(リハビリ)ア・イデアの晩餐会


1 :akiyuki :2012/08/20(月) 23:42:40 ID:tDVcxmsF

 破壊前線のプロットが思ったよりも固まらないので、リハビリもかねて書きたいものを書きたいように書いてみるというだけの企画。です。


2 :akiyuki :2012/08/20(月) 23:50:48 ID:tDVcxmsFYk

月影次郎


 月影という言葉がある。


 意味は月の光に照らされてできる影。もしくは月光に照らされるものそれ自体。
 そして、月の光。

 月影とは、夜を構成するすべてに該当する言葉である。


 月の光は、ただものではない。



 夜に出歩く癖ができてからは、なおさらに、そう思う。

 僕と、月の光から生まれた夜の影法師と一緒に、静かな夜を歩く。

 
 歩きながら、思う。


 今、この時間帯、世の中は月影で満ちている。
 僕も、静かに闇をたたえる水田も、見えないけれど、確かに軌跡を感じる風も。
 今はすべてが影だ。

 では、僕の足元から延びるこの影は、なんなのだろう。

 光に名前まで奪われたこの黒い輪郭は、なんと呼べばいいのだろう。





 あの日、あの子にそんなことを喋ってしまった時。

 彼女は少し首をかしげて

「月影影?」

 なるほど、と思ってしまった。


  


3 :akiyuki :2012/08/21(火) 23:50:51 ID:tDVcxmsFYk

骸骨旅行団


 僕が二十七歳だった頃、町中で死んだ人が生き返るという事件があった。

 人間、死んでしまえばそれまでなんてことを、僕も皆もわかっていたのだけれど、実際にいなくなってしまった人が現れた時、僕たちはそれがおかしいことだなんてツッコミを入れることはできなかった。

 いつだって、失ってから大切だったことに気付く。


 大切だった誰かが蘇ったのだから。

 それはきっと幸せ以外の何物でもなかった。



 そして僕は当時、市役所で、そういうものを元に戻す仕事をしていた。

 
 「生き返り」のいる世帯を一軒一軒回って、調査を行うのだが、どこかしこも門前払い。
 そりゃそうだ。あなたの大切な人を冥府に戻しますなんて言っても、誰も話を聞くわけない。

 同じ係の紙屋町主査は「皆が幸せを噛み締めているのなら、もう少しだけひたらせてあげてもいいのじゃないだろうか」なんて素人みたいなことを言いだした。

 駄目に決まっているだろう。この先の展開的に考えて。


 一週間後、生き返った人達が、ゾンビ化の傾向を見せる。
 家族が、襲われて軽傷を負う事件があり、急きょ、強制成仏を執行した。


 解析の結果、どうやら今回の反魂騒動。死者を呼びだしているのではない。

 「残された人の想い」を無理矢理形にしているものらしい。
 
 蘇った人達の身体的特徴が一致せず、また行動パターンや性格にもわざとらしさが見え隠れることが、おもに恋人が生き返った人達の証言からわかったのである。
 

 都合のよい、思い出の中の人。

 それを笑えるわけがない。



 そして、人の心の力では人の形を保っていられるのも、一週間程度。


 ぞくぞくと亡者となり、そして肉が溶け歩く骸骨と化していく思い出の人々。

 残された人達は、彼らを土に戻してやってくれと、涙ながらに市役所窓口センターに電話してくる。
 つい、二、三日前までけんもほろろだったのにね。

 中には、骨になっても家族だと、引き渡しを拒む世帯もある。

 笑えるわけが、ない。



 13日後。

 おそらくすべての「よみがえり」が骸骨化し、そのすべてが一か所に向けて集まりだすという異変が起きる。


 そこまできて、ようやく調査が終了した。

 犯人は、僕の同級生だった。


 五年ほど前に、恋人を事故でなくしてから、にこりともいなくなった男である。

 まさか、オカルトに救いを求めるとは思わなかった。


 そのネクロマンサーは、すべての骸骨を集めている。何のために?


 いうなれば、その骨たちは、人々の亡き人への想いで構成されている。
 時間が経ち、限界がきて、それでも失われなかった骨子がそこにある。

 ならば、その骸骨たちは、きっと、「愛」の結晶である、「愛」で動いているのだ。


 3300人分の愛をエネルギー源として、地獄の門を開く。

 そして、自分が一番愛した人を呼び戻す。


 それが、ネクロマンサー宮川聖の目的であるらしい。


 笑えない。笑えない。



 紙屋町と根津には、庁舎待機を命じ、僕は骨の集まる旧市民会館を目指す。
 おそらく宮川は、街中で地獄門なんて開ければどうなるかわかっていて、儀式を行うのだろう。

 なら僕は、彼を殺してでも止めねばなるまい。

 五年前、宮川聖の恋人を、消滅させたように。





「女郎屋敷、久しぶりだな。もう一度会えてよかった」

 宮川は、僕のことを認めると、にこりともせずに再会を祝した。

「宮川、もうやめよう。まだ、間に合う。間に合うんだよ」

 宮川の後ろには5体の骸骨が、控えていた。
 すべてが、寸分違わぬ形をして、すべてが、同じように左薬指が中指より長い。

 全部、『彼女』か。

 何度も、何度も彼女を想い出し、生き返らせたんだろう。
 そして、その度に朽ち果てて骨になる恋人を見て、宮川は、何を思った。
 何を、


「女郎屋敷、俺はお前を憎んじゃいない。五年前、お前は圭子を燃やしたが、それは仕方のなかったことだと思う。俺達の仕事は、そういうことを、しなけりゃならないものだものな」

 そんな言葉、聞きたくない。

「わかってる。わかってるんだ」

 ならば、何故こんなことを。町中の人々の不幸と引き換えにしても、彼女と会いたいのか。

「それでも、会いたくて仕方がない」

 宮川聖は、悲しそうに笑った。



 笑えない。

 月本市役所異界平衡係、女郎屋敷小夜子(じょろうやしき さよこ)は、少しも笑えない。


4 :akiyuki :2012/08/23(木) 00:54:07 ID:tDVcxmsFYk

会議記録

 地獄の門を半開きにしてから、半年が過ぎたある午後。
 被害もなく、結局皆が夢をみていただけの、そんな思い出にしてしまおうと誰もが思っていた、ちょうどそのころ。

 地獄から、一匹の化け物が現世に飛び出していたことが判明した。

 こんちくしょう。


 
 おかげで、昼から年休を取ってゆっくりしようかと思っていたのに、緊急の会議に招集された。



 秘書室異界平衡係のメンバーが、第三会議室に勢ぞろいする。

(正規職員)
係長 女郎屋敷小夜子
主任 根津太郎
主査 紙屋町友礼
(異界嘱託職員)
コミュニケーションゴリラ こと ゴリラ
ハイパーエコディーゼルエンジン搭載型メイドロボ デルタリオン
妖怪代表 河童

 あと、秘書室からオブザーバーとして伊藤草月主査

 会議は七名で行われていた。

 ちなみに、ゴリラ氏と河童氏は人語を解さないし、デルタリオンはただのメイドロボなので、結局人間チームだけの発言である。

 以下、ボイスレコーダーによる録音


〜〜〜

伊藤「さて、皆集まってくれてありがとう。早速だが本題だ。先日そこの2m女が半開きにしやがった地獄門から、異界生物が月本市に侵入した」
女郎屋敷「ちょ、伊藤! なんで僕が悪いみたいになってんの? 第一僕は190cm台だし!」
伊藤「お前、俺があの後一週間寝ずにもみ消したのを、もう忘れたのか」
女郎屋敷「ぼ、僕だってがんばったじゃん、ちゃんと議会用の報告書も作ったし」
伊藤「あんな主観まじりの恋愛小説を、補正予算つける資料にできると思ってんのか、公務員なめんなこら」
女郎屋敷「ひどくね?」
根津「ま、まあまあ。小夜子先さんも草月先輩も。あれは本当大変な事件でしたし、お互い事情を抱えていたんだから多少行き違いもありますよ。話はそれぐらいにして、進めましょう? もう、何が出てきたのかはわかっているんですか」
伊藤「あ、ああ。そうだな。気を取り直して。……。今回出現した化け物を、月影招神帳と照会をかけたところ、「吸魂」と呼ばれる種族であることがわかった。魂を吸うと書いて、だ」
女郎屋敷「で、そのきゅーこんちゃんは何をするわけ」
伊藤「モノがモノであるために必要な要素を、吸い取る」
女郎屋敷「また、哲学的だね。まあ、いいや。つまり魂とでも表現するしかないような構成要素を奪うわけでしょ。で、そいつを吸われると、どんな被害が出るの? それを取り返す術は?」
伊藤「簡単に言うと、崩れる。現在被害が出ているのは自動車、公園のブランコ、たこ焼き屋のたこ焼き機。犬の首輪、市役所情報システムのメインサーバだ」
根津「草月先輩、今すごいことさらっと言いませんでした?!」
女郎屋敷「いーよ、市役所のホームページが見れなくなる程度でしょ? 人命に被害は?」
伊藤「ない。どうやら、奴にとっての「魂」と、俺たちの考える「魂」は別物らしく、まだ健康被害は出ていない。ただ、例によって例のごとくだ。取り返しのつかないものを奪われている可能性も高い」
女郎屋敷「それをさー私に対処させようってんでしょー、まじ怖いわー」
伊藤「すまない。だが、今の俺たちにはお前しかいないんだ」
女郎屋敷「まー、仕方ないか、いーよ。代わりにバックアップ頼むね」

紙屋町「根津先輩、もしかしてあの二人って仲いいんすか?」
津根「し、黙ってろ」

デルタリオン『ミナサン、オチャガハイリマシタ』

 陶器の音がして、五分ほど談笑。


女郎屋敷「よっしゃ、んじゃ出動するかね」
伊藤「いや、議題はもう一つある。実は、今回の吸魂による被害と思われるのだが、築10年ほどの木造住宅が、やたら気合いの入ったゴス少女が現れた途端、急に老朽化が始まり倒壊の危険があるそうだ。で、その解体費用を異界平衡係の予算でまかなえないかと相談があった」
女郎屋敷「馬鹿じゃねーの。そんなの建築指導課にでも回してよ」
伊藤「建築指導課は、個人財産処分に公金を投入はできないと言っている」
女郎屋敷「いや、条例は?」
伊藤「てめーが地獄門開いた時のごたごたで議会が延長できなかったんだよ。おかげで空き家条例は宙ぶらりんだ」
女郎屋敷「ちぃ、それも私のせいなわけ?」
伊藤「お前のせいだとは言わん。ただ、この町は世界で唯一異界からの浸食を受けているからな、テストケースとして、異界被害に対する補償をどこまで見るか検討する必要もあるんだよ」
女郎屋敷「そーは言ってもなあ、ねえカパたん、あと予算どんくらい?」
河童「カパ」(映像では、指を三本立てていた。)
女郎屋敷「今年度予算は、あと行政代執行三回分くらいだってさ、これで住宅の解体費用はちょっと無理だわ。そもそも、建築行政の段階で法的根拠がないって言ってるのにあたしらが勝手にするのは、無理だよ。今でさえ自治六法ぎりぎり抵触してるのに」
紙屋町「でも、それ言ったら異界平衡係自体が法的根拠ないですよね」
全員「「「黙れ馬鹿! 禁句中の禁句だろうが!」」」
伊藤「あと、ゴリラ、お前携帯いじんな。さっきから、ちょっとは会議に参加しろ。するフリだけでいいから」


5 :akiyuki :2012/08/23(木) 22:53:25 ID:tDVcxmsFYk

月影招神帳の最後のページ


 
 一巡後の世界からやってきた、月影次郎が残した1冊のノート。
 そこに書かれていたのは、この世界がこれから出会う異世界の神々と、その秘密。

 異界に侵される人間の、唯一の武器。

 しかし、そこにも名前だけが記入され、一切の情報が記されていない者たちがいた。


 輪郭だけを示し、深い闇に正体を隠す化物達。



 『限りなく遠き者』(スカイウォーカー)(アンサーズ)

 『剣女神』ハイドランダム

 『戦女神』ファインドランダム

 『機械使徒』デア・メルクヴュルディヒ

 『午後五時元帥』ファイブ

 『時の翁』時の翁

 『運命維持管理責任者』車輪堂(しゃりんどう)縫ゑ(ぬえ)

 『岩窟王』テロメア

 『切り札』永遠愚行



  かつて、死神を退け、この世に地獄使いを遣わし、最悪なる者の処刑を決定したこの星のハイエンド達。

 
 
 彼らは、月イチでファミレスに集合して、世界の命運について議論している、らしい。



 


6 :akiyuki :2012/08/24(金) 21:07:48 ID:tDVcxmsFYk

もののけ三銃士・宇宙人魚邂逅編


 宇宙は、とても広くて、とても遠くて、とても寒い。

 そんな深い空を強く速く泳ぐために、彼女たちは心をつなぐ技術を手に入れた。

 どんなに遠くまで流されても、どんなに険しい隔たりでも、決して仲間を見失わないように。


 距離も、振動媒体もなくても、声を届ける技術。


 近未来、いつか夢幻人形(アンドロイド)幻想甲冑(ロボット)を開発する時代に、人類はその技術を手に入れて、『LRシステム』として兵器運用もされることになるのだが。

 物語は未だそこまで進化していない。


 今はただ、うっかりと、大気圏に落ちてしまった彼女の物語に過ぎない。


 人類が宇宙に進出し、ステーションには単身赴任のサラリーマンがあふれ、出稼ぎ労働者が劣悪な装備で船外作業に従事する、生活圏が成層圏を超える時代まで、まだ少し。

 うっかりと、あっけなく地球外知的生命体に出会うより、ずっと前。

 
 うっかりと尾を滑らせて地球に落ちてきた宇宙人魚と、三人の頭の愉快な高校生の物語である。


7 :akiyuki :2012/08/24(金) 22:18:28 ID:tDVcxmsFYk

もののけ三銃士が化学室に入り浸るようになった経緯



 どうしても、周りから浮いてしまうのが、三人共通の悩みである。

 証城寺(しょうじょうじ)文蔵(ぶんぞう)は、非常に体の大きい男である。がっしりとした筋肉とでっぷりとした脂肪に体を包み、遠目には、大型獣のようなシルエットを持つ。しかし、人を恐れさせることはない。愛嬌のある顔で、ひどくよく笑う。大きな声で笑い、人を笑わせる。何かおもしろいことがあれば、そこには必ず証城寺文蔵がいる。誰か、困っている人間がいれば、そこにも証城寺はいる。いて、一緒に馬鹿なことをしたり、馬鹿を見たりする。わざとそうしているわけではない。そういう生き方しか知らないのだ。ほかの『やり方』というようなものを、教えてくれる人はいなかった。
 身も心も大きい男である。まだ15歳(三月生まれ)の高校一年生だと言っても、誰も信じない。
 そのスケールの大きな人間関係の割に、休日に一緒に遊ぶような友達は一人もいないことは、誰も知らない。
 誰も彼もを、同じように全力で大事にするために、特別な人間がいない。
 一人の時は、抜け殻のようにぼーっとしている。
 その姿は、狸の置物に非常によくにていた。
 うみねこ町の化け狸こと、証城寺文蔵である。

 伏見(ふしみ)誠一(せいいち)は、人前で喋ることがほとんどない。その前に、相手が喋るのだ。
  背が高く、すらりとした体型で、背筋が綺麗に伸びたその立ち姿は、あまりに美しい。髪を切ることがなく、まるで女のように伸びた髪を後ろに結んでいる。端正な顔を常に前に向ける姿は、行き交う男も女も振り向かずにはいられない。誠一自身はそんな容姿に思うことは欠片もない(持つものゆえの傲慢である)。むしろ、鏡を見るたびに、わずかな嫌悪感が胸の内にちらつく。自分の眼が、嫌いなのだ。
切れ長の眼。奥に潜む瞳。見る者は心奪われる眼だと言う。彼の一族共は、真実を見る目だという。
 その眼で見つめられると、人は心を惑わし、何かを喋らずにはいられない。誠一の気を引くために。やましいことを隠すために。少しでも、彼の瞳の畏れから逃れようとして、魅入られる。
 別になんでもない。ただ、観察力と動体視力が尋常じゃないという、それだけの受光器官に過ぎない。
 何を考えているのかわかない、けれども弛緩していない、神聖な面をしているだけだが、切れ長の眼を向けられるだけで、人は皆糾弾された気分になる。
 伏見誠一はあまり言葉を使わない。いや、本当は使う。
 限られた人には饒舌だ。ジョークだって言う。
 ただ、人見知りするから、級友の前でも恥ずかしくて喋らないだけなのだ。
 けれど、人は誠一の無言に、越境者の佇まいを見るのである。
 迷惑な話である。
 霊能者の一族に生まれてしまった高校一年生としては、十分適正ありなのだが。
 うみねこ町に転校してきた、狐様の末裔である。

 鍋島(なべしま)千草(ちぐさ)は、一言でそのキャラクターをまとめきれる。
 気まぐれなのだ。
 雲のようにふらふらと現れて消えて、猫のようにどこにでも行く。男をどきりとさせるような貌をしたかと思えば、童女のように振る舞う。普通にもできる。常識的な手紙を書くし、挨拶もできる。倒れた幼児を抱き起こしてあげたり、クラス内のイジメをさりげなく解決したり、誰も知らないおじさんの運転する外車で朝登校してきたり、一人暮らしをしてるとかしてないとか噂になったり、複数のダーツバーで同じ時間帯に目撃証言があったり。おそらく、前述二名とは、違う意味で普通ではない生活様式をしている。彼女の周りの人間は、彼女がエキセントリックな人間だと誤解しているが、至ってまともではある。本人にも、TPOのラインはある。おそらく、わかっていて、やっている。自分が、周りから浮いた存在なのも自覚している。もしかしたら、自覚していないフリをしているのかもしれない。
 知りようもないが、知れば知るほど深みにはまる。
 うみねこ町の、化け猫のような娘は、今年からセーラー服を着ている。
 
 うみねこ町うみねこ高校。
 今年度の五月までに部員が集まらなければ廃部になるところだった化学部の最後の一人であった(しま)左子(ひだりこ)二年生は、今は卒業した先輩達から託された部の消滅を前に、一人涙しかけていた。
 チビ・メガネ・三つ編の上に化学部というスーパーコンボを決めた高校一年を実験室に費やした地味子さんには、青春オーラあふれる新入生に声をかけるような度胸はないぽだった。
 もう一人だけいた、現三年生の先輩は、辞めてしまった。なんでも、天啓が降りて、ギタリストになることにしたのだとかで。
 がんばってくださいね、としか言えなかった。
 そして、自分も頑張らなければ、と奮起したが。
 どうしようもなかった。ポスター、ビラ貼り、新入生部活説明会に参加。入部申請用紙をさりげなく理科室に置いてみるなど、対人以外の努力はなんとかしてみたが、どうしようもない。
 言わずもがなに、自身にコンプレックスを持っている彼女は、堂々と振る舞うことができない。もっと勇気を出さねばならないことはわかっていたのに。
 でも、その勇気がどこにも届かないかもしれない、と考えたら。とても。
 でも、大好きな化学部が消えてしまうのは、いやだ。
 優しくしてくれた、今は北海道大学に言ってしまった元部長。
 バイトしながら、まずギターを買うために資金集め中の先輩。
 皆との思い出に瑕がついてしまいそうで。それだけは嫌なので。
 
 部室を出て、頑張って、声をかけてみた。

 通りすがりの、一年生の学章と名札めがけて、声を張り上げてみた。

「あ、あの! 化学部入りませんか?!」

 声の先には、大型獣みたいなとにかく大きな太い男と、切れ長の眼をした妖しいまでに美形の男と、眠たげな眼をした絶世の美女がいた。

「あ、ごめんなさぃ、今の聞かなかったことにしてくださぃ」

 小声で謝る左子に快諾を返し、三人は部長を化学室に連行した。


 化学部もとい、化け学部。うみねこ町もののけ倶楽部は、こうして誕生した。


8 :akiyuki :2012/08/26(日) 00:09:52 ID:tDVcxmsFYk

もののけ三銃士・左子と文蔵


 うみねこ高校化学部は、化学資料室のフロア半分、机とソファと二脚のパイプ椅子、および本棚一つを備品としてあてがわれており、ここで実験の計画を練ったり、化学の論文を読んだりするのが主な活動内容であった。
 部活動のために化学薬品をいじるのは、今の御時瀬なかなか難しく、実際に実験をできる機会は数える程度しかない。ちゃんと計画を立案し、顧問の先生に添削してもらい、先生立会の元でなければ、薬品を扱わせてはもらえない。しっかりしている。
 また、この顧問の先生が結構忙しく、なかなか話す機会も得られない。月に一度、顧問を交えた部会をして、方針を決めたり、校外活動の許可を取ったり。
 毎日の放課後は、もっぱらどんな実験をするかを話あったり、煮詰まったらお菓子を食べながら関係ない話に花を咲かせたり、科学博物館の催しものを皆で見に行くこと。

 意外と、青春していた。

 しかし、物凄く地味でインナーサークルを作り上げる化学部には、安定した人材の供給がなされず、人員は目減りしていく一方。
 今年度の頭には、二年生たった一人になっていた。
 それでも、必死の勧誘活動の成果か、五月の初めには、三人の新入部員を迎え、計四人の新生化学部が生まれたのである。
 しかし、入った新入生はどいつもこいつもキャラが濃く、勇名悪名を耳にしたことのある曲者ぞろいであった。
 おかげで、今やうみねこ高校の生徒達は、化学資料室に集まる連中のことを『化け学部』と呼んでいる。
 左子自身、そう思っていた。



 閑話休題




 放課後、化学資料室。
 背の低い、三つ編み眼鏡というわかりやすいキャラ付けのなされた少女、島左子はソファに腰をおろし、学術誌に眼を通していた。顧問の先生がモノ好きな生徒達のために、理科系の月刊誌を購入してくれている。ほかに陳列するところがないため、化学部の本棚に整理する。生物、地学、物理、それに農業などの畑違いの分野もあり、よく地学部や物理部、園芸部などが本を借りに遊びに来ていた。そんな同好の士のために本棚を整理したりお茶を入れるのが、左子の部活動の半分を占めている。なんとも、居心地のいい私だけの場所というやつを、彼女は持っているのだった。姉と妹と共有の自室に比べて、まるでここが自分のプライバシーとなっていた。
 しかし、今そのプライバシーを浸食するものがいる。
 自分の隣に座って、化学の教科書を読む男が一人。
 あまりに大きな体格はふかふかソファの三分の二を占用し、見ただけでわかる重量で体を緩衝素材に沈めきっている。
 とにかくでかい。太っている。のだが、それ以上にただ大きい男である。
 特注で作ったという学ランは暑苦しいからと、脱いで鞄の上に放り置かれている。
 ちょっと動いたらシャツも破れてしまいそうなくらいはちきれてしまうんじゃないかと思うが、このシャツも特注なので大丈夫との言である。
 これだけ貫禄があって自分の後輩だと言うのだから、恐ろしい。

 今年から、化学部に入部した、証城寺文蔵である。

 化け学部になってから、数週間が経ったが、全員がそろうことはない。
 うっかり間違えて声をかけてしまった左子に三人は快諾したものの、それぞれ用事があるらしく、あまり頻繁にはこれないとことわりを入れた。
 願ったり叶ったりなので、それでいいよと言ったものである。
 しかし、なんだかんだで全員来ないということはない。
 狸みたいな大男と、狐目の美形と、猫みたいな少女の誰かは、必ず化学資料室に訪れて、左子に心の悲鳴をあげさせていた。
 しかし、後になって知ったのだが、三人は話あって、必ず誰かは部活に参加するように予定を調整し合っていたのだそうだ。彼らなりに、気を使っていたことを知らずに、左子は初めての後輩で、初めて出会う濃さのキャラに、緊張しっぱなしだったのである。
 まだ、馴染めていなかったのだ。
 

 さっきから、手元の雑誌をなんど読み返しているかわからない。読んでいる内容もさっぱり頭に入ってこない。
 こうして、二人きりになる状況はたまにあるが、いつもいたたまれない空気になるのである。
 しかし、そんなあわれな少女の心に気付いているのかいないのか、大男は教科書とにらめっこしている。
 すごく緊張する。
 証城寺文蔵は、部活動に来るたびに、いつもどっすと体を椅子に沈めると、本を読む。
 本棚の化学雑誌のバックナンバーであったり、鞄から取り出した文庫本であったり、今日のように化学の教科書であったり。
 そして、時間が来るまで黙々と、読書に精を出す。
 左子に、関心をまったく示さない。

 変に話しかけられるよりは楽だが、ほんとにそれでいいのだろうか、と思わなくもない。
 ぶっちゃけ、左子もつい最近までそんな感じだったからだ。
 理系部活動黄金世代と呼ばれた年代の人たちは軒並み卒業してしまい、地学部も物理部も、総合理科研究会も、のきなみ勢いを失っている。昔のように頻繁に資料室に本を借りに来る人もいなくなった。生物部に至っては、間に合わず廃部となってしまった。(その時の生物部員だった子は、もうやる気を失ってほかの部活に移ることもしなかった。今思えばどうして声をかけなかったのだろうと、悔やまれる)
 だから、一人になってから、左子もずっと、本を読んでいた。
 プライベートな空間の中で、一人っきりの居心地のよさと、あの時の皆にお茶を淹れてあげていた頃を思い出して。

 私がいなくなったあと、彼らはどうするのだろう。この部を残してくれるのだろうか。
 

 コミュニケーションをとる必要があると思った。
 左子は立ち上がる。
 立ち上がって、資料室の出入り口に行く。化学室とつながる方でなく、電気ポットと急須のある、化学教員室の方に。
 五分後、戻る。
 文蔵は、まだ本を読んでいた。よし、声をかけよう。
「あ、証城寺君?」
「はい、なんでしょうか」
 文蔵は、結構簡単に反応して、本から目を離した。
 その体格と面貌からは思いつかないくらい、優しい声が返ってきた。
 優しい声を出して、文蔵は左子が運んできた急須と湯呑を載せたお盆を見た。
 必要以上に笑おうとして、ちょっとひきつった笑顔で、左子は後輩に言った。
「え、と。お茶飲まない?」
 文蔵は、ゆっくりと立ち上がり左子に近づく。

 え? 何? どうする気?


 大男は左子の手から盆をゆっくりと受け取って(見た目に似合わない優しい手つきだった)、にっこりと笑った。
「ありがとうございます。僕が淹れますね。それにしてもなんだ、こんなセットがあるんだったらお茶汲みくらいさせてもらったのに、左先輩もお人が悪い」

 当たり前のように、軽口をたたかれた。え、そんな距離感なの……?

 
「ところで、理科教員室に勝手に入ってもいいのですか?」
「あ、大事な書類とかは職員室にあるから、掃除をする代わりにお茶とか、使わせてもらってるの。えと、鍵のスペアはあずかってるけど、本当は駄目だから、秘密にしといてね」
「信頼されてるんですね。でも先生もこんな得体の知れない連中が入部してきたなんて知ったら鍵変えちゃうかもしれませんね。今の内に理科室のバーナーでお湯わかす方法考えときますか?」
 当たり前のように、手なれた手つきで急須を扱う文蔵を見つめながら、呆気なさに驚いていた。
 なんだ、こんな簡単でよかったんだ。



 それからお茶を飲みながら、世間話をした。
 二人並んでソファに座る。
 パイプ椅子があるが、もしこれから「4人」で座るなら、向かい側にももう一つソファ欲しいな、なんて思った。

 いろいろ話を聞いた。
 小学生の時から大きかったこと。化学の成績だけが極端に悪いこと。少しは成績をあげる手段になるかと思って化学部に入ったこと。一緒にいた誠一と千草とは、高校に入学してから友達になったこと。彼らがどうして化学部に入る気になったのかは話をしたことはないが、まあ根ほり葉ほり訊き合わなきゃならない間柄でもないということ。
 入学当初に残した伝説。『乗用草刈り機で登校』事件は、野球部に入部したクラスメイトのために、校舎裏の広い荒れ地を整備するために親戚のおじさんから借りてきたということ。おかげで二軍練習場ができたことを喜んだ野球部員達から感謝の胴上げをされそうになったが、重過ぎて上がらなかったこと。お父さんが、工業都市うみねこ町の主要産業を担う月本コンバーティングで働いていること。化学の授業があった日は、放課後教科書を読んで復習しているが、さっぱりわからないこと。昨日、小テストで4点を取ったこと(20点満点)正直、凹んだこと。

「暗記なのはわかってるんです。でも、なぜか原子と分子の話だけはどうしても頭に入らない。過去分詞だとかホルモンのフィードバックだとかはわかるんですけど。ナトリウムはだめです。人の扱う単語じゃありません。そういえば、味塩ってナトリウムなんですね、初めて知りました」
「ふふ、勉強していたら、覚えるのも楽になってくるよ、わからないうちは本当に全部暗記するしかないかなーって思うけれど、実はとっても簡単な仕組みなんだから、一度気付いたら、楽勝だよ」
 言って、まさに今の状況だなと、左子は心の中で苦笑する。

「そんなもんですか、そんなもんなんでしょうね。経験者の言ですね」
 うんうん、と一人頷いてお茶に口をつける。すぐに戻す。
「熱い、すごく熱い」
「あ、ごめん。証城寺君は猫舌だった?」
「いえ、口の中が切れててちょっと痛むんです。迂闊でした。忘れていました」
 
 なんだかその言い方がおかしくて、笑ってしまった。
 不思議そうな顔をして、文蔵は問う。
「なんか、変なこと言いました?」
 わざと、なのだろうか。それとも、こういう素、なのだろうか。

 なんだか、一人で緊張していた自分がおかしくて仕方なかった。


「ううん、証城寺君がこんなに面白い人だなんて思わなかったから」
「ええ、それはよく言われます。見た目は怖いって」
「あ、ごめん」
「いえいえ、僕の方こそ。先輩はいつも静かに本を読まれているから、物静かなキャラでいた方がいいのかなと思って大人しくしていたけれど、やっぱり僕ぁ頭悪いこと口にしてふざけてる方が合いますね、うん」
 さりげなく、そんなことを言う。
「え、じゃあ証城寺君、私に合わせてたの? ずっと黙ってたのも?」
「そういう部活なのかと思ってました」
「違うよー! もっとお喋りしたり、実験の打ち合わせしたり、よその部活の現地調査について言ったり、合宿だって昔はしてたんだよ!」
「化学合宿か、すごいですね」
「すごかったんだよ、だから、私も……、昔みたいに活気の……ある化学部に……」
 言葉が詰まる。
 ずっと、言えなかった。
「先輩?」
 心配そうに見つめる後輩に、やっと言った。
「証城寺君、化学部に入ってくれてありがとう」


 1秒、顔をきょとんとさせて、その後、大きな笑顔で彼は応えた。
「それは、誠一と鍋島に言ってやってください。僕は、僕の方こそありがとうございます」

 泣くのは、なんとか我慢した。


9 :akiyuki :2012/08/26(日) 00:10:53 ID:tDVcxmsFYk

もののけ三銃士・左子


 次の日、準備室には左子の姿しかなかった。



 


10 :akiyuki :2012/08/26(日) 00:28:13 ID:tDVcxmsFYk

もののけ三銃士・左子と文三と誠一


 次の日、左子が準備室にやってくると、すでに鍵は開いていた。

 おかしい。昨日ちゃんと閉めたのに。


 しかし、思い出す。一昨日、文蔵にスペアを渡したのだ。


「証城寺君、もう来てるの?」

 扉を開け、中を覗き込むと、影が二つあった。

 一つは、巨体をソファに沈め、何事かを考えていた。

 文蔵である。


 もう一つは、椅子に座らず、文蔵の横、仕えるように「休め」の姿勢で立っていた。

 切れ長の瞳の、長身の美男子。

「あ、伏見君も来てたんだね。こんにちは」

 もう1人の男子新入部員、伏見誠一である。

「伏見君も座ってよ、お茶淹れるね」

 無視された。

 
 ……、まあ、昨日の今日まで全く無関心に務めていたのは自分なのだ。ここは、アプローチをかけていかねば。


「左先輩」
 文蔵が、少し低い声で名を呼んだ。

「うん?」
「人魚姫って、知ってますよね」
「知ってるけど……、どうしたの?」
 ものすごく、深刻な顔をして、文蔵は左子に質問を続ける。
「人魚姫って確か嵐の海の中王子様を助けたと思うんです」
「そうだね」
「ってことは、やっぱ海水魚なんでしょうか」

 ……、回答に困る。

「うーん、海に住んでるんだから、そうなのかな。でも肺呼吸してそうだけれど、でも泳ぐ時は息を止めてるのかな?」
「じゃあ、川で人魚が泳いでいたら、淡水魚なんでしょうか」
「うーん。でも鮭は海で泳いで川で産卵するよね、両方に対応できるのかな」
「いえ、海で泳いだことはないそうです」
「じゃあ、真水でいいんじゃない?」
「やっぱり、ですよね。ありがとうございます」

 礼を言うと、携帯電話を取り出し、どこかに連絡を取ろうとする文蔵。

 何なのだろう。何かのクイズか?

