不幸の売買


1 :瑠璃珂 :2006/11/04(土) 12:52:41 ID:mmVcx4r3

もし、不幸が売れたら、不幸が買えたら、あなたはどうしますか?
自分自身の不幸を売って幸せになりますか?
不幸を買って憎い人に使って復讐しますか?
どう使うもあなた自身。
ただし、それなりの金額は覚悟してくださいね。


2 :瑠璃珂 :2006/11/04(土) 13:56:13 ID:mmVcx4r3

少女A

古びた店の中に、安楽椅子に座った一人の男が、何をするでもなく、ただ天井を見つめていた。
店の中はまるで時間が流れてないのではと思うほど静かだった。
−−ガランガラン−−
ドアの上のベルが、けたたましく鳴り響く。
店の中に時間が流れ始める。
どうやら、すごい勢いでドアを開けたようで、いまだベルが鳴りやむ気配はない。
ドアの前には、息を切らした少女が立っている。
仮に少女Aとしておこう。
少女Aは男に語りかける。
「あ、あの、不幸を買ってくださるんですよね? 不幸を売ったら私は幸せになれるんですよねぇ」
「とりあえず座りませんか?」
まくし立てるように喋る少女Aに対し、男は少し離れたところにある椅子を指さし、淡々と喋る。
少女Aは何もいえず、言われたとおり椅子に座る。
「あの、本当に不幸を買ってくださるんですか?」
「いえ、それは不幸の種類にもよります。とりあえず、どんな不幸を売りたいのか教えてください」
男の言葉は機械のように、事務的で、暖かみのない声だった。
少女Aはそんな男の態度に眉をひそめたが、語り出した。

始まりは、そう、一ヶ月前だったわ。
私の親友……。
ううん。
親友だった子が中年の男とホテルから出てくるのを見てしまったの。
私は町中だということも考えず、彼女に詰め寄ったの。
「何しているの? 援助交際よね? 何で、何で」
もちろん、そんなことを大声で話したら周りの人の注目を浴びたわ。
結局、彼女は翌日学校に呼び出された。
そこで彼女はこう言ったの。
「援助交際をしていたのは、私じゃない。あの子よ」
もちろん、私は否定したら。
けれど、彼女は優等生。
私は落ちこぼれ。
どちらの発言を信じるかなんて、一目瞭然。
結局私は退学。
親からも見放され、家を出ればみんなのひそひそ話。
そのうち、みんなの声が気になって外に出られなくなった。
みんなが私を見ているんじゃないかって。
みんなが私を笑っているんじゃないかって。
みんなが私の陰口を言っているんじゃないかって。
だから、この不幸を売りたいの。
もう一度、きちんとした人生を歩みたいの。

気がつけば、少女Aは涙を流していた。
男はそれを、ただ見つめた。
「その不幸なら、買い取り可能ですよ。それと、私に一つ提案があるのですが」
それは先ほどと同じように、機械的で、事務的な声だった。
「私の店は不幸を買い取りますが、売ることもできます。どうでしょう? あなたの不幸をこちらに売って、それをまた買い取って親友だった子に使うというのは」
男の話はこうだった。
不幸を売るだけでは、少女Aの負担が軽くなるだけ。
親友だった子は、何も変わらない。
ならば、いっそ復讐しないかと。
そのまま使えばいいと。
少女Aは迷わずうなずいた。
それほど、彼女を恨んでいた。
「では、こちらにあなたの涙を入れてください」
男は無色透明の液体の入った瓶をどこからともなく取り出し、彼女に渡す。
「いきなり、涙なんて言われても」
そう言った少女Aの目からは、もう涙がこぼれていた。
「ほら、早く」
男の声に、少女Aは慌てて涙を入れる。
瓶の中の水が、透明のオレンジ色に変わる。
「オレンジですか。では、買い取りの金額が200万、お買いあげの金額が300万、合計500万ですね」
「え?」
男の声に、少女Aは声を上げる。
「買い取りって、買ってくださるんじゃ」
「不幸を買うのにお金を渡していては、不幸を売る方が殺到してしまいます。もし、この金額に納得できないから、この話はなかったことと言うことで」
男の言葉に、少女Aはポケットから慌てて黒いカードを取り出す。
男はカードを受け取ると、吟味するように見つめる。
「ブラックカードですか?」
少女Aはうなずく。
カードは少女Aの親名義のものだった。
「これでいいでしょう。では、この瓶の中身の水をその相手に飲ませれば、飲ませた相手にあなたと同じ不幸が訪れます。毎度、ありがとうございました」
男は最後まで、機械的な事務的な声だった。
少女Aは瓶を受け取ると、大事そうに抱え、店を出る。
来たときと同ように、走り、息を切らしながら……。
向かう先は、自宅なのか、それとも、裏切った相手の元なのか。
しかし、そんなことは男に関係ない。
男はまた少女Aが来る前と同じように、安楽椅子に座ったまま、何をするでもなく、天井を見つめる。
また、店の時間が止まった。


3 :瑠璃珂 :2006/11/04(土) 21:33:30 ID:mmVcx4Ym

少女Aエピローグ



ねえ、聞いた?

