誰よりも、希望を胸に抱いて前を見続けた女の子がいました
誰よりも、誇り高い心を胸に前を見続けた女の子がいました
誰よりも、他人を思いやれる優しさを持って前を見続けた女の子がいました
誰よりも、笑うということの素晴らしさを理解して前を見続けた女の子がいました
そして
そんな彼女達の中心に
様々な不幸を背負いながら
様々な困難を背負いながら
誰よりも
強い…のに時々弱く
賢い…のに時々馬鹿で
優しい…のに時々厳しい
けれど、それゆえに…彼女達に最も必要とされた男の子がいました
もう、今は誰もいないこの場所に
かつて、そんな5人の人間達が
必死に
頑張って
生き抜いた
そんな物語があったのです
これは、その物語の
限りない未来の一つの結末へとつながる序章
「・・・本当に、眠っちゃった・・・」
「すぅ・・・かぁー・・・」
「この一週間、レイさんも必死だったんでしょうね。」
「・・・うん。」
全くもってその通りだ。
一度は自分が死んでしまったというのに。
生き返ったその瞬間からどんどんレイに困難が降りかかっていたはずだ。
あたしの暴走を止めてくれて。
ばらばらになってしまったあたしとお母さんの絆を、必死になって取り戻してくれて。
多分、今ここにはいないけれど、リリアやマリス、フォルトもレイに何らかの形で救われたと思う。
普通の人間なら絶対に諦めてしまいそうな絶望の中で、レイはただひたすらにあたし達を助けるために頑張ってくれたのだから―――・・・
「ま・・・このぐらい、仕方ないわよね。」
「仕方ないという割には嬉しそうよ、キララ?」
う・・・まあ、そりゃあねぇ。
多分、最後の方はほとんど意識が無かったんだろうけど。レイの頭は現在あたしの太ももの上に乗っている。つまり、先日の海に続いて膝枕なんてものをあたしはしているわけだ。
「・・・お母さん。」
「何、キララ?」
「お母さんは、レイがここまでしてくれるって思って・・・レイを連れてきたの?」
「・・・いいえ。最初は、あなたをほんの少しでも支えてくれればって思う程度だったわ。いつか、私があなたから離れた時に。」
「え?」
「キララ。あなたはお父さんの娘でもあるから、今回みたいに神としての力さえ使用しなければ命は有限。レイさんや、マリスちゃん達と同じように歳を取っていけるわ。けれど、私は違う。あなたがどれほど老いていこうとも、私は永久に変わらず生き続けるの。」
・・・そうだ。
神の力を行使したときにのぞき見たもの。それは、神がどのようなものであるかということ。
お母さんは、気の遠くなるような年月を一人で過ごしてきたし、そしてあたしがいなくなれば、再び一人で生きていくことになる。永遠に・・・
「だから、いつか・・・私はあなたから離れるつもりだったの。あなたの側に寄り添ってくれる人が現れたら。私の代わりに、あなたの側にいてくれる人が出来たら。」
「そんなっ・・・!だったら、あたしもお母さんと―――」
「優しいわね、キララ。けれど、私はあなたに永遠を望んで欲しくないの。あなたに、あなたが本当に寄り添っていきたい人と有限の時を進んで欲しい。それが、いつか私とあなたとの別離につながるとしても。」
「ど、うしてっ・・・?」
「レイさんが、教えてくれたわ・・・それはね、私があなたの母親だからよ。」
お母さんはとても嬉しそうに呟いて、眠っているレイの髪の毛をそっと撫でた。レイは目覚めることは無かったけれど、少しだけ顔をほころばせる。
「娘が親のために生き方を決めるなんて、おかしいでしょう?」
「じゃあ、あたしがあたしのためにお母さんと一緒にいるって思ったら?」
「それはもちろん反対しないわ。あなたに無限の時の過ごし方を教えて、多くの世界を一緒に回って、ずっと一緒に笑っていましょう。けれど、キララ・・・あなたが今、一番あなたの隣にいて欲しいと思っているのは、本当に私かしら?」
「あ―――・・・」
一番、隣にいてほしい人。
そう考えた瞬間、あたしの視線はお母さんから外れた。外れて、しまった。あたしの視線がたどり着いたのは―――
無限を孤独に生きるお母さんじゃなくて
有限を多くの人と一緒に生きる、大切な男の人。
「ね?」
「でも・・・そんなっ、お母さんっ・・・!」
「大丈夫よ、心配しないで。他の世界にも、私みたいな神と呼ばれる存在はたくさんいるわ。家族じゃなくっても、私にも友と呼べる者達がたくさんいる。孤独なんかじゃない。だから、キララ・・・お母さんからのお願い。」
レイを撫でた手を、今度はあたしの頭に乗せて、どこまでも優しい瞳でお母さんは微笑んでくれた。
「たとえレイさんがあなたを選ぼうと、そうでなくても。あなたは、有限の命で、有限の時をあなたの大切な人と生きていきなさい。」
「・・・うん・・・!」
お母さんはあたしの返事に満足そうに頷いた後、もう一度レイに視線を落とした。その視線にあるのは感謝と、親愛と―――・・・ん?何だか、おかしな感情が交ざってるような・・・?
「・・・ねえ、お母さん。」
「あら、何?」
「ひょっとして、レイってお父さんに似てたりしない?雰囲気とかが。」
「・・・なんのことかしら?」
「似てるのね!?今レイを見たときに微妙に恋する女の顔になったでしょ!?」
「そうね・・・レイさんを口説いて、ちょっと人間をやめてもらって無限の時を一緒に過ごすという考えが無いことも―――」
「娘の想い人を取るなぁっ!」
思わず大声を出してしまったあたしの膝の上。そこで眠っているレイは、この上なく穏やかな顔だった。
「お礼をしようと思うのよ。」
「へ?」
「お礼って、誰に?何の?」
「ひょっとして、レイ様にですか?」
あたしの言葉に疑問符を付けたのは、つい先ほどまで再会の感動を分かち合っていた親友達。
レイをお母さんが神の力を使って―――もはや、あたしの前で隠すつもりは無いらしい―――部屋まで運んでくれた後、降りてきたあたしの前にやって来たのは、レイに言われて今まで出かけていたらしい3人だった。
あたしが申し訳なさ半分、隠しきれなかった嬉しさ半分で『ただいま』と言うと、飛びついてきたのはフォルト、倒された私に手を伸ばしてくれたのはマリス。そして2人の後ろからは泣きそうな表情で微笑んだリリア。そのまましばらく、お互いに起きたこと、悩んでいたことについて話した。あたしが、神と呼ばれる存在の血を引いていることも。さすがに驚き戸惑っていたみたいだけど、それでも3人はあたしから逃げないでくれた。あたしに、神様でもいい。もう何処にも行くなと言ってくれた。そこでもう一度、今度は4人で泣いてしばらくした後に、あたしが言い出したのがレイへのお礼のことだった。
「うん。よく考えてみると、あたし達がレイに頑張ってもらった時って、ほとんどお礼らしいお礼をしてなかったなぁって思って。」
「…そうだっけ?」
「わ、私達ってそんなにレイ様へのお礼を欠かしていましたか?」
「ちょっと思い返してみましょうか。」
ヴェロンティエに入ってくれたとき
リリアの病気を治療してくれたとき
マリスを騎士から守ってくれたとき
フォルトの行きつけのお店を復活させてくれたとき…等々。
「あ、あっれー…?な、何か全然レイ君にきちんとお礼した記憶がない…?」
「レイへの愛で返したということには───」
「釣り合うと思う?」
