海辺の青嵐 (改)


1 :奈義 :2008/08/28(木) 03:17:55 ID:WmknrAnk

乱暴な音を立てて、古ぼけた電車が走り去っていく。
俺は荷物をホームの地面に直において、硬い座席にずっと座っていたせいで凝り固まった身体をほぐすようにストレッチをした。
気分が良かった。
空気も綺麗で、自然が多いここに来たからという理由もあったけれど、心も、最近の俺からすると驚くほどに澄んでいた。
存分に身体を動かすと、荷物を持ってホームから出る。
とりあえず別荘を見つけて、それからは…思いついたことをしよう。
足取り軽く、俺は砂利道を歩き始めた。


2 :奈義 :2008/08/28(木) 03:20:55 ID:WmknrAnk

1・必然の偶然

俺は、瀬名睦月。”せなむつき”って読む。当然の如く、一月生まれ。
高校一年で、学校では成績優秀、品行方正で通っている優等生だった。
といっても、高校のレベルは低い。もとは女子高で、最近共学になった俺の通う高校はスポーツ推薦の連中を集めているので、自然に学力は下がっていく。
もっと上の高校も目指せたのにそうしなかった理由はひとつ。親が薦めたのと、高校と自宅の距離が近かったからだ。
一学年に一クラスある特別進学コースに入って、四年制国公立大学に行く。そんな理由をあげて志願したが、今の気持ちは全然違う。
俺の将来の夢は……、まあ、別にこれはそんなに重要な問題じゃない。
問題は、”どうして俺がここにいるか”だ。
きっかけは、兄貴のこの一言。
「僕、別荘買ったんだよ」
兄貴は俳優だ。それもかなり売れてる部類の。
顔はいいと思う。演技力は見たことがないからわからないけれど、穏やかな感じの美青年だ。顔は整っていて、肌は白いけれど髪は漆黒。目も茶色い部分がわからないほどに真っ黒で、いつも優しい笑顔を浮かべている。
特別仲がいいってほどではないけれど、俺は兄貴のことを理解しているし、兄貴も俺のことをわかってくれている。
…話を戻そう。
売れてる俳優である兄貴は、金を貯めて、海沿いのとある田舎に別荘を買ったらしい。本当は恋人と使うために買ったらしいが、兄貴の恋人は今年受験生で、学校も忙しい。
簡単にいえば「使っていないから使っていいよ」ということだ。
兄貴の優しげな微笑みの奥に秘められた思いに甘え、俺は黙ってこの町まで来た。ちなみに今日は平日。学校も普通にある。
荷物をまとめ、すぐにでも出かけられるように準備を整えた俺を、兄貴はそっと部屋から連れ出して駅まで送ってくれた。
「睦月、楽しんできなね」
言葉と一緒に差し出されたのは、可愛いイルカのストラップがついた携帯。
「これ、あげるよ。仕事中でもなるべくはやく返事するから、さみしくなったらメールして。一日に一回は電話してね」
最後まで優しく微笑んで送ってくれた兄貴に、俺は頷いて携帯を受け取った。
簡単な使い方を教えてもらって、実際にボタンを押してみる。開いた本の絵が書いてあるボタンを押すと、ぱっと画面が切り替わって、画面の上の方に”001・瀬名皐月”とある。兄貴の名前は”さつき”。いわずもがな、五月生まれだ。
俺は上着のポケットに携帯を仕舞って、兄貴の真っ直ぐな瞳を見つめ返した。
「ありがとう」
滅多に笑わない俺が微笑んだことに兄貴は少し驚いていたけれど、つられて嬉しそうに笑った。
兄貴は優しい。ほんのすこしだけ、兄貴を放っておいている恋人とやらに嫉妬する。
「じゃあ、電話してね」
車の中から手を振った兄貴に向かってもう一度微笑みを向け、俺は電車に乗ってここまで来た。


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