新小説広場の試験に貢献しようと思い、こちらで新連載を書こうと思います。
現在の小説広場の方も随時更新を頑張りますのでそちらのほうも読んでいただけると幸いです。
で、今回はSF系です。ジャンル名は長すぎてエラーがでてしまったのですが、一応『荒唐無稽スーパーロボット列伝』です。(全部入らなかった…orz)
断っておきますが、某ゲームとは関係ありません。
ネット社会が浸透した世界に起きる悪と戦う者達の物語です。
ジャンルの通り、ロボット物。
ただし、今回の連載は外伝的なもので本編は私のHPが完成したらそっちにのせようかと予定。……ただし、現在もHP製作中なので今年中にできるかは不明……。
――あの時の記憶はやや不鮮明になってしまったが、今でもそれは覚えている。
0と1の組み合わせて構成された仮想世界に突如として現れた機械の巨人。
それは幻であったのか、それともあたしの妄想だったのか、どちらにせよ現実(リアル)に存在するものではない。
アレは所詮プログラムで組まれたもの。
だが、その存在はあたしの中で確実にある。
たとえそれが微かな手触りであったとしても、その印象はあたしの中で力強く残っている。
そう、それの名を胸に刻まれたその瞬間から、あたしはアレに惹かれていたのかもしれない。
『G』、それがアレのコードネームである。
新西暦2025年に起きた異星人最終戦争、通称『RG戦役』。
地球圏の命運を懸けた戦争は地球人類の勝利に終わった。
生き残った異星人――ブレイギャリウスは地球側に降伏。
地球政府は彼等の地球移住を認め、地球人類との平等惑星住民権を約束した。こうして地球人類とブレイギャリウスとの共存が始まった。
それから百年後、刻は新西暦2125年。
地上科学技術の水準が高まった時代。人類はその科学の結晶に、超高度二次元擬似仮想空間――通称、『電脳世界』を作り上げた。
これの発案及び発明者は『鷹尾 遊(たかお ゆう)』。
IQ400と推定される超天才マッドサイエンティストの彼女は、新西暦2015年にコレを完成させ、それが世界に浸透したのは新西暦2030年。
約百年が経つ今や、世界経済は電脳世界によって左右され、電脳社会に順応した人類はもはや電脳空間を無しに生きることができなくなってしまったのである。
電脳世界(ネット・ワールド)において、現実世界(リアル・ワールド)の大きな違いは色彩である。
ネットとリアルの区別がつくように電脳世界においての色は基本的に色素がかなり少なくされている。
オンラインした人間の表示色素は現実世界のものとはなんら変わらず忠実に再現しているが、情報建造物などの無機物の色素は現実世界とは異なる。
これは発明者である鷹尾遊が初期段階からそうしていたことから、電脳社会への浸透を予測していたのかもしれない。
NC2125/07/08 23:48
詩原 巳由(しのはら みゆ)ブログサイト「Non daily life & daily life」より
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「あー、君達。無駄な抵抗はやめて、EFを除体しておとなしく投降しなさーい」
呑気な男の声が一つの電子建造体の前から聞こえた。
現在、電子銀行であるこの電子建造物は強盗団によって占拠されていた。
しかし、強盗団と言っても普通の人間が立て篭もっているわけではない。
建物は大きく、フロア一つでも天井が十メートルはある。これは単に人間用サイズで考えてられているわけではないからだ。
そこにいる強盗団は人の姿をしていなかった。彼等は六メートルはある機械の巨人に乗っているのだ。
電脳仮想空間における戦闘ツール『電子重機(electronic・frame)』。通称、EF。
一般人はEFを所有することはないが、殺しなどの多くの犯罪に使用されることが度々ある。
そのため、電脳治安軍などの軍用EFを所有する組織が存在する。
EFはさまざまなバリエーションがあり、大抵の人間はEF専門店で購入することが可能。ただし、登録制なので、犯罪を起こせばすぐに誰だかバレる。
犯罪組織は登録を抹消した闇売買のEFや、非合法改造のEFを使用している。武装もそれなりに非合法。
EFには二種類のタイプがあり、大型重機のギガントタイプと、通常型重機のスマートタイプに分かれる。
一般に流通するのはスマートタイプ。しかし、一から組み上げるか、スマートタイプを改造することでギガントタイプができあがる。
大きさは五メートルから三十メートルとさまざまである。もっとも最大級サイズとなると電子構造物に入れない確立が高いのでそこまで大きくする奴はほとんどいない。
ちなみに、件の強盗団は通常重機に少々武装を組んだ程度の簡易犯罪型である。
「鋳史(いろふみ)警部、周囲の一般市民の避難は完了しました」
先ほどの呑気な声の男――鋳史警部――の横に一人の大柄な黒人男性が言いながら敬礼する。
「おぉ、サフネ君。ご苦労様。……さぁて、どうしたもんかねー」
四十代後半になる鋳史警部は白い顎鬚を擦りながら呑気に強盗団を見上げる。
「EFが出ているとなると、やっぱ電脳治安軍を呼ばんといかんなねー」
「警部! 我々電脳警察がここで犯罪者共をとっちめなければ、またもや軍に見下されることになりますぞ! ここはやはり我々電脳警察の対EF特機部隊を呼ぶべきです!」
「そうなると、うちらは逃げないとねー。彼等の働きはいいんだけど、暴れて他の電子建造物に被害が被るからあんまり犯罪者達と変わらんような……」
「では、あの強盗共と交渉して――」
バンッ!
