thrill−てっちゃんを探せ!−


1 :ちーづ :2008/12/12(金) 19:00:10 ID:nmz3Yno7

三國 徹也‥23歳
社会科教師。ギターライブを行う、キザっぽいテニス部顧問。
島谷 麻由‥13歳
暴力的な男勝りな女子。文芸サークル長
宮倉 要  ‥13歳
前者の友人。イタズラ好き。
末籐 千鶴‥13歳
勝ち気な性格の、高所恐怖症の女子。
西田 皓斗‥13歳
太鼓の達人が大好きな男子。
河上 雄大‥13歳
ルービックキューブにハマっている男子池原 昴  ‥13歳
曲がった目をしている男子。ヘンタイ。森本 充  ‥13歳
モジャモジャ頭のむさ苦しい男子。
安原 亮  ‥13歳
優しい、賢い、カッコイい!のパーフェクトな男子。


2 :ちーづ :2008/12/12(金) 19:01:15 ID:nmz3Yno7

7月16日。
普通なら学校があって、授業があるはずの日に、おれたち七人は、関西国際空港にいた。
なんでかって?考えてみぃや、サボリに決まって…るワケないか。違うんやけどな。空港といえば、飛行機やろ。まぁ、飛行機に乗って、イギリスに行くために来たんやけどな。まぁ、時間もあるし、ちょっと話をしよっか。最初に言っとく。オレは安原 亮。OK?

7月9日。
昼休みに、騒々しいな…と思って顔を上げたら宮倉と島谷と末籐が、さわいでいた。ん…?てっちゃんが、消失した?てっちゃんって、テニス部顧問の?よくよく話を訊くと、四時間目までいた、てっちゃんに、ライブをせがみにいくと、車ごと消えていたらしい。島谷と末籐がさわいでいた理由は、ライブ。宮倉は「社会の成績が取れへんかったら困るぅっ!」だった。オレも、部活の顧問だから、困るんだけど。さて…。その話に食いついてきたのが、島谷、宮倉、末籐、オレの他に、西田、池原、森本、河上。梅の実大戦争をしていたらしい。あ、梅の実大戦争っていうのは、梅の実を相手に投げつける遊びだ。中庭と俺らの1Aの窓はつながっているから、聞こえていたらしい。まぁ、この時オレは、ナルシみたいだけど、オレよりパソコンのヤバい技術がうまい奴が居るなんて知らなかったんだ。


放課後―。
 スタバの一角に陣取った俺らは、机の上にガサガサとノートをひろげた。もちろんてっちゃんを捜すために必要な資料を書き込むためのノートだ。てっちゃんが消えて半日しかたっていないにも関わらず、四十枚のノートのうち、半分はゆうに超えている。末藤いわく、「うちらの情報力をなめんなよ。」だ。キャラメルコーヒーをすすりながら、涼しい顔でパソコンをいじる安原を少しにらんだ。
ブラックコーヒーをすすり、真剣な顔でインターネットに接続してハッキングを行っている末藤の眼は、普段の数百倍きらきらしていて、それをじぃっと見る宮倉なんか、尋常なほどに顔がニヤついている。やくざの様で実は甘党な俺は、ミルクコーヒーに、砂糖をたっぷり入れてごくりと飲んだ。目撃情報をチャットルームでかき集める。意外なことにアクセス数は多く、でもみんなノーコメントで帰って行った。一人の書き込みに、なんかまことしやかな物があった。
《関西国際空港で、公開されていた白崎徹也さんの隣に座っていた、××です。今日、お昼頃にコブクロのライブがあったのですが、その時に、少ししゃべりました。22日にhuman science laboratoryに行くっていってました。同級生がいるとか何とかで・・・》
この書き込みを見て、明日関空に行くことになった。

