ノエルの夜に間に合うか


1 :塚里一◆QAFmnVYA :2008/12/23(火) 15:35:28 ID:ocsFuctm

 ノエルの夜に間に合うか【完成版】です。
 今日載せるのが前半。
 後半は明日投稿します。


2 :塚里一◆QAFmnVYA :2008/12/23(火) 15:36:37 ID:ocsFuctm

はじまり

 ジョニーは激怒した。
 それはもうメロスのように。

 彼は、日本に勤めるサンタクロースの一人であった。クリスマスシーズンになると、緋
色の衣装に身を包み、担当の地域の子供たちに、プレゼントと夢を配る派遣社員である。
 彼は、その仕事に誇りを持っており、生きがいを見ていた。何より、次の朝に喜ぶ子供
たちの顔を思い浮かべるのが、彼にはたまらなく幸せであったのだ。クリスマス以外に、
他の仕事をしている時も、彼の心は常にクリスマスを待っていた。そして、12月の頭に、
仕事の依頼の通知が来ると嬉々として準備を始めるのである。
 しかし、今年は幾分か事情が異なっていた。

 12月1日。
 彼のもとに、一通の封筒が届いた。差出人を見ると、『鞄本サンタクロース』と書い
てあった。彼は、用意していたペーパーナイフで、その封を開けようとして、はたと気づ
いた。今年の封筒はやや軽い気がする、と。よく封筒を見ると、一目で薄いということが
わかった。彼は封を開ける手を早め、やや乱暴に中の書類をあらためた。

 その一番上に重ねられた一番上の一行には、
 「派遣停止のお知らせ」と無機質に書かれていた。

 彼は、しかし、冷静であった。国語辞典を使いながら書類の一枚一枚に目を通した。そ
して、最後の一枚を読み終わって後、彼は激怒した。
 書類の内容は、不景気による業務縮小と、それにともなう派遣労働者の解雇についてで
あった。だが、何より彼を怒らせたのは、「クリスマスプレゼントの配達業務の停止」で
ある。大人の都合で、子供達の夢を奪うのが、彼にとっては、たまらなく悔しかった。
 彼は自宅を飛び出した。その時、彼は非常に単純な男であった。雇い主を問い詰めて、
業務を再開させようと、そう考えていた。彼は、コートも着ずに冬の街を駆けていった。
 彼は、口は上手い方ではなかった。やがて、無事に会社にたどり着いたが、雇い主を前
に、なにを言えばいいのかわからなかった。口をぱくぱくさせて、棒立ちになっていた。
雇い主は、口の端をつり上げながら、そういうことだから、とだけ言った。

 彼は、寒空の中に一人立たされた。


 ◇  ◇  ◇

 南城幹久は、困惑していた。
 受注会社からの一方的な通知に、彼はどうすればいいのかわからなかった。
 
 彼は、3年前から『鞄本サンタクロース』という会社にクリスマスプレゼントを入れ
るためのソックスを納めていた。彼のつくったソックスは、プレゼントの配達を依頼した
各家庭に配られる。子供たちは、そのソックスを窓の外に吊るし、夜の内にサンタクロー
スがそれにプレゼントを入れていくことになっていた。北海道や東北などの雪の降る地域
では、彼のつくる「マイナスKでも凍らない」製品が重宝されていた。

 しかし、今年は幾分か事情が異なっていた。

 つい先程、彼の携帯電話に、受注会社から電話があった。彼は、何事かと電話に出て話
を聞いていたが、その顔がみるみる青ざめていった。彼は、目の前に積まれた完成済みの
ソックスの山を見つめながら、茫然とした。
 唐突な受注停止であった。しかも、金銭的な保障は一切ないとのことだった。
 彼にとって、子供の夢というものは、気にするところではないのだが、何より彼の抱え
る莫大な借金が掛っていた。普段から一定の収入はあるのだが、最大の収入源であるクリ
スマスソックスが受注されないとなると、採算がとれない。何より、彼はすでに製品を完
成させていた。その損失は大きかった。