あたしは───多分、リリア達も───頭の中に天秤を用意した。片方に乗せたのは、あたし達のレイへの想い。そしてもう片方には、レイがあたし達のためにしてくれたことや、レイとの多くの思い出。
結果として、想像上だというのに天秤の片側に載せていたものは勢い良くすっ飛んでいった。
「…ひょっとして、私達は随分と人として不出来なことをしていたりするのでしょうか?」
「リリア。今のあたし達の顔色がそれに対する答えよ。」
「えっと、そんじゃ…何、しようか?」
「今までのレイが私達のためにしてくれた行動全てに釣り合うほどのお礼…は、無いと考えたのは私だけかしら?」
「全部は無理でしょうから、今回の分から地道に返していくということで…どうでしょうか?」
リリアの提案に、あたしもマリスも頷く。が、フォルトだけは気まずそうに頬をかいて目線をそらしていた。
「どうしたの?フォルト?」
「あー…えっと、ね?今回の分って言われると、多分あたしは何もしなくていいかなーって思っちゃったり…?」
「そう言えば、フォルトさんはレイ様に自信をお付けになってくださったのでしたね。」
「ああ、そういうことね。確かに、今回に関してはレイとフォルトは対等だったと言えるのよね。やるじゃない。」
「ま、まあね!」
「…そう言えば、フォルト。レイにどうやって自信を付けさせたのか、教えてくれないかしら?」
「っ!な、何でかな!?」
「それを参考にしようと思ったからよ。それだけ。決して、あなたが以前に言っていた、レイとあなたの一夜に興味があるわけじゃないわ。ええ、決して。」
「怖い!?マリス、ちょっと怖いよっ!?」
「確かにいい案ね。それにしても親友を見て怖いだなんて、面白いことを言うわね、フォルト?さあ、吐きなさい。あんた、レイに何をしたの?いいえ、レイと何をしたのかしら?一夜の間で。夜に。具体的にはっきりと包み隠さず述べなさい?」
「そうですね。先ほどもぼかしておっしゃっていましたし。私もお聞きしたいです。参考に。ええ、参考にするためです。決して、抜け駆けしたんじゃないかと勘ぐっているわけではありませんよ?」
「キララとリリアも怖ぁっ!?」
机の上で、状態を仰け反らせるようにしているフォルトを追い詰めるようにあたし達は身を乗り出す。と言うか、何だろう、このフォルトの反応は?ひょっとして、本当にあれか。抜け駆けしたのか、この親友は。あたしの家で、家主がいない間にやることをやってしまったというのか。
「フォルト、単刀直入に聞くわ。」
「な、何でしょうか…?」
「レイと、何を、したのかしら…?」
「…も、黙秘権は…?」
「もちろん構いません。その代わり、一分経過するごとにその膝の上に漬物石を追加させていただきます。」
「拷問!?」
「違うわ。親友が喋りやすくなるようにという、あたし達なりの優しさよ。」
「重い!優しさが重いよ!二重の意味で!」
「マリス、一つ持ってきなさい。」
「分かったわ。フォルト、待っていてね?今、楽にしてあげるわ。」
「何を楽にするの!?」
「もちろん、話すのを楽にしてあげるのよ。」
「絶対に嘘だぁっ!?」
マリスが立ち上がり台所に行きかけたところで、ようやく観念したらしいフォルトは頭をうなだれた。
「わ、分かった…話す…話せばいいんでしょぉ…」
「さすがフォルトよ。」
「親友として鼻が高いわ。」
「その決断は、王族として見習っていこうと思います。」
「暴力に屈するとか、見習っちゃいけない決断の仕方でしょ!?ええぃ!こうなったら、聞いたことを後悔するぐらいに生々しく赤裸々に語ってあげようじゃないの!心の準備はいい!?経験無しの頭で付いてこれるかなっ!?」
そうしてフォルトが語りだした内容だけど…ここでは詳細を省かせてもらう。
ただ、その内容のあまりの生々しさに、開始数分でリリアが脱落、あたしもそれに続くように撤退。最後まで残ったマリスも、結局途中で駄目だったことを追記しておく。
…レイ…覚えておきなさい…
「はっ!?」
な、何だ!?今、何か強烈な呪いをかけられたような気がしたぞ?
「あら、気づかれましたか、レイさん?」
「っと…ミリアさん。」
あ、そうか。俺ってキララと話してる途中で倒れちゃったんだっけ。格好悪い上に情けないなぁ…
「そんなことありませんよ。」
「…いや、神様だから読心術ぐらいいけるとは思いますが、心臓に悪いので止めてください。」
「そうですか。でも、レイさん。私は、あなたほど格好良く、頼りがいのある人を知りませんよ。ですから、そんなに落ち込まないでください。」
「ありがとうございます。でも、やっぱり格好付けたかった、っていうのはありますね。」
「贅沢な悩みですね。」
そうだな。確かに、贅沢な悩みなんだろう。けど…少しだけ眠って、ちょっとだけ頭が冴えてきた気がする。
「…今なら、答えが出せるのかな…?」
「どうしましたか?」
「ミリアさん。俺、今回の事件を通してずっと考えてたことがあるんです。」
「…レイさん?」
「確かに、俺は4人が笑ってくれる世界を作ろうと必死でした。そして、また4人の笑顔を取り戻して、本当に安心したんです。けれど────っ?」
俺が言葉を出そうとした口は、ミリアさんがそっと差し出した指に押さえられてその動きを止めた。
「レイさん。それ以上は、私が最初に聞いていいことではありませんよ?」
「っと…。」
「レイさん。本当にありがとうございました。あなたはこの世界に来て、多くの困難にぶつかりました。多くの人の悲しみを見てきました。そして、その全ての困難を退け、全ての悲しみを笑顔に変えてくれました。ですから、レイさん…もう、いいでしょう?」
そっとミリアさんは俺の頭を撫でてくれる。その微笑は母親のものであり、神様のものであり、本当に優しさを注いでくれるものだった。
「もうそろそろ、あなたは‘あたなだけの幸せ’を望んでもいいはずです。それを望んだとしても文句は誰も言いませんよ。いいえ、言わせません。私が。」
「…そ、創世の神様の、後ろ盾付きっていうのは心強いですね…」
「ええ、無敵ですよ?レイさんの幸せを邪魔するものがいたら、私は全力で排除すると決めましたから。たとえ世界を敵に回しても。」
「本気にしか聞こえませんが。」
「冗談ですよ。世界ごときが、私の敵になれるはずありませんから。」
「そこが冗談!?」
くすくすと笑うミリアさんは、そのまま俺を置いて部屋から出て行った。何も言わなかったということは、俺の好きなようにしていいということだろう。
気がつけば、体が軽い。ひょっとすると、俺の疲労を取り除くために俺の傍についていてくれたんだろうか…うん、きっとそうなんだろう。どうやら俺は神様とか家主だとか関係なしに、これからもあの神様に頭が上がらなさそうだ。
さてと、そろそろリリア達も戻ってきてるだろうし。仲良く久しぶりに5人で夕食を食べるとしようか。
…何だろう。俺の第六感が下に行くなと告げている。今すぐ、ヴェロンティエから逃げ出せと警鐘を鳴らしている気がする。それとは別に、何だか天の声的な雰囲気の何かが、とっとと下に行けと促している気もする。まあ、とりあえずは大丈夫だろう。何たって俺には創造神のご加護があるわけだし。
「おーい、キララ。リリア達は戻ってきたか───って、は?」
階下に降り、目の前に広がった光景を見た俺の第一の感想。
何だ、この光景?
