【Enjoy!!】 yay! spring of blue!


1 :宮岡流基 :2009/06/26(金) 16:37:04 ID:onQHLcVA

 こんにちは、お久しぶりです。宮岡流基です。因みに今更ですが流基は「りゅうき」でなく「るき」と読みます。
 前にも『Enjoy!!』という題で出していたことがあったと思いますが、共通点は中学校生活であるというのみです。
 前作に失望された方、もしよければまた読んでくださいませんか、少しはマシになってるつもりですので! 更新スピードはあまり期待されると困りますが……
 図々しいですが感想等ありましたら感想室の方へ。お願い致します。

 では、登場人物たちの繰り広げる中学生ライフをお楽しみください!


2 :宮岡流基 :2009/06/26(金) 16:41:28 ID:onQHLcVA

序章 祝・今日から中学校生活始まりますよ企画!

 曲がり角から、人影が現れた。イヤホンからは、大好きなアーティストの歌声が鳴り響いている。―――サビに入る、正に直前。大好きな曲のサビに入る直前!
 人影が、自分の待っていた人物だと確認すると、当然のことながら陽奈(ひな)は、今すぐ街路樹の陰から飛び出して、角から現れた彼女の襟元を引っつかんで怒鳴りつけてやりたくなった。サビ入るって! あとちょっと遅く来るぐらいの気遣いは出来んのか、せめてサビが終わってからぐらい!
 しかし、僅かに吹く風に綺麗に結った黒髪を靡かせ、決して急がない足取りで歩いてくるその姿に、不覚にも陽奈は一瞬見惚れた。もし自分が男子なら、この姿を見れば一瞬で彼女に夢中になってしまうだろうと、そんなことをふっと思い立って慌てて頭を振る。
 陽奈は渋々、手の中にあった三角形のボタンをもう一度押した。いとも簡単にぷつりと消えてしまった音に、途轍もない喪失感と、彼女への憎悪を覚える。陽奈はつまらなさそうにイヤホンを耳から外し、ウォークマン本体にイヤホンを丁寧に巻きつけ、新品のスクールバックにぎこちない手つきでそれをしまった。
 近づいてくる愛海(なるみ)をしっかりと目で追う。愛海は陽奈の隠れる街路樹には目もくれず通り過ぎた。陽奈の家の前に立ち、インターホンを押す。
『はい……あら、野坂(のさか)さん?』
 インターホンからは、陽奈の母親の声がした。その声に、愛海はん、と小さく首を捻る。
 それもその筈だった。小学生の頃はいつも、インターホンを押した後は、陽奈が自分の部屋の窓を開け、ひょこりと顔を出し、手を振りながら、今行くねと大きな声で返事をしていたのだ。それなのに今日は、返事がインターホンから、しかも返事の声は陽奈の母親のものだ。
 首を捻りつつも、なぜか納得したような顔になった愛海はそのまま、
「お早うございます。野坂ですが、えと、陽奈さんは……」
 どうやら、「陽奈さんは」の後をどう続けてよいのか解らなかったらしい。愛海が尻すぼみに訊ねると、
『陽奈、今さっき出て行ったんだけど、会ってない?』
 その返答に、愛海がぐるりと辺りを見回した。ぎょっとして、突き出して愛海の様子を窺っていた頭を、素早く引っ込める。
 一通り見回した愛海は、やはり陽奈がいないと解ると、もう一度インターホンに向き直り、
「やっぱり、いないみたいです」
 と、落胆した声で告げた。その声に、陽奈の胸は少し痛んだが、せっかく早起きしてここまで待っていたのに作戦を打ち切るのもなんだと思い、そのままの場所で身を固めた。
『そう…なんか、ごめんなさいね』
「あ、いえいえ、全然大丈夫です。中学生になったことをきっかけに、もしかしたら陽奈さんの中で何かが変わったのかも知れませんし」
 陽奈さんの中で何かが変わったのかも知れませんし。――然も当たり前のように言った口ぶりに陽奈は何か自分が場違いなことをしているような気がした(が、せっかくここまで待ったのに……以下同文)。
「えっとでは、朝早くにどうも失礼しました」
『いえいえ。行ってらっしゃい』
 愛海がインターホンに向かって軽く会釈をし、歩き出す――ずっと待っていたその瞬間に、陽奈は高鳴る胸を押さえながら愛海に忍び寄った。愛海の肩に手が届く距離まで近寄り小さく息を吸い込み、
「なるみっ!」
 呼ぶと同時に、彼女の肩に手を置いた。作戦通り、愛海は突然の出来事に驚いたようで、手を置いた彼女の肩がびくりと揺れた。ほぼ反射で振り返った彼女の頬に、予め立てておいた人差し指がめり込む。
「やった、ふたっとも成功っ!」
 引ぃっ掛かった! と、はしゃぐ陽奈を、愛海は唖然と見つめた。―――身長一五〇センチ、赤みがかった茶色のショートカットで子供のようにはしゃぐ中学生と、身長一五八センチ、黒髪を結った大人しそうな中学生が唖然とその様子を見つめるという光景がなんともミスマッチである。
 愛海が、あまりにも長いこと何も言わないままだったので、もしかして吃驚して喋らないんじゃなくて怒ってるのかなと、陽奈が少し不安げに愛海の顔を覗き込むと、愛海ははっと我に返ったように口を開いた。
