「おいレイズ!」
「何ですか?ソンさん?」
「お前に客だぁ!」
今帰ってきたばかりだというのに。忙しいったらありゃしない。
「今行きます!!」
外に出るとかなり年取ってそうなおじいさんとフードをかぶって顔を隠している僕より少し小さい子供がいた。
「何の御用ですか?」
「ここは本当になんでも頼んでいいのかえ?」
「だいたいの事は大丈夫です。」
「この少年を引き取ってもらえるかえ?」
前代未聞な頼み事だ。子供を預かる?そんなこと無理に決まっている。何考えてんだ?
「300万G(ガンと読む)でどうじゃ?」
300万G!?本当に何考えてんだ?そんな大金・・・
「だめかえ?」
「えーっと・・・引き取ります!」
300万Gももらえるならやります。
「じゃあ注意する事を言おう。くれぐれも扱いには注意じゃ。食費はほとんどかからん。1日リンの実3個で大丈夫じゃ。」
リンの実?10個1Gのやつじゃないか。
「本当は300万Gでも足りないぐらいなんじゃ。受けてくれるかえ?」
「はい。分かりました。」
「おお!良い子じゃ。ほれ300万G。」
「承知しました。」
しかしおじいさんは消えていた。跡形もなく。
「僕レイズ。キミは?」
とりあえず僕の部屋に入って名前をきいた。名前がわからないと話しにくい。
「・・・・」
答えてくれない。
「とりあえず、フード取ったら?」
僕は手をフードに近づけた。と、その瞬間少年に腕をつかまれた。結構力が強い。
「い、いきなりなんだよ?」
「見るな。」
冷たい声だった。ぜんぜん子供っぽくない。
「えっと、見ないからさ・・・放してくれない?」
パッと放してくれた。あのおじいさんの注意を思い出す。確か扱いがどうとか・・・
「おいレイズ。さっきの客の頼み事はやったのかー?」ソンさんの声がする。
「ちょっと来て下さいソンさん!!」
とりあえずこの少年と話がしたい。ソンさんならどうにかしてくれるだろう。
「何だ?レイズ?」
見ると部屋の入り口にソンさんがいた。
「さっきのおじいさんに頼まれたこの少年がしゃべってくれないんです。」
「このガキを引き取ったのか?」
「そうです。・・・断りもなしに引き取ってしまって申し訳ありません。」
「そんなことどうでもいいんだ。」
いいんかい!!
「おい!!そこのガキ。少しは話したらどうだ?」
「・・・・」
やっぱり無言だ。
「オレ様はなぁ、そこにいる兄ちゃんとは違って優しくないんだよ。」
確かにそう思う。ソンさんは怖い。
「殴ってでも何か言わせるからな。」
マジかよ。子供相手にそこまでするのか・・・
「その前に顔見せろや。」
ソンさんがフードを取ろうとする。しかし結果は僕と同じ。
「やるな、ガキ。」
あ、ソンさんがキレる。
「裏庭に行こうや。レイズも来い!!」
戦う気だよ。
「本気で来いよ。ガキ!」
「・・・・」
あぁ!ソンさんが本気出したら僕でも止められない!
「ちょっ、ソンさん!!大の大人が子供相手に本気って・・・。大人気ないよ!!」
聞いてくれない。
「おらぁ、ガキ!そっちから来いやぁ。」
少年は空中に何か書き出した。何だかよく分かんない。僕の勉強不足か?
「我に仕えし13の僕達よ――ここに集え。」
ソンさんの周りに黒い狼らしきものが13匹出てきた。
「主導権はイフリート」
イフリート!?炎を操る魔人じゃないか!あの子はソンさんが草使いだってことを一瞬で見極めたのか!?ありえない!
1匹の黒い狼の体が赤くなり始めた。それと共に足の関節あたりに火が巻きついてきた。
「子供騙しか?」ソンさんは笑いながら言う。
「子供騙しかどうかは自分で確かめればいいじゃないか。」言い終わったと同時に少年がパチンと指を鳴らした。13匹の狼はソンさんに襲い掛かる。
「ソンさーん!避けて!!」
「言われなくても分かってらぁ。」
本当かよ。
メリメリっと変な音がする。見るとソンさんが作ったと思われる草のバリアが崩壊していた。
僕も加勢することになる。絶対。
「おいっ、レイズ!!一緒にガキ倒すの手伝ってくれ!」
予想道理だな。っておい!あの子倒す気ですか?