「ねえ、伏見君、これ何の話?」

 無視された。


「あぅ」



 電話がつながった。

「鍋島、水槽には真水を入れておけ。水道水でもいいと思う。あと、肺呼吸できるんじゃないかどうかも聞いておけ。エア? そりゃ、いるんじゃないのか? いいよ、さっき渡したカードで全部買ってくれていい」



『海で泳いだことはないそうです』
『肺呼吸できるんじゃないかどうか聞いておけ』


 
 その後、二、三言会話を済ませて、電話を切った文蔵に、試しに質問した。

「どうしたの? 今の電話鍋島さん? 人魚でも見つけたの?」


 頭をかきながら、心底困った顔をして、文蔵は答えた。

「そうなんです。先輩、生物に詳しい知り合いとかいらっしゃいませんか?」

 どうなんだろう。元生物部のあの子なら、何か知っているだろうか。


11 :akiyuki :2012/08/26(日) 15:09:16 ID:tDVcxmsFYk

もののけ三銃士・文蔵と誠一と千草と左子と宇宙人魚


 人魚がいる。


 とは言われたものの、本当に信じていたわけではない。

 かつがれているのか?

 くらいに思っていあのだが、帰り支度を始めた文蔵と誠一に連れられて、タクシーで港の廃倉庫までつれてこられた時には、まさか?と 思った。

「誠一、『キュキ』と『イデア』どちらの眷属かわかるか?」
「(無言で首を横に振る)」
「あれだけ科学法則を無視した存在だ、『イデア』側なんだろうけれど、重力の影響を受けたせいで『キュキ』の影響を半分受けて受肉したってことだろうな」

 なんか変なことを二人は話していたが、さっぱりわからない。


 港の倉庫街にたどり着く。

 いかにも怪しげな廃倉庫の中で。

 そして、実際にこの目で見てしまえば、もう。

 最初の感想は

「でかっ!」


 だった。
 スーパーにあるような大きな生簀(いけす)に半分くらい水が入って、その中に人魚がいた。
 上半身は、人間だった。やっぱり、美人だった。ビキニをつけてた。腰のところまで伸びている青い髪が、水面にふわふわと浮いていた。腰から下は、魚のものだった。全身で3mくらいあるだろうか。
 入りきらなくて、上半身は、淵の岩に乗り出している。
 ああ、異形だとよくわかる。
 肉がついているのではなく、単純に骨格が大きい。平均的な女性をそのまま縮尺だけ大きくしたような、遠近を無視した存在が、そこにいた。
 大きい大きいと言っていた文蔵よりも、さらに一回り大きい。
  

「あ、左子ちゃんも来たんだ、やっほー」
 異形の姫の目の前、もう一人の美形が出迎えた。
 スタイルよすぎて、セーラー服が似合っていない、ショートカットの後輩。 

 鍋島千草は、華麗に振り返ると、文蔵にクレジットカードを手渡した。

「買い物は済ませたよ、あんがと。でもいいの?」
「いいよ、どうせ親父のカードだから」
「よくねーじゃん、坊っちゃんかお前はー」
「坊っちゃんなんだよ」

 この二人、こんなやりとりするのか。と今更ながらに後輩のことをわかっていなかったことに気付く。

 ……いやいや、今はもっと大事なことがあるだろう。


「ちょ、ちょっと。証城寺君、鍋島さん! この、これ……、え、と、この人? その……何者?」


 二人は眼を見合せ、声を揃えて

「「何者って……、人魚?」」

 どうしよう。会話の続け方がわからない。

 すると、ぼうっと立っていただけの誠一が声を出した。

(ぶん)、先輩には何も話していないのか?」

 こんな声だったのか。っていうか、あだ名は文なのか。

 いやぁ、と頭をかく文蔵に一度ため息をつき、誠一は左子に顔を向ける。

「俺たちもわからないんです。俺達は昨日、偶然これが空から落ちてくるのを見てしまったんです」


 ……。空?


「人魚、だよね」
「ええ、本人の言葉を信用するなら、宇宙空間を泳ぐ宇宙人魚ということだそうです」
「……。喋ったの?」
「喋りません。こいつら声帯ないみたいで。宇宙には空気ないですからね、声を出す意味がないんですよ。こいつらは、テレパシーで交信するみたいなんです。で、落下地点に現れたら、助けを求められたので、とりあえず保護しました」
「……、警察呼ばなかったの」
 すると、誠一はその端正な顔を少し歪ませた。
「呼びたかったんですが、まあ色々ありまして、残念ながら秘密裏に動くことになりました」

 そこいら辺で、左子の許容範囲を超えそうだった。

「なんで皆、そんな当たり前みたいに人魚受け入れてんの?」

「先輩、それは宇宙人魚の前で失礼ですよ」

 ……。この下級生達は、これに人権を認めているのか。

 え、そういうものなの?


 誠一とのやりとりを見ていた文蔵が、間に入ってきた。
「まあ、あれです。僕達だって受け入れ切れてはいないのですが、まあ助けちゃったんで、どこか頼れる人がみつかるまで助けようかって昨日話あったんです」

「皆、怖くないの?」

 最初に聞いとけばよかった。

 文蔵はちょっと困ったように頭をかいた。
「それが、怖くないんですよ」
 誠一はまたいつもの無表情に戻る。
「家業柄、慣れてますから」
 千草は、何考えてるのかわからない顔で人魚にビーフジャーキーを食べさせていた。
「んー、かわいいじゃん。おっぱい大きいし」


 なんてこったい。


 おそるおそる、人魚を見やる。
 自分より小さな人間にビーフジャーキーを手ずから食べさせてもらいながら、左子をじっと見ていた。

「あぅ」

 人魚はにっこりと笑って


『よかった、やっと話が通じそうなまともな人間連れてきてくれたのね』

 頭蓋骨の裏で、反響のかかった声が響いた。


 今のが、テレパシー? 

『初めまして、私は宇宙から来た者です。ごめんなさいね、いきなり呼びだされてびっくりしたでしょ? 危害を加えるつもりはないから安心して。ほんとはね、こっそり帰るつもりだったのだけれど、この子たち、順応良すぎてちょっと困ってたの』

 どうしよう、一番見た目の人間離れしている人が、一番自分と感性が似通っていた。


12 :akiyuki :2012/08/30(木) 23:57:20 ID:tDVcxmsFuJ

左子と宇宙人魚と神様

 会話というのも、変な話である。

 はたから見れば、左子が人の形をした怪異に、一方的に話しかけているように見える。

 
 宇宙人魚は喋らない。笑い声もしない。そもそも呼吸器も声帯も持っていない。

 空気のない宇宙で生きているのだから。

『私たち宇宙人魚はね、あなた達の言葉で言えば、魂だけで生きているの』

 でも、さっきからそこにいるし、ビーフジャーキーだって食べたじゃないか。

『イデアの圏族は、肉体を持たない。けれど、私はうっかりキュキに触れてしまったから、肉体を手に入れてしまったの』

 さっきも出てきたぞこの単語。

『あれ? 左子ちゃんはそういうのに関わらずに生きてきた系? もしかして、知らずにおいて方がよいかしら?』

「ここまで来たら、詳しい説明をお願いします」

『そーね、こんな破壊前線の中心に住んでいるなら。たぶん、あなたはこれからこういうものにたくさん関わっていくだろうから。説明するわね。妖怪や妖精、それに神様や私たちみたいな化けものはね、皆宇宙から来るの』

「……、そういう設定なんですね」

『まー、そう思って。私たちはね、宇宙神たる月の外側にある娘(ア・イデア)により生み出された精神生命体。肉体を持たず、死ぬこともない。熱量では作り出せない膨大なエネルギーを使って、私たちの科学法則を以って生きている。広い広い宇宙を生きるには、スケールの大きな能力と命が必要だから、偉大なるイデアの力を十全に使い、生きてゆく。決して地球には近づかないように。もし、地球の引力に触れてしまったら、地球の法則、つまり、地球神たる重力を紡ぐ男(ジューショ・クア・キュキ)の決めたルール、いつか必ず死ぬ肉体をもってしまうから。私はね、ちょっとエピソードはしょるけれど、ある悪い奴に追いかけられて地球圏すれすれを逃げているときに、うっかり重力に引っかかって、物質化してしまったの。で、そのまんま墜落。死にかけてたところを、うみねこ町もののけ倶楽部に助けてもらったってところ』

「すみません、いろいろ訊きたいこと盛りだくさんなのですが、まずうみねこ町もののけ倶楽部について教えてください。嫌な予感はばりばりしますが」

『あら? あなたが部長じゃないの?』

「私が部長なのはうみねこ高校化学部です!」


13 :akiyuki :2012/09/01(土) 01:34:21 ID:tDVcxmsFuJ

もののけ三銃士・導入


 女子高生、島左子は初めて地球外生命体と出会うことになったが、だからと言って、彼女の日常はこれっぽちも変わることはなかった。

 地球を守る神様と、宇宙を守る神様がいて、それぞれが命を生み出して、そしてその二つは交わるはずがなかった。


 なのに、うっかり重力に触れた彼女は、彼女の細胞は引力を手に入れた。
無限の宇宙空間から素粒子を引き寄せ、肉体を形成し、そして重力に引かれ、大気圏を突破した。両方の神様から祝福された。
いや、それはもしかしたら、追放されたのかもしれない。

それでも、彼女は楽しく時間を過ごしている。
 港の、持ち主不明の廃倉庫の中で、水槽にゆったりとつかり、お気に入りの本を読んで(文蔵の差し入れである)、お菓子を食べて(千草が買ってきた)、CDコンポからお気に入りの音楽が流れてきている。
 
 こんちくしょう、いい身分である。


 彼女が左子達に求めたのは、時間であった。

 宇宙を泳ぐ彼女は、アクシデントにより惑星にて人類と出会っただけである。
 しかし、この上空60万km先にいるであろう彼女の仲間たちは、哀れな墜落者を助けにくることができない。
 禁忌の星に近づけば、皆もきっと、落ちてきてしまう。
 だから、彼女は独力でこの星から脱出する必要がある。

 そのための方法は、実はある。


 しかし、そのためには時間が必要というのが主張だった。

「まあ、僕たちは乗りかかった船だから、最後まで付き合うけれど、先輩は帰ってもらってもいいですよ。とりあえず、僕たちが部活休んでる理由だけ知ってほしかったんです」
 というのが文蔵の言葉。

 しかし、そんな船に無理やり乗せたのはどこのどいつだ。
 左子は、止めておけばいいのに、妙な対抗心が心に芽生えていた。

『私としては、話のわかる人に文ちゃん達に私に構うのを辞めるよう説得してもらいたかっただけなのよ。確かに「助けて」って言ったのは、私だけれど。最近の子って、こんな律儀なの?』
 というのが、宇宙人魚の言葉。

 たぶん、彼らが特殊な類なのだとは、思う。
 そして、止めておけばいいのに、妙な義侠心が内に湧いてくる。

 なぜだ? 自分はそんなキャラじゃないだろう。もっと、地味地味として、なんというか、嫌々巻き込まれるタイプだと思っていたのに。


 この状況に、とっても興奮していた。


 そういうものなのかなあ。
 
 島左子は、本人が思っている以上に、青春を楽しんでいるようだった。


 そういうわけで、うみねこ高校化学部の面々は、無許可で、たまたま倒産したスーパーマーケットの解体工事で処分に困った本格的な生簀が保管されていた倉庫にて、人魚の世話を始めたのだった。




 数日後。
 放課後。
 うみねこ高校科学準備室の、唯一の豪華な備品であるソファに体を沈める男が二人。

 見るからに大雑把そうな文蔵は、姿勢正しく化学の教科書に目を通す。隣に人がいるのに、完全に無視して読書を続ける。
その横、スマートそうな外見の誠一は膝を組み頬杖をつき窓の外を眺める。つまらないのか、考え事をしているのか、わからない目をしていた。
 
 気を許している間柄。自分の部屋にいるようである。


「なあ、誠一」
 唐突に、つぶやくような、左子の前では出さない、砕けた声色。誠一は顔を友人の方に向けたりもしない。しかし、聞き耳を立てていることは知っているし、別に自分相手ならいいかなと、短い付き合いながら距離感の取り方を考えている。
「島先輩な、別に静かなのが好きなんじゃないみたいだ」
「……」
「僕たちがあんまり緊張して口数が少ないから、我慢してたみたい。だから、誠一もがんがん喋ってけばいいと思う。君も無理にお喋りするキャラじゃないだろうけれど、喋りたい時に喋ったって、先輩は怒らないよ。ほんとはコミュニケーションとるの、好きなんだと思う。だって、去年の話を訊いたら、すごくうれしそうに話していた。よっぽど、この空間が気に入っていたんだな。本当は、わいわいやりたいんだよ」
「……」
「誠一と、同じさ。誘ってもらえて、嬉しかったんだろう?」
「なんでわかる」
 優しく笑う。
「見りゃわかるよ、お前さん、確かにクール面したキャラだけれど、自分で思ってるより、感情表に出てるよ」
「……」
 そこで、会話が途切れた。
 言いたいことが終われば、それでいい。そんな気心の知れた関係である。
 不思議な気分であった。

 沈黙を共有することが苦にならない。

 誠一も、そして文蔵も、お互いを特別に思う瞬間でもある。

 次に沈黙を破ったのは、目を細めた無表情な方であった。
「文、お前緊張してたのか。あの図々しさで」
 思わず、本音が口に出てしまった。


 同時刻。
 件の廃倉庫には、二つの影がある。
 どこからかひっぱてきたホースで水を継ぎ足して、やっと満杯になった水槽の中で、青く長い髪をクラゲのようにゆらゆらと揺らし、水面をぷかぷか浮いている体長3mくらいの人魚。ポテトチップスの袋をラッコのように腹に乗せ、マンガ本を読んでいる。

 いいのか、幻想がこんな体たらくで。

 心の中でツッコミを入れたが、ふと目の前の異形が念波で交信することを思い出す。

 「迂闊!」と言った表情をした島左子に気付き、宇宙人魚は声をかけることにする。
 もちろん、声を言っても、果たして、音として認識しているのかもあやふやなものでああるが。

『左子ちゃん、私の『声』は思いを届けるだけだから、心を読んだりはできないわ』

「なんでわかったの?!」

『だって、顔に出てたわよ。左子ちゃんって、マンガに出てきそうなくらい天啓的なイジラレキャラだけれど、それでも自分が思ってるよりたくさん、感情表に出てるもの』

「あぅ、そんな楽しそうに言わなくても」


 今日の見回りは左子の番であった。
 別に頼まれてもいないのに、買って出る。今や、週4のペースである。そんなに入れてどうすんだ、である。部活はどうすんだ、でもある。
 でも、左子はここに来る。
 妙にフィーリングのあう彼女に、会いに来てしまう。
 何か、感じ入ることもあるのだろうか、人魚の方も、左子を歓迎する。地球人を巻き込みたくない、などと言っておきながら、とても楽しそうに彼女も笑う。

『だって、楽しいもの。この星って、楽しいものだらけよ』
 まるで子供みたいに目を輝かせて、世界を見つめる。
 こんなボロ倉庫の中でも、特別な場所であるかのように。

『私の生きる宇宙は<無>しかないから、おいしい食べ物も、面白い本や音楽も、ひんやりと冷たい水も、こんなにたくさんの人も、こんなにたくさんの心をつなぐ物であふれた世界があるなんて、奇跡みたい』
 
 そうか。
 私が彼女に見た高揚を、彼女もまた私達に見ているのか。

 しかし、心をつなぐとは、乾ききった世界に生きてきたという割に、ずいぶんと詩的な表現をするものだ。

『本当に、すべてのものが、簡単に心をついでくれる』

 人魚が突然、中空に手を伸ばす。


 水槽から離れたところに積んであった本の山から、一冊の本が、彼女の手に向かって飛んでいく。それをナイスキャッチして、ページをめくる。
 化学の教科書だった。
『面白いわね、原子核と電子って考え方。でも、人間の眼で見えないものをどうやって調べたのかしら。やっぱりこの電子顕微鏡って奴? 左子ちゃん持ってる?』

「持ってないし、電子顕微鏡でも見えないじゃないかな……。それよりも、えと、人魚さん? 今、何したの? 本が触ってもないのに動いたけれど」

『え?』

 左手に持ったポテチを口に運びかけて、突然された今更な質問に、首を傾げた。

『何って……、『大気』と心をつないで、風で運んでもらったんだけど……なんか変だった?』

「たいき? え? 大気? 意味わかんない。最近はそういうのありなの?」

 よく見たら、彼女の右手にある本は、あんな雑に扱われているのに、少しも濡れていない。あんなにぼろぼろとお菓子を食べこぼしているのに、水槽の水は少しも濁っていないし、よくよく考えたら、先ほどから音楽を流しているコンポの電源はどこから取っているという?

 この空間が非常に不思議なことになっていることに、今さら気付く。

『そういえば、地球人は基本的に『コレ』できないんだっけ?』

 本が宙に浮いた。

『私は、私の心と相手の心をつないで、言葉を届けるでしょ?』

『そんな風にして、私の心と相手の心をつないで、お願いするの。そして、現象を起こしてもらう』

『大気に、風を起こしてと。紙に、濡れないでと。水に、不純物をはねつけてと。酸素に、私の仮初の肉体を酸化させないでと』

『え? 無生物に命令できるのか? って? 違うわ、お願いするの。そして、心が通じれば、動いてくれる。生物である左子ちゃんにはわからないかもしれないけれど、無生物でも心はあるの。ただ、魂の仕組みがちょっと違うから、認識できないだけ。だから、解り合おうと思えば、心を発信できるなら、塵芥とだって友達になれる』

『そうやって、ありとあらゆるものと友達になることで、私達は広い宇宙を生きている。助け合いの精神を具現化するために生まれた遊泳調停者。それが私につけられた属性』


『で、さっきからどうして黙ってるの?』

「あの!」

「それって、人間にもできるんですか?」

『できるわよ? ……、ああなるほど、私がこの力を使って文ちゃん達に身を守らせてるんじゃないかって疑問ね? それは大丈夫よ。これは、私が心を発して、受け止めてくれる人がいて初めて使えるの。私がお願いして現象を起こせるのは、友達になってくれる人だけだし、友達を自分のためだけに利用するなんてのは、宇宙人魚の本来に外れる行いだから、しないわ。そんなことをすれば、私は泡になって消滅するしかない』

 そこまで言って、彼女は自分の口をふさいだ。

『あらやだ、これってまさか死亡フラグ?!』

 悪い漫画の見せすぎである。もうちょっと高尚な書物を用意しようと、左子は思った。

 そして、この真面目でとぼけたやりとりを別の場所でもしたことを思い出して、くすりと笑った。


14 :akiyuki :2012/09/02(日) 21:11:27 ID:tDVcxmsFuJ

同時刻・月本市役所


 4階応接室。


 女郎屋敷小夜子は、非常に不機嫌な顔をしている。

 何しろ、大嫌いな二人組が目の前のソファに腰をおろしているのだ。

 あのいけすかない総務部長にさえ愛想笑いのできる小夜子が、苦々しい表情を隠せない相手など、そうそういない。

 ストライプスーツに身を包み、額の手術痕を隠すため、深く帽子を被る若い女。
 これも同じく、年若い女性ながら、着物を着こなして、妙に、にこにこ笑っている。

 陸上自衛隊 第虚数駐屯地 広報課

 蓑火(みのび)千代(ちよ)士長
 証城寺(しょうじょうじ)刹那(せつな)一尉


 特務中の特務機関が、小夜子の元を訪れる時は、ろくなことがない。

 特に、このような勢力が、小夜子に異界感染能力を使わせようとする時、防波堤となり拒否と抗議を行う伊藤草月がいない時を狙ってくるということは、彼女達は大嫌いな文官さえも利用しようと言うのだろう。


「お元気そうで、何よりです」
 心にもない台詞で口火を切ったのは、帽子を取ろうともしない千代であった。
「お互いにね」
 どうにも苦手だ。同い年で、同じような出来事から化物退治を仕事にしている二人だが、千代は、小夜子に妙な対抗意識を持っている。単純な戦闘能力ならはるかに千代が上にも関わらず、異界処理実績では遥かに上であることが気に入らないらしい。そりゃ、経験数がだんちで違うのだから仕方ない。第一、小夜子がしているのは地球圏内の問題である。異世界や平行世界をまたいで境界を越える人や物を、元の場所に帰すだけのお話だ。自衛隊が任務としている、ア・イデアによる地球圏干渉の阻止ではスケールも何もかもが違う。それを何故比べようと言うのだ。

「さて、それではお願いがあります」
 着物を着た、もう、どこからどうみても軍人らしさを持たない刹那が、言葉を継いだ。
 小夜子はこっちの女が嫌いである。
 にこにこ笑って、いやらしいことを言う。自分がいつも相手をしている、どこかピュアで魂の叫びが大きすぎて破壊を行う連中とは違う、異質さ。

「先日、宇宙空間より地球に飛来する物体がありました。一枚だけ取れた写真を元に、月影招神帳の閲覧照会および特定、異界平衡係による捜査協力を依頼します。これが正式な公文書ね」


 手渡されたのはいが、小夜子はあまりこういう事務的なことはわからない。
 ここに草月がいれば、そもそもこのような依頼自体が法的根拠がまったくないことであり、協定違反への厳重行為を行うところなのだが。
 もちろん、公務員のはしくれである小夜子でも、これが難題であることは知っている。
 月影招神帳は、決して他機関に見せてはいけないものなのだ。なぜなら、そもそもが公文書ですらないからだ。
 もう一つ言うと、異界平衡係そのものが法的根拠を持たずに組織された部署であるために、このような公文書自体受け取る権限がない。

 しかし、受け取る権限がないと正式に回答すれば、女郎屋敷小夜子が、異界干渉能力を用いて戦闘を行うことも、それどころか、人権を優先して強制保護される可能性とてある。

 どう答えればいいのだろう。

 小夜子は焦巡する。


 その時である。



「ウホホオホホホホホホホホ」


 空気をぶち壊す獣声。そして、重厚なベース音。


 ラジカセをかついだグラサンのゴリラが突然乱入してきた。



「?!」

 小夜子は硬直した。
 そして、確信した。
 間違いない。ミスターゴリラはこの突然の乱入によって場を乱し、この要件をうやむやにする気だ。そして、草月が出張から帰ってきたら直に抗議に行くという作戦n違いない。
 くそう、ここぞと言う時にいい仕事をするぜ!



 そのような勝利の方程式を頭に浮かべ、敵を見る。

 例によって例の如く、千代はいつもの無機質につくろった顔を年頃の少女のものに戻してしまい、大型哺乳類に目を向けていた。

 そして、刹那はと言うと、右足を宙に伸ばし、大きく床を踏みぬいた。

 ダン!


 と、大きな音がして、部屋全体が揺れた。



 にこにことした顔を変えずに。


「まあ、座れや」


 ゴリラはサングラスを外し、その場に正座した。


 こんちくしょう。




 その時である。



「カパパパパパパアパパパパ」


 サングラスに金のネックレスと装備が追加された河童氏が、やっぱり型にラジカセを課ついて部屋に乱入して


「   」


 無言の刹那に、湯呑を投げつけられた。

 震える声をもらしながら、部屋の外に逃げていった。




 ドアから、顔を半分だけ出して中をのぞいていたメイドロボのデルタリオンを見つけると

「あれにも、同じような愚行を取らせる気ですか? それとも、うっかり割れてしまった湯呑を片付けさせる方が建設的だと思いますわね」

 にこにこと、脅された。

 同僚であるはずの千代も、ちょっと引いた顔をしていた。


 こんちくしょう、こいつ冗談が通じないから嫌いだ。


15 :akiyuki :2012/09/12(水) 23:36:05 ID:tDVcxmsDuA

もののけ三銃士・誠一と左子

月本市は、5年前に4市町村が合併して生まれた歴史の浅い町である。

工業都市、山奥の農村、ベッドタウン開発が進み始めた何もない町、その他もろもろが無理やり合併しているだけなので、非常にまとまりがない。


そもそもが、ある女子高生魔術師が無理やり開いてしまった3つの異界門の影響を受けた区間を片っぱしから一纏めにしてできた都市であるから、足並みなどそろうわけもない。

それでも、2人の逸材がいたおかげで、この町はなんとか形を保っていた。

1人は、月影観照(つきもとみきてる)。この地域一帯を治める月本一族の末裔。夜属性最強外法『月影降臨術』を用いて、扉を開けた魔術師を封印した男。

もう一人は、女郎屋敷小夜子。異界より現れた異形共と『平行協定』を結びつけ、行政代執行権を行使できる地球上でただ一人の女。


 この二人が、共同であたらねばならなかった事件が、一つある。


 月本市鬼郷町下集落(元・鬼郷村のあった地区)にて、異能を隠し生きていた半人半妖の元村民達が、独立を訴え武装蜂起した。

 月の光が届かぬ暗い森の奥であるため、月の光を媒介にする月影降臨術は通用せず。

 この世の化け物である彼らには、異世界の介入を防ぐための契約である平行協定は、執行できない。


 鬼の末裔 蓑火
 陰の宿主 新宮
 狐の守手 伏見


 最終的に彼らを説得することはできず、山の一区画を消滅させることで、事態は収束した。


 彼らがなぜこのような暴挙に出たのかはわからない。

 わからなくてもいいのかもしれない。


 彼らは死傷者なんて出さずに、しれっと山を降りて、普通に生きている。

 半分化け物であることなんておくびも出さずに、適当に生きていた。

「最後に一花咲かせたかったんじゃないの?」

 と言ったのは誰だったか。

 
 案外、それが真実かもしれない。


 伏見誠一は、狐の守手の一族の若頭領として、緊張しっぱなしで高校に入学したのだった。


 人数が少なすぎて小・中一貫校だった義務教育時代からは考えられない人の波にさらわれて、フラフラしている時に、証城寺文蔵と出会った。

 よくつるむようになって、自分が半分化け物であることを伝えても、平気な顔をしていた友。(「あ、やっぱ動揺した方がよかった?」と言われた時はふざけているのかと思ったが、後日、自分以上の化け物がいることを知る)


 二人で、ちょっとした事件を解決することになった時、(通称、紙女事件)三人目こと鍋島千草とも出会う。


 そうして三人組が確立された時に、誠一は彼女に出会う。


 彼の人生で初めての、心身共に混じりっけなしのまっとうな人間、島左子と。


16 :akiyuki :2012/09/16(日) 01:49:48 ID:tDVcxmsFYA

鍋島千草

 鍋島千草は、常に不安を抱えて生きている。

自分は、とても空虚な人間なのではないだろうか。

 自分を生んだ母親は、父親が誰かわからない娘を、昔愛人関係にあった中年男性に押し付けて、市営住宅の畳に盛大に吐血して死んだ。

血のつながらない禿頭の男は、一体どういうつもりなのかはわからないが、千草を受け入れて、養父となった。
簡単に言うと、財力と権力をもった人で、人生に足りないものがあるとすれば、毛髪と家族くらいのもの。でも、そんなものを必要としない人だった。
生活に不自由はない。
 養育費用は出る。
 問題が起きてももみ消してくれる。
 ただし、会話らしい会話をした覚えがない。

 参観日に来てくれたこともない。(代わりに秘書の人が来た。それはそれで恥ずかしかった、ように思う)

 素行がだんだん悪くなっていった。
 家に帰らない日が多くなっても、何も言わなかった。
 さすがに、同級生を意識不明の重体にした時は、転校せざるを得なかった。

 でも、それにだって理由はある。とても信じてもらえないと思ったが。それでもそうせざるを得なかった理由があったのだ。

 養父は、何も訊かなかった。

 一言、叱るなり問いただすなりしてくれたら、私は応える準備をしていた。

 そんな不満を持つのは、甘ったれていたのだろうか。

 しかし、なぜなのだろう。


 あの人は、どうして私を家族にしたのだ。

 そもそもそれは間違いで、あの人にとって私は家族ではないのだろうか。

 ただ、気まぐれで引き取ってみただけなのだろう。

 まだ、情婦にでもしてくれた方がマシだ。


 そもそも、私の母だった人のことを、覚えていたのだろうか。それこそ星の数程の中の一人だったのだろう。

 あなたにとって、私は何なのだ。

 そもそも、私は何なのだ?



