あなたと同じ世界にて。


1 :シルヴァイン :2007/02/22(木) 22:37:41 ID:n3oJWHuD

魔術校の校長と教頭とのお話。
ブログで書いてる本編の番外に当たります。
短編駄目でしたら削除します。


2 :シルヴァイン :2007/02/22(木) 22:38:53 ID:n3oJWHuD

あなたと同じ、世界にいます。


多数の世界が闇の中で並び、
その全てを『カミ』『主』『全』あるいは・・・『父』・・『管理者』・・
そんな存在の者が、その全てを見守っていました。
何が起ころうと、ただ見守るだけ。

世界には三つの軸が。
一つは基準軸。最も基準となるべき軸。
一つは魔術軸。魔術が科学よりも発展した軸。
もう一つが特殊軸。基準軸から派生した世界で作られる軸。



舞台は魔術軸第一世界『クインテット』

魔術の筋において、最強を誇るこの世界。

海に浮かぶのは五つの国。そしてその国に一つずつ、

『主従』と呼ばれる二人が治める魔術校が。


西の国、グラディムに魔剣士の校、グラルデーン。
東の国、ハルネルザードに特殊魔術の校、ハルネリア。
南の国、シャルドヴァイゼンに神聖の校、シャルディー。
北の国、エイデステリアに魔術師教育特化の校、エイデスタント。


そして物語の舞台となるは、
中央に位置する自由国、フェンラドゥーム。
校の名はフェンデラム。正式名称をフェンデラム総合魔術校。
現在、ただ一人『四全』に至りし最高の魔道士と、
一昔前、世界を救った英雄『戦神』とが治める・・・

個性を掲げし、黄と橙の魔術校。

さて、今日語りまするは、本筋から大きく離れた物語。
本来なら語られることなき、物語。

既に消えたはずの、世界のモノガタリ。





―――――――――――フェンデラム生活日誌 特別編
              『君に出会わなかった未来があるとしたら』



「戦神、エイデステリアに渡りて龍と対す」
赤いローブの、60代ほどの男が。
ポニーテイルにされた髪は鮮やかな水色に、きらきらと光る紫が混じる。
瞳は、紫陽花を思わせる青紫。
静桐遊凪〔Sizugiri Yuunagi〕・・・
何千年と続いてきた魔道士の歴史の中で、ただ一人
最高位、『四全』に至った天才にして、フェンデラムの校長。
彼が手に持つのは、『戦神記録小噺』と呼ばれる本。
彼の相棒であり、昔出会い、魔術の世界に導いてやった者であり、
今現在、三週間ぶりの深い眠りについている漆黒の記録。

彼は、遊凪によって、『学者にでもなっていた』運命が変わり、
世界を幾度と無く救った、英雄となった。


「剣にはしるは切断の雷。かの剣は硬き龍の鱗をも切り裂く。
龍の叫びは遥かシャルドヴァイゼンの王の耳にも届くほど響き、
龍の涙は嵐を呼び、三日三晩にも渡る雨を降らせた。
黒き戦神の衣は龍の血に染まり、あたかも真紅に変わったかのように。」

漆黒の衣の人間が、龍と対峙する絵だ。
剣に雷がはしり、辺りは嵐。
下に描かれた人間が、当時のエイデスタント主従だろう。
ぱたり、と本を閉じる。

「かくして、再び世界に光戻る。
かくして世界、また戦神によって息を吹き返す。
戦神、皆に言う。
『私は更なる高みを目指す。私は更なる研鑽を重ねる。
己が己のあるがままでいられるよう。
私が、私のままで誰かのためになるように。』
戦神、明くる朝ふらりと旅立つ。・・・・・・」
第五章、龍舞と呼ばれる有名な章だ。
短い方なので、中学生の暗唱テストに使われたりもする。
はぁ、と真紅はため息を吐いた。


「剣核、お前に出会わなければ・・・・・
俺はお前を傷つけなくて済んだだろう。
お前はただの学者になって・・・・普通の一生を送ったろう。
そして俺は・・・」
そこまで言って遊凪は、いや、とかぶりを振る。
「やっぱり、逃げただろうな。」
自虐の笑みを一つ浮かべて。