 彼は、絶望しながらも、しかし、冷静であった。
 彼は、ある人物に電話をかけることにした。

 電話から30分後。彼は出かける仕度をはじめた。


 ◇  ◇  ◇

 雲野のぞみは、迷惑していた。
 目の前の男に対して、どう接すれば良いかわからなかった。

 彼女は、待ち合わせの場所に行く途中で、茫然と立ち尽くしている男の姿を見つけた。
男は、一軒のオフィスビルの前で、固まっていた。彼女は、男に話しかけたが、凍えて口
がきけないようだった。
 彼女は、慌てて来ていたダウンコートを彼の肩にかけると、近くのファーストフード店
に引っ張っていった。暖房の近くの席をとって、ホットコーヒーを手渡すと、彼は、セン
キューと言って、それを啜った。
 彼女は、携帯電話を取り出して、待ち合わせの相手に場所の変更を申し出た。
 この男の相手なら、彼の方が適任だ、と思ったのだ。

 彼は、1時間後にやってきた。


 ◇  ◇  ◇

 山田聡一郎は、待ち合わせの場所に到着した。

 『ファストチョコレート』という名のファーストフード店の奥の壁際に席に、3人の男
女が座っていた。彼らの周りには誰もいない。もっとも、客が全くいないのではなく、彼
らから遠ざかるような位置に皆が座っているのだった。
 そう。彼らは異常すぎた。
 先ずは、大きな南瓜を被ったスーツ姿の男がいる。南城幹久である。次に、女もののダ
ウンコートを羽織ってがたがた震えている黒人がいる。ジョニー・マイヤーである。最後
に、そんな異常な存在の中で、迷惑そうな表情こそあれ、まったく気後れすることのない
女子高生がいる。雲野のぞみである。
 山田は空いている席に座った。

 彼は、鞄からファイルを取り出して、中の書類をテーブルに並べた。その数100枚に
及ぶであろう紙の束は、4人掛けテーブルの端からこぼれおちながら、積まれていく。雲
野がたまらずに隣のテーブルをこちらにくっつけた。

 こうして、奇妙な4人による場違いな会議が始まった。


 ◇  ◇  ◇

 翌朝、『鞄本サンタクロース』の幹部集団は、突然のニュース報道に度肝を抜かれた。
 全国ネットでの一部業務停止の報道がニュースに流れ、いよいよ苦情も殺到するであろ
うというタイミングで、『挙本セントニコラス』という企業が業務の引き継ぎをすると
いうニュースが流れたのだった。
 彼らは、そのような企業など聞いたこともなく、事業引き継ぎの契約など結んだ覚えな
ど、当然なかった。彼らは、事実関係の把握を急ごうと、例の会社に連絡を取ろうとした
が、インターネットにそのような企業はなかった。ニュースで報道されていた、会社の電
話番号にかけるが、つながらない。
 その時にはすでに、『鞄本サンタクロース』から『挙本セントニコラス』に乗り換
えた客たちが、プレゼント配達の委託を開始していたのだった。
 つまり、彼らは乗り遅れたのである。


 『ダークネス山田』という特急列車に……。


 ◇  ◇  ◇

 山田聡一郎は、興奮していた。
 これ程の事業チャンスが他にあるものか、と高ぶっていた。

 彼は、『鞄本サンタクロース』の事実上の解体を早くから知っていた。
 即座に彼は、起こりうる様々な問題を想像し、整理した。
 「どうにかなるもの」と「どうにもならないもの」とを。
 彼は、情報源である少女を呼び出し、新事業の展開を打診するつもりであった。
 そんな矢先、その筋の関係者から電話があったのだ。名前を南城幹久という。彼とは3
年前から付き合いがあった。没落した下着メーカーの社長であったが、だが、彼の技術は
あらゆるところで評価され、今では、山田の事業の一部としてそこそこの収入を得ていた。
 しかし、南城もまた、今回の件で多大な被害をこうむることとなった。彼の損失はその
まま山田の損失となるので、手を打つ必要があったのだが、彼にはそれは想定の範囲内で
しかなかった。
 さらに、待ち合わせの相手から急に場所変更の電話があった。事情を聞くと、『鞄本
サンタクロース』のビルの前で立ち尽くしている黒人を保護した、とのことであった。
 彼は、口もとの緩みを抑えるに必死になった。彼は、それが誰であるのかすぐにわかっ
た。国内の派遣サンタクロースの中で唯一の黒人である彼は、名前をジョニー・マイヤー
という。彼の新事業の中には、派遣サンタクロースの確保が必要であった為に、これはま
さに棚からぼた餅といえた。