一発の銃声が二人の横にあったパトカーを吹き飛ばした。
それを横目に見る二人。
「……交渉して解決できそうかい?」
「……いえ。無理かと」
「だよねー」
鋳史警部は空へと顔を上げる。
電脳世界の空は青ではなく、黄緑色に近い空だった。これがリアルとネットの違いを大きく見せ付けるものでもある。
「連中の要求はEF用移動車両だったよね?」
「あ、はい。既に用意しております」
「なら、それを連中にとっととあげなさい。彼等を電子建造物から出すことが我々の本来の任務なんだから。そっから先は特機部隊の仕事だよ」
「……わかりました」
しぶしぶと了承したサフネであった。
そんな状況を遥か高い電子高層建造物から見下ろす青年が一人。
なびく風が白いロングコートを揺らしていた。
電聞記者シィル・フェレイヌが現場付近にある既に一般市民の避難を終えた電子構造物の屋上に到着したのは事件発生から四十五分後であった。
本来の予定ならばもっと早く到着するつもりだったのだが、厳しく敷かれた封鎖網などによって彼女の移動時間を遅くさせたのだ。
「あぁ、もう。犯人がでちゃっているじゃない!」
彼女は電子ツールから双眼鏡を転送させ、それを使った彼女の目に映るのは、前衛に人質を歩かせながら後ろからEFが持つ銃を向けながら電子構造物から出る強盗達であった。……当然、ほとんどの者がEFに乗っているが。
今回の犯罪は中小企業の銀行が狙われたものであった。おそらく何処からか
その銀行の電子構造物から出てくる者は十一人いた。うち五人がEFに乗っており、
接続した人間の肉体情報を電子的にフィールド・バックし、細部まで再現したのが電霊体だ。
本人の延髄部分に移植された
しかし、電霊体改造整形技術により、生身ではなく電霊体の肉体情報を非合法に書き換える闇の電脳外科医も存在するが故に、その電霊体の姿が現実世界の本人と一致するとは限らない場合がある。
であるからして、電脳世界で事故が起きて死亡することがあれば、現実の肉体も同様のことになるのだ。
現実と唯一違うのは、電脳世界で爆死や圧死などのどのような死を迎えようが、現実の肉体では傷一つない綺麗な脳死体ができあがることである。
電霊体には食事や睡眠は必要ないが、電脳世界への連続接続は保って四日である。
これは電脳世界と現実世界との時間差はなく、完全リアルタイムなので、電脳世界での疲労などは全て現実の肉体にも影響し、空腹や睡眠不足になるので、定期的な現実的肉体休息が必要なのである。
政府の電子省からもこれに関してだけは厳重に注意を呼びかけており、三日以上の連続接続している人には電子省から直接、接続解除を命令されることになっている。
電霊体の二人が二台あるEF用移動車両の運転席に乗り込み、EFはそれぞれの荷台に乗っかる。
「連中のEFは、レゴが三機にファングが二機、か」
双眼鏡に内蔵されているカメラがそれらのEFを画像に収める。
市場に流通されているEFはいろいろな形状をしている。
一般的に代表されるEFは遠距離型と近距離型に分かれ、そのもっとも有名なのは強盗団も使用しているレゴとファングだ。
レゴは遠距離型で、横長のブロックを積み上げたような形状をしており、運動性は遅いが、射撃武器の照準は安定しやすい。
そして近距離型のファングは胴体は多少太いが、運動性はレゴに比べて早く、
有人機であるEFは人型であり、無人機であるAI搭載EFは戦車やヘリに戦闘機、果てにはクモなどの昆虫や動物などの形をしたEFも存在するのだ。
「ん? あれって……?」
シィルが目に付けたのは先頭車両の助手席に座った一人の男であった。
黒人でアフロヘアー。サングラスをかけており、筋肉質の肉体が巨漢さを醸し出していた。
シィルはその人物を何処かで見た記憶があったのだが、はっきりとは思い出せず、念のためその人物もカメラに収める。
二台のEF用移動車両は移動を開始。人質達はその場に置いてかれていく。おそらくもう用なしだからだろう。
残った人質達を電脳警察が駆けつけ保護。逃げた犯人達を追いかけることもせず、ただただ、遠ざかるEF用移動車両を眺めていた。
これは彼等を逃がしたというわけではない。その先にある
「……来たわね」
強盗団が乗るEF用移動車両が向かう先、その奥からこちら側へと向かってくるは、三機のEF。
だがそれは人型ではなく、パトカー、科学消防車、そして大型救急車の形をしていた。
AI搭載ではなく、有人機のEFでその形状は市場には出回っていない。ならそれは一体何なのか?