 そこまで、きて。


 千草は、自分が人を求めていることを知った。


 男性交友が、俗に言う、乱れたものになり始めたのは、その頃からだった。

 同級生を何人も虜にし、自分の父親と同じくらいの年齢の男性との付き合いが見られるようになった。

 付き合っては、別れてを繰り返す。

 千草にとっては、すべて本気の大恋愛のつもりだった。

 けれど、他人にはそうは見られない。

 そうして、雌猫鍋島は夜伽噺にエントリーされていく。
 
 荒れているつもりはなかった。

 心の安定に、必要だったから誰かと一緒にいたかった。

 でも、彼女の一緒にいる人間は、千草といるのが耐えられなくなるのだと言う。

 その理由を、誰も答えられなかった。



 つい、一か月前までは

「それは、君が恋人を父親と比較してみてしまうからだよ」

 太った、狸と豚を足して熊をかけたような、大きな男だった。
 ソフトクリームを舐めながら、千草を見下ろしていた。

 出会って三十二分しか経っていない醜男の言葉に、無性にいらついた。
「私は、付き合ってる人の前で、あの男のことを喋ったことなんてないよ」
 まず、その反応の仕方が図星だと言うことに気付かなかった。


「話していて、そんな印象受けただけだよ。君の男性像って、かなり適当なんだ。男性というものに対するモデルケースが少ないんじゃないかと思って」
「私のこと、分析してたの?」
「まあ、そうだね」
「私をナンパしたのも、偶然じゃないのね?」
「まあ、そうだね」
 何か歯切れの悪い様子である。
「……、あなた。まさか私のこと調べたの?」

 その質問に、ついに諦めたのは男の方であった。

「うん。調べた。どこまでと言われたら、必要なことについてはたいてい。君が何故転校しなければならなかったかも知っている」

「あなた、誰?」
「証城寺文蔵。君の同級生だ」
「それは知ってる。そじゃなくて」

「何の目的があって私に声をかけたの」
「君の元元元元カレから相談を受けた。鍋島千草と付き合っている時にだけ見える謎の化け物をどうにかして欲しいと」


 千草の背中を、冷たいものが流れ落ちた。
「あなた、誰?」
「証城寺文蔵。今のところは、そういうことになっている」



 千草は常に空虚を抱えて生きている。
 物ごころついた時から現れる、一体の化け物。
 孤独な人間を食料とする、異界の住人。
 千草が好きな人と一緒にいるときには、近づいてこない。
 鍋島千草の恋人を弱点とする、呪い。
 
 あれから身を守るために、千草は人を好きになる。

 好きになるために好きになる。


 私は、本当に人を愛したことなんてないのでは?


 それが千草の不安。





 大きな物音がした。


 黒髪の長い、狐目の美形の男が、壁に叩きつけられていた。


 背の高い、瞳孔が開いたままの、赤い服の女が、一枚の紙切れを左手につかみ、男の首筋に右手をあてていた。



「あ、あれは」


 あの赤い異形の女こそ、千草の15年の人生にまとわりつく呪い。

 証城寺文蔵と名乗る男は、大敵の名を口にした。

「殺人妖怪『紙女』か」

 事態においてきぼりにされながら、千草は質問を続ける。

「何故あなたがあいつを知ってるの?! あれは、私にしか見えないのに! 私と、私とシた男にしか見えないはずなのに!」
「体質なんだ、僕は。そういう他人の『物語』に無条件で介入するように魂魄ができているんだと」
 そして、困ったように頭をかいた。
「どうにかしろって言われたから、とりあえず退治してみようかと思ったのだけれど、意外と強いのな、あいつ。それとも狐の守手は武闘派じゃないのかな。ほんと、化物の世界はよくわからんよ」

 そして、遠くで首を絞められている「セイイチ」らしき男に、叫んだ。

「誠一―! なんかやばそうだから逃げていいか? それとも手伝った方がいいかー?」

 その声が耳に入った男は右手を持ち上げ、追い払うような仕草を文蔵にして見せた。

「じゃ、逃げるか。君も逃げなよ」
「あの、いいの? 友達見捨てて?」
「彼は僕よりもこういうのに長く携わってるんだよ。その専門家が逃げろって言ってるんだからその方が都合がいいってことでしょ? あんまり熱血なことする気はないんだよね」
 どうしてこの状況でそんな平常心のあるような軽口を言う。
「死んだらどうするの」

「先週、トチ狂って暴れまわる誠一を半殺しにした」
「……は?」
「殺すつもりで攻撃したけれど、死ななかった。僕で殺せない誠一が、たかが化物一匹に後れをとることもなかろうて」
 なんなのだ? この男はなんなのだ!
 これは、私の問題ではなかったのか? なのに、突然現れたこの大男とその友人に、全てを持っていかれている。

 なのに、なんで私は安堵しているのだろう。



 そこまで、考えて、千草は安堵できない状態であることを思い出す。
「じゃあ、駄目だよ。だって、『紙女』は一人じゃないんだから」
「……へ?」

 文蔵は、誠一の方を見やる。
 赤い服を着た紙女が誠一の首を絞めていた。
 そして、背の高い、瞳孔の開きっぱなしの、青い服を着た女がそこにいて、右手にもった紙切れを振り回しながら、左手で誠一の首を絞めていた。
 二人がかり。


「うっわ、やっべ!」

 それまでの、自負に満ちた表情を急きょ解体し、あわてて文蔵は走り出す。

 二体の紙女に向かって。


 こうして、異形ともののけ町ばけもの倶楽部の最初の出来事は始まった。



 この戦いが終わった後、特に何かが変わることはなかった。

 千草はいまだに父親と会話がない。

 爛れた交友関係も、あまり治っていない。

 荒い金遣いは、少し収まった。

 家に帰らない日は、やっぱりある。

 それでも、ただ、ぼんやりと何も考えない時間に、不安を感じることはなくなった。

 空虚を空虚として抱えたまま、とりあえず昼寝をする時間ができた。

 鍋島千草は、今のところ、二人の男を愛している。

 そして、愛する二人の男に安らぎを与えてくれる島左子という女を、愛おしく思っている。


 もし、彼らと彼女に危険が迫ろうとする時は、今度は私が守らなければならない。

 今、鍋島千草のレーゾンデートルはそんなものなのである。


17 :akiyuki :2012/09/16(日) 13:37:44 ID:tDVcxmsFYA

かくして、すべての変人、集う


 宇宙人魚をかくまう、廃倉庫。


 匿い初めて、二週間が経過した。

 よくもまあ、隠しおおせたものだ。

 むしろ、そんなものなのだろうか。


 とりあえず、うみねこ町もののけ倶楽部は、ちょっとしたピンチを迎えていた。


 廃倉庫。


 証城寺文蔵。伏見誠一。二人の後に隠れるようにして、島左子。

 そして、三人で庇い立ちはだかる後ろには、水槽につかる宇宙人魚。

 それを全てを守ろうとして、吹っ飛ばされて鼻血を出して倒れている月本市役所異界平衡係の紙屋町友礼主査。
 
 いかにも畑から慌ててきました、という風な農作業姿のおっちゃん(倉庫の所有者)

 倉庫の入り口に、迷彩服に身を包んだ女性が二人。
 一人は、額から鬼のように一本の角を生やしていた。
 もう一人は、とてもニコニコして、化粧したかのような(実際に化粧で黒さを際立たせている)目の下のクマが恐ろしく目立っていた。まるで狸か何かのように。
 陸上自衛隊第虚数駐屯地広報課 異界災害対応班
 蓑火 千代。
 証城寺 刹那。

 そして、二人のさらに横。

 決して後ろめたい気持ちなんて見せずに。

 鍋島千草は、堂々とうみねこ町もののけ倶楽部に、相対していた。


 文蔵は、困ったように頭を掻きむしりながら、まずは友に訊いた。
「鍋島、君がチクッたのか?」
「そうだよ。理由なんて、訊かないでよ」
「聞かないよ」
 文蔵だって、わかっている。こんなこと、大人に対応まかせるべきなのだから。
 しかし、彼らは市役所の人間に先に相談していたのだ。
 敵対している(らしい)自衛隊の人間を招き入れるというのは、それは仁義にもとるというやつではないのだろうか? それとも
「やっぱり、僕が甘ったれた考え方しているだけなのかな」
 千草は、目をそらした。
 彼女を見やる文蔵の視線をさえぎるように、迷彩服の女性が出てきた。
「文蔵、鍋島さんのした行為はとても正しい。それを責めるだなんて、お姉ちゃんはあんたをそんな風に仕込んだ覚えはないがね」
 証城寺刹那は、文蔵の実姉である。
「わかっているよ。鍋島は考えて、こうするべきだと思ったんだろう。僕はそれを尊重する。けれど、僕に隠れて、鍋島を追い込んだのは姉ちゃんだろ。それは、いいのか?」
 大狸の詰問に、それでもにこにこ笑顔を崩すことなく、女狸は平然と答える。
「先に秘密を持った人間が、開き直りか? 愚か者め、自分が何をしでかしたかも弁えずに、権利でも主張するか?」
「だったら、僕に言えばいいだろう。それが正しいことならば、僕は喜んでなんでも差しだすさ」
「差し出せないよ。お前は。その後ろの化け物は、非常に危険な代物だから、さっさと居場所を教えろと言ったって。一度、心をつないでしまった相手を、切り捨てられるわけがない。そして、本当のことを知れば、お前は仲間をすべて突き放して、一人で解決するだろう。命を危険に晒してもだ」
 そういう男に、私が育てたから。刹那はそう締める。
「僕はそんな格好いい人間じゃないよ。」 
 しかし、その表情はずいぶんと図星であったらしい。
「お前は、こんなところで命を賭けていい人材じゃない。搦め手は私の唯一の慈悲と知りなさい。お前の前で乱暴なことはしなくなかったけれど、是非もなくなってしまった。そのア・イデアに関わる全ては、地球上から取り除く!」
「まだその解釈を捨てていないのか! イデアはキュキと表裏一体。決して世界を滅ぼす者ではないはずだ。人間に友好的な化物の存在が、ただ姉ちゃんの立ち位置にとって危険なだけなんだろ!」
 刹那の、ニコニコ顔が、止まった。

 豹変。と言ってもいいくらいの、突然の怒気がある。
「文蔵……。お前は、お姉ちゃんが、私利私欲のためにこんなことをしていると思っているのかしら……。人間社会よりも、目先の命を優先することが、美徳だとでも、思っているのかしら……。その甘い考えが、この町を、世界を滅ぼしかけたことを、もう忘れているのかしら……。私、何回かしらって言ったかしら……」

 少し、悲しそうな顔をして、弟は答える。
「五回くらい……、いや、誤解だよ姉ちゃん、僕は……」

「もういい、千代、やってしまいなさい」

 いつの間にか、ニコニコ顔に戻ったクマのひどい女性は、部下に命令した。

 拒絶された、文蔵は、諦めきれない、と言った顔をしながらも、隣にいる男に声を発した。

「誠一」

 名を呼ばれた男女は、それぞれ前に踏み出した。

 実力行使の時間である。

「え、二人とも結局他人任せ?!」
 左子が、思わず毒を吐いた。


 無言だった。狐目の男と角の生えた女は、近付き合う。

「千代ねーさん」
「元気そうでよかった、誠一くん」

 同郷であった。

「文蔵の、いや、俺達化学部のためだ、逃げられない。頼む、止まってくれ。」
「お姉さんもね、仕事なの。仕事ってね、そんな主義や思想や個人の気持ちでどうにかでいるもんじゃないの。お願い、引いて」
 距離を詰める二人。
 闘いたくなくても、お互いの射程距離に入ればやらざるを得ない。
 でも、歩みを止められない。

 姉弟がそれを見る。

「これ、どーなってんの? てか、お前らウチの倉庫で何してんの?」
 倉庫の管理人である田中さんは、知人の「お前んとこの倉庫でなんか騒いでる子供がいるぞ」という電話をもらい慌ててきたのだが、来てみたらなんかこんなことになっていた。
 どうしようか、警察でも呼ぼうか。
 考えがまとまらないで目を泳がせていると、うっかり、水槽の中の怪物と目があってしまった。

 見た目は、見目麗しい人魚であるが、こういうのは見た目に騙されてひどい目に会うと相場は決まっている。
 慌てて目をそらそうとして。
『こちらの倉庫の所有者様ですね』
 頭蓋骨の裏側に、声が響いた。たぶん、目の前の化物の『声』なのだと理解できた。
『本当に申し訳ございません。緊急だったからと、勝手に使ってしまって、お詫びのしようもないです。ただ、この子達は気分がすぐれず倒れていた私をここまで連れてきてくれて、介抱してくれただけなんです。ちょっとしたいざこざでお騒がせしておりますが、ご迷惑を決しておかけしませんので、もう少しだけ、お時間をいただけないでしょうか』

 どうしよう、一番見た目のおかしな奴が、一番話が通じそうだった。


 と、狐と鬼が、あと一歩でお互いの手の届く距離まで近づいた。

 二人は、覚悟を決めて……。

『えーと、ちょっとタンマ!』

 人魚が止めた。

『あの、帰る準備ができたので、そろそろ私宇宙に帰ります。もう、ご迷惑をおかけしませんので、お二方とも、矛を収めていただけませんか』

 今度は、文蔵と刹那を見やる。

『家族で、いがみあわないで』

 次に、千草を見る。

『千草ちゃん、私のせいで困らせて、ごめんなさいね。千草ちゃんが、危惧してた通りの状況になっちゃったわね。本当にごめんなさい』

 そして、最後に左子

 言葉もなく、苦笑いをし合うのだった。


18 :akiyuki :2012/09/17(月) 10:14:30 ID:tDVcxmsFYA

時系列はばらばら

 段取り八分という言葉が指し示す通り、物事は一度始ってしまえば、終わりまでの道筋というのは、おおむね出来上がっている。成功するにしろ、失敗するにしろ。

 だからこそ、前もっての準備が肝要なのだ、と。

 左子が一年生だった時、何回目かの部活動で実験の準備をしている時に先輩が教えてくれた。
 今が、まさにその通りの時間だったと、よく思う。


 うみねこ高校。化学室。

 左子は文蔵と一緒に試験管を洗っている。


 顧問をしてくれている先生から、明日の化学の授業で使う試験管を洗浄しておいてほしいと頼まれて、快諾したところであった。試験管の中に汚れがあると、実験に差し支えるから、洗っておくのだ。しかし、こんなことは前に実験をした生徒が清潔にしておくべき問題なのだが。

 ちなみに、その前の実験に使った生徒達が試験管を洗おうとした時、校舎にやたら背の高い瞳孔開きっぱなしの女の不審者2名が侵入し、全校避難した時に片づけがうやむやになってしまったということなのだ。
 その話になると、文蔵も誠一も千草も目をそらすが、何故かは訊かないことにする。
 もう、根ほり葉ほり訊き合わなきゃならない間柄でもない、ってやつだから。


 大人に人魚を飼ってるのがバレて、三日経った。
 市役所に、こういうことを専門にしている人がいると訊いて意見を訊こうとなったのは、いつだったか。
 試しに電話してみると、何だか後ろが騒がしい。
 ゴリラの声とか、なんか聞いたことのない「かぱぱ」という鳴き声がしたが、まあ気にするまい。
 そうして倉庫に現れたのは、ちょっとすごく地味だけれど、いかにも役人って感じの賢そうな人(名札には津根太郎と書いてあった)とイケメンだけれど、ちょっと頭悪そうな顔をした職員(紙屋町友礼と名札にあった。どう読むのだろう)で、宇宙人魚を見て最初の感想は「でかっ!」だった。ああ、やっぱり私のリアクションは間違っていなかった。
 それで、宇宙人魚は今『大気』と『重力』と『摩擦抵抗』と心をつないで、なんとか宇宙空間に脱出する相談をしていると説明を受けた。
 その時、スペースシャトル並の衝撃を生み出すはずだから、どこか自分が射出されても影響のない土地に移動させて欲しい。との要望に、どうやら心当たりのある津根は「ダンプと水槽を用意してくる」と言って倉庫から出て行った。やっぱり大人に相談してよかったと思っていた左子と文蔵と誠一に、「じゃあ暇だしUNOでもやろうか」と懐からカードゲームを取り出す紙屋町に、大人にも色々いるんだなあ、と思うのだった。

 ゲーム自体は、カードと心をつなげることのできる宇宙人魚がドロー24とか言うカードを合成して、大逆転勝利をした。

 一時間くらいした頃だろうか。


 外からダンプの音がしたので、津根が帰ったのだと思った紙屋町は扉を開けた。


 外に駐車してあったのは、装甲車と軍用ジープだった。


 ???


 突然、紙屋町はぶん殴られて倉庫の中に倒れこんだ。

 左子の悲鳴。

 鼻血を出して動かなくなる紙屋町。あんまり、荒事は得意でないらしかった。

「ちょ! 刹那ちゃん! なんでいきなりぶん殴るの! てか、紙屋町さんに会うたびにぶん殴ってるよね、何なの? 親の仇なの?!」
「うーん、あいつ生理的に駄目なのよね」

 そんな会話が聞こえた後、迷彩服の女性が二人、入ってきた。

 何が、起きた?!

 とかくよくないことが起きているのはわかる。
 何者だ、この正体不明の女達は一体……。
「姉ちゃん」
 文蔵が、刹那を見てつぶやいた。
「千代ねーちゃん……」
 誠一が、千代を見て言葉をもらした。
 もろ、知人だった。


19 :akiyuki :2012/09/18(火) 23:21:32 ID:tDVcxmsFtG

女郎屋敷小夜子がその現場に居合わせなかった理由


 出張から帰ってきた伊藤草月(いとうそうげつ)が、三日ぶりに尋ねた異界平衡係は、なんだか悲惨なことになっていた。


「びぇぇぇぇん」

 27歳、身長195cmの同期生が、鼻水たらして泣いていた。

 その反対、部屋の隅っこではゴリラと河童が正座して落ち込んでいた。

 ただ一人、メイドロボが部屋の片づけをしており、草月の入室に気付く。

「オカエリナサイマセ、ソウゲツサマ」
「リオン、これはどういうことだ?」
「ジエイタイコウホウカのショウジョウジサマニ、『ゲツエイショウジンチョウ』ヲウバワレマシタ


 いつもなら怒鳴り散らすところなのだが、すでに大泣きしている小夜子に今更詰問しても意味がない。それくらいの理解はある大人である。

「で、だ。あのゴリラ共はなんで座ってるんだ?」
「ハンセイチュウデス」
「津根と紙屋町は?」
「ゲンバデス。アイテヨリモサキニゲンチノシュドウケンヲニギルタメ、デバリマシタ」
「そうか……。で、あの女はなんで泣いてるんだ?」
「ナグサメテアゲテクダサイ」
 それで話を切られてしまった。

 仕方がないので、全く泣きやむ様子のない小夜子に近づいてみる。
「女郎屋敷係長? 何があった?」
「びぇぇぇぇぇん」
「そんな泣くなよ」
「ぐすっ。そうげつぅ……。ごべんねぇ」
「どうした。招神帳を証城寺達に持ってかれたんだって? 取り返す算段は十分にあるから安心しろ。あれは一応内の財産だ。抗議は通るよ。通すための平行協定だ」
「ごべんねぇ、役立たずで……ごべっ」
 そこで、友人の異状に思い至る。
「……あいつらに何か言われたのか」
 うつむいて、頭を振る。

「リオン、あいつらは小夜子に何を言った」
「リオン、言わないでっ!」

 デルタリオンは二人を見渡し。
「サヨコサマハ、キゼントシタタイオウヲナサレマシタ。チョウハツサレテモ、バトウサレテモ、ブジョクサレテモ、ケッシテ」
「それ以上は言わなくていい」

 伊藤草月は、そこで、自分の執務室へと去って行った。


 五分後、市役所玄関。

「草月! 駄目だよ」
「大丈夫だよ、ちょっと抗議してくるだけだから」

 暴走族時代の特攻服に身を包み使い込んだ金属バットを持った草月と、それにしがみついて必死に止める小夜子の姿があった。

「ちょっと、私が何言われても我慢したのになんであんたがカチコム気満々なんだよ。そこはクールに抗議文書とか作ってよ!」
「うるさい、仲間泣かされて放っておけるか!」
「草月そんなキャラじゃないでしょ!」
「俺は元々こーいう奴だ! お前らが想定外の非常識だから役人ぶってるだけだ! いいから証城寺刹那の糞野郎を殴らせろ!」


 こんなやりとりをしていたせいか、結局現場にはたどり着けなかった。

 ちなみに、庁者にダンプを取りに来た津根太郎は、この光景を見たが、巻き込まれると面倒なことになると思い、スルーした。


20 :akiyuki :2012/09/22(土) 22:42:04 ID:tDVcxmsDPJ

もののけ三銃士・結局は無力な三人と一人


 結局は簡単な話であった。

 月本町で起きる別の世界から来た者は、月本市役所とそこに臨時職員として雇用されている異界の化け物達の手によって、元の世界に帰らされる。
 それが平行協定であり、それを執行するのが電話したら来てくれた津根と紙屋町達、異界平衡係なのだ。(本当はエース格がもう一人いるらしいのだが、今回は切り札が出てくる程の事件ではなかったらしい。ということは、先日起きた死んだ人が骸骨の姿でよみがえるという事件の時にも出ていたのだろうか?)


 全てが終わった後、文蔵が教えてくれた。うみねこ町には、非公式に陸上自衛隊の駐屯地があるという。その任務は、月よりも外側から来る宇宙生物の魔の手から、地球を守ること。
 なんでうみねこ町なのかと思ったが、今から何年か前。4つの市町村が合併して月本市となった時に前後して、この世界と外宇宙をつなぐ門が開いてしまったのだと言う。
 当時は秘密裏に世界は破滅を迎えていたのだが、そういうことを専門にしている家系があり、彼らの努力と犠牲によって、その門は固く封印されたという。
 文蔵から教えてもらったその一族は、左子でも知ってるくらいのうみねこ町の名家であった。
 そして、門を開けたのが、今の月本市の市長の関係者であるらしく、国からの圧力もあり、有事の際に派遣できるよう、人ならざる力を持った異能者を集めた部隊が作られたのだとか。
 先日廃倉庫に現れた二人組の女性は、その一味であり、彼らの頭目は、文蔵の姉、証城寺刹那であるのだとか。
「僕も高校を卒業したら、強制的に入隊させられるそうです」
 と、他人事のように言っていた。何か、特別な力を持っているわけでもないのですが、と困ったように頭をかいていた。



 宇宙人魚は、かつて山村があったが(表向きは)山火事により焼失してしまった鬼郷町の小さな部落跡地にて、打ち上げが決まった。

 危険因子とみなす彼女そのものが宇宙に帰りたがっているのなら、無理やり戦闘に持っていく名分もなく、刹那と千代も引き下がるしかなかった。
 少年少女達は洗脳されているのではないか? 危険な病原菌等をうつされていないか? など懸念事項はたくさんあったが、一秒でも早く地球圏から彼女を飛ばすことが重要であるらしく、左子とほか三名は後からわらわら来た迷彩服に自動小銃といういかにも軍人っぽい自衛隊の皆さまに『保護』されて、宇宙人魚だけが水槽に入れられて山の中に消えていった。

  そうして、その日の夜の内には、全てに決着がつくことになるのであった。
 最後まで見送りたいと希望したが、駄目だと言われた。
 そして、刹那達と市役所の人間が合同で彼女を見送るために山へと行き、左子達はなんか知らない小奇麗なビルの待合室に連行された。どうやら表向き見た目はただの貸しビルだが、その正体は刹那達の勢力のアジトの一つであり、精密検査を行う施設であるとのことだった。
 暴れたり、反抗的な人間を閉じ込める機能があるのだという。
 そこまで信用ないのだろうか。

「化物とは、接触すること自体がまずいんです」
 というのが、文蔵の説明である。
「イデアの圏族がキュキの重力に影響されて地球に墜ちてくるように、僕達人間も、イデアの圏族の力に触れることで、影響を受ける場合があるんです。俺達、宇宙生物と心をつないで会話しちゃったでしょ?」
「健康被害が出るの?」
「まさか。ただね、大人が恐れているのは、僕たちがイデアの力を手に入れてしまうんじゃないかってことですよ。特に、まだ変質しやすい子供の精神が化物と心をつないだ経験から、どのようになるか、とか」
「もしかして、私達もあの人魚さんみたいなことができるようになっちゃうかもってこと?」
「ええ、まあ」
 ちょっと歯切れが悪かった。そして、短い付き合いながらも左子にもわかったことがある。
 隠し事がある時、文蔵は頭の後ろを掻き毟る癖がある。
「じー」
「……」
「じー」
「……。僕はそういうのの影響受けない体質なんです。昔、これと同じようなことがあった時に検査してわかってるんです。あと、誠一と鍋島は実はすでにそういうのの影響受けてるんで耐性があるんです。おそらく、今回のような大した接触がなかった案件では、異常なしです」
「へえ」

 思考。

「あれ? 私は?」
「左先輩は、もろですね」
「もろですか」
「はい、一番お喋りしてましたからね」
「……。まじですか」
「まじです」
 
 思考。

「もしかして、私やばい?」
「あ、それはやばくないです。できれば、先輩には影響受けてほしかったので」
 意図がわからなかった。


 そこで、文蔵は核心を口にすることにした。
「半年くらい前に、門が大きく開いちゃったんです。たぶん、これからもののけ町にはこういうことがたくさん起きます。今回は普通にジュブナイルしましたけれど、生死にかかわることもあるかもしれないし、どうしようもない悪影響を受けることもあるかもしれない。だから、先輩には比較的安全な今回の事件に参加して欲しかったんです。少しでも耐性をつけてもらって、もし僕達以外のこういうこととと出会った時のこととかを考える準備をしてもらうこと。それが狙いだったんです」

 開いた口がふさがらない。
 そんなことを、考えていたのか。

 文蔵は、窓の外を見やる。

「破壊前線がうみねこ町に到達するのも、もうすぐですから」



 なんかすごいことになってきた。
 でも。左子にはもっと大事なことが残っていた。


「証城寺君。それもそれで大事だと思うけれど。もっと大事なことがあるの」
「?」
「鍋島さんのこと。鍋島さん、一人で思い悩んで自衛隊に相談しちゃったでしょ? 迷ったんだと思う。すごく、辛そうな顔してたよ。だから、今まで通りは無理かもしれないけれど、問い詰めたりしないであげようよ」

 文蔵は、呆けた顔をしていたが、思い直して、そして優しい顔に戻して、言った。

「……。そうですね、そっちの方が大事なことでした。僕もまだまだ。大丈夫です。今まで通りです。その、何と言うか、鍋島は、勝手に正しいことをしただけで、僕らを裏切ってないですからね」
「うん。証城寺君や伏見君はそうだと思う。でも、鍋島さんはやっぱり引きずるよ」
「そうなんですか?」
「うん、見てたらわかるよ」
「……」
 びっくりするくらい、真面目な顔をした。
「どうしたら、いいですか?」

 ……どうしたらいいのだろう。宇宙人魚なら、なんて答えるのだろう。

「お話したらいいと思うよ。私達は、人魚さんみたいに心を伝えたりできないんだから。だから、ちゃんと言葉にしよう。言葉を聞いてあげよう」

「左先輩。僕は、左先輩に会えてよかったと思います」

 そんな真正面から褒められるとは思っていなくて、なんだか気恥ずかしかった。

 そして、そんな二人を向かいの席から見詰めている誠一に気づいて、さらに赤面した。


 窓の外には、綺麗な月が出ていた。

 もう、そんな時間か。


 宇宙人魚は、無事に山に着いたのか? 無事に旅立つことはできたのか。

 その時、

 待合室の、ドアの開く音。

 白衣の女性に連れられて、検査の終わった千草が入ってきた。

 三人の視線が注がれても、目をそむけている。


 さて、だれから何を言葉にしようか。

 静寂があって、何秒か後。



 空が揺れた。


 とてつもなく、巨大な力。


 爆音がした。


 皆が窓の外。音のした方向を見やる。


 鬼郷町がある、方角。山の麓。何か大きな影が、空に昇っていくのが肉眼で見えた。


 いや、あの山の麓まで、何キロメートルあると思っている。
 
 その距離であの大きさ。


 それが、空に向かって飛んでゆく。

 音がしたであろう辺りからは粉じんが上がっているのが見える。


 つまり、なら、今の影は、あそこから打ち上げられたということか。ならつまり。


 左子の感想。
「人魚さん、本当はあんなに大きかったんだ」

 文蔵の感想。
「あんなものを街中で打ちだしたら、そりゃ危険ですよね」

 誠一の感想。
「あれほどの力を、宇宙の連中は簡単に引き出せるのか…」

 千草の感想。
「ちゃんと、謝れなかったなあ……」



 大きな影は、月の光に照らされて、そして、月に向かって昇っていく。


 唐突に


『そういえば、私の名前も言ってなかった!』


 うみねこ町の住人、すべての頭蓋骨の内側に、その『声』は響いた。

『美しい星に住む、美しい人。あなたに助けられた私は、私の名前は』

 息を飲んで、待つ。

『カンテラ・ラブクルセイダース』


 左子の感想
『カンテラって、なんだか男の子っぽい名前だね』
 
 文蔵の感想
『ラブクルセイダースって、『アレ』のことだよなあ。だったら、もしかしてまずったかな』

 誠一の感想
『格好いい名前だな』

 千草の感想
『……。呼ばなくて正解だったかな』


 御大層な前振りだったにも、関わらず、彼らと彼女らのあずかり知らぬところで自体はすすみ、物語は、あっけなく終わってしまった。



 鬼郷村跡地では射出の際にでた土煙に飛ばされ埋もれた紙屋町友礼を捜索するえぴどーど等もあったが、割愛とさせていただく。

 


21 :akiyuki :2012/09/23(日) 00:51:15 ID:tDVcxmsDPJ

もののけ三銃士・時系列的には最後の会話


 試験管もすべて洗い終わり、一時間ほどお喋りをして、左子と文蔵は解散の運びとなった。

 誠一と千草は今日は来れない日であった。

 しかし、ついに明日は誰も用事のない日であり、顧問の先生も来れるという。

 ついに、全員が集まる日が来た。

 そう考えると、もしかしたらこの騒動はちょうどよいタイミングであったのかもしれない。

 左子達が、お互いのことをそれなりに分かりあう機会としては。




 明日が楽しみだが、証城寺文蔵は家路の途中ため息をついた。

 不安が二つあった。

 一つは、明日化学の小テストである。5点以下では再テストの復習プリントを、4月から全て再テストになっている。明日もなりそうである。
 真面目にやってはいるのだ。
 生物と地学のテストは満点を取れている。

 なんでだろう。
 帰ったら復習しようと心に決めた。
 しかし、できるだろうか。そんな時間があるのかどうか……。


 もう一つの不安。それは。

 寮住まいである姉の刹那が、久しぶりに非番で家に帰ってくる日なのだ。
 
 さて、何を言われるのやら。


 古くから月本市に建つ木造屋敷が、証城寺家である。
 月本コンバーティング取締役は、それなりのステータスなのだろう。
 玄関の引き戸に手をかけ、いつものようにただいまと声を出す。すると、お手伝いさんではなく、着物に割烹着姿の刹那がとたとたと出てきた。
「文、御帰りなさい」
「……た、ただいま」
 まるで夫婦のように文蔵の鞄を取り、夕飯か風呂かと訊いてくる。
「姉ちゃん、どうしたの?」
「私いつも着物でしょ? 父さんも母さんも出かけているから、今日は久しぶりにお姉ちゃんがご飯作ってあげるね」
「姉ちゃん、僕も大概なところあるけれど、一応言っておくね」
 部屋まで着いてきた刹那に脱いだ学ランを渡しながら
「あの、ついこの前まで対立してたと思うんだけれど、いいの?」
「ああ、それ? 私、公私は分ける方だから。今はただのブラコン独身女よ」
「……、まあ姉ちゃんがそれでいいなら、僕もいいけれど」



