日々、嘘つき


1 :常葉 :2007/09/10(月) 20:56:49 ID:PmQHQ4oi

       
       『行かないで、傍に居て』

 そう引き止めたがってた手は、冷たく冷え切っていた。

 涙が流れる今宵の夜、満月は静かに闇を明るく照らす。

       『まだまだ貴方がいないとダメだよ…』

 いつだか誓いを立てたよね。

 君との未来を信じてたから。

       『愛してるよ。大好きだよ』

 鮮明に耳に残る幸せの言葉。

 儚い夢のような出来事。夢ならずっと、覚めないで…


2 :常葉 :2007/09/10(月) 21:19:29 ID:PmQHQ4oi

秋茜


「詠ちゃん、もしかして好きな人できた?」
 夕暮れの風が静かに吹き抜けた。それは儚く美しい秋の象徴であった。
「…何で?」
少年、伊崎 詠(いさき えい)は少女、赤田 麻奈(あかだ まな)の疑問に静かに笑いかける。
「…何となく。あたし、勘は鋭いんだ」
詠に背を向け麻奈は大きく息を吸った。
「…そんなこと、ないよ」
詠は悲しそうに笑った。
その瞬間、再び風は吹きぬけた。

いつからだろう、2人がすれ違い始めたのは。

背を向けた麻奈はそう思いながら悲しみを堪え、気づかれないよう涙を飲み込んだ。


「おはよう麻奈」
「おはよ…」
 早朝8時。ざわめく下駄箱で麻奈は靴をしまいながら微笑んだ。
「どうしたの? 元気ないね」
「何でもないよ」
心配かけないようにと作った笑顔はなんとも痛々しい。
「あっほら、彼氏来たよ」
「うっうん」
なぜか顔を背けてしまう麻奈に詠はしっかり気づいていた。
「…麻奈、おはよ」
「おっおはよ詠ちゃん」
麻奈は余所余所しそうにその場を立ち去った。
「…何だよ…」
詠は小さくため息をつく。
小さな亀裂は、今広がろうとしていた。

「…麻奈? 元気ないね、何かあった?」

 教室の隅で塞ぐ麻奈に心配そうに声をかけたのは親友の彩子(あきこ)だった。
彩子は成績優秀、優しく頼れる少女だった。
「彩子…ちょっと詠ちゃんとね」
「…詠君がどうしたの?」
泣きはらしたような目をこすりながら麻奈は再び笑顔を作る。
「何でもない! ちょっと喧嘩」
ニコッと笑ってみるもののやはりどこか虚ろな目をしている。
「そっか、早く仲直りできるといいね。詠君心配そうな顔してたし」
「…うん、ありがとう」
始業のチャイムが鳴り響く。
ガタガタと各自の席につく級友達。麻奈はボーっと窓の外を眺めていた。
「…好きな人か…」
小さな呟きは、周りの席の人間に聞こえただろうか。

『詠ちゃん、詠ちゃん、大好きだよ』

 心の声が聞こえる。
それは紛れもなく自分自身の声。

『嫌だよ。離れないで、傍に居て…』

泣きそうな声が、感情を駆立てる。
叫んでしまいたいが声にならない。
そんなもどかしい声だった。

「………な、ま…な…麻奈!」
「!」
ハッとして起き上がると、心配そうに眺める彩子の姿があった。
「どうしたの…?」
彩子はハンカチで麻奈の目の下を拭いはじめる。
「え…あたし、泣いてる?」
「もう…一体どうしたの? 恐い夢でも見た?」
辺りをボーっと見回すと、級友たちの姿はない。
「あれ? みんな…」
「次移動教室!」
彩子は麻奈の変わりに教科書を取り出し自分の教科書と重ねて持ち出す。
「ほら、行こう」
優しさなのか、彩子は何も聞こうとしなかった。


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