「たとえば君が、目の前に選択肢を並べられたら、
君はまた僕の傍を選んでくれるだろうか?」




漆黒の戦闘装束に身を包む、茶の短い髪と、
琥珀を思わせる金の瞳を持つ男。
一応50過ぎの彼は、一回りは若く見える。
フェンデラムにおいて、普通校でいう教頭の地位にある
彼が、過去世界を幾度と無く救った、戦神。
名を灘梶剣核〔Nadakazi Kenkaku〕。
彼は疲れきっていた。何故ならば、
馬鹿な校長が全ての仕事をこちらへと押し付けるから。
お陰で、他校の教長の二倍働いている。
三週間眠っていなかった。
ばたり、とベッドに倒れこむと、
そのまま深い深い眠りに落ちてゆく。










「・・・・・・・・・・は?」
彼は、自分の体を眺める。五体満足。
いつも着る戦闘装束、見慣れた傷だらけの手、
ずきずき頭が痛むのは書類と格闘していたから。
そして、周りを見渡す。

一面の白は、霧だと判断する。

(夢の中・・・覚醒状態、か。)
間違いない、と疑いは確信へ変わった。
ここは、夢であって夢で無い場所。

静桐遊凪の精神世界であり、魔力世界。

「あの大馬鹿野郎・・・・人を引きずるなよ・・・」
一人ごちながら、腰の剣を抜く。
銀の刃が現れた。どこも変わりは無い。
彼の大きすぎる魔力は、時に人に変化をもたらしてしまう。
だからといって適当に斬って出るわけにもいかず・・・
空間を斬ったりすれば、最悪彼は死ぬだろう。
あの馬鹿でも、世界一の魔道士なのだから死んでもらっては困る。
「まぁ、適当に付き合ってやるか・・・」
そう言って、一歩を踏み出す彼の肩に、

手がかかる。


「!?」
瞬時に身を返し、剣を突きつける。
にこにこ、と笑う姿が。

鮮やかな水色の髪に、青紫の瞳。
背は、自分より一回り低い。
それに、若い。

それは、剣核が出会ったころの・・
15歳の遊凪の姿で。

「こんにちは。“戦神”。」
剣核が目をしばたかせていると、反応を楽しむように続けた。

「これからあなたが見るのは、実際ありえた世界。
いや、『あった』世界だ。
静桐遊凪こと、僕に夢の形で現れた、世界の姿。」
くるり、くるり、と踊るように回転しながら。
その赤いコートが翻る。
間違いない、初めて会った、あの日の服装。

「もしも最高の真紅と、最強の漆黒が出会わなかったら?
あの日真紅が漆黒に出会わず、魔術を教えられなかったら?
漆黒が魔術を知らずに、学者になったら?
これからあなたが見るのは、そんな世界だ。
そして全てを見終わったときに、聞こう。」
にっこり、と邪気の全く無い顔で笑って。

「僕は、君の傍にいられるか?」




刹那、世界が弾けた。




「っ!?・・・・・?・・・・」
広がる緑に、ちょっとの家々。
どこにでもある田園風景。
しかし、よく覚えている。
およそ、40年と少し前、住んでいた場所で、
静桐遊凪という名の旅人に出会った場所。
そして、自分が戦神となって暫くして、焼け落ちた場所。
「睡蓮村・・・・・・」

と、洗濯物を取り込む少年が見えた。
低い身長、長い茶の髪、神経質そうな、金の瞳。
(成る程・・・俺か・・・・)
台に上がり、洗濯物を取り込み、家の中へ。
鮮やかによみがえる記憶。
そうだ、この後、アレに出会った。
宿を求めていた旅人が偶然叩いた戸が、
自分の家の戸だった。
そして自分は魔術を知り、今に至った。
すると、視界が白に包まれたかと思うと、
脳にダイレクトに映像が届く。

水色な髪をした旅人が、睡蓮村ではなく、他の村へ入る。

(・・・旅人が、睡蓮村に来なかった。)



