程のかわいい顔をしている。身長は160センチ程度。弓道部であるが、何故か格闘術をマスターしており、不良二十人を一人で倒した事がある。……しかも無傷で。恐らく、学校内で怒らせてはいけない奴のナンバー1だろう。
「春香ちゃんから聞いたんだよ」
「そうそう、お兄ちゃんがまた遅刻したってね〜」
 薫の隣には、春香が座っていた。どうやら飯はまだ食べてないらしい。
「春香……わざわざどうでもいい事教えるなよ」
 俺はいつものとおり春香の前に座る。一刀は薫の前に座った。
「だってお兄ちゃんの遅刻数を予想して近いほうが負けた人に二千円貰えるって薫お兄ちゃんが……」
「薫! 人の妹と賭けしてるんじゃねぇ!」
 くそ、道理で春香の部屋に高そうな物が増えてた訳だ! つーか薫負けまくってんのか!
「いいじゃん、どうせ僕の財布がスッカラカンになるだけだし……はは……」
 薫、真面目にすっげぇへこんでるんだけど! 連敗するなんてそりゃ思わねぇよな。
「……ちなみに、今月は?」
「私の勝ちー!」
 ……ドンマイ、薫。いつかきっと勝てるさ。


「ところでさ、謎の失踪事件って知ってる?」
 飯を食べている最中に、薫がいきなり切り出してきた。
「失踪事件? いつのだ?」
「最近だよ、最近」
 『ジャック・ザ・リッパーの化身』騒ぎでそんな事件は頭の片隅にも残ってない。
「……まぁ、『化身』騒ぎで皆重要視してないけどさ……僕は『化身』よりも気になってるんだ」
「連続バラバラ殺人よりも気になるって……何だ? 犯人が美人なのか?」
「そういう冗談は無し」
 薫に否定され、ちょっと落ち込む。……少し期待してたのに……。
「月の終わりの日……高校生が毎月の様に謎の失踪をしてるんだ」
「? 何で高校生なんだ?」
「それは解らないよ。警察も『化身』の方に手一杯だし」
 確かに『化身』のバラバラ殺人は放っておく訳にはいかないしな。……三年経っても捕まってねぇけど。
「だからこそ、僕が個人的に調べた」
「……調べたってお前……まさかとは思うけど……警視庁にハッキングしたのか?」
「うん。セキュリティ結構甘かったし」
 ……薫は、天才ハッカーとして裏では有名だ。国の重要機密なんていくつも知ってる。
「毎回思うんだが……」
「ん?」
「お前、そのハッキング技術を誰から教わったんだ?」
「親が勝手に教えてくれたんだ。テストの問題でも見せてあげようか?」
「いや、遠慮しとく」
 こいつの家庭は犯罪者集団かよ……絶対敵にはしたくねぇ。
「それで、失踪事件とバラバラ殺人を調べてたらある関係を見つけたんだ」
「関係……だと?」
「失踪した高校生は皆、『化身』に親が殺された人なんだ……」
「───!?」
 一瞬、言葉を失った。
「僕はこの二つに関連があると思ってる。共犯か、犯人は同じか……」
 何故、狙っているかの様に『化身』と『失踪』が繋がるのか。
「……それで僕は、ある可能性に気付いた」
「ある……可能性?」
「うん。ねぇ守。君は確か、三年前に『化身』によって親が殺されたよね?」
 そこまで言われて俺は、一つの可能性に気が付いた。
「ま……さか……」
「そう、僕は君や春香ちゃんが犠牲者になるかもしれないと思ってる」

 ───今思えば、この日から全てが狂い始めたのかもしれない。


5 :アクロス=レザストロ :2007/10/16(火) 23:53:27 ID:kmnktiYc

三章

 深夜、俺は一人で街を歩いていた。春香は、『化身』に親が犠牲になっていない奴の家に泊めてもらっている。
 ───絶対に、春香を犠牲にする訳にはいかない。だから俺は一人で街に出た。
「……月が変わるまで、後三十分か……」
 人通りは、まったく無い。やはり『化身』の影響だろう。怯えて人は夜出歩かない様になってしまった。
「……ま、おかげでコレ、隠す必要無いけどな……」
 俺は、手に持っている物を見て呟いた。
「まさか、ここまで大事になるとはなぁ……」
 正直、俺は『化身』などに怯えていない。何故なら───

「さ〜て、とりあえず目に見えた奴でも殺すか」

 ───『ジャック・ザ・リッパーの化身』とは、俺の事だからだ。
 三年前、自分の両親を殺した。その時の人を殺す感覚が忘れられず、三年間ずっと犯行をしてきた。
 俺は、手に持っている鉈を軽く一振りする。三年前からずっと使ってきた俺の相棒。毎日手入れをして錆びない様に気を配ってきた。
「……うん。やっぱりしっくりくる」
 最早、手足も同然。これ以外の凶器など考えられない。
「さて……問題は一人の奴がいるかだな……ん?」
 辺りを見渡していると、路地裏に何か白い物が見えた。
「……確か、あの先って空き地だよな……」
 何が見えたのか解らないが、人ならば丁度いい。俺は路地裏に入ってそれを追いかけた。
 


6 :アクロス=レザストロ :2007/10/18(木) 01:04:57 ID:kmnktiYc

四章

 白い何かを追いかけ、路地裏に入った俺。
 だが、奥へ進む度に言い様の無い不安が俺を襲っていた。
 ───引き返せ。本能はそれだけを俺に伝える。だが、足を止める事は出来なかった。
 そして、路地裏を出た瞬間、信じられないものを見てしまった。
「な───!?」
 そこに居たのは、白のワンピースを着ていて髪も雪のように白い少女だった。いや、それはまだいい。問題は、少女の足元に転がっている物だ。
「…………」

 ───少女の足元には、バラバラにされた死体があった。



「……目標、捕捉。ここから少し先にある空き地だよ」
 夜道の中、明らかに浮いている白の鎧を肩から下に身に着けている男が二人話している。
「了解。三分程度か……行くぞ」
「は〜い」
 二人の男は、夜道を疾走する。



「な……なんで……」
 俺は未だにこの現実を理解出来なかった。今日俺は『化身』としての犯行をしていない。
 なのに何故、あの少女の足元にはバラバラにされた死体があるのか。
 ───簡単だ。答えは一つしかないじゃないか。あの少女が、やったんだ。
 でも、それが認められなかったから考えていた。
 少女は、無表情で死体を見下している。まるで、それが当然のような表情で。
 意を決して、声を掛けようとしたが、少女がこちらを向いた。
 俺は、反射的に鉈を構える。いつ襲われても大丈夫な様に。だけど、少女の行動は俺の予想とはかけ離れていたものだった。

 ───少女はこちらに向かって嬉しそうに微笑んだのだ。

「え……?」
 その行動に呆然とする俺。少女は路地裏の出口に向かって歩いていく。それをしばし呆気に取られて見ていたが、
「やべ……追って何者なのか訊かねぇと!」
 すぐさま少女の後を追って走り出す。が、それは目の前に現れた銀髪の青年によって邪魔された。
「……!?」
 190センチ後半の身長をした青年。それを見て、只者じゃないと判断できた。
 まず、纏っている雰囲気が異常だ。近づく事すら許さない様な、他者の干渉を受け入れない感じがする。
 そして、行動。俺を見た瞬間、何をするでもなくただ拳を構えた。つまり、こいつは最初から俺のみを狙っていた。理由が不明ってのが危ないが。
「……貴様が───なのか?」
 青年が呟いた。それは満足に聞こえなかったので、もう一度訊こうと思った瞬間───

 ───青年は一瞬で間合いを詰め、俺にボディブローを放っていた。

「!!」
 頭より先に、体が反応した。両手で鉈を持ち、腹を守る。が、相手の力は尋常では無かった。しっかりガードしたが、後ろの壁まで吹き飛ばされた。
「───っ!!」
 余りの痛みに、声が出ない。自分が生きてるのが奇跡の様に感じた。
「…………ん?」
 青年は、何かに驚いている様にこちらを見ている。
「……能力が効いていない……? 成程、お前が例の……」
 能力が何の事かは知らないが、このままだと俺が殺されるぐらいの事は解った。
 自分の体に鞭を入れ、震える足で何とか立つ。
「よく耐えた。だが、死ね」
 青年が、俺に止めを刺そうと地面を蹴った瞬間だった。

「やらせるかよっ!!」

 目の前に、白の鎧を着けている男が現れる。その手に持っている剣で、青年の拳を防いだ。
「ちっ……『ラージアス』の奴等か……っ!?」
 即座に青年は後ろに下がる。今まで青年がいた場所には、三本の矢が刺さっていた。
「ちぇ、気付いたか……親衛隊隊長の名は伊達じゃないね」
 ビルの屋上から、剣を持っている男と同じ様な服装をしている少年が現れる。
 何故か俺は───白の鎧を着た奴に見覚えがあった。

「まさか……一刀と薫か……?」

 俺の呟いた言葉に、白の騎士二人は反応する。そして、二人で同時に俺を見た。
「な……守……」
「そんな……」
 ───間違い無く、一刀と薫だった。剣を持っているのが一刀で、弓を持っているのが薫だ。
「どういう事だよ、これは……」
 訳が解らない。いきなり命を狙われたり、俺の友達がこんな格好をして現れたり……夢であったら覚めて欲しい。
「守、それにはいろいろ事情が───」
 薫が何かを言おうとした時、地面に謎の模様が浮かびあがった。
「魔法陣!? ここが『扉』だったのか!?」
「そのようだね。丁度いいや、ワープさせて貰おう」
「ちょっと待て! どういう事だよこれは!!」
 何か訳の解らない話をしている二人に説明を求めるが、視界が真っ白になり───俺の意識は闇に落ちた。


7 :アクロス=レザストロ :2007/10/21(日) 02:09:14 ID:kmnktiYc

五章

 ───次に眼が覚めたのは、廃墟が並んでいる不気味な場所だった。
「……ん……ここ、何処だ……?」
 体を起こし、周囲を確認する。何処を見ても、廃墟が並んでいるだけだ。
「何が起こったんだっけ……?」
 確か、白い少女の足元にバラバラ死体があり、少女を追いかけたら銀髪の青年に邪魔され───
「そうだ! あの男は……!」
 身構えるが、周囲には誰もいない。
「……一刀や、薫は……つーか、何が起きたか俺に説明して欲しい」
 思考が、追いつかない。当然だろ? だっていきなり俺以外が『化身』の犯行したり命を変な格好をした友人に救ってもらったり。夢と信じたい。
「……ん?」
 俺は、おかしな気配を感じた。生気がまったく感じない、何かの気配。
「…………」
 辺りを見渡して、武器になる物が無いか捜す。丁度、足元に俺の鉈が置いてあった。
 それを拾い上げ、気配のする方向を見る。
「さぁ、いつでも来い……俺は、殺しは躊躇わねぇ」
 今まで散々人を殺して来たんだ。躊躇う理由は存在しない。
 そして、現れた奴を俺はしっかり見て、困惑した。

 ───俺の前に現れたのは全身骸骨の剣士だった。

「…………」
 何を、言えばいいのか。つーか、どうすればいいのか。俺はとりあえず一言。
「すいません、これ笑う所ですか?」
「…………」
 骸骨は、何も言わない。ただ無言で剣を振り上げ───俺に向かって振り下ろした。
「うわっ!」
 とっさに鉈を上に振り上げ、防いだ。こういう時、一刀とか薫に鍛えてもらった自己防衛反応が役に立つ。
「こ、の、ヤロー!」
 そのまま鉈で剣を押し返し、骸骨を後ろに吹き飛ばす。数歩後ろに下がってバランスを崩した所を狙い首筋に鉈を振り下ろす。
 ───大した感触も無く、骸骨の首は吹っ飛んだ。
「……あれ?」
 思ったより手応えが無かった事に、疑問が浮かぶ。
 胴体はその場に倒れた。倒れなかったら流石にどうしようかと思ったが、倒れてよかった。
「……あーあ、俺は弁償とか嫌だぜ」
 これ、どんな原理で動いていたんだろう。それを調べてみようと骸骨を観察する。
 瞬間、背中に悪寒が走る。急いで後ろを振り返ると、骸骨の剣士が二十体程いた。
「……こりゃまた、大勢だな」
 鉈を一回転させ、構える。
「さて、お片ずけの時間だ!」
 そのまま、俺は敵の骸骨の中心に飛び込んだ。