翌日―。
朝の九時半に家を出発して、十一時に関空についた。まず、てっちゃんが乗ったらしい航空会社のEngland airlineのカウンターに行って、白崎徹也とゆうひとが来なかったか聞く。それが個人情報だからなのか、俺たちがコドモだからか分らないが、教えてくれなかった。多分、前者だろう。
 次に俺たちが向かったところは・・・
  「職員専用入り口・・・」
だった。内部のパソコンになら、データがあるだろうし、確かに見てみたいが・・・。
鉄製の重いドアを押して、そぅっと中にはいる。パソコンデスクに近づいて、USBメモリを差し込もうとする。が・・・。
 ガラガラガッシャン!
池原がそばのCD の束を倒した。物音に気付いた職員がこっちに走ってくる。急いで逃げるが、階段を駆け上がってドアノブをつかむと、ジャラジャラと鎖が巻いてあった。職員が駆け上がってくる。絶体絶命だ・・・・・。
と、誰かカメラのフラッシュをたいた。眩しさに目がくらんだ職員のすきをついて外に飛び出す。そして手早く外側からかぎを掛けた。ふぅっと息をついた束の間、他の7人は歩きだしてしまった。
「なあ、島谷、てっちゃんに会いたい?」
「当たり前やん。会いたくて会いたくて仕方がない・・・って、うちに何ゆわせんねん!」
「ノリツッコミありがとう島谷。」
「いえいえ、どういたしまして・・ってちゃうやろ!」
末藤が勝ち誇ったように笑い声をあげた。


3 :ちーづ :2008/12/12(金) 19:02:35 ID:nmz3Yno7

なぁ、てっちゃんの今の居場所、わかるんか?と訊くと、宮倉と島谷が、ニヤリと笑った。どうも、二人はてっちゃんにGPSを取り付けていたらしい。何だ、コイツら。GPS探索をして…
すると、末籐が手を打った。
「そや、ウチらがイギリスいって、てっちゃんを連れ戻そ!」
末籐は、かなり、金銭感覚がおかしいのだろう。往復、いくら掛かると思ってるんだ。ばか。
「あのさ、ウチ、お金ないからな。」
宮倉が末籐に告げる。オレはニヤっと笑って、口を開いた。
「大丈夫やって。金持ちの末籐が出してくれるやろ。なぁ(笑)」
末籐が、表情を凍らせた。
「じゃあ、池原と森本は、除外…」
「せんといて!お願いします!」
「なぁ、友達やろぉ?」
「えっ、友達やったん!?」
どこまで連れていきたくないのか、邪魔なのか、果たして、どうなることやら。
ぁ、オレは河上ねー。そこんとこ、ョロシク。


月14日。
あれから4日。ウチらは、何の進展もなく、過ごしていた。あ、うちは、島谷麻由。んで、放課後。ビブレのゲーセンの傍らのソファーに集まったウチら。てっちゃんが消えてから、約、五日半。社会の授業もなくライブもなくて、ちょっとだけ、悲しい。
ソファーの上に仁王立ちした末籐。その手には、England airlineとかかれた、チケットと思しきもの。裏側がくろくて、面が緑だから、昼間の飛行機か。
「このチケットは、ファーストクラスのやから、高いし無くさんといてや!出発は、16日。関西国際空港のFゲートに集合。時間厳守、遅れたらコロス。」
「りょーかい。何時に集合?」
「九時。荷物は、手荷物と大型の二つにまとめてきてな。」
必要事項だけを荒っぽく説明した末籐。あまりの雑さに、呆れ顔の安原。理解力が皆無に等しい池原なんかは、既に言われたことを忘れたのか理解不能だったのか、チケットを光に透かしたりしていた。ノートパソコンの充電用に、変電機を買う河上と安原と末籐。そして、DS&PSPの充電用に変電機を買う池原、森本、西田。宮倉は人に借りるつもりらしい。うちは持っていかないから、関係ない。ビブレを出ると、午後五時。そろそろ学校の下校時刻だ。家から持参したチュッパチャプスを舐めながら、バス乗り場へ急ぐ。バスに飛び乗って、窓から外を見ると、固まってあるいてくる生徒。ふう、ギリギリセーフ…。