キララも含めた4人が居る。それはいい。予想していたし。一つの机についている。これもいい。積もる話もあっただろうから。
でも、どうして全員が死屍累々といった感じで突っ伏してんだ?リリアは、眼を回してる?キララとマリスも同じぐらいにぐったりしてるし。ってか、どうして3人とも顔が真っ赤なんだろう。唯一意識がはっきりしてるらしいフォルトさんにしても、やっぱり顔が真っ赤だ。何だか息も荒いし。
「…え、何があったの、これ?」
「あ、れ、レイ君…やったよ、あたしは勝ったよ…」
「勝ったって、何に?何の勝負をしたらこんな状況が生まれるんだ。」
「ふ、ふっふっふっふ…所詮、経験の無い3人には付いて来れない世界だったんだよ…あたしと、レイ君だけが立ち入れる世界はね…」
「何処の世界だ、それ。」
ってか、何だかテンションがおかしいぞ、フォルトさん。後、俺の脳みそ。警鐘を鳴らしまくるのは止めろ。もう手遅れだという雰囲気が伝わってくるから。無駄だ。そして俺に階下に行けと勧めた声の主。天から降りて来い。そして一発殴らせろ。
「心の準備はまだだが、フォルトさん。一体、何の話をしてたんだ?」
「もっちろん、レイ君と、あたしが、熱く激しく過ごした一夜について。」
「嘘ぉ!?」
「安心して。細部まで明確に、あたしの記憶の留める限りを尽くして生々しく、用いることができる全ての表現を使って説明したから。」
「どこに安心できる要素があるんだ!ってか、普通言うか、あれを!?」
「そうでもしなきゃ、あたしの敗北は必定だったんだよ、レイ君!」
「むしろ勝たなくていいよ、その勝負!ってか、勝ち負けの基準が分かんねー!?いや、分かりたくもねぇけど!」
「っ…れ、レイ…?」
マリスが意識を取り戻したようだ。それに反応するように、次々とキララ、リリアも眼を覚ます。いや、もう少し眠っててくれ。マジで。それか忘れてくれ。
「…レイ。」
「な、何だ、マリス…?」
「今日の夜、あなたの部屋に行くわ。ええ、絶対に。」
「ぅおーい!?何か、今までに無く感情が篭ってませんか!?」
「レイ…あんた、仮にも居候の分際で、家主のいない間になんてことしてるのかしら…?」
「家族!ほら、以前にお前俺のこと家族って言ってくれたから!そういう理由で勘弁してください!」
「それはそれ。これはこれよ。」
「ひでぇ!」
「特務騎士、レイに命令します。今宵の夜伽を───」
「いやいやいやいや!そんなこと命令しちゃいけませんよ!?」
「職権乱用って、素晴らしい言葉ですよね。」
「それ、むしろいけない言葉だから!」
ああ、本当に良かったのか、俺?これが、俺の望んだ世界なのか?
…うん。
確かに面倒だし
大変だし
正直疲れまくってしょうがないけど
確かに、これは俺が望んだ世界だ。
部屋に送った後、全力で引きとめようとするリリアから何とか逃げ延び、ヴェロンティエに戻れば俺のベッドを占拠していたマリスを布団で簀巻きにして、恐ろしいことにミリアさんに協力してもらって俺を押し倒そうとしたキララをねじ伏せて、何とか一夜を過ごした翌日。(ちなみに、フォルトさんは満足そうに就寝。助けは無かった。)
「…レイさん、僕のこと忘れてましたね?」
「本っ当にすいませんでしたっ!」
朝から俺は土下座していた。
理由はっていうと、目の前で苦笑しているゼノスさん。そう。昨日、俺がキララと2人きりで話すために親衛隊に拉致してもらった後、放置してしまったゼノスさんはわざわざ今日の朝から来てくれたのだ。
「あ、あれから色々とあったもので…」
「ええ、僕のほうも本当に色々とありました…キララさんの出身校に始まり、フォルトさんの家まで案内されることになって、昨晩は親衛隊入隊試験とやらで満点を取るまで寝せてもらえませんでした。」
「親衛隊ー!そこまでやれとは言ってないぞ!?」
「我らが女神の魅力を一晩で伝えきるにはこれしか無かったのだ!」
「威張るなよ!時間稼ぎ頼んだの俺だけどさぁ!」
「おかげで、本来よりも随分とお2人のことに詳しくなってしまいました。」
「2人って…俺も!?」
「敵を知ることこそ、勝利への近道だからな。」
その内に陛下に頼んで個人情報保護法を作ってもらうしかないと、半ば本気で考えていた俺にゼノスさんはくすりと笑ってみせた。
「それに、お2人がどれほど強い絆で結ばれているのかも分かりました。」
「…ど、どうも。」
「お2人が最近仲違いをしているというのは聞いていました。ですから、僕も卑怯かなと思いつつ、今なら簡単にキララさんを連れて行けるだろうと思っていたんですよ。けれど…レイさんのその表情を見る限り、どうも無理そうですね。」
「え…?」
「顔に出てますよ。キララさんを連れて行って欲しくない、キララさんが行きたくないと言っていた、って。」
どんな顔だろう。と言うか、それを読み取るって、どれだけすごいんだこの人は。
「また近いうちに、お2人を招待させてください。一週間ほどなら、来ていただけるでしょう?」
「…ゼノスさん…その、本当にすいません!」
「いえいえ。残念ですが、今回は諦めることにしますよ。レイさん、これからも頑張ってください。」
「ありがとうございます。ゼノスさんも、どうぞお気をつけて。」
「はい。僕は、これから一旦宿に戻って荷物をまとめます。帰る日に、もう一度寄らせてもらいますよ。」
それだけ言って、ゼノスさんはくるりと回れ右をして去っていった。その後ろ姿には未練など無く、胸を張ったその姿は本当に素晴らしいものだった。
「…格好いいな、あの人…」
「レイ。世の中には、お前ごとき及ばぬ人間がいるのだ。そのことを肝に銘じるがいい。」
「ああ。お前らとでは、まさに天と地の差だな。」
「…」
「…」
「…泣くぞ?」
「気持ち悪いことこの上ないから止めろ。」
親衛隊の脚に蹴りをいれ、ようやく一息つけ───
「ごめんくださーい。」
「はい?」
「あ、レイさん!お久しぶりです!」
「君は…イーノちゃん?どうしたの?」
「いや、あの、どうしたのって…今日、採用の結果発表ですよね…?」
「…誰が、そう言ったの?」
「前回の試験のときに、キララさんが。」
そのキララさんは、現在朝からどこかへ出かけておられるのですが…?
「…日にち、間違えてたりとか…」
「でも、友達みんな来てますし。」
「「「こんにちはー!」」」
「キララは、今日、朝から、発表するって、言ったんだな?」
「はい。みんなが揃い次第、発表してくれるって…あの、レイさん?」
やってきたのは全部で9人。聞けば、調理担当が3人、給仕担当が5人、兼業可能なのが1人。
これはもう、やるしかない…この場を乗り切るための、一手を打つしか!
「と、いうわけで!」
「どういうわけで!?」
「レイさんの目が怖い!」
「9人、今すぐに厨房に入ってください。」
「「「「はい!?」」」」
「キララが俺に丸投げして逃亡したので、本日ここにいる全員にヴェロンティエを手伝ってもらう!」
「「「「えええええええええええええ!?」」」」
「で、俺が即戦力と判断したらその場で採用!場合によっては9人全員採用の場合もあるから!」
「「「「前回の試験の意味はっ!?」」」」
「キララが戻ってきたときに明らかになると思う。というわけで、作業開始!というか、手伝ってくださいお願いします!」
「…そういえば、ヴェロンティエって…」
「ああ。何が起こるか分からない確率最高だったな。」
「俺達の見通しが甘かったってことかよ。」
「こ、こうなった上等ですわ!ばりばり働いて、一番乗りで就職を決めてみせます!」
「負けるか!俺の全力を尽くした料理で、ヴェロンティエの舌の肥えた客を唸らせて見せるぜ!」
「ならば、あたしは給仕を完璧にして客の視線を集めてみせーる!」
血気盛んな若者達が厨房に入っていくのを見て、俺はとりあえずため息を付く。
それにしても、キララはこんな朝からどこに行ったんだろう?