8 :アクロス=レザストロ :2007/10/28(日) 00:48:03 ID:kmnktixk

六章

 ───数分後、俺は山になった骸骨の上で座っていた。
「……思ったより大した事なかったなぁ……」
 数が多いといえど、敵は全てワンパターン。子供が重い物を振り回す様なぎこちなさが相手にあった。
 そう、相手はまるでこれが初めての戦いである様だった。
 一刀や薫と何度も(無理やり)手合わせした俺には、弱すぎる相手。
 ……ま、それを殺しに生かしたのはこれが初めてだが。いや、殺しって言えるのかこれ。
 大体の人間は俺の手にある鉈を見た瞬間『化身』を連想し、腰を抜かして命乞いしかしない。つまり、生かすチャンスが無かっただけ。
 もし、抵抗するなら容赦なくやってやるし、その分苦しませて死なせる。もう人を殺すのが俺にとっては日常茶飯事。違うのは、バラバラにされた肉片の数。
 基本は四肢と首と胴体の六つに分けるが、気が向いたら鼻や耳を削ぎ落としたり、手や足の指を一本一本切り落とした事もある。
 もう俺は人を殺す事を意識していない。俺の気が向くのは死体をどのようにバラバラにするか───それだけだ。
 俺は一回周りを見渡して、呟く。
「……流石にこの数はきついな〜……」
 周りには、百体はいそうな骸骨の剣士。円を描く様に陣取っている。もちろん、その円の中心は俺だ。
「……ま、やってみるか」
 ゆっくりと立ち上がり、鉈を構える。周りの警戒は怠らないで、一点のみを見る。
 それは、廃墟と廃墟の間の道。恐らく路地裏だったのだろう。そこをただ見る。
 ───あそこを通って、出口で待ち伏せれば一体ずつ相手にできる。それなら、確実に勝利できる。
 問題点は一つ。あの道の向こうに同じ骸骨がいたら挟み撃ちにされてしまう。そうすれば死は確実だ。
 だが、このまま百体の骸骨とまともに戦えば死ぬ可能性が高い。なら───
「───確立は五分でも、勝利出来る方を選ぶよな……」
 ───その言葉と共に、俺は走り出す。周りの骸骨も、それが合図だったかの様に俺に向かって走り出す。
「行くぞぉぉぉ!!」
 前にいるのは十体ほどの骸骨。それを叩きのめしてあの道に入る。最後に手筈を確認して、骸骨達に飛び込んだ───

 ───が、いきなり目の前の十体の骸骨の頭が吹き飛んだ。

 一瞬遅れて、銃声が十度響き渡る。それで俺は目の前で起こった事を理解し、困惑した。
 何故、音が俺に届くよりも銃弾がこちらまで届いたのか。それに(今更だが)銃刀法違反ではないのか。
 俺はいい。だって犯罪者だし。でも、ここまで派手にやっていいのか。
 そして、俺は今更ながらある可能性に気が付いた。───これは、俺を助けたのではないのか。
 わざわざ俺の前にいる骸骨を壊してくれたんだ。助けてくれたに違いない。
 ならこのチャンスを生かさない訳にはいかない。銃を撃ってくれた人に感謝の念を抱きながら俺は走る。
 そして、心の感謝は一瞬で消えた。

 ───次に弾が撃ち込まれたのは、俺の足元だった。

「……!? 危な……!!」
 思わず立ち止まり、銃弾が飛んできた方向を見る。そこには、誰も居ない。俺はそう思って、首を振る。
 居ないのではなく、遠すぎて見えないのだ。そして、八百メートルは離れている建物の上に、何かを見つけた。
「……あんな所から……!?」
 だが、もっと驚く要素はあった。その何かは、狙撃銃でこちらを撃っているのではない。それは、ハンドガンでこちらを狙っていた。
 この状況下で俺が思う事は只一つ。───有り得ない。
 只のハンドガンでスコープも何もつけずにこちらを確実に狙うなんて、どんな超人にも出来ない。
 足を動かそうとするが、再び足元に銃弾が撃ち込まれる。
 動くな、という意思表示だろう。動いたらさっきの骸骨みたいに頭をぶち抜かれてしまう。まだ死にたくない。
 俺は、立ち止まるしか無かった。忌々しそうに遠くの何かを見た瞬間───

 ───目の前を、緑色の何かが通った。

 その何かが髪だと気付くのは、俺の後ろにいた五十体ほどの骸骨がそれによって吹き飛ばされてからだった。
「え……?」
 それは、槍を手に持っていた。黒のブラウスに、黒のスカート。緑色の髪。そして、尖った耳。
 そこまで考えて、俺は何かおかしい事に気付いた。尖った、耳……?
 もう一度、俺はその耳を見る。間違いなく、尖っている。まるで、エルフの様な……。
「……さて、俺は考えなければならない事があるようだ」
 根本的な問題を俺は考えていなかった。そもそもここは本当に日本なのか。いや、地球上なのか。
 たまたま近くにいた骸骨の頭を吹き飛ばしながら俺は考えた。


9 :アクロス=レザストロ :2007/11/04(日) 00:37:44 ID:kmnktixk

七章

 ───大量の骸骨がその女性に殲滅されるのには時間はかからなかった。実際、遠くからもう一人が銃で援護していたので二人で殲滅した事になるが。
「……で、どうしよう……」
 その耳が尖った女性は、俺に槍を向けていた。その瞳には、何故か殺意が見える。
 ───さて、どうしよう。動いたら狙撃され、動かなければ槍に体を貫かれる。この状況で俺にどうしろと言うのか。
「貴様『親衛隊』の人間か?」
 質問! 『親衛隊』って何ですか? と訊きたいが相手は質問をするなと瞳で脅している。……横暴だ。
「ノーというかわかりませんが正しいかな。この状況を説明して欲しいぐらいだ」
「怪しいな……」
 俺から見たらお前の方が十分怪しいが。無論、言葉にしたら殺されそうなので心で思うだけにしておく。
 その耳が尖った女性はゆっくりと槍の先を俺の心臓に合わせる。
「……動くな、一発で終わらせてやる」
 ───前言撤回。言葉にしなくても殺される。だが、俺だって簡単に死ぬ気はない。
「死ね」
 槍が、前に突き出される。後少しで俺の体に刺さり、俺の命を奪うだろう。
 だが、俺の思考はいつになく冷静だった。何故なら、敵は間違いを犯したから。
 一つは、俺を戦闘未経験者だと思って油断している事。もう一つは、最初から狙う位置を俺に教えた事。狙う場所がわかってるなら、対応は簡単。
「ふっ!!」
 心臓に突き出される槍を、鉈で横に弾く。女性の目が、驚きに見開かれる。
 その隙を狙って背後にある路地裏に走る。遠くからの狙撃に備え、頭を鉈で守りながら。
 後少し、という所で───俺の左の太股が撃ち抜かれた。
「っ!!」
 思わず前に転びそうになるが、それを逆に利用して前に跳ぶ。そして地面に着くと同時に前転する。
 ───どうにか、建物の陰に入れたようだ。それと同時に左の太股が痛み出す。
「ぐっ!! ……痛みでどうにかなりそうだな……」
 だが、立ち止まってはいられない。立ち上がってここから逃げようとする───が、脚から力が抜けて、そこに座り込む。同時に、髪を刃物が掠める。
 驚いて後ろを向くと、槍を突き出したままの女性がいた。
「外したか……が、その様子じゃもう動けないようだな」
 女性にもう、侮りは感じられない。本気で、俺を殺す気らしい。
「今度こそ、死ね」
 女性が、槍を構える。俺も、このまま死ぬのは情けないので座りながら鉈を構える。
「最期まで抵抗する気か……」
 当然だ、そう俺は答える。助かる見込みがあるなら、それに賭ける。あれだけ殺しておいて自分は死にたくないだなんて、都合が良すぎだがな。
「……その意気は認めよう。……行くぞ」
 女性が膝を曲げる。俺は死ぬのか、そう確信した瞬間───

 
 ───廃墟が、崩れ落ちてきた。


「なっ……!!」
 驚きは女性の物だろう。大きく後ろに跳躍するのが見えた。
 破片が落ち、砂埃が上がる。不思議な事に、俺を避けてるかの様に破片が落ちていた。
「……非常識だ……」
 もう、それ以外言葉が思いつかない。しかも、よく見るとその破片は何かに斬られた跡があった。
 これを、斬った? そんな馬鹿な。そう思っていると、


「貴方がマモル・セウチ殿だな?」


 ───前方から、声が聞こえてきた。急いで顔を上げると、残骸の上に女性が立っていた。
 青の髪をストレートに腰まで伸ばしていて、身には巫女服を纏っている。そして───何故か手には一メートル程の長さの日本刀。
「……もしかして、お前がこれを切り刻んだのか?」
 冗談半分で訊いてみた。
「その通り、間に合ったようで良かった」
 心から俺の無事を喜んでいる様に女性は微笑む。それが美しすぎて俺は一瞬、言葉を失った。
「さぁ、ここから先は私に任せて」
 動けないのでお任せします。もう何がなんだかわからない俺はこの巫女に全てを任せる事にした。


10 :アクロス=レザストロ :2007/11/11(日) 00:38:06 ID:kmnktixA

八章

 いや、待て。任せるのはいいが、何故この女性は俺の名を知っていたんだ?
 俺はこんな美人の知り合いはいないし、こんな美人を知り合いに持っている友達もいない。じゃあ、目の前の人は何者だ?
「なあ……」
「はい?」
 俺が疑問に思った事を訊こうとして、声を掛けた。それに反応して巫女が首だけこちらに向けようとした瞬間だった。
「───サヤ! 何故邪魔をする!!」
 怒声が、聞こえてきた。サヤと呼ばれた巫女はすぐに注意を前に移す。
 尖った耳の女性が槍を構えてサヤを睨む。
「それはこちらの台詞。ミル、何故マモル殿を襲った?」
「マモル……? ああ、そこの男か。怪しかったんでな。『親衛隊』かも知れん」
 ミルと呼ばれた尖った耳を持った女性は、そう言い放った。
 ……だから『親衛隊』って何だよ。そんな意味不明な理由で襲うな。……理由も無く襲う俺よかマシだが。
「マモル殿は『親衛隊』ではない」
「怪しい事には変わりない。排除が一番だ」
 初対面で怪しいとか言われまくると悲しくなってくる。……俺ってそんな怪しいか?
 俺、どっからどう見ても普通の高校生なんだが。鉈持ってるけど気にしないでいいだろ。
「排除は、させない」
「私は、そいつを絶対に排除する」
「もし、どうしても排除するって言うのなら───」
「もし、どうしても邪魔するって言うのなら───」
 ミルは、槍を構え直して膝を曲げる。サヤは、刀を正眼に構える。

「「───全力で排除する!!」」

 突如、目の前にいたサヤが消えた。一瞬で彼女は、ミルの目の前まで動いていた。
 ここからミルの居た所まで十メートルはある筈だが、彼女は瞬きをする一瞬でその距離を詰めていた。
 俺は、動体視力には自信がある。だが、俺の眼には何も捉えられなかった。
「早……!」
 もう、残像すら見えないなんておかしいと思う。この地球には……何だか忘れたけど、色んな力があるから、あんな早く動ける筈が無い!
 そう思っていると、肩を誰かに叩かれた。後ろを向くとそこには───

 ───メイドの格好をした女性が立っていた。

「…………」
 はて、どんなリアクションをすればいいのやら。
 髪は、黒のショートボブ。メイド服を着ていて、丸眼鏡を掛けている。身長は、150くらい。そして、童顔だった。
「……あぁ、成程。ロリと眼鏡とメイドのコンビネーションで男を萌え死にさせる戦法か」
「……何かすっごい馬鹿にされた気がしますが、私は子供じゃありません」
 メイド服を着た女性は、頬を膨らます。……うん、可愛らしい。
「まあいいです。私は、アイ・シライという者ですが、貴方はセウチ様ですか?」
 どうせならご主人様と呼んでくれてもこちらは構わないのに。
 そんな事を思いながら、アイと名乗ったメイドの問いに、頷いて答える。
「サヤに頼まれました。貴方を守護しろと」
「サヤって……あの巫女さんか」
「はい」
 本当、あの巫女さんは何者なんだ? まぁ、敵じゃないみたいだけど……。
「で、今後の事ですが……」
 そこまで言った瞬間、アイは何かを投げる動作をした。
 そして、金属音と銃声が同時に響き渡った。カラン、と音を立て何かが落ちる。
 よく見ると、それは只のナイフだった。だが、銃弾とぶつかったのに傷一つついていない。
 本当に何で出来ているんだろう。科学じゃ説明出来ない事が多すぎる。
 俺はとりあえず、呟いた。
「非常識だ……」