 姉の作ってくれた食事は、品数が多い癖に、一々手間をかけた、随分と愛情の籠った料理であった。
 見た目通りの大食漢である文蔵と、意外と健啖家の刹那の二人の食卓は、あっさりと全て平らげた。
 御櫃を空にしてごちそうさまをして、お茶を飲んでいる最中に、刹那が、質問した。

「文、一つだけ教えて」
「二つでも三つでも」
「何故、最初の時に、あれを無視しなかったの?」
「……助けてって言われちゃったから」
「それ以前に、あれに近付かないって選択支もあったでしょう? この世ならざる者と出会うのも初めてでなし。情が湧く前に切り捨てる判断は、あったはず。見ず知らずの宇宙生物と、友達二人の安全だったら、前者を切り捨てる。それは、あなたの許容範囲だったはずよ」
「……そうだね。異界と触れる時は、中途半端な手助けはしない。ばっさり切り捨てるか、全力で守るか。本当の一番最初に、どちらかを選ぶ。うん、姉ちゃんの教えてくれた気構えだもの」
「なのに、どうして危険をおかしたの? 怒ってるんじゃないの? ただ、今までの文なら多分、選ばなかった選択だから、どうしてかな? って」
「うん……」

 一度視線を下に落としてから、考えを整理して。

「多分、先輩と話したからだと思う。僕に、ありがとうって言ってくれたから。1人でどうしようもない時に、声をかけただけなのに、それを、本当に大事そうにありがとうって、さ。だから、もしあの時に切り捨てるって判断をしたら……、先輩がっかりしちゃうんじゃないかって……」

 今度は、刹那がため息をつく番であった。

「博愛主義の塊に、気になる異性ができることを、お姉ちゃん喜んでいいのか、さみしく思うべきなのか」


「先輩は、そんなのじゃないよ」

 文蔵は、頭の後ろを掻きむしりながら、そう答えた。


「ところでなんで先輩って言葉だけで島先輩のことだってわかんの?」
「そりゃ、弟の身辺調査くらい済ませてるわよ」
「姉ちゃんそんなキャラだっけ?!」


22 :akiyuki :2012/09/24(月) 01:21:52 ID:onQHQJocrk

かんてらっ! ep38より 最後のシーン


 後部座席でうなだれていたと思ったら、突然飛び起きて

「それじゃあさ、私たちのチーム名決めないとね」

 少女の提案に、あきれ果てるタカシ。運転席からバックミラーで彼女を見やると、さっきまでの森林での夜叉のような貌はどこへやら、年頃の女の子の顔で、楽しそうに笑っている。
 その顔を見ただけで、自分の判断は間違っていなかったと思う。これから先、委員会を敵に回して、彼女とその隣で少女を支える同僚を守っていくのも、悪くない。
「お前、そんなの別にどうでもいいだろう。といより、不知火と雲竜の後を継ぐのなら芙蓉会でいいんじゃないのか?」
 すると、頬を膨らませて怒り出す。
「やだよ、あんなおしとやかなお茶飲みサークルみたいな名前。私達はアグレッシブに攻めてくんだから」
「お前、アグレッシブの意味わかってるんだろうな」
「でね、一つ決めてる名前があるんだ!」
「人の話聞かないのな。ユウスケ、お前は何かいいアイデアあるか?」
 少女の肩を支えていたユウスケは、
「うーん、思いつかないよ。そもそも僕達3人だけだし」
「わかってないなーユウスケ君は。こういうのは形から入ればいいんだよ」
「そうなんだ。流石、ヨリちゃんだね」
 割って入る。
「一応、ユウスケはお前より10年上だからな」

「ぱんぱかぱーん、では発表します。新生ぐらり能力者を相互扶助を目的とした会。その名も」

「ラブクルセイダース!」



 ハンドルを、操作し損ねた。

「うあっわ! ちょっとタカシ君、何してんの!危ない危ない」

「……お前、俺達もその怪しげな軍団名を名乗れと言うのか」

「そだよ、素敵な名前じゃん! 私、昔この名前が空に響いた時から、いつか使ってやろうって思ってたんだ!」


「ああ、いぬがみ部隊が対応した例のあれだな」

「私達3人にぴったりだと思わない?!」

「どこら辺がだよ。見ろよ、ユウスケも未だかつてない困った顔してるぞ」

「えー、ユウスケ君は気に入らない?!」

 冷や汗をかいていた。

「い、いや。僕はヨリちゃんの目指すものを共に目指すと決めたんだ…、う、うん。ラブクルセイダースね……。いいよ、世界一のラブクルセイダースにしてやろうよ」

「ユウスケ、声震えてるぞ」

「ほらー、賛成二 反対一 過半数を取ったので可決されました!」

 タカシは、前を向いた。

 さて、はたしてこの決断はよかったのだろうか。

 帰って妻に何と報告しよう。

 勤め先に喧嘩を売って、捕獲対象者を連れて帰りました。

 日本国政府を相手どり、今日からラブクルセイダースとして粉骨砕身励むつもりですと答えたらいいのだろうか。

 妻なら、笑い転げた後に、大真面目に夫にならってテロリストになりかねない。

「ヨリ、具体的にどんな活動をするつもりだ。少なくとも俺はテロは許さんぞ」

「わかってるよ。まずは、日本中を回ってみようと思う。私みたいに、捕獲対象になってる『ぐらり』能力者とか、他の異能を持った子達に会って回る。そして、味方はいるんだよ! って伝えて回るんだ。ユウスケ君とタカシ君が私にしてくれたみたいに。皆、孤独だから暴走するんだよ。一人じゃないってわかれば、行動も穏やかになるし、国の奴らも、無理矢理保護する以外の方法を考えてくれるようになるんじゃないかな」

 くそう、本当にラブクルセイダースじゃねえか。


 あほらしいと思いながらも、どこか、わくわくし出している自分に気付いて、タカシは頭痛がしだすのだった。

「でもとりあえず、お腹空いた! ごはん!」

 暴君の要望に、とりあえずコンビニによることになるのだった。


 ああ、未成年超能力者を補導するだけの楽な仕事だと思っていたのに。
 これでは、宇宙生物を撃退する仕事にすればよかった。

 陸上自衛隊 第虚数駐屯地 メルヴィッツ生体波動放射体対応班は、こうして月食夜理(げっしょくより)に懐柔されて、裏切り者と呼ばれるようになってしまった。


 


23 :akiyuki :2012/09/28(金) 23:08:03 ID:P7PitFPHWG

平成29年度 平行協定行政代執行第13号 【きりん】 調整会議1回目


 かつて、月本市で『××××』がこじ開けた三つの門
 
 既知の異界『神話領域』
 未知の大海『可能性郷』
 禁断の教会『ア・イデアの晩餐会』

 壮大な自殺のために開かれた門の向こう、どこかの世界に、『××××』は消えていき、後には、社会経済に悪影響を及ぼしかねない、異世界の生物と魔術が流入してくる通路だけが残された。

 誰かが言った。
 この町からあふれ出すこの世ならざるものは、この町の人間が始末をつけねばならない。

 誰かが答えた。
 仲間を集めよう。異界の向こう側にも、俺達と同じように、この門を閉じたい奴らがいるはずだ。

 お互いに、それぞれの世界を守るための協定を結ぶのだ。


 影響を排除するために
 門より逃げ出した彼女を連れ返すために。
 門を閉ざし、この狂乱をなかったことにするために

 あるべきものを
 あるべき場所に
 あるべき形で


 そのために、平行協定は締結された。


 そして、結んだ証は。すべての異界を行き来する、災いの枝の傷は。

 一人の無関係な少女に刻まれた。

 そしてその子は、月本市役所の採用試験を受けていた。






 某日。月本市役所大会議室に、平行協定に関わる全ての存在が招集された。


月本市 副市長
 紙屋町 厚志

同市 財務部長
 中村 貞二

同市 建設部長
 小林 文則

同市 秘書室室長
 藤原 藤太

同市 秘書室
 伊藤 草月

同市 総務部 総務課 文書係
 北野 努

同市 秘書室付 異界平衡係
 津根 太郎
 紙屋町 友礼

陸上自衛隊 第虚数駐屯地 異界災害対応係(いぬがみ部隊)
 証城寺 刹那 一尉
 蓑火 千代 士長

同神話領域 初動対応班(あかおに部隊)
 氏名非公開

同神話領域 戦闘対応班(くろおに部隊)
 氏名非公開
 氏名非公開
 氏名非公開
 臨時任官  新宮 こより

同ファインドランダム交渉班(つきもと部隊)
 臨時任官  月本 健

メルヴィッツ生命波動放射体対応班(おにきり部隊)
 所在不明のため欠席

一号異界【剣】駐在官
 王立騎士団派遣武官 三号騎士 フレイムロード・グランドレイス卿

二号異界【地獄】駐在官
 吸魂・恋織・シャッタード

三号異界【竜】駐在官
 グーガガ・ムンゲン・メロディア王

四号異界【進化】駐在官
 ゴリラ

五号異界【幻想】駐在官
 妖精利益交渉役 ソフィ・フェアリ

所属不明
 月本市嘱託夢幻人形 デルタリオン

妖怪公社
 河童代表 河童

うみねこ高校
 災害生存者 島 左子


 人も、人でないものも、そのすべてが。

 現有戦力と呼べる全てが招集されていた。



 
 月本市を半壊させた、正体不明の怪物に対応するための協議会である。

 肝心の、女郎屋敷小夜子の姿は、そこにはない。

 


 招集命令をガン無視して、被害を抑えるために単身怪物に飛びかかった彼女は、とっくに病院送りにされていたからである。


 本当は今すぐにでも病院に駆けつけたい気持ちを抑えながら、伊藤草月は「まあ、勝手に死なれなかっただけましか」と冷たく言い放ち、これからの対応を頭に描いていた。


 


24 :akiyuki :2012/10/04(木) 01:18:56 ID:tDVcxmscLF

暗転、暗転に次ぐ暗転


 ここで、物語は一度過去へと飛ぶ。

 
 ア・イデアの晩餐会は、そこに係る物語の時間軸はすべて同時に存在している。

 人を守る道を選んだ化物と、人の絶滅を望んだ化物の一騎打ち。後者の勝利により一度崩壊した世界を救うため、過去に飛んだ月影次郎が『月影招神帳』を執筆する物語。

 平行世界、神代の国から現れる異形を元の場所に帰すため、戦う災いの枝の娘の話も。

 はるか未来より飛来した7体の想像甲冑(ロボット)と少年たちの物語も。

 奇妙な運命を抱え込んだ三人の男女と、彼らを救うチビ・メガネ・三つ編みと三拍子揃った少女の青春も。

 月よりも外側の宇宙から飛来する者たちのお茶会も。

 はるか彼方より、邪神と女神の戦線に巻き込まれる月本一族の伝説も。

 あってもなくても誰も困らないよな、しょぼい超能力舎達の馬鹿騒ぎも。

 この世にあまた存在する死者蘇生の法をすべてなかったことにするため暗躍する死神も。


 
 全ては、同じ仮想平成29年を起点としている。

 時空がねじれ、何度も同じ時間を繰り返す彼らの物語。

 それらを総称して、うみねこ町破壊前線と呼ぶ。


 その中で、ただ一つだけ。過去の物語が存在する。


 それを我々は【ダンドリアン】と呼称する。

 

                          ジューショ・クア・キュキ


25 :akiyuki :2012/10/17(水) 22:29:16 ID:onQHQJoFmL

かんてらっ! ep1

 とかく、仮想平成24年現在、「魔法」という言葉の定義は「生物の体外に放出されたメルヴィッツ生体波動による干渉」であり、「魔法使い」とは「メルヴィッツ生体波動を体外に放出する個体」のことであった。
 なら、「メルヴィッツ生体波動」とはなんぞやとなるのだが、これについては回答が未だ得られていない。

 意思の力であると言う。

 魂があることの証明だとも言う。

 そんなものはない、と答える人もいる。


 ただ、どうやら昔からそれなりに数はいたらしい。

 そんな中、公に自らを魔法使いであると自称し、初めて公に証明してみせた、最初の魔法使い、メルヴィッツ。彼女の遺体を解剖した結果、得られた唯つの結果。

 人とは違う、微量ながら非常に強力なエネルギーではない何か。
 

 そこに回答が出ないまま、ただ強大な力を持った魔法使いが生まれ続けた。

 ただ願うだけでありとあらゆる願望をかなえる彼と彼女達を。


 人類は許しておけなくて。



 現存した250人の魔法使いすべてが見つけ出され、秘密裏に殺された。




 仮想平成29年。


 魔法使いだとはばれないような、しょぼい能力しか持っていない魔法使いだけが生き残り、その微力をひた隠しに生きている。



 人をほんの少しだけ、安心させるという魔法を使う、高町少年もその1人であった。


26 :akiyuki :2012/12/24(月) 00:31:02 ID:P7PitFPJQi

平行協定行政代執行第13号 【きりん】 調整会議1回目

 組織が内包する矛盾。


 上の人間は何もわかっていない。

 という思いは、『下』の人間が常に味わう苦しみの一つである。

 現場のジレンマを考えない、政治的介入。それまでの過程を無視した、原則回帰命令。

 それが、今、目の前にある危機に対処するのに役に立つというのか。

 その思いを押し殺して、前線に立つ彼らは闘っている。



 下の人間は何もわかろうとしない。

 そんな思いを、『上』の人間は内に秘めているものである。

 組織という根拠があるからこそ使用できる財力と権力。限りある力を、公平に効率的に振り分ける決断。

 決断するという非常に大きなストレス。成功することを前提とした行動しか取ることを許されない立場。

 そんなものは言いふらすものではないから、彼らは何も言わない。



「北野君、上野はどうした?」
 中村財務部長は、眼鏡の奥の瞳を光らせ、北野係長を睨みつけた。この会議に出席するはずの上野総務部長の欠席をとがめている。
 本人としては、特に眼光鋭くしているわけではないが、痩せ型で立派な白髪と白ひげのいつも眉間に皺を寄せている彼の視線は、常に睨んでいるように見える。
 つい二年前まで、財務部財務係にて辣腕を奮い、予算削減を進めていた北野係長は、それを十分に理解しているため、少しも臆することなく応えた。
「部長は災害対策本室長を兼任しておりますから、現在対策本部で情報整理中です。それに、この会議における総務の役割は今異界災害において、平行協定が職員服務規定と特別災害対策条例内部規定に抵触しないかの確認のはずです。部長より今会議のメンバーの合議で判断しろとの指示を受けておりますので、問題ありません」 
 想定していた質問なのか、よどみなく回答した。
「あほか、その災害対策本部の意見を聴く必要があるんだろう。文面に抵触しないことなんて、ここにいる全員がわかっとる。第5条に『市長が必要と認めた場合には様式乙による行政代執行を行う』なんて反則を盛りこませたのもこういう有無を言わせぬ事態に対応するためだろうが」
「そういや、上野部長が反対したのに、お前は無理やりねじ込んだんだよな」
 小林建設部長が熱くなりすぎてる元同級生に横から口を挟んだ。
「いいじゃねえか、上野は避難民の収容施設の割り振りで忙しいんだ。後で報告だけしとけばいいさ、どうせ俺たち部長の考えは一緒だ」
 恰幅のいい、見た目公務員には見えないいかつい壮年が、議事進行の立ち位置に陣取る伊藤草月に視線をやった。
「さあ、草月君。さっさと進めようぜ」
 いつになくエネルギッシュなやりとりをする上層部に話をふられ、『こいつらどんだけトラブルに生き生きしてるんだよ』と思いながらも、さっさと話を進めることにした。
「あ、はい。それでは、平行協定行政代執行第13号 【きりん】 対策会議を始めます。津根主任、現状の報告をお願いします」

 指名された、平衡係の津根太郎は、現状を、わかる限り簡潔に説明した。

 幻想生物や妖怪変化など、この世ならざる生物を呼び出す第一門『神話領域』より出現した謎の小瓶。パラレルワールドから、別の可能性としてあった文明や異能力の遺産を漂流させる第二門『可能性郷』から漂ってきた記録媒体。月よりも遠い宇宙ア・イデアの領域と地球をつなぐ『ア・イデアの晩餐会』から降り注いだ宇宙線。
 その全ての影響をうけたある化学薬品が、意思を持ち暴れだしたのが今回の事件の発端である。
 陸上自衛隊虚数駐屯地の対策班が初動対応に出たが、有無を言わさぬ凶暴性で、部隊は瞬間に壊滅し、現場のうみねこ高校は瞬間に爆発した。
 なんとか避難がまにあい、生徒達は逃げ出したが、化学部室にいた三人の化学部員の男女が、一人の女子生徒を庇い、重症を負った。
 現地付近にかけつけた女郎屋敷小夜子係長が、無許可で平衡協定を様式甲【災いの枝】による執行を行うが、効果なし。そのまま自身の体を爆発させられて、病院に搬送。意識を失う前に様式丙【駐在官召喚】を無許可執行。恋織・シャッタード駐在官による時空間操作によって、現在異空間に拘束中。
 月影招神帳の検索により、4つの大災厄の1番目【きりん】であることが確認されている。

「あれの正体は『燐』です。19世紀に燃焼促進剤に使われていた、黄リンという不安定な物質に、意思と外格形成能、分子結合操作能が結びついて、流動生物として転生した姿、ちょっとした刺激で燃焼爆発するし、すぐに散って、広範囲にただよい周辺を一気に破壊燃焼させています。さらに、単為生殖を可能とし、一時間で34倍に増殖します。威力も、尋常でない燃焼能力を持っており、近接戦闘は不可能です。何しろ、女郎屋敷係長が、ガチンコで負けてますから」

 そこまで、黙って話を聞いていた黒い甲冑に身を包んだ騎士が、中身とのギャップを感じさせる、さわやかな声で問う。
「サヨコの場合は相性の問題もあるだろう。様式甲ってことは、あいつ獣の右手と茨の左手と妖精の眼で闘ったんだろ? 物理タイプのわざしかないのに、不安定な火薬に手突っ込んだら、そりゃ、大やけどだ。俺の魔王の剣や、竜の旦那の火吹きで一気にせん滅するべきだったんだ。こんな地獄娘じゃなくて」 
 隣に座っていた、妙に気合いの入ったメイクのゴスロリ娘が、じろりと隣の騎士をにらみつける。
「話聞いていなかったのこのアホは? ですわ。衝撃与えたら爆発するんだから、一撃で破壊しきっても、その余波の全てがこの町に被害をもたらすってことが問題なんでしょうが、ですわ。私も時を止めている間は破壊ができない以上、攻撃する時には、奴の時間を動かさねばならない。制止した時の中で動けるのは、茨を解放した小夜子様だけ、けれど、小夜子様もあの爆発には耐えられなかった。正直、駐在官の異能レベルの問題では、もうないのですわ。むしろ……。私どもの能力で倒せないように狙って作られたような意図さえ感じさせられるのですわ」
 地獄から出向している娘の発言に、場がざわめく。
「なら、あれは誰かが意図して起こした異界災害だと言うのか?!」
 草月の眼が恐ろしい色をしだす。

 誰かの悪意のせいで、小夜子は傷ついたというのか?!

「話がずれてますわ、議事?」
 ブチ切れそうになる進行役に、ちゃちゃが入る。
 陸上自衛隊の、証城寺刹那一尉である。眼の下が真っ黒だが、これはメイクでなく、完全な無睡眠のせいである。
「今考えるべきは、あれへの対策。だれがやっただの、誰がやられただのと言ってる場合ではないでしょう? 犠牲は、もう出ているのだから」
「黙れよ、てめえらが情報流さずに自分達だけで処理しようとして、あげくに失敗しやがったせいで、こっちは対応遅れたんだろうが」
「役人風情がナマ言ってんじゃねえよ、災害起きても、毎回毎回小娘一人派遣するしか能がない玉無し揃いが」
 刹那も、もう余裕がない。
「こちとら眼に入れても痛くないかわいい弟を怪我させられてんだ、本当なら熱核ミサイルの2、3発撃ち込んだっていいところを、こらえて出席してやってんだろうが、さっさと話を続けろ」
 刹那の隣では赤鬼の角が生えた千代があたふたし、草月の脇では、紙屋町主査と河童が口に手をあててあわわわしていた。
 その口論を、年長者達が渋い顔で見つめ、ゴリラはやっぱり携帯をいじっていた。

 らちが開かない。

 草月も刹那も激情の性格であることを思い出していた中村財務部長が仕切ろうかと考えた時、


「平行協定 施行令112条 および施行細則33条の規定を満たしているな」


 紙屋町厚志副市長の声が、会議室内に響いた。

 そして、その後のざわめき。

「副市長、それは!」
 伊藤草月や、北野係長が制止する。

 施行令112条 および施行細則33条

 それが意味するものは、月本市外での、平行協定の執行を認め、事態解決までの間、行政代執行手続きの省略を意味する。

 本来、3つの課に決裁を回し、市長、副市長の許可を経て初めて執行される行政代執行を、無限に行っていい。駐在官は、その異能を月本市外でも全力で行っていい。
 自らを縛る制約をすべて取り払い、文字通りの総力戦を行い、それによって出た被害、補償に関しては、月本市が責任を持つ。

 法治国家としての在り方を無視した、日本国憲法に宣誓したものとしてやってはいけないことを、平行協定締結時に、すでに考えていたのである。

「副市長、市長はこのことは?」
 小林建設部長が、少し躊躇したように問いただす。答えたのは、ここまで沈黙を保っていた藤原秘書室長であった。
「すでに、許可はとっています。もちろん口頭でるが、専決処分でなんとかします」
「なんで、市長の許可で発動する命令なのに、市長の事後決裁になるんだよ」
 そこまできたら、小林も苦笑するしかなかった。
「まったく、あの人来期市長選出る気あんのかね? そんなカード切ったら財政破綻しかねーだろ」
 財政破綻という言葉に、耳を動かし反応した中村財務部長は、声を大きくして反論する。
「財政破綻等しない。合併特例債、文化ホール積立、県災害復旧予算、全てこれに回す」
「そうかい、じゃあ公共施設及び道路の被害も、建設部予算だな」

 部長達は、合点がいったのか、ある程度打ち合わせをした後、
 草月達を向いて、口にする。

「今日付から一週間、平行協定執行協議書は、専決処分でいい」
「道路とか、公共施設、好きなだけ壊せ。うちで見る。ただし個人財産の補償はしかねるから……、いや、いい。気にするな。人さえ死ななけりゃ、好きなだけやってしまえ」
「伊藤主任、君は対応終了まで、平衡協定係につけ。君が本来受け持っていた、公民館の避難人数集計は、田所にしてもらうから」
「証城寺一尉、方面隊長と協議を行いたいので、対策本部に合流してもらうように連絡してください」

 気が付いたら親爺連中のペースに乗せられた刹那や草月は、「了」と答えるので精一杯で、自分の仕事のことを考え始めていた。


 同時に、女郎屋敷小夜子の意識が回復したと、病院より連絡がある。


27 :akiyuki :2012/12/31(月) 21:34:09 ID:P7PitFPLrH


< 伊藤草月・女郎屋敷小夜子  入庁1年目の4月 >



 月本市役所 秘書室付 異界平衡係

 今年採用された女郎屋敷小夜子のために創設された、たった一人の部署。

 たった一つ、存在を隠すように別館地下1階の書庫の隣の空き部屋をあてがわれた彼女は、そんな特別な存在であることをかんじさせず、煎餅をかじりながら向かいに座る同期の伊藤草月に質問した。

 幼馴染で、中学が一緒で、高校と大学が別々で、片方は社会人、片方は大学院進学と進路をたがえながら、偶然にも同じ年に、月本市役所の採用試験を受けた二人は、約10年ぶりに向かいあう。

「失礼します。女郎屋敷、お前だけか?」 
「やっほ〜、伊藤久しぶりんこ。この部屋は僕だけだよ。僕の場合、秘書室長が直属の上司になるから」
「そうか、楽でいいな。いや、そうでもないか? 俺が人の話を聞かないことに定評のあるお前に平行協定を仕込まねばならないってことだろ?」
「ちょ、なんて言い草」
「事実なんだから致し方ない。で、俺もすぐに戻らないといけないから本題に入るぞ。まず、仮想平成24年4月6日を以って、一号異界【剣】から十三号異界【月】まで、すべての神話領域と可能性郷との間で、平行協定が締結された。これによって、異界より流入した物・人・異能などにより被害・問題が起きた場合、流出先の異界より召喚した執行官による、対処・回収を行うよう通知する公文書の発行が可能となった」
「……、え? タンマ!」
「……、何か変なところあったか?」
「つまり、異世界からなんか来たら、その世界の人を呼んでなんとかしてもらうってこと?」
「……そうだよ? 平行協定って、そういう文面だろ?」
「私は何すんの?」
「……、だから、市民からの情報提供があったら、委託した調査業者が提出した資料から、協定範囲内かを調査して、通知文書を作成して異世界の平行協定係に送付してよいか決裁所を関係各所に回覧する。で、執行に立ち会って完了報告書を提出して、費用を算定して支払いを済ませる。最初はだいぶん混乱すると思うけれど、頑張れよ」
「……。もっとハードな現場を想像してたんだけれど」
「事務方って、思っている以上に大変だぞ? 税金使って事業をするんだからな、いくら気を使っても使い足りない。って先輩が言ってた。俺も新採だからよくわかってねーけど」
「いや、ほら。僕って左指に埋め込まれてる【災いの枝(レーヴァテイン)】を使って怪獣とか悪霊とかと斬った張ったするんじゃないかと思ってたのよ」
「……。使わせない」
「え〜、なんでさ〜。どう考えたって、私コレのせいかおかげかで採用されたんでしょ。ぶっちゃけ、【剣】のフレイムロード卿とか、【鉄】の重機姫とかと協定結ぶ時だって、学生だったその時の私がガチでやった結果なわけだし、その延長線上で戦力として飼っておこうというのが人情ってもの……」
「戦わせねえ! って言ってんだろ!」
「……、伊藤、大きな声出さないでよ。わかってるよ、もう死にかけたりしないから、迷惑かけたりしないから……。私のために市役所入ってくれたの、台無しにしたりもしないから」
「……お前の体内にある【災いの枝】は、あくまで異世界とこの町をつなぐ媒介だ。異界の協力を仰ぐための手段に過ぎない。そもそもが、戦闘のための力ではないのだから、無理やり戦う方がナンセンスなんだよ」
「うん」
「個人に、つまりお前の責任全部をおっ被せないために、組織として対処するために俺たちは平行協定と作ったんだ。もう、今までみたいに一人でしょいこんで、なんでもしようと思うなよ」
「……うん」
「あと、そのすぐに泣く癖治ってないのかよ」
「仕方ないじゃん……」
「怒鳴って悪かったよ。ただな、もう、市役所職員なんだ。事務屋は命張るのが仕事じゃないってこと、ちゃんと判れよ」
「頑張る」
「頑張れ。で、実際に施行令と施行細則を読んでみて疑問あるか?」
「うーん。まずさあ。この行政代執行依頼の様式甲乙って、一体どういうこと? 甲が【災いの枝】だから、つまり私が【茨】を解放して敵とガチる許可ってことだよね。で、乙が【執行官の召喚】? これ、どっちにしろ異界門を開くには【茨】で空間をこじ開けるわけでしょ、じゃあ執行官さんを召喚する時って甲乙両方の書類作らないといけないってこと?」
「そこな、作ったはいいんだけれど、運用規程が定まりきっていない」
「……え?!」
「仕事の合間に総務が徹夜して作ったんだ。それも、黒騎士だの竜王だの重機姫だのと言ったデスコミュニケーション共と協議しながらだ。粗だってある」
「あと気になったのは、これって執行までに最低一週間くらいはいる計算になるけどさ、緊急で危険な生物とかが現れたら、私どうすんの?」
「そりゃ、警察に連絡するとか、消防に報告するとかして、逃げろよ」
「……えっ?!」
「あのなあ、お前もう喧嘩屋じゃないの」
「でも、この町、私しか戦えないのに……、そんなの」
「お前の仕事は、この町と、異界の連中が必死になって作った、人々を守るためのルールを、適正に運用することだ。戦う力を持った奴らを、憂いなく戦わせてやることが、お前の与えられたつとめだ。それが本当に人を守ることで、異界の連中からの信頼を得ることで、お前を守ることになる」
「……うん」
「誰よりも、怪物達と闘ってきたお前だからできる仕事だと、俺は思う」
「……うん、そうだね」
「よし」
「ところでさ、私今すごく暇なんだけれど、何したらいいかな」
「勉強しろ」
「あう……、せっかくだからお茶飲もうよ、お茶淹れてよ」
「自分で淹れろよ。っていうか、俺に淹れろよ」
「仕方ないじゃん、まだ災いの枝が馴染まなくて、左手がうまく動かないんだ」
「……馬鹿、先に言えよ」




< 伊藤草月・女郎屋敷小夜子  入庁2年目11月 >

 月本総合病院。
 月本市職員の健康診断を請け負っている市内で一番大きい病院には、地下に妙に広いスペースがある。異界汚染を受けた生物や、物体の検査、治療を行うブースであり、その奥の奥に、女郎屋敷小夜子専門の診察室がある。
 小夜子のかかりつけになってくれた滝口女史と、小夜子は23回目の定期診断を終え、カルテを挟んで向かい合っていた。

「小夜子ちゃん、あんた今すぐこの仕事辞めな。今ならまだ間に合う。あんな仕事、ほかの奴らにやらせればいい。もし何か言ってくる奴がいたら、私が話をつけてやるから、一度治療に専念するんだ」
「大丈夫ですよ、俗に言う不老不死ってやつですから」
「大丈夫じゃないの! 小夜子ちゃん。もっと自分の体のことを考えてよ。その、魂って言うの? 肉体ごとそれを不変に保つ枝? そんなもの体に入れていいわけないじゃない。それも、自分の意思で深く押し込むだなんて……。摘出できなくなる可能性もあるんだよ」
「深く差さないと、私の体の変化止まらなくなっちゃいますから。さすがにこれ以上毛深くなるのはちょっと……」
「草月くんなら、気にしない」
「私、気にしちゃいますから。たぶん、伊藤も気付いてるんじゃないかな。私がだいぶ人間じゃなくなってること」
「……もっと早く検査するべきだった。いくら、防護していても、一番異界と接している時間が長い小夜子ちゃんが異界汚染を受けるなんて、わかりきっていたのに」
「私、それでもよかったと思ってます。もう、執行官の召喚じゃ間に合わなくなって、駐在官を常駐させても、それでもどうしようもなくなって。私の体にくっついたいろんなものを、茨で支配して利用することができるってわかった時。すごくうれしかった」
「嫁入り前の娘が、身を投げ出すよなこと言わないでよ」
「一つ残念なことがあるとしたら……、この薬指かな。茨がまきついて取れなくなって、指輪が、入らなくなっちゃった……」
「小夜子ちゃん……。草月にこのことを話そう?」
「お願いします。言わないでください。せめて、私が人の形を保っていられる内は、皆に人間扱いしてもらえる間は」
「そんなことして何の意味が!」
「幸せな思い出が少しでも多い方が、私も頑張れるから……。これから、何年生きるのかわからないけれど……なんちゃって、えへへ」
「小夜子ちゃん、えへへとか、27歳なんだから考えてよ……」
「先生、抱きつかないで下さいよ、化物がうつっちゃいます……」