現れた特殊なEFにシィルは心を躍らせた。今回の取材は強盗団ではない。彼女が求めていたのは別なもの。それは――――
「電脳警察の切り札、対EF特機部隊――SMD!」
近年異常なまでに多発している電脳世界においてのEF犯罪に対抗できない電脳警察で組織された電脳警察が誇る切り札だ。
別名、対EF用特機部隊と呼ばれることもしばしばあるが、それは彼等が扱うEFがとても特殊なものだからである。
本来の有人機EFは人型がメインとされており、それ以外の形状――動物、車両、ウィルス系など――のEFは全てAIによって運用されている。
これはあらゆる状況を想定された場合、人型は他の形態の機体には不可能な立体的な機動が可能で、各関節は複合多重構造で自由は人間以上、人間ができる動きでEFにできないものはない。逆に有人機EFは、人間には逆立ちしてもできないことを可能にできる。
それが有人機EFが人型である存在価値なのだ。
そして、彼らSMDが扱うEFは『特機EF』という対犯罪者用特殊重機であり、通称『デカEF』と呼ばれている。
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公道を走る三機のデカEF。
そのうちの一機、大型パトカー型EF『アインスポリス』に乗るザンバラに切られた短い黒髪に黒い学ランのような服を着た青年、
「なぁ、ゴウ。この仕事が片付いたら一緒にメシ食わね? この間いい焼肉屋みっけたんよ。値段も手ごろだし、どうだ?」
ゴウと呼ばれた科学消防車型EF『ツヴァイスローワー』に乗る大柄な体躯に前懸具足を着たまるで武者みたいな格好をした青年、
「焼肉?! それって食べ放題?」
「阿呆、お前を食べ放題に誘ったら店の人が泣くぜ。もう帰ってくださーいって」
「あはは! そうね。確かにゴウが食べ放題に行ったら大抵の店はそういうわねー」
さらにもう一機の大型救急車型EF『ドライレスキュー』に乗る朱く長い髪をした美女が笑い出す。肩が動くたびに、豊満な胸が上下に揺れる。
「酷いよ、フレイア。ちゃんと僕だって胃袋の限界ってもんがあるんだからー」
フレイアと呼ばれた巨乳美女。大きく胸元が開いた服に、ショルダーガード、ニーガード、グリーヴをつけたまるで
彼ら三人こそ、SMDの隊員である。出撃の際は必ず三人一組で行動するがために仕事中にもかかわらずこうやって雑談をするほど仲が良いのだ。
「雑談もよろしいのですが、もうすぐ現場ですので、そろそろ気を引き締めたほうがよろしいかと」
会話の中に割り込んだのは少女の声。三人のコクピット前にあるスクリーンの左下端。そこに一人の少女が映し出された。
まだ九歳ぐらいだろうか、薄みがかった緑色の短髪。大きなセピア色の瞳。控えめなバストはメイド風の服に包まれている。細身であるがふっくらとした両脚には
彼女の名はエイル。今彼女が居る場所は電脳世界ではなく、現実世界にあるSMD基地発令所におり、そこからSMD隊員のサポートを担当している。しかし、彼女は普通の人間ではない。人によって造られた人間。すなわち
その所為か、常に冷静沈着な性格をしており、今のように仕事を忘れかけている三人に対して注意をいれたりすることもしばしばある。
「そういやエイル。今回の犯罪者は一体どんな奴なんだ?」
やっと仕事モードになった火逗埜が聞く。
「今回はですね……」
「いや、エイル。それは私から説明しよう」
彼女の横から割って入ったのは、大鷲の顔をした男であった。
彼こそは、SMDの指揮官でありボス。ジェフティ・ヘルメスである。
トート星人である彼は地球人とは違い、大鷲の顔をしている。