「はいはい。手伝います。」
しぶしぶ答えながら戦闘に加わる。ついに僕の力を使う時がきた。
「うまく使えるかな。」
力を使ったのはずいぶん前だ。でもしょうがない。使うしかない。
バリィ!ビキビキッ!
明らかに音が怪しい。それに何か色も変だ。
申し遅れましたが僕の力は雷を自由に操ること。もう気づいてる人も多いはず。何度も言ってるけどソンさんは草使い。
そんなこと説明してる場合じゃない!!今は戦いに集中するべきだったよ。
怪しい音は止んだ。これで普通に雷が使える事を願う。
「サンダーボール!!」
その名の通り雷の玉。大きさは野球ボールぐらい。これを当てれば少しは痺れて動きが鈍くなる。その隙に大技をぶち込む。完璧だ。
予想道理、少年にサンダーボールは当たった。でも、その後の事は予想外だった。
よっしゃ!当たった!これで強力な力を叩き込めば勝ちだ!
「何が勝ちだって?」
見ると後ろに少年。ってか僕の心読んだ?いやいやそれよりなぜ動ける?
「残るはお前1人。」
ん?一体どういうことだ?にしても、やけに楽しそうじゃないか。そこの少年。最初はあんな冷たい声だったというのに。
「まだ分からないのか?」
少年が見ている方に目をやった。
「そ、ソンさん!」
ソンさんはうつぶせになって倒れていた。
「おっ、お前!よくもソンさんを――!」
あんな子供にソンさんが負けるなんて・・・何者だ?
「次はこっちだ。」
例の黒い狼達に命令してる。
「主導権は・・・」
「ガウッ!!」
「ウォン!!」
狼達は興奮しはじめた。しっぽを振りまくっている。主導権に選ばれたいのだろう。
「無しだ。みんなで協力してくれ。」
狼達はしっぽを振るのを止めた。
「報酬は―――オレの血でどうだ?」
今血って言った?報酬に血って・・・
しかし狼達はのったようだ。僕をみんなが見てるから分かる。
「うわああ!」
予想的中!見事な勢いで襲ってくる。
無我夢中に雷を打ちまくった。
「ギャン!」
「ギャオン!」
悲鳴をあげて消えていく狼達。あと3匹!
「これでどうだっ!」
特大のサンダーボール×4。1つはあの少年にプレゼントするつもりだ。こんどこそ勝つ!!
声にならない声を上げて狼は消えていく。一方の少年にも命中した。少年はそのままぶっ飛んで近くの木に背中から当たった。
サンダーボールも当たるし追加ダメージもあたえられた。天は僕に味方してくれてるのかもしれない。
「うぐっ・・・」
「どうだ?話す気になったか?」
「誰が負けたと言った?」
まだやる気ですか?
「こんな無駄な戦いしたって意味が――――!!」
何か赤い光があの子に集まっている。この意味不明な光のおかげでフードがとれた。髪の色はとても暗い青。目は鋭く真っ赤。そして両頬に三角の赤い模様がある。
両腕は少し薄い黒。腕には黒い十字架。なんかさっきより爪が長い。
ザクッ
一瞬の出来事だった。左肩から右腕まで斜めに切られ、傷口からは血がダラダラ流れ出ている。
「いきなり、何、すんだ、よ」
しゃべるだけでも痛い。あまりの痛さに動けない。
少年が腕を振り下ろす。狙いは首。僕は死ぬのか?
しかし僕は死ななかった。
「大丈夫?君?」
突然現れたその人は軽々と少年の攻撃をナイフで受け止めている。
そして目に見えないぐらいの速さで少年を切った。10回ほど。
「これでOK」その人はナイフについた血を振り払っている。
少年は倒れた。あんなに切られたら普通は倒れる。
「ホントに大丈夫?」
女の子だった。髪は青みがかった紫色。短い。目は透き通るようなマリンブルー。胸には甲冑をつけ、ボロボロ(?)なスカート、そしてブーツ。さらにローブまで。
「こんなに切られちゃったの?ってちょっと!」
女の子のあわてた声がきこえた。だめだ、意識が僕から離れていく。でも僕には意識を追いかける力なんて残ってない。
僕は闇にのまれた。
「どこだ?」
見えるものは白い天井。なぜ僕は天井なんか見てんだ?