聞いた、聞いた。

援助交際してたんだってね。

真面目なふりしてよくやるよね。

あのこの親友も援助交際やってたんでしょ?

それがさ、親友の子はあの子がやったって言ってたんだって。

えー、じゃあ何、親友に罪かぶせたの?

うわー、人としてありえないよね。

うん。

てか、その子可哀相だねぇ。

ホント、ホント。



そんな言葉が学校のあちこちで交わされている。
学校側も、菓子折りを持って、少女Aの家へ行き、退学はなかったことにすると言い出した。
すべてが元通りになるかのように思えた。
しかし、一度壊れた心はもう治らない。
「ねえ、学校に行きましょう。ほら、学校もそれでいいと言ってるし」
母は少女Aの部屋のドアをたたき、そう語りかけるが、返事はない。
もう、少女Aは人を信じられなくなっていた。
誰も、自分を信じてくれなかったから。
誰も、自分の話を聞いてくれなかったから。
また裏切られると思うと、もう人が信じられなかった。
たとえ、それが親であろうと……。
少女Aは手のひらの中の小瓶を眺め、握り締める。
もう、少女Aが信じられるのは、不幸を売買した、という事実だけだった。


4 :瑠璃珂 :2006/11/07(火) 00:07:08 ID:m3kntkxG

青年B

古びた店の前に、ものすごい爆音を鳴らしながら、ど派手な車が停車した。
車から降りてきたのは、二十代前半と思われる、派手なスーツを着、アタッシュケースを持った青年だった。
仮に、青年Bとしておこう。
青年Bは店のドアを足で開けた。
ドアに付いているベルの音と、ギィギィというドアの軋む音が店に響きわたる。
店の中には、男が一人安楽椅子に座り、ただ天井を見つめている。
「おい、不幸が買えるっていう店はここけぇ?」
青年Bは今にも男につかみかかりそうな勢いで、問いかける。
「とりあえず、座りませんか?」
男は天井を見つめたまま、淡々とそう言う。
その声は、機械的なもので、事務的なもので、まるで人形ではないかと思うほど、温かみのない声だった。
その声が不気味だったのか、さっきまで勢いのよかった青年Bは言われるがまま、男の指差す椅子に座る。
「どのような不幸をお求めですか?」
そう問いかけながら、男は天井から視線をはずし、やっと青年Bのところを見る。
「どんな言われても、わしゃ、わからんけぇ、お前さんが決めとくれや」
「では、何でどういう相手に使いたいのか、それを教えてください」
そう話す男の声は、機械的で、事務的で、青年BはまるでATMの機械の声に喋りかけているような気に陥る。
気味が悪かったが、このまま帰ったので、せっかく来た意味がない。
青年Bは、男に言われたとおり、これまでの経緯を話しだした。

わしゃ、見てのとおり、ヤのつく職業をしているんじゃ。
その業界ってのはぁ、またややこいもんでの、今うちの組では跡継ぎ問題が出とる。
妾の長男と、本妻の次男。
そんだけやったら、普通は次男に継がせるんやが、こりゃまた厄介なことに、次男が生まれる思うとらんかった親父が、俺に後継がせる宣言してもうてな。
それでも、まあ親父が死ぬまでに決めるやろうと思ってたんや。
そしたらのぉ、親父のやつがぽっくり逝きやがってのぉ。
それがまた、遺書も何のないんじゃ。
わしゃ、できれば組を継ぎたいと思うとる。
それに、弟はまだ十になったばかりじゃけ。
しかしのぅ、反対するやつが、居ってのぅ。
厄介なのは、そのリーダー格の奴だけなんだが。
まあ、早めに消しといて損はない。
で、そいつを陥れる不幸なないけぇ?