「しゅくっ!」
「くちゅん…!」
「はくちゅっ!」
「へっくしょいぃ!」
4人揃ってくしゃみをしたという事実よりも、最後の声のありえなさに、その発信源に視線が集まるあたし達。
「…お願いだから何も言わないで。」
「今のへくっしょい、なんてのは聞かなかったことにしましょうか。」
「女性らしさが皆無だったとか、親父臭さ全開だったとか、そういったことは言わなければいいのね?」
「大丈夫ですよ。今の決定的瞬間は私達の心にずっと閉じこめておきますから。」
「ねえ、信じていいんだよね?3人ともあたしの親友だよね?」
引きつった表情であたし達を見ているフォルトを置いて、逸れてしまった話題を元に戻す。
「えっと、それでレイへの感謝をどうやって表すか、ってことよね?」
「贈り物というのが最も一般的ですが。」
「私、あまり男性に贈り物ってしたことないのよ。兄さんと父さんぐらいだもの。」
「まだ良い方ですよ。私はずっと貰う側でしたから。」
「相手の趣味とかが分かれば、それに沿ったものを贈るんだけど…レイ君の趣味って、何?」
「今更ですが、レイ様は趣味などがまったく分かりませんし…」
「と言うよりは、レイの場合何でもそつなくこなしちゃうから、何かに熱中するってことが無いのよね。」
「加えて、何を渡しても喜んでくれるだろうから、本当に喜んでくれるものが思いつかないというのもあるわよ?」
…なんと贈り物選びに困る男だろうか、レイは。
何を渡してもレイはあたし達からの贈り物というだけで喜んでくれるだろう。けれど。本当にレイが喜んでくれるものじゃなければ意味がない。そして、それを考えるためにこうして4人で知恵を寄せ合っているのだが、いい知恵がさっぱり―――
「もういっそ、あたし達の体を包装してレイ君の部屋で待機しとく?」
…あたし達を…?
「それも一つの手かしらね。」
「え、えぇ?それは、ちょっと…キララさんも何か仰ってください。」
「…いいわね、それ。」
「ちょ、キララさん!冗談ですよね!?」
「本気よ。よく考えてみたら、悩む必要なんて無かったじゃないの。」
「悩んでください!いえ、むしろ悩む間もなく反対してください!」
「うわぁ…冗談のはずだったのに、一番反対するはずのキララが賛同してる…」
「キララ、熱でもあるんじゃないの?」
「別にフォルトの案をそのまま実行しようなんて言わないわよ。」
それを聞いて、3人はきょとんとした表情であたしを見る。
そうだ。どうしてこんな簡単なことで悩んでいたんだろう。だって、レイが喜ぶものといえばこれ以外にありえない。
「あたし達が笑ってレイと一緒にいることが、レイにとって一番の贈り物じゃないの。レイは、あたし達と笑いあえる時間が欲しかったからあんなに頑張ってくれたのよ?だったら、4人だけで頭突き合わせてるよりもレイと一緒にいた方がいいに決まってるわ。」
「…それは、一理ありますね。」
「で、でも、それだといつもと変わらないよ?あたし、レイ君と一緒だと確実に笑ってる自信あるし。」
「なら、レイに何を贈るかじゃなくて、レイと一緒に何をするかを考えましょう。」
レイと一緒に何をするかって言われると…やっぱり、全員でどこかに出かけるとか?でも、ついこの前まで海に行っていたわけだし。そう何度もお店を閉めるわけにも…そういえば、レイは今ごろ家で何してるのかしら。今日はあたし達がいないからお店は休みにしてるはずだけど……何か、大切なことを忘れてる気がするわね。
「…あ。いい案があります!」
「へぇ、どんなの?」
「ここのところ随分と忙しかったので自分でも忘れていたのですけど、私もうすぐ16歳になるんですよ。」
「忘れちゃ駄目でしょ!?」
「リリアへの誕生日の贈り物まで考えなきゃいけないわね。」
「ようやく、リリアもレイと結婚できる歳になるのね、おめでとう。」
「ありがとうございます。それで、私が思いついた案なのですが────…」
そう前置いて、リリアが話し出した提案。
それはあたし達が考えていた趣旨に沿っていて。なおかつ、実現可能なものの中では最適な気すらして。
「───…と、いうのはどうでしょうか?」
「いいね、いいね!それ最高だと思うっ!」
「準備や説得に手間はかかりそうだけど…難しいというほどでもないかしら。」
「レイに内密に進めるのが最大の難関だとは思うけど、それも4人でやればどうにかなりそうだし…あたしはいいと思うわ。」
「レイ君の驚く顔が見てみたい!」
「そうですね。私も、今から楽しみになってきました!」
「それじゃ、早速一番最初に許可を取らなきゃいけない人の説得といきましょう。」
あたし達は立ち上がると、そのまま目的地に向かって少しばかり駆け足で走り出した。
レイの言葉を借りるならば、とりあえず、必死に、頑張って、レイが心から笑ってくれる世界を作ってみましょう。
『リリア・キルヴァリー王女が16歳となられる誕生記念式典への参加令状』
そんな手紙が飛び込んできた──文字通り、部屋で休んでいた俺の窓から何故か──のは、あの事件が解決してから数日経った日のことだった。
近頃、キララ達の様子は確かにおかしかった。朝は店が始まる直前まで何処かへ出かけていて、店が終わると同時に急いで3人とも店を出る。そのまま一日中帰ってこない。リリアはずっとお城で何やら公務を頑張っているとはいえ、一度も店に来なかったのにも驚きだ。ミリアさんもまた、キララ達に付いていっているらしく、呼びかけても返事が無い。
リリアの誕生日については、もちろん知っていた。ちゃんとプレゼントの準備もしていたし、当日はきっとお城に呼ばれることになるんだろうと思って、今度こそ堂々とリリアに会いにいけるようにと奮発して服も買った。だから、キララ達もリリアの誕生日に向けて何かしらやっているのだろうと思っていて、手伝おうとしたのだが───
『付いてこないでね、レイ君!』
『女の子同士じゃなければ出来ないことがあるのよ、レイ。』
『もしも付いて来たら、お母さんに頼んであんたを別世界に送るわ。』
『暑い世界ですか?寒い世界ですか?それとも、天然ボケしかいない世界ですか?レイさん、お好きな世界をどうぞ。』
と、言われた──もとい脅迫された──ので、キララ達が何をしていたのか知ることは無かった。
そこにこんな手紙である。
「…怪しい…怪しすぎる…」
手紙には、キララ達が今晩は城の方に泊まること。明日のお店を休みにすること。明日の夕方に迎えを出した車に乗って城まで来ること。もしも、それまでに城に来ようとしたならばミリアさんが立ちふさがるとのこと。などが書かれていた。
…ミリアさん、あなたは俺の味方のはずじゃなかったんですか?
とりあえず、洋服の手入れとプレゼントの準備をして…後、一応念のために色々と装備を整えておこう。
そして、翌日の夕方。
買ったばかりの服に身を包み、掃除を終えて鍵もかけた店の前で車を待つ。もちろん、一通りの装備だってしている。友人の誕生日パーティーに出かけるためにこんな装備をしなければならない状況が途方もなく虚しいが。
‘ガラガラガラガラガラ…!’
「お、来た。」
やって来た車が俺の前に止まり、扉が開かれる。
「「「「よく来たな、レイ・キルトハ───」」」」
‘バァンッ!’