「やっと起きたわね。どこか痛いところはある?」
誰?でもどっかで見たことあるような気がする。えっと―――――
「そういえばまだ名乗ってなかったわね。」
そうだ!あの時助けてくれた命の恩人!!
「私の名前は―――って、人の話聞いてる?」
「ふぇ?あ、あぁ、もちろん聞いてる。」
ほんとかしらって目で見られた。正直、聞いてなかった。しかしそんなこと言ったら何されるか分かんない。僕の考えすぎだけど。
「改めて言うわ。私はレイリオ。職業は――――」
仕事やってんだ。ま、僕もやってるけど。
「ハンターよ。」
ハンター!?一体何を狩るの!何を!
「へ、へえ。すごいですね。」
「ところで、あなたの名前は?」
そういえば言ってなかった。なんて無礼なことをしたんだ。僕。
「レイズっていいます。」
「じゃ、レイズくん、私の質問に答えてくれるかしら?」
答えないって選択肢は無いんだろうな。
「はい。答えられることなら。」
ふう、とレイリオはため息をついた。
「さっきも言ったけど私はハンター。私が狙っているのは、レイズくんが戦ってたこの子供。」
一気に空気が重くなった。これから話される内容はそんなに重いことか?
「この子とどこであったの?」
「えっと、おじいさんに―――」
「やっぱり・・・・」
とても悲しそうだ。
「あの、おじいさん許さない。」
へ?許さない?
「あのおじいさん悪いことしたの?」
年寄りがそんなことできるのか?
「犯罪者よ。」
世の中は怖い。老人が犯罪者になることだってあるとは・・・
「しかも人を殺すよりたち悪いわよ。」
「そんな人だったんだ・・・。知らなかった。」
「普通の人は知らないわ。むしろ一般の人が知ってたら疑うわよ。」
「ちょっと聞きたい事があるんだけど・・・いいかな?」
レイリオは僕の顔をまっすぐ見た。
「いいわよ。」
「あの子の名前って知ってる?」
レイリオの目に不安の影がよぎったのを僕は見逃さなかった。
「イチ。それがあの子の名前よ。」
僕はイチを見た。イチはレイリオの隣で毛布に包まれて寝ている。って、寝てる!?
そんな僕の気持ちが分かったのかレイリオは説明してくれた。
「その子なら睡眠薬飲ませといたからしばらくおきないわよ。」
睡眠薬飲ませていいのか?
「私の話に戻ってもいいかしら?」
「は、はい。」
「あなたが会ったおじいさんは死刑級の犯罪者。そのおじいさんは何をやったか分かる?」
「想像つかないや。教えてください。」
レイリオは立ち上がって僕に背を向けた。
「一年前から子供が次々と姿を消している。そして消えた者達は二度と帰ってこなかった。」
何かの暗唱をしているみたいな言い方だった。
その話は聞いたことがある。近所の人達が立ち話をしているのを聞いたことがあったからだ。
「しかしこの間ある研究所の廃墟で姿を消したと思われる1人の少年の無残な姿をを我々は目撃した。人の原形をとどめていない姿だった。」
僕は思わずイチを見た。そんな僕を無視して――あるいは本当に見えていなかったのかもしれない――レイリオは話を続けた。
「そこで我々は廃墟を調べることにした。そこで我々は恐ろしいものを目にした。」
恐ろしいもの・・・
「人の残骸である。」
僕の背中に冷たい汗が流れる。
そこでレイリオは言葉をきった。
「何か飲み物をとってくるわ。」
そう言ってレイリオは部屋を出て行った。
「そういえばここ、どこ?」
場違いな質問が部屋に響く。そこにレイリオが戻ってきた。
「どうかした?」
「あ、あのさここってどこ?」
話題を変えたい気持ちがフライングした。
「い、いきなりなんなのかしら?レイズくん?」
「純粋にここはどこなのか知りたくなって・・・」
僕は聞くタイミングを逃したのだ。でもよりによっていまさら聞くこともないだろうと思ってたのに。『話題を変えたい気持ち』を僕の心から退場させたい。
「・・・・」
気まずい。何なんだ!この空気はぁっ!自分で作っといていまさら何考えてんだ?僕。
「とりあえず、これ飲む?」
水の入ったコップを渡された。
「あ、ありがとう」
僕は渡された水を飲んだ・・・!?
「甘っ!」
何だ?水の領域超えちゃってるよ。
「薬よ」
「は?」
「薬が混ざってんのよ」
薬?