< 伊藤草月・女郎屋敷小夜子  入庁2年目1月 >
< 【きりん】に撃墜された小夜子が目を覚まして20分後 >

「先生、どうして女郎屋敷を縛りつけといてくれなかったんですか。どう考えてもあのアホが、眼を覚ましたら飛び出すにきまって……」
「歯ァ食い縛れこの糞野郎!」


< その10分後 >

「しこたま殴ってやったのに……、一発も避けなかったね」
「殴られて仕方ないことしてますから」
「……わかってるならさぁ……。なんとかしてやってよ。あの子はね、あんたの期待に応えたくて、あんな無茶してんだよ……。ここに運び込まれた時、どんな姿だったかわかるかい? あのこの右手は獣みたいな毛と爪が生えて、真っ黒で女の手じゃなくなってる。左手は、いくら千切っても再生する茨がまきついてる。角膜は妖精のもので、毛髪の半分は光ファイバー化。左腕上腕骨は剣で、右足は液体を弾く。それらを全部、左薬指に刺さっている世界樹の枝で押さえつけて、普段は人間の形を保っている。でもね、もう異形の方が、本当の姿になってしまってる。このレントゲン見てよ。あの子肝臓、金属で出来てるんだよ」
「あいつ、よく勉強してるんですよ……。様式甲の仕様に抜け穴があることに気付いて、俺の眼に書類を通させずに災いの枝を解放する手段を見つけた……、知ったら止めるのわかってるから……。もう、俺がどんなに怒鳴っても、あいつは泣かないんです」
「頼むからさあ、なんとかしてよ。あの子、人間の姿を保っていられないくらい消耗してるのに、眼が覚めてすぐに、現場の高校で怪我した子のことを訊いてきたのよ。無事なのか? ってすごい剣幕で。それで、命は取り留めたって話をしたら、すごく喜んで。それで、それで……」
「先生。俺、もう行きます」
「草月くん、君も超過勤務がたたって胃潰瘍と高血圧の項目がひっかかってるんだから、検診においでよ」
「ありがとうございます」


< 女郎屋敷小夜子 対【きりん】二度目の被撃墜後 >



「くぉおらぁああああああ! 女郎屋敷ぃぃぃぃいいいいいいいい!」
「い、伊藤?!」
「てめぇ、いつになったら人の話を聞けるようになるんだ! 現場に出るなって言ってるだろうが!」
「し、仕方ないじゃん」
「仕方なくねえ、てめえが執行通知を作らねえから! フレイムロードも恋織もグーさんもゴリラもデルタリオンも河童も皆出動できねえじゃねえか!」
「え、で、でもこの非常時にそんな!」
「今、お前の代わりに戦ってるあいつらが! 暴れても大丈夫なように正当な理由を作ってやるのがお前の仕事! 何回言わせる気だ。俺だって、気づいてたよ! お前が書類作るのがわからなくて、せめて現場くらいは役に立ちたいとか思ってたこと。でも違うだろ! お前を危険な目にあわせたくないから! 俺達は!」
「ちょ、ちょっと何を?」
「非常時だからこそお前が必要だって話だろうが!」
「こ、怖いよ伊藤。どうして両肩掴むの? あと私の皮膚、今、毒の膜張ってるから。危ないから、ね? 怪我するから、ね? 放して?」
「女郎屋敷……、いや、小夜子」
「……はい」
「皆お前が好きだから、お前の言うこと聞いて召喚されるんだ。もちろん、俺も。だから、ちゃんと頼ってくれよ。俺、お前のためなら、なんだってする。もし、お前が世界中を敵に回すようなことになっても、俺が守るから」
「……はい」





 後に、女郎屋敷小夜子は、4つの大災害を解決した後、自らが世界を滅ぼす獣(レーヴァテイン)となり、審判の時を迎える。

 その後に、伊藤草月の手により、異世界の錬金術により作られた【世界樹の枝引っこ抜きペンチ】により、体内の異界物質をすべて引き抜かれ、人間の女に戻ることとなる。
 その時にはすでに齢34。慌てて草月と籍を入れるが、子供はもうけるのであった。


28 :akiyuki :2013/01/01(火) 23:43:48 ID:tDVcxmserA

月の出る夜。
うみねこ高校『跡地』

今や校舎が全壊し、更地となってしまったその場所に、人影はない。
今やその広い土地の真ん中で、一人立ちつくす島左子の月影が、あるだけ。


先日現れた意思を持った火薬などという訳のわからない化物のせいで町はめちゃくちゃになり、彼女をかばい、大切な仲間たちは怪我を負った。
彼女の青春の結晶である、化学部室の薬品庫の中から現れたそれは、明確な害意を以って自らの体を燃焼させ、化学部準備室を爆破した。
彼女と怪物の間に立ちふさがっていた三人。
鍋島千草は、自分の体で左子を覆い、式神『殺人妖怪紙女』を用いて、文蔵と誠一を防御した。
誠一と文蔵は、体を密着させ、両手を広げ、左子と千草の間に壁を作ろうとした。
そして、文蔵は、そっと誠一の体を自分の後ろに押し込んだ。

 爆発。
 衝撃。

 振動が収まり、目を開けた左子が見たのは、自分を強く抱きしめて気絶している千草と、バラバラ死体になった二体の紙女と、体中に火傷を負った文蔵と、爆発の瞬間に『大狐』に変身した、誠一らしきイヌ科の大型動物の姿。

 そして、炎に囲まれた化学室、いや、うみねこ高校校舎であった。



『君が、島左子ちゃんだね』

 脳の内側から、直接響いてくるように思った。
 振り返ると、そこには身長2mはあろうかという、背の高い女性が立っていた。
 この人が、女郎屋敷小夜子。
 女は、ずいぶんと響く足音をさせて、左子の前に立った。

『はじめまして。私は月本市役所の異界平衡係の』
「じょろうやしきさんですよね」
 小夜子はたじろいだ。
 今から、あの悪夢のような敵と二人っきりで戦うというのに。
 この惨劇の場所で、それでも島左子という名のこの少女の眼には、強い光が宿っている。

『うん、よろしくね。あと、僕は今声帯が潰れててテレパシーで喋ってるけど、気にしないで』
「大丈夫です。そういう人に、昔あったことあるので。それに」
 左子は小夜子を見上げ、口を閉じたまま答えた
『私も、使えるんです。宇宙人魚の技』
 驚いた。ここまで自在に異能を行使できるという情報は、調査できていなかったはずなのに。
『結構、こういうのには慣れてるの?』
「何回か。でも、いつも文ちゃん達が一緒にいて、なんとかしてくれたから私何の役にも立ってなくて……。だから、本当にちゃんと自分の力で戦うのは、はじめてです」
『そっか』

 言葉が、続かなかった。彼女を励ます言葉でも言うべきなのかもしれないが。

「だから、お願いします。力を合わさせてください。私一人じゃただの萌えないゴミだけど、できることをします! 皆を、守らせてください!」
 10も年下の彼女の方が、自分より腹がすわっている。

『大丈夫だよ、今も、僕の方が勇気をもらってるくらい』
 
 頑張って、笑って見せた。

『それじゃあ、左子ちゃん、そろそろ避難しててね。護衛が君を守ってくれる』

 小夜子が指差した方向。正門だったコンクリート中が立つ横に、二人の女がまたいた。

 額から、角の生えた迷彩服の女と、目の下にクマの広がった和服の女。
『感じ悪いし怖いけれど、仕事はきっちりする人たちだから、安心してね』
「お姉さんと、千代さんですか」
『あれ? 知り合いだった? ……お願い、僕が悪口言ってたのは、秘密にしといて』

 妙齢のはずなのに、稚気の抜けない人だった。
 
「じゃあ、私行きます。作戦通りに」
『うん。今、戦闘が可能な駐在官の生き残り総出で、【きりん】をこの校舎跡地に誘導している。奴が到着しだい、私が動きを止めるから……』
「私が、『重力』にお願いして、宇宙空間に打ち上げます」
『そして、この<右手>で破壊する』

 小夜子は目の前で右拳を握る。


 大型哺乳類のそれのような、大きく、太く、黒く、毛深く、凶暴な形をした、右腕。
 それなりに体躯の大きい小夜子の体のパーツとしてもパースがずれた、女郎屋敷小夜子の体に刻まれた呪いの一つ。
 
 それがどのような異能を発揮するのかは、左子は知らない。
 それどころか、目の前にいる『人間』で、人の形を残している個所の方が少ない。

 獣のような右腕。茨が巻きつき、一部樹皮のような質感となった左腕。
 鎖骨の下に見える、鱗のような皮膚。喉には妙な模様が刻まれ、その左目は、鈍い色をしている。髪の毛の半分は、白髪のような、ガラス繊維のような不思議な光沢を放ち、時折赤く発光する。
 整合性なく、とってつけたようなパーツを体中に縫い付けて、背の高い女性は、姿勢よく立っている。

 何かを訊くべきなのだろうか。
 左子は、少し迷って、聞く必要はないと気付く。

 だって。

「女郎屋敷さん。なんでこの子は、僕を怖がらないんだろうって思ってませんか」
『……』
 図星であった。


「女郎屋敷さんと私って、会うの初めてじゃないんですよ?」
『え?』


「あの日、私が【きりん】の爆発に巻き込まれて倒れていた時、私を庇って怪我をした文ちゃん達三人を運ぼうとして、でも腕力なくて必死に引きずっていた時。助けに来てくれたんですよ」
『……そうだっけ?』
「そうなんです。一番最初に、私達のところにかけつけて、そしてあいつと戦ってくれた。その姿で」
『ぼろ負けして、燃えないゴミにされちゃったけどね。お恥ずかしいところをお見せしました』
「恥ずかしくなんかありません。私達を、命がけで守ってくれました。だから……、今度は私が命かけます。役に立てなくて、私は守られるだけだった。だから、今度は私が皆を」
『……。左子ちゃん。命を捨ててかかっちゃダメだよ』
「でも女郎屋敷さんは、あんなに必死になってくれました」
『でもね、それをすると左子ちゃんのこと好きでいてくれる人に、すごい心配かけるんだよ。私達は、大切な人を守って、また会うために戦おう』
「……。もしかして、誰かに叱られちゃいました?」
『なんでわかんの?!』
「文脈からわかりますよぉ」







「見て、千代。あの二人、これから大一番だってのに、笑ってるわ」
「ガチガチに緊張してるよりはいいよ。……うう、私も腕をやられてなけりゃ戦うのに」
「適材適所よ。千代の仕事は、私の未来の義妹を命がけで守ること。私の仕事は、千代を守ること。それだけよ」
「……、文蔵ちゃんとあの子、やっぱり付き合ってるの?」
「文にあそこまでさせたからには、責任とってもらわないと」
「あんまり弟の人生に干渉するの、控えた方がいいよ」
「逆よ、あの子押しが弱いから、私が尻叩いてあげないと、彼女が卒業するまでに告白なんてできわないわ」
「……、そういうのも含めて恋愛なんじゃないかなあ。それに、刹那はまず自分の相手探した方がいいと思うよ。身近にいないの?」
「紙屋町のこと? 駄目よ。駄目駄目山の駄目子さんよ」
「……、私、紙屋町君だって、一言も言ってないけれど」
「……」
「市役所の異界平衡係の、イケメンだけど仕事ができない、あの紙屋町君? 刹那が紙屋町君に厳しいのって、愛情の裏返しなの?」
「……ちょっと、そんな顔しないでよ。っていうか、今から世界の命運をかけた戦いするのだけれど、ほら、左子ちゃんも来てるわよ。もうすぐ【きりん】も到着するだろうし、さっさと隠れるわよ、ほら、なんでにやついてるの。ちょっと!」


29 :akiyuki :2013/01/05(土) 23:29:15 ID:tDVcxmscL4

平行協定編・根本の話



 アカシックレコードと意識を接続する異能を持った少女、白川実子(しらかわさねこ)
 彼女は高校二年生の時に、自分の手で世界が滅びるという未来を予知してしまう。
 彼女が大人になった時代に、このうみねこ町で【過日の魔王】と【世界を滅ぼす獣】が戦い、後者の勝利により世界が滅びる。
 そして、実子は、その『どちらか』になる。

 この未来を成就させないために、実子は異世界につなぐ門を作り出し、自らの魂を肉体ごとどこかへ飛ばそうと画策する。
 仮想平成30年、うみねこ町に、魔王と獣が揃いさえしなければ、つまり実子がこの世からいなくなれば、この未来には決してたどりつけないから。
 星の運命を管理し、世界が滅びようが関係なく未来を遂行する任務を持つ地獄の住人。彼と彼女達はきっと、実子を探しだすだろう。その追跡を振り切るには、彼らの異能でさえ届かない場所に隠れなければならない。
 だから、少しでもごまかせるように、入口をたくさん作った。

 神話の世界。パラレルワールド。外宇宙。
 無限の行く先のどれかを選び、そのどこかへと、消えた。

 魔術師であり、県議会議員でもあった父とその仲間達。そして、恋人に後を任せて。


 
 残された者達は、白川実子が消えた世界で、彼女の想いを継ぐために、門を閉じて回った。
 白川実子なんて、最初からいなかった世界にするために。
 特に、実父白川某が率先して。


 そして、それが気に入らなくて仕方ない男がいた。
 実子の恋人。加領郷(かりょうごう)歯車(はぐるま)
 絶対に納得のいかない男は、残された扉を守るために、恋人の想いを受け継いだ人間達と争いを繰り広げ、門を、開きっぱなしにしてしまう。

 次々と流入する異界生物と異能技術。
 その制御のために、この世界に元々あった異能、かつて、別の誰かが開いた門から流れ着いた、人に味方する異人。その力を受け継ぐ特殊能力者達による果てしない戦いがあり、事態は一年の歳月を経て、小康状態に落ち着く。

 うみねこ町民と、異界人の中で、事態を理解し、対策を考える者達は、協定を結んだ。

あるべきものを
あるべき形で
あるべき場所へ

 流出した異物は、その世界のものが決着をつける。そのための、異界の通行許可を与える。


 平行協定が作られるのと同時に、最強の結界能力者・『女帝陛下』の持つ【茨の異能】によって、扉は不安定ながらも閉じることに成功する。
 そして、女帝陛下はその見返りとして、少女を一人求めた。



 この協定は、空間を抉じ開け外界より友を呼ぶ者がいて、初めて起動する。私ではなく、この町の人間の中に、それが可能な者がいなければならない。この世界の裏になる私の郷。そこにある世界樹の枝の破片を体内に取り込んだものは、私と同じ異能を得るだろう。災いの枝、それを用いる私の巫女を用意して欲しい。




 この町に生まれ、偶然帰省中に戦いに巻き込まれ、生き残っている。検査の結果、異界汚染に対する免疫が非常に高い。何より、この戦いの中で、異界の剣士や怪物と相対し、その怒りを沈め、友達となった娘。
 女郎屋敷小夜子は、余りにも、その条件にあてはまったのだ。

 彼女の左薬指に、小さな人間には見えない棘が刺さっている。
 それは、彼女の覚悟に反応して、茨となり、空間に巻きつき、無理やり捻じ曲げ、異界との入口を作る。
 それは、かつてこの世界を滅ぼしかけた白川実子が持つ力を同じもの。
 その危険性を忘れないために、その力には【災いの枝】という公称が付けられる。


30 :akiyuki :2013/01/06(日) 00:17:58 ID:tDVcxmscL4

女郎屋敷小夜子の肉体における異界汚染被害状況



女郎屋敷小夜子 27歳 身長195cm(自前) 体重255kg(異界汚染により、肉体構造が常人と違うため) B 非公表 W 非公表 H非公表
趣味:読書と音楽鑑賞
特技:力仕事 
PR:笑うとえくぼが出る


女郎屋敷小夜子の肉体における異界汚染被害状況

【灰を掴む猿の右腕】
不倫相手だった教師の呪殺を望んだ女子高生を相手にした11号事件にて。
胎内の命を生贄に儀式により現界した魔獣『灰を掴む猿』の鎮圧のため、戦闘。フレイムロード卿の剣によりその首がはねられた時、怨みのこもった体液を右腕全体に浴びてしまい、被呪。
初期には、平行協定執行時に、茨の解放と共に、異常握力と表皮の変色が起こる程度であったが、回数を重ねるごとに体毛が増加し、筋肉が肥大し、形態が変化し【灰を掴む猿】の右腕そのものになっていった。そして、元に戻らなくなってしまう。
下記の災いの枝により、体内の呪いをコントロールする術を覚えた後は、普段は人間の腕と変わらないが、平行協定執行時の異能解放時に、獣の腕に変身し、その本領である「手の届かないところにあるものさえ握りつぶす」を戦闘に使用する。宇宙空間に打ち上げた、意思を持った火薬【きりん】を地上より握りつぶし、決着を迎えている。
本来、戦闘能力を持たず、執行官を召喚し戦わせる任務を持っていた小夜子を前線に立つことを許してしまった、呪いと言えば呪いである。

【災いの枝】
 零号異界【ジューショ・クア・キュキ】に存在する世界樹と呼ばれる人智を超えた巨大な樹木。それより手折った、枝の欠片。平行協定をスムーズに運用するために開門の異能を必要とした人は、小夜子の左薬指に同じものを刺した。これにより、体の奥から無限に湧き出す茨を使って、異界の門を開き駐在官・執行官の召喚を可能とする。しかし上記の右腕のように、執行のたびに重なる異界汚染により、化物化が進行する小夜子の体を守るため、力を借りるためだけに薄く差していた棘を、さらに深く差しこむ。現状を変形させる力と同時に現状を維持する力、両方を持つ世界樹の汚染によって、他の汚染を相殺する目的であり、これは成功。小夜子の体は元の人間の形を取り戻す。
しかし、それも付け焼刃に過ぎず、平行協定執行時には、他の汚染による浸食が活性化し、押さえがきかなくなってくる。そのために、人間の形を保つために、彼女はさらに深く棘を押し込む。いつか摘出不可能になる日まで、強く、差し込み続ける。

【妖精の角膜】
 第五号異界【妖精】から大量の難民妖精が来訪した事件において、妖精を可視するために、利益代表妖精ソフィ・フェアリを眼球に取りつかせて、見えない者を見る異能として利用していた。しかし、五号異界を侵略する「見たものは死ぬ怪物」のせいで、失明した(眼ではなく、見るという認識を奪う呪い)際に、ソフィの視界(見る力)を、移植される。これによって復活した小夜子は異能解放時に、見えないものを見ることができるようになる。
 見たくないものまで、見えるようになってしまう。

【魔女の呼吸器】
 瘴気(毒ではないが、「よくない場所」に溜まる空気)中毒の魔女を助ける際に、肺におもいきり瘴気を取り入れてしまったために、仮死状態になった小夜子が、自らの肉体を変形させてよみがえった際に、空気を吸って、瘴気を吐き出すようになってしまった。
 この汚染以降は、異能解放時に瘴気を吐くようになり、めっきり会話が減る。
 口から出していないと、体内に溜まり、汗腺から毒粘液として分泌されるようになる。
 このころから、正直凹み始める。

【聖者の足】
 過去の世界から来訪した、聖人と対話している最中に、目覚めた奇跡。水の上や、空を、一歩だけ歩くことができる。上記の魔女が自暴自棄になり浄水場センターの貯水タンクに入水自殺しようとしたのを止めるために、使用。

【剣王骨】
 一号異界【剣】駐在官フレイムロード卿の世界で研修旅行中にクーデターに巻き込まれた際、左腕を斬られる事態に陥る。前線に急いで立つために、そこらへんにあった聖剣をひっつかんで骨の代わりに体に埋め込んでしまったため、彼女の左上腕骨は剣である。
 ばれたら盗難か横領になるので、黙っているが、おかがで、一号異界を起源とするあらゆる武器は小夜子を傷つけることができない。

【神の声帯】
 このクニで最も古いカミがいた時代に飛ばされてしまった31号事件。神代にて神の言葉を使ってしまったため、小夜子の喉は、人のものでない可聴域と発音を可能とする形に変化してしまった。代わりに、人語が使えなくなってしまう。

【黒金の髪】
 はるか未来の世界からやってきたすべての機械を傅かせる存在、重機姫。彼女の宝物、機械王の櫛で髪を梳かれた際に、小夜子の黒髪の半分が、ファイバー化した。未来の幻想甲冑(ロボット)のエネルギー源である、分子量6300万モルの、超高密度流体を内包した赤く発光する紐。遠目には、メッシュいれただけ、近くで見れば、カツラみたいだが、これから供給される動力によって、異能解放時の小夜子は無尽蔵の体力を手に入れた。やもすれば、呼吸さえ必要なく、宇宙空間での活動も可能である。
 
【竜皮】
 インド神話群封印戦線において、意識不明の重体に陥った時、血液型が適合したドラゴン・グーガガムンゲン・メロディア王から輸血を受ける。この結果、一時的に体内の血液がすべて竜のものとなり、回復した際に、竜人化。体表面の7%を、竜の鱗に覆われていた。鏡で見るたびに、これが一番凹んだ。


31 :akiyuki :2013/01/12(土) 00:11:13 ID:onQHQJoetk

メルヴィッツ生体波動は、魂と魂を引き寄せる性質を持ち、その人間の性質に沿うモノを世界より引き寄せる。



 高校一年生、十五歳の彼にとっての現在。

『先生』と思う特別な人は三人いる。


  一人は、両親共働きのため、いつも食事を用意してくれた祖母。彼は「ばあちゃんの飯」を食ってここまで育ったと言っても、過言ではない。そして、両親ともに阿呆みたいに残業の多い仕事をしているため、少年はばあちゃんの家で宿題をして、ばあちゃんの家でテレビ見て、ばあちゃんの家の風呂掃除をしていた。所謂、情操教育からしつけに至るまで、その人間としての芯を作ったのは、彼女だと、彼自身は思っている。人生最初の恩師と、思いはしなくとも、心の刻まれている。

  二人目は、中学一年生の時の担任の先生である。今年から赴任してきた、音楽教師である彼女は、とかく熱のこもった教育をしていた人で、美人だけれど怒鳴り声が怖いので有名で、素行不良な生徒から問題を抱えた子供まで生徒指導に走りまわり、自分の顧問を受け持つことになった吹奏楽部を全国大会に導いて、その先生が来てからは、音楽の授業中に音楽室から聞こえてくる歌声が、大きくなった。少年は音楽系の部活に入っていたわけでもないし、とかく教師の手を煩わせるタイプの中学生でもなかったから、特別な接点なんてなかった。ただ、妙に気が合って、たまにおしゃべりをした。いろんなことを話した。恋愛相談をしたのは、この先生が初めてだった。一度だけ、叱られた。その時の言葉は、いまだに彼の中にある。

  彼の尊敬を集める最後の人は、中学二年生の時に会った、女の子であった。彼女のことはよく覚えていない。けれど、あの夕焼けの綺麗な場所で、彼女は教えてくれた。「鬼灯君。自分のことを嫌いだなんて言っちゃいけないよ。自分のことを嫌いだなんて言ったら、鬼灯君のことを好きでいてくれる人のことまで嫌いって言うことなんだから」ものすごく偉そうに、自信満々の笑みでそう語った彼女の言葉は、彼の心を救ってくれた。

 祖母は、もう亡き人である。けれど、彼女が育んでくれた強い体は確かにある。
 温かい食事が、心を温かくすることを教えてくれた。


  あの先生は、今はもういない。何があったのかわからないが、県内の別の問題を抱えている中学に異動してしまい、連絡先も知らないでいた。けれど、彼女が教えてくれた情熱は、少年の精神に宿っている。
 素直に人と接することを、教えてくれた。

 
 少年が恋した少女は、二度と会えないところに行ってしまった。けれど、彼女がくれた夕焼けのあの日は、確かに今も彼の魂の中にある。
 笑うということは、人に前向きな力を与えることを、教えてくれた。


 鬼灯(ほおずき)炎(ほのお)は、このような巡り合わせの中で「善」に傾いた男となった。


32 :akiyuki :2013/01/12(土) 00:55:57 ID:onQHQJoetk

二人が、出会い、ともに歩くことを決めた日のこと

「どこまでも遠く、どこまでも白い月の下」

 昏のことであった。
陽が陰る空。
 少女は、天を仰ぐ。薄く青い中空に浮かぶ丸月を、細めた眼で見つけ、言葉を継いだ。
「私の好きな言葉なの。意味は特にないわ。ただ、私が美しい言葉だと思ったから、好きなだけ」
 まるで、囁くような、薄い声質。
 透き通るような肌というものが、この世には本当にある。
 髪、眼、鼻、唇、うなじ、指、肩、背筋、腰、脚。そして微笑。
 今、目の前にいる少女は、人が持つ「儚い」という要素の全てを取り入れているような絵に描いた美少女であった。
 妖しげな気配さえ漂わせて、月を愛する少女は薄くほほ笑む。
「哲学的なことでも言えたらいいのでしょうけれど、本当に意味はないの」
 空を向いて、けれど、正面の少年に向かって語ると、彼女はくるりと、少年に背中を向けた。
 ただ、月の方だけを向いた。

「僕だって、特別哲学談義をするつもりはないよ」
 赤い夕焼けの光を背に、少年は答えた。
翳りつつある赤光のせいか姿がはっきりとせず、黒い輪郭だけを、立ちつくす。
 目線が見えず。
「遠くて、淡い月は美しいかい」
 赤い光を映す白い背中に、ただ、訊いてみた。
「ええ、遠くて淡いから、月は美しいのよ。あんなもの、天体望遠鏡なんかで見たら、ゴツゴツのクレーターだらけの岩塊よ。届かないくらい遠くて、この世で一番弱い光だからこそ、私達は幻想を抱く。月を通して、人は夢見るのよ。この世には、人以上のものがあるって」
 浮世離れな少女の言葉に、少年はただ陳腐な台詞を吐く。
「詩人だね。しかし、随分と被虐的な言い回し。もっとメルヘンな女の子だと誤解してた」
少女は、背を向けたまま。
「そんなメルヘンな子でいられたら、魔女になんかなってないわよ」
 その言葉は、きっと、一番の本音で、一番の情の籠った言葉であったろうに、儚げな彼女の声帯からは、それでも限りなく薄い音を空に染み込ませた。
 満月を見つめる少女の背中を、赤い夕焼けの光が照らす。
 季節は夏の終わり。
 夏の酸素を燃やしつくすような、炎色光が世界を包んでいた。
 



時刻は、『午後10時』





「ねえ、魔法使いさん。一つ訊いていい?」
 少年は、落ち着いた声で応えた。
「なんなりと」
 儚げな少女は質問した。
「この夕焼けは、あなたの仕業?」
「左様でございますが」
「世界を夕焼けにする魔法なんて、物凄いわね。おかげで、月の光を使う私の魔法が完全に封じられているわ」
「それは君が本気を出していないからだよ」
「もう余力なんてないわよ。私が呼び出した使い魔は、あなたが呼び出した陽光で全部消えちゃったわ。こうやって、平然とした声出してるけれど、本当はもうどうしていいかわからなくて、怖くて仕方ないの。怖くて、あなたの顔も見れないの」
 背中越しに、少女の微かに震える声が続いた。
「意外だった? 余裕綽々に見えても、私だって、ただの女の子なんだよ。きっと、人には浮世離れした変人にでも見えてたのかもしれないけれど。でもね、近付いてみれば、醜い岩の塊よ。眠れなくて、肌荒れだってひどいんだから」

 遠くて白い月に、あこがれていたのかもしれない。


 少女はそこで黙ってしまった。




 二人の通う、柊高校。
 その屋上。
 月夜と落日が同時に存在する空間。

 魔法使いは魔女に声をかけた。
「哲学しないんじゃなかったのかい」
「してないわ」
「そっか」
「ねえ、炎。あなたは、どうして私を探してくれたの」
「知り合いに、自殺した魔女がいてな、今日の君と同じことを言ったから、気になってた」
「……そう」
「あと、顔色がいつもより若干悪かったし、授業中も病院の方角を向いていることが多くなった。あと、弁当を残すようになったし、人から綺麗って言われる度に顔に翳が差してた」
「……、よく見てるのね」
「見てるさ」
「……、勝手よね。私が魔法で人を傷つけたのに」
「正当防衛ってやつでしょ」
「過剰防衛よ。さっきあなたが言ったじゃない。私は、確かに意識してあいつを痛めつけた」
「あんだけひどいストーカー被害受けてりゃ仕方ないよ。怖かったんだろ? 女の子だもんな」
「違うのよ。違うの」
 
 沈黙のあと、告白。

「あの夜も、平気だった。付きまとわれて、二人っきりになっても、私の心はどこまでも遠くて、どこまでも白かった。でもね、あいつが言ったの。『儚くて孤独な君の心を癒してやれるのは、俺しかいない』って」

 溜息。

「その言葉の意味がわからなくて、何度も反芻して、理解した時。私、あいつを殺そうとしてた。本当は私だって、皆の輪に入りたい。けれど、生まれも育ちも異端で、心の在り方も、性格も捻じ曲げて今の在り方になった私には、どうすればいいのかわからない。その上、嫌がらせみたいに制服盗まれて、手紙送り付けられて、私物に体液塗りこまれて、それでも平気なふりをしなきゃいけない気がして、そうやって、そうやって我慢してきたのに、それを馬鹿にされたような気がした……。それで、気が付いたらあのざま」
「そうか」
「結局、あなた達、(心を繫ぐ魔法使い:ラブソング)と違って、心を拒む魔女(ヘイルホーリー)の魂は歪んでいるということだったのよ」
「そうかな?」
「そうよ。だから、私は逃げてしまって、あなたは追ってきていくれている。この行為に、私達の関係が集約されていると思わない? ああ、思わないわよね、あなたは優しいから」
「……、そういう言い方されると、ちょっと傷つく」
「……それで私も、自己嫌悪。ねえ、見てて嫌にならない?」 
「嫌になる」
「なら、もう私のこと見捨ててもいいよ?」
「綺麗なところも、そういう嫌なところも含めて、僕は君が好きだよ」


 少女と少年は、一度も顔を合わさないまま。

 少女は、
「それって、恋愛(ラブ)? 友情(ライク)?」
 少年は
人間愛(アアペー)、かな?」
 真面目に答えた。
「何よそれ。それじゃ私、あなたに泣きつけないじゃない」
「ごめん」
「冗談よ」

 どこまでも遠く、どこまでも白い月の下。

 燃えるような落日の陽光に染まる空。


 昼と夜の混ざる異界で、少年と少女は時間を過ごしていた。




 絶望を抱えていた広瀬(ひろせ)罪雛(つみひな)は、それでも生きようと思った。

「私は、生きる気力が人より薄いって言われた。言葉も、想いも、どこか遠くにあるようだって。私の心の中には、灯火がなかった」

 鬼灯炎の人生の在り方は次の言葉によって、決定した。


「炎、ありがとう。どうしようもない時に、一緒にいてくれて。灯になってくれて」
 

 