てなワケで、関西国際空港に居る。九時に集合したものの、出発は、14時。五時間暇なので、カフェにはいることにした。あんまし、俺はコーヒーは好きや無いんやけど、カッコイいと思われたくて、コーヒーを注文した。末籐もコーヒーを注文したらしくて、運ばれてきたコーヒーを何事もないように飲んでいる。俺はと言うと、甘党の俺としては、苦すぎて、砂糖をスティック四本入れることになって、逆にかっこわるかった。オレンジジュースを頼んだ宮倉は、何事もないように飲んでいる(当たり前!)。池原は、七分丈ズボンの裾を握りしめて固まっている。こんな、大人たちばかりのカフェは初めてらしい。マンガを読んだりネットサーフィンをしたり、human science laboratory(てっちゃんを連れ去ったであろう謎の組織。)についての情報を集めたりしていた。
「あっ!てっちゃんのチケット購入者はっけーん。」「大野春男さぁん。」河上と末籐が声を上げた。俺が散々探して無かった資料。は…まさか…
「さっすが、ハッキングすると、イイ情報が手にはいるな。」
やっぱり…。てか、ハッキングは犯罪だろ?コイツらの感覚、おかしくないか?宮倉が目をキラキラさせて、パソコンに飛びついた。お子ちゃまのクセに。そう心の中でつぶやいた途端に、宮倉に睨まれた。あれ、口に出てた?


4 :ちーづ :2008/12/12(金) 19:05:07 ID:nmz3Yno7

飛行機の搭乗口に行って、ファーストクラスに入る。フカフカのシートでぼふぼふ跳ねる宮倉。
「要。静かにしな、めいわく。」
一番、飛行機に乗り慣れてるであろう、末籐が注意した。当の末籐はと言うと、ノートパソコンのキーボードを右手で叩きながら、左手で文字を書く、薄気味悪いことをしている。離陸案内があった直後、宮倉の顔が引きつって、シートベルトを締めた。離陸から15分。機内飲料提供が始まった。それで貰ったオレンジジュースに手を付けて、やっといつもの宮倉に戻った。それから二時間ほどして、安原が眠ろうとしていた。
「荷物、頼んだぞ、末籐。」
「おっけーおっけー」
と、末籐はパソコンのディスプレイを見つめながらモロにテキトーな返事をした。その後しばらくキーボードを叩く音と、DSの太鼓の達人の画面を叩くカタカタ言う音が響いた。
カタ…カタカタカタ……カチッ
キーボードを叩く音が止まった。どうやら作業が終わったらしい。荷物番や、その他の雑用を押し付け、末籐も眠った。



三時間後。
目を覚ました末籐。安原はまだ天使のような寝顔で座席に丸まっている。宮倉以外のケータイを持っているヤツらが、その寝顔を写メで撮った。
二時間くらいたったころ・・・

安原が起きてきた。ムニャムニャと目をこすりながらムクっと起き上がった。
他の七人は、それぞれ好きな飲み物を飲んで、楽しそうにわらっていた。
眠気覚ましに…と安原は、Tim Tamを食べようと、カバンにてを伸ばした。
ガサガサ…ガサ…
いくらカバンをあさろうとも、出てこないTim Tamに安原はいらつきはじめた。
スチュワーデスに頼んで、オレンジジュースを運んで貰って、ぐいっと飲み干すと、また、カバンをあさりはじめた。

そんなとき…

「この、Tim Tamってチョコ、めっちゃ美味ない?」「安原のやのに…」
こそこそと話す、河上と宮倉。

ブチっ

「カァワァカァミィィ」
「あっ、安原…ヤバいな」
河上が急いでTim Tamをかくそうとした。安原が河上のてをつかんだ。
「や、やぁ、安原。」
「よぉ、河上。てぇみせてみ。」
安原が河上に殴りかかりそうになった。
ピンポンパンポン
「機体が不安定です。席について、シートベルトをお締めください。」

     チェッと、安原が舌打ちをした。


二時間後。

やっと飛行機から脱出できたといわんばかりに百回近く深呼吸を繰り返した。
安原はお詫びに・・・と河上が機内で買ったチョコレートをかじりながらかぶっていたキャップを脱いだ。西田は太鼓の達人のソフトをDSにセットして、小さなばち二本を取り出した。
末藤はまず、荷物をホテルに置きたいからいったんチェックインしようと、降り立ったグリニッジ国際空港からシャトルバスで7分のところにある大きなホテルへと向かった。