「それを飲めば傷が早く治るわ」
甘い薬ってあるのか。初めて知ったよ。
「話の続き聞きたい?」
『禁断の扉』と称された話が目の前にある。本能が開けるな!後悔するぞ!と叫んでいる。
「聞きたく・・・ない。」
本能に従った。
「そうね。でもあなたは知ることになるわ。絶対」
分かってる。そんなこと分かってるよ、レイリオ。でも知りたくないんだ。
「今は寝なさい。明日はこの街の祭りよ」
そうだった。年に一度のビックイベント。いつもなら楽しみのはずなのに。嫌な予感がする。どうしてだ?
目が覚めたら朝だった。
「あら、おはよう。意外と起きるの早いのね」
意外なのか。結構イタイ一言だな。
「意外で悪かったね」
それよりやけに静かじゃないか?祭りなのに。
「まだ始まってないわよ。それにここ街のはずれだから静かよ」
そのことをきくとあっさりと答えてくれた。
「そうなんだ・・・・!ソンさん忘れてた――――!!」
いきなり思い出した。遅すぎるよ、僕。
「・・・あ、あのおじさんのこと?」
遠慮がちにレイリオが切りだした。
「そ、その人だと思うよ」
レイリオは一気に表情を曇らせた。
「ざ、残念だけどその方なら亡くなっていたわ」
「死んじゃった!?そんな・・・ことって・・・」
その時イチが起きた。まだ眠そうだ。目がとろんとしている。
「やっと起きたわね」
僕はイチを睨んだ。
「ストップ、ストップ。レイズくん、イチを恨んじゃだめよ」
「ふざけんな!この状況で殺人犯を許せるやつがどこにいるんだよ!!」
怒鳴ってしまった。取り返しのつかないことを・・・僕は・・・
「レイズくん、私の話をきいて」
沈黙という重りが僕達の上に乗っかった。誰の声もしない部屋に鳥の声が響く。
「オレはケモノを解放すると我を忘れる」ボソッと誰かが言った。
なんと最初に口を開いたのはイチだった。僕の早起きより意外だと思う。
「き、キミほんとにイチ?」
さっきまでのことは忘れ、そんなことを尋ねていた。
「なんでそんなこと訊くんだよ?」
「だってキミ・・・目が青いし、両頬にあった模様が消えてるじゃないか」
さらに十字架も消えている。
「それは私が説明するわよ」
間にレイリオが入った。
「でも、その前に断言しとくわ。この子は正真正銘イチ。キミをおそっておじさんを殺した。そして―――――」
騒音がレイリオの言葉を切った。
「外で何が起こってんだ?」
僕達は外に出た。すごい砂煙でなんにも見えない。
「何しにきたのよ?アギル?」
砂煙しか見えない場にレイリオの声が響く。
「よぉ。久しぶり」
「あんた、こんな騒音立てて何してるのよ?」
アギルって誰?ってかレイリオ、僕達を無視ですか?完璧に忘れてるでしょ?
「いや、お前に用があってさ」
「用って何よ」
ようやく砂煙がおさまった。
「レ、レイリオ・・・アギルって誰?」
やっとこっちを見てくれた。
「あ、ごめんなさい。まだ言ってなかったわよね?」
「新しいお前の仲間か?」
容赦なくアギルから質問が。空気読むのが下手なのか?
「ちょっとアギル。空気読みなさいよ!」
チラッとイチを見た。何事もなかったような顔をしている。少しは驚けよ。
「紹介が遅れたわね。この人はアギル。ちょっといろいろあってそれ以来任務を手伝ってもらっているの」
僕より年上なんじゃないかな。それにそこらへんじゃ見ない服だな。なんていうか軍事服みたいなカッコしてる。額に布を巻いているし、指の出たてぶくろしてるし・・・何より目が変だ。赤い目。これは普通だけど目の中に何かがある。変わった模様だ。
「初めまして。さっき紹介があった通りだ。オレの力は―――」
そう言うとアギルは何かをもってるカッコをした。一体何が始まるんだ?
「お前には
見える?何が?
「レイリオ、こいつぁ驚きだな。ケモノをついに捕まえたのか」
「え、えぇ。大変だったわよ」
ケモノってイチが確か言ってたやつだよな。にしてもなんでアギルは知ってるんだ?
「まぁいい。それよりレイリオ、指令長から命令だ」
「命令って?」
アギルの目が冷たく光った。
「厄介なことになったぞ」
「だから何?」
「タイガル国のミオを知ってるか?」
「知ってる」
「アイツの所に行けってさ。オレとそこの2人と一緒にな」
僕も行くんですか?
