Spring Vacation


4 :ちゅら :2011/06/17(金) 19:40:16 ID:PmQHLio4YG

 翌朝、思ってもみない客が訪れた。同級生の鹿島だった。母は笑顔で彼を迎え入れた。
鹿島
に何とかしてもらいたいという意志が見えた。
 鹿島は眉間に皺を寄せて、明らかに怒っていた。

「あかねと突然別れたり、携帯を解約するってどういうことだよ」
「何も話してなくて悪かった。色々あってあかねと別れることにした」
「あかねは泣いてるぞ。突然だったから動揺が収まってみたいだ」
「彼女には悪いことをした。すまないけど鹿島から謝ってくれないか」
「ふざけんな」
 襟元を鹿島が掴む。かなり力強いものだ。僕は抵抗することなく、されるがままであっ
た。
このまま一発殴られても仕方ない。
「あかねがどんな思いなのか理解してんのか。いくらなんでも自分勝手過ぎやしない
か?」
「だったら鹿島だけに事情を話すよ」
「いったい何なんだ?」
 鹿島は掴んでいた手を離した。僕はこれまでの経緯について話した。到底理解はしても
らえないと思っていた。僕の予感は当たる。

「リセットって俺とあかねをバカにしてんのか?俺らの存在は元から無かったとでもいう
のか。
リセットしましたから、後はよろしくって。俺あかねに何て話せばいいんだ?他に好きな
子が
出来たって言ってもらった方がまだ良かったよ」
 吐き捨てるように鹿島は言った。僕は彼の目を見ることができなかった。
「お前がそんな勝手な奴だとは思わなかったよ。好きにするんだな」
 辛辣な言葉だった。だが僕は安堵していた。不思議な感覚だった。

 こんな時は葵を頼りたくなる。僕は前面の窓に向かって、呼びかけた。
「ねえ、今大丈夫?」
「何かあったのかな、直人くん」
 窓がサッと開いて、葵が顔を出した。
「葵さんの言う通り。ちょっとありました」
 鹿島との一件をさっそく報告した。葵は黙って訊いていた。
「いい友達じゃん。本気で心配してくれているんじゃないの」
「そうかな?」
「そうだよ。わざわざ自宅まで押し掛けてくれるんでしょう。なかなかいないよ」
 葵なら違うことを言ってくれると淡い期待をしたが、結果は母と同じ意見であった。
「まわりから見ればいい関係にしか見えないんだろうね。実際はそうでもないんだよ」
「相性百パーセントピッタリの友人なんていないでしょう。どこかムカつく所は二つや三

誰にでもあるんじゃない。私だってそうだったし」
 葵の口から友人の話が出たのはこれが初めてだった。
「葵は友人関係うまくいっているの?」
「えっ?」
 葵の表情が固まった。僕は地雷を踏んでしまったのか。

 友人関係を訊かれるのは私にとって最大のタブーだ。それを尋ねるなんて何とデリカ
シー
がないのかと思ったが、直人に私の気持ちがわかるわけがない。私は笑ってごまかした。
「うまく言っているよ」
「そうか、ならいいね」
 私は動揺していた。この家なら梢のことは忘れられると思ったのに。「友人」という
テーマ
で話をしたのがいけなかった。
「でも女同士の友人関係って色々大変なんでしょう?」
「ねえ、私の話なんていいじゃない。もっと他に楽しい話があるでしょう」
 直人は私が苛立っているのに気づいたらしく、急に話題を変えた。
「ねえ、Magicっていうミュージシャン知っている?」
「知っているよ、私大ファンだもの」
「やっぱり。この間公園を案内していた時に、Magicの唄を口笛で吹いていたからそうじゃ
ない
のかなって思って」
「直人くんもファンなの?」
「もちろん。ファンクラブに入っているくらいだからね。明日良かったら、一緒にコン
サート
行かない?チケット2枚あるから」
「すごい、すごい。私電話予約したのに、取れなかったチケットなんだ」
 私は我を忘れて興奮していた。
「じゃー決まりだね。明日の午後4時、玄関前で待っているからね」
 直人は素敵過ぎる。沈み込んでいる私にとって、コンサートの誘いは寝耳に水であっ
た。


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