ホテルにつき、ロビーのチェックインカウンターに近づいた安原と河上。
しかし二人は自分が英語をろくに話せないことを忘れていた。
「May I help you?」
とフロントマンに尋ねられた。
「Ah・・・Ah・・・」
と、しどろもどろに答えた二人は、末藤の背中を押して、チェックインカウンターに突き出した。
『このホテルで一番、大きな部屋は開いていますか?』
『はい。最上階の部屋があいておりますが。』
『そこをお願いします。』
パッパとことを進めていく末藤。その横で宮倉がキャーキャーと騒いでいる。
エレベータに乗りこんで8人は、部屋へと向かっていた。
「部屋の別れ方は、小部屋が4、大部屋が1。えっと、小部屋にベッドが2ずつやな。」
7人は考え込んだ。
安原が顔をあげて、口を開いた―――。
「なぁ、俺らって、男子が5人、女子が3人じゃないか?」
うっ・・・と言葉に詰まった末藤。
『ドアが開きます。』
ちょうど、エレベーターの間延びしたチャイムが聞こえた。
「後できめよ・・・。」
はあ、と安原がため息をついた


5 :ちーづ :2008/12/12(金) 19:08:15 ID:nmz3Yno7

宮倉が、ううーんと唸りながら、あみだくじをつくっている。
「金の都合で…」
と、部屋を1つしかとらなかった元凶は、平気な顔で、ソファーにふんぞり返っていた。
1階の売店に歯ブラシを買いに行った島谷。
添えつけのものが、全員分あることを知らなかったのか。

「っしゃあ。」
宮倉が、定規を放り投げた。
あみだに名前を書いてゆく。
下の、折ってある部屋番号の書いてある部分を見ると・・・・・

「何で、うち、西田なん?」
と不満がる宮倉。
「森本とか、あり得へん」
「池原、サイテー」
と、口々に言い放題だ。
男子は・・・というと、真っ赤になった西田をつつきながら、
「夜はこれからやぞぉー」
などと、目を曲げる池原。
なるほど。そういうことか・・・


愚痴を言いながらも、それぞれの部屋へと向かう。
西田だけは、ぽぉーっと、のぼせたようにふらふらあるいている。
「かなめ、おいこら、まてや、か・な・め!」

末藤は、ニヤッと嫌味な笑みを見せて、
「がんばれよ。世界最強の鈍感女。」
といって、部屋に入って行った。
「うちのどこがどう、鈍感やねん・・・」
と一人でつぶやくかなめ。本当に、恋愛には鈍感である。

島谷は、森本のもじゃもじゃの頭をひっつかんで怒っている。
部屋から直通のバルコニーに出されて、鍵を閉められた森本は、
亀のように、首を縮めた。
七月とはいえ、夜はひえこむ。
隣の部屋のバルコニーに、満面の笑みで出てきた西田に、ちぇっと悪態をついて、
床に座り込んだ。
冷え切ったコンクリートの床は
快く森本を迎え入れた。

西田は、以外にも宮倉と仲良くやっていた。
部屋に、向かいの、池原と末藤を呼んで、チーム戦の
大富豪をしていた。
三連勝して、宮倉とハイタッチを交わすとき、
責任をなすりつけ合う二人を尻目にウハウハだったのだ。

快くコンクリートに迎え入れられた森本は、隣の部屋の窓を通して聞こえる笑い声に
耳を傾けた。「はあ」とため息をつき、あきらめ半分で窓を引く…
と、相変わらず鍵は閉まっている。

しばらくぼーーーっと座っていると、不意に隣の部屋の窓が開いて、
人が出てきた。
「あっ、もりもと。
助けてあげてもいいんやけどな、その部屋さ、かぎかかってて…
だから、そっちのバルコニーに移動してくれる?
なら、入れてあげれるから。」
一瞬で状況を理解したらしい末藤は、一旦引っ込んで、反対側のバルコニーに
出てきて、非常用のはしごを出した。
そのまま、窓を開けっ放しで西田と宮倉の部屋へと向かった。


