世界の終わりと漂う夢


1 : :2007/01/15(月) 23:29:16 ID:rcoJVemH

エライラ・ルシウス・アーティメウス・ラディル。
 呟いてごらん、ほら現れるのはあの魔術師、何でも願い事をかなえてくれるという神様だよ。
 ルシウス・エライラ…ラディル…。

「エライラ・ルシウス・アーティメウス・ラディル!」
「……残念ながら、僕の名前は『ルシウス』だけです現在は」
 神様の割りにものすごくルシウスって性格悪いの。といって少女はぶうっと膨れる。
 ほっぺがぱんぱんだねえ。とはあと小さくため息をルシウスという少年はついた。
 長い黒髪が外から入ってくる風にゆれている。少年だがかなり線が細い、少女とも見間違えるような美貌を彼は持っていた。
 すごくすごくえらそうなの、とぷんぷんと金髪の少女は怒りながらまたぶうっと頬を膨らませる。
「……この図書館への道を開く人はまだ現れませんねえ」
「ルシウスは人の願いをまだかなえたいの?」
「僕は人の願いをかなえるためだけに存在するのですから、それ以外の存在価値はないですよ」
 おいしそうにこくりとテーブルの上にのったカップを手に取り、その中の紅茶を彼は飲み干した。
「この図書館にある書の世界のうちのどこかで……ここへの道を見つける人が現れればいいですね」
 にっこりと柔らかく優しくルシウスは笑う。
 少女のまっすぐな金髪が、少し開いた窓から入ってきた風に揺れていた。
 青い空の色の瞳で少女はルシウスを射抜く。
「神様って人の願いをかなえるためだけにいるの?」
「……神様ってそんなもんでしょう」
「そうなのかなあ」
「エルシィ、そんなもんですよ神様ってのは」
 世界のために、人のために、すべてはそのために神様は存在する。
 神様の欠片である自分は世界や人のためにある。と彼はささやく。
 大きな図書館の中でたくさんの本に囲まれている二人、小さなテーブルの上にはカップとポット、そして可愛いショートケーキ。
 少しお行儀が悪く、低い本の棚の上にエルシィはのって足をぶらぶらさせていた。
「ルシウスの前世ってどんな人?」
「正確には僕の欠片、この世界すべてを作った神様のことですよ。エルシィ。神はすべてだった。しかしすべてを創りだして神様は力を使い切った。己の欠片を世界の片隅に監視者として残し、神様は消えてしまった。それがエライラ・ルシウス・アーティメウス・ラディル。すべての理想、すべての究極。世界の形、根源はもういない。なのに人々は神を夢見る。そんな人々のために僕は存在するだけ」
 ふうと少しだけ小さくため息をルシウスはつく。それさえも演技、作られた感情であるということをエルシィは知っている。
 ふわふわとしたピンク色のワンピースのスカートのすそを彼女はちょっぴり手で持ち上げた。白いエプロンがひらひらとついていてかわいらしい。
「神様っているのかな?」
「エルシィ?」
「というか本当にいたのかしらねえ、そんな人」
「いたから僕が存在するのですよ」
「あたしは知らないもん」
 願いごとをかなえるためだけに存在する少年、いや少年といいきれないか、とエルシィは大人びた笑みを唇に浮かべ思う。
 人々の願いをかなえるためだけに彼はいると。
「選ばれた人がこの図書館への道を開ける。そして僕はその人たちの願いをかなえる。この日々は結構充実して楽しいと思いますよ。貴方もいるし」
「いいおもちゃだって?」
「そんなこといってないですよ」
 綺麗な鈴のような声だわ、と彼女は思う。しかし虚ろの塊でしかない彼であるからこそ「自分以外のすべての人々が怖い、恐ろしい」自分が一緒にいられると彼女は思う。
「世界のすべての人々を消し去って、というあたしの願いはいつかなえてくれるの?」
「貴方のそれが真実の願いであればいつかそれはかなえられるでしょう」
「……あたしは世界のすべてが嫌い、自分自身も大嫌い。でも世界のすべての人々があたしは怖い。だからすべてを消して、ルシウス。そのためにあたしはここに来たの。存在するの」
「……それが真実の願いであれば、神様がその願いをかなえられるでしょう」
 拒絶ではなく、真実でもなく。何か遊ばれているようだわ、と彼女は思う。
 年のころ十五歳ほどの少年と少女に似合わない破滅の言葉遊び。
 たくさんの本たちに囲まれて二人はティータイムとしゃれこんでいる。
「……どんな願いもかなえますよ。それが真実の願いであればね」
「……いつかかなえさせてみせるわ」
「お待ちしてます」
 しみひとつない白い肌に浮かぶ真紅、その中にあるのは嘲りでもなく、ただの虚ろ。
 虚ろな笑みでルシウスは笑い、漆黒のまっすぐな美しき己の髪を撫でた。
「……道がひらかれれば、僕は存在意義を得る」
「……今はないの?」
「ただここにあるだけの存在です」
 はあと小さくエルシィはまたため息をついた。
 いつか世界が滅びるまで、この世界の終わりの図書館にいるしかないのかと。
 世界のすべてが恐ろしい少女と、世界のすべてがどうでもいい少年は、神様の夢の中でただ漂う。
 世界の終わりまで。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.