かつての戦争、RG戦役後に地球との共存をし始めた他惑星勢力混合異星人軍団――ブレイギャリウスは、戦後百年が経つ今ではすっかり地球人類の中に溶け込んでいた。その中では、政府にいる者もいれば、ジェフティのようにSMDの指揮官をしていたりもするのである。
「事件は一時間前に発生。現場は中小企業の乙女銀行だ。どうやら裏口の“穴”から侵入されたらしい。犯行グループの人数は八人。うち五人はEFを所持している」
「ただの銀行強盗にしちゃあ、用意周到なことで」
事件の説明に、フレイアは肩を竦める。
「たしかに。ただの銀行強盗にしては、EFを五機も用意しているのはすごいな」
「そうだね。EF一機でも電霊体にとっては脅威なのに、それが五機もあれば誰も抵抗できないもん」
火逗埜と轟乾の二人が感心していると、エイルが口を開く。
「そのEFは元々、スカーレット・インダストリーに置かれていたのを強奪されたものです。まだ
「盗難機かよ。それじゃあ、それの破壊は?」
火逗埜の質問に答えたのはジェフティであった。
「大丈夫だ。既にスカーレット・インダストリーから破壊許可を貰っている。幸い保険が下りるようで問題ないそうだ」
「むしろ、自分の所から盗まれたものだと知られたくないから、証拠処分してって言っているようにも思えるんだけどね」
フレイアの言葉に火逗埜と轟乾が笑い上げる。エイルも「遠まわしに言えばそうなりますね」と肯定。
「いやいや、それは好都合だぜ。おかげでドンパチできるんだ。遠慮なくやらせてもらうぜ」
「単に、カズヤさんは難しいことを考えるのは面倒なだけじゃないですか」
火逗埜の言葉にすかさずエイルがツッコミをいれる。
「だよねー。カズヤは細かいことをするのは苦手だし。何も考えずに突っ走るタイプだからね」
「ちょい待てゴウ。それって俺が単細胞だと言いてーのか?」
「あら、カズヤ。あんたやっぱ自覚してんじゃん」
「うるせーフレイヤ。つーか、やっぱってなんだよ、やっぱって?!」
「こら三人とも。私語はそこまでにしておけ。予定合流地点まであと一分だぞ」
「「「
ジェフティに言われ、三人はやっと真面目になる。
「エイル、現場の状況はどうなっている?」
「はいボス。現在、犯罪者達は一般警察が用意したEF用移動車両に乗ってカズヤさん達の方角へ移動中。予定通り、一番被害の少ない区域で交戦可能です」
「ふむ。あとは、犯罪者を捕らえるだけだな。まぁ、何も抵抗しなければ楽でいいんだが」
「……ですが、抵抗するからこそEFという名の武器を所持しているんですよ、向こうは」
…………………
…………
……
「おっ、見えたぜ!」
火逗埜が言うと同時に、轟乾とフレイアも前方から走ってくるEF用移動車両をデカEFに搭載されている高画像望遠カメラで確認した。相対距離二キロ。
二台の車両の荷台には、それぞれEFが乗っている。
「レゴが三機にファングが二機、妥当な組み合わせだね」
轟乾が感心する。レゴは主に射撃系なので、後衛型。ファングは機動性と格闘戦に優れた両腕を活かした前衛型という性能なので、互いに支援できるのだ。……ただし、それは軍隊ならばの話だが。
「それじゃあ、いつもどおりにやりますかねー」
フレイアはデカEFのコンソールを操作して、外部マイクをON。「あー、あー」とマイクテストしてからコホンと息を整える。
「えー、こちらは電脳警察特殊機動特機部隊SMDです。今すぐ武器を捨て、EFを除体し、大人しく投降しなさい。さもなくば、実力行使で君らを逮捕します。繰り返す……」
だが、フレイアの忠告を犯罪者たちは無視するように一向に車両を止める気配はない。その代わりの返事が……。
ダンッ!
「うおっと!」
レゴから発射された一発の銃弾。それは火逗埜のアインスポリスの横の地面で弾けた。もちろん、それは彼が回避行動をとったが故にだ。