どうやら、島谷は寝てしまったらしい。島谷を除く七人でダウトをして遊んでいると、河上のパソコンが無機質な声を発した。部屋が静まり返った。
『目的の人物が移動しました。目的…』
音声案内を繰り返すパソコン。ディスプレイに宮倉が飛びついた。GPSの赤い点はグリニッジのタワーマンションから、現在運行中のBlueHighwayTrainに移っていた。目的地は、ロンドン。深夜運行だから、後20分で出発だ。駅までは此処から歩いて七分。起きている七人がサッサと身支度を整え、必要最低限の着替えとお金をもつ。島谷をひっぱたいて起こし、ズルズルと引きずりながらロビーで停止しているエレベーターを呼んだ。その間に、パソコンから列車のチケットを8人分購入し、キャッシュカードの番号を打ち込んだ。
駅に着くと発車一分前の汽笛を鳴らした車掌が降りてきた。急いで列車に乗り込んで、座席を探す。一番いい車両の座席を取っているので、人は少ない。通りすがりに東洋人の人とぶつかった末藤。
『ごめんなさい』
「気にしないで、大丈夫。」
英語を使ったにも関わらず、日本語で答えた青年。帽子を外した顔は、外人と見紛う程の美形だった。末藤の目を覗き込み、「大丈夫?」と尋ねた青年。
「…大野春男…」
「えっ…」明らかに青年が動揺した。末藤は顔を上げた。安原が口を開く。
「ロンドンにあるhuman science laboratoryに向かっている途中。白崎徹也を人体蘇生実験の実験台第一号にすべく、あたかも親しげな友人を装い手紙を…「黙れ!俺は大野春男なんかじゃ無い!!」安原の見解を遮り、怒鳴った大野。綺麗な連携プレーで、池原が写真を取り出した。
「五年前の7月、HSLが開いたときに撮られた写真。左から三番目の青年が大野春男。貴方だよ、違う?」

そんななか、河上と末藤がその場をはなれ、お互いに逆方向へ歩き出した。
大野は依然、驚いたように安原をみつめている。一方ー。
 河上は、女子から借りたワンピースに袖を通した。それから、昨夜教えて貰った通りにメイクをしていく。薄くルージュを引き、マスカラを付ける。そして、ダークブラウンのカツラをかぶり、軽くこてで巻き、緩いカールをつける。そして、スニーカーを脱ぎミュールにはきかえると、可愛らしい女の子が完成していた。河上は鏡を覗き、頭から脚まで入念にチェックし、カチューシャをつけた。
 末藤は着ていた女物のTシャツから、大きめの黒いTシャツに着替え、ヒールのサンダルから白地に黒のラインの入ったスニーカーを履く。そして、髪を一つにまとめ阪神タイガースのキャップの中に押し込めると、着ていた服や靴を紙袋に詰め、襟元にボイスレコーチェンジャーを着けると、その場を後にした。
 二人は、同時に車両のドアを開けた。振り返った大野と六人は、絶句した。
背の低い男の子と、嫌に可愛らしい背の高い女子。
「「大野、春男さん?」」
二人の声が重なった。
大野は観念したように床にひざをついた。しかし、うつむいたまま、笑い声を上げ始めた。八人は眉をひそめた。


「探偵ごっこなら、学校でやりなさい」 笑いながらそう言った大野。しかし、目は笑っていなかった。
この車両には、大野と八人以外に乗客の姿はない。ならば、てっちゃんは…

それに応えるように、大野は
「徹也は今はいない。いや、ここには居ない。」
ワケがわからない。てっちゃんは居ない?まさか、眠らされて貨物に…
綺麗な顔を歪ませて、安原は
「俺らのてっちゃんに、何かしたら許さへんからな!!」と言い放つ。
大野はバカにしたようにふっと笑い、席に座った。気まずい空気のまま、電車はロンドンへと向かっていた。