33 :akiyuki :2013/01/12(土) 01:04:02 ID:onQHQJoetk

魔法使いのラブソング編no

 (心をつなぐ魔法使い:ラブソング)や心を拒む魔女(ヘイルホーリー)が目指す魔法の奥義に「カンテラ」なるものがある。
 



 心の薄暗がりの向こうに、ほんの少し明るく照らしてやる、心の火。

 相手にとってのそれになるこおこそが……。


 その概念を。鬼灯炎は上記にあやかり『カンテラ』と呼んでいる。

 
 


34 :akiyuki :2013/02/01(金) 23:09:05 ID:tDVcxmseYk

落魂の都

額に角の生えた、常人には見えない少年の姿をしたモノを総称して『童子』と呼ぶ。

『童子』を見ることのできる人は、自分達を『安綱』と呼ぶ。



あまりにも、的確で、的確であるがゆえに足りない説明を済ますと、スカジャンを着たおかっぱの少女は、続けた。

「まあ、子鬼だわな。陰を好んで、にたにた笑ってるだけ。ただ、その笑いが心のやましい人間を苛立たせるんだ。だから、童子が見えてるつもりが、逆に見られていることに耐えられなくて、心を病む人間も多い」
 私の父が、典型的なそれだった。
 随分と遠くを見ながら、少女は言葉を口にする。
「<開眼童子> 人に童子の姿が見えるようにしてしまう、異質な童子に魅入られたせいだな。お前様も、『安綱』になってしまったということだ」

 あの日見てしまった、角の生えた、白髪の男の子。
 あれが、それだったのか。

「よその町には童子なんてほとんどいない。1万人くらい人が住んでいれば、童子が一匹。ほとんど誰もその姿を見ない」

「でも、この町には少なくとも30万を超える童子が住んでいる。人間は10万人も住んでいないのに。この町は、子鬼の都なのさ。そして、童子を見ることのできる人間が増え始めたせいで、人の社会と童子の社会がだいぶ近い」

 窓の外には、木に逆さにぶら下がる半裸の少年がいる。

 ビルの陰で、体育座りをしている、小柄な男の子が、嗤っていた。

 毛むくじゃらで、2足歩行をする犬のような姿の子供のようなものが、道の真ん中を歩いている。

 皆、額に小さな角が生えている。

 誰も、彼らに気付かない。

「まだ、だあれもあいつらに気付いていない。けれど、あの白髪の糞餓鬼が歩きまわれば、見える人は増えていく。さて、あいつらと向き合わなければならなくなった時、人は、折り合いをつけることができるのだろうかね」


35 :akiyuki :2013/02/02(土) 22:56:23 ID:tDVcxmscz7

蓑笠童子


 月本市の田園地域のど真ん中。
 どうやって開発の許可がおりたのか裏を見るのが怖い怖い、大きな敷地の私立柊学園。

 昼休み。空には分厚い雲が漂い、薄暗い冬間を演出している。

 高等部普通科棟三階東から六番目の部屋。
 二年一組教室。
 二年生女子が二人、向かい合わせに座りおしゃべりをしていた。

「今日は、雨降るかしら」
 コーカソイドの父親の赤毛が遺伝したのか、少し色素の薄い髪を無造作に束ねた娘が、対面者に言った。
「天気予報では50%と言っていた。当たらぬも八卦、というやつだろうかね」 
 おかっぱ髪の、小柄な少女が適当に答えた。
「雨が降るのがわかる『童子』とかいないのかしら?」
「聞いたことはあるさ。<蓑笠童子> レインコートに身を包み、隠れた顔の先から、ちょっとだけ青い角が見える童子だ」
「雨が降るときに現れるとか?」
「あれらは、消えたり現れたり、というのはしないよ。雨雲の少し先を歩く習性があるのだと言う。つまり、それを見たならば、雨が追ってやってくるのだね」
「便利ね」
「ただし、目撃情報が極端に少ない。私の知り合いの『安綱』には、見た者はいないそうだよ。天気予報には使えないね」
「それなのに、姿形は詳しく残っているなんて『童子図鑑』でもあったりするの?」
「そんなのがあれば便利だけれど」
 おかっぱの少女は、口元だけ嗤う。
「SNSサイトの安綱コミュニティで回ってきた情報なんだ、なかなか信憑性に疑問ありだ」
「そんなのがあるの……」

 雨が降ってきた。

「降ってきたわ」
「私は置き傘があるから少しも問題ないよ」
「ずるいわ」
「先見の明、だ」
「あぁ、じいやに迎えに来てもらわないと」
「……ずるい」


36 :akiyuki :2013/02/09(土) 10:51:57 ID:onQHQJocn3

湖面童子


 4月。

 少し色素の薄い髪をした少女と同類、いや友達になってから、幾日がすぎた。

 同じクラスだが、帰宅部である親友はさっさと帰ってしまい、帰り道は大抵一人。

 そうして、一人のときは、よく空を見上げる癖がある。


 月の光に、生気が満ちてきたように思う。

 部活の片づけが遅くなり、帰ろうと校門をくぐる頃には、外は夜になっていた。

 田園のど真ん中に立てられた柊学園の出入り口から、バス停のある国道までの50m。

 農業用道路を無理やり拡幅舗装した一本道(10mごとに防犯灯)

 おかっぱの髪の少女は、その風貌やしゃべり方とは似つかない、可愛らしい歩みでてくてくと帰路についていた。
 
 それなりに、歩みは速い。

 春の夜の空気の、ちょうどよい湿度と気温が、高揚感を与えてくれるから。


 今年はまだ桜をちゃんと見ていないな、なんてふと思う。

 暦の上では、<花咲童子>が出てもおかしくないのだが。


 去年は、入学式に桜吹雪が重なって、見ものであった。あれだけでも、この学校に希望が持てた。しかし、最近疲れて余裕がないせいか、あの幻風景を見て、ちゃんと心が揺らぐか、心配である。


 そんなことを友達に話せば、一体何と言うだろうか。



 不思議な気分だった。

 一人の時に、誰かのことを気にすることなんてなかったのに。

 少し、恥ずかしい話だが。

 『童子』が見えない他人には、自分の気持ちはわからない、なんてこっ恥ずかしいことをつい最近まで心に秘めていたのだ。


 自嘲を含んだ、笑いが口元に浮かぶ。


 ほんの少し、強い風。

 春の温度と、水田の湿度を含んだ、温い風。


 そんな風に撫でられて、無意識に、視線を横にやった。




 防犯灯で照らされないくらい、向こうの方。


 田植えの準備のために、水を張った田の向こう。

 水面の上に、角の生えた少年が立っていた。


「確か、<湖面童子>だったか。水鏡の上にだけ、存在することのできる」

 どうやら、こちらを見ている。

「言い伝えでは、己の気持ちと向き合わなければならない人間が、見ることが多いのだった、かな?」

 子鬼は、ただこちらを見ている。

 いや、見ているのは私か?

 
 さて、今夜も帰れば進路のことで母と口論になるのだろう。

 だから、私に見えているとでも言う気なのだろうか。


 間久部(まくべ)冬子(とうこ)は空を見上げる癖がある。

 見上げたら、ちょうど防犯灯の真下で、光に思わず目を閉じた。


 


37 :akiyuki :2013/02/10(日) 21:05:09 ID:P7PitFPkzc

座敷童子


 いつも通りの日曜日なら、たっぷりと寝坊して、あくびをしながら家政婦さんが取り置いてくれた朝食を貪る生活を何年も続けてきたのだが、今日はそうもいかない。

 柊学園に入学して以来、初めてできた友人、間久部(まくべ)冬子(とうこ)を家に呼ぶという一大イベントの日なのである。

 だから、朝早くから身支度を整え、家具や本棚の配置にミリ単位で気を使ったり、お菓子とお茶の組み合わせに悩んだり……、なんてことは一切せず、友人が遊びに来る30分前にやっとこさ、お世話係に叩き起されて、普段着に着替えたところである。


 月本市で、『表』でも『裏』でも第一位の名家『月本一族』の直系の御姫様にも関わらず、あまりにもずぼらであった。


 一応、一番ましな服を選んで、朝食代わりにバナナを食べて歯を磨いたところで、友人が正面門についたという報告を受ける。じいやが母屋の玄関まで案内しているとのことで、早速履物を履いて外に出迎えに行く。

 玄関前に付くと、じいやが少女を一人案内してきた。
 他所行きの、女の子らしい服を着こなした、小柄でおかっぱな少女に、微笑んだ。
「おはようトーコ、今日は来てくれてありがとう。ゆっくりしていってね」
 何故か、冬子の顔はちょっとひきつっていた。
「本日はお招きいただいてありがとう、クッキーを作ってみたよ。お口に合うといいのだけれど」
「きっと美味しいわ。じいや、離れに行くから、お茶をお願いね」
 そうして、友人の表情の変化を少しも気にせず、彼女の寝起きする離れへと足を進めた。
 色々と込み入った事情があり、一人小さな離れ屋敷をあてがわれているが、結局は食事は母屋で取っているため、少し大きな自分の部屋感覚である。
 心持ち、はずんだ調子で歩く彼女に、いつものようにてくてくとついていく少女は、周りに人がいなくなったのと確認して、声をかけた。
「なあ、お前様はいつもそんなラフなのかい?」
「それは、自分の家だもの」
「それにしても名家のお嬢様が作務衣にお便所スリッパで友人を迎えるのは、いいのだろうか。なんだか、おめかしした私が、逆に気を使ってしまう」
「お友達を家に呼ぶなんて、そんな大仰なことでもないのでしょう? 私は初めてだけれど」
「私だって、人の家に呼ばれるのは、初めてだよ」
 私が意識し過ぎたみたいじゃないか、などと文句を言うと、格好悪い気がして、冬子はその話題をそこで切ることにした。
「別に、いつもみたいなスカジャンにカーゴパンツでも、私も、家の者も気にしないわよ?」
「私が気にするんだよ、まったく」


 離れと言っても、屋敷の体をなした建物の、縁側を歩いて、障子が開くと、畳の部屋が現れる。
 整理整頓とは、少し遠かった。
 雑誌は出しっぱなし。脱いだ服は部屋の隅の洗濯かごに入れっぱなし。さすがに足の踏み入れる場所もない、ということはないが、少し、ものぐさな主人の性格が見て取れる。
 ただ、屑かごが綺麗なことと、蒲団がちゃんと庭先で干されていることだけは、評価してもいい。……、いや、普通のことだ。
「掃除、しなよ」
「してるわ、家政婦のみどりさんが。二日に一度」
「……、学校と家で、イメージ全然違うものだね」
「私は立ち振る舞いを変えているつもりはないのだけれど。さ、どうぞ座って」
 うながされて、勧められた座布団に腰を下ろした。
 どうしようか迷ったが、一応正座にしておいた。


 どちらが先にこんな話にしたのかは、覚えていない。
 確か、休日はどう過ごしているのか、という話をしていたら、冬子が次の日曜日は部活動が休みになる、と口走って、なら、私の家で話をしましょう、ということになったのだったか?
 お互いに、休日に人と会う生活などしてなかったため、実は、ちゃんと緊張しあっていた。けれど、土日になったからと言って人の全てが変わるなどということはなく、結局は、休み時間や昼休みの延長と変わらない。

 一時間もしたころには、冬子は足を崩し、作ってきたクッキーを食べさせあったりしていた。
「ところでキス」
 話題が、唐突に変わった。
「え、キスって……、したいの?」
「違うよ、喜須(きす)はお前様の名前だろうよ」
「ちょっと焦ったわ」
「焦るな。……あの、縁側で寝転がっていた角の生えた明治の書生みたいな格好した少年は、君のところの使用人とかお客じゃないのだよな」
「ええ、『童子』よ。私が『安綱』になって家に帰った時にはすでにあそこにいたから、元からいたのでしょうね」
「なかなかに肝が太いのだね。家にあんなの住み着いてるのに」
「私も、人目見た時はびっくりしたけれど、害もないし、そうね、むしろ逆。そこで寝転がっているのを見ると、なんだか落ち着くの。あれって、もしかして<安心童子>とかそんな名前?」
「さあて、私も童子博士じゃないからな……。ただ、確かに見ていて嫌な気持ちにならないね。うん」
「クッキー、食べるかしら」
「やめておきなさい。居着くといけない」
「落ち着く空間に居着く童子なら、いいんじゃないかしら」
「早合点だよ。案外、<物臭童子>かもしれない」
 そこで、薄い赤毛の少女は、唇に指をあて考える。
「もしかして、<物臭童子>がいるから、私も片づけができない子になる、なんてこともあるの?」
 ふむ、と。冬子は真面目な顔をして、二秒考える。
「確かに、『童子』を使役して、その特性を利用して人に呪いをかける、なんて悪党も世の中にはいたらしい。非常に古い、失われた技術だよ。だが、童子が自身から人に影響を与えることは、ほとんどない。例外は、あの白髪の餓鬼だけだ」
 <開眼童子>

 二人が、同じ過去を思い出そうとして、冬子はかぶりを振って、意地悪い笑みを浮かべる。
「しかし、大丈夫。キスが面倒くさがりなのは、誰のものでもない、自分自身の性分さ」
「褒めてない、わよね」
 ぼやきながら、月本(つきもと)喜須(きす)は六枚目のクッキーを口にした。


38 :akiyuki :2013/02/11(月) 17:30:06 ID:P7PitFPms7

紅茶童子


 証城寺文蔵は悩んでいた。

 部活の先輩(女子)に日曜日に買い物に行こうと誘われたまではよかったし、その日は特に用事もない。しかし、一つ、問題が生じた。


 何を着たらいいのだろうか?


 男友達となら、普通に学ランを着る。
 彼が休日を共にするような男もまた、いつも学ランで待ち合わせ場所に来るため、合わせることにしていた。
 しかし、休日女性と買い物に行くのに、それは違うような気がする。浮世離れした文蔵にも、それくらいの感覚はある。
 そもそも、彼女は一体何を着てくる気なのだろう?

 それを訊いた方がいいのだろうか? いや、それはいくらなんでもない。

 一番身近な女性。……姉か?
 いや駄目だ。


 信頼している女性。……黒猫のような同級生を思い出す。
 ……呆れられるだろうか。

 いや、聞くは一時の恥。聞かぬは一生の恥だ!

 馬鹿は深夜、同級生に電話した。





「……と言う訳なんだが、鍋島。僕は何を着ていったらいいだろうか」
「馬鹿じゃねーのお前」
 即答であった。
「……。すまない。しかし、どうすればいいのか」
「……化物に立ち向かえる男が、なんでそんなことで悩むんだろうね」
 大げさなため息が、受話器の向こうでされた。
 そして、仕方ないという空気が十分伝わる中、友人はアドバイスをくれた。
「普通の服でいいんだよ。別に、値札つけて歩くわけじゃないんだから」
「……おぉ」
「いや、そこでそんなに感激の台詞を吐かれても……」



 日曜日。

 とりあえず、家にあったグレーのシャツ(特注)とベージュのズボン(特注)、なんかよくわからないブランド物のスニーカー(特注)を身につけて、待ち合わせ場所で二十分前に着く。
 彼の知っている彼女なら、たいてい十分前くらいにやってくるだろう、という段取りである。

 文蔵の予想通り、待ち合わせ時間の十分前に現れた上級生の島左子は、学校指定のセーラー服が、びっくりするくらい似合っていた。
「文ちゃんお待たせ……。あ、やっぱり制服は変だったか、な……」
 自信なさげに視線が少し下がった彼女に、文蔵はいつものように大きく笑った。
「好きな服着ればいいと思います。別に、値札つけて歩くわけじゃないんだから、さあ、行きましょう」

 そうして、服装も相まって父兄にしか見えない巨漢と、チビ・眼鏡・三つ編みと三拍子揃ったセーラー服の少女は、月本市で一番大きなショッピングモールのある、童子町を歩き始めた。



 昼過ぎであろうか、ウィンドウショッピングをしていたら、いい時間になったため、どこか喫茶店にでも入ろうと物色しているところ、奇妙な光景を見た。

 
 レストランの、路地向かいのテラス。日当たりのよい席で、男女が向かい合わせに座っていた。
 一人は、作務衣に便所スリッパという、この街並みに反逆するような格好でありながら、その白い肌を引き立たせ合う黒いミィディアムヘアと、美貌とでそのコーディネートを捩じ伏せていた。
 もう一人は、少年と言った年。それに誂えたシルクハットにタキシードという気取った(?)格好。そして、額から伸びた、黒い角。

 店内も、道行く人も、誰ひとりとして彼と彼女を認識していないように思えた。
 わざわざ他人をじろじろ見る習慣なんてないというだけの話かもしれないが、あまりに不自然な二人に、誰の視界にも止まらないのは、不自然である。

 
 普通は見えないものなのだろうか。


 ありとあらゆる異能に対して親和性を持つという文蔵のセンサーに、新しく引っかかった化物達なのかもしれない。

 ただ、紅茶を楽しげに飲んでいるだけなのだから、別に放っておいてもいいのかもしれない。


「文ちゃん、あのお店にしようよ」
 どこか、あらぬ方を見つめているように見えたのだろう。
 同伴する少女が、不審げに見上げてくる。
「どうかした?」
「……いえ、なんでもありません。それにしても、あのお店、見るからに女の子してる感じですが、僕が入ってもいいのですか?」
「文ちゃんそういうの気にしないで甘いもの頼める人でしょ?」
「……左先輩はそんなのの隣にいて、気にしませんか」
「彼氏と入るのに、そんなの気にしないよ」
 文蔵の体が、一瞬硬直した。
「……本当に、どうかしたの? 何か、また視得たの?」
 文蔵がたまに、この世とは違う理屈で生きる者達の世界に触れていることを知っている左子は、心底心配した顔をしていた。
 文蔵は、嗤った。
「……なんでもありません。こんなお店がたくさんあるところなんて普段来ない田舎者ですから、ちょっと挙動不審になるんです」
「変な文ちゃん」
 そう笑って先行する彼女の背中を見つめながら、文蔵は自嘲する。

 ああ、もう僕達付き合っていたのか……。

 今日こそは告白しようと必死な覚悟を決めていた自分が、あまりにおかしくて、なんだかお腹が空いてくるのだった。

 とりあえず、何か食べようか。


 頭の後ろをかきながら、文蔵は『彼女』の背を追った。


39 :akiyuki :2013/02/18(月) 22:24:05 ID:P7PitFPHzJ

甘辛童子


 その子供の形をしたものは、赤かった。


 燃えるような赤い髪をしていた。
 作り物のような、現実感のない長髪が、足まで伸びて、地面に垂れる。
 きっと赤いシャツだった、襤褸切れを纏い、その下の皮膚は、赤銅色。
 赤く、赤い瞳。
 赤く、赤い爪。
 その額、赤く赤く、赤い角一つ。

 異形の子。

 これまで幾度となく、幾種となく見てきた、『童子』達。
 それらすべてを押しのけて、異形番付一等席に現れた子鬼。

 時間は、土曜日の昼下がり。中途半端な時間帯。
 天気は、晴れ。雲は空の3割程度を覆う。
 場所は、家から、100メートル先のコンビニに行く途中のただの道。
 場所は、並ぶ民家の、塀の上。
 目撃したのは、『安綱』月本喜須。
 悩みも、事情も何もない。

 ただ、歩いていたら、それはいた。
 赤い童子は、笑いもせず、怒りもせず、泣きもせず。

 ただ、目があった。


 合っただけなので、無視してコンビニで雑誌を買った。

 帰り道にも、同じ場所にやはりいた。




 家に帰り、離れ屋敷の戸をあけて、縁側に<座敷童子>が寝そべっているのを確認して、部屋に入ると、同じように床に体を横たわらせた。


 色素の薄い喜須の赤髪が、畳に拡がる。

 あの赤髪の童子のことが、脳裏に浮かぶ。

 私の髪の色と、関わりがあるのだろうか。


 赤い髪の女の前に現れる童子?


 なんだ、そのニッチな存在は。

 しかし30万もの『童子』がいれば、一人くらいはそういうのがいてもおかしくは、ない?



 寝返りを打つ。


 今まで出会ってきた童子達は、皆自然現象に子供の形を与えたものであったり、人の感情に反応する者達ばかりであった。
 けれども。
 特に意味もなく、そこにいるだけの童子だっているのではないだろうか。
 すべての童子に意味だの役割があるわけでは、ないのではないだうか。


 見た目が派手なだけのただ、そこにいるだけの『童子』


 そこで、なんだか、おかしくなってしまった。

 それは、私と似ているな。


40 :akiyuki :2013/02/23(土) 12:05:09 ID:P7PitFPHzJ

蓑火童子


 異界との交渉・戦闘によって動いている街である、月本市。
 それを生業とする連中が酒の肴にする話と言えば、「誰が一番強いのか」を外すことはできない。

 月本市童子町の小さなバー。そういう連中の一人である千足(せんぞく)という痩せた男は、透明な器に注がれた、透明な液体を口に含む。うまいのかうまくないのかわからない顔をして味わう。
 隣席には、相棒である未成年の一色(いっしき)青年を座らせ、オレンジジュースとピーナッツで相手をさせている。
 今日も、化物との『喧嘩』を終わらせ、だらだらと余韻の時間を味わっている。

「『鬼』だな」
 千足は、少し考えた後にそう答えた。一色青年の「千足さんが戦り合った中で一番強かったのって誰よ?」発言に、対する回答。それに一色は首を傾げた。
「『鬼』? 鬼って、あの角が生えて虎柄の? そんなのが異界から来たなんて聞いたことねーぜ?」
「日本原産の異形だ。合併する前の鬼郷村(おにざとむら)には、何人かいたそうだ。今は、一人だがね」
 武道でもしているのか、首と腕回りが変に発達した、逞しい体を大きく傾げさせる。
「……鬼郷の半妖って、滅茶苦茶弱いじゃんかよ。そりゃ、そこら辺の雑魚キャラに比べりゃ有名どころは揃ってるけど。けど、今じゃ、どいつもぱっとしねーじゃん。現役で最前線張ってる千足さんのお眼鏡に叶う奴なんているのか?」
 手のひらにのせたピーナッツの小山を一気に口に放りこむ。
 租借して飲み込む時間くらいの間を取って、千足は答える。
「回りくどいことを言うのもあれだから単刀直入に言う。妖怪人間は相手に恐怖や畏れを与えることに能力の主点があるんだが、鬼だけは戦いに特化している。とにかく、ただ強いんだ。その最後の一人となった蓑火(みのび)千代(ちよ)。俺が出会った限り、最強はあれだ。あれは、誰にも勝てない」
 青年は、あどけない顔に目を輝かせる
「千代? 女かよ。まあ、この街の女は強い奴ばっかだけど。なんだよ、千足さんそいつに負けたことあんのかよ」
「負けてはいない。戦う前に全力で逃げたからな。絶対に関わってはならないと思った」
「じゃあ、そいつを倒せば、俺が最強ってことか」
「止めておけ。殺される」
「千足さん、腕自慢の若手にそのタイプの諌め方は逆効果っすよ」
「女郎屋敷小夜子と広瀬罪雛と月本健と黒騎士と竜王と重機姫を同時に相手して、勝つような相手だぞ。この地球上にいる限り、『鬼』に勝てる存在はない」
「……この街のオールスターじゃねーか。やばい、燃えてきた」
「……君はそういう奴だったな」
 あきれ顔の専属に、ちょっとまじめな顔で一色は反論する。
「でもさ、そういうの抜きにしても、いつかは攫いに行かなきゃならねーんじゃねーの? そういう奴らを捕まえて、解剖して、調査して、人造異能を作るのが俺達の仕事なわけだし」
「手が足りない。わが社で、ある程度の水準の異能者と戦える人材が、主任と俺と、君だけではどうしようもない。どうやら、蓑火千代は今、自衛隊に囲われている。手を出せば、この街の行政側の戦力との戦争になる」
「あー、ウチみたいな弱小企業、コキャっと潰されるな」
 そういうことだ。と言って、千足は手中の酒器の中身を飲み干した。

 店を去り、帰路に着きながら何かを思い出した様子の千足が、ぼそりと口にした。
「そう言えば、面白い話を聞いたよ。鬼郷の鬼人は、<蓑火童子>と人間の女の間に生まれた半妖を起源としているらしい」
 胡散臭そうな顔で一色は答えた。
「また『童子』かよ。最近、そいつの名前出てくるけど、本当にいるのか」
「この童子町は、童子の言い伝えが多い。古い文献には、童子を式神として使役している術師も出てくる。昔は、いたのかもしれない。神話領域の存在である可能性は高いよ」
「それでもさ、最近出てきてる『見た』って証言はどうすんだよ。一般人の目撃情報があるのに、俺達みたいな専門職が見つけられない、っておかしいだろ。市役所のホームページの、異界生物情報欄にも、載ってなかったぜ」
「視得るための、条件があるのかもしれないな」
「『安綱』って奴か?」
 千足は頷いた。
「もし、『童子』に関する事業が開始されるならば、まずは『安綱』の捕獲から始めなければならないな」
「視えるたって、その『安綱』って戦闘力はないんだろ? 面白みのねー仕事だな」
「誘拐は、リスクも大きいから、あまりやりたくない仕事だな」
「でもさ、今日攫ってきたじゃん。あの、バーのマスター」
「あれは、元々先月に死んでいた店主の残留思念を元に変形した異界粘菌生物だよ。姿形を自由に変えられるアメーバというやつだ。異界から流れてきていたのを、あの店主が匿ってやっていたんだそうだ。奇特なものだ」
「どおりで、ぶん殴った時ぬるっとしたのか。けど、あれペットには向かないよな」
「もう少し、ミーティングを真面目に聞くようになりなさい」
「……。え? 先月死んだ? じゃあ千足さんの飲んでた酒は?」
「酒棚にあった。封を切っていない酒は腐ったりしないよ」
「千足さんが持ってきてくれた、俺の飲んでたオレンジジュースは?」
「冷蔵庫は、ついていたからね」 
「賞味期限」
「んじゃ、お疲れ様」
「おいオッサン」


41 :akiyuki :2013/02/23(土) 13:00:29 ID:P7PitFPHzJ

夢日記


 とかく巨大で、計器だらけの壁と自動ドアだらけの通路。 
 気密が半端ない、宇宙船みたいな図書館に、地球外生命体が落ちてくるという夢だった。 


 僕の夢も生物災害好きだよなあ。 

  
 それは幼児体型のプレデターで、生態はエイリアンだった。 

 そいつは闇の中では不死身で、光環境下では弱体化するが、光合成で急速に成長できるというどっちにしろ人間様に不利な性質を持っていた。 
  
 さっさと逃げたいところだけれど、図書館司書として、こいつをこの図書館から出すわけにもいかず、滅することになりもうした。横にいたおちゃらけ風だった同僚が、深刻な顔でそう結論しもうした。 
 本当、人間って窮地に陥った時にどうしてあんな自己犠牲に目覚めるのかね。 
  
 ま、実際にやるのは僕なんだけどな。 



 事務室裏の倉庫から持ってきた手斧片手に、現場に帰ったら、あの化け物すでに消えてる。 

 嫌でたまらないハイド&シークが始まった。 
 仕方ないので、ノリノリで押しつけてきた同僚も巻き込んでやった。 

 激闘に次ぐ激闘。 

 次第に明らかになるエイリアンの生態。 

 あんにゃろう、メスで子供を産む気だ。 

 途中でブレーカーが落ちて館内の電気が全部消えた時は死ぬかと思った。 



 最終的に同僚が囮になって現れた所を、強烈な光を当てて動けなくして、五体バラバラに刻んでくれたわ。 
  

 脊髄が、二本あった。 



 で、遺体が成長しないように、完全密閉の暗闇ボックスに詰め込んで、セメントで固めることにしたら、 


 箱が飛び跳ね始めた。 


 中で、何かが暴れている。 



 どうやら、エイリアンは胎生生物であったらしい。 


  
 箱を開けて、中にいるかもしれない怪物の子供と戦うのか? 

 それとも、この強烈な闇は、もう沈めてしまう方がいいのか? 


 同僚の亡骸の横で僕はもう途方に暮れた。 


 18時。 


 閉館時間が来た。 




 バッドエンド?


42 :akiyuki :2013/02/24(日) 09:15:52 ID:P7PitFPHzJ

夢日記



 世界中の地面が大隆起した。 

 しわ寄せみたいに、ユーラシアの左隅で中東が沈没。 

 行く当てがない流浪の民は、地殻変動で国土の95%が山地になってしまった日本に傾れ込んできた。理由? 預言の書の導きだってよ。おかしいだろ回教的に考えて。 


 そんな流れで、国という国が崩壊して、何もしなくても鎖国状態の日本は、仏教と神道とイスラム教の融合した変な宗教が国体を支える、政教同一の山岳国家になった。 


 それから数十年? 

 今時珍しい、混じり気なしの日本人であった僕は、何の因果か、新しい国の伝統行事になるであろうキャノンボールレースに参加することになった。 

 数百人が参加。 
 5日間かけて雲がかかるような山を5つ越える。 
 手段は徒歩。それ以外のルールなし。 
 優勝者は、偉い人になれる。 

 24才になった友達2人と共に、参加する。 
 まあ、僕はやる気ないんですけどね。 

 まあ、登山ですから。 
 きつい。 
 でもまあ、レースに参加してるつもりもなく、3人適当に楽しみました。 
 途中で、30回目の挑戦になるという、すごいアラブ顔のおじさんにいちじくもらったりしながら、山刀を持った見るからに山人って人とお話したり、この国もなんとかなるのかな。って思っていたら 


 初日 44位 
 二日目 11位 


 ものすごく、期待の超新人になりました。 


 で、なんか山の中で『預言の書』とかに出てくる仙人からいちじくの実をもらったことになったり、僕と友人2人が、伝説の三聖人になぞらえられたりとか。 

 おいおいまてまて。 



 これで優勝したら、やばいことになるんじゃねーのか? 


