Spring Vacation


1 :ちゅら :2011/05/30(月) 21:02:30 ID:PmQHLio4

 高1の春が終わった。束の間の休息が訪れて、僕らの高校は春休みに突入した。
終業式を終えた僕は、学校から500mほど北にあるコモヲ公園で開放感に浸っていた。

「春休みはどこに遊びに行こうか?」
 傍らには去年の夏から付き合っているあかねがいる。いつもの光景。
「なあ、あかね。大事な話があるんだ、聞いてくれるか?」
「うん、なになに?」
「別れてほしいんだ」
「わかれてほしい?……嘘」
 あかねは絶句している。つい先ほどまで穏やかだった表情は一変していた。そして
驚きに満ちている。

「どうして?別れる理由なんてないじゃない。他に好きな子でも出来たの?」
「そうじゃない」
「だったらどうしてよ」
 あかねは僕の肩を二度ポンポンと叩いた。
「理由を話しても、きっと理解してもらえないよ」
「やっぱり好きな子が出来たのね。私、直人のことずっと信じてきたのに」
 自分自身を一度清算したいから。
 こんな理由を述べて、誰が納得してくれるだろうか。だから僕は何も言わなかった。
「何か言ってよ。この仕打ちが私に対する答えなの?」
 問い掛けにやはり答えなかった。
「最低」
 彼女の言う通り、僕は最低だ。こんな形でしか、今の自分を表現できないのだから。
 しばらく僕を見つめた後、泣き崩れてあかねは公園を出て行った。

「塾をやめるってどういうこと?直人、一体どういうつもり?」
 母の抵抗は予想通りだった。塾をやめると言って、反対しない親は皆無に等しい。
「だからやめるってこと。理由は別に何もないよ」
「この大切な時期に……直人、何かあったの?あかねちゃんと仲が良かったのに突然別れ

って言い出すし。あかねちゃん、すごい落ち込んでいるらしいわよ」
 あかねの母と、僕の母は友人同士である。同じ料理教室に通っているから、すぐ母の耳

届くのは承知していた。
「あかねと今回の件は別問題だよ。とにかく塾はやめるから」
「ねえ、博人。何か直人に言ってよ」
 父は黙って新聞を読んでいた。それは返って僕には不気味だった。
「ねえ、博人聞いているの?」
 母の怒りは頂点に達している、これ以上溜め込むと、感情を制御するわけにはいかない

ら、父に助けを求めているようだった。

「好きにさせてやればいいんじゃないのか。直人に考えがあるんだろう」
「あなた何言っているの?まだ直人は高校生なのよ」
「高校生にもなれば自分の考えくらい持つさ。直人が何を考えているのかは知らないが、

せてみるのも一つの方法ではないのかな」
「もう、甘いんだから……」
 普段は寡黙な父の意外な言葉に、僕自身が驚いていた。
「悪いね、父さん。僕の好きなようにさせてもらうから」
 父に賛同をしてもらって、僕は正直安堵していた。この春休みで僕は僕自身を一度リ
セット
してみる。前から構想はあったが、実際に決めたのは2週間前のことだった。

 携帯電話の解約を済ませて、すべての作業が整った。これで友人から電話も掛かってこ
ない
し、あかねとのメールで気を紛らわすこともない。誰にも束縛されない生活。
 自室にある南側の窓を開けて見る。すがすがしい春風が吹き込んでくる。もうすぐ本格
的な
春がやってくる。
(高2になったら、新しい自分を見つける)
不安ながら今の支えはこれしか見つからずにいた。


8 :ちゅら :2011/07/17(日) 23:57:31 ID:PmQHLio4YG

 しばらく経ってから、梢は私と会うのを避け始めた。休み時間になっても、梢から近づ

てくることはしなくなった。私から話しかけても素っ気無い返事しか返ってこない。なぜ

のか私は理解できなかった。

「ねえ、梢。私の事、最近避けていない?」
「忙しいかなって思って。ほら和真くんと付き合っているしね」
「全然平気だよ。和真は和真だし、梢は梢だから」
 すると梢は不機嫌そうな表情をした。明らかな冷たい視線である。
「私に構わなくていいから、和真くんと一緒に過ごしたらいいじゃない。私のことは放っ

おいて大丈夫だから」
 梢の口から出た衝撃的な言葉。
「ねえ、もしかして……」
「それ以上言わないで。それ以上言ったら、絶好だから」
 初めて私は梢の気持ちを知った。梢は和真のことが好きだったのだと。
「私、気づいていなくて。だから……」
「だから同情はしないで。葵が逆の立場なら、わかるでしょう」
 梢は行ってしまった後、私は呆然と立ち尽くしていた。これ以降私と梢の関係はぎく
しゃく
してしまった。
 
