魔は夜を渡る者。
長い黒髪を持つものは魔を狩る者。
魔を狩る者は夜を渡る者。
人を殺めるものはナイトウォーカー。
夜から夜へと渡る者は魔を狩る者。
魔を狩るものは夜を渡る者のことをいう。
あの日の夜に見た夢は、血の匂いがした。
甘い石榴の味がした。
あの日の夜に見た夢は、真紅に染まっていた。
夢の中で見た夢は、蒼い透明な誰かの孤独に染まっていた。
あの日の夜に見た夢の中、長い黒髪の少女はただ泣いていた。
あの日の夜に見た夢は、俺の記憶の遥か彼方であり一番近い場所にあった。
「……あの日の夜の夢の夢、夜を渡る者を見た」
ばあちゃんが話してくれた夜を渡る者の話、それを聞いた夜、俺は夢を見た。
夢の中の夢を見た。
「……どうしてあんたなんかがその異言をつむげるのよ!」
男の胸からナイフを引き抜かれ、真紅があたりを包み込んでいた。
銀のナイフを血に染めて、ただ笑っていた夜の少女は、強い驚きを瞳に映しこんで、傲慢な笑みを消し、そして今度は俺を強い瞳でにらみつけた。
「夢で見たんだ。今思い出した」
あの日の夜の夢の夢、少女が泣いていた夢。
銀の星の光の下、銀のナイフを手に持って、ただ少女が泣いていた夢。
あの日の夜の夢の夢、ただ泣いていた夜の者。
少女は黒いワンピースの裾を風になびかせ、ただ俺を見つめていた。
甘い石榴の匂いが夜を支配していた。