11 :アクロス=レザストロ :2007/11/18(日) 00:58:26 ID:kmnktixA

九章

「まぁ……守護すると言ってもヘルシアが邪魔ですね」
 アイはそう呟く。
「ヘルシア?」
「あ、狙撃してる人です。ヘルシア・ターリットって名前なんですよ」
 俺の問いに答えてくれるアイ。こちらを向いているが、飛んできている弾は全てナイフを投げて撃ち落としている。
 やっぱ、普通の人じゃないね。そりゃ、服装からしてわかってたけどさ。
「私はヘルシアの相手をします。セウチ様はここで待機していて下さい」
「あ……ああ。……なあ、アイ」
「え?」
 今すぐにヘルシアの元へ走り出そうとしていたアイは、俺の呼びかけで止まる。
「……その、セウチ様っていうの堅苦しくて嫌だからさ、『マモル』と呼んでくれよ」
 俺のお願いに少しアイは呆然としていたが、すぐに気を引き締める。
「わかりました、マモル『様』」
 本当はわかってないだろ、とツッコミたかったが、アイはもういない。
 命令通り、俺はここで待機する事にした。といっても、脚の怪我で動けないから待機しか出来ない。
「……痛いな……」
 脚の痛みを認識して、夢で無い事を確認する。夢でしか有り得ない出来事が目の前で起きているのに夢では無い。とても奇怪だ。
 だが、俺の思考は信じられないくらい冷静だった。これが現実でも俺は別に驚かない。
 何故? それは俺にも解らない。しいて言うなら、『憧れ』……かな。
 ずっと、こんな下らない世界が変わればいいと思っていた。一刀や薫と出会ってからあまり考えなかったが。
 でも、心の底では世界が変わって欲しいとずっと願い続けてきた。
 その機会が、ようやく来たのだ。死にかけたというのに、俺はこの状況を楽しんでいた。
 俺がサヤの方を見ようとした瞬間───

 ───俺の体が、後ろへ動いた。

 サヤに抱き抱えられたのだと俺が理解するのに少し時間がかかった。
「サ、サヤ!! 何を……」
 するんだ、と言おうとしたが途中で爆発音にかき消された。急いで音のした方角を見る。今まで俺がいた場所が爆発してクレーターを作っていた。
 サヤが後少し俺を助けるのが遅れたら、俺は木っ端微塵になっていただろう。
「……間に合って、よかった」
「あ、ああ。ありがとう、サヤ」
「気にしないで」
 サヤは一度俺に微笑み、俺を下ろす。そして、クレーターの方を睨む。

「ああ? 当たらなかったのか、つまんねーな」

 煙の中から、人影が現れる。
「……ファル、貴方もそっちなのか」
「そのようだ。サヤ、悪いな。オレもそれを排除したい」
 ファルと呼ばれた女性は、黒のビキニで、紫のパレオを腰に巻いている。右目には黒い眼帯をしている。肌は黒く、手にはロケットランチャー。
 間違い無く、撃ったのはこいつだ。RPG-7と呼ばれるロケットランチャーを肩に担ぎ、退屈そうに俺とサヤを見ている。
「すいません、サヤ。守護は私の役目だったのに……」
 戻ってきたアイがそう謝罪する。
「気にするな。……ヘルシアはどうだった?」
「恐らく、サヤの想像通り」
 嫌な予感しかしない。これって、まさかの死亡フラグ? そう思っていると、

「アイ、逃がさないよ〜!!」

 ───声が後ろから聞こえてきた。後ろを向くと、160後半の身長をした少女が、自分の身の丈より大きい剣を背負っていた。
 桃色の髪を、左で結ぶサイドテール。ピンク色の全身タイツ。肩、胸、腰、脚に白いアーマーを着けている。
「あ、サヤも一緒だったんだ〜」
「私は、シルア殿は正直いない方が良かったな」
 サヤが嫌そうに言う。アイも頷く。……これ、絶体絶命って奴ですね。
 ここで、ヒーローでも来てくれれば良いんだけど……。
「人生って、厳しいな……」


12 :アクロス=レザストロ :2007/11/25(日) 00:03:03 ID:kmnktiYk

十章

「……サヤとアイよ、そいつを引き渡せ。そいつは、排除すべきだ」
 ミルが俺を忌々しそうに見ながら言う。やはり、俺が狙いらしい。
「断る」
 サヤは一言で答える。アイも頷く。
「ええ、あの二人に頼まれてますから」
 あの二人? 誰の事だか解らない。いや、解る訳ないか。ここは俺の居た世界とは違うのだから。
「そうか……だったら、一発で消してやる。ファル!」
「応!」
 ファルが、ロケットランチャーの照準を俺たちに合わせる。それを見たサヤとアイが俺の前に立つ。
「おい、お前等……」
「マモル殿、貴方を死なせる訳にはいきません」
「そう。だって……マモル様は私達の希望ですから」
「え……?」
 希望、だと? 『化身』の俺が何故そんな物に……。
「……サヤ、アイ。オレの能力を知っててやってるのか?」
 ファルが、理解出来ないといった表情で二人を見る。
「そちらこそ私とアイの能力を合わせた時の強さを知って言っているのか?」
 サヤが一目で強がりと解る笑みを浮かべた。
「……そうか。なら、死ね!!」
 ファルが引き金にかけている指に力を込めた。死を覚悟した瞬間───

 ───目の前に巨大な壁が出現した。

「!!」
 その場に居た全員が、驚きの表情になる。ロケットランチャーの弾は、壁によって止められた。
「くっ……なら私が!」
 シルアが大剣を構えて、こちらに突撃してくる。それに気付いたサヤがシルアを見た瞬間───

「おっと、そこまで」

 ───シルアの目の前に男が現れ、手に持っている剣で大剣を弾いた。
「あっ……!!」
 シルアの手から大剣が離れた。そして、現れた茶髪の男はシルアの喉元に剣を突きつける。
「チェックメイト……ってか?」
 俺の良く知っているクラスメートは、笑って言った。
「一刀!!」
「悪ぃ、遅れた」
 一刀は俺を一度見た後、サヤとアイを見る。
「よくやってくれた、二人とも」
「遅いです、カズト殿」
「本当遅いよ」
「遅い」
 何となく俺も遅いと言ってやる。実際、後少しで死にそうだったし。
「悪かったって。それより、周りの奴等を何とかするぞ。話をしないとな」
「了解、あの方も味方ならいけるでしょう」
 さあ、ここから反撃だ。俺が戦えるならカッコつけたのにな……。
「さっさと決めて、俺に説明してくれよ」


13 :アクロス=レザストロ :2007/12/02(日) 00:54:34 ID:kmnktixk

十一章

「アイ!」
「はい!」
 一刀の声と共に前に出るアイ。
「ナイフに命ずる! 『銃弾を撃ち落とせ』!」
 その言葉が発せられた瞬間、落ちていたナイフが三本浮き上がって金属音を響かせて銃弾を防いだ。
「へ……?」
 誰も触れていないのに、アイの言葉一つでナイフが意思があるかのように動いた。
 実際、そんな事が有り得る訳がない。けど、目の前で起きてしまった。この世界は何でも有りなのか?
「ミル、油断してるな」
 サヤは一瞬でミルとの間合いを詰める。そして刀を振り下ろす。
「ちっ……!」
 槍で防ぐミル。が、
「足元がお留守だぜ」
 いつの間にか寄っていた一刀に脚払いをされ、その場に倒れた。
「ミル! くっ……」
 ファルがロケットランチャーを構えた瞬間───

「紙よ、檻になりなさい!」

 ───どこからか、凛とした声が響いてきた。それと同時に、檻が降ってきてファルを閉じ込めた。
「なっ……!」
 ああ……非現実ってこんな親しい存在だったっけ……。この世界の有り得ないを誰か俺に教えてくれないか?
 だが、全員これで終わったようだ。皆、武器を下ろしている。
「まだ……まだだよ!」
 声のした方を見ると、シルアが大剣を拾って構えていた。
「はぁぁぁぁ!!」
 こっちに向かって走ってくる。が、誰も武器を構えない。
 次の瞬間に、シルアの足元に三本の矢が刺さった。
「!」
 思わずシルアが脚を止めた瞬間に、ナイフが投げられて大剣を弾いた。
 今度こそ、勝負は決まった。
「やあ守。久し振り」
 薫が弓を持って歩いてきた。
「薫、教えてくれ。俺と非現実ってこんな近い存在だったか!?」
「……そんなこと訊かれても……」
「非現実も、起きれば現実」
「そう、そう考えた方が気が楽だぜ」
 どんな風に楽なのかもう解らない。つーかもう無茶苦茶だ。


14 :アクロス=レザストロ :2007/12/09(日) 00:07:41 ID:kmnktiYe

十二章

 絶体絶命の状況から薫、一刀、そして謎のもう一人の助けによってそれをひっくり返した。
 ま、俺は何もしてないけど。どっちかって言うと、足を引っ張ってたな。
 サヤに助けてもらったり、庇いながら戦ってもらったり。俺が居なかったら少しは楽だっただろうな。
「で、この方ですの? カオル達の言う『救世主』という輩は」
「そうだよ。瀬内 守って言うんだ」
 その謎のもう一人は俺をじろじろ見ている。金の鎧を全身に纏い、茶髪のショートカット。
 たぶんお嬢様タイプだな。その金ばっかの鎧と喋り方からしてだけど。
「私の名はセグリーヌ・フォン・ホスピタルですわ。よろしく、マモル」
「ああ、よろしく」
 長い名前だな。せめてイリヤ○フィールみたいに略せる名前にしてくれよ。
 で、さっきまで俺達と対立してた奴等だが……。

「すみませんでした『救世主』様」

 俺の周りに跪いていた。一刀や薫が俺の事について皆に説明した途端、この態度だ。
 本当、『救世主』って何なんだよ。俺は連続バラバラ殺人事件の犯人、『ジャック・ザ・リッパーの化身』だっていうのに。
「そんな態度とらなくても……結果的に生きてるから良いよ」
「いえ、我等は自分達の主になる人に無礼を働いてしまったのだ。謝罪をしなければいけないのだ」
 そういう物かねぇ……と俺は頭を掻く。崇められるのは苦手だ。
「ま、いいか……。じゃ、名前を教えてくれないか?」
 エルフの女性……ミルが顔を上げる。
「私はミルード・ゼルレッチです。ミルと呼んで下さい」
「よろしく。それと、普通に喋ってくれ。崇められるのは苦手だ」
 さっきまでの喋り方の方がすっごい接しやすいからな。
 次に、色黒金髪の眼帯女性を見る。RPG−7を軽々と持っていたファラという女性だ。
「えっと、普通の喋り方で良いんだよな?」
「ああ。そっちの方がいい」
「オレはファル・エルードだ。よろしくな、マモル」
「おう、よろしく」
 次は大剣を持った全身ピンク色のタイツを着た左サイドテールの少女。
「私はシルア・ターリット。よろしくね、マモルお兄ちゃん」
「お兄ちゃんって……」
 春香を思い出すなぁ……。
「ヘルシアお姉ちゃんは?」
「そのうち来ると思いますよ。……あ」
 アイが指差す方向を見ると、シルアがいた。……じゃなくて! シルアとそっくりの人がいた。
「こんにちは。私はヘルシア・ターリット。シルアの姉です。えっと、貴方は……」
「瀬内 守だ。守と呼んでくれ」
「マモル、よろしく」
「ああ、お前の狙撃正確だったぜ」
「う……すみません……」
 こうして見ると皆そんな悪い奴じゃないようだ。こっちの世界で希望が生まれたな。


