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1 :神風 宏太 :2007/11/01(木) 22:50:43 ID:WmknYJzc


「野球、やってみませんか?」

ふと、とある放課後、教室でのんびり椅子に腰掛けていた、
俺こと、神威聖鸞(かむい しょうらん)にそう話し掛けたのは、
背は150半ばぐらい、髪はセミロングの若干茶髪混じりの黒髪、
顔はなかなか整っており、可愛い系に属するであろう、
そして、俺の目の前にある少し膨らんだ体の一部は・・・、Bぐらいか・・・
まぁ、年頃の男子なんだ・・・、つい見てしまうんだ、許してくれ
体型は出るとこは出ている、少女だった
て、あまり、見すぎていると変体扱いされてしまう
俺は少女の顔を見上げた

俺はこの少女を見たことがある
確か、クラスメートの・・・

「早乙女愛美さん・・・だっけ?」

「ほぅ、フルネームで覚えてくれているとは・・・、もしかして・・・」

「ストーカーでは、ないから」

俺は言われる前に、否定しておいた
俺に先に言われて、早乙女は残念な顔をしている。
名前を覚えているのは、席が横だし、他に理由がある。
確か、この娘は・・・

「あのプロ野球選手の早乙女愛の妹で・・・、確か、中学のとき、全国大会出場
した、女性選手だよな。」

「よく知ってるね〜、やっぱり・・・」

「ストーカーではないですから・・・」

とりあえず、そこだけはきっちりと否定しておこう
一応、初対面だし、変人扱いされては、たまらん。


「でもね、実は私も君のこと、知ってるんだよ〜」

あんたの方がストーカーじゃねぇかと、ツッコミたいが、
ここは心の中だけでツッコミを入れよう。

しかし、俺のことを知っていると言うことは・・・、

「転校初日、颯爽と遅刻した挙句、校内の不良グループに喧嘩を売って、ボコボコに叩きのめした、神威君でしょ?」

・・・すまん、俺の思ってた解答ではなかった。
と、言うか、それについては俺は校内では、すでに有名なんだな。
それに、喧嘩は向こうから売ってきたんだ。
まぁ、何人か病院行きにはしたんだが・・・
と、俺が心の中で色々とツッコンでいると、早乙女が続けて言う。

「あ、それと、君、あの神威君でしょ?今年の夏の甲子園大会の北海道予選の決勝で・・・」

今度こそ、俺の予想した解答だと悟った俺は、早乙女の言葉をさえぎった

「9回の裏ツーアウトから、味方のエラーとまさかのワイルドピッチで、
同点のランナーを還した挙げく、延長10回にツーアウト満塁で振り逃げで
サヨナラ負けを喫した、悲運のピッチャーの、神威ですよ。」

「・・・自分で言ってて、悲しくない?」

「・・・ちょっとな。」


確かに俺は、去年まで北海道の高校で野球をしていた。
そして、とある理由で転校して、ここ、関西で有名な夕灯ヶ丘学園に来たわけだ
ちなみに、県内の公立校では1番野球が強いところらしい
その上、偏差値も全国で60以上はある、お勉強校でもある

「ところで・・・、話の本題に戻るんだけどね。」

あれこれと脱線していた会話を早乙女は、
まじめな顔をして戻した。
まぁ、この後に続く言葉は大体読めている・・・

「野球部に入らない?」

一字一句、全く違いの無い台詞を早乙女は言ってくれた
それに対する俺の答えは、こうだ。

「嫌だ」

「だよね〜、嫌にきま・・・て、ハィィイ?」

早乙女は目をむき出しにし唖然として口をぽかんと開けていた。
予想以上の反応を示してくれた。
こいつは、なかなか面白い奴かもしれん。

「・・・な、なんで?」

「嫌なものは嫌なんだ。」

・・・マジかよ、まさに顔をしながら俺を見る、早乙女
やばい、女子の顔じゃなくなってる。

「・・・そこまで、ショックか?」

「・・・だって、入ってくれること、前提で誘ったんだけど・・・、まさかねぇ・・・」

徐々に早乙女の顔が元の早乙女の顔に戻ってきた。
それでも、俺の答えは変わりはしない

「・・・何が、何が不満なんだね?神威君?」

どうやら、喋り方は元には戻っていない。
若干おかしくなってる。

「特に無いが?」

「では、なんだ?・・・はっ、そうか、金か?年棒か?」

「・・・プロ野球じゃねぇんだし、それに、そんなことしたら裏金問題で高野連にバレたらお終いじゃねぇか」

てか、どっからこういう発想が出てくるんだ?こいつは。
それとも、関西人はこういうものなのか?

