【序章】
―――いいか。我らに感情はいらぬ。情はいらぬ。あるのは“仕事”のみなのだ。―――
物心ついたときから、耳にたこができるほど聞かされていたセリフは一生私の心に鎖として巻きつくであろう。
普通の子供ならひらがなやカタカナを習うはずの時期に、私は感情を失くす訓練や、人を苦しませずに殺める方法を徹底的に叩き込まれた。
私にとっての玩具はゲームや縄跳び、トランプなどではなく、人を殺すためにつくられた銃。
冗談を言い合える和気あいあいとした家族なんて、最初からいなかった。いるのはいつも無言で部屋へご飯を運んでくれる家政婦。
家なんてない。心を落ち着かせる場所なんて、存在しない。身体を休める唯一の居場所は――。私が所属する『Poison』という暗殺を専門とする組織。
いわゆる、殺し屋だ。
今日も客からの依頼を受け、血塗られた道を駆け抜ける。
そして、断末魔の叫びを上げる暇さえなく人を殺め、報酬を得る。
何ものにも動じず、何ものにも心動かされない。
組織の思惑通り、私は“生きる機械”になった。
心なんてあってないようなもの。
そう、思ってたのに―――。
あなたは私の前に現れた。
前ぶれもなく。安っぽいドラマのようにね。
光の粒のようなきらきらした笑顔と、決して折れることのない強い心を持って。
忘れはしないよ。
そう――あれは確か真冬の日だった。
鉛色の空はビルに衝突しそうなほど低く、突き刺さるような風はビルの合間を突き抜ける。
あなたは私の殺すべきターゲットだった。