Spring Vacation


3 :ちゅら :2011/06/07(火) 20:59:27 ID:PmQHLio4YG

「あかねとは別れたよ」
「どうして、どうして?」
「どんな想像していたか知らないけど、そりゃ別れることもあるでしょう」
「残念だな。私応援していたのに」
 悔しそうな表情で彼女は言った。
「あかねのことは今度話すからさ、まず自己紹介してよ。僕は君のこと何も知らない」
「えっ、私?私のことなんて興味ある?」
「もちろん。興味が無ければ、こうして話さないよ」
「それはどうも。それじゃ簡単に自己紹介するね。私は本村葵。隣の埼玉の高校に通って
います。この4月から高2になります。自己紹介は以上」
 簡単な短いものだった。まあいい、徐々に相手のことを理解していけばいいのだ。
「葵っていうんだ。いい名前だね」
「ありがとう。だけど私はこの名前嫌い」
「どうして?」
「いい名前だと思う?葵って結構ありふれているし、それに父さんがつけた名前だから」
 父とは幼い頃からずっと会っていないと、彼女は言った。
 
「ねえ、こんなとこで話していても仕方ないから散歩でもしない?」
「あかねさんに申し訳ない」
「だから……あかねとは別れたの」
「ああ、そうか」
 何とか葵は了承してくれた。リセット初日に思わぬ出会い。僕は幸先いいスタートに
手応えを感じていた。

 彼のことは全く知らないわけでないが、私はかなり緊張していた。男子と面と向かって
話すのは久々だからだ。発作的な衝動が起きなればいいけれど。
「手が震えている。そんなに緊張しないで」
 彼に指摘されるまで、全く気づかなかった。
「ごめんね。これでも人見知りなの」
「仕方ないよ。僕が急に誘ったんだから」
 彼にはなぜ私がこんなに緊張しているのか、悟られないよう振舞うだけだ。
「おすすめの公園があるから、そこへ行こう。君に見てもらいたいものがあるんだ」
 彼の目は澄んでいて、透明感がある。とても悩んでいる人の顔には見えなかった。
まあいい。とにかく話を聞かなければ、判断は出来ない。

「リセットしてみたいって考えたことある?」
 リセット?ゲームの話?
「やり直しってこと?」
「近いかな。人間関係を一度清算するの。今ある関係をすべて見直すの」
「そんなこと出来るの?」
「やり遂げてみせるのさ」
 彼は意気揚々であった。なるほど。あかねちゃんと別れたのも、「リセット」のせい
だと私は直感した。
「あかねちゃんと別れたのも、それが原因ね。ちゃんと理由は伝えたの?」
「いいや、伝えていない。話しても理解してもらえないでしょう」
「まあ、そうかも」
「最低な奴だと思ってくれた方がいいんだ。実際にそうであるし」
 自分に言い聞かせるように彼は話した。
「こんな僕を君はどう思う?」
難しい質問だ。人間関係をリセットしたいって思ったことは、私にだってある。だけど
実際に実行に移したことはない。だから私にはわからない。
「不安なのはわかるよ。だけど決めたんでしょう。だったらやり遂げたらいいんじゃな
い」
 彼は笑顔になった。こんなアドバイスで良かったのだろうか。
「正直吹っ切れていない部分があった。だけど君の一言で勇気づけられた。やるしかない

だよね」
 公園は高台にあって、街の風景が一望できた。とても綺麗な町並み。彼がお気に入りの
場所だと言うのも頷けた。

「君の住んでいる街は美しい?」
 彼がふと訊いた。さてどうだろう。最近は私的な事が多くて、街並みなんて気にしたこ

もなかった。苦難は人から余裕を奪ってしまう
「美しいのかすらわからない。あんまり気にしてなかったから」
「良ければ今度連れて行ってよ。君が住んでいる街を歩いてみたい」
「そうだね。また機会があれば」
 彼は少し元気になったみたいだった。リセットか。出来るなら私はこの記憶をリセット

てしまいたい。ゲームの記録みたいにすべて消えてしまったら、心身はどれだけ穏やかに
なれるのか。一度試してみたい心境だった。


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