哀しくて優しいお話〜送者〜(続)


1 :空宮 彼方 :2008/02/23(土) 18:37:17 ID:onQHtFrH

諸事情がありまして・・・新たにここから連載します(泣)
以前のものはそのまま残してありますので、最初から読みたい方は哀しくて優しいお話〜送者〜をお読みください。


2 :空宮 彼方 :2008/02/23(土) 18:37:50 ID:onQHtFrH

「・・・やっぱり、私のせいなの?」
紫苑を見ながら、藍璃が哀しげに呟いた。

さっきまで、紫苑は元気で。
でも、藍璃が「送る」ところを見て、そこから紫苑が逃げて。
見つけたら、紫苑はこんなにも体調を崩していた。
それは、つまり。

・・・藍璃がその原因だった、といことではないのだろうか?

「・・・バッカみたい」
自分は紫苑の力になりたくて、信じてもらいたくて、行動を起したというのに。
少し考えればわかることなのに。

今までずっと1人だった紫苑が、なかなか他人を信じることなんて、出来るはずも無いことも。
どうやら多少は気を許してくれたらしい藍璃に、嫌っているらしい「送者」の力を、見られたくないだろうことも。
そして、何より。
・・・自分が「送る」相手に情を持ったりしても、辛いだけなのだということも。

結局自分は、周りの愚かな人間達と。大嫌いだった自分のことしか考えないような連中と、同じことをしただけだった。
初めて気を許せた紫苑に近づきたくて。
自分が信じているから、紫苑にも信じてもらいたくて。
自分の欲のために、自分の感情を紫苑に押し付けただけだった。

ココロのどこかでは、わかってたのに。
自分は紫苑と違い、ずっとコッチにとどまることなんて出来ないから。
そんな感情を紫苑にぶつけたって、紫苑を困らせるだけだって。
むしろ、ただ「送る側」と「送られる側」に分かれていたほうが、紫苑にとっては楽なのに。
紫苑はずっと、その「ライン」を保ってきただろうに。

・・・それを、藍璃が壊してしまった。
紫苑にとって、それがどんなに大変で、後につらいことになるか、わからない筈は無かったのに。
ただただ、自分が紫苑と近づきたいから、というわがままのせいで。

「・・・最悪」

気持ち悪い。
紫苑のことなんて考えずに、ただ自分の気持ちを押し付けただけの自分が。
周りの身勝手な人間を嫌っていたのに、結局はそいつらと同じことをしていた自分が。
・・・自分と言う存在全てが、キモチワルイ。

「離れた方が、いいよね・・・?」
こんな、自分のことしか考えられないような存在は。
今までずっと頑張って来ていた紫苑の足かせになるような存在は。
彼のそばに、いるべきでない。

数刻前の決意の、なんと脆かったことか。
それ以前に、あの決意すらも、紫苑にとっては重りでしかない。

そう。そのほうがいいのに。
彼の重りになるしか出来ず、むしろ彼に暴言を吐く「送られる者」たちよりも、紫苑にとって害となるであろう自分は。
彼から離れた方が、いいのに。
そのことは、良くわかってるのに。

「・・・っ。離れたく、ない・・・」

ココロが、拒否する。
彼と言う存在から、離れることを。

「どうして・・・どう、してっ・・・」
離れた方が、いいのに。
・・・離れられない。どうしても。

「紫苑の、枷になんか・・・なりたく、ないのに!」
自分がいると、彼の枷になる、重りになる。
もしかしたら、優しい彼の心に、傷を作ってしまうかもしれないのに。
「どうして・・・離れ、られないの!離れたく、ないの・・・」

心の中に、何かが渦巻く。
モヤモヤとしている、自分でも制御できない、何かが。

それは、「執着」というものだと。
今までの生を何の執着も持たずに生きてきた藍璃は、知らなかった。

目から溢れる何かが、藍璃の頬を伝う。

「・・・ご、めん・・・ごめんね、紫苑・・・!」

ただただ、心の中に渦巻く何かに振り回されていた藍璃は。
下から目を見開いて、優しい目で藍璃を見詰めている紫苑に全く気づいていなかった。


3 :空宮 彼方 :2008/02/25(月) 14:47:00 ID:onQHtFrH

驚愕。
目が覚めた紫苑を襲った感情に名をつけるのなら、これが最も適格だろう。

紫苑の意識は、夢と現の狭間を彷徨っていた。
何か、とても大切なものを見たような気もするが、それが何なのか、掴もうとするたびに手からすり抜けてゆく。
そんなことを繰り返しているうちに、結局何にそんなに必死になっているのかすらも分からなくなり、ただただ心地よいふわふわとした世界を漂っていた。

