Spring Vacation


5 :ちゅら :2011/06/25(土) 00:16:21 ID:PmQHLio4YG

 コンサートチケットが二枚。Magicのファンになったのはあかねの影響だ。本来ならあか

と一緒に行くはずだった。彼女からCDを借りるうちにどんどんはまっていった。幅広い年
代層に支持される彼らのチケットを獲ることは非常に困難なことであった。取れた時は
昨日の葵と同様、あかねも飛んで喜んでいた。

 午後4時、約束の時間。葵は赤いコート、白いパンツを履いて現れた。Magicのライブと

うともあり、僕らは既に興奮していた。葵のことはあまり知らないけど、Magic限定であれ

グッと距離が縮まりそうな気がした。
「つまらない春休みになるかと思ったのに、Magicのライブに行けるなんて本当素敵。今日

心の底から楽しまなくちゃ」
 葵の表情は晴れやかだった。こんな彼女を見るのは初めてだ。僕も嬉しくなってきた。

うなると会話も弾む。
「僕は『No name』って曲が好きなんだけど、君は何が好き?」
「私は『証』かな。ドラマの主題歌だったんだけど、ちょうどその頃恋愛していて。当時

曲と私の思いがシンクロしていたんだ」
「彼とは今でも付き合っているの?」
「ううん、別れた」
 葵のことが知りたくて、つい尋ねてしまった。表情が曇ったりしないか心配したが、彼
女は終始笑っていたので安堵した。
「Magicは共感できる曲が多いよね。この前のアルバムも買ったけど、良かった」
 会場に着くまで僕らはアルバムの感想について語り合った。話は盛り上がり、あっとい
う間
にライブ会場に到着した。
 ライブ会場ではグッズの販売が行われており、既に多くの客で盛り上がっていた。僕ら

いったん二手に分かれて、それぞれ欲しいグッズを探すことにした。
 ライブ会場限定の携帯ストラップをとりあえず購入する。僕はふと葵がいる方向に目を
向け
た。すると彼女の前に見知らぬ男女が立っていた。女は葵と会話をしながら、ニコニコ
笑って
いた。恐らく葵の友人だろうか。
 隣にいる彼氏は頭を掻き毟りながら、非常に困惑している様子であった。困惑する葵と
男。
笑顔の女。少し変わった光景であった。
 葵はにこやかに語りかけると、すぐに走り去ってしまった。明らかに様子がおかしい。
僕は
慌てて彼女を追い掛けた。

 ライブ会場周辺を色々探し回ったが、結局葵は見つからずじまいだった。これだけ多く

人がいたら、簡単に見つかるはずもない。こんな時に携帯がないと本当不便だ。解約した
こと
が恨めしい。
 僕は開場ギリギリまで葵を待ったが、彼女は戻ってこなかった。チケットは既に手渡し
ている。申し訳ないと思いながらせっかくの機会なので、先にライブ会場に入った。
 ライブ会場は既に暗くなっており、スクリーンからはMagicのプロモーションビデオが流
れて
いた。彼らが登場するのを今かと待ち構えるファン達。まだ始まっていないのに、会場は
大盛
り上がりだ。
 メンバーが一人ずつ紹介され、壇上に上がっている。そのたびに会場は大喝采。僕もそ
れに
釣られるように、拍手を送る。オープニングは僕の大好きな『No name』。一気にテンショ
ンは
上がる。日頃の嫌なことを忘れさせてくれる、何て素晴らしいのだろう。
 2曲目、3曲目とロック系の少し懐かしめの曲。僕はこの曲は知らない。あかねからす

てのアルバムを借りたわけではないから、致し方ない。だけどいい曲に変わりはない。
 やがてライブは進行していき中盤以降を過ぎたが、葵は戻ってこなかった。隣にポツン

一つ空いた座席。まわりは友人やカップル達で盛り上がっている。相変わらず音楽は良
かった
が、葵が戻ってこないのでさすがに不安になってきた。
 
 ついに葵が大好きな『証』の曲の演奏が始まった。ピアノ演奏のオープニングの後、
ボー
カルがしっとりと唄い始める。会場も同じようなムードが漂う。すると隣から女性の泣き

が聞こえてきた。横を見ると葵がいた。あまりに夢中になって聞いていたので、声は掛け
られ
なかった。
 『証』の演奏が終わると、葵は何事も無かったかのようにジャンプを始めた。会場も大
盛り
上がりだ。曲自体がノリノリなので、いつもライブ後半に唄われる彼らの代表曲だ。
「葵が戻ってこないから、心配していたんだよ」
「ごめんね。せっかく誘ってもらったのに、途中からなんてね。でも楽しい、サイコー」
 エンディングまで葵は終始ノリノリだった。先程までの涙が嘘みたいだった。

「良かった。いい経験させてもらった」
「本当だね。また来ようって気になるね」
 葵は満足そうな顔をしていた。涙あり笑いありと今日の彼女は感情が豊かだ。ライブ前

涙の訳を聞きたかったが、僕は黙っておくことにした。


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