Spring Vacation


6 :ちゅら :2011/07/03(日) 23:38:23 ID:PmQHLio4YG

 まさかあの二人に会うとは思っていなかった。これが神様のいたずらだとしたら、悪ふ
ざけ
にしか思えない。彼らのおかげでライブの半分を台無しにしてしまった。
 今の私を直人はどう感じているだろう。いいように思っているわけはない。せっかく
誘って
もらったのに、申し訳ないことをしてしまった。なぜこうなったのか説明した方がいいだ
ろう。

「この後まだ時間ある?」
 直人が腕時計に目をやりながら、私に尋ねた。
「平気だよ。おばさんには遅くなるって伝えてあるから」
「そうか、だったら良かった。あの観覧車に乗らない?」
 直人が指差した方向に目をやる。こんな所に観覧車があったんだ。私は即座にOKする。
「乗ろう乗ろう。今日はこのまま帰りたくない」
 私から直人の手を引っ張って、観覧車乗り場に引っ張っていく。彼は驚いた様子であっ
た。
確実に私は今日の出来事を引きずっている。少しでも和らげて叔母の家に帰りたかった。

 入場券売り場でチケット二枚を購入して、私達はさっそく観覧車に乗り込んだ。私と直

は正面向かいで座った。ビル群の灯りが点っていて、非常に幻想的な雰囲気だ。少しでも
嫌な
ことを忘れればいいと私は思った。
「きれいだね。他に言葉が見つからない」
「本当だね。何か癒されるね」
 てっぺんに上るまで、私達はただ黙々と景色を楽しんでいた。直人はあえて気を配って
くれて
いたのだと思う。

「今日の事、やっぱり気になる?」
 観覧車はゆっくり下ろうとしていた。
「そりゃそうさ。気にならない人はいないんじゃない?」
「そうだよね。だったら話す。直人くんには理解してもらいたいから」

「あの二人はどちらも私の知り合い。同じ高校に通っている同級生なの」
「あんまり顔はよく覚えてないけど、あの二人はお似合いのカップルには見えなかったけ
どね」
「ありがとう」
 何となく直人は察知しているだろうか。」
「そっか。しかし神様もひどいよね。何もライブ会場で巡り合わすこともなかったのに」
「私も同じ事考えた」
 直人に話すことで、私の不安は少しずつ消えていってくれたらいい。やがて忘れられた
らいい
のだが、それは困難だろう。

「別れて大分経つのに私は何しているんだろうって思える。あの二人は学校で会うわけだ
から、
慣れなくちゃいけないのに」
「そう簡単にはいかないよね」
「受け止めないといけないんだけど、なかなか」
「まだ忘れられないの?」
「さあわからない。自分では大したことないって思うんだけど、今日の出来事を振り返っ
たら
まだ傷は癒えてないみたい。私も情けないよね。あの場から逃げてしまうんだから。堂々

するべきだった」
 観覧車はゆっくりと円を描いて、最初の地点に戻った。私達は静かに下りた。
「今日は話を聞いてもらえて、うれしかった。モヤモヤしていたものが少しだけ晴れた気

する」
 直人は海を見つめていた。船が汽笛を鳴らしながら、航行していた。
「また今度こうやって時間があったら、遊ばない?」
「うん、そうしよう」
 最後は楽しい時間を過ごせた。いったいいつ以来だろう、心の中から楽しめたのは。春
休み
が終わらないで欲しい。本気でそう思えた。

 夜遅くまで葵と過ごしたせいで、今朝は寝坊してしまった。母からはみっちりと叱られ
た。
相変わらず父は黙っていた。かえってそれが不気味であった。
「あんたに手紙が来ているよ。誰からか知らないけど」
 母から受け取ると、さっそく封を開ける。それはあかねからの手紙であった。彼女から
の手紙
だとわかって、何だか重たい気分になる。しかしこのまま置いていくわけにもいかない。
来月から
はまたあかねのいる高校に通わなくてはならないのだから。鹿島の言ったとおり、リセッ
トして
も関係が終わったわけじゃない。

「鹿島から携帯を解約したと聞きました。メールで連絡を取れないので、手紙という形で
今の私の
気持ちを綴りたいと思いました。迷惑かもしれないけど、ぜひ最後まで読んで。
直人がリセットの一環で、私と別れることを決めたと鹿島から訊きました。何があったの
かは
わからないけど、直人の決断を私は尊重します。
 でも正直言ってショックでした。何の相談も前触れも無かったから、私は全く気づいて
いなか
った。私は直人に甘えてばかりいたから、きっと嫌気が差していたんでしょうね。
 今は毎日が辛いです。きっと学校でもうまく顔を合わせることができないかもしれな
い。だけど
今は鹿島の手を借りながら、懸命に立ち直っている段階です。
 一つだけお願いをしてもいいかな。リセットするなんて悲しいことを言わないでほし
い。リセット
って、今まで過ごしてきた時間が無駄であったって言われている気がして。失恋したこと
よりも
こちらの方が悲しいし、苦しい。きっと鹿島も同じ気持ちだと思う。どうか春休みの間に
考え直し
てみてください」 あかねより

 捉え方が違っている。あかねは何も悪くないのだ。たとえあかねとは違う女性と付き
合っていた
としても、僕は別れていた。何の説明もなかったのがいけなかったのか。リセットする難
しさを痛
感させられていた。


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