全力で扉を閉めた。何だか幻覚が見えた気がする。
「よし、走って行くとしよ───」
「逃がすものかぁっ!」
「おとなしく我々に捕まるがいいぞ、レイ・キルトハーツ!」
「のわぁっ!?」
幻覚ではなかったらしく、中から転がるようにして出てきた親衛隊の隊長4人に、そのまま引きずり込まれるという表現がぴったりな感じで俺は車の中へと連れ込まれた。
「ちょ!ま、お前ら一体、何をしてんだぁっ!?」
「我々は、本日光栄なことにっ!」
「女神達から、何と直接手をとっていただき!」
「そして上目遣いで貴様を会場まで連れてくるように頼まれたのだ!」
「ちなみに、この車は部品一つとっても最高級のものですので、あなたの馬鹿力で暴れて壊すとヴェロンティエが潰れかねない、ということをお忘れなく。」
「キララ達がどうしてわざわざお前達を迎えに寄越す必要が───って、ヴォンド?ちょっと聞いていいか?」
俺の視線の先にいるのは、キララの親衛隊長ヴォンド。その手にあるのは───
「…なんで、お前はそんな高級そうな服を持っているんだ?」
「これだけだと思うなよ?外套もある。」
「もちろん、靴までそろえてあります。」
「おまけとして王家の紋章が入った剣と勲章もここに。」
「お、おい…まさか───!?」
「レイ・キルトハーツ。暴れるなよ?」
「さあ、お着替えしましょうねー?」
その言葉を皮切りに、いっせいに奴らは俺に飛び掛ってきた。
「おい、こら!上着を取るな!買ったばかりなんだぞ!?紐をほどくな!自分で脱げるわ!てか、なんで脱ぐ必要があんだよ!下に手をかけんじゃねえ!嫌そうな顔するならしなきゃいいだろうが!何を決心してんだ!近寄るな!真剣に怖いわ!離せこの野郎!?止めろって言ってんだろうが!せめて自分で着替えさせろ!は!?頼まれたって、誰に!?リリア!?でああっ!?おまっ、それ、高かったんだぞ!破りやがったなぁっ!?何が大人しくしろだ!お前ら、本気で犯罪者の目つきになってんぞ!ってか、何がどうしてこうなってんだあああああああああああああ!」
・
・
・
・
・
「ふぅ、任務完了だな。」
「お前ら、本気で車から蹴り飛ばしてやろうか!?」
結局、高価な車の中では暴れることも適わずに俺は遭えなくヴォンド達の手によって用意されていた服に着替えさせられることとなった。ちなみに、俺が奮発して買った服は二度と着られないだろう状態となって放られている。
「ってか、何だよこの服…?随分と上等そうだっていうのは分かるけど…」
「それら一式を揃えるのに30万ゼネーほどかかっているらしいぞ。」
「30まっ…!?」
「紋章の入っている剣も高価らしいな。確か───」
「待て、言うな。言わないでくれ…考えたくも無い…」
「ちなみに、この瞬間からその服はお前のものだそうだ。」
「…なぁ、この服の贈り主は陛下か?」
「そういうことだ。今日の式典を開くと決めたとき、急いでお前のために国で一番の職人に作らせたらしい。職人も、お前のことは知っていたから全力でやってくれたぞ、感謝しろ。」
「はぁ…ったく、あの人、娘の誕生日にかこつけて俺をリリアの婚約者として公表しようとかしてないよな…」
「まあ、そう思っておいてください。」
「は?それはどういう意味───っと?」
その真意について問いただそうとした瞬間、車がガクンと音を立てて停止した。
「さて、レイ・キルトハーツ。」
「我々はここまでだ。後は、お前が一人で行け。」
「まあ、何だ…楽しんでこい。」
「あなたは幸せ者だということを自覚してくるといいです。」
そうして、開かれた扉に向かって押し出されるように、俺は車から降りた。
レッドカーペットが真っ白な床に一直線に敷かれていた。
本来ならここまで車は進入できないはずなのだが、俺が立っているのはすでに城内だった。つい先日来たときよりもさらに美しく飾り付けられている中の様子に思わず呆然とする。
何より驚くべきことは、俺の前に敷かれている赤絨毯を挟むようにしてお城の衛兵や騎士の人たちがズラリと並んでいるのだ。
待て。何だ、この状況?俺、確かリリアの誕生日パーティに出席しに来たんだよな?それで親衛隊に洋服着替えさせられて、それは陛下からのプレゼントで、車から降りた今、俺の目の前には赤絨毯。
…わけ分からん…
「レイ・キルトハーツ様。本日はようこそ、お越しくださいました。」
「え、あ…キ、キララ…?」
名前を呼ばれて振り返ってみれば、先ほどまでは誰もいなかった場所にキララが立っていた。
来ている服は、美しく清廉な感じのするドレス。そしてそれすらもかすんで見えるキララの美しさに、思わずぽかんとする。多分、鏡を持って来ればアホみたいな自分とご対面だ。
「キララ、これは一体どういうことなんだ?」
「すぐに分かるわ。早速だけど…不遜の身ながら、あなたの腕を取ることをお許しいただけますか?」
「あ、ああ…。」
差し出された申し出に思わず頷けば、キララは俺の腕に自分の腕をさっと絡めて隣に立つ。その顔は、嬉しそうであり、誇らしげでもあった。
「じゃあ、行きましょう。」
そう言ったキララと並んで、俺はゆっくりと赤絨毯の上を歩き出した。
俺達が通り過ぎると、今まで直立不動だった兵達はにこやかな笑顔とともに剣をかかげる。その荘厳でありながら、どこか温かみのある雰囲気に思わず俺も笑い、それでも疑問が頭の中を埋め尽くした状態で一歩ずつ歩いていった。隣にいるキララに聞いてみようとも思ったのだが、何だかそんなことは許されないような気もしたので断念する。
そうしてしばらく歩いていった俺達の前に現れたのは、大きな門。確かここは、謁見の間だったはずだけど…謁見?俺が?正しいんだけど、何だか間違ってる気がするのは何故だろう。
「レイ・キルトハーツ!ご到ちゃーーーーーく!」
門の両脇に佇んでいた兵の声と同時に、重々しい扉はギギギギと音を立てながらゆっくりと動き出した。
その向こうにあった光景に思わず息を呑む。
赤絨毯なのは相変わらずだが、普段は広々としている謁見の間にこれでもかってほどに人々が集まっている。お城の人たちだけじゃない。町の人たちもいる。中にはヴェロンティエの常連である人も。
その人たちがきちんと列をなし、俺達の進む先を挟むようにしてこちらを見ているのだ。その顔にあるのは、老若男女問わず、どれも笑顔、笑顔、笑顔。
「これは、一体…?」
「やっほ、レイ君。」
「ここからは私達が隣を歩かせてもらうわ。」
「マリス!?フォルトさんっ!?」
目の前の光景に圧倒されていて気づかなかったが、いつの間にか俺の両サイドには、やはり美しいドレスを纏い、いつもと髪型まで変えた2人が寄り添ってきていた。キララはそっと俺の腕から離れると、今度は俺の後ろに付く。
「え、あ、あの?これは結局何なんだ…?」
「まあまあまあ。それは向こうまで行ってのお楽しみってことで。」
「両隣をこんな美女に寄り添ってもらえることに、不満でもあるのかしら?」
「そんなことは、無い、けど…」
「だったら早く歩きなさいよ。リリアが待ってるわ。」
キララの声に促されるようにして、今度は左腕をフォルトさん、右腕をマリスに絡められながら、そしてキララを後ろに従えるようにして俺は再び歩き出した。もちろん、周りには沢山の人がいて、その全ての視線が俺達に、というよりは俺に向けられていた。