「では、どうして、入らんのだね?」

俺は通学鞄を手に取り、これで、最後といわんばかりの答えを
未だに顔が元通りになっていない早乙女に返した。


「先程行ったとおりさ、嫌なんだよ、野球が。」


俺は颯爽と教室を出た
そうだ、もう野球はしないと決めたんだ
誰になんと言われようがな・・・


2 :神風 宏太 :2007/12/07(金) 20:20:05 ID:WmknYJzc

夜明け前


季節は11月になり、秋も深まってきた。
早朝は肌寒いどころではない、かなり寒い
今日も一人の少年が、とある街を白い息を吐きながら走りこんでいる

少年の名は、神威聖鸞
2週間前にこの地に移り住んできた
朝のランニングは彼の習慣でもあり、街のことを知るには丁度良かった。
今日も昨日とは別のルートを走っている
そして、彼はつい5日前ほどに見つけた、とある空き地にたどり着いた
ところどころ、雑草は生えているのだが、
それなりには手入れはされているようだ

少年は背負っていたリュックを下ろすと
中から野球のグローブとボールを取り出した。
彼は軽く肩を回すと、前方にある壁に向かって
手に持っているボールを投げはじめた。

彼はゆっくりと丁寧に、だが、しっかりと投げる
20分ほどの肩慣らしを終えると、少し足場をならした
そして、もう一度、壁の方を向き、
今度は先程より、強めに投げた。

ボールは一直線に壁に描かれていた、的目掛けて進み見事に命中した。


パチパチ・・・


と、どこからか、拍手をするものが居た
神威は、辺りを見回す。
そして、探していた人間を見つけた

その人間は、ゆっくりと神威のほうに近づいてくる。
神威は相変わらず無愛想な顔で、近づいてくる人をただ目視するだけだった。

「相変わらずだな。」

「・・・。」

神威は、ただ黙って近づいてきた人間を睨む。

「なんだかんだ言って、体は言うことを聞いてくれないようだな・・・。」

「・・・まったくだ、どうしても朝の5時にはおきてしまう。」

やっと、神威が口を開いた。
それに一安心したのか、近づいてきた人間は少し笑みを浮かべた。

「で、何のようだ?一二三」

「たまたま、朝のランニングをしていたら、朝っぱらから野球をしている奴がいると思ったら、お前だったんだよ。」

一二三と呼ばれた少年が、大きく伸びをして、なにやら準備運動をし始めた。
神威は一二三の背負っているリュックを見て、一二三に尋ねる。

「・・・グローブ、持ってるか?」

「あぁ、俺もここで練習するつもりだったからよ。」

そういうと一二三は、自分のリュックからグローブを取り出し、
神威から少し離れた場所でしゃかんだ
その様子を見た、神威は一二三を立たそうとしたが、

「どうせ、もうアップはできてるんだろ?」

一二三のその一言でやめた。
もう一度、足場をならし、今度は一二三のグローブ目掛け投げた。
ボールは、綺麗に一二三の構えた場所へと向かう。
そして、綺麗に一二三のグローブに収まる。


