夜を渡る者


5 : :2007/01/30(火) 21:51:29 ID:rcoJVemH

 あの日の夜に見た夢は、血の匂いがした。
 甘い石榴の味がした。
 あの日の夜に見た夢は、真紅に染まっていた。
 夢の中で見た夢は、蒼い透明な誰かの孤独に染まっていた。
 あの日の夜に見た夢の中、長い黒髪の少女はただ泣いていた。
 あの日の夜に見た夢は、俺の記憶の遥か彼方であり一番近い場所にあった。
「……あの日の夜の夢の夢、夜を渡る者を見た」
 ばあちゃんが話してくれた夜を渡る者の話、それを聞いた夜、俺は夢を見た。
 夢の中の夢を見た。
「……どうしてあんたなんかがその異言をつむげるのよ!」
 男の胸からナイフを引き抜かれ、真紅があたりを包み込んでいた。
 銀のナイフを血に染めて、ただ笑っていた夜の少女は、強い驚きを瞳に映しこんで、傲慢な笑みを消し、そして今度は俺を強い瞳でにらみつけた。
「夢で見たんだ。今思い出した」
 あの日の夜の夢の夢、少女が泣いていた夢。
 銀の星の光の下、銀のナイフを手に持って、ただ少女が泣いていた夢。
 あの日の夜の夢の夢、ただ泣いていた夜の者。
 少女は黒いワンピースの裾を風になびかせ、ただ俺を見つめていた。
 甘い石榴の匂いが夜を支配していた。
 


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甘辛流小説家ギルドGAIA
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