そんな空間をようやく奥まで行きついた俺を待っていたのは、まさに王族が着るに相応しいドレスを纏い、初めて見る王族の紋章の入ったティアラを身に着けているリリアだった
その後ろにある玉座には陛下と王妃様が座っていて、ようやく俺はこれが正式な式典だと、しかも俺のためのものだと、理解した。
王族として立ち振る舞っているリリアはとても綺麗で、そしてその前に立っているレイはとても格好良くて。はっきり言ってお似合いの2人だ。こんな状況だというのに思わず嫉妬してしまいそうにもなる。
それ以上に、ここまで来てもまだ戸惑った様子のレイに思わず苦笑がもれてしまう。そんなレイの隣から下がってあたしの横に来たマリスとフォルトも同じようで、その顔には笑顔が浮かんでいた。
そして、そんなレイが今までしてきてくれたことを、あたし達は知っている。
「…レイ・キルトハーツ。」
「は、はい。」
「あなたは、今まで幾度と無く私を救ってくださいました。私だけではありません。ここにいる全ての人たちの暮らしを、笑顔を、あなたは異邦の民でありながら守り続けてくださいました。」
「そ、そこまで褒めちぎられるほど、俺はしてないぞ?」
「いいえ。あなたは、普段は料理人としてとても美味しい料理を作ることで町の人たちの笑顔を生み出してくれています。そして、危険が迫ったときにはその身を剣として害を切り払い、その身を盾として悪から私達を守るために戦ってくださったことを、ここにいる全ての者達が知っています。」
そう。ここにいるみんなが知っている。
お腹がすいたという人に、本当に美味しい料理を振舞ってくれるレイを。
病気で苦しんでいた人に、知恵を絞って治療にあたってくれたレイを。
困っている人を見ると、手を差し伸べずにはいられないレイを。
みんなに危険が迫ったとき、敵の手から逃がすために必死に戦ってくれたレイを。
この国が危機に陥ったとき、自分の身を省みず敵陣に単身向かっていったレイを。
どんなに面倒くさいことでも、ちゃんと解決しようとしてくれたレイを。
どれほど絶望に覆われていても、それを希望に作り変えてくれるレイを。
たった一年ほどの間で、誰もがレイという人間の強さと、優しさに救われてきた。
「レイ・キルトハーツ。あなたこそが、私の…いいえ、私達の希望を作ってきてくれたのです。あなたこそが、この町の明日を作ってきてくれたのです。あなたこそが、この国の光そのものです。」
今回のことは、最初は国王陛下にお願いしてリリアの誕生日のお祝いと一緒にあたし達がレイへの感謝を行うことを許して頂くだけのつもりだった。
ところが、リリアの提案を聞いた陛下達は驚くことを仰ったのだ。
『おいおいおい。ちょっと待てよ。あいつに感謝してるのはリリア達だけじゃないんだぞ?』
『そうよ。私達だって彼には本当に感謝の念が絶えないんだから。』
『お前らだけでやろうなんて、何をつまらないことを言ってるんだよ。俺達にも一枚かませろってんだ。』
その環はどんどん広がっていって。
『彼への感謝ですか。そういえば、ヴォルフの後始末といい、あの事件といい、騎士団としても彼には頭が上がりませんね。』
『ここは感謝って形にしてちゃんとレイに届けましょう、団長!』
『そうだな。騎士団も協力すべきだろう。』
『絶対、完遂。』
『この際だから、レイ君に感謝したい人お城中から集めちゃいます?かなり多いはずですよ?』
とうとうお城まで超えてしまって。
『あら?レイ君への感謝祭?随分といいもの企画してくれるじゃないの!』
『レイお兄ちゃんに、僕でも何かできるかなー?』
『何ぃ、あの男への感謝!?そんなのあるんだったら、どうして早いとこ言わねえんだよ!』
『いつ!いつですか、それ!?絶対に行きますから教えてくださいっ!』
『おほほほほ…あの坊やに、ちゃぁんとお礼を言えるときが来るなんてねぇ…こんな婆でもいいのかい?』
『僕たちに何か出来ることってありますか?何でもお手伝いしますよ!』
『あいつが下げる剣だとぉ?任せろってんだ!あいつに相応しい一振りを俺様の鍛冶魂全部込めて打ってみせるぜ!』
『レイさんの騎士服!?いいの!?私が考えていいのっ!?』
『まぁまぁ、引退する前に本当に最高の仕事を持ち込んでくれたねぇ。感謝するよ。』
最後には抽選で城に入る人を選ばないといけない騒ぎにまでなってしまうほどで。
約一年前のあの日。
この世界に来たレイ・キルトハーツという一人の存在は、これほどまでに人々の間に絆を作りながら歩き続けてくれた。
だから今日は、彼にその絆を見てもらおう。
彼に、その絆を喜んでもらおう。
今日という日に。
「レイ様…振り返ってください。そして、見てください。そこにあるものが、私達が精一杯の感謝とともに、あなたに送ることのできるものの全てです。」
レイが、ゆっくりとこちらを振り返る。きっと、その視線は受け止めてくれたはずだ。レイに向かって心からの笑顔を浮かべる、レイが作った絆を。
─── その手が作るは 孤独の闇を晴らす絆の光 ───
あたし達は、ゆっくりと言葉を紡ぎだす。それは、彼の歌。
─── その瞳に輝くは 恐怖の闇を晴らす勇気の光───
誰よりも英雄でありながら、その称号に座ることなどしなかった彼の詩。
─── その智が守るは 絶望の闇を晴らす希望の光───
誰よりも賢者でありながら、その称号に驕りなどしなかった彼の唄。
─── 君こそが絆 君こそが勇気 君こそが希望 君こそが光 ───
私達を、初めて出会ったときから導いてくれた、彼の唱。
─── 我らを照らす光よ 君がくれた光を 消すことなどしない ───
─── 君のくれた光を きっと受け継いで つなげていく ───
─── 君のくれた世界を きっと受け継いで つなげていく ───
─── だから 今 ありがとう ───
声が止むのと、レイの瞳から一筋の涙が溢れるのは同時だった。
あれからどれだけ時間が経ったのか分からない。
みんなが歌ってくれた後、思わず泣いてしまった俺をリリアが慰めてくれて、それに嫉妬したのかキララ達が俺を奪うように引き寄せて、そうかと思えばいきなり横から陛下と王妃様につかまって感謝の言葉を述べられて、騎士団長が笑顔で手を挙げたかと思えば四聖騎士が俺を町のみんなに向かって投げ入れて、あとはもうしっちゃかめっちゃかである。
俺の手をつかんで涙ながらに感謝する人。背中をバンバン叩きながらねぎらってくれる人。抱えきれないほどの花束をくれる人。たくさんの人たちが俺に次々と向かってきて、まさに息つく暇もなく対応に追われていた。
何と言うか、俺は自分のために行動してきただけのつもりだったのだが…それが、こんなにもみんなの笑顔を作れたのかと思うと、嬉しいという感情が止め処なく溢れてきてしまう。
「でも、さすがに疲れたなぁ…」
ずっと引っ張りだこで人の中心に居続けたため、非常に火照った顔に冷たい夜風が当たる。その心地よさに眼を閉じて、今日という日をゆっくりと思い出して自然と笑ってしまった。
そんな時。
「こんな所にいたの、レイ?」
こぼれた笑顔のまま、俺は背後から声をかけたキララに振り向く。
「さすがに疲れてな。ちょっと休憩だ。」
「ふふふ。確かに、あたし達の予想以上の盛り上がりだったわね。」
「最初にあの歌を提案したのはキララだって?嬉し恥ずかしとはまさにあれだな。」