15 :アクロス=レザストロ :2007/12/15(土) 23:45:29 ID:kmnktixi

十三章

「こっちの世界では名前を先に言うのか?」
 俺は思ってた事を薫に訊いてみる。薫はすこし驚いた様な顔をする。
「……うん、そうだけど……。『こっちの世界』って事は別の世界だって確信を持ってるの?」
「どう考えても違うだろ。骸骨が現れたり、堂々と発砲したり。現実じゃ有り得ない筈の事ばかり起こるしさ」
 となると、俺はマモル・セウチになるのか。どうせマモルと呼ばれるんだろうな。
 そんな下らない事を考えていると、薫がじっとこちらを見ている事に気付いた。いや、薫だけで無く、ヘルシアや一刀なども俺を見ていた。
「……? どうしたんだよ。俺の顔に何かついてるか?」
「目と鼻と口が」
「カズト、そういう意味じゃない」
「わかってるって」
 ミルに注意される一刀。ベタな答えだなぁ……。
「いや、普通異世界に来たって解ったらパニックになるものなんだけど……」
「マモルには、全然それが無い」
 あ、そうか。そういや俺、異世界に来たんだっけ。忘れてた。
「別に……どうでもいいしな」
「は……?」
 全員が驚いた様な顔をする。俺にはそれが解らず、困惑する。
「どうしたんだよ皆、そんな驚いた顔をして」
「逆に、何で皆が驚いたか解らない守が凄いよ……」
 苦笑いで薫が言う。勿論、俺は意味が解らない。
「マモル、お前は自分の世界から突然こんな危険な場所に飛ばされてそれをどうでもいいって言ったんだぜ?」
「それって現実をすぐ受け入れたって事で、並の人じゃ出来ない事なんだよ」
 ファルとシルアに言われたが、何がおかしいのかは解らない。
「無駄だよ、皆。守はその辺の感覚が皆とズレてるから」
「お前な……俺はズレてないと思うぞ」
「ズレてるよ」
「ズレてるぜ」
「ズレてる」
「ズレてますね」
「ズレているな」
「ズレてるぞ」
「ズレてるー」
「ズレてます」
「ズレてますわね」
 ……皆に全否定された。何気に皆酷い。


16 :アクロス=レザストロ :2007/12/23(日) 00:34:46 ID:kmnktixe

十四章

「では、私達は先に帰っていますわ」
「任務を終えたらすぐに帰還するよう言われてましたし」
 セグリーヌとミルが言った瞬間、床に魔方陣が浮かんだ。
「……これって、俺が『こっちの世界』に来た時の……!」
「移動式の魔方陣だよ。正確に言うと、守が巻き込まれたのとは違うんだ」
 一体、何が違うのか。それを訊こうと思い、薫を見る。
「すっごい簡単な違いだけど、これは他の世界に行ける程の力は無いんだ。他の世界に行ける程強い力を持ってる魔方陣は自然現象でしか発生しないんだよ」
 すっごい簡単な説明ありがとうございます。
「それで、あの魔方陣は事前に俺達が作った本部までに通じてる奴だ」
 一刀が追加説明する。……となると、俺は自然現象に巻き込まれたのか。
 地震、雷、津波とかより命を失わない分マシだと考えるべきだな。
「で、俺もあれに乗るのか?」
「いや、違う」
「まずマモルは私達の本部の場所を知ってもらわないとね」
 そういやそうか。ワープして直接本部とやらに着いたら外に出たときの位置関係が解らなくなるしな。
「ま、俺や薫、それにターリット姉妹が護衛してやるから泥舟に乗った気分でいろ」
「泥舟じゃなくて、大船ね。泥舟じゃいつ沈むか解らなくて不安だよ」
「間違いなく沈むのは確定だしね」
 確かに、泥の船なんてめっちゃ乗る気になれねぇなぁ。
「う……うっせぇ。そんなの知らなくても生きていけんだよ!」
「この前のテスト、確か一刀はオール一桁の赤点だったよな」
「えっ……あの平均が全部七十点超えてる簡単なテストで?」
 あれは本当、驚いた。いつも二十点とか取ってる奴でも五十点超えたのに一刀だけオール赤点だったからな。
「カズト……酷いとは訊いてましたけど、そこまでとは……」
「学年最下位を一刀、キープしてるしな」
 ちなみに、俺と薫は学年二十位以内をキープしてる。遅刻魔と呼ばれてても出来る物は出来るのだ。
「……あーもう! いいからさっさと行くぞ!」
 そう言って一刀はさっさと歩き始める。
「あ、まってよカズト〜!」
 シルアがそれを追いかけて行った。イジメすぎたか?


17 :アクロス=レザストロ :2007/12/29(土) 23:55:17 ID:kmnktixn

十五章

 こいつ等の本部へ向かう事になって三十分は歩いた所で、俺たちは休憩をする事になった。
「それにしても、お前等凄いよな」
「ん? 何が?」
 思わず俺が漏らした言葉に薫が不思議そうにする。
「いや、だって……骸骨をいとも簡単に……」
 ここまで来る最中に大量の骸骨に襲われたが、こいつ等は武器を使わないで数秒で一蹴したのだ。
 いくら弱いと言っても、あそこまで簡単にやられると俺のプライドが……。
「ああ、そんな事?」
「……そんなって、おい」
「あれでも僕達は四分の一の力も出してないからね。あれは強さを十段階で表すと零だから」
 それって、存在すらしてねぇじゃん。石コロ以下のレベルか?
「ははは、守。零って言ったでしょ?」
「……存在すら無いって意味かよ」
 悲しくなってくるっつーの。
「……ってなると、俺は?」
「弐……かな」
 良かった、壱じゃなくて……。
「四捨五入でね」
「うわ、俺ってまさかしょぼい?」
「1.5だから……ちょっと低いかな」
 四捨五入でも俺はかなりギリギリだったし! つーか……。
「ほとんど壱じゃねぇか!」
「そんな物だから気にしない方がいいよ」
 薫がそう言って立ち上がった瞬間───

 ───世界が、一変した。

「!!」
 辺りを見ると、鏡ばかりだった。鏡が、世界全体に敷き詰められている様な、そんな世界。
「これは……!!」
「あらあら、貴方達無用心ねぇ……」
 前方から声が聞こえて、急いで見る。そこには、黒のローブを着て仮面を着けている人がいた。
「あいつは……」
「あら、新顔もいるみたいね。私はダリア。よろしくねぇ」
 そう言ってダリアは俺に微笑みかけた───のだろう。仮面をつけているから、ただの想像にすぎないが。
「おいダリア! このフィールドって事はアイツもいるんだろ!」
 一刀が剣を構えて叫ぶ。
「うるさいな……叫ぶな、馬鹿が」
 イラついた声がダリアの背後から聞こえた。そして、少年が現れた。
 金髪に紺色のブレザー……何処かの学生だろうか? 恐らく、中学生ぐらいだと思われる。
「アイツはルード。生意気なガキだ」
 一刀が説明する。
「───そして、結界使いだ」
 結界? その意味が解らなかった。ルードが、両腕を広げた。
「さぁ、僕の結界に来たからには歓迎するよ『ラージアス』!」


18 :アクロス=レザストロ :2008/01/06(日) 00:47:20 ID:kmnktiYJ

十六章

「この世界では、能力という物が存在するんだ。どんな人間でもこの世界に来れば一つの能力が与えられる。これに例外は無いんだ。それに、生きてる人間で能力が同じになる事は無い。唯一の例外があのターリット姉妹。双子で同じ能力なんだ。それで……」
「薫! そっち行ったぞ!」
 一刀の声と共にレーザーが飛んで来た。薫は右腕を前に出す。すると、右腕が刃に変化し、レーザーを防いだ。
「それで、僕の能力は今見た通り。体を変化させられるんだ」
「……解説どうも。ってかお前も戦えよ」
 もう既に戦いは始まっていた。だが薫は俺が能力の事を訊くと止まって話してくれた。
 余裕を見せすぎだろう。一応ここは相手の結界内なんで……もうちょい気を引き締めて欲しい。
「……解説頼んだのは守じゃん……」
「俺の所為かよ!」
「冗談だよ。じゃ、守はここで待っててね」
 そう言って鏡に反射されているレーザーをかわしながら薫は戦場へ向かっていった。
「……あれ? レーザーが反射されてこっちに来たらどうすんだ?」
 ルードが作った結界は鏡が大量に敷き詰められている。鏡が敷き詰められて天井や、柱も出来ている。
 ───つまり、どこに反射されるか解らない……って事で……。
「いや、俺にはかわせませんよ!?」
 思わず叫ぶ。一般人にかわせる訳がない。
「あら? 貴方はまだここに来たばかりなの?」
 背後から声がして、振り返る。そこには、全身を黒のローブで隠している女性───ダリアがいた。
「うおっ!! あんたか!!」
 敵が背後にいて焦った。声をかけられなければ気付かなかったぞ……。
「つーか、あんた一刀達と戦ってたんじゃ……」
「あ、レーザー大量に撃っといたから大丈夫よ」
 そうか、そりゃ良かった……って全然良くない!
 ダリアと二人きりという事は、この人を俺が何とかしなければいけないんだ。
 俺は、腰を落として鉈を構える。いつでも反応出来る様に。
「ふふ……可愛いわね。勝てる訳ないのに」
 確かに、ダリアの言う通りだ。すぐ後ろに居ても気づかなかったしな。
 ダリアは長さ八十センチ程のロッドを構える。
「うおおおお!!」
 俺は身を屈めてダリアに突進する。狙うは、頭。一撃で頭を割り、命を絶つ。
 この一撃が当たらなければ、俺は負ける。全体的に奴の方が数段上だ。
 少しでもまともに戦えば俺は数秒で負ける。だから、一発頼みなんだが……。
「ご苦労様」
 俺は、思い上がっていたみたいだ。奴に、ダリアに一撃でも食らわせられる訳がない。
 奴と俺は───あまりにも積んできた経験が違いすぎる。
 俺の鉈はロッドにより吹き飛ばされ、鏡の床に落ちる。
「それじゃ、さよならね」
 ダリアはロッドを俺に向ける。ロッドの先から、レーザーが放たれた。
 狂いも無くレーザーは俺の胸を貫いた……。


19 :アクロス=レザストロ :2008/01/12(土) 23:46:53 ID:kmnktiYJ

十七章

「守っ!!」
 遠くから俺を呼ぶ声が聞こえる。
 皆……悪いけど、俺はここで戦線離脱みたいだ。
「!!……そ、そんな!?」
 驚きは誰の物だろう。そんな事は俺には解らない。
 何故ならここで俺は死───

「……あれ?」

 ───ぬ筈だったのだが、痛みや死んだという感覚が来ない。
 胸に手を当てるが、何も傷はない。そんな馬鹿な……。確かに、レーザーは俺の体を貫いた筈だ。
「そ、そんな! 有り得ないわ!」
 ダリアは信じられないといった表情で俺を見ている。……何が起きた?
 ダリアはもう一度ロッドを俺に向け、レーザーを放つ。再びそれは俺の胸を貫いた───

 ───が、その瞬間にレーザーは消滅した。

「え?」
 今度は俺が疑問を持つ。確かに、俺に直撃した。けど、その瞬間に消滅した。
 何故こんな現象が起きる? 冷静に考えろ、俺。考えようとした瞬間、答えが思わぬ場所からやって来た。
「そんな……能力を無効化する能力だなんて……」
 ダリアの口から、そんな言葉が漏れる。
「くっ!!」
 もう一度ダリアはレーザーを放つ。が、右手を突き出すと触れた瞬間レーザーは消えた。
 ……成程。こりゃ便利な能力だ。
「マモル! 大丈夫!?」
「ああ、全然余裕」
 ヘルシアとシルアが俺の近くに来て武器を構える。ダリアが咄嗟に二人にレーザーを放つが、どっちも俺の手に防がれる。
「…………」
「えっ!?」
「すごーい! マモルお兄ちゃん!」
 二人とも俺の能力に驚いている。結構珍しいのかなぁ……?
 俺は口元に笑みを浮かべ、床に落ちていた鉈を拾って構える。
「形勢逆転だぜ、ダリア!」


20 :アクロス=レザストロ :2008/01/20(日) 00:10:07 ID:kmnktixc

十八章

「守、どうして生きて……」
 遅れて駆けつけてきた薫は驚いている。レーザーに一般人の俺が直撃したから死んだと思うのは当然だろう。
 実際、俺の能力がこれじゃなかったら俺は死んでたと思うし。
「俺の能力のおかげだよ。それより、一刀は?」
「ルードと戦ってる。一刀は一人の方が戦い易いからね」
 となると、俺等はこっちに集中出来る訳だ。
「ダリア、貴方に勝ちは無い。武器を捨てて投降しなさい!」
 ヘルシアがハンドガンを構えて言う。お決まりの台詞だ。敵は決まって……。
「わかったわ」
「投降すんのかよっ!」
 潔すぎてついツッコミを入れちまったぞ! ここは「そんな事する訳ない」とか言うだろ、普通!
「守、こういう事は日常茶飯事なんだよ」
「そうなのかっ!?」
「うん、捕まってもこっちの生活でくつろいでいられるからね」
「こいつらは敵なのに何故くつろいでんだ!?」
「だって、貴方達の基地面白いんだもの」
 本当にこっちの基地知ってるみたいだし。
「一応訊くけど、こっちの基地来るの何回目?」
「えっと……二十回目?」
「捕まりすぎだろアンタ!」
「それに、たまに遊びに来るよね」
「お前等は敵っていう自覚あんのかー!!」