 だって、僕はその伝説とは、部族的にも人種的にも違うのに。 

 英雄の誕生という奴らしいが、正直迷惑なことこの上なかった。 


 今までの歴史上の偉人達もこんな感じだったのだろうか。 


 とりあえず、早く後3日終わらせて、家に帰って仕事に戻りたいと切に願う僕なのでした。 


 命、狙われる宣言されたけどな。 






 という、すごくいろんな意味でギリギリな夢を見た。 


 とりあえず、見様見真似でやったヤールギレシュは、最高に面白かった。それだけ。


43 :akiyuki :2013/02/26(火) 18:40:55 ID:P7PitFPHzJ

夢日記


 パラレルワールドって所から女の子がやってくる夢だった。 


 僕の住んでいる町で、ガードレールが引っこ抜かれて、跡に白い塗り壁が設置されるという事件が起きた。 
 何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからねえ。 
 確かに転落防止にはなるだろうが、向こう側が見えねーじゃねーか。 

 しかも、市役所道路課に勤めている僕の管轄でばっかり。 


 例によって例の如く、解決しろとのご命令。 


 しかし、短時間で重機も使わずに、コンクリートに固定したパイプを引っこ抜いて壁を設置する技術が想像できない。 


 どうしたものか。 




 で、パトロールしてたら、早速現場に出くわした。 

  
 犯人は女の子だった。 
 大きな瞳、黒くて長い髪、えらく細くて白い指。豊かな胸。堅そうなブーツ。健康そうな頬。顔に向日葵張り付けたような、強い笑み。 
 小柄な体に、僕とは逆ベクトルで特異なパーツを詰め込んだ、僕より7つくらい年下っぽい女の子。 
  
 彼女の左手がガードレールに触れると、それは煙のように立ち消えて 
 彼女の右手が天にかざされると、天から鬼太郎に出てくるような長方形の白い塗り壁が落ちてきて、見事にはまる。 



 その子は平行世界から資材を確保するためにやってきてトレジャーハンターみたいなもので、こっちの世界の土木資材を奪って、代わりに同じ質量の産業廃棄物である珪藻土を放棄していくのだという。 

 で、その子はそのパラレルワールドにおける僕で、違う世界のもんを取るんでも、自分からならいいかなーという理由で、僕のかかわりのあるものからもらっていくんだってさ。 

 うーん、借りぐらしのアリエッティ見たせいかなー、この設定。 





 ……。 


 おい、まさか僕はこの女の子と対決しなきゃいけないとか、そういう展開じゃねーだろうな。 



 ってところで、目が覚めた。 



  
 なんかさー、最近とばした夢をよく見るんだけれど、オチまでいかないんだよねー。 
 もっと寝る時間取れば最後までいけるのかなあ。 

 そして、夢の中でも仕事をしている僕を褒めてあげてください。 




 追伸 そうか、おかしな事件に巻き込まれる市役所の人って短編集にしたら、面白いかも。


44 :akiyuki :2013/03/02(土) 08:19:36 ID:onQHQJoetm

夢日記


 天から生物の残骸が落ちてきた。 

 遠目にはクラゲみたいだったけれど、近づくとモザイクかかりそうな代物だった。 



 5mはあろうかという、大脳。 

 そして、それから生えた2本の脊髄。 


 あまりに圧巻過ぎて、グロイの通り越してた。 


 骨も肉も落ちてこなかった。消化器系、呼吸器系、循環系も。 

 市役所職員の僕の仕事は、この落ちてきた神経系の内臓を頼りに、どんな姿形をした生物だったのかを特定すること。 
 生き物の種類によって(ペットなのか危険指定されてないか)、処理する部署が違うんだってさ。 
 
 まず地球生命体なのかもわからないこの死骸の始末を、どの課が担当するかを決めるために、UMAの正体探しが始まった。いいのか、こんなことに税金使って?!  


 しかし、背骨が二本ある生き物の想像図なんて、どうしろってんだ。 

 図書館にこもる日々。 
 吸ったこともない煙草に手を出してふて腐る。 
 「残骸が腐食始めたから、早く特定しろ」とか文句言われるし。 

 そんなやくたいもない毎日を過ごしていた僕は動物図鑑を棚に返す途中、『栃木の妖怪』という本に手を出して、ついにそいつの正体を突き止めた。 






 名前を読む前に、目を覚ます。 





 こんちくしょう、またこのパターンかよ。 


 ……。しかし、あの本実在するんだろうか。 

 誰か、『栃木の妖怪』って本持ってない?


45 :akiyuki :2013/03/02(土) 08:23:12 ID:onQHQJoetm

夢日記



 午前三時からうなされながら見た夢は、どうも断片的で滅茶苦茶だったけれど、とりあえず象徴的なシーンだけ抜粋して、想像で補完してみた。 




 天から生物の残骸が降ってきて、時間がだいぶん経った。 

 友人が、地球外知的生命体を捕まえる研究をしており、手伝って欲しいとか言い出した。 

 その手順はこう 

 @ 500人以上の人間が一か所に集める 
 A そこで糞つまらん白黒映画を放映することで、地球外生命体を呼ぶ『場』が形成される 
 B 降臨したが最後、エーテル掃除機で地球外生命体を吸い込む(霊的な意味で) 


 で、頭数が足りないから、知人友人を一人ずつ説得して協力してもらっているという。 
 なんて人脈広いんだこいつ。 



 で、実験開始。 

 で、実験失敗。 


 友人め、魂と肉体が粉々になって地球上に散らばってしまった。 


 残された500人の友達の友達連中は、唖然とした。 

 呆然として、そんで、もう一回、集まることにした。 


 500人友達会議の結果、今度は同じ方法を用いて友人の魂を捕獲しようということになった。 
 なんでも、その500人の中には、友人の研究室の教授とかもいて、理論上はそうだとか言ってたから間違いない。 
 で、設計士とか、金物屋とかで集まって、大爆発したエーテル掃除機を作り直す作業が始まった。 

 友達は掃除機の設計図をなんか外国語で書いたりしてたから翻訳が面倒くさかった。 
 あと、今度は1000人くらい集めなくちゃいけないので、皆、総がかりで勧誘の電話した。 
 妙な材料はコネのある人が調達した。 

 変人の友人が500人も揃えば、できないことはないな。 


 僕を除いて。 


 なんか僕だけ無資格無技術なのに、この500人会議に出席して、幹部要員12人の末席にある。 
 なんで? 



 多分、僕が唯一、地球外生命体に接触したことがあるからだろう。 

 いや、死体だったし、つーああれ栃木の妖怪ってことで決着したんじゃないの? 


 そんなこんなで、あの子の救出計画実行の夜。 


 星空の下で糞つまらん白黒映画を見る会に1200人が集まり、後は上映中に天に漂うだろうあの子の魂みたいなもんをエーテル掃除機で吸い込むだけ。 


 しかし、あの子好かれてるなあ。 

 たった一人を救うために、499人の変人が必死になってるんだから。 

 僕? まー、することないから。 

 いるのが仕事? みたいな? 

 いつも通り、必要が来たら働くスタンスですよ。 




  はい、緊急事態発生ー。

 なんと、映画が上映されたのに、まだエーテル掃除機が完成していないという非常事態。 

 なんと、掃除機作製班と上映会実行委員会の間で連絡がうまく取りあえていなかったよう。 

 まじかよ。 




 で、最後の掃除機の調整が、僕の仕事になった。 

 いやいや、何にもしなくていーから、って言われたから、専門的な勉強してないから。 




 話を聞くと、なんでも、映画の上映が終了するまでに、市役所地下一階に保存された『例の落ちてきた奴』の髄液を2ml持ってくる必要があるらしい。 


 あー、そうか。 
 僕はこの時のためにここにいたんだな。 


 そんなわけで、500人の中でも比較的仲のよかった、仕事が与えられなくてサボっていた底辺グループが、サンプルを取りに走る。 


 慌てに慌てる。 
 ボロジープのサスペンションの悪さにいらいらする。 
 赤信号がまどろっこしい。 
 地球外生命体が邪魔をする。つーか、お前本当にいたのかよ。 
 でも、今はこっちが大事だ。 



 着いた。 
 守衛さんに頼んで鍵を開けてもらう。 
 久しぶりに見る(2日ぶりか)奴の死体。 
 悪いけど、2mlほどもらうぞ。 


 よし、準備できた。 

 糞つまらんくせにひたすら長いサイレント映画も、後30分くらいで上映終了か。 

 急げ。 
  
 あの子を。 

 僕は立ち上がる。 













「○○ー、母さん先に仕事行くから」 

 母に、起こされた。 


  
 ・・・ 


 ・・・えー。 



 夢の設定が続いたの初めてだった。


46 :akiyuki :2013/03/03(日) 08:32:05 ID:tDVcxmsFWm

夢日記


 古代、邪馬台国の卑弥呼が、実はホグワーツ魔法学校の卒業生だという事実が判明した。 

 宇井頭理伊と葉亜間意尾仁という二人のお付きを連れてイギリスに行ったんだってさ。 


 結構、無理のある夢だった。 

 とりあえず、お付きの二人はばりばりモンゴロイドで髭面のおっさんだったことが強烈だった。


47 :akiyuki :2013/03/03(日) 08:33:57 ID:tDVcxmsFWm

夢日記


 人が紙になってしまう出来事が起こる。 

 事件なのか病気なのかわからないけれども、いきなり人間が、小さな一枚の紙切れになって、道端や部屋に落ちている。 
  
 なんか当たり前のことらしくて、いつ、どこで誰が紙になるのかわからないのに、皆当たり前のように暮らしてるし、旅行に行く。 

 どうも100万人くらいはすでに紙になって、もういなくなっているのに、怖くないみたい。 

 なんだか、一人だけそれを怖がってる僕がおかしいみたいな雰囲気だった。 

 みんな、目の光がない。 
 紙になってしまったら、それでさようなら。 
 紙は、誰も拾わなければ清掃業者が片付ける。 

 それに違和感を持ってるのも僕だけ。 

 なんか一人だけ違う世界から来たみたいな感じ。 

  
 でもあんまりにも町中にゴミなのか、人だったものなのかわからないもので溢れて、僕はできるだけそれを踏まないようにしながら、親友のA君と幼馴染のB子ちゃんと卒業旅行に行く計画を立てながら歩いていた。 

 はい、A君紙になりました。 

 その紙は僕が大事に保管してます。 


 瞳孔開きっぱなしの背の高い女性が突然現れて、その紙切れを寄越せとか、僕も紙になれとか言うので逃げました。 


 捕まったら、多分紙にされます。整合性ないけれど、そう確信しました。 


 四国脱出して、本州の臨海工場地帯に逃げ込みました。 

 従業員が皆紙になって、紙吹雪が舞う石油コンビナートの中を走ってます。通路には元人間だった傷んだ古紙が敷き詰められてます。誰も拾わないのかよ。 
 ええ、もう余裕ないので踏みます。 

 電話。 
 B子ちゃんからです。 
「A君知らない?」 
「紙になりました」 
「あー、そうなんだ」 
「悲しくないの?」 
「まー、私もその内紙になるし」 
「怖くないの?」 
「      」 

 僕の方がおかしいのだろうか。 





 それから紆余曲折ありまして、人が紙にならない東日本に亡命することになりました。 
  
 塵ひとつ落ちてない港で、船を待っていたら、瞳孔開きっぱなしの追跡者がタンカーの上から僕を見下ろしてました。 
 見つかったので逃げようと思ったら、彼女は両手をあげて見せる。 
 右手に紙切れ一枚。 
 左手に、B子ちゃんの携帯電話。 


 野郎、やりやがった。  
 紙切れを船の上から落としやがった。 


 まあ、逃げるべきだったんですけれど、誰も紙に価値なんて認めてないみたいなのですけれども、拾いに行きました。 
 波にさらわれてなくなる前に拾えました。 


 表を確認すると、B子ちゃんの名前が書いてあって 
「○○君、今までありがとう」 
 とか書いてあった。 
 なんか、もうよくわからなくて泣いてしまったら、後ろに人の気配。 
 多分、振り返ればおしまいなのだけれど、なんかよくわかんなくてしばらく泣いてた。 
  
  
 しばらくして、振り返って、背の高い彼女の瞳孔開いた目を見ようとしたら 




 目が覚めた。 



 厭な夢だった。


48 :akiyuki :2013/03/03(日) 08:40:41 ID:tDVcxmsFWm

夢日記

「あんた半分妹がいるよ」 

 就職が決まってほっとしてたら、母親に言われた。 


 何を今更、と思いつつもその子は僕よりも平凡な性格と体格をしているのかが気になった。 

 そうしたら、卒業までのモラトリアム期間にホテルの厨房でバイトすることになった。厭だった。 


 職場についたら、魚が煮えたら鍋から出してもりつけろだのごま豆腐の湯加減を見ろだの僕のやったことない仕事ばっかりだった。バイトってのはこんな難しそうなこと任されていいのか? と悩んだけれど、とりあえずやった。 
 仕事が終わった後、坊主頭の若手リーダーみたいな人が指導してくれた。 
  
 湯豆腐作ってくれた。 
「これ食ってみろ」 
 しぬほど旨かった。 
「これくらい茹でて、これをかけると、こんな味になる」 
 覚えないわけには、いかなかった。 


 リーダーと、その恋人らしい厨房の仲間と、三人で仕事を上がると、会話の中で、どうやら僕の『半分父』にあたる人がこのホテルの中にいることを知った。 
 オーナーというポジションにいる人が、それらしい。 


 おいおい、いきなりちけーな。 
 と思ってたが、地下駐車場でばったり会った。 
 おいおい、いきなりはえーぞ。 
 とツッコミ入れたが、夢の中だとまだ気付いてないから 
「運命ってあるのかもしれないな」なんてセンチメンタルなことを考えた。 
 僕の血統上の父は、ドラマに出てきそうな、タイプ1/げんかく タイプ/2れいてつ とくせい:ワンマン社長 って感じだった。 

 僕を一瞥してリムジンに乗ってどっか行った。 


 なんか、イラっときた。 

 しかも、僕がバイトをするように斡旋したのは、その人なんだとか。 



 まだ大学生の頃という夢の中の僕は当時もっとも信用していた、僕の知る限りもっとも邪な先輩に相談してみた。 
「それは、多分その社長に娘しかいないからカンテラを自分の跡取りにしたいんじゃね?」 
 と三文芝居もびくりの予測を立ててくれた。 


 どうやらそうらしいとわかった時は、なんか、やっぱりイラっときた。 

 しばらく役立たずなアルバイトを続けてもしかしって僕って駄目人間? なんて憂鬱な気分でいると、急転の情報。 
 就職先から、「明日から研修入るから、来てね」との電話。 
 おいおい、いきなりすぎんだろ。 
 バイトのシフトがみっちり入ってる。さて、どうしょう。 

 坊主頭のリーダーは、今日も僕を可愛がってくれる。 
「お前さ、うちに就職しないの?」と訊かれた。 
 就職先が決まっていることを説明したけれども、「いいじゃん、辞めちゃえよ」とか言い出す始末。恋人の茶髪の女の人(黒かったかな?)も同じように唆す。お前ら、僕の何がそんなに気に入った?! 

 あの邪な先輩なら「お前が御曹司ってわかったから心証よくしようとしてんじゃねーの?」とにやつきながら言うのだろうなと下種な想像をした。 


 次の日の夜7時30分より、研修は始まる。 
 おせーよ。 
 会場まで歩きながら、繁華街を歩く。 
 一応、今日は休みにしてもらったけれど、この後、明日も休みにしてもらえるように件のホテルに行く。ああ、厭だ厭だ。 
 しかし、本当に悪い話なのだろうか? とちょっとぐらつくことは、誰にも口にしない。 
 なんかオーロラビジョンで映画の宣伝していた。 
 ひたすら影の薄い野球少年が、チアリーダーの女の子にいいところを見せるために頑張るという映画だった。ただ、下手なのでゴロ併殺されたりエラーしまくったり。それでもあきらめない情熱が少女を惹きつけるようになるという筋書きだった。 
 僕の人生もこうならないかなあ。 


 主題歌をレディガガが歌うと聞いてどんだけ金かかってんだよと思ったところで、そろそろこれ夢じゃねーのか? と疑い始める。 

 起きそうになった時に、もしかしたら、あの半分父も僕を見た時にイラっときたんじゃないのかと思う。なんたって、僕の片割れなのだから。 

 バイト辞めようと、思った。 

  


 起床。 

 長い長い夢だった。 

 とりあえず、第一声。 

「あれ? 妹出てきてねーぞ?」 
  





 昨日の夜から続いた喉の痛みがだいぶん引いた。


49 :akiyuki :2013/03/09(土) 14:13:57 ID:onQHQJoDWe

夢日記

 夢の中で学ランを着ていた。 

 通学路に、打ち捨てられたぼろい小屋がある。 

 そこには、インスマス面の老婆が住んでいるという設定らしく、邪神の気配を感じて調べに行くという夢だった。 

 家の周りを観察。 

 老婆が小屋から出て行ったので、接近。 

 電気が来ていることと、変なチューブが屋根からいっぱい垂れ下がっていることに気付く。 

 あと、壁が錆びていた。 

 錆びている? 


 金属か? 

 こんこんと叩いてみたら、 


 家の中からがたがた物音。 

 件の老婆が小屋の中にいるのが見えた。 


 さっき外に出てたじゃねーか。 


 やばい、見つかる。 


 慌てて退避。 


 通りすがりの高校生のフリをして、ゆっくり自転車を漕いでいた。 

 怪しまれないように、ゆっくり、ゆっくり。いつも通り。 


 ふと気になったフリをして、後ろをちらり。 


 小屋の前で、老婆が一人こちらを見ていた。 


 ……気付かれた。 

 というところで眼が覚めた。 


 本当、怖かった。


50 :akiyuki :2013/03/09(土) 14:14:50 ID:onQHQJoDWe

夢日記

 
 四国全域の米を管理する仕事に着く夢を見た。

 稲作とか、流通じゃなくて、物理的に暴徒から米を守る任を負う団体の首領だった。

 四国どうした?!

 久しぶりにやることなすこと裏目に出まくるネガティブな夢だった。


 最終的には奪われる前に米倉を爆破するという本末転倒なオチを迎えた。

 疲れた。


51 :akiyuki :2013/03/09(土) 14:16:37 ID:onQHQJoDWe

夢日記


 たった今、見た夢。


 高校生時代の友人と旅行したら、旅先の寂れまくった第三セクターで起きた窃盗事件に巻き込まれる。

 推理する横井
 相槌を打つ僕

 どこかに消える横井
 地道に聞き込む僕
 車に牽かれそうになる僕
 独自調査で犯人を特定した横井

 犯人はなんと第一容疑者の人事のおっさんでも、調査中に疑惑が増したお局様でもなく、僕達に助けを求めてきた事務のOLだった。

 あっけに取られて、横井に事情を問いただすと、ホームズみたいな返し方をされた。
 まさに、初歩的なことだよワトソン君状態。
 そういや君は高校生の時からそういうしゃべり方だったよな、と思い出してたら、目が覚めた。


 興奮さめやらぬ内に記述。


52 :akiyuki :2013/03/09(土) 14:34:22 ID:onQHQJoDWe

夢日記



  潜水艦の中で修士論文用のパワーポイント作ってる夢だった。
 プレゼンの練習したら音をたてすぎて、敵潜水艦に見つかった。
 ですよねー

 座礁
 ですよねー


 なんでも敵にこのパワポ見られるとまずいから破壊してくれと言われる
 ついでに機密のために君も死んでくれ
 だってさ


 こんちくしょう理系学生になんかなるんじゃなかった。

 夢の中なのになかなかヒーローになれんもんです


53 :akiyuki :2013/03/09(土) 14:35:24 ID:onQHQJoDWe

夢日記

 博物館に行く夢。 

 アラビアの剣が展示されていた。 

 同じ材質で、同じ形の剣を作ることが不可能なのだと言う。 

 ロストテクノロジー。 


 なんでも、特殊な粒を型に流し込み熱するところまでは解明されているらしい。 


 ……それ、発泡スチロールじゃね?


54 :akiyuki :2013/03/09(土) 14:41:43 ID:onQHQJoDWe

夢日記



 二百年後の人類は、衰退していた。

 宇宙線かなんかで汚染されて、人間が潜れなくなった海。 
 復旧のために頑張って潜る潜水士。 
  
 潜水士は潜れば潜るほど何の薬物の影響か、首が長くなる、体が白くなる、腕が太くなる。 
 エラでも肺でもない方法で酸素を取り込みはじめる。 
 エヴァ量産型にろくろ首つけたような姿になる。 
 その姿が「なんとか化」って専門用語で呼ばれてた。 
 ぱっと見、白いネッシー(人面) 


 女の子が、潜水スーツ着て潜水士の友人に会うため無理矢理海に潜っていた。 
 潜水士になった友達に、会うために。
 もう、何年会っていないのかわからないけれど、今も海の中をもぐっている彼に会うのだと。
 久しぶりに会うんだって。 

 で、女の子と喋ることもできなくなった人面ネッシーが出会って、泣いてたよ。 
「懐かしすぎ」 
 って言ってた。 

 海の中だから、言葉は届かないけれど。





 わが脳ながらなんでこんな夢を見ようと思ったのやら。 
 


55 :akiyuki :2013/03/09(土) 14:54:35 ID:onQHQJoDWe

夢日記


 主人公は半径2m内の人間を洗脳し「自分は魚肉ソーセージだと思い込ませる」超能力者。

 光に弱いゾンビ軍団を従えた「過去と未来を自由に行き来する」女子中学生を抹殺するために廃墟を走り回る。

 やたらメールを打つのが早いドワーフを相棒に、ゾンビを殲滅するストーリー。
 やたら怖かった。ひたすら僕の能力は役に立たなかった。命乞いで切り抜けた回数の方が多かった。

 後味がひたすら悪かった。そして、僕の能力がひたすら役に立たなかった。
 たまに追跡者よろしく現れる女子中学生を撃退。っていうか土下座で切り抜けた。不思議。 
  最終的に女子中学生を密室に閉じ込めて、窒素ガスを充満させて、窒息をはかる。未来に逃げても部屋の中はガスが充満され続けているので逃げられない。そこで過去の部屋に逃げさせて、そこにあるゼラチンのお菓子を食べさせるという作戦。この部分だけ、よくこんな発想できたなあ、と我ながら関心した。なぜか、その菓子がなくなることで、風が吹けば桶屋がもうかる現象が起き、女子中学生は女子小学生の時に不審者に腹を刺されて死ぬ(新聞にのってた)。 

 いやあ、後味が悪かった。あと、相棒のドワーフの浮きっぷりと存在価値のなさには目を見張るものがあった。 
 そういう夢。


56 :akiyuki :2013/03/09(土) 15:03:14 ID:onQHQJoDWe

夢日記


 大戦が起きて、衛星という衛星がすべて撃墜。

 地理を調べる手段が人力しかなくなった。
 世界中で地理Bを履修した人間でただ一人生き残った僕は世界地図を復元するためにメイド喫茶でオムライスを食ってる。
  
 という夢だった。


 こういう愉快な夢を見た日はいいことが起きない。


57 :akiyuki :2013/03/09(土) 15:03:48 ID:onQHQJoDWe

夢日記


 小説読んでる夢を見た。
 心震える名文だったのは覚えている。 
 夢から覚めそうになり、慌てて最初のページをめくりなおす。

 目が覚めたら、この文をすぐに書き写さなければ、と思った。

 起きた瞬間、忘れてしまった。

 あれはこの世に持って帰れる文ではなかったのかなあ。

 なんつて


58 :akiyuki :2013/03/22(金) 23:31:56 ID:P7PitFPHQn

ア・イデアの晩餐会 お品書き



 【ダンドリアン】月影次郎編



 柊学園高等部に、その名をとどろかす、奇妙な三人組がいた。

 眉が太くて、とかくよく笑う女子高生・白川実子(しらかわさねこ)
 その恋人にして肌が色黒いハンサムなヒーロー然した・加領郷歯車(かりょうごうはぐるま)
 そして、二人に比べたら地味な風貌に比べ、いつだって二人をサポートする(月影次郎つきかげじろう)。
 毎日をトップギアで生きている彼女達には、エキセントリックな青少年であることとは別に、裏の顔があった。

 地球と意識を接続し、過去から未来すべての事項を知る女子高生予言者シロネコとしての顔。
 6種の化け物を絶滅に追いやった、生粋の戦闘魔術師カーゴとしての顔。
 そして、日本国で一番強いと言われる異能の正統継承者九代目【次郎】としての顔。


 彼女達の住む街は、まるでフリーペーパーのように魔術書がそこら辺にあり、探そうと思えば、いくらでもこの世ならざるものが現れる、此岸と彼岸の境界上のような場所で、野ざらしにされた、他人を傷つけるための邪悪な魔術が転がっている。

 そういったものを片端から見つけて、破壊して、なかったことにしてく、正義の味方・もののけ三銃士としての顔。

 そして、もののけ三銃士には敵がいた。
 同じ学校に通う同級生。ちょっとミステリアス雰囲気を漂わせる、絵にかいたようなお嬢様。古来より綿々と受け継がれる呪術師の家系で、御家騒動で家族同士が争う中で精神を育んだ彼女は、その生まれと育ちから『悪』に傾いてしまった。
 天才少女・双葉宮咲貴(ふたばみやさき)。魔術を作る才能を持った彼女が、この世に力を放ち、それが悪意ある人間と結びついた時、よくない出来事が引き起こされる。
 
 三人の誰が言い出したのかはわからない。三人の誰が最初にそうしたのかは、忘れてしまった。
 ただ、三人は、それらを阻止し、打ち果たし、不思議な町を、ただの不思議な町のままにすることにした。

 そして、もうひとつ。月影次郎の幼馴染である双葉宮咲貴に、世界はそんなに悪いことばかりじゃないと、思わせることことそが、三人の使命。



 勝利条件はただ一つ。双葉宮咲貴を笑わせること。


59 :akiyuki :2013/03/23(土) 08:50:52 ID:P7PitFPHQn


 【夕焼けのデルタリオン】高山和時編

 月本市・うみねこ市・童子町・鬼郷村。

 世界を滅ぼそうとした魔女・白川実子の被害を受けた四市町村が、災害費用国庫補助を受けとるために、否、異世界の者や物の流入を防ぐために、合併し、月本一族による統括による復興を目指す。


 月本市うみねこ町にある、うみねこ高校に、偶然にもその四市町村から、それぞれ集まった四人組があった。
 女っ気ゼロ。モテなさ過ぎて頭がおかしくなりそうな青春を送る四人の野郎は、なぜか数十年に一度の流星群とやらを見に、小高い丘に登ることになった。
 隕石でも落ちてこないかと冗談を交わしながら、語り合う夜。

 空より、七体の巨大ロボットが落ちてきた。

 その内の一体、四人の目の前に墜落した、それの中から、メイド姿の少女が現れる。


 唖然とする四人に、何を思ったのか、少女は告げる。

 彼女の名はデルタリオン。この時代より遥か未来、宇宙に進出した人類によって作られた夢幻人形(アンドロイド)

 そして、目の前に横たわるその巨大な人型。それの名もまた、デルタリオン。宇宙航行用兼対宇宙生物(ア・イデア)殲滅用の想像甲冑(ロボット)四号機。


 ある手違いにより、起動し、過去の地球に逃げ出した仲間たちを連れ戻すために、彼女はやってきた。
 そして、彼ら戦闘端末は、想像甲冑内に人間のパイロットを搭乗させることでその真価を発揮する。
 ゆえに、六対の逃亡者はこの星の人間を捕え、取り込もうとするだろう。

 その前に、捕まえなければならない。

 四人の少年に、メイドロイドは頼み込む。

「お願い、私に乗って!」




 六日後、逃亡者の一・夢幻人形アルファりオスの言葉

「正直、引きましたね。ドン引きですわ。俺は逃亡の助けのための、システム起動キーとして、操縦席に座ってくれるだけでいい、って言ってるだけなのに、ノリノリで動かすし、町壊すし。この星の人間ってだいぶん危険ですわ。月を見ると狼になるし。俺達以外の異界文明だらけで、特別視もされないし、『ああ、また来たか』みたいな扱い。とんでもないとこに墜落しましたわ」


 
 


60 :akiyuki :2013/03/24(日) 20:02:24 ID:onQHQJoDsG


【もののけ三銃士】島左子編

 この世とは違う理屈が働く異界が存在する。それは月本市の勢力下にあるこの町では常識であった。

 しかし、宇宙から飛来した七対の巨大な人型機械による破壊によって、この世界の遥か天蓋。
 
 宇宙にも、人智を超えたものがあり、そして、それは時として飛来してくることを、人々は目の当たりにした。
 
 人の希望だったデルタリオンが自壊し、次に同じ事態が起きた時、対抗手段はあるのか?

 そのために、準備する必要があった。


 それらと戦うための手段と、話し合うための手段を。



 たった一人で部活動を運営sている、うみねこ高校化学部部長 島左子(しまひだりこ)は、新入部員を入れなければ廃部となる科学部のために奔走していた。
 空回りしながらの勧誘活動ながらも、なんとか三人の一年生を取り込むことに成功した。

 しかし、この三人というのが曲者で、この町有数の金持ちの御曹司だの、廃村から流れてきた拝み屋の跡取りだの、とかく黒い交際の話題が絶えない美少女だのと、キャラの濃い連中であった。
 逆に取り込まれてしまったんじゃないのかと不安になったが、困ったことに、三人は三人とも左子のことが好きらしく、地味で目立たないマイナーサークルであったはずの化学部は、存在するだけで有名な奇妙な団体扱いとなってしまった。


 しかし、さらに困惑することに、この三人が三人とも、話してみると普通の後輩であった。ちょっと人とは違うところがあって、浮いてしまうところもあるけれど、とても素直で、一緒にいるのが苦しくない。
 彼らにも、彼らの悩みがあった。それを、真摯に聞けるのは、左子だけだった。
 左子は、決めた。自分は、この子達の理解者になろう。
 ここを、私達四人の居心地にいい場所にしょう、と。


 たとえ、空から宇宙人魚が降ってきて、彼女を宇宙に還すために走り回る羽目になっても。

 たとえ、宇宙戦闘民族の生き残りから逃げ回り、あまつさえ決闘せねばならぬとしても。

 たとえ、獣に化ける力を持った異能者の存在を知り、変身人間チーター女に食べられそうになったとしても。

 たとえ、電磁波を食べる月の兎が町中に放たれて、それを捕まえなければならなくなっても。

 たとえ、十年前の卒業生が残した、四種の殺人妖怪に狙われても。

 


 たとえ、化学部の一年生三人が、伝説の『もののけ三銃士』の名を引き継ぎ、この町にふりそそぐ『おかしなこと』を解決するために走り回ることになっても。

 あまつさえ、左子がその頭目として祭り上げられるようになったとしても。


 左子はへこたれない。ちょっと、泣きそうになるけど。


61 :akiyuki :2013/03/24(日) 21:43:28 ID:onQHQJoDsG


【平行協定】女郎屋敷小夜子編


 最早、収集がつかなくなってしまった。

 神話の領域から綿々と息づく、妖と魔は、タガが外れたように白昼の下にさえ現れ出した。
 妖怪が歩き、人が怪物となり、夜は完全に人のものでなくなった。
 魔がいなくなってしまったから、機能していた夜の部分が崩壊し、物流を破壊した。決して今までなかった、人の社会にさえ影響を与え始めた。


 あった可能性。あったかもしれない技術。超科学。魔術。超能力。堰を切って、あふれだした。これまで稀にしか確認できなかった異能の持ち主たちが、大量に目覚め、確認されはじめた。
 魔術を制御する月本一族や、鬼郷の者、錬仁宗。それらが掌握し、管理している以外の異能者の出現は、共同体の崩壊をさらに招いた。
 地球と相対する存在、ア・イデア。彼女の眷属が地球に落下することは、それなりの数が確認されていた。しかし、白川実子が門を開いたその日から、宇宙からの来訪者達は、そのすべてが、月本市に落下点とするようになった。因果が、そうねじ曲がってしまった。

 白川実子が門を開いたその日から起きた、この一連の大災厄は、いまだ止まらない。

 これに対して、根本的な対策がないからだ。

 異世界と月本市をつなぐ門はなんとかすべてを閉じることに成功した。

 けれど、チャンネルがつながってしまった今、いつまた門が開いてしまうかわからない。

 今、この町にただよう彼らを、どうやって止める? 誰が止める?