 では、その新事業とはなんであったのか。
 それは、『挙本セントニコラス』の立ち上げであった。


3 :塚里一◆QAFmnVYA :2008/12/24(水) 22:17:00 ID:ocsFuctm

おわり

 12月24日。
 ジョニーは、配達起点である自宅で深呼吸をした。
 彼の仕事がまもなく始まろうとしていた。
 玄関の前には、そりが既に用意されている。
 あとはこれにプレゼントを乗せて引っ張っていくだけでいい。
 彼は、目を閉じてこの3週間余りの事を思い返していた。

 すべてはあっという間の出来事だった。
 彼が山田に会った3日後には、『鞄本サンタクロース』は、事業停止を通り越して倒
産。全社員が路頭にさまようことになった。しかし、山田は元幹部を除く全社員を再雇用
し、日本全国の事業所に飛ばした。その事業所とは、『鞄本サンタクロース』が所有し、
抵当に入っていた筈のものだったが、いつの間にか『挙本セントニコラス』の財になっ
ていたのだ。彼は各社員を各地方の事業長とした。さらに、配達員および、プレゼントの
分配作業員を地方毎に募集した。その際に徹底されたのは、年齢資格を満たしている全て
の希望者に対する平等な面接であった。結果として、雇用者の半分近くがホームレスやフ
リーターという結果になったのである。
 ここまでで、一週間。
 事実として、ここまで彼は何もすることがなかった。

 次の一週間から彼のパートである。
 各配達拠点をめぐり、ジョニーはサンタクロースとしての配達業務のノウハウを指導し
ていった。この作業には、他のサンタクロースも参加し、各地でサンタクロース講習会が
催されていた。また、クリスマスが近づくにつれて活気づく街を彩る仕事もあった。別に
募集された雇用枠では、サンタクロースの格好で客の呼び込みをするという業務派遣も行
われていたのだ。
 ジョニーはこれにも参加した。

 そして、修羅場は最後の一週間である。
 各家庭から届いたプレゼントを全て、適切な配達拠点に転送し、受け持ちの地区の配達
マップを作成する。これは一苦労である。新聞配達をやったことのある人であれば、ス
ムーズにことが運ぶのであるが、初心者だと間違えることも多い。深夜にこっそり練習す
ることも必要であった。

 そうして、気がつくとクリスマスイヴとなった。

 ジョニーは、時計が23時半を示すの待った。


 ◇  ◇  ◇

 南城幹久は、事業所の中でぶっ倒れていた。
 12月22日。
 彼は、緊急発注されたクリスマスソックスを必死に編んでいた。山田が『挙本セント
ニコラス』を起業してから、彼は大量のクリスマスソックスを編まされていた。その数1
000万以上。山田が雇ったパートのおばちゃん達の手助けもあったが、徹夜の日々であ
った。
 彼は一度山田に、なぜ『鞄本サンタクロース』が使っていたソックスではいけないの
か、と聞いたところ、山田はにべもなく、特に意味はない、と言ってきた。嫌がらせであ
る。

 12月24日23時30分。
 彼は、一月ぶりの風呂に入っていた。


 ◇  ◇  ◇

 雲野のぞみは足が冷たくてイライラしていた。
 12月23日。
 学校の休みを利用して、彼女は一日サンタのバイトをさせられていた。

 『ファストチョコレート』の店頭で、彼女はサンタクロース的な衣裳を着て客引きをし
ていた。要するにチラシを配っていた。
 山田特製の衣装であるそれは、スカートが異様に短かった。屈んだだけで下着が見えそ
うになるのではないか、というくらいだ。もっとも彼女は下着の上にブルマを履いている
のでそちらの方は問題ではなかった。
 とにかく足が冷えるのだ。