 梢との関係がおかしくなって、和真との交際もぎこちなくなった。一つの大きな支えを
失った
私は、いとも簡単に崩れていった。和真はこんな私を必死に支えてくれようとしたが、無
理だった。
「ねえ、どうしたんだよ。何があった?」
「ううん、別に」
「岩城とはあんなに仲良かったじゃん。二人で喧嘩でもしたの?」
 和真は心配してくれていた。気持ちは有難いが、何も言えない。
「まあそんなところかな。和真は気にしなくていいから」
「そんなわけにはいかないよ。良かったら僕が仲介してもいいけど?」
「絶対ダメ。余計こじれるだけだから」
 和真は残念そうな顔をした。
 あの時私がきちっと方向性を出しておけば、今のようになっていなかったかもしれな
い。

-どちらもうまく収めたい-
 あっさりと和真は言った。そして彼は怒っていた。なぜなのか、私はわからなかった。
「怒っている?」
「怒っているというより、僕は悲しいんだ。どうして言ってくれなかったの?」
「だから何のこと?」
「まだ黙っているつもり?それじゃ僕から話すしかないね。葵と梢がの仲が悪くなったの
は、僕が
原因って聞いたんだ。本当なの?」
「そんなの嘘に決まっているじゃん。どうして私と梢が和真のことで喧嘩しなきゃいけな
いの?」
 私は二人の友情と名誉のために、決して話したくはなかった。

「なぜだか理由はわかんないけど、これは岩城から聞いた話なんだから間違いない」

 和真から発せられた言葉に、私は胸を打ちひしかれた。体全体の力が脱力していくのが
わかった。
言葉に言い表せないほどショックであった。
「岩城はちゃんと話してくれた。理由までは教えてくれなかったけどね。彼女は隠し事を
しない人
だよ、君と違ってね。だから岩城さんの方が信頼できる」
「ちょっと待って。本当に梢から聞いたの?」
「ああ、聞いたよ。僕はガッカリしたよ。そして傷ついた」
 こんなことになるなら、話しておけば良かったと私は思った。そして梢に裏切られた思
いに
なった。なぜ彼女が和真に話したのかはわからない。でも聞いてみたいとは思わない。聞
けば
さらに私は狂ってしまう。もうあの学校に戻れなくなってしまう。

 しばらくして梢と和真は付き合い始めた。私は彼の中で、信頼できない女になった。真
相はどう
なのか。聞いてみたいが怖かった。

ダメで元々。僕は葵にある提案を考えていた。それは期間限定の恋人になること。馬鹿げ
たこと
だと言われることは覚悟していた。今の現状を考えると、これしかないと考えたのだ。
葵を近くのファーストフード店に呼んだ。彼女も僕に何かの用事があるようで、ちょうど
いい
ということで会うことになった。

「春休みもあと一週間で終わりだね」
注文したコーラをすすりながら、葵は言った。
「何か変わるかなって思ったけど、大して何も起こらないね」
「こっちから行動を起こさないといけないってことかな」
葵は前向きな姿勢を見せている。これはいい機会かもしれない。
「ねえ考えがあるんだけど、聞いてくれるかな?」
「なになに、何か妙案?」
「妙案かどうかはわからないけど、まあ聞いてよ」
僕は例の期間限定交際について葵に提案した。期間は始業式が始まるまでの一週間。そ
の間
どちらからでも交際を打ち切ることができるというもの。あまりにも無謀な提案を葵は聞
き入
れてくれるだろうか。
しかし彼女は特別驚いた様子もなく、淡々と聞いていた。頬杖をつきながら、真剣にこの
提案
を考えていた。
「いいかも。私どうせ暇だし」
「本当に?良かった。断られるんじゃないかって思っていたんだけど」
「それでどんな企みがあるの?」
 いたずらっぽい笑顔で、葵は聞いた。
「企みってそんな。まあ全くないってことはないけど。とにかくよろしくね」
 僕は手を差し伸べた。葵も応じて、手を差し伸べる。固い握手。こうして僕と葵の期間
限定
交際がスタートした。

「せっかく交際するんだから、お互い実現したいことをそれぞれやろう。さっそくだけ
ど、僕
は葵が住んでいる街に行ってみたい。どんな所で過ごしているのか見てみたいんだ」
「つまらない街だよ、本当に何もない」
「行ってみないとわからないからね。ところで君は何をやりたいわけ?」
「それは秘密。言ったら面白くないでしょう」
 葵はニヤニヤしていた。企んでいるのは葵じゃないか、そう言いたかった。
「どちらから実現する?私はちょっと時間が掛かりそうだから」
「あっ、そうなの。だったら僕から実現させてもいいかな?」
「えっ?私、地元に帰りたくなんかないよ」
 怪訝そうな葵。このままであれば、僕一人だけで訪れることになる。それでは意味がな
い。
僕は必死に彼女を説得した。
「何を企んでいるのか知らないけど、約束だから仕方ないね」
 最終的に葵は了承してくれた。さっそく明日行くことになった。


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