TADAAKI


1 :みーな :2007/02/05(月) 23:29:51 ID:ncPiW7P3

実体験に基づいた、謎のおはなし。
温かい目で見守ってやって下さいな。


9 :みーな :2007/07/18(水) 02:42:31 ID:ncPiWHxA

その男、嘘つきにつき

 TADAAKIが集団に手を染めるような人間じゃないということはとっくの昔から気づいていたことだ。常に孤立無援、孤高のおじさんというイメージがまとわり付いて離れなかった。水の中でただ一つ水面に浮く油。それは世俗から大いに外れているように見えて、真実だった。
  他の人と一緒にされたくない。みんなと同じような服を着て流行に合わせたくない。自分に嘘をつきたくない。こんな理由で、自分自身に正直に生きている人が「変わり者」と呼ばれてしまう時代になっている。TADAAKIはその代表格と呼ぶに相応しい。
 からかわれようが、自分らしく生きて周りの人と疎遠になろうが、それでも己の意思を貫く人間がなかなか少なくなっている。TADAAKIがそんな人なのかどうかは分からないが。
 ただ、どうしても、彼が同好会などといった集団行動に両足を突っ込むようなタイプに見えないだけだ。
 私は四限の講義の後、学内のラウンジでぼんやりしていた。さほど弾力があるとも思えない安物丸出しのソファに浅く座り、見るというよりかはただ視界に入っているだけのテレビを見つめていた。芸能人が集まって社会情勢について辛口トークをする番組が、見ているものの意思とは無関係に漠然と、何も知らないように流れている。こういうふうに、何と無しに止まったような時間を租借するのが私は好きだ。
 TADAAKIに何を聞くべきか。もう既に終わりが見えているような気がするんだけどな――って、何の終わりだよ、私。自分にツッコミを入れながら頭を軽く振った。ちょっとばかし思考回路が変になってきてるなあ、やばいなあ、それもこれもぽやーんとしてるTADAAKIのせいだ、絶対。人に罪をなすりつけて適当に言い逃れをしながら、私は考えた。
 あいつは、きっと、嘘つきだ。
 何をどう嘘をついているか、なんて、まだ明瞭には分からない。まだ、直感の域から出ていない。きっと、誰にも自分のことを知られたくない、認められたくない、という項目か――あるいは、TADAAKI自身が。この世界は嘘を真実で塗り固めているだけの下らない投資社会なのだ、そういった疑いすらも。私にはきっと、どう自分の心を左右されても、他人に認められたいという気持ちを抑えることは出来ない、それが本能で分かっていた。
 誰にも認められたくない人なんているのだろうか? 人として、あるいは幸か不幸か感情を持った生き物として、愛されたいと願うのは切なるものであり、誰もがそうであって当然なものではないのだろうか。TADAAKIの言動からそんな様子は微塵も見受けられない。人を突き放し、簡単には信用せず、何事も「それなりに」こなす八方美人で、故に己に嘘をついている。そんな気がしてならない。出来れば、というより強く絶対の言葉をもって、他者に自分を受け入れてもらうという普遍的なコミュニケーションを欠いて相容れない、心に何重にも錠をかけ、自分が傷つかないために理解者というものを得る可能性を永久に失おうとしている、ように見える。
 あのTADAAKIは。
 私は急にいたたまれない気持ちになり、ソファから立ち上がって、キャンパス北側にある部室棟へ向かうためラウンジを早足に出た。渡り廊下を通って、学生の間を抜けていく。不思議と、身体は軽かった。
 きっと彼は嘘だらけなんだ、嘘をエンジンに走ってきただけの人なんだ。直感的にそう感じていた。ギターで「ティアーズ・イン・ヘヴン」を弾いているときの彼の横顔。それが言葉で表現できる限界を超えているほど深く、それでもオブラートに包まれた悲しみで形成されたものだと、ふと思い出した。


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