ようやく、薄っすらと意識が浮上してくると、眠っていたことで鈍っている感覚が、自分の頭の下に何かが存在すると訴えてきた。

自分の置かれている状況が全く理解できず、まだくっ付いていたいと主張している瞼をこじ開けてみようとする。
すると耳に、聞き覚えのあるか細い声が聞こえてきた。
淡々としていながらも芯の通っていた、紫苑が耳にした事のあるいつもの声とは違う。
驚くほど弱い、藍璃の声が。

何故自分のそばに藍璃がいるのか、と考えたとき、紫苑はようやく、自分が藍璃から逃げ出したことを思い出した。

(そうだ、僕は・・・藍璃に、見られて・・・っ)

咄嗟に藍璃から離れようとした紫苑は、体を起そうとした瞬間。
顔に当たった何かに、目を開いただけで動きを止めてしまった。

「離れたく、ない・・・っ」

まるで悲嘆に暮れるような藍璃の声と共に降ってきたのは。
今まで見たどんなものよりも透き通った、藍璃の目から零れ落ちる涙だった。

「どうして・・・どう、してっ・・・」
藍璃は、紫苑が目覚めているのに全く気づいていない。
初めて見る藍璃の激情に、紫苑は疑問と戸惑いで一杯だった。

どうしてそんなに泣いているの?
何から、離れたくないの?
やっぱり、コチラに未練があったのだろうか。

そんなことを考えていた紫苑の思考は、次の藍璃の言葉で真白に染まった。

「紫苑の、枷になんか・・・なりたく、ないのに!」
「どうして・・・離れ、られないの!離れたく、ないの・・・」
「・・・ご、めん・・・ごめんね、紫苑・・・!」

藍璃は。
自分にために、泣いてくれていた。
離れたくないと、枷になりたくないと、嘆いて。

空っぽだった心の中に、何かが沢山溢れてくる。
戸惑い。歓喜。疑問。愛しさ。
色々な感情がごちゃ混ぜになって、自分でも何が何だか分からない。

ただ、一つだけわかるのは。
藍璃は自分にとって、大切な存在になってしまっているということだけ。

藍璃は、長い間はコチラにいられないとか。
自分は送者で、藍璃を送らなくてはならないのだとか。
そういったことは、もう考えられなかった。

気がついたら、紫苑は。
藍璃の体を、掻き抱くように抱きしめていた。


4 :空宮 彼方 :2008/12/22(月) 20:18:46 ID:onQHtFrH

愚かな自分が嫌で、汚い自分が疎ましくて。
そして何より、紫苑のためにと思ったつもりで、実は己のことしか考えていなかった自分が憎らしくて仕方が無い。

そんな自分に耐え切れずに涙を流していた藍璃は、急に体が暖かいものに包まれたのを感じた。
驚いて見開いた藍璃の視界に映るのは、真白と茶。
体で感じるのは、自分より少し低い体温と、少し早い鼓動。

遅れながら、藍璃は自分が紫苑に抱きしめられていることを理解する。
けれど、自分と同じ位の外見の男の子に抱きしめられたのに、恥ずかしさも、逆に嫌悪感も感じない。
感じたのは、涙が止まってしまうほどの安堵感と、今まで欠けていたものが戻ってきたような充足感。

自分を抱きしめている少し低めの体温はまるで穏やかな春風のようで、藍璃は自分のささくれ立った心が凪いでいくのが分かった。
そのまま藍璃は、目を閉じて紫苑に体を預ける。
涙の後を残す頬もそのまま、今の今まで泣いていたことすら意識の外に追いやって。

ただただ、自分の心の赴くままに。







一方、藍璃を抱きしめた紫苑も、自身の行動に戸惑いを覚えつつも、藍璃から体を話すことが出来ないでいた。
記憶にある限り、人にまともに触れたのはこれが初めて。しかし、確かに穏やかになっていく自らの心を、紫苑は自覚している。

自分の腕の中にいる藍璃の体からは、少女らしく自分より少し高めの体温が伝わってくる。
その暖かさは紫苑に、まるで優しい木漏れ日の中に居るかのような錯覚をもたらした。


紫苑の胸を満たすのは、抑えきれない、泣きたいほどの歓喜。「帰ってきてくれた」という思い。

この思いが、手からぽろぽろと零れ落ちていく先程の夢の残像によるものであることは何となく理解できている。
それでも、今の紫苑にそんなことは関係なかった。

今まで感じていた、自分の半分が欠けているかのような感覚。
その感覚は今や露のように消え、今紫苑が感じているのは、深い深い充実感。
まるで、ずっと失っていた半身を取り戻したかのような。

周りの状況も何もかも消し去って、紫苑はただ、この何物にも変えがたい甘美な感情の中に居た。


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