「作詞作曲はちゃんと専門家だけどね。全員が揃ってレイに感謝を伝えるには一番いい形かなって思ったのよ。」
「…うん。みんなの気持ちが、伝わってきて嬉しかった。」
キララは隣まで歩み寄ってくると、手すりにもたれるようにして俺に微笑んでくれた。
…うん、この笑顔だ。この笑顔を、俺は────…
「…だけどさ、キララ…」
「ん?」
「俺がこんなにも絆を作れたのは…あの時、キララが俺を雇ってくれたからだ。」
「何を言ってるのよ。あたしがしたことなんて、ほんの切っ掛けじゃ───」
「そんなことない。ミリアさんが俺をヴェロンティエに連れて行ったのもキララがいたからだし。マリスとフォルトさんに会えたのも、キララが紹介してくれたから。リリアに会ったのだって、そもそもキララがリリアに助かって欲しいって思ったから、俺は会いに行ったんだぞ?」
「そりゃあ、そういう考え方も出来るかもしれないけど…その絆を強くしたのはレイじゃない。」
「そうなんだろうな。けれど…俺が、この世界で最初につないだ絆は…キララとの絆だって思ってる。」
「最初にあったのはお母さんじゃないの。」
「ミリアさんと先に会ってはいるけど、絆って呼べるものを俺とつないでくれたのはキララだよ。」
『あんた、あたしにとって他人なの?』
『2度とあんたがあたしにとって他人だなんて思わないで。』
『あんたはこの店の料理人で、あたしの…新しい家族なんだからね。』
あの時の言葉が無ければ、俺はどうなっていただろうか?考えても分からないけれど、きっと今みたいな絆を築くことは無かったんじゃないかって思う。
「今回の事件…俺は本当に必死に解決しようとした。フォルトさんに笑っていてほしかった。マリスに笑顔を取り戻してほしかった。リリアに笑うことを忘れないでほしかった。けれど…それは、きっと俺のためだけじゃなかったんだ。」
「…レイ?」
「3人が笑ってくれないと、キララも笑ってくれないって思った。この問題を解決しないと、キララが笑ってくれないって思った。キララに、誰よりも…笑って欲しかった。」
戸惑った表情のキララの視線を真正面から見て、ようやくたどり着いた答えを口にする。
「キララの笑顔が好きだ。キララとの絆が好きだ。キララ…お前のことが、好きだ。」
ポカンとしたキララの顔に少しだけ苦笑し、テラスの手すりに置かれたままのキララの手にそっと自分の手を重ねて一歩距離を寄せる。その近づいた距離だけキララの顔が赤く染まる。さらに一歩寄れば、俺を見ていた瞳が少し揺れた。
「…え、あ、あの…これ、ゆ、夢とか?」
「何でだよ。」
「いや、だって!な、えぇっ!?れ、レイが、その、ああああああたしを!?り、リリアみたいにおしとやかじゃないし、フォルトみたいに素直じゃないし、マリスみたいに大人びてもないのよ、あたし!?その、だから!えっと、あのっ…!」
「好きだ。」
「っ!?」
「リリアじゃない。マリスじゃない。フォルトさんじゃない。キララが好きだ。」
「ぁぅ…」
「だから、キララ。俺がお前の隣に相応しいと…お前が思ってくれるのなら、俺をキララの隣に置いてほしい。」
「っ〜〜〜〜〜!レイっ…!!」
最後まで残っていた距離を詰めてくれたのはキララだった。俺の背中に手を回して、決して強くない力で必死に抱きしめてくれる。そして俺も、キララが壊れないように、けれど俺の気持ちが伝わるようにしっかりと抱きしめ返す。その瞬間、俺の腕の中にいたのは同僚で、家族で、仲間で────
───…俺の、恋人だった。
‘チチチチチッ…’
「ん…、っふあぁっ…!」
朝、すっかり習慣となっている時間帯に俺はベッドから起き上がる。
洋服棚に掛けておいた制服に着替え、そのまま階下へとすぐに降りる。裏口の鍵を開ける。前日から仕込んでおいたスープの様子を確認。うん、今日もいい出来だ。さて、次は───
「おはようございます、レイさんっ!」
「「「「おはようございますっ!」」」」
「よぉ、今日も元気だな。おはよう。」
やって来たのは今日の担当の料理人達。みんな、俺に挨拶をしてから何故かため息をつく。
「ってか、相変わらずですね…」
「私達、指定された時間よりも30分は早く来てますのに、どうしてレイさんの方が早いんですの…」
「重役出勤っていうのは、俺には似合わないんだ。別に、もう少しのんびり来てもいいんだぞ?」
「自分の上司が自分より働いているっていうのは〜、考えものですよ〜」
「そんなものか?」
「ええ、そうですよっ!レイさんこそ、もう少しのんびりしてください!」
「そうそう。キララさんとの愛の営みの余韻に浸ってからでも───」
「よし、イーノ。今日の甘味時間はお前が一人でやり遂げろ。」
「死刑宣告っ!?」
「それじゃ、全員今日も頑張っていくぞー。」
「「「「はい、‘料理長’っ!!」」」」
俺、レイ・キルトハーツがこの世界に来てから7年の歳月が経った。
「おはよう、レイ…あら、みんな早いのね?」
「副料理長、おはようございます!」
「相変わらずお美しい…どうです、今晩のご予定は?」
「前にも言ったと思うけど、レイ以上の男性になれたら予定を空けてあげるわ。もちろん夜から次の朝までね。」
「あのなぁ、マリス。頼むから俺を引き合いに出すのを止めてくれ。後、そろそろいい相手を見つけろよ。」
「あら、つれないのね?」
マリスはヴェロンティエを出て、現在は自宅から通っている。7年の歳月は確実にマリスを魅力的な大人の女性へと育て、独り身ということもあってか毎日のように店の男や町の人から交際の申し込みを受けている。
…まあ、そのたびに俺を引き合いに出して断っているらしいが。本人曰く、俺以上の相手を見つけられないなら独身の方が楽だそうだ。
「ごめーん、遅れちゃった?」
「いや、ある意味じゃ時間通りだよ、フォルト。」
「給仕長!ウレモセの陶器ってどこでしたっけ!?」
「いやいや、真後ろの棚に入ってるから。あたしより若いんだから、ボケるのは早いよ?」
「フォルト。新しい彼とは順調?」
「うん。昨日はなかなか寝かせてくれなくってさー…」
フォルトさんも現在はヴェロンティエから出ている。残念ながら7年という月日すら彼女のスタイルを向上させることは無かったのだが、それでも明朗快活な性格のおかげで今は新しい彼氏と同棲中だ。
驚くべきことに、この新しい彼氏というのがあのアイン。この前はフォルトさんと喧嘩したと俺に泣きついてきた。どうやら、力関係はアインが圧倒的に弱者らしい。
「あれ?キララは?」
「ああ。2、3日前からどうも調子が悪いって言って。昨日から休んでる。」
「大丈夫なの?」
「大したことはないみたいだ。さっき、ミリアさんが様子を見に行ってた。俺も時間が空いたら行って詳しく診てみるよ。」
「私も付いていっていいかしら?」
「もちろん、あたしも。」
「私もお見舞いさせていただけますよね?」
「リリア!久しぶりだな!」
この7年で最も変わったのは、ある意味ではリリアだろう。
俺達が20歳になった年のこと。リリアは王政の廃止を宣言し、この国の政治の在り方を民主主義制に変えたのだ。もちろん、実際にそのような法律などを定めたのは元陛下達だが、立案は俺とリリアだった。
