小説を書くこと困難にて候


1 :一八十 :2009/05/18(月) 21:23:08 ID:ocsFuctm

 お久しぶりです。
 塚里一あらため,一八十(たいら)です。

 最近書いた短編です。
 この後も書いたら,載せます。
 書いたら……。

 サークルの会報に投稿したものが主になるのです。
 風味を損ねないように,後書きなどもそのままです。
 折り返しが,うざいけど気にしないで下さい。


2 :一八十 :2009/05/18(月) 21:24:16 ID:ocsFuctm

三歳の話

 小説を書くこと困難にて候

 生来の不精癖が、ついにたたってしまったようだ。
 書くぞ、書くぞと言いながら半年をも怠惰にむさぼり、
気がつけば明後日が期限というではないか。
 慌てて何かを書こうと思っても、生憎とネタが無い。ネ
タが無いので、図書館に行って字を眺めてみても、心の急
いている時は、思いのほか頭が回らないもので、ひらめく
ものがない。存外に自分は土壇場に弱いものだな、と思い
つつ、しかし、世のことには責任が付き纏う故に、何とし
てでも書き上げねばならぬ、という重圧に押しつぶされそ
うな次第である。
 元来、自分は筆の立つ人間ではない。かく文筆業などと
いうものも、自身の戯れに平生の日記のごとく行っていた
程度のものであって、けして、誰か彼かに見せる為にして
いたのではない。ならば何故、書くぞと言っていたのか、
となると、それは自分の少し厄介な性情に所以するところ
である。
 曰く、自分の中の虚栄心が取り返しのつかないところで
爆発してしまった為である。
 我が部には一人優れた文筆家がいるのだが、あろうこと
か自分の虚栄心と自尊心が彼に嫉妬の鎌首をもたげて掛か
っていったのである。止せばいいのに、事あるごとに彼の
作品や思考に難癖をつけ、不当な糾弾を行ってきたのであ
る。
 さて、これに頭がきたのは当人であるよりも、その周り
の華やかなる創作者の御仁たちであった。彼らは異口同音
に、ならばお前の作品を見せてみろ、と言うのである。な
るほど、確かに批評者が手本を見せぬというのは道理が合
わぬ、というのには、一理ある。よろしい、ならば書きま
しょう。しかし、今はネタが無いので、待っていただけな
いだろうか、と言うと、ならば半年待とう、ただし、半年
待って書かぬというならば、君に謝罪するのだ、と言う。
はいはいわかりました。よござんす、と返事をしてから最
早六月が経とうとしている。
 窮鼠猫を噛むの、鼠のような気分で、己を鼓舞するも奮
い立たぬ。ならば素直に謝罪すればよろしいか、というと
そんな気にもなれぬ。全く難儀な性質である。
 とはいえ、かく無駄話を何時までも続けていると、鬼が
如く編集長の罵声が頭の中に響きだしてきたので、前置き
はここまでにしておこう――


 一

 あるところに三歳と呼ばれている男がいた。字面は似て
いるが、三蔵ではないことに気を付けよ。さて、この男が
三歳と呼ばれる由縁を話しておくとしよう。
 この男、今年で十四になるのであるが、落ち着きがなく、
常に視線を泳がせている。視線を泳がせているだけならば
まだ良かったが、ある授業中に、突と立ち上がると、その
ままふらりと教室を出て行く。慌てた教師がその姿を捜し
求めるに、いない。あれ、どこに行ったのかと思っている
と、今出た教室の中から、きゃあきゃあという悲鳴が聞こ
えてくる。何事かと室に戻ると、あろうことか、窓の外に
三歳がいるではないか。壁の縁に足を掛けて何かをとろう
としている。離れた窓から首を出して見ると、なんとそこ
に子猫が蹲っているではないか。どうやって気が付いたの
かは知れぬが、三歳は外の子猫の窮を救おうとして、何事
も言わず立ち上がったのである。
 しかし、一種英雄的であろうこの姿は、今も昔も変わら
ずに愚行ととられるものだ。教師なぞは、かんかんに怒り
狂い、おい、貴様は一体何を考えているのか、と問い詰め
る。これに三歳、ただ、べそをかくのみで答えず。その姿
が、要不要を見極めることも出来ずに、叱られる三歳児の
如くにて、三歳と呼ばれるようになった。
 その由縁を知るものは、三歳を歓待の意を持って呼ぶが、
その意を知らぬものは、愚人と嘲りの体を持って呼ぶとい
うことだ。
 伝え聞いた話ゆえに、いささか脈を得ていないこともあ
るが、三歳という名の由縁はそういったことである。


 二

 徒歩遠足というものがある。各組毎に目的地を決め、そ
こまでを往復するというものである。
 さて、三歳はこれを非常に心待ちにしていた。行き先が
決まるやいなや、図書室へとこもり、真剣に地理を勉強す
る。それを見た者どもは、「何を熱心に勉強しているのか、
単に原っぱへと歩くだけではないか」「いや、君。彼は三
歳だ。おそらくにも外に出るのが初めてなのではないかし
ら。その為に張り切っているに違いない」「なるほど、三
歳か。ふむ、まさに三歳だ」などと、口々に囃し立てた。
 現に、彼らが向かう先というものは、何もない原っぱの
ような公園である。学校からの眺めも、脇に並ぶ雑木林く
らいのものである。
 しかし、三歳は、何故だか真剣に本を勉強するのであっ
た。その姿を滑稽に思ったものこそあれ、感心に思ったも
のは誰一人いない。