徹也とは、ロンドン駅前で落ち合うつもりだ。あのガキたちに邪魔されなければ、あの「世界初」人体蘇生実験は上手く行くだろう。気になるのは、あの背の高い少女と、俯いたまま顔を上げなかった背の低い少年だ。あんな奴ら、初めから居ただろうか。それに髪を二つに結った子と、一番背の高かった少年は何処へ行ったのだろう。どうやってアイツ等はここまで来たのだろうか。何もかもがわからない。『次の失敗は許さないからな!』研究所の所長の言葉が頭の中でリピートされた。大野はブルッと身震いした。

車両の天井の蛍光灯がジジジッと音を立てた。



いつの間にか眠っていたようだ。
不慣れなワンピースとミュールがずれている。
てっちゃんはどこにいるんだろうか。
一番心配しているのは島谷だろうか。そんなことはどうだっていいはずなのに。

大野の席の上の蛍光灯がチカチカと瞬いている。
ただそれだけなのに、なにかが不安だ。
人体蘇生実験。
成功例どころか、世界初の実験だ。
失敗したら、どうなるんだろうか。
いや、実験を中止にできるだろうか。何で来てしまったんだろう。
こんなに恐ろしいとは思わなかった。

「河上。どうしたんや?ロンドンまであと四時間はかかるぞ?
明日は、一応HSLに近いホテルを末藤がとってたけど、
あんまり寝れへんと思うぞ?・・・・・」
安原が、明日の簡単な予定を説明してくれている。
安原の話は頭にはいってこない。すまん、安原。
「・・・・・・・てっひゃぁん・・・らいぶぅ・・・」
島谷が寝言をいった。
《あと、三時間でロンドンに到着します。繰り返します・・・》


6 :ちーづ :2008/12/12(金) 19:09:43 ID:nmz3Yno7

ん?
大野はてっちゃんはここにいないと言った。
でも、GPSの反応はこの電車。
ロンドンにてっちゃんも行くって事は確かなわけだから、
この電車の別の車両にいるかも知れない。
「安原・・・オレちょっとでかける。
てっちゃんはこの車内にいるとおもうし。」
まあ、居たとしてもどうすることも出来ひんのやけど。


大野に気づかれへんように隣の車両に移る。
ここは普通車両で、次は寝台車やから、ここしか見れへんけど。
人はまばらで、皆寝てるみたいだ。
ロンドンのおっきい駅でてっちゃんをみつけるんは、至難の業。
この機会を逃したら、つぎはHSL。行ってみたい気もするが、目的はてっちゃんの救出。出来れば早めにみつけて少しくらいは観光をしたいものだ。
一人一人顔を見ようとするものの、ほとんどの人が帽子をかぶっていたり、ブランケットに顔を埋めていて、なかなか確認出来ない。
しかも、アジア系の人はおらず、結局なんの成果もあげれなかった。



あの餓鬼、どこへ行った?
寝台車よりも向こうの車両へ行ってしまえば、徹也がみつかってしまう。
どうもあの集団のなかの数人は頭がよくはたらく。刑事の息子とかなのか?
HSLは確かに法律すれすれだが、一応世界が認めている。
あんな奴らにやられてたら、HSLが廃れる。
徹也は、大切な実験体だ。やすやすと渡してたまるもんか。
『あっ。てっちゃん!』
向こうで声が上がった。
見つかったのか?まずい……。
『なぁ・・らいぶぅ・・・・・』
寝言か?いやにむにゃむにゃと喋るしな。
寿命が30年縮んだ気分だ。
ロンドンまであと二時間です。とアナウンスが流れた。


早くロンドンに行ってみたい。
初めての海外旅行に胸が躍っている。
大学を卒業後すぐの就職で、全然暇がなかった。
今回、この旅行に誘ってくれたのは、大野春男という特に親しくもない友人だった。