 守達が騒いでいる間に、一刀はルードに苦戦していた。
「ちっ、本当に面倒な能力だ……」
 その瞬間、鏡が一刀の頭を目掛けて飛んで来た。が、右腕に突然現れた剣でそれを一刀両断する。
「出て来いルード!」
「嫌だね、君の能力相手に出て行ったらいくら僕でも瞬殺されるかもしれないからね」
「今度ジュース奢るぞ!」
「君は馬鹿か!? そんなものに引っ掛かる馬鹿がどこに……」
「そこだぁー!!」
 一刀は、剣を思い切り投げる。
「くっ!!」
 ルードは姿を現し、剣を回避する。
「何故わかった!」
「ジュース奢るって言った時に一瞬見えた」
「くっ、君程度の作戦に引っ掛かるなんて……」
「カズト!」
 ヘルシアが一刀に駆け寄る。そして、何かを伝えた。
「……そうか。ルード、ダリアは投降したってよ」
「ダリア、投降するの早すぎるだろう!!」
「まぁ、あいつだからしょうがないだろ」


21 :アクロス=レザストロ :2008/01/26(土) 23:24:24 ID:kmnktixF

十九章

「で、どういう経緯で君達とその……」
「瀬内 守だ。こっちの世界ならマモル=セウチというべきか」
「そのマモルとはどうやって知りあったんだい? 見たところ、この世界の人間とは思えないけど」
 結局あの後はルードも投降し、二人を連れてヘルシア達の基地へと向かっていた。
 別に縄で縛ってるとかではない。普通に一緒に歩いているのだ。まるで、敵が逃げ出さないと信じてるかのように。
 異常だぜ、この世界……。俺だったら敵は全員排除するのに。
「守とは別世界の学校でのクラスメイトでね」
 そして薫は話した。俺が謎の銀髪の男に襲われた事。そしてそこに薫と一刀が現れて俺を助けてくれた事。
 そして───魔方陣によってこちらの世界へ飛ばされた事を。
「……成程。マモルはこちらの世界の住人じゃないのか……」
 ルードはそう言って首を捻る。何か納得できない事があるのだろうか?
「どうしたのぉ? ルードちゃん」
 そう訊いたのはダリアだ。……ルードちゃんって……。
「その呼び方はやめろ! あの世界での知り合いだったら、おかしいと思ったんだ」
「何が? ルードちゃん」
 薫もルードちゃんと言い始める。
「だからやめろ! あの世界の人間の割には、マモルは命の奪い合いになれてるんだなと思った。あそこは、殺し合いなど一般にはやらないだろう?」
 その言葉に、俺以外が驚いた様な表情を浮かべる。……そういや、そうだったな。
「確かにルードちゃんの言う通りだな。何故だ? 守」
 だからやめろ!、とルードの声が聞こえたが、俺はそれをスルーした。そして答える。

「だって俺、『ジャック・ザ・リッパーの化身』だし」

 次の瞬間、全員が硬直した。
「あれ? どうした、皆」
「一刀、何故言わなかった!」
「知るか! 俺だって今聞いたんだ!」
 ルードと一刀が何やら言い合っている。
「ねぇ、カオル……何故教えてくれなかったの?」
「この事実は僕もどういう事なのか訊きたいね」
「お姉ちゃん、知ってた?」
「……いや、私も何も……」
 俺が『化身』だと聞いて驚いているのか? 訳がわからん……。


22 :アクロス=レザストロ :2008/02/02(土) 22:41:23 ID:kmnktixm

二十章

「なぁ、皆。どうしてそんな驚いてんだ?」
 訳がわからない俺は、とりあえず訊いてみる。
「…………」
 薫は少し悩んで、何かを決意したかの様に俺を見る。
「……守本人の事だから、知っておいてもらうよ」
 何だ? 俺が『救世主』と呼ばれるのと関係があるのか?
「守、君は自分が最初に何て呼ばれてたか覚えてるよね?」
「ああ、『救世主』だろ?」
 余りにも自分とはかけ離れてるイメージだから覚えやすかった。
「そうだね。実は、『救世主』にはライバルが現れるんだけど……」
「ま、ヒーローにはライバルとか悪役はつきものだしな」
「実は……それの別名が───」
 薫は一回切り、そして続けた。

「───『ジャック・ザ・リッパーの化身』」

「は……?」
 俺は最初、その言葉の意味が理解出来なかった。だって、そうだろ?
 『救世主』と呼ばれている人間が、悪役の別名を持っている。意味が解らねぇ。
「ボスが早めに確保しろと言った意味がようやく解った。こんなのは特例だよ。『救世主』とそのライバルが同一人物なんて……」
「……なぁ、意味が解らないんだが」
「つまりマモル、君はコインの表にも裏にもなれるって事だ」
 俺の言葉に反応してくれたのはルードだ。
「だけど、普通そんな人間はいない。だから君は特例なんだ」
「つまり、俺は『救いの神』になれるが『破滅の使者』にもなれるって事か?」
「そんな感じかな。まぁ、僕らとしては『救いの神』であって欲しいけどね」
「?」
 ルードの言葉に疑問を感じ、首を傾げる。
「あれ? お前等はこいつ等と敵対してるんじゃ……」
「そうだよ。でも、基本的な思想は同じだ。だからこんな仲良くしてるんじゃないか」
 言われてみりゃそうだな。
「ちょっと待て。じゃあ、『破滅の使者』を必要としてる所はあるのか?」
「あるよ。この世界に来る前、それに襲われたんだろう?」
 この世界に来る前? となると、奴か!
「あの銀髪の奴か……!」
「そうだ。奴はガイ・ルムス。『親衛隊』の隊長だ」
 ガイっていうのか、あいつ……。ん、『親衛隊』?
「そういやミルも言ってたな。で、『親衛隊』とやらは何を守ってるんだ?」
 ルードは考える素振りを見せたが、すぐに答えた。
「そうだな……この世界の『神』というべきか」
「…………は?」


23 :アクロス=レザストロ :2008/02/10(日) 00:25:08 ID:kmnktixD

二十一章

「……ちょ、ちょっと待て。神なんている訳ねぇだろ」
「どうしてそう言いきれるんだい? ここは君が居た世界じゃ無い。そしてこの世界では『有り得ない』事など存在しないんだ」
 ルードは、嘘を言ってる様には見えない。───つまり、この世界には……。
「本当に神が存在するってのか……?」
 普通に考えてそんな物、存在する訳ない。だが、その感覚は俺が居た世界の物だ。
 もし、ルードの言う通り俺の居た世界と違ってこの世界に『有り得ない』が存在しないとしたら……十分にいる可能性はある。
「なぁ、どうして神を守る必要があるんだ? 神ってのは絶対の存在で、殺せる物じゃねぇ筈だ」
「マモル、聞いてなかったのか? この世界に───」
「───『有り得ない』は存在しない……か」
「そうだよ。だから『神』だって殺せるんだ」
 そりゃまた大層な世界だなぁ……。でも、俺には引っ掛かる事がある。
「神を守るって事は、殺そうとする人間がいるんだろ? この世界の神ってのは酷い奴なのか?」
「いや、むしろ『神』のおかげでこの世界は裕福になってる」
 何だ、それだったら別にどうでもいいじゃねぇか。
「幸せならいいじゃねぇか。どうしてわざわざ……」
「だからぁ、それが嫌なのよ」
 そう言って話に入ってきたのはダリアだ。
「どうして嫌なんだよ。幸せなら何でもいいだろ」
「……マモルちゃん、想像してみて。不安も、絶望も、辛い事も無い生きている実感の無い世界を」
 言われて、想像してみる。……確かに少し気持ち悪いかもしれない。
「……でも、俺はそれでも構わない」
「……マモル、本気か?」
 ルードは呆れた様な表情で俺を見る。
「……ああ。どんな形であれ、それが『幸せ』ならな。それに……」
 もし俺、いや俺達が『幸せ』だったのなら、『ジャック・ザ・リッパーの化身』になる必要も無かったんだし……。
「それに?」
「……何でもない」
 一瞬、昔の事を思い出したが、すぐに頭から消し去る。
「……けど、お前等がその神が気に入らないっていうのなら、手伝ってやるよ」
「……本当か?」
「ああ。仲間の目的の為だしな」
 これで、この世界の俺の目的は決定した。『神』を倒し、生きてる実感のある世界を取り戻す。
 何か……でかい目標だけどどうにかなるだろ。


24 :アクロス=レザストロ :2008/02/16(土) 23:38:48 ID:kmnktixD

二十二章

「……ここが私達『ラージアス』の基地がある街『ファーデレスト』よ」
「略して『ファースト』、一番目の街って事か?」
「マモルお兄ちゃん、何でそんなすぐにわかるの……?」
「あ、適当に言ったんだけど。違ったら野球のポジションを言おうと思ったんだが」
 全体的に活気のある街だった。皆から笑顔が絶えない、いい街だ。
 でも、何処か引っ掛かる事があった。
「なぁ、人が少なくないか?」
 そうだ、結構大きな街なのにその割には人が少ない。
「……この街は、『特別』だからな」
「一刀?」
 俺は一刀の方を向く。
「ルードとかから聞いただろ? この世界の『神』に不満を持ってる奴なんてほとんどいないって……」
「……まさか、この街の人々は……」
 一刀の言いたい事がわかった。
「そうだ。この街は俺達の同志……『神』に不満を持った奴が集まった街なんだ」
 俺は驚くしかない。まさか、ここまで神に不満を持った奴が少ないなんて……。
「行くよ。基地へ案内するわ」
 ヘルシアが歩き出す。俺もすぐ後ろに続いて歩く。
 すると、街の人々が俺達に注目し始めた。そして子供が俺達を見て声を上げる。
「あ、『不死鳥』のターリット姉妹だ!」
 呼ばれたターリット姉妹は少年を見て、笑顔を返す。
「『複製者』のカズト様に、『変形者』のカオル様もいる!」
 一刀と薫は、子供に手を振る。
「『謎の仮面』のダリアさんに、『結界王』のルードさんもいるよ!」
 ダリアは───表情は見えないが多分笑顔で───子供達に手を振る。
 ルードは恥ずかしがってるのかそっぽを向いたままだ。
 『不死鳥』『複製者』『変形者』に『謎の仮面』と『結界王』ねぇ。
 この世界に二つ名は必要なのかな? 多分この二つ名は能力に関係あるんだと思うけど……。
「……後一人は……」
 お? 何か俺もあるのか?
「最近『ラージアス』の方が話していた『救世主』様だよ、きっと!」
 あ、俺の二つ名は『救世主』で確定ですか。
「その通り! この人は『救世主』のマモル・セウチ様だよ〜!」
 
 ───それから数十分、街の人々に色々と貰いまくるハメになった。


25 :アクロス=レザストロ :2008/02/23(土) 23:19:04 ID:kmnktixD

二十三章

「皆、お帰り。……ってどうしたのマモル、そんな荷物持って」
 『ラージアス』の本部で出迎えてくれたのはミルだった。
「いや、街でシルアが俺の事『救世主』って叫んだらこんなに物をもらったんだが」
「う〜、ごめんなさぁい……」
 今、俺は両手に大量の袋を持っている。その中身は主に食料だ。
「少し持ちますよ」
「ああ、悪いな」
 袋を二つ程手渡す。
「大丈夫でしたか? 襲われたりしませんでした?」
「襲われたし、死に掛けたな」
「ええっ!!」
 ミルはヘルシア達の方を見る。
「貴方達が守護してて、何故マモルが死にそうになったんですか!」
「ごめん、ミル。足止めしてた筈が、逆に足止めされてダリアに……」
「ごめんなさいねぇ〜」
 ヘルシアが事情説明し、ダリアが多分笑顔で謝罪している。
「……あれ? 貴方も一緒だったんですか?」
「ルードちゃんも一緒よぉ〜」
「ちゃんはやめろ。……ミル、悪いがまた世話になる」
「……別に構わないけど……」
 あ、そこは構わないって言っちゃいますか。やっぱこれが普通なのか。
「マモル、怪我はしてませんよね?」
「ああ、レーザー直撃したけどな」
「……え?」
 ミルが急いで俺の服を脱がせようとする。俺はそれを止めた。
「離してください! 怪我してるかもしれないじゃないですか!」
「落ち着け! まず、女が男の服をいきなり脱がすのはおかしいだろ……ってそうじゃなくて、せめて脱がして治療するなら屋内に!」
「そんなのんびりしてられません!」
「つか俺には治療は必要ない! 無効化したんだから!」
 その言葉でようやく、ミルは止まってくれた。だが、
「いえ、ヘルシアに撃たれた傷があります!」
 とズボンを脱がせようとする。
「もっと落ち着けぇ!! こっちは薫とかにやってもらったから!」
「いえ、包帯は替えた方がいいです」
「それはそうかもしれないけど……だからやめぃ!」
 そんな俺とミルを見てる奴等は微笑んでいる。
「笑ってねぇで助けろ! だからミルやめろ! 俺は男!」

