―…一昔前、海賊時代に多く現れたと言う種族。
『私たちの歌声は天使をも凌ぐわ』
尾を七色に光らせ、月夜の晩に現れると言う…
『人間と私達はきっと解り合えない種族、決して深入りしては駄目よ』
長い髪、美しく舞う水飛沫。
そして今宵も『唄声』が響き渡る。
「――何だ? この美しい声は…」
「まるで心が洗われるような美しい声だ…」
どこからともなく聞こえる唄に、海辺の村人達は魅了されていた。
どの家からも窓が開く音が聞こえる。
「きっと、海辺の人魚じゃろう」
一人の老人もまた、窓を開け側にある椅子に腰かけた。
そして、夜空を見上げて呟く。
「人魚は心優しい種族、それを滅ぼしたのは人間かもしれぬな」
その顔は、どこか儚げな顔をしている。
「昔、こんな伝説があったもんじゃ」
「何々? お婆ちゃんの昔話?」
孫娘は嬉しそうに、老婆に近寄り一緒に夜空を見上げた。
「わぁ…綺麗なお月様!」
「さて、少しお話しようかね」
孫娘に微笑んだ老婆はそっと口を開く。
「これは私が生まれるずっとずっと前の話じゃ…」
月の光は、今宵も村を静かに照らす。
波の音すらも音色に変わる。
静かな音と光が、夜の幻想を象徴していた―――