今の彼女は王女などではなく、リリア・キルヴァリーという一人の女性だ。本人が言うには、俺以外に男性を好きになれそうにないので苦肉の策です。と冗談めかして言っていたが、リリアが真剣に悩みぬいて、自らが誇っていた王族の歴史を、国と民のために終わらせる決断をしたことを俺達は知っている。本を書いて生計を立てながら陛下達と一緒にのんびりと過ごし、たまにヴェロンティエを手伝いに来てくれる。
「レイ様の医術でも治せないのですか?」
「それが、キララ自身に異常っていえる異常は見えないんだよ。何で体調が悪いのかさっぱり分からない。明日にでも母さんを呼ぼうかって思ってるんだ。あの人の方が詳しいしな。」
「それなら安心ね。それじゃあ、ちょっと早いけど、始めてしまう?レイ?」
「ああ。準備できたみたいだし開けても───」
「レイ。」
階段の上から聞こえてきた声に、視線を送る。確認なんてせずとも分かるが、その姿を見ることが俺の幸せの一つ。
ゆっくりと一段ずつ降りてきたのは、3年ほど前に俺の妻となったキララだ。
出会ったときと変わらない瞳の光を持ち、出会ったときとは違った眼差しで俺を見つめてくれる、俺の大切な存在である。
「おはよう、キララ。調子はいいのか?」
「あー…そのこと、なんだけどレイ…マリス達もいるから、ちょうどいいわね…」
「あら、あたし達にも何か言うことが?」
「何々?どうしたの?」
「別れた場合、レイ様のことは私にお任せください。」
「違うわよっ!あの、レイ…えっと…その、ちょっと体がだるくて熱が出てるのよ…」
「え?だったら寝てないと。」
「…昨日、僅かだけど吐いたわ。まだ、気分悪いし…」
「じゃあ、ますます寝てろよ。今から診たほうがいいか?」
「…だから、そうじゃなくって…察しなさいよ…!」
「は?何を…?」
思わず首をかしげる俺の横で、マリス達3人はぽかんとした表情をしている。
「…あー…ひょっとして…?」
「そういうことだと思っていいのかしらね?」
「お2人の場合、ようやくという気もいたしますが…」
「え?何?3人とも分かったのか?」
「あら、本当にレイったら分からないの?。」
「…ごめん、一般的な風邪の症状としか思えないんだが…」
「「「はぁ…」」」
「3人揃ってため息つかれたっ!?」
「レイ様、鈍いですよね…相変わらず。」
リリアの一言が突き刺さる。いや、そんなこと言われても何がなんだか。病気じゃないのか?吐き気やら発熱までしてんのに?
「あのさっ…だから…─────…たのよっ…!」
「え?ごめん、何だって?」
「…───ったって言って…」
「もう少し大きく言って────」
「だから!赤ちゃん出来たみたいだって言ってるのよっ!」
…赤ちゃん?
赤ちゃんって、あれか?子供?赤ん坊?ベイビー?発音を正しく言うならBaby?え?キララに赤ちゃんが出来た?つまり妊娠?誰の子?キララと…俺の子…俺の子供!?
「───…って、子供ぉっ!?」
「そう言ってるでしょうがぁっ!」
「え、えええっ!?じょ、冗談じゃないよな!?本当だよな!?いや、心当たりは確かにあるけど、え、だって、嘘ぉっ!?」
「傷つくわね、その言い方…嘘なんか、つかないわよ。」
「あ、す、すまん…その、昨日の内に分かってたのか…?」
「お母さんが教えてくれたのよ…妊娠してるみたいね、って。2ヶ月だろうって。」
うわぁ…命を司るあの神様が言うなら間違いないな。キララ、本当に妊娠してるんだぁ…その、俺の子供を。
「あー…俺、父親になるんだ…」
「出産祝いは何がいいかしらね?」
「今度は、本当にレイ様のお子様ですね。」
「…ねえ、レイ。ちょっとこっちまで寄ってきて。」
「お、おう。」
俺がいまだにどこかフワフワした気持ちでキララの近くに行けば、そっとキララは俺を抱きしめる。もちろん、一瞬後には俺もその背中に腕を回しておく。
「…一応、聞くけど…産んでいいわよね?」
「当たり前だろ。」
「神の娘と、異世界人の子よ?」
「馬鹿言え。キララと、俺の子供だろうが。」
「…うん。その…、色々と大変になるけど…よろしく、お父さん。」
「任せろ、お母さん。」
腕の中でキララが微笑みをこぼしたのが分かる。
うわあ、父親として責任重大だ。これからどうしようか?まずは親父達に連絡して…母さん、産婦人科医師の資格もあったよな?色々と教えてもらって────
「レイ・ランクフォオオオオオオオオオオオオオドッ!」
「キララちゃんに子供が出来たって本当かっ!?本当なのかっ!?」
「おめでとー、レイさーんっ!これ、お祝いの品ぁっ!」
「って、いつの間に店内に客が多数っ!?」
「ついさっき店を開けたもの。」
「マリス、雰囲気とか読んで!?」
「ちなみに、フォルトさんは従業員の方達と一緒に町中に広めに行かれました。」
「とめなさいよ、リリア!?」
「まだまだ来るみたいよ?」
マリスの言葉に視線を窓に向ければ、そこから見える通りをドドドドドッと人々がやって来ていた。
「祝、キララさん御懐妊っ!」
「生まれた子供は、ぜひうちの保育所でっ!」
「レイ兄ちゃんの子供さんどこー?」
「馬鹿、お前ら静かにしないと胎教に悪いだろ!」
「これが静かにしていられるかっ!」
「男の子?女の子!?」
「名前は何にするの!?」
「おら、レイ!新鮮な野菜だっ!これで嫁さん、もとい母親に栄養あるもん作りやがれっ!」
「キララちゃーんっ!おめでとー!」
「生まれたら、うちの子と遊ばせましょうね。」
うわぁっ…
隣を見れば、キララも呆然とした様子でどんどん増えてくる人たちを見ている。その誰もが、俺達のことを祝ってくれていて。間違いなく、みんなが俺達の子供との絆を望んでいて。
本当に、責任重大だ。これほどに絆を望まれている子の父親になるんだから。
「…これから、本当に大変ね。」
「そうだな。けれど───」
俺とキララは顔を向かい合わせる。お互いに笑って、今ではすっかりと口癖になった言葉をつむぐ。
とりあえず 必死に 頑張って 俺達の世界を発明していくとしよう
───────そう、これは絆がつないだ世界を作る物語───────
────著者
雨やかん
────協力
『ヴェロンティエ ラズウェール本店』
レイ・ランクフォード
キララ・ランクフォード
マリス・インベルグ
フォルト・ラインクル
ミリア・ランクフォード
『元 チェイン王国』
リリア・キルヴァリー
クロムウェル・キルヴァリー
フィリス・キルヴァリー
リュカー・ラインハルト
アイン・ブルーデンス
ヴァイツ・ヴァイスハイト
イラド・リヴォーディオ
フィーア・ラインハルト
『チェイン共和国』
ヴォンド・ネリケッシー
ノーリ・テイプス
ガンム・ナットゥ
ニース・オキューラ
『エキストラ』
黒い翠鳥さん作≪日常の中の気付かぬ世界≫
リンネ
古柳 冬至
深川 知広
仔空さん作≪バンパイヤっ子とケーキ屋≫
杉村 葵
レイ・アイチュラ
れむむさん作≪星のかなた≫
陸
ラキャラ
熱風回流さん作
シエル・スバーキン
ヴェアル・ガラン
初動系・零
アクロス・レザストロ【本人による友情(?)出演】
その他、作者がこの作品を書き始めて以来、応援し続けてきてくれた皆様
【この作品を通じて、広い世界で奇跡のように皆様とつなぐことの出来た絆に心からの感謝を。】
【皆さんのお持ちになっている絆が、この小説の彼らのように素晴らしきものになることを祈っています。】
Fin.