 俺が解放されたのは一時間に及ぶ俺の必死な説得の後だった。


26 :アクロス=レザストロ :2008/03/01(土) 23:58:01 ID:kmnktixD

二十四章

「で、ミル。出来れば今後はあのような事は避けてくれると嬉しい」
「……はい、わかりました……」
 口では了解してるが、めっちゃ不満そうなミル。……さて、どうしようか。
「……その代わりと言っちゃなんだが……お前の言う事を一つだけ聞くよ」
 納得してもらえそうな条件を提示してみる。すると、ミルは笑顔になった。
 そして、言った言葉は……。
「今日の夜の相手をして下さい!」
「却下だボケェ!」
 即効でもちろん否定。肯定してたらヤバイ事になりそうだった……。
「……何でも言う事聞くって言ったじゃないですかぁ……」
「そういうのは無しだ」
「あ、マモル。帰ってきたんだ」
 声が聞こえ、そちらを見るとアイとサヤが立っていた。
「……マモル、お帰りなさい」
「いらっしゃいの方が正しいんじゃないか?」
「……マモル、いらっしゃい」
「おう。これからしばらくよろしくな」
 サヤに笑顔で言う。サヤも微笑む。
「……じゃ、私……訓練あるから」
「うん、頑張ってね」
 アイに見送られ、サヤは歩いていった。
「……それじゃマモル、部屋に案内します」
「うん、お願いする……って、部屋なんてあるのか!?」
「はい。たくさん余ってますから、遠慮しなくていいですよ」
 さも当然かの様にアイは答える。広すぎじゃないかこの基地……。
「あ、少し持ちましょうか?」
「お願いするよ」
 袋を一つ手渡す。渡されたアイは少し考え、そして俺を見た。
「あの……この食材、私に任せてもらっていいですか?」
「え? 何で?」
「マモルの歓迎会で豪華料理を作ろうと思って……いい、ですか?」
 そういう事か。なら、断る必要は無い。
「ああ、頼むよ」
「はい! 私、気に入って頂ける料理を作れるように頑張ります!」
 アイはとても嬉しそうだ。俺が断らないか不安だったのだろう。……つーか、断る奴いるのか?
「じゃあ、私も手伝いますね!」
「「「「「「「え?」」」」」」」
 ミルの言葉に、俺以外が嫌な顔をする。……どうしたんだ?
「い……いや、ミルに手伝ってもらうのは悪いよ……」
 アイが苦笑いで答える。……うん、何か予想がつく。
「そ、そうそう。ミルちゃんには他の仕事があるでしょ?」
 あのダリアすらも焦った様な感じでミルに手伝わせない様に答える。
「仕事は終わってます。だから、手伝いますよ!」
「……ミ、ミル。守の説教一時間も聞いたんだから疲れただろ?」
「……あれは説教じゃねぇ。説得だ」
「どっちだっていいんだよ! だから休んでいいぞ」
「いえ、マモルの話は聞いてて疲れませんでした。だから、手伝いますよ!」
 ……どうしても手伝う気らしい。俺が薫とルードの方を見ると、もう諦めた様な表情をしていた。
「……なぁ、一応訊いとくけど……ミルって料理ヤバイ?」
 ミルには聞こえない様に、薫とルードに訊く。
「あれは、ヤバイなんて物じゃないよ……」
「……トラウマだ……」
 ……相当ヤバイみたいだな。俺、まだ地獄に行きたくないが。
「……ミル、俺さぁここの地形とかわからないからさ、部屋にいった後色んな所案内してくれないか?」
「あ、はい。じゃあ、料理は手伝えませんね……残念です」

 ───その瞬間、皆が嬉しそうな表情をしたのは言うまでもない。


27 :アクロス=レザストロ :2008/03/09(日) 00:26:15 ID:kmnktixF

二十五章

「あら、マモル。帰っていましたの?」
 部屋に荷物等置いた後、俺とミル以外は俺の歓迎会とやらの手伝いへ行った。
 俺達も街等を案内してもらう為に街へ出ようとしていた時だった。
 ───セグリーヌと出会ったのは。
「えっと、セグリーヌ?」
「はい、何ですの?」
「お前って、相当のお嬢様か?」
 前々……と言うより、初めて会った時から気になっていた事を訊いてみた。
「一応、名門の生まれですが……それがどうかしたんですの?」
「やっぱりか……道理で……」
「?」
「目立つ服装してると思った」
 今セグリーヌが着ているのはチャイナドレスだった。テレビとかで見た事はあるが、実際に着てる奴は初めて見た。
「女性たる者、美に気を使うのは当然でしょう?」
「そういう物なのか?」
 俺は女の心情が良く解らないので、隣のミルに訊いてみる。
「そういう物です。特に、好きな人に綺麗だと思われたいですし」
「へぇ〜」
「……へぇ〜、ってマモルには……その、好きな人いないんですか……?」
「ああ。そんな事考える暇なかったしな……」
 束縛からの『解放』、それを望んだのが『化身』としての犯行を始めるきっかけになった。
 そんな事ばっかり考えてたら、恋だの青春だの楽しむ余裕が無くなっていた。
「……マモル……」
「……俺は『化身』だからな。楽しむ資格が無いんだよ」
 俺の生きる理由は、春香を守る……それだけで十分だ。楽しみなんて必要ねぇ。
「それは本気で仰っていますの?」
 セグリーヌの少し、怒りを含んだ声。
「……本気だと言ったら?」
 それには臆す事も無く、寧ろ馬鹿にしたように笑って答える。
「……わかりましたわ……」
 そう言ってセグリーヌは右手の人差し指を俺に突きつける。
「ならば、徹底的に楽しませてやりますわよ! 貴方がこっちの世界にいる限り!」
「へ?」
 いきなり言われ、俺は目を丸くする。
「貴方に戦闘を申し込みましょう! 戦闘の楽しみとやらを教えてさしあげますわー!!」
「……えっと、その……」
 ……しまった。挑発まがいの事しなきゃ良かった……。
 ミルに助けを求めるが、首を振られた。無駄だと悟っているらしい。
「ちょ……誰か助けてくれー!!」


28 :アクロス=レザストロ :2008/03/15(土) 23:05:05 ID:kmnktixF

二十六章

「……どうした? 終わりか?」
 ───しばらく戦闘をして、俺が言った言葉だった。
 俺の周りには、紙が大量に落ちている。セグリーヌの攻撃を全て無効化にした結果だ。
「……紙よ! 槍になりなさい!」
 セグリーヌの手にあった紙───札のような形をした物───が槍に変化する。
 それを、俺に向かって投げてくる。俺は、まったくかわそうとしない。
 かわす必要が無いからだ。右手で槍を受け止めると、槍は紙に戻る。
「お前がそれで戦う限り、俺には勝てないぜ。俺の能力とお前の能力、相性良すぎだし」
 セグリーヌの武器は、紙を変化させて作る。それは能力による物……だから俺の能力で簡単に打ち消せる。
 セグリーヌがいくら攻撃しようが、俺相手には全く通用しない。あいつ自身が自分で突撃して来ない限り。
 だが、セグリーヌは見た所能力を使わない戦い方は全然出来ない……。
 何故そう思うか。それは、俺に通用しないと解ってて同じ攻撃を続けたからだ。
「……紙よ! ナイフになりなさい!」
 今度はナイフを持ち、俺に突進してくる。俺はひらりとかわし、セグリーヌがこちらを向くと同時に鉈を首に突きつける。
「……チェックメイトだな」
「うっ……!」
 能力が通用しないなら、こいつは骸骨よりも弱いかもしれん。
 一刀とか薫に能力使わない戦いをセグリーヌに教えてやるように頼むか……。
「しかし……お前、能力に頼りすぎじゃないか?」
 そう言って、足元の大量の紙を見る。
「う……うるさいですわよ! それで上がって来れたんですもの!」
「……お前、両親とかに何か言われないのか?」
「言われますわよ。勝つ毎に『良くやった』とか『自慢の娘だ』とか……」
「……すまん。訊いた俺が馬鹿だった」
 相当重症だなぁこいつ。このままだと、命落とすぜ……。
「私は負けた事なんて無いんですわよ! それなのに……今日……」
「……負けた事が無い?」
「ええそうですわよ! 私は優秀でしたから!」
「……滑稽だな」
「え……?」
 セグリーヌが驚いて俺を見る。
「……今、何て仰いました……?」
「負けた事が無いなんて滑稽だなって言ったんだよ」
「……どういう意味ですの!」
「負けた事が、いつか大きな財産になる。それなのに、負けた事が無いなんて滑稽以外言う事が無いね」
「なっ……!」
「最後に言っとく。能力以外の戦闘を怠けているのを、自分自身に見られている事を恥じるといい」
「!!」
 そう言って、俺は鉈を持ってミルの方へ歩いていく。
「さ、街を案内してくれるかミル」
「……は、はい……。時間が無いので、少ししか回れませんが……」
「構わない。行こう」
 俺とミルは歩いていく。セグリーヌをその場に残して……。


29 :アクロス=レザストロ :2008/03/22(土) 23:30:03 ID:kmnktixF

二十七章

「……救世主って、実感無いけど何か凄いな……」
 俺は街に出て思わず呟いた。街の人全員が俺の方をみている。
「マモル、皆に挨拶を」
「え……マジか?」
「はい」
 ミルが超笑顔で言ってきた。言う事訊いてやるって約束破ったからって……。
「……ど〜も、救世主のマモル・セウチだ。この世界を縛ってるっていう神だか何だか知らねぇが、そいつを倒す為に俺はここへ来た。必ず倒すとは約束できないが、お前達の期待に答えられるように頑張るつもりだ。頼りないとは思うが、お前達……俺を信じてくれるか?」
 訪れるのは数秒の沈黙。当然だな……そう思い、だが少し残念な気もしていた。その時だった。

『オオオオオオォォォォォォォ!!!!』

 人々の叫び声。そして、拍手の雨が降る。
「当然だぜ『救世主』様!」
「一生ついてくぜ!!」
「信じますわ!」
 それには驚く事しか出来ず、隣にいたミルを見る。
「……凄いですね、マモルは」
 ミルはそう言って微笑む。
「一瞬にして、皆の心を掴んでしまった。やはり、貴方は私たちの希望です」
「あのな……俺、自信無いし、頼りないとも言ったぜ?」
「だから、それが良かったんです。力があるからって威張ろうとしない。その心が」
「……だからって……しかも俺は」
 『化身』だ、そう言おうとして俺は口を押さえる。そういえば皆に『街の人には『化身』だと言う事は話すな』と言われたのだ。
 余計な混乱を防ぐ為らしい。まぁ救世主であり破滅の使者だしな……。
「それに、私たちも信じてますから。それに答えてくださいね?」
「……ま、それなりに頑張るさ」
 そう言って、周りを見渡した瞬間───

 ───白の少女が、いた。

「!!」
 ここに来る前に見た、俺以外で化身の犯行をしていた少女。
 その少女は俺の視線に気付いたのか、俺を見て会釈する。そして歩いていく。
 俺は考える事などせず、その少女を追って走っていた。


30 :アクロス=レザストロ :2008/03/29(土) 23:01:19 ID:kmnktixF

二十八章

「……はぁ……はぁ……」
 白の少女を追って行き着いた場所は街外れの丘だった。
「初めまして……じゃなくて、また会ったね」
 一本の木の下で少女が微笑んでいた。
「何で追いかけて来たのかな?」
「訊きたい事があってな……」
 そう言って、少女の隣まで行く。
「ねぇ、見て」
 少女が俺の後ろを指差す。振り向くとそこには───
「うおっ……」