「……なに、やってんの」
 ぎこちない口ぶりだったが、内心はとても呆れている感じだった。呆れている雰囲気には気づいたものの、取り敢えずは怒っていなかったことに安心し、
「なに、って、『入学祝のお楽しみ企画』です!」
 満面の笑みで返すと、今度こそ呆れオーラ全開で、
「本当に、なにやってんのよ」
 吐き捨てるように返された。そして追い討ちを掛けるように、愛海は批評の言葉を羅列する。
「大体入学祝なら、今日じゃなくて入学式があった昨日にやるべきでしょうに。昨日も会ったんだし、今日である必要は全然ないでしょ」
「えー、だって昨日は親も一緒に来てたし、そんなことする暇なかったもん」
「じゃあ入学祝って呼び方変えたらいいじゃないのよ」
 もう一度吐き捨てて、愛海は歩き出した。陽奈は慌ててその背中を追い駆ける。
「ったく、中学生になったから一人で学校行ってみようって気になったんなら、陽奈も変わったなあ、ってちょっと見直したのに何よ、入学祝のお楽しみ企画って。やっぱ中学生になったから変わろうとか思わないわよね、所詮陽奈だし。期待したあたしが馬鹿だった」
 ぼそぼそ呟くので、何を言っているのだろうと耳を傾けてみると、この有様である。そういうことを言わなければ、顔もばっちりだから男なんて何人でも作れそうなのに、玉に瑕だとはこのことを言うのだろう。そしてあそこまで言われると落ち込む気にもなれなくなり、なんだよめちゃくちゃ吃驚してたくせに、と陽奈は開き直ってしまった。
 あ、でも、と陽奈は考える。――こんなに『入学祝のお楽しみ企画』に固執しているのは、やっぱり本当に恐かったからなのだろうか。「所詮」陽奈に驚かされたと、素直に言うのが癪に障るからだろうか。
 もし本当にそうだとしたら、別に愛海だって小学生と変わってないじゃんか、と陽奈は口を尖らせた。
「まあなんにせよ」
 愛海のぼそぼそが、歩みと共にぴたりと止まって愛海が振り返った。愛海は陽奈を見据える。
「クラスもまた一緒になったことだし。これからも宜しく」
 さっきとは打って変わって静かな口調。――やっぱり変わっていない。突然律儀にこうやって挨拶するところとか。こういうところに魅かれたから、恐らく自分は幼稚園のときから今まで、愛海の後ろについてきたのだろう。いつも優しくしている男子よりも、いつもは口が悪くて乱暴だが、たまに優しくしてくれる男子の方がなんとなく好きになる人が多いのと同じように。
「うん。……宜しく」
 でも、こちら側は恥ずかしいのだ。友達に、しかも超親しい友達に、「これからも宜しく」なんて相手の目を見て軽々しく言えるものじゃない。相手の目を見る時間がなるべく少なくなるように、「これからも」の部分は端折る。
「……さっきの入学祝のお楽しみ企画、」
 この後を放っておいたら愛海のペースに持っていかれて、そうなるともっと恥ずかしい思いをしないといけない。そんなことはもう何度も経験済みだ、同じ轍はなるべく踏みたくない。陽奈は愛海のペースを遮るべく、話題を元に戻した。『入学祝のお楽しみ企画』、それを聞いた愛海の表情はいっぺんで険しくなり、やっぱり恐かったんだと陽奈は確信した。
「入学祝がイマイチなんだったじゃあ、『祝・今日から中学校生活始まりますよ企画!』で」
「勝手にして。んなこといちいちあたしに許可とらんくてもいいでしょ。っていうか、最後にビックリマークつけて強調すんのやめてよ」
 むすっとした表情になった愛海は、振り返っていた顔を前へ向け、すたすたと歩き始めた。作戦成功、陽奈は口の中で呟いた。
「えーイヤっ。それに許可とらんくていいって言ったし、『祝・今日から中学校生活始まりますよ企画!』に決定しま〜す」
「あんじゃ前言撤回っ。ビックリマークつけんのは許可しない!」
「前言撤回は一切受け付けておりません。それとビックリマークって公式名じゃないし」
「その企画自体公式な企画じゃないでしょ! いいわよ、エクストラメーションマーク!」
「なにそれ、じーまーんー? 日本人なら感嘆符、って言おうよ、エクストラメーションマークとかややこしいの――」
「じーまーんー? って、こっちの台詞よバカ。自分だってエクストラメーションマークって余裕で言えてるじゃないのよっ。――うっわ何これ、滅茶苦茶乗らされた気分。もういいもういい。勝手にして。あたし興味ないからね、断じてっ!」
「あっ、逃げたなこら、待って愛海ぃ!」
 走り出した愛海に、陽奈が跳びついた。愛海との身長差が十センチ近くあるプラスお互いの運動神経がいいからこそ出来る技である。わっ!? と細く声を上げ、愛海はバランスを崩すまいと必死に全身に力を入れた。
 愛海がふうと溜息をついて歩き出す。揺れる愛海の背中で、陽奈はわーい! と子供のような歓声を上げた。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.