青年Bが語り終えたころ、男はどこからか、三つの液体の入った瓶を持っていた。
一つは透明のピンクで、一つは透明の青、一つは墨のような黒だった。
男は、一つ一つ、不幸の効果を説明していく。

ピンクのものは、交通事故にあい、失明するというもの。
青のものは、借金苦に自殺未遂を起こすというもの。
黒いものは、変態趣味の人間に買われ、死ぬ権利すら与えられず、生きているのに、死んでいるかのような生活をするというもの。

青年Bはしばらく考えた後に、青い瓶と黒い瓶を指差す。
「これは、併用はできるけぇ?」
「ええ。しかし、青いもの、黒いものという順番でなければいけません」
青年Bの問いかけに対し、男は考える間もあけず即答する。
「じゃあ、その二つをもらえるかのぉ」
「わかりました。使用方法は、これを使いたい相手に飲ますだけです。では、青いものが800万。黒いものが5千万です」
男の言葉に、青年Bはアタッシュケースを開き、次々に札束をとりだす。
「これで、5800万じゃ。じゃあ、コレはもらって帰るけぇの」
青年Bはそう言うと、アタッシュケースと瓶を持ち、店を出る。
店の外では、車の爆音が聞こえる。
男は金を安楽椅子の下にある地下金庫へ入れると、また安楽椅子に座り、何をするでもなく天井を見つめている。


5 :瑠璃珂 :2006/11/07(火) 00:15:09 ID:m3kntkxG

青年Bエピローグ

 
東陶組、長男が、21代目に就任。

そのニュースは、瞬く間に裏の世界に知れ渡る。
そのニュースに隠れ、あまり目立たなかったニュースが一つある。

東陶組、元若頭が行方不明。

しかし、誰も気にしない。
この世界では行方不明などよくあること。
そんなニュースはすぐに忘れ去られた。
それでも、元若頭の不幸は終わらない。
誰も知らないところで、誰も気づかないところで、今日も地獄の日々を送っているのだ。
そんな彼の現状を知るのは、そんな状態に陥れた青年Bのみである。
青年Bは、今も苦しんでいるであろう彼を思い、人知れずククッと笑みをもらす。


6 :瑠璃珂 :2006/11/22(水) 23:43:43 ID:o3teoFme

老人C

「なあ、ばあちゃん。お使い頼まれてくれる?」
孫からそう告げられた老人、仮に老人Cとしよう。
老人Cは言われるがまま、孫の書いた地図を元に、店へと向かう。
もう腰が曲がっている老人Cにとってその店は、少し遠かった。
それでも、可愛い可愛い孫のため、老人Cは休むことなく歩く。
そして辿り着いたのは、かなり年季の入った、こじんまりした店だった。
木製のドアをゆっくりと開けると、ドアに着いたベルが鳴る。
店の中には男が一人、安楽椅子に座っている。
「あのぉ、孫からお使いを頼まれたんですが」
老人Cの言葉に、男が動き始める。
「では、何をお求めですか?」
老人Cに椅子に座るように告げると、そう問いかける。
「このメモを渡せばわかるからと言っておりました」
男は老人Cから4つ折にされた白い紙を受け取るとその中身を確認する。
「わかりました。これですね」
いつの間にか、男の手には青色の透明の液体が入った瓶が握られている。
「これをお孫さんにお渡しください」
男の差し出した瓶を、老人Cは大切そうに両手で包みこむ。
「あのぅ、おいくらですか?」
老人Cの問いかけに、男は黙って首を振る。
「お孫さんが、また後で持ってくるそうですよ」
男がそういうと、老人Cは大事そうに瓶をかばんの中へいれ、ゆっくりと立ち上がる。
「ありがとうございました」
そう言い残し、老人Cは店を出て行った。
老人Cの出て行った部屋の中で、男は何をするでもなく天井を見つめていた。
床には、老人Cが男に渡したメモが落ちている。

祖母が死ねば、3千万ほどの遺産が手に入ります。
なので、病気などですぐに死んでしまう不幸はないでしょうか?
代金は祖母の遺産で払います。

そのメモの下のほうは、借用書になっており、孫の名前と、印鑑が押してあった。


7 :瑠璃珂 :2006/11/22(水) 23:55:54 ID:o3teoFme

老人Cエピローグ

「おばあちゃぁぁぁぁん」
とある総合病院の一室で、そんな叫び声がする。
老人Cの心臓が、たった今停止したのだ。
両親が幼いころ亡くなって、老人Cに育てられた孫。
そんな事情を知っている新米の看護士も、少し涙ぐんでいる。
しかし、孫は笑っていた。
老人Cのベッドに顔をつけ、泣いたように見える孫は、確かに笑っていた。
遺産が手に入る喜びから……。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.