世界の創世は嘆きの歌だったの。
四つの属性、地・水・火・風、これらが望んだのは、世界の創世だったの。
でもそれはすべて失敗に終わったの。
世界のすべては虚無なるものから生まれたの。
世界のすべては始まりと終わりだったの。
それは世界のすべてが同じところに還るって意味なの。
世界のすべては漆黒なの。
世界のすべては白なの。
世界のすべては母なる虚無によって生まれるのよ。
始まりにして終わりもね。
すべて世界の母によって生まれるのよ。
世界の始まりはすべての虚ろから始まった、世界は四つの属性に見守られ、創世されるはずだった。
「……願っても願っても叶えられない」
「……セレン?」
「なら壊してしまえばいいのに」
静かに少年は笑っていた。金色の髪を揺らし、ただ静かに少年は笑う。
願っても叶えられない願いはこの世界には存在する。そうセレンと呼ばれた少年はただ静かに微笑む。
「セレン、何言ってるんだ?」
「この偽りの世界を壊して、僕の理想の世界を創れば……」
愛しても、愛されない時がある。そのような愛は世界には多い。
そうセレンは説く、静かに両手を開きながら。対峙した少年は漆黒の瞳に深い悲しみと、慟哭、戸惑いを揺らげながら、セレンを見つめた。
暗い焔のようだねその強き瞳、とセレンはただ呟いた。
愛しても愛せれないときだってあるんだよ。
この世界には悲しみが多すぎる。そう説くセレン、対峙する少年。
「それは間違った考えだ、セレン」
「そんなことないんだよ。アーヴィン」
ああただこの世界に存在したいだけなのに、どうしたってそれは叶えられない願いなんだ。とセレンはアーヴィンの長い黒髪に少し見惚れながら呟く。
ああとても美しい夜の瞳だね、とセレンはすべてを諦めたものだけが浮かべる笑みでアーヴィンを見た。
壊せばいいとまた呟くセレン。アーヴィンは強い瞳でセレンをにらみつける。
ああ美しい強い焔の瞳だね。とセレンは小さく囁く。
「アイテール……。第五元素アイテールで構成されたこの世界をお前はどうやって壊すと言うんだ!」
「四大元素を司る長も堕落している。全ては壊れた考えの下に構成されている。新しい世界を創ればいいんだ」
君だけは僕の味方だよね。と大きな樹の根元でうっすらとセレンは笑いながら言った。
その笑みの芳烈。静かに彼はただ微笑む。その白い両手を広げて。
蒼い空はとても蒼く。果てのない蒼き空が、緑の大樹の上に広がっていた。
アーヴィンはやめろ。と大きな声で叫ぶ。
悲しい絶叫はしかしセレンの心には届かなかった。
必死で少年は叫ぶ。育ってきたこの美しき世界を守るために。
「みんなをこんな風にして、そして創られる世界なんて……」
どうしてわかってくれないの? とセレンは無邪気に微笑むだけ。
世界の堕落を知らないから。と彼は静かに呟いた。
「僕が願っても願ってもかなえられないものを君は持ってるね」
アーヴィンが叫ぶその声すらも聞こえない……あるのはただ虚無。
虚ろがただ静かに言葉を続けた。
「消えてしまえ……」
嘆きの言霊は世界に浸透する。アーヴィンは泣きながら叫ぶ。木の幹に手をおいて柔らかく微笑むセレンに向かって走りよろうとするが、壁のようなものに阻まれうまくいかない。
世界なんて消えろ。と嘆きの言霊をセレンはささやいた。
アーヴィンの瞳に光る銀の雫、それを見て一瞬だけセレンはとても綺麗な澄んだ湖のような孤独を映した瞳で彼を見た。
そして世界は消えていった。