轟、と世界が唸る。
時が、急速に進む感覚。
慣れているものではあるが、立っていられず膝をつく。
辺りで、時代が流れる。
何かの研究をする自分。どうやら、数学者のようだ。
そして、時が確定する。


「なっ・・・・・・・」
息が詰まるほどの重圧。


それは、龍の目の前。


「・・・・・・・・・・」
さて、どうなる、と辺りを見回す。
本来の、自分が生きる流れなら、
“戦神”が現れ、世界を救う。
しかしその英雄は、数学者となって、魔術を知らない。

「静桐様!!」
歓声、声の方を見れば、


真紅がいた。


「・・・俺が魔術を使えない世界では表舞台に出たがらなかった
アレが、表に出る、そして・・・」

炎が、龍を焼く。

「英雄となる・・・英雄が使う魔術は‘炎’・・か」
なんだ、この世界の方がいいんじゃねぇか?と軽く考える。
しかし、炎が、

彼の身すらも焼き尽くした。


「・・・・・っ!?」
驚きもつかの間、また、時が流れ始めた。
当然と言えば、当然だ。
あれはずっと、死にたがっていた。
表に出るぐらいなら死ぬほうがいいと、本気で思っていた。
しかし、あの真紅は、自分を、全く知らない。

また時が安定すると、静かな何処かの学校で。
「灘梶先生!」
「ん・・・・どうした。」
丁度今の自分と同じぐらいの年か。
髪が長く、肩の辺りでくくっている。
近視なのか、眼鏡をかけていた。
着ているものはごく普通の防寒具。
「昔、世界を救ってくれた人がいたんですよね?」
「ああ、静桐・・・遊凪だったか。《炎の英雄》だな。」
‘自分’は、本をめくりながら答えた。
「お話してください!」
「は?俺が・・・?俺も詳しくは知らないぞ。
確か・・・エイデステリアに現れた龍を焼き殺し、
そのまま自分の身も焼いたんだったか。
そのころ既に『三冠』だったらしいけどな。
今まで生きてれば、『四全』だったのかもな。」
「本当ですか?それ。」
彼は、笑って。
「俺が知ってるわけないだろう。俺は魔道士じゃないんだ。」
さあ、授業始めるぞーと、彼は手を打った。


(なるほど・・・これが、ありえた未来、か。)
自分はただの数学の先生になり、一生を終える。
そして死にたがりの世界最高は、『四全』となることなく、
名声を得ることなく、自らの身を炎で焼いて。
「『普通』を望んだ俺は普通に生き、『死』を望んだあの人は
自分で死んでいく、か。」
確かに、よく出来た未来だ。

と思ったのもつかの間、また世界が、時が動く。
「っ!?おいおい・・・もう見終わったんじゃ・・・」
なかったのか、という声は出ない。


そこは荒野で、中央から、自分でも怖気がするような
濃い魔力が放たれ、異形が集まっている。
その魔力に向かっていくのが、真紅。

中央にあるのが、ほかならぬ‘自分’。


「ったく参ったもんだ・・魂の奥底に封じ込められていた
魔力が爆発、ねぇ・・・」
遊凪は書類をめくりながら。
女性が横から。
「ユウ、あれはもう、魂を異形に食われてるわ。
強すぎる魔力、制御できてない。
もう私でも、あんたでも助けられない。わかってるわね?
一思いに、楽にしてあげたほうがいい。」
ああ、わかっているさ、と彼は、よく似合う真紅の剣を構える。
はしる魔力は濃く重く、燃え盛る炎。
「名前は・・・灘梶、剣核だったか。悪い、もっと前に、
気がついてやれればよかった。」

せめて、その魂に安らかな眠りを。と。

つぶやくが早いか、その剣が振られて、

世界が炎に包まれて、消えいく。

燃えて、燃えて、燃えて・・・・・



闇が、ある。

目の前には、闇ばかり。


そこに、篝火が見える。

(・・・・・?)



