あぁ、そこはミドルじゃなくてポストだろ。
ほら、ディフェンスが浮いてるじゃんか。
あー違うってば!そこはクロスして…
中に入ったら、つまっちゃうだろ。外で待って縦に突っ込むんだって。
――――プツン
リモコンでテレビを消した。
ビデオで見たら悪いとこいっぱい分かるのにな。
私は高1でハンドボール部に所属している。
ハンドボールという部活は珍しい。
ハンドボールとはサッカーとバスケを足して割ったような球技である。
手でボールを投げゴールにシュートする。
何故かその珍しい球技が私の中学にはあった。
その珍しさから中学のときハンドボールを始めた。
中学の部活は遊び半分の部活だった。
誰一人真面目に練習はしないし、ただボールを投げて遊ぶだけ。
もちろん試合に勝つことはなかったし、しかし誰もそれに不満を持つものはいなかった。
私もその一人であり、どちらかといえばぽっちゃりな体系でスポーツに適した身体能力は備わっていなかった。
中2になった時、私が一番試合に出させてもらえてたことが一番の要因となりキャプテンを勤めることになった。
キャプテンと言っても、お遊びチームだったので私も気楽だった。とりあえず練習の段取りさえ進めればいいだけ。
しかしその練習を進めるのでさえも困難な状況に陥った。
何せ部員が全員我がままなのだ。
「休憩しよー」
「つまんないー、違うことしよー」
「見て見て!サッカー部何か凄いことしてる!」
仕舞いにはコートを抜け出し違う部活にちょっかい出す始末。
私が怒っても部員は聞く耳を持たない。
顧問は学年主任で多忙。ほとんど放置。
「そんなに練習したいなら一人ですれば?」
もちろんこのチームは最後の試合でも大敗。
私は未練はなかった。泣くことも。
もちろん皆のことは好きだった。
一番同じ時間を過ごした仲間。
一緒に居て楽しかったし、沢山笑った。
部活以外では。
最後の試合の後皆は泣いていた。それはもう号泣。
しかし私には理解できなかった。
何が悲しいの?
負けたこと?
それとももうお遊び試合が出来なくなること?
自業自得だろ、そう思った。
限りある時間を大切にしなかったのは自分たち。
負けるのが悔しいと本当に思うなら最初からもっと練習すれば良かったじゃん。
私は心に決めた。
私は絶対高校でハンドボールを極める。
すごい選手になって皆を見返してやる。
『あぁあのときちゃんと言うこと聞いていれば良かった』
そう思われるようなすごい人間に。
そんな話を高校の友達に話したら
「変な理由で部活続けてるんだね。」
と言われた。
まあそうかもしれない。
部活はハンドボールでなくても良かったのかもしれない。
バスケだって、バレーだって。
今はもうハンドボールしか考えられないけど。
中3になり、具体的に自分の進路について考えるときがきた。
『高校でハンドボールを極める』
その自分との誓いを果たすためにも私は私学に行きたかった。
行きたい高校はだいたい決まっていた。
よく練習試合をしたS学園だ。
S学園の選手はみんな高校から始めた人たちだったが先生の厳しい指導と選手の強くなりたい、という気持ちが一つに纏まっていてすごく良いチームだった。
プレーも高校から始めたとは思えないほど上手かった。
ハンドを極めるにはここしかないと思った。
しかし親は大反対だった。
「そこでハンドして大学はどうするの? あんたみたいな下手っぴが百歩譲ってプロになったところでそれで生きていけるの? もっと将来を考えなさい。」
そう言われて言い返すことが出来なかった。
そうかもしれない。
私なんか本当のハンドも知らないチビっころだ。それがもし上手くいって高校でハンドを極めれても、その先に何があるのだろう。
野球やサッカー、バレーとかならまだ道はあるかもしれない。ハンドはまだまだマイナースポーツだ。
ハンドだけで高校を選ぶにはリスクが多すぎる。
自分で言うのもなんだが成績は中の上ぐらいだったから、親も出来るだけ賢い公立高校に行って欲しいようだった。
ハンドは諦めるしかないのかな…
そんなとき顧問からハンドボールのオリンピックアジア予選のチケットをもらった。
地元の体育館で行われるそうで珍しいから観に行った方がいい、とゆう顧問の勧めで部活の友達3人と行った。
電車を乗り継ぎ、他愛のない話をしながら会場へ向かった。
正直顧問から話を聞くまでハンドボールがオリンピック競技なのを知らなかった。
私はまだまだハンドを知らないんだな、そう思った。
会場はオリンピック予選とは思えないほど人は少なかった。少なかった、というのはあくまで他競技と比べてだが、席は結構空いていた。
適当な席に座り、試合開始を待った。
お菓子を頬張りながら友達とじゃれあいながら。
いきなりワーと歓声が上がる。
お菓子を口に運ぶ手を止めコートを見る。
選手が入場していた。
派手なアナウンスと黄色い歓声に手を振りながら並んでいく。
正直言うと誰一人知らなかった。
が、とりあえず大きく拍手した。
相手チームは中国だった。
挨拶を交わしいよいよ試合が始まった。
私の体に電撃が走った。
これが本当のハンドボール―――
私達のハンドはハンドなんかじゃなかった。
今目の前で繰り広げられているものこそがハンドボール。
ハンドボールはジャンプしてシュートを打つ。
目の前の選手たちは信じられないほど高く飛び、信じられないほどの速さのシュートを打つ。
敵をあざむくパスや連携プレー。
私の心は一瞬にして鷲掴みにされた。