 12月24日23時30分。
 彼女はこじらせた風邪で寝込んでいた。




 そして、来る12月25日。
 目を覚ました子供達は、
 玄関先にクリスマスソックスに入ったプレゼントを見つけることになる。


 ◇  ◇  ◇

 山田聡一郎は、事業所3階の社長室で高笑いをしていた。
 12月24日。
 すでに500億を超える収入があった。
 起業一月足らずで、この収入。支出や給料を差し引いても相当な金額である。彼が今ま
で経営してきたどの企業よりも高い収益をあげることは間違いない。彼は何度も帳簿を開
いては、涎を落としていた。

 思えば、2月前。彼はふと思い立って、『鞄本サンタクロース』の株を大量に購入し
た。特にこれといった理由はない。先ほどまで見ていた、アダルト映画にサンタクロース
のコスプレが出ていたのだ。その女優は彼の好きな女優であった。
 しかし、その数週間後。その女優が突然の引退を表明。

 彼は激怒した。
 怒りにまかせて彼は、徐々に買い占めていった株式を一気に売りに出した。
 彼は、考えた。
 女サンタクロースを見たいなら、自分で会社を作ればいいじゃない、と。
 その為には、『鞄本サンタクロース』の存在は邪魔でしかなかった。
 彼は、11月から様々な奸計を練り、『鞄本サンタクロース』を追い詰めていった。
株式の買占め。一斉売却。スキャンダル要素の密告。彼は出来る限りを尽くした。

 そして、12月。
 彼の思惑通りに『鞄本サンタクロース』は破滅した。
 彼は、自身の資本力で『挙本セントニコラス』を起業。サンタクロースを募集し、見
事に女サンタクロースの確保に成功した。彼は、彼女たちを見て、愉しんだ。
 
 しかし、彼は、これほどまでに計画がうまく行ったことに、憂いも覚えていた。
 それは、彼の後ろめたさに対してではなく、もっと全体的なことである。

 「だが、この国はどうなってやがるんだ? 自分の子供にすらプレゼントを買い与える
ことのできない親に、こんな悪辣な条件でも働きたいと群がる失業者。そして、このこと
に違和感を覚えない従業員ども……」
 彼は、椅子の背もたれに身をうずめながら天井を仰いだ。
 みんな、腐ってやがる。
 最後にそう呟いて、彼は眼を閉じた。

                                  (完)

 あとがき 〜もはや小説ではない。

 どうも。スイーツ(笑)エイヂです。
 今回はクリスマスということで、クリスマス臭の漂う作品を書いてみました。
 結局、12月23日と12月24日で書いた強行軍なわけで、内容がどんなんなってん
のかよくわかりません。←おい。
 気付いた人もいるかもしれませんが、この作品は『南瓜と埴輪とドロワーズ』の正統な
続編です。厳密には、その3年後の設定ですが。つまり、のぞみちゃんが高校2年生(ス
イーツなお年頃)。山田部長が20歳になったあたりの話です。パンプキンヘッドの名前
が南城幹久であることや、『ファストチョコレート』という店については、今後出てくる
作品を時系列順に並べると理解できるかもしれません。←色んな人に怒られそうです。
 さて、この作品ですが、最近の不況にともなう大量解雇をどうやって解決すればいいの
かを、打算的に考えた結果生まれたものです。なお、作者たる俺は、医学生なので経済と
か法律とかそんな小難しいことは知らないし、知る気もないので、いやいや、こんなんあ
りえないからという意見は右から右へスルーします。←お。
 情景描写が足りないと会長に言われたので、いっそのこと情景描写をなくしてみました。
描写のない小説は、もはや作文ですらないですね。寓話的な何かだと思ってください。
 はいはい。それではこの辺であとがきを終わります。
 感想とか、感想とか感想とか募集しています。
 
 ちなみに、年末までに番外編を上げるかもしれないですが、あくまでも気のせいなので
気にしないで下さいね。それでは、ここまで読んで下さった読者のみなさまに感謝の意を
捧げつつ、俺は1000年の眠りにつきますよ。

 MERRY CHRISTMAS & HAPPY NEW YEAR


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.