「本当にコントロールは抜群だな。」

と、一二三は感心しながら、神威にボールを投げ返す。
神威は相変わらず無愛想にボールを受け取り、すぐに一二三に向かって投げはじめた

それから10分後、神威と一二三は、練習を切り上げ、
空き地の隅にある土管の上に座った。
空はいつの間にか明るくなっており、鳥達のさえずりも聞こえる。

「・・・しかし、お前がここに戻ってくるとは・・・、あの話は本当だったわけか。」

一二三が神威をちらっと見る。
神威は相変わらずの無愛想な顔で空を見上げていた。
そして、静かにゆっくりと頷いた。

「・・・そっか、・・・それじゃ、ここの野球部には入らないんだな?」

神威は、これにも静かに肯定した。

「でも、野球は続けるんだろう?」

この質問に神威は、なかなか答えなかったが、
だが、今度は言葉を発して答えた。

「・・・未練が残っているからな。それに、いきなりやめるのは無理だよ。どうしても体が動いてしまうんだ。」

神威は自分のグローブを見つめた。
彼のグローブは相当、使っているのか、ところどころ傷がいっている。

「そっか・・・。まぁ、野球部に入るならいつでも歓迎するさ。」

「・・・まぁ、あまり期待しないでくれ」

「ああ、そうしとくよ。」

そういって、一二三はゆっくりと立ち上がり、そして、ゆっくりと空き地を出て行った。
その数分後、神威もゆっくりと家へと帰った。



「やっぱり、無理なの?」

「無理だな。あいつは意外と頑固だから、一度決めたことは徹底するんだ。だから、俺らはあまり期待しないで待っておこうぜ。」

朝の教室にて、一二三と早乙女は、神威のことについて作戦を練っていた。
ここ数日、早乙女はしつこく勧誘しているのだが、
全く持って効果なし
それどころか、神威に完璧に避けられている。
一二三は、神威とは幼少時代からの仲であり、野球部に入っている。

一二三は早乙女に今朝のことを話していたのだった。

「む〜、こうなったら、私のお色気で・・・」

(お前に色気なんてものは無いだろうが・・・)


一二三はあえて心の中で突っ込んだ・・・が、


ドゴッ



「グォッ・・・」

早乙女の見事な肘鉄砲が、一二三の溝うちに直撃した.
その場で悶える一二三を見下しながら一言

「あんた、女の勘を舐めていると・・・血を見るわよ。」

「・・・すっげ〜、納得したよ。」

そういって、早乙女は踵を返して自分の席に戻り、
横の席の神威にまた、いつもの勧誘をしていた
それを未だに溝うちを抑えていた一二三は、一言、


「・・・俺、もしかして、ぶたれ役ですか?」


その答えは作者のみが知っている。


3 :神風 宏太 :2008/02/04(月) 00:24:21 ID:WmknYJzc

When will Hero come back ?



青く澄んだ雲ひとつの無い冬の空に
ふわりと白い丸いものが浮いている
その物体は、ある程度昇っていくと
すぐに地面へと突き進んでいく
だが、その物体は、結局、地面に着地することは無かった。


「アウト!!!」


審判の太い声が球場内に響く
ボールを捕った少年が、内野を守るチームメイトへとボールを投げ渡す
ここは、とある市内の野球場
市内では一番広い球場だ
現在、この球場では、夕灯ヶ丘学園と清南風高校の練習試合が行われている
試合は、圧倒的に夕灯ヶ丘学園が勝っている。
決して清南風が弱いというわけではない。県内でもベスト16は残る強豪だ。
ただ、夕灯ヶ丘学園が、強すぎるのだ。
だが、夕灯ヶ丘学園は、ここ数年、甲子園には出ていない。
たいてい準優勝か、ベスト4で終わってしまうのだ。
その理由は、主に『怪物』の不在である。
夕灯ヶ丘学園は、基本的に全体のレベルは高いのだが、怪物がいない。
それがゆえに、後一歩で甲子園の道が断たれるのである。