 ───街が一望できる絶景だった。

「ここ、私のお気に入りなんだ」
 少女はそう言って腰を下ろす。俺もその隣に腰を下ろした。
「……余り人来なくて、静かなの」
「……そりゃ勿体ない。こんないい場所なのに」
 俺が住んでた都会にはこんないい場所が無いから正直羨ましい。
「人が多いのは苦手なのか?」
「そういう訳じゃないんだけど……こんな姿だと、凄く注目されそうで」
 まぁ、全身白だし。多分、天使だって勘違いするんじゃねぇか?
「……でも、何でさっきはあそこにいたんだ?」
「全員が貴方に注目してたから……」
 あ、お前に注目してなけりゃいいのか。俺が何か変な事してたからなぁ……。
「凄いね、神を信じている世界だっていうのに……神を倒すなんて言えるんだから」
「自信は無いし、神が化け物だったら諦める自信がある」
「……そんな自信要らないと思うけど……」
「それに『親衛隊』を倒す自信が無いしな。あの銀髪野郎は特に……」
 この世界に来る前に初めて戦った男。正直、力の差がありすぎた。
「……銀髪?」
「あ、気にしないでくれ」
「うん。……そういえば、訊きたい事ってそれ?」
 少女の言葉でようやく用件を思い出した。
「……まず、名前を訊いていいか?」
「別にいいけど……私はミカ。よろしくね」
「俺はマモル・セウチ。よろしくな」
 俺とミカは握手を交わす。この時、俺はミカが一瞬見せた暗い表情の意味を理解出来なかった。


31 :アクロス=レザストロ :2008/04/05(土) 23:19:34 ID:kmnktixF

二十九章

「じゃ、質問一。何故化身の犯行をした?」
 この世界に来る前に見たミカのバラバラ殺人現場。自分以外があんな真似をするとは思っていなかった。
「……答えられない」
「そっか。じゃ、質問二。……何故俺を見て微笑んだ?」
 これも気になっていた。何故バラバラ殺人を見られたって言うのに、ミカは微笑んだのか。
「……それは……」
「マモルー!!」
 ミカが答えようとすると、ミルの声が聞こえた。俺がそちらを見ると、走って来ているミルがいた。
「捜しましたよ、マモル。こんな所で何を?」
「あ、えっと……」
 俺が隣を見ると、もうそこには誰もいない。
「……何でも、ない」
 何故ミカが消えたのか疑問に持ちつつ、俺は立ち上がった。
「そろそろ帰りましょうか。歓迎会も準備出来ているでしょうし」
「ああ……」
 俺は何回も振り返りながらミルの後ろについていった。




「ようこそっ! 我等『ラージアス』の本部へ!」
 食堂に入った瞬間、クラッカーが鳴り紙吹雪が舞った。
「……わお、凄いな」
「さ、主役も来た事だし宴の始まりだぜ!」
「オー!!」


32 :アクロス=レザストロ :2008/05/17(土) 23:45:07 ID:ocsFWmP4

三十章

「……皆、宴なのに酒は飲まないんだな」
「まぁ、未成年ですから」
 俺が呟いた言葉に隣のアイが反応する。
「酔ったら戦えませんしね」
「一刀とかファルとか普通に飲みそうだったんだが」
「カズトはたまに飲んでますよ? ファルはお酒嫌いらしいですけど」
 正直、予想外だ。結構酒は飲むと思っていたんだが。
 これじゃ宴というより、誕生日会の方が近いかもしれん。
「……ん?」
 俺が辺りを見渡していると、セグリーヌがこちらに向かって歩いてきている事に気付いた。
 セグリーヌは俺の前まで来ると、立ち止まる。
「何だ? 勝負なら勘弁だが」
 俺がそう言うとセグリーヌは俺を指差し、叫ぶ。
「マモルに断る資格はありませんわ! マモル、私は初めてでしたのよ!」


 ───瞬間、空気が凍りついた。


「……マモル、本当ですか?」
 殺気を放ちながらアイが訊いてくる。せ、背中が寒い……。
「あいつの言い方は色々語弊があるんだが……」
 そういや、初めてだとは言っていたな。そういう意味では無く、負けるのは。
「マ・モ・ル」
「…………………………何でしょうか?」
 信じられない程の冷たい声が後ろから聞こえた。そして、振り向くと笑顔のミルが立っている。
 いや、見せ掛けは笑顔だが、あれは超怒っているっぽいな。何でだろう、わかんないや〜あはは。……泣きたくなってきた。
「私の夜枷は断ったくせに、セグリーヌはOKしたんですか? いえ、無理やりしたんですか? もしかしてマモルは嫌がる女の子を無理やり……って言うのが好きなんですか? いえ、好きなんですよね? マモルの鬼畜」
 ミルが怒涛の勢いでひどい事を言ってきた。何だろう、この気持ち。すっごく泣きたいなぁ……。
「……ミル、誤解だ。まず、俺とセグリーヌは……」
「言い訳は聞きたくないです。無理やりするのが好きなら私も無理やりしていいですよ。そういうの……嫌いじゃないですし」
「落ち着け馬鹿野郎。お前もその場にいただろうが」
 というより、ずっとミルと一緒にいたのに何故ミルはそんな事を言ってくるのか。
「ミルもその場にいた? 成程、マモルは人に見せつけたりするのが好きなのか」
「どうしてそういう話になるんだファル!」
「隠さなくてもいいぞ。オレもそういうのは好きだからな」
 好きとかそういうのじゃ無くて! 実際にやっていないのに! 何故俺はこんな疑惑を受けなければならないんだ!
 助けを求めて辺りを見渡すと、
「皆、何の話をしているの?」
「さぁ……」
 ターリット姉妹は訳がわからないといったような表情をしている。
 俺が視線を動かすと、サヤと目が合った。
「あ……」
 よし、サヤなら助けてくれる筈。だがサヤは頬を染めて、視線を逸らし、一言。
「……マモル、夜、部屋に行く……」
「お前まで信じたのかよ、サヤ!!」
 唯一の味方に裏切られた気分なんだが!? 結構頼りにしてたのに!
「マモル、選んで。私たち全員とするか、一人一人交代性でするか」
「どっちも勘弁だ馬鹿野郎!」
「マモル、オレは……その、見られてる方が……」
「いや、しないから!」
「皆さん、何の話をしてますの?」
 ───ここで、助け舟が出た。
「私はただ、マモルに初めて負けたという事を言っただけですのに……」
「「「え?」」」



 ───俺の危機は、原因を作った奴によって去っていった。


33 :アクロス=レザストロ :2008/05/25(日) 22:23:13 ID:ocsFWmP4

三十一章

「…………疲れた…………」
「すみません、マモル……」
 アイが頭を下げる。別に気にしてはいないが……。
「けど、皆マモルの事が好きだっていうことですよ」
「あ、その事なんだが……」
 俺はアイを見る。どうしても訊きたかった事がある。
「お前達は『俺と仲良くしろ』という命令で動いているだろ?」
「!!」
 アイが一瞬、だがしっかりと驚いた顔を見せた。
「やはりか。俺にここが『居心地のいい場所』と思わせて、離れていくのを防ぐ。救世主であり破滅の使者の俺が敵に回ったら困るだろうしな」
 俺はこの世界の鍵。未来を閉ざすのも開くのも好きにしろってか。
「そして、骸骨も実はお前たちじゃないか? 俺が襲われている所を助ければ俺から信頼されるだろうしな」
「……骸骨は違います。あれは、操れるものじゃない」
 この口振りからして、認めたな。命令で俺と動いている事を。
「マモル、私達が命令で動いていると知って、どうしたいですか? もし、敵に行く気なら───」
 アイは即座にナイフを取り出し、俺の喉元に突きつける。
「───ここで、貴方を殺します」
 恐らく、アイは本気だろう。だが、俺の決心は揺るがない。俺は手を伸ばし───


 ───アイの頭を撫でた。


「え?」
 アイは訳がわからないというような顔をしている。
「馬鹿、誰が裏切るか。俺は、お前がいない時だけど約束したんだ。この世界の神を倒し、生きてる実感のある世界を取り戻すってな」
 そう、俺は約束した。だから神を倒そうと努力しようと思う。それがこの世界での俺がやるべき事だから。
「……ふふっ、かっこいいですね」
 アイは微笑み、ナイフを収める。
「でも、手はちょっと……子供扱いされてるみたいなんですけど……」
「あ、悪い」
 手をどけてやる。……体格的には子供だけどなぁ。


34 :アクロス=レザストロ :2008/05/31(土) 22:47:50 ID:ocsFWmP4

三十二章

「……でも、マモル。貴方の推理は少し外れてます」
「え? マジ?」
 結構自信があったんだが。外れるとは……。
「実際、命令で動いているのは私だけですよ。他は命令を聞く前に貴方と会ったので」
「あ、成程。他は純粋な好意を向けてくれてるのか」
 『化身』である俺に好意を抱いてくれるのは嬉しいな。
「そうですよ。だから、友達と思って気軽に話してくださいね」
「ああ、わかった」
 俺はそう言ってアイに背を向ける。
「どこ行くんですか?」
「ちょっとトイレだ」



「広いな、ここ」
 俺は基地をうろついていた。正直、騒がしいのはツッコミに疲れる。
 ちゃんとわかってるぜ? 俺はツッコミ係ってのはな。
 そして玄関まで来て気付いた。───街の様子がおかしい。
「……何だ……?」
 俺は街に向かって歩き始める。それと同時に、引き返せと本能が命令してくる。
 この感覚は───初めてミカと会った時にも感じた物。
 落ち着け俺。敵がいたら俺一人で勝てる確立はかなり低い。早く戻って誰かを呼んで来い、瀬内 守。それが一番の選択だ。
 だが俺は、脚を止められなかった。ゆっくりしてたら逃げられるかもしれない。それに俺は、ミカの真意を聞きたい。
 そうして街の広場に着いた時、俺は思わず鼻を覆った。


 ───広場は血の海になっていた。


「こりゃひでぇ……」
 辺り一面を埋め尽くす死体。しかも全てが引き裂かれていたり、内臓が引きずり出されている。どれも、必要でない攻撃が加えられている。
「相手は快楽殺人者かよ……」
 そして俺は気付いた。死体で出来た山の上に、ある少女が立っている事に。俺は一目で分かった。その少女が誰か。
「……ミ……カ……?」
 彼女の白いワンピースと美しい髪は血で赤に染まっている。ミカは俺を見ると妖艶な笑みを浮かべた。
「ふふっ、また会ったわね」
 その笑みを見て思わず俺は膝を曲げて臨戦態勢を取る。戦うつもりは無い。
「私に何の用なのかしら?」


 ───ただ俺は、目の前の自分を越えた殺人鬼から逃げたかった。


35 :アクロス=レザストロ :2008/06/07(土) 23:05:01 ID:ocsFWmP4

三十三章

「……あらあら、かわいいわね。膝が笑ってるわよ?」
 その一言と同時に目の前に現れたミカ。そしてミカに軽く押されただけで、俺は尻餅をついてしまった。
「ふふっ……これがあの『ジャック・ザ・リッパーの化身』だなんて……笑っちゃうわ」
 ミカが手を伸ばし、俺の頬に触れる。その瞬間、ミカの腕をナイフが貫いた。
 ミカは笑みを崩さず、ナイフが飛んできた方向を見る。そこにはアイが立っていた。
「あら、アイじゃない。久しぶりね」
 微笑んだミカがアイに歩み寄ろうとする。だが、すぐに足元に弾丸を打ち込まれた。
「……マモルに、何をしてるの!」
 ターリット姉妹も武器を構え、アイの後ろに立っていた。
「まだ、何もしていないわ。けれど、するかもね」
「マモルに危害を加えるなら、私たちが相手します!」
 アイが即座にナイフを構える。ミカは慌てず、言葉を紡ぐ。


「───アイ、『ナイフを下ろしなさい』」


 その言葉を聞いたアイは固まり、そしてナイフを下ろした。
「えっ……?」
 意味が分からない。何故、アイが敵の命令に従ったのか。
「くっ!」
 今度はヘルシアが銃を構え、何発か撃つ。ミカは焦らず、言葉を紡ぐ。
「アイ、『銃弾を打ち落としなさい』」
 やはりそれを聞きアイが銃弾を全てナイフで打ち落とす。
「え? え?」
 訳が分からない。何故、アイが……。
「でやあぁぁぁぁぁ!!」
 シルアが大剣で斬りかかる。だがやはり、ミカは言葉を紡ぐ。
「シルア、『私に攻撃は当てないで』」
「うっ……!」
 シルアの振り下ろす大剣は、軌道が逸れてミカの真横を粉砕した。
「さぁ、アイ、シルア、ヘルシア。『跪きなさい』」
 その言葉で三人が全員跪く。……どうなっている? まさか……。
「はは……人を命令通りに動かせる能力なんて、存在していいのか……?」
 やはり、こういう能力じゃなければ説明が出来ない。だが、これは強すぎる。
「あら、貧弱だけどマモルは頭がいいのね」
 ……合ってたのか。最悪だな。
「だったらマモル。『跪きなさい』」