 ならばどうする?



 結論から言うと、それぞれの世界の代表者と話しあうことにした。

 そして、お互いに不可侵とするべきであることを確認し、それぞれの世界の者や物が流れ着いた時は、それぞれの世界の執行官がそれを対処回収することにした。


 剣祖文明圏に繁栄する王国から流れ着く、怪しい魔術師やあらくれ者は、黒い甲冑に身を包んだ騎士が捕まえることとなった。

 地獄より糧を求めて這い出す魂を吸う怪物達は、地獄より現れる時を操る少女によって、ぶちのめすこととなった。

 数十万の竜が生息する大陸より迷い込んだ幻獣の雛は、竜の王自らが迎えに行くこととなった。

 人類が存在しない地球より迷い込んだ人によって根絶されなかった絶滅動物達は、知性あるゴリラによって導かれることとなった。

 滅びた世界より難民としてたどりついた妖精達は、平行協定を理解できた一体の代表妖精によって管理されることとなった。

 この世に生を取り戻した妖怪達は、自らの組織を作り、統制を取ることで廃滅の動きから逃れた。

 

 このように、このように、確認できる異界と、その代表者との間で、相互救済を目的とした協定が結ばれることとなった。


 しかし、大きな問題が出てきた。



 この一連の異変に、解決の方向を見出した。

 つまり、平行協定の話を実現にまでこぎつけた一番の立役者が、就職活動真っ最中の女子大生であったということ。

 無限の異世界を相手取り、彼女の名で協定を結んで、組織は機能するのか?

 そもそも、その組織は何だ?

 その時、運用に資金を出すのは、誰だ? 公的資金を導入するにしろ、その法的根拠は? 
 というか、彼女は誰が給料を払うのだ?


 なし崩しであった。流れのまんま、一番最初に、異界に関する苦情を受け取って、化け物とのファーストコンタクトを経験した月本市役所が平行協定の実務機関となり、彼女、女郎屋敷小夜子(じょろやしきさよこ)は月本市役所に採用が内定した。

 そういうわけで、彼女はなんとなく、コネで入ったような気がして、あまりこの時期のことを話したがらない。


62 :akiyuki :2013/03/26(火) 23:21:08 ID:tDVcxmsFuk


【魔法使いのラブソング】鬼灯炎編

 人は誰だって精神が荒む時はある。
 心に闇がおりて、辛くってどうしようもない時がある。

 そんな時は、強い光でなくたっていい。
 夜道に浮かぶ、カンテラの灯火程度の光でいい。
 
 そんな明りでも、人は前に行くことができるから。




 種類様々な異能があふれる月本市に、魔法は存在する。
 白川実子が開門する以前より、地球に存在するその技術の根本は『繋ぐ力』である。
 遠くと近くを繋ぐ力。
 他者の心と自身の心を繋ぐ力
 敵と破壊を繋ぐ力。
 その力を持つものを、心を繋ぐ魔法使い(ラブソング)と呼ぶものは呼ぶ。


 まったく逆の魔法を使う者達がいる。
 力を使いこなせず、使うことを怖がり、他人に恐怖を押しつけてしまう。
 他者を拒む力となってしまう者達。
 思春期の少女が陥る傾向の強い、その分類を、心を拒む魔女(ヘイルホーリー)と呼ぶものは呼ぶ。



 広瀬罪雛(ひろせつみひな)という少女は、魔法使いの家系に育ち、一流の魔道教育を受け、特別な家系以外には使用不可能であった術さえ復元してしまうほどの才覚を持った、将来有望な娘であった。けれど、周囲の期待は心に負担をかけ、普通の子供のように遊んだり友達を作りたいという気持ちを抑えつけて過ごす日々は彼女の心を蝕んでいた。
 そして、とある夜に魔術の行使に大失敗して以来、彼女の心の均衡は崩れに崩れ、ついに罪雛は、人を拒絶する魔法しか使えなくなってしまった。

 という典型的な魔女で、

 鬼灯炎(ほおずきほのお)という少年は、異能などと関わってはこなかった。両親共働きのため祖母に真っ当に育てられ、よい意味で血の熱い先生によい教育を受け、大切な大切な友達を作り、その子が魔法使いであったため、思わず魔法を習得してしまった。
 とかく優しくて、人の心の繊細さというものを、大事にしたがる傾向があった。
 
 それが、わがままだとしても、自業自得だとしても、荒んでしまった同年代の人間を、放っておけない性質で。
 心を持てあまし外部に悪意をふりまく魔女を放っておくことなどできなかった。
 炎にとって、罪雛はもろ、ど真ん中であったのだ。



 罪雛は戦う。
 人に害なす者と戦い、それを止める。
 罪雛自身のように、他人も自分も苦しめる行為をしなくていいように、戦って止める。
 その瞬間だけは、自分が世界に必要とされている気になれるから。


 炎は会話する。
 苦しんでいる者と話し、それを共有する。
 別に自分が救ってやれるなんて思ってはいないけれど、やれることはやる。
 その瞬間だけは、幸せを祈る時間だけは、誰にだってあっていいはずだから。


 
 月本市月本町。二人の魔法使いが、生きている。
 ラブソングを口ずさみながら。


63 :akiyuki :2013/03/29(金) 23:01:00 ID:onQHQJocLe


【かんてらっ!】高町観照編



 月本市童子町の農業振興地域内に、どかんと建った私立柊学園。

 尋常でない生徒数がひしめければ、その中に含まれる変人の数も多い。


 おそらくその頂点に位置するだろうポジションに『かんてら屋』はある。


 高町観照(たかまちみきてる)
 筋骨隆々の大男。甘いものとゆるキャラグッズ集めが趣味。
 見た目は怖いが、一言二言会話すれば、人のよさがにじみ出てくる好漢。
 人を、強制的に安心させるという超能力『ぐらり』を使う。
 友達も、そうでない者も、観照(みきてる)の名を読み替えて、かんてらと呼ぶ。
 


 放課後の、購買横のテラス(生徒会が角材を調達し、物理的に作った)に集まる大男と、その友人達。誰が呼んだか『かんてら屋』。
 彼らに相談すると、どんな変な悩みでも、なんとかしてくれるともっぱらの噂。

 犬小屋のペンキ塗りから、寂れた山村の村おこし。
 呪いのおまじないの調査から、空から落ちてきた宇宙人のミイラまで。

 
 不思議なことが起きやすくなったこの町で、『あっち』と『こっち』その境界線上に立ってしまった少年少女の横にやってきて、一緒に馬鹿騒ぎをする。


 この広い世界、そんな青春を送る人間が一人くらいいてもいいんじゃないのかな。

 かんてらはそう言って、いつも笑う。


 大体、事態は急展開を迎え、最終的に超能力バトルになるのだが。

 まあ、この広い世界、そんな青春を送る人間が一人くらいいてもいいのかもしれない。

 


64 :akiyuki :2013/03/30(土) 20:53:01 ID:P7PitFPHYJ


 かんてらの使う『ぐらり』という力は、その他の異能者とは、また毛並みが違う。

 魂と肉体を繋ぐ『生命』というエネルギーを流用して、こちらとあちらを繋ぐ『魔法』に対して、『ぐらり』は人の心の弱さを原動力としている。

 心臓を介して魂より放たれる微量の波動を、ネガティブな心の揺らぎに乗せて体外に放出し、とても奇跡とは呼べぬ結果を起こす力。

 人に触れられることを怖がる少女は、熱を操る術を覚え、誰も彼女に触れられぬようになった。
 すべてにコンプレックスを持つ矮躯な少年は、人を転倒させる力を知り、すべてを見下ろすよになった。
 自分の罪を認めることのできない彼女には、迷わせる眼が与えられ、誰も彼女にたどりつくことはできなくなった。
 

 後ろ向きな気持ちから生まれた力のせいで、ネガティブ思考をなかなか抜け出せない三人だが、それでもかんてらのおかげでそれなりの日々を送れている。


 放課後、テラスに集まってかんてら屋の活動を行えるくらいに。




 基本は彼らを笑わせたいという気持ちから始まった。


 かつて、世界を滅ぼそうとした魔女として蔑まれたあの人が大切にしていたように。

 今も、人の魂を救おうと奮闘する夕焼けの魔法使いのように。
 

 いつの日か【過日の魔王(カンテラ)】として、終末を迎えるその日まで、楽しく生きたいと、少年は祈っている。


65 :akiyuki :2013/03/30(土) 21:31:09 ID:P7PitFPHYJ


【落魂の都】月本喜須・間久部冬子編


 『童子』 角の生えた少年の姿をしたもの
 童子町には30万近い個体が住んでおり、天候の変わり目、花の咲く時、人の気持ちの高揚や、深く悩む時などに現れるという。
 ありとあらゆる現象に人格を与えたもの、という解釈が一般的である。人に影響を与えることはほとんどない。
 原則、人間の目には見えない。

 『安綱』 童子を見ることのできる人間
 最近は、ほとんどいない。血縁関係により、見る力が遺伝することもあるが、最近は血の薄れか、安綱が継承されることは少なくなってきた。
 はずなのだが、最近、童子を見えるようにしてしまう童子が出現し、安綱の数は、増加している。なぜかは不明。


 『童子切』 童子を使役する安綱
 ずっと昔、まだまだ鬼神に市民権があった時代。童子を使役する術というものが存在した。
 よいことが起こる時、吉兆として現れる童子を呼び出すことで、逆によいことを招いてしまう。
 悪いことが起きる時、不吉の象徴として現れる童子をとりつかせることで、不幸に陥れる。

 そのような呪い師が、この町にいて。

 月本一族により根絶された。


 月本喜須  女子高生。お嬢様。安綱
 月本市で一番の金持ちの直系の御姫様。父親は日本語がぺらぺらなイギリス人で、母親は自分と父を残して、蒸発した。父親は、なんとか月本本家になじもうとして、悪の異能者取り締まりに精を出していたが、炎の魔術師と戦っている最中に、被呪し、蒸発した(化学的な意味で)
 一人取り残された喜須は、目を見張る美人に成長し、なんとなく恐れ多くて近づきがたいオーラを出している。本人はそんなつもりはないのだが、環境で培われた貴人性というのはにじみ出ているのだろう。
 家に帰ると、とたんにずぼら。生活力は、あまりない。
 色素の薄い赤毛を、お手伝いさんに梳いてもらう時間が二番目に幸せ。最近の一番の幸せは、友達の冬子と時間を過ごすこと。
 得意なことや、不得意なことがあまりない。なるようになればいいと思っているし、どんな在り方でも、受け入れるしかないとも考えている。
 月本一族の長女ということ以外に、自分には何の価値もないのではないかと、悩んでいたりもする17歳。


 間久部冬子 女子高生。呪術師。安綱。
 おかっぱ頭の、背の小さい少女。バトミントン部。
 童子を使役し、呪いをかける術師の末裔。しかし、その術自体は追い詰められ根絶させられており、今や童子が見える家系にしか過ぎなくなっている。
 それでも、安綱達は再興を夢見、術を復興させようと、地下にもぐり研究を進めている。
 冬子は、そんなことをしたくない。大学で、国文学を専攻したい。
 けれど、母は許してくれないだろうとも理解している。
 そんな運命に自分を陥れた月本一族であり、たった一人の同年代の安綱であり、一緒にいてちょっとドキドキする奇麗な少女である月本喜須に複雑な想いを抱いている。


 千足
 月本市に何十種類と存在する異能体系。異能を自発的にえる方法はまず、ない。異能が持つ物語に巻き込まれることによって、発症することが多い。しかし、その発現を自在に操ることができれば、どうなるか。
 その異能者を捕まえて、システムを解読し、人間を誰でも異能者にする技術を開発することを目的とした会社が、この町にはある。
 悪の有限会社SAKI 営業課長 鬼灯千足(ほおずき むかで)
 この町でも、もっとも多くの戦闘回数の経験者である。

 一色
 千足のただ一人の部下。営業課は、この二人だけ。
 まともに戦える人材が、二人くらいしかいないので、それ以上人を増やしても役に立たないためである。
 魔術調整を受けすぎて、もう人間である部分が、ない。
 それでも、なるようになればいいと思っているし、どんな在り方でも、受け入れるしかないとも考えている。



 落魂の都
 月本市童子町。ここで、赤毛の少女と、魔人が出会う。


66 :akiyuki :2013/04/06(土) 15:20:03 ID:P7PitFPkzA

ダンドリアン 最終話


「だったら、シロネコが異界の扉を開けることも、仕組まれてたってことなのか?」
「アカシックレコードを書き換える力を持った『天使』ならば、シロネコさんにわざとそれを見せることくらいしたんだろうね」

「何のためにだ」
「人類を、ア・イデアに対抗できる存在にまで進化させるため。キュキと、その配下の天使達は、人類を極点の存在の原型と定めた。キュキの支配下にない、並行世界の別の地球の技術や異能を取り込んで、イデアの娘達と宇宙戦争ができるくらいにまで、激変させる」

「S・A。ファインドランダム、ハイドランダム、時の翁、車輪堂縫ゑ、ファイブ、デア・メルクヴルディヒ、テロメア、女帝陛下、永遠愚行。天使全員がこの町に降りてきたのも、そのためか」
「彼らは月本市を拠点として、運命を捻じ曲げる。種レベルの危機を、巻き起こし続けるだろう。そして、それをあらゆる手段を使って克服させることで、人類を強制的に成長させる」

「……。しかし、シロネコは自分が【世界を滅ぼす獣】になるという未来を予知して、そうならないように異界へ消えたのだろう? なぜ、あえて危機を回避する予知なんて許しあんだ?」
「彼らはわかっているんだよ。シロネコさんが、異界から戻ってくることを。だって、世界を滅ぼす獣が一匹しかいないなんて、誰も言ってないのだから」


「……、次郎、この町で一体これから何が起きる?」
「ここから先は、僕の想像だが。【過日の魔王】と【世界を滅ぼす獣】が戦って世界が滅ぶのなら、どちらかになる可能性のある候補が、複数存在していると考えるべきだ。もしかしたら、シロネコさんが開けた門から、これからやってくるのかもしれない。そして、破壊前線の戦いに生き残った最後の2体が、それになるということだろう」

「キュキってのは、人間を作った神様なんだろ……。なのに、そこまでするのか」
「するんだよ。彼の目的は、宇宙戦争を生き抜く強い生命体の登場なのだから。そのためには、別の世界の扉を開く異能なんてとんでもない異能を生んだ人類は、まさにチャンスなのさ」

「次郎、お前はこれからどうする?」
「【過日の魔王】の候補者を探す。キュキの好きなようにはさせない。彼らを保護する」

「さすがだな、ダンドリアン。お前なら世界を救えるだろう」
「手伝ってくれないのか、カーゴ。なら、君は何をしようと思う?」


「【世界を滅ぼす獣】を探す。そして、片端から絶滅させる。シロネコみたいに、他人を導いてもやれないし、お前みたいに段取りよく準備もできない。敵と戦うしか能がないからな」
「それは違うよ、カーゴ、君はシロネコを失って、自暴自棄になってるだけだ。君は、僕と来るべきだ。僕を使って世界を守るのは、君なんだ」


「三銃士は解散だ。今までありがとう、俺も、シロネコも、君がいたから楽しかった」
「……」




「厳しい道を選ばずともよかろうに」














 

 『一千億年平行協定』


 ルール


1、地球神キュキの配下である十人の天使は、様々な危機を月本市に与える。
2、異界から流れ着いた力を用いて、人類は異能者になる。
3、その異能をどのように使うかは、人の心次第である。
3、全ての世界の危機を克服した日が、審判の日である。
4、天使は残酷な運命を与え、審判の日に、二人の異能者をその場に立たせる。
5、2体の内、人の存続を望む者を【過日の魔王】 人の滅亡を望む者を【世界を滅ぼす獣】とする。
6、2体が戦い、勝利した獣は、人類を滅ぼす。




追加ルール
7、その結末に不服がある場合、月影次郎は時間をさかのぼり、白川実子の消えた日からやり直すことができる。これは月影次郎の魂が敗北を認めるまで有効である。

8、誰が魔王となるか、誰が獣となるかは、不明である。天使長スカイウォーカー・アンサーズであろうとその項目の改竄は許されない。

9、滅びの運命を変えられた時、人はア・イデアと対面する。その瞬間を、『ア・イデアの晩餐会』と呼称する。


67 :akiyuki :2013/04/07(日) 16:55:53 ID:P7PitFPkzA


 とある、ファミレス。

 10人の男女が隅の席を囲んでいた。

 一人は、男装、赤髪の大女。
  二号天使(異能回収担当)『戦女神』ファインドランダム
 
 一人は、同じ衣装で、黒髪の少女。
  三号天使(異能配布担当)『剣女神』ハイドランダム
 
 一人は、緑色のくたびれたマントに身を包んだ、旅人風の男
  四号天使(特異点探索担当)『機械使徒』デア・メルクヴュルディヒ

 一人は、ダークスーツに、東南アジアの精霊でも真似た奇異なデザインの仮面をかぶった男。
  五号天使(『魔力』維持管理担当)『午後五時元帥』ファイブ

 一人は、傍らに無駄に大きなラジカセを侍らす筋骨隆々な爺様。
  六号天使(『最後の審判』証拠品収集担当)『時の翁』時の翁

 一人は、ノースリーブから露わになった両腕、足、頬。見える皮膚を全て包帯に包んだ女(?)
  七号天使(時間製造ライン管理担当)『運命維持管理責任者』車輪堂(しゃりんどう)縫ゑ(ぬえ)

 一人は、席に体がおさまらず、仕方ないので外のテラスで一人チョコパフェを食べる無口な男
  八号天使(寿命開発者)『岩窟王』テロメア


 一人は、みているだけで眼が痛くなるような、ドギツイ紫色のゴシックロリータファッションに身を包んだ、みた限り幼い娘。
  九号天使(零号異界維持管理担当)『過日の魔王』女帝陛下

 一人は、ただそこに座っているだけで、呼吸しているのかさえ疑いたくなるほどに、動かない。
  十号天使(    )『切り札』永遠愚行




  地球神・重力を紡ぐ男(ジューショ・クア・キュキ)が、自らの分身として、人に加護を与えるために遣わした十体の極点。

 そして、彼らを束ねる、キュキの意思を代行するものにして、地球の過去から未来まで全てをを収めたアカシックレコードを書き換える異能を持つ男。

 一号天使(地球COO(最高執行経営者))『限りなく遠き者』スカイウォーカー・アンサーズ


 彼は今、自分の目の前の席でうまそうにスパゲッティを食べる少女に文句を言った。


「おい、シロネコ。なんか思いっきり変な方向に話が向かってるぞ!」

 天使の長に文句を言われた少女、白川実子は、心外と言った表情で反論する。

「そんなこと言われても、私のせいじゃないよ。次郎ちゃんが何回も歴史改竄のために動いたからね、少しずつ、物語の本筋さえ狂い始めたとしても、おかしくはないよ。長い時を生きすぎたからね。たぶん、私とあんたら天使が協議して世界破滅を防ぐためにこんな事態を引き起こしたことも、忘れちゃったんだろうね」
「くそう、俺達ほど人類愛に満ちた存在なんてないのに、悪党みたいな書き方してあるじゃねーか、この月影招神帳(37刷発行)」

 少女はけらけら笑う。
 ぶすりと、言った擬音のよく似合うふてくされづらで、地球最高位に立つ男が口を開く。
「しかし、ここまで俺達の真意と違う方向に話が進むと、気が気ではない。予定された『四つの大災害』と『飛来体』以外にも、もっと強く介入すべきじゃないか?」
「やめときなよ、余計こじれるから。次郎ちゃんもカーゴも、今じゃ天使陣営は人類の敵くらいに思ってる。誤解を解くには、4巡くらい遅すぎた」
「俺達、お前が思ってるよりずっと万能だぞ?」
「あんたらが思ってるより、人間の魂は傷つきやすいんだよ。いまさら、真実を伝えたって、辛くなるだけだよ。だから、私だってこうやってこっちに帰ってきても……顔も合わせられない」
「むぅ。ままならんな」
「そもそも、人間程度の進化具合で十一号天使(対宇宙担当)を生み出そうなんてのが、皮算用だったんだと思うけれど」
「そんな文句は内の御屋形に行ってくれ。俺は止めたんだが、人間が滅びるのはみるに堪えられないから、進化させる。とか。あほかと思ったわ」
「その結果が、今のこの惨事か。あんたんとこの神様、優しいのか、冷たいのかわからんよね」


「……、俺が人間のお前に訊くのもおかしな話だが……。勝算はあるか? 正直、俺達としてはお手上げだ。それこそ地球に存在する異能を、今この瞬間にすべて消滅させるのがいいんじゃないかとさえ思う。そこに座っている『永遠愚行』の戦闘力なら、可能だぞ?」
「それじゃあ、キュキの望む人の進化は止まってしまう」
「異能がなければ、人は成長できないのか? それほど命はつまらないものとは思えない」
「時間がない。私とあんたがみることのできる、アカシックレコードがあと10年程度で途切れてるってことは、その時にはイデアの娘達は軍勢を整えて地球に侵攻しているってことだろ? なら、それまでに人間を戦える存在にしなければならないってことだ」
「ぶっちゃけ、俺達天使でもことたりるんじゃないのか?」
「あんたら、キュキの分身だろ? ルール(イデアとキュキの協定)では、お互いの分身体が直接介入することは許されない……、ってなんでさっきから私が否定意見ばっかり出してるんだろうね。私は人を救いたいのに」

 料理を食べ終わる。

 食器を片づけにきた店員に、デザートを注文する。

 明らかに見た目のおかしい十人ほどの集団(その内飯を食ってるのは少女一人である)に震える声で応対するバイト娘を見送り、シロネコは結論を口にした。


「今度の物語では、私達の想像を超える者達が生まれるかもしれない」
「ほう、あいつらに期待しているのか」
「月本市をめぐる計画では、大分予想とは別の方向に話が進んでしまった。もっとゆるふわな出来事を期待していたのだけれど。今あの町で生きる子達は、私が生きていた頃とは、まったくキャラが変わっていった。それも、いい方向にだ。歴史の修正をずっとずっとがんばってくれた次郎ちゃんの努力は、無駄じゃなかった」
「ならば、生まれるか。魔王でも、獣でもない者が」
「かもしれない。けれど、その時は私ら上位者もただじゃ済まないかもしれないよ」
「いいさ、世界が滅ぶより、ずっといい」
「……」
「何だ?」
「あんたは、変わらないね」
「そりゃ、ま。天使だからな」


 


68 :akiyuki :2013/04/07(日) 20:27:02 ID:P7PitFPkzA

第一部・完


 宇宙と地球と異界の物語は、最後はいつも滅びで終わる。

 けれど、それが我慢ならない連中は諦めなかった。

 予知を使い、禁じ手であるイデアの力を用い、時間さえ巻き戻して、世界を改変させ続けた。


 シロネコが消えたことで敵対するはずだったカーゴと次郎は、和解とまではいかずとも、それぞれが世界を救う手段を模索することを確認し、再会を誓い別れた。

 外宇宙から来た最初の『飛来体』である夢幻人形デルタリオンは、六体の同胞と自身を破壊することで、地球を守るはずだった。しかし、高山和時は、デルタリオンを死なせなかった。そうすることで、イデアの娘とキュキの子が、ともに歩める可能性を示して見せた。

 『飛来体』と、それを駆逐する陸上自衛隊の戦いに巻き込まれ、命を落とすはずだった島左子は、もののけ三銃士を率いて妖怪人間と魔術師の戦争を回避してみせた。

 行き過ぎた異界汚染を調整するために、キュキとイデアが結んだ協定を参考に締結された平行協定。その実務を担当していた女郎屋敷小夜子は、異界汚染を受けすぎて、もう人ではなくなってしまった。張りつめた彼女の心に後悔と憎しみがほんの少し垂らされた時、【世界を滅ぼす獣】は誕生したのだった。けれど、それでも愛の言葉を届けようとした男がいた。彼は恥も外聞もなく、頼れるものはなんでも頼って、できる土下座を全部して、紆余曲折を経て、ぼろぼろになって、そして獣にプロポーズをした後は、奇跡がどうにかしてくれた。


 最悪なる者と呼ばれた魔法使いが、「一千億年平行協定」を破壊しようとたくらんだ。何の準備もできないままに、戦争を始め、宇宙を崩壊させようとした。けれど、何度も繰り返した時間のうち、ついに月影降臨術を完成させることを間に合わせた時間軸で、鬼灯炎は魔法使いのラブソングを宇宙に届けた。

 かつて化物と呼ばれ、忌み嫌われた異能者達。彼らは出会い、憎しみあい、殺し合い、最後の一人になるまでそれを続けた。そうして【過日の魔王】を生み出すはずだった。けれど、諦めない少年が一人いた。怪物の灯火を先頭に、前を向いてあるくことを決めた怪物達は、彼らの軍勢を作る。その頭目【大魔王】にして、ラブクルセイダース首領の月食夜理は、自らの命を犠牲にしてまで彼らを導いたその少年のことを忘れないために、自らを【過日の魔王達(カンテラ)】と名乗り、キュキの軍勢に喧嘩を売った。


 ありとあらゆるバッドエンドフラグを打ち砕いて、審判の日を、『ア・イデアの晩餐会』を迎えた時。

 イデアが用意した食卓には、百人くらいの人とか人でないものが押し掛けた。
 最初は、生き残った最後の一人、とかのはずだったのだが、仕方がない。全員、生き残らせて見せられては、仕方がない。
 
 それはそれは、とても盛況な夕食会になったのだと言う。




 第一部・『ア・イデアの晩餐会』 終


 第二部・『破壊前線』へ移行  ?   


69 :akiyuki :2013/04/07(日) 20:27:04 ID:P7PitFPkzA

第一部・完


 宇宙と地球と異界の物語は、最後はいつも滅びで終わる。

 けれど、それが我慢ならない連中は諦めなかった。

 予知を使い、禁じ手であるイデアの力を用い、時間さえ巻き戻して、世界を改変させ続けた。


 シロネコが消えたことで敵対するはずだったカーゴと次郎は、和解とまではいかずとも、それぞれが世界を救う手段を模索することを確認し、再会を誓い別れた。

 外宇宙から来た最初の『飛来体』である夢幻人形デルタリオンは、六体の同胞と自身を破壊することで、地球を守るはずだった。しかし、高山和時は、デルタリオンを死なせなかった。そうすることで、イデアの娘とキュキの子が、ともに歩める可能性を示して見せた。

 『飛来体』と、それを駆逐する陸上自衛隊の戦いに巻き込まれ、命を落とすはずだった島左子は、もののけ三銃士を率いて妖怪人間と魔術師の戦争を回避してみせた。

 行き過ぎた異界汚染を調整するために、キュキとイデアが結んだ協定を参考に締結された平行協定。その実務を担当していた女郎屋敷小夜子は、異界汚染を受けすぎて、もう人ではなくなってしまった。張りつめた彼女の心に後悔と憎しみがほんの少し垂らされた時、【世界を滅ぼす獣】は誕生したのだった。けれど、それでも愛の言葉を届けようとした男がいた。彼は恥も外聞もなく、頼れるものはなんでも頼って、できる土下座を全部して、紆余曲折を経て、ぼろぼろになって、そして獣にプロポーズをした後は、奇跡がどうにかしてくれた。


 最悪なる者と呼ばれた魔法使いが、「一千億年平行協定」を破壊しようとたくらんだ。何の準備もできないままに、戦争を始め、宇宙を崩壊させようとした。けれど、何度も繰り返した時間のうち、ついに月影降臨術を完成させることを間に合わせた時間軸で、鬼灯炎は魔法使いのラブソングを宇宙に届けた。

 かつて化物と呼ばれ、忌み嫌われた異能者達。彼らは出会い、憎しみあい、殺し合い、最後の一人になるまでそれを続けた。そうして【過日の魔王】を生み出すはずだった。けれど、諦めない少年が一人いた。怪物の灯火を先頭に、前を向いてあるくことを決めた怪物達は、彼らの軍勢を作る。その頭目【大魔王】にして、ラブクルセイダース首領の月食夜理は、自らの命を犠牲にしてまで彼らを導いたその少年のことを忘れないために、自らを【過日の魔王達(カンテラ)】と名乗り、キュキの軍勢に喧嘩を売った。


 ありとあらゆるバッドエンドフラグを打ち砕いて、審判の日を、『ア・イデアの晩餐会』を迎えた時。

 イデアが用意した食卓には、百人くらいの人とか人でないものが押し掛けた。
 最初は、生き残った最後の一人、とかのはずだったのだが、仕方がない。全員、生き残らせて見せられては、仕方がない。
 
 それはそれは、とても盛況な夕食会になったのだと言う。




 第一部・『ア・イデアの晩餐会』 終


 第二部・『破壊前線』へ移行  ?   


70 :akiyuki :2013/04/18(木) 22:16:43 ID:onQHQJoFLG

破壊前線 移行


 深夜のテンションのまま、書きたいものを書きたいように、書いてみるだけの企画。
 
 続行中


71 :akiyuki :2013/04/18(木) 22:40:22 ID:onQHQJoFLG

第二部・破壊前線



 女郎屋敷(じょろうやしき)(てつ)少年が、この世のものとは思えぬ、魔道の世界に片足を踏み入れてしまった原因は、数えると3つある。



 一つは、自宅から300メートルのところにできたコンビニエンスストア。
 最寄りのスーパーマーケットが午後十時には完全閉店している彼の住む町で、深夜でも漫画やアイスが買える店舗の登場は、彼の生活リズムを一変させた。
 深夜出歩く理由ができた。


 二つは、『メルヴィッツの逃走地図』
 それが一体何の地図なのか。そもそも、どこを書いた地図なのか。
 知らない場所の知らない経路を示したその紙切れの所有権を、彼は得た。
 世界で初めて公的に認められた魔女『メルヴィッツ』
 彼女の遺品を手に入れたものは、その力の残滓もまた手に入れる。
 そんなものに、巻き込まれた。


 三つは、同級生の少女。
 『メルヴィッツの遺品』を収集する趣味のある、わかりやすい不思議系少女。
 初対面だろうと、人を名前で呼ぶ癖のある、魔道の住人
 深夜のコンビニの駐車場。
 逃走地図を持って、彼女に出会った鉄は、言ってしまった。

「俺のことを鉄鉄名前で言うなら、お前も名前で呼んでいいんだろうな」


 そんなことを口走ったために、彼女に興味を持たれてしまった。


 
 魔女の生まれた町で、魔女が遺したものが、それなりの奇跡を起こす夜。

 女郎屋敷鉄とその恋人、黒沼(くろぬま)らっこの物語が始まる。


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甘辛流小説家ギルドGAIA
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