「・・・退屈だ。」

その試合の様子を見ていたのは、
夕灯ヶ丘学園の生徒である、神威聖鸞だった
ただ、今は至極退屈そうに欠伸をしながら試合を観ていた。

「・・・明らか、レベルが違いすぎる。新チームでも、こんなに差が開くものか?」

独りブツブツと独り言を言いながら
ただこのワンサイドゲームを観続ける。
と、そこに来客が現れた

「ご無沙汰〜っす。」

軽い挨拶をかましてきたのは
短い金髪でやや色黒のいかにもヤンキーの少年が現れた
神威はその少年を軽く無視をした
それに気づいた金髪のヤンキー少年は、

「・・・神威く〜ん、俺ですよ、俺。西嘉彌真(にしかやま)ですよ。」

「・・・。」

それでも、無視し続ける神威
そして、本当に忘れられていると思った、西嘉彌真はその場で頭を抱えながらしゃがみ、本気でへこんでいた。
その様子を見た神威は、

「・・・覚えてるよ、西嘉彌真慶喜だろ。」

「神威、おぼえてるんだったら、最初からそう接してくれよ。」

「お前をいじめていると楽しいからな。」

第三者から見たら、どう見ても逆の立場なのだが、
この二人は、一二三と同じく中学からの中である
神威と一二三は頭が良いので、それなりの高校へと進学することができたが、
この男は、ただの野球馬鹿で、学力は下から数えた方が早かった。
しかし、野球の実力はあるので、スポーツ推薦で私立へ行ったのだ。

「にしても、なんだ?この試合は?高校生vs中学生みたいだな。」

「まぁ、一応、向こうのメンバーは、控えが若干混じってるけどな。」


キンッ


金属音が球場に響き渡り、神威と西嘉彌真は打球を目で追った。
打球は綺麗に一直線、センター方向へと突き進んでいく。
だが、いまいちノビが足りない
センターを守っている清南風の選手が、落下点に入った。
ボールは、センターの選手のグローブに吸い込まれるように入った。
やっとのことでチェンジになって、清南風の選手たちは、足取り重くベンチへと戻る

ふと、西嘉彌真が

「そうそう、俺、転校するんだ。」

「・・・どこに?」

これには、さすがに神威は興味を抱いた。
その様子を見て、西嘉彌真は答える

「お前のいる、夕灯ヶ丘によ。」

「・・・なぜ?」

「てめぇが、帰ってきたからだよ。また、一緒に野球やろうぜ、三人でさ。」

「・・・・・・。」

西嘉彌真は、神威が返事をしない理由が分かっていた。
もちろん、そのことを西嘉彌真が知っていることは神威も分かっていた。

「しかし、お前も女々しいよな。意外だよ。」

「・・・何とでも言え、人間は見た目ほど強くも無い。」

そういう神威は、どこか遠い目をしている
西嘉彌真は、この男のつらい過去を知っている。
知っているがゆえに、これ以上何もいえない。
だが、この男をこのままにしてはいけないことも分かっている。

「そんな強くないおめえを見て、弥生がどう思うかね?」

「・・・さぞ、がっかりするだろうさ。分かっているんだ、だが、実行するには、もう少し時間が要るんだ。」

「・・・それはいつだ?」

「・・・・・・。」

しばらくの間、沈黙が流れた。
そして、西嘉彌真がすっと立ち上がった。

「俺はもう帰る。用は済んだし、この試合、観てても面白くも無いしな。」

「そうか・・・、俺はもう少しここにいるよ。」

「それじゃ、またな。」

「ああ。」

そういって、西嘉彌真は、ゆっくりとその場を立ち去った。
試合はやっとのことで8回まで来た

「清南風のピッチャーの交代をお知らせいたします、ピッチャー小倉君に代わりまして、須田君、ピッチャー須田君。」

球場にウグイスの声が響き渡った
交代した清南風のピッチャーが、マウンドへと駆けていく。
その様子を見て、神威は思い出す。
試合終盤のマウンドから見た光景を。
自分がいつもいた場所を
神威は自分の右手を見つめ、ぐっと力を入れた。

「いつか・・・、いつか立つことができるのか?」

そう呟くと、神威はすくっと立ち上がった。
そして、マウンドにいるピッチャーと前までの自分を重ね見てしまうのだ。
しばらくの間、その場で固まっていた。

「・・・帰るか。」

そして、神威もその場から立ち去った
いつ戻ってくるか分からない、マウンドを背にして・・・


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.