Spring Vacation


2 :ちゅら :2011/06/02(木) 19:16:53 ID:PmQHLio4YG

 叔母から春休みの間遊びに来ないかと誘われた時、私は救われた気分になった。このと
ころ
ひどく混乱するような出来事が立て続けにあったから、尚更だった。
「お世話になります」
「葵ちゃん、そんな畏まらないで。佳代子が海外旅行行くなんて言い出すから、私が誘っ

だけなんだから」
 母は私が春休みに突入したと同時に、8歳年下の彼氏とアメリカへ旅行に出掛けた。おそ

く叔母が面倒を見てくれるのを見越しての計画だったのだろう。
「本当佳代子は母親失格だわ。自分のことしか考えていないんだから」
 叔母さんは頭を抱えて嘆いたが、慣れている私は何とも思わない。
「気にしないで、叔母さん。私はこうして誘ってもらえただけでも幸せ。一人で家に居た

なかったから、とても嬉しいの」
「葵ちゃんはいい子ね。佳代子が母親であることが信じられないわ」
 私は笑って叔母さんの話を聞いた。確かに母はまわりから見れば、ちょっと浮いた存在

見えるだろう。けれども母としての役割を放棄したわけではなく、しっかりと面倒も見て

れる。それに今の母は父と離婚して、活き活きしている。眉間に皺を寄せて暮らしていた

の頃とは違う。

「春休みの間だけの短い時間だけど、ゆっくりして行ってね」
 何気ない叔母の一言が身に染みた。こちらの言葉が今の私にはズシリとくる。春休みは
たった二週間だけの短い時間なんだ。また終われば私はあの場所に戻らなくてはならな
い。私の
呼吸はひどく乱れた。
「どうかした?私何かひどいこと言った?」
「ううん、平気。私二階に上がってくるね。窓から外の空気でも眺めてくる」
 気分転換のために、私は外の空気を吸ってみたいと感じた。重々しい気分を拭ってしま

たい思いもあった。

 外の景色を眺めながら、僕はぼんやりと考え事をしていた。あかねや塾と縁を切ったの

いい。だけどこの後、どうすればいいのか。僕は展開が全く描けずにいた。先程まで昂
ぶっ
ていた思いはどこかに消えてしまっていた。

 前方の家の固く閉ざされていたドアが、勢いよく開いた。住人のおばさんが出て来るの

と思いきや、現れたのは少女だった。年は僕と同じくらいだろうか。少女は驚いた表情を

せると、こう言った。
「すいません。すぐ閉めますね」
「ああ、気にしないで、こうしてボーっと空を眺めているだけですから。良かったら一緒

付き合ってくれませんか?」
 戸惑った様子を見せた少女であったが、小さく頷くと空を眺め始めた。視線は合わすこ

なく互いに思い思いにどこまでも青い空を眺める。このまま15分ほど会話もなく、ただひ

すら眺め続けていた。
 春の空気は生温かくすがすがしかった。これから桜が咲いて、一年中で最も華やかな季

となる。僕はこの時期が最も好きだ。それが理由というわけではないが、リセットするな

この時期しかないと前から考えていた。

「いい天気だったし、ここの景色はいつ見ても最高」
 最初に話したのは彼女だった。
「君はここの住人ではないよね?」
 隣の叔母さんに子供はいないはず。だとしたら彼女は姪か知り合いの子供となる。
「うん。春休みの間だけ、叔母さんの家に遊びに来ているの」
「そうか。普段見慣れないと思ったんだ」
「あなたは今日私と会うのが初めてかもしれないけど、私はあなたのことを前から知っ
ているわ。名前は確か直人くんだよね」
 いつから彼女は僕のことを知っていたのだろう。普段近所の家のことなんて気にして
いないから、全く気づかずにいた。
「ずっと見られていたんだ。気づかなかった……」
「私、冬休みの間ずっと暇だったからたまにこの部屋で観察させてもらっていた。変な
趣味とは言わないでね。ところで彼女はどうしたの?せっかくの春休みなのに、一緒に
過ごさないわけ?」
 あかねの存在を知っている。これには参った。


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