「職場を案内したい。」
そういって、電話がかかってきたときは、受話器の前で小躍りしていた。
あの、「らいぶ、らいぶ」と五月蠅い連中から離れることができる。
春男は中学の同級生で、最近は全く会っていなかった。
高校卒業後すぐに単身でイギリスへ飛び、ヒューマンなんたらかんたら云々に勤めているという噂だけ聞いていた。
何年振りだろうか。
観光も楽しみだが、春男に会うのも楽しみだ。
あいかわらずもてているのだろうか?
まあ、秀才なのは確かだろう。HSLは、世界のトップの科学者の集まりなんだから。
学校側には、友人の結婚式だから、生徒には言わないでくれとお願いしてある。
まさか、居場所がわかる奴なんていないだろうが。

そういえば、携帯にストラップをつけようと思って持ってきたんだった。
ギターのシルエットのような形の島谷からもらったストラップ。
結構カッコイイ。しかし、素材は何だろう。
ゴムっぽい気もするが、ゴムにしては重すぎる気がする。
下手に壊して直らなくなったら、島谷に殺されるだろう。

<ロンドンまであと、一時間です>
そうアナウンスが流れた。
そろそろ対策を言った方がいいだろうか。
英語をしっかりと話せそうなのは誰だろう。
宮倉は無理、島谷はOK、河上は微妙、西田は…わからない。
一旦座席を立ち上がり、大野春男の席へ近づく。
そして―。
「あたしを敵に回したことを後悔してください。」


野の顔がひきつる。
「なんで貴方がHSLに勤めているとわかったのでしょう」

は・・・?
HSLに勤めていると知っているのは両親と徹也とあとひとり・・・
それはネット上の人物、情報屋のchi-duだ。
「ちーづー」
「ん?」
は、ちーづ?まさかとは思うけれども・・・・。
「おまえ、なまえは?」
「末籐千鶴。情報屋のchi-duです。」
うそだ。これは嘘だ。夢に決まっている。
目の前の情報屋がにやり、と音がしそうな笑みを浮かべた。

間もなくロンドンです。と場違いなアナウンスが流れる。
「じゃあね。
わるいけど、あんたの実験台は返してもらうから。うちらにも必要なんだ。」
そう言って情報屋は離れていった。
ほんとにガキか?
あの八人全員(ごく一部を除く)、どこか何かが違う。
実験を何としてでも成功させなければ。
局長に通告されてしまったのだ。
「次に失敗したら、君は研究員として失格だ。」と。

「う・・・ん?おお、春男!」
「よお徹也。まあ、俺のアパートに荷物置きに来いよ。」
話しながらロンドンの改札口を離れていくふたり。その後ろに続く二人の影。
片方は身長150pにも満たないロングヘアーの女子。
もう片方は身長160p位の少し髪が長めな曲がった眼をした男子。
池原と末藤である。

「アパートまでは、ここから五分くらいらしいしな。付いていって写真を撮ってかえろ。」
「んなもん、どうするんや?写真なんか役に立つんか?」
「お前並に理解力のない奴がおるやろ?一本道で迷子になるようなカナメちゃんが。」
ああ、と池原がうなずく。今頃くしゃみでもしているかもしれない。
「なあ、池原。お前って何で付いてきたん?」
「んー…。なんでやろなあ。ま、先生にあいたいしなあ。」
前を歩いていた二人が足を止めた。
その先にあるのは、白を基調とした感じの四階建てのアパート。
デジタルカメラを出して写真を撮る。
と、大野が一枚の紙を落とした。
本人は気付いていないようなので、そぅっと近づき拾い上げる。
内容は今回の実験に使う用具と詳細。
「おい、どうしたんや?末藤、おい?」
にやり、と末藤は口の端をあげた。
「ちーづ、なんか成果あったか?」
小首をかしげながらやたらとニヤニヤしているちーづ。
あの紙には、結構な重要情報が書かれていたのだ。
研究員の名簿、実験に使う薬剤や問題点。
「てっちゃんが犠牲になるんは明日やなあ。」
島谷の顔が凍りつく。
森本がなぜか舞っている。

