空を見て転んだ。


2 :麗葵 :2008/03/27(木) 21:26:20 ID:o3teWkQJ

【第一章:ターゲット】




夕暮れ時だというのに、辺りを紅色に染める夕日すら見当たらない。
あるのは、街を覆いつくすようにゆっくりと流れる灰色の雲だけ。風はそれほど強くないのに、久しぶりに外へ出たからか凍てつくような寒さに感じた。
生きる希望さえ吸い取られそうなこんな天気の日にも関わらず、学校帰りの学生はきゃっきゃ、とまるで猿のように騒ぎながら家路へと戻っていく。


笑うとはどういうことなのだろうか、と冷めた頭で考えていた。


感情がないわけではない。いらだつことがあれば怒るし、悲しいことがあれば泣く。
けれども、笑うことだけは知らないのだ。
生まれてこのかた、楽しかったことなど一つもない。
笑顔の練習にと、鏡の前で笑みをつくってみても、それはマネキンのように固定された不細工な笑みにすぎなかった。
悲しい奴だ、と自虐的に笑いながら、ポケットから一枚の写真を取り出ししげしげと眺める。


「久しぶりの仕事かと思ったら……。こんな餓鬼か。」


そこに写っているのは、端整な顔立ちをした男の子だった。
大学生だというのに、まだどこかに幼さが残っている。真っ黒な黒髪に、これまた真っ黒で大きな瞳。すっと整った鼻筋に、小さな顔。その顔は、女とは思えないほどごつい私の手にすっぽり収まるくらい小さいだろう。
彼は今すれ違っている高校生たちの誰よりも美しかった。
この子が私のターゲット。
そして、この少年の暗殺を依頼してきたのは、彼の父親。
彼の父親が、深刻な顔をして我が組織『Poison』に訪れたのは、今からちょうど三時間前にさかのぼる。


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