「すべて指令長は知ってるのね。いいわ。行きましょう」
知ってるって監視されてるのか。僕達。
「その前に、お祭りを楽しんでいきましょう!」
金魚すくいに綿菓子、りんご飴、クレープ、たいやき、やきそば、たこ焼き、ヨーヨーつり・・・
「レイリオ〜まだ行くの?」
「まだ始まったばかりじゃない」
いやいやもう数え切れない屋台を回ってますが?レイリオさん?
「あ!あれやろうよ!」
今度はしゃてきですか?
「5Gです」
「はい」
とりあえず僕達はレイリオから少し離れたところにある静かなところに行った。
「もう動けない・・・」
「アイツはどれだけ食えばきがすむんだ?」
僕達は――いや少なくとも僕はレイリオの変わり様に戸惑っていた。だってあんなに祭りが好きだなんて知ってるわけないし・・・
「大当たり―――!!」
しゃてき屋のおっちゃんの声がする。
「今度は何を当てたんだ?アイツ」
アギルは知ってたみたいだ。レイリオの祭り好き。
レイリオがおっきいうさぎのぬいぐるみを持ってやってきた。
「じゃ、帰りましょうか?」
「え?」
これはあとでアギルに聞いたことだけど、レイリオは何かおっきい物を当てると元の性格に戻るらしい。理由、原因不明。だけどおっきい物にはすべての共通点があるらしい。アギルの推測によるとすべて“うさぎ”に関係あるんだって。
「いきなり帰るって・・・」
「もう・・・用事は済んだから」
用事?何なんだ?
レイリオの目に影がよぎった。悲しいことを思い出したのかもしれない。
「行くぞ。ぐずぐずしている暇はない」
そんなレイリオとは逆にアギルはかなり不機嫌だ。こちらも何かあったらしい。
「僕達も行こうイチ」
「あぁ」いつもの通り冷たい声。この声に慣れる日は来るのだろうか?
お祭りの帰り道にレイリオとアギルが何か話していた。よく聞こえなかったけど。
「もう・・・・したのか?」
「これから・・・・り」
聞こえたのはこれくらいだった。
その日の夜――
「明日は早く起きなさいよ。3人共」
そして一呼吸おいてからレイリオは言った。
「ミオに会いにタイガル国へ行くのよ」
やっぱり僕も行くんだ。
「そこで、アギルについて補足説明をしようと思うんだけど」
とても気になってたとこだった。
「してください。レイリオ!」
「1年前からの話になるけど・・・」
こうして長い夜が始まった。
「私はある任務でこの町の郊外に来ていたの」
ぽつぽつとレイリオが話し出す。それをアギルは氷のような目で睨んでいた。
「そこで・・・スリに遭っちゃってね。その時に助けてくれたのが彼―――アギルよ」
レイリオがちらっとアギルを見た。依然その表情は変わらない。
「ま、その後は犯人捕まえて私がGUNSに引き渡してその事件は終わりになったんだけど・・・」
GUNSとは昔でいうケイサツみたいなものだ。レイリオもそこに所属しているらしい。
「任務は失敗しちゃって。で、本部に報告する前にアギルに会いに行ったんだけどもういなくて・・・それ以来会ってなかったの」
嘘だ、と思う。こんな話ない。そんなに前に会った人を覚えてる訳がない。
「これだけよ。私が話せることは」
レイリオは少し震える声で言った。理由は分からない。
「あの、1つ聞きたいんですけど」
めんどくさそうにアギルが僕の方を向いた。
「なんでそんな顔で睨んでるの・・・?」
アギルはビクッと肩を震わせた。
「これは・・・。いや、何でもねぇ」
何でもなくない、と叫びそうになった僕をレイリオは制した。‘これ以上何も言わないで’と目で訴えてきた。
この2人には何か大きな秘密がある。絶対に。
そして僕は話題を変えるべくイチの方を向いた。レイリオに『獣』のことを教えてもらう為にもイチに少し聞きたいことがあったからだ。
だが当の本人は寝ていた。
「イチ?」
呼びかけたが反応なし。熟睡しているようだ。
「あら?イチはもう寝ちゃったの?ってこんな時間じゃない!」
只今午前2時。明日は確か5時起床予定だった。
「明日起きれなくなっちゃう!みんな、早く寝るわよ!」