「さあ、遊戯を始めようじゃないか。」
いつのまにか、
目の前にいたのは、彼だった。




息が、切れた。
「っ・・・・・・・・」
気づくとそこは、初めの霧の中。
しかし、初めとは違った。

目の前、石段に座るは、齢60を数える、現在の彼。
「よう剣核。いい夢見たかい?」
意地悪そうに笑うところから見ても、明らかに本人だ。
「さっきのが二つ目の未来・・・・・
『剣核の魔力が暴走して、俺はその命を奪う』。
ちなみに俺はあの後・・・剣核じゃない別の人間と
グラルデーンの校長になる。
そして、全てに背を向けたまま、世界からも背を向けて・・・」
後は言わないでおこう、と笑う。
「さて、俺はお前と出会った。
そして灘梶剣核という少年は、魔術を知り、
長い時を経て戦神となって世界を救い、
表舞台から姿を消した後、フェンデラムの教長として、
再び世界に姿を現す。

この未来は、偶然か?それとも必然か?
それは、俺も知らん。」
だが、と子供のように、
「もしかしたら、何度も何度も繰り返して、やり直して、
剣核が、俺が選んだのかもしれない。
最高の形を・・・誰も失わず済む形を・・・
事実、戦神のお陰で、この世界は生き残っている。
剣核と俺が出会ったから、俺は生きている。
さあ、今こそ俺は問おう。」


「例えば選択肢が提示されたとき、
君は僕の傍をまた選んでくれるか?
平凡な人生、平凡な幸せに別れを告げて、
戦いと苦労の連続に身を投じてくれるのか?
これは君が選んだ、君の‘最善の未来’なのか?

僕は、君の傍にいられるか?」




「俺は・・・・・」

答えようとしたとき、意識が軋みを上げる。












「そらっちー!」
遠くから呼ぶ声がする、とフェンデラムの生徒、流月空〔Rutuki Sora〕は振り返る。
水色の髪に銀の瞳の彼女は、一人の女性を視界に入れる。
七織緋月〔Nanaori Hiduki〕。フェンデラムのちょっと変な校医さんだ。
うんしょうんしょ、と彼女はかけてくる。
「どうかしました?先生。」
「うん、えっと一つ聞きたいのね。」
「どうぞどうぞ。」
「校長先生がさ、『もし剣核と俺が出会わなかったら、世界はどうなってたんだろう?
俺はずっと剣核を知らなかったんだろうか?
俺は、やっぱり代わりに‘戦神’を演じただろうか?』って言ってたの。
答えをさ、そらっちなりの答えを教えてー。」
そうですね、と彼女は少し笑って、
今日も晴天の空を見て言った。

「かんたんなことですよ。灘梶先生は、何度も何度も時を繰り返して・・・
ああ、ちがうか、無意識にその大きな魔力で巻き戻って・・・・
それで、世界を変える人を待つんです。ずっとずっと・・・
万に一度の確率でも、一万回繰り返せば、それがやってきますから。
ずっとずっと、繰り返して待って・・・灘梶先生は、
一般人としての人生じゃなく、魔道士として、教長として、
静桐先生の傍にいることを選ぶんです。きっと。
そうして少年は魔術を学び、20を過ぎて黒衣の戦神となり・・・」
「世界は救われ、戦神を見届けるために真紅は生きることを決めて、
『四全』となり、フェンデラムの校長候補として表舞台に出る。
そこで再び二人は巡り会って、フェンデラムに最高の主従が完成する。ってねー」
緋月が継いだ。
「あたしも同じこと言ったよ、校長に。
何度でも、灘梶センセは、待っただろうって。」







「よう阿呆。」
片手を上げて剣核が。
「おー。」
「俺は、」
「ん?」

灘梶剣核は、すこし照れつつ、答えを、口にする。


「俺は、例え何度繰り返すとしても、今また、
あの頃に戻るとしても、また同じ選択をする。
戦神となって、お前の傍で働いて、
その阿呆な頭を矯正してやって、
お前とつまらない話をして、
ここで子供達に剣を、魔術を教えて。
そうして生きる事を選ぶさ。
これが俺の、最善の選択だ。」


ふっ、と遊凪は笑った。




こうして世界には最高があり、同時に傍らに戦神がある。


3 :シルヴァイン :2007/02/22(木) 22:39:49 ID:n3oJWHuD

注釈

失礼しました。
また連載がかけましたら書きにきます。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.