おべんとう


1 :のどじまん :2009/04/16(木) 23:41:21 ID:ocsFuDoH

お気楽な内容の自由詩。
数作品で完結させるつもりです。


2 :のどじまん :2009/04/16(木) 23:52:59 ID:ocsFuDoH

たまご


「お前はたまごのことを何も知らない」

とおじさんに言われた

新橋のおでん屋さんでたまごを注文したときのことだった


おじさんはたまたま近くに座った知らない人で

日本酒をすすりながらはんぺんをかじっていた


くたびれた灰色のスーツを身にまとい

あめ色の眼鏡は今にもずり落ちそうだ

頭頂部は砂漠化が進行していて

丸まった背中が

雨雲のように孤独に見える


気にせずにたまごをかじっていると

真っ赤な顔を近づけてきてこう言った

「お前はたまごのことを何も知らない」と


はしを置いて少しかんがえる

たまごについて詳しいところを

おじさんに見せつける必要があるようだ


(たまご たまご たまご)


僕は殻つきの生たまごと茹でたまごを

見わける方法を知っている

コマのようにくるくると

回せばいいのだ


僕は言う

「生たまごと茹でたまごの見わけかたを知っていますか?」


ところが

まるでおでんの湯気みたいに

おじさんの姿は消えていた


おじさんがいた席には

殻つきのたまごがひとつだけ残されていた


「殻を打ち破れ」

とそこには書いてあった


3 :のどじまん :2009/04/17(金) 00:48:54 ID:ocsFuDoH

ウィンナー


さみしい夜ってあるよね


片思いしているあの子の

何気ない一言に傷ついたり

仲のよい友だちの

心ない冗談に腹をたてたり

先の見えない将来に

胸が凍るような不安を感じて

ねむれなくなるようなそんな夜のことだ


きみたちがまだ十代なら

ぜひ知っておいて欲しいんだけれど

どれだけ大人になったって

そんな夜はあるんだよ


それでも大人は

朝がくれば働かないといけない

だから大人はきみたちよりも

さみしい夜の過ごしかたを知っている


千の夜には

千の夢があるように

さみしい夜の過ごし方も

さみしい夜の数だけある


たとえばそんな夜には

ウィンナーのことを考えるのも良い

ボイルしたばかりで熱々の

ウィンナー・ソーセージだ


真っ白なボーンチャイナに

盛りつけられたウィンナー

ほかほかと立ちのぼる湯気が

ダイニングテーブルを照らす光のなかへと消えていく


ウィンナーの気持ちはわからないけれど

焦げもせず 蛸にもされず

ソーセージにしてはわるくない人生じゃないか

あとは粒入りマスタードを

つけてもらえたら素敵だね


きみたちがまだ十代なら

ぜひ知っておいて欲しいんだけれど

どれだけ大人になったって

思いつくのはこんなことくらいさ


きみたちが不安のなかでもねむれるように

祈っているよ


おやすみ


4 :のどじまん :2009/04/17(金) 02:19:56 ID:ocsFuDoH

ピーマン


小学生のとき教室の本棚に

『現代用語の基礎知識』と言う本があった

昔の流行語なんかが載っていて

おもしろがって読んだことを覚えている


そのときの担任の先生は

月曜の朝には釣りの話をしてくれた

釣りに興味はなかったけれど

授業がつぶれるのがうれしかった


僕はピーマンが嫌いな子供だった


大人になってからの僕は無駄なことをしなくなった

効率の良さを求めていれば人生が豊かになると信じていた

だらだらと続く会議や中身のない話が嫌いだった

「それで?」が僕の口癖になっていった


小学生のときに読んだ『現代用語の基礎知識』によれば

「中身がない話のこと」を「話がピーマン」と呼ぶのだそうだ


僕はピーマンみたいな話は嫌いだ


結婚するつもりだった彼女と別れたのはそんな頃だった

彼女は僕に「一緒にいると息苦しい」と言った


月曜の釣りの話なんて今ではなにも覚えていない

どうせピーマンみたいな内容だったのだろう

でもそんな釣りの話が僕は好きだった

きっと人生には無駄に思えることも必要なのだ


夜のスーパーマーケットで僕は

彼女と再会できた時に言うべき言葉を考える

でも野菜コーナーの色とりどりのピーマンを見て思いなおす


この気持ちさえ確かなら

空白の時間を言葉で埋める必要はないのだ


5 :のどじまん :2009/04/17(金) 20:14:37 ID:ocsFuDoH

りんご


赤くて
まるい

うさぎにも
なれる

あまくて
すっぱくて

放っておくと
茶色になるよ

男の子のあたまの
上にのっけられ
矢で射られたのには
おどろいた

なんていうかそんなの
ひどいじゃないか

そんなふうに
百のことばを
つづけるよりも
こう言ったほうが
良いかもしれない

わたしは「りんご」

名前ってふしぎ


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