「なあ、春男?何でおれを呼んだんや?」
「ああ、なんでやろ・・・」
と、しらばっくれる大野。
ホントの理由なんかを言ったら、即座に逃げられてしまう。
ワインのコルクを引き抜く。
甘いブドウとアルコールの匂いが漂う。
酔わせてから、酒に睡眠薬を混入して眠らせ、研究所まで運ぶつもりだ。
車の手配もしたし、薬やユニットの準備もできている。
次は・・・
と、ジーンズのポケットを探る。
実験要項の紙を入れておいたはず・・・なのに、ない。
どうしよう。
大野は頭を抱えてうずくまった。


7 :ちーづ :2009/07/04(土) 18:44:55 ID:nmz3Yno7

「西田ぁ。」
末藤が唐突に呼びかけた。
突然呼ばれた西田は困惑した様子で振り返った。
「あ、怒る内容じゃないからだいじょーぶやで?」末藤は不自然なくらいの笑みを浮かべた。見て分かるくらいに落ち着いた西田は何?と聞き返した。
お前、薬品関係詳しいよな?という末藤の問いかけに恐々と肯定の意を示した。
水分を含めば発砲する胃薬を探してくるように指示する。
西田は宮倉に同行を頼んで、ホテルの近くの薬局へと走って行った。

「ちーづ、何するつもりや?西田やなくても買えたやろ?」
まーな、とあっさり末藤は肯定した。
「んな、二人が邪魔やからに決まってるやろ?
ほら、フォーメーション組むから車座に座れ。」
全員が車座になった。大野が落とした用紙を机の上に広げた。
末藤はある一つの薬品名を指差した。そこにはプロスタグランジンEと書かれていた。
「これはな?増強剤、いや、増血剤やねん。けどな、この薬は何かに溶かさへんかったらここに書いてある量やったらかなり危険やねん。しかも人工蘇生中にこの薬品投与するから、てっちゃんは―」
死ぬかもな。と、末藤は続けた。
早くも島谷はパニックに陥りかけていた。安原は真剣な顔をして聞き入っているし、森本は失神しかけていた。河上は頑張って落ち着こうとしているし、必死でみんなが耐えていた。
「…とまぁ、今の万まではこうなるわ。でもな、今西田と要が買いに行ってる発砲胃薬が今回のカギや。」
単なる時間稼ぎやけど、と池原が付け加えた。

HSLの一階担当や、裏口からの侵入配備を話し合い、西田と要がかえってくるのを待った。何も知らない二人はみんなのいつもより静かな表情を見て、不安そうな様子を見せた。手先の器用な森本は二人の買ってきた胃薬を丸く削り、カラーセロファンに包んだ。


8 :ちーづ :2009/07/10(金) 15:22:58 ID:nmz3Yno7

そして、突撃は突然に

朝3;00。
末藤は目を覚ました。まずは寝起きの悪い河上、宮倉、安原に声をかける。
次に島谷の頭上に時限クラッカーをセットし、導火線とも呼べる、紐に火をともした。残るは池原と、森本、西田である。三人は比較的寝起きはいいので普通に声をかけて一発で起きてもらう。気温はマイナス2℃、半そでではあまりにも寒い。

全員の顔ぶれがそろったところで、末藤はカラーセロファンにくるまれた発砲胃薬を一人一つずつ配った。使い道が分からず首をかしげる面々。そこで末藤は使い方を説明した。
「これは、濡れたら泡が出る薬なんやけど、HSLに入って、一番最初に研究員にあったやつが『てっちゃんの好きなラムネなんで、食べさせてあげてください』って渡して。」
何となく意味は理解したらしい。会った奴は、各々の携帯からメンバーにメールを送ることになった。

いざ」、潜入。
正面からの末藤、森本、西田、宮倉。裏口には池原、安原、島谷、河上。
せーの、のメールでそぅっと入り、バディを組んだ宮倉と西田以外は一人での行動になる。
白すぎる壁に目をちかちかさせながらも子供たちは潜入を図っていく。
フランス語で書かれた看板に、「→実験室2」と書かれているのを発見したり、
掃除用具入れに隠れたり、子供は子供なりの知恵を遣うのだった。


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甘辛流小説家ギルドGAIA
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