 三

 当日のことである。果たして三歳の組が出発することに
なったのだが、先頭に引率の教員。続いて級長と、後は好
きなように並ぶのであるが、その最後尾に三歳は付いた。
 目の下が黒いのは、興奮して夜眠ることが出来なかった
所以か。その姿を見て、級友たち。いかにも三歳だ、とま
た囃し立てる。これには、三歳。少し頬を膨らませるが、
別段何を言い返すこともない。
 さて、目的地に着いたとき、引率の教師が点呼をとるが、
一人足りない。何度も確認するが、やはり三歳がいない。
一体、どこに行ったのかと、他の学生たちも知らぬという。
三歳を笑いものにするとはいえ、三歳のことをよく見ては
いなかった。
 これに慌てたのは、この教師である。自分の引率した生
徒の中から、行方不明者が出たとなれば、大問題である。
取りあえず、学生たちを探しに出させているが、落ち着か
ない。
 ついぞ思い浮かぶのは、先日の会議の時である。三歳の
組の担任が出張の為に、遠足に行けないということになっ
て、それでは誰が引率をするのか、ということである。
 普段より、奇行の多い三歳のことである。我こそは、と
いう教師は誰もおらず、結局くじ引きということになった。
 その貧乏くじを引かされたのである。


 四

 しばらくして、一人の学生が雑木林の中に三歳を見つけ
たと言って戻ってきた。しかし、三歳を連れて来ない。一
体何をしているのだ、見つけたのならば連れて来なくては
無駄足であろう、と学生をたしなめるが、いえ、それが出
来ればそうしているが、それが出来ないから、こうしてい
るのだ、という。どうぞ、先生が見に行ってください、そ
れでわかります。
 ならば、と見に行くと、三歳が蹲っているのが見える。
草むらの中に座り込んでいるので、何か用を足しているよ
うにも見えたが、その三歳の表情が尋常ではない。
 行く時に見えた、快活な様子は既に面に無く、今にも泣
きそうな表情で、ぼうと、下を見ているのである。こう、
あっさりと書くと、尋常さながらのようであるが、非凡な
言い方をすると、この世の終わりを見たような、そんな表
情であった。
 おう、君、どうしたのか、と問いかけても答えがない。
ただ下を見るのみである。
 この時、教師の心には、何ともざらざらした感じがした。
それは、怒りである。なんという餓鬼だ。かくも他人に迷
惑を掛けておきながら、何とも言わぬとは。三歳、三歳と
言われてはいるが、これでは赤ん坊ではないか。一体こい
つの頭はどうなっているのだ、と。
「君、言葉を出さねばわからぬ、何をしているのか」
 徐々に声が荒くなっていく。その声に、びくりと肩を震
わせながら、三歳がぼそりと言うには、はながない。
 教師、それを聞いて意味がわからぬままに、激昂した。
三歳の首を掴み、無理やり立たせるとそれを引きずって帰
ってきたという。


 五

 その後、まもなくして三歳は自らの首を吊ったという。
 足元に拙い字で書くには、閻魔のみ聞く、との事である。



 以上が、先日、ききかじった話のあらましである。
 何、小説を書くといって、書いていないではないか、と
文句の聞こえてきそうなところではあるが、説話文学も一
種の小説である故、勘弁していただきたいものである。



 あとがき

 はじめまして。塚里一です。
 取りあえず、編集長様、間に合いました。どうかその鬼
のような赤面を収めて下さいませ。
 新入生のみなさん。どうも。二年目の塚里一です。一年
目ではありませんので、ご注意を。
 そして、会外の読者の皆様。最後まで読んでいただけて
有難う御座いました。
 様々な考えを持たれましたでしょうが、この作品は、解
釈を加えないで読むことに意義があるのです。というのは、
私自身この作品を書いた目的は、作品の中に語り部を立て
て、その語り部の作品を作品として出す、ということをし
てみたかった為であるからです。つまり、元より内容など
ない話で、一種のナンセンス文学として見ていただきたい
のです。
 とはいえ、こんな理屈で後書きを終わらせるのも難です
から、少しタネを明かしておきましょう。
 この作品を書いている時の私の心中は、ただ一点のこと
につきます。「話を聞けない人間は、簡単に人を殺す」と
いうことです。
 と、これ以上話すと折角のお祭り気分が損なわれるので
話しませんが、今一度自分の姿を見つめなおして下さい。
「人が話している時に、相手に意識を向けていますか?」
「話の途中で勝手に切り上げたりしていませんか?」
 特に、相手を子供だと侮っている人こそ、相手の話を聞
かないものです。大人への第一歩。人の話を聞くこと。
 よくよく自分を見つめなおして下さいね。

(って、てめ〜が一番人の話聞いてねぇだろ)
(だって、カウチ・ポテト世代だも〜ん)


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