 ───だが、俺の体は奴の言うとおりに動かない。


「……何故? あっ!」
 俺はようやく思い出す。俺の能力は『能力を無効化する能力』だと言う事に。
「……チートね」
「てめぇの方がチートだろうが!」
 俺は鉈を構えようとして……鉈は部屋に置いてきた事に気付いた。
「でも、貴方一人で何が出来るの?」


36 :アクロス=レザストロ :2008/06/14(土) 23:31:05 ID:ocsFWmP4

三十四章

 俺一人に何が出来るか。その問いの答えは簡単だ。何も出来やしない。
 せめて武器があれば何か出来るかもしれないが……。
「下手に抵抗すると、苦しむ事になるわよ?」
 ミカは思い切り手を地面に叩き付ける。すると地面から棘が生えてきて、俺に向かって来る。
「うっ!」
 避けられない。そう確信した。だが、その瞬間に目の前に人間が下りてきた。
 その人間は、棘に剣を叩きつけて棘を粉砕する。
「一刀!」
 一刀は無言でミカを睨む。ミカは微笑んで応じる。
「あらカズト、会えて嬉しいわ」
「………………」
 一刀は答えない。只、剣を構える。
「ふふ、カズト。『跪き───』」
 そこまで言ってミカは上を見上げる。それと同時にミカの右腕が切り落とされた。
「ひっかかったな」
 上から降りてきてミカの右腕を切り落としたのは、一刀だった。
 俺の前にいる一刀は土へと溶けていく。
「ゴーレムなんて、初歩中の初歩だろ?」
 右腕を切り落とされたミカは、それでも笑っていた。
「頭を使うわね。けど、右腕一本程度……」
「そうか、なら左腕ももらおう」
 それと同時に矢が数本飛んでくる。ミカは数歩下がるだけでかわす。だが、
「腕、もらう……」
 サヤが現れ、刀を振り上げて左腕を切断する。
「きゃ……」
 思わず後ずさりをするミカ。すると、矢がミカの足を貫き動きを止める。
 間髪いれずに一刀とサヤが近寄り、二人で同時にボディブローを放つ。
 矢が抜けミカの体は空中に浮かぶ。
「紙よ、『剣の雨となりなさい』!」
 その言葉と同時に空中にばら撒かれた札が剣に変化してミカの体を貫く。
 そして、再びミカは地面に縫い付けられる。
「これで終わりだ!」
 その言葉と同時に、ロケットランチャーが放たれた。それはミカに直撃して爆発を巻き起こす。
「……やったか?」
 一刀が呟く。俺からしてみれば、あれで死なない奴がいるのか? 俺がそう思っていると声が響き渡る。




「はい、ここにいる皆『跪いてね』」




 それと同時に全員が跪く。俺が上を見上げると、屋根に座っているミカの姿があった。
 ───切断された筈の両腕が、くっついている。
「カズト、ゴーレムは初歩中の初歩よ」
「ちっ……」
 先ほど言った事をそのまま返され、一刀は舌打ちをした。
「ま、もしアレがゴーレムじゃなくても私は死なないわよ。あの程度じゃね」
 ミカは微笑みながら言う。
「だって私は、この世界の神だもの」


 ───その瞬間、俺は分かった。神を倒すなんて無理だという事に……。


37 :アクロス=レザストロ :2008/06/22(日) 02:16:32 ID:ocsFWmP4

三十五章

「……おい、待てよ……」
 俺が倒すって言ったのは、あんな化物だったのか? 神なんて、所詮紛い物だろうと俺は思っていたのに……。
 ───冗談じゃない。あんな化物に勝てるか!
 俺個人の戦闘能力はこいつらの中で一番下だ。それは間違いない。
 だが、能力的に奴に抵抗できるのは俺しかいない。希望は、俺しかない。
「……期待を裏切るのは、プライドが許さない」
 念の為に持っていた護身用のナイフを取り出す。これは、俺のプライドだ。負けを認めてたまるか。
「そんな物で、私を殺れるとでも?」
「無理でも、プライドが許さない。それに俺には───」
 ナイフを構え、ミカに特攻する。
「───大切な妹を守る義務があるんだよ!」
 その言葉で、ミカの動きが止まる。それを見逃さず俺はミカの心臓にナイフを突き刺した。
「…………………」
 おかしい。奴は何故動きを止めた? 俺の言葉に驚いた? そんな馬鹿な。そんな事を思っていると、ミカが笑い始める。
「ふふふ……そう、そうだったんだ……ふふふ」
 俺は驚いて後ろに下がる。ミカはナイフを抜いて捨てた。
 そしてミカは俺を見て、悲しそうに微笑む。
「……今日はここで退くわ。また会いましょう」
「待……」
 待て、と言おうとしたがミカのあの微笑を見て何も言えなくなった。
 ミカは何処かへと消えていく。俺はそれを呆然と見ていた。


38 :アクロス=レザストロ :2008/06/29(日) 02:01:04 ID:ocsFWmP4

三十六章

「……う……ううん……」
 俺は気付いたらベッドに寝ていた。起き上がると、どうやら自分の部屋らしい。
「あ、マモルおはよう」
「……おはよう、ヘルシア……」
 ベッドの横で座っていたヘルシアに朝の挨拶をする。
「……なぁ、俺は何故ベッドに……?」
「神が去った後、倒れたんですよ」
 そう言われ、少しずつ昨日の事を思い出していた。
『だって私は、この世界の神だもの』
 そう、ミカが神だったんだ。
『そんな物で、私を殺れるとでも?』
 俺は護身用のナイフを取り出し、最後の抵抗に出て。
『俺には大切な妹を守る義務があるんだよ!』
 そう言いながら襲い掛かったら、ミカはかわさずに攻撃を受けて。
『……今日はここで退くわ。また会いましょう』
 去る時にミカは悲しそうな微笑を浮かべて……そこから先の記憶が無い。
 恐らく俺が倒れたのはその時だろう。なんと言うか……すっごく疲れたのだ。
「思い出しました?」
「まぁ、それなりに」
 もう二度とあんな思いはしたくないが、この世界にいる以上日常茶飯事だろうなー。
「俺、あまり役に立たなかったな」
「いえ、貴方のおかげで神が退いたのです。本当に、感謝します」
 ヘルシアが頭を下げる。
「……何なんだよ、ミカは……」
 俺にはミカの行動の意味が理解出来ない。何故、あんな真似を……。
 やはり、俺たちの神を信じない心が気に入らないのか? よくわからん……。
「……マモル、かっこ良かったですよ」
「え?」
 唐突なヘルシアの言葉に思わず驚く俺。俺の何処がかっこ良かったんだ?
「『大切な妹を守る義務がある』……妹思いなんですね、マモル」
「……あ」
 ちょっと待て。よく考えたら俺が言った言葉ってかなり恥ずかしい?
「ヘルシア、今すぐ忘れてくれ」
「何でですか? こんなかっこいい言葉なのに」
「頼むから」
 俺が手を合わせてお願いすると、ヘルシアは困った様に笑う。
「……じゃあ、約束して下さい」
「何を?」
「私も、守ってくれるって」
「……お前の方が強いだろ?」
「いいから、約束して下さい」
 何でこんな約束を……?
「……わかった。お前も守ってやるよ」
 その言葉を聞いたヘルシアは満面の笑顔を浮かべ、俺に抱きつく。
「やったー♪ 約束ですよ?」
「分かってるよ」


39 :アクロス=レザストロ :2008/07/05(土) 23:26:14 ID:ocsFWmP4

三十七章

 俺は昨日ミカと戦った広場に来ていた。そして、すぐにおかしな事に気付く。
「……何も、跡が残っていない……?」
 そう、血の跡もミカと戦った痕跡も何も残っていないのだ。
「……どういう、事だ……?」
「……マモル……?」
 この静かな声は……サヤか。
「おう、サヤ。一つ訊きたいんだが」
「…………?」
 サヤは小さく首を傾げる。
「……何でここには、何の痕跡も残っていないんだ?」
「それは、簡単。リセットされたから……」
 リセット? 意味が分からない……。
「この世界では、人がいなくなる事はない……」
「……何故?」
「さっき言った通り、日が変わるとリセットされるから……」
 やはり意味が分からない。ゲームでも無いのにリセット?
「簡単に言うと……人が死んでも、日が変わると生き返る」
「な……!」
 リセットって、そういう意味か。つまり、ここに生きている奴は不死身……?
「通称『滅びない世界』と呼ばれる。私たちは、これが嫌でもあるの」
 ……確かにな。誰も死なない世界。死んでも明日生き返る。こんなんじゃ、人間が壊れる。
「……神を倒せれば、全て終わるのに……こんな、生きている気がしない世界……」
「焦るなよ。その神を倒す為に俺がこの世界に来たんだから」
「……マモル……」
「心配するな。どんなに時間をかけたって、何度死にかけたって、俺はあいつを倒してやる。それが俺の使命だから」
 死ぬ気は一応無し。死にたくないからね。確実に倒せる瞬間を作り出し、神を倒す。それが俺に出来る事。
「マモル、かっこいい……」
「…………え?」
 俺がサヤを見るとサヤは少し頬を染めてこちらを見ている。……もしかして、俺は再び恥ずかしい事を……?
「……頼りにする、マモル……」
「……まぁ、少しだけなら頼りにしてくれ」


40 :アクロス=レザストロ :2008/07/12(土) 23:48:32 ID:ocsFWmP4

三十八章

「一刀、薫。少しお願いがある」
 サヤと別れた後、俺は本部に戻ってきていた。そして一刀と薫に会っていた。
 それはあるお願いをする為だった。
「何だ、守」
「俺を───強くしてくれ」
 その言葉を聞いた一刀と薫は驚いた様な顔をする。
「……何故?」
 薫は笑顔に戻って訊く。
「今の力じゃ足りないからだ。ミカを倒すにはな」
 俺は昨日の戦いで確信した。あいつを倒すには、今の力じゃ足りないと。
「俺はあいつを倒す為にここに来たんだ。だから、強くなりたい」
 それに、ヘルシアやサヤと約束しちまったからな。
 ヘルシアには『守ってやる』と。
 サヤには『必ず神を倒す』と。
 この二つの約束を守る為に俺は強くなりたい。いや、
「強くならなきゃ、いけないんだ!」
 その言葉を聞いた二人は顔を見合わせて、笑う。
「……守、やっぱお前は凄い奴だ」
「そうだね。あの強さに絶望する事なく、強くなりたいと願うなんて」
 薫は拳を前に突き出す。一刀も同じようにする。
「……そんな短期間じゃ強くなれないけど、出来るだけ早く強くなれるように鍛える」
「覚悟しろよ? 超スパルタでいくからな」
「……ああ! 望む所だ!」
 俺は拳を前に突き出し、二人の拳に合わせた。


41 :アクロス=レザストロ :2008/07/26(土) 22:58:39 ID:ocsFWmP4

三十九章

 俺が神を倒す為に修行を始めて、数ヶ月が経った。







「……にしても、平和だよなぁ」
 俺はオペレータールームという場所でモニターを見ながら呟いた。
 ミカと初めて戦った日から数ヶ月、敵の襲来は無く俺は修行に専念できた。
「平和なのはいい事だと思いますよ?」
 オペレーターの一人がこちらを見て言う。彼女の名はユイ。優秀なオペレーターだ。
「そうは言ってもさ、修行の成果試したいと思わない?」
「……まぁ確かに……」
 試したい、自分がどれほど強くなったのか。十段階なら四にいっていたら嬉しい。
「そんな都合よく敵なんて……」
「て、敵襲です!」
「来たな」
「……敵は?」
「ゴーレムが二十、それを操っていると思われる少女が一人」
 俺はモニターを見る。そこには、ゴーレムとゴスロリの服を纏った少女がいた。
「出撃か……出撃可能なのは何人だよ、ユイ」
「……残念ですが、貴方一人です」
「……え?」
 その言葉は、どうしても信じたくない内容だった。
「ターリット姉妹に、アイは?」
「休暇です」
「一刀に薫は?」
「山に修行をしに行きました」
「……サヤとミルは?」
「違う街に買い物です」
「ファルにセグリーヌは?」
「旅行です」
 ……修行の成果を試す所か、殺されそうだな。ん、そういや……。
「あの、ダリアにルードは?」
「戦いには干渉しないと言ってました」
 まさか、本当に俺一人……? ユイは、苦笑いを浮かべている。
「……わかった、死んでくる」
 その言葉を残してオペレータールームを出ようとしたが、俺は一度立ち止まる。
「……なぁ、アレって能力だよな?」
「えぇ、そうですが」
「なんだ、勝算があるじゃねぇか……」
 俺は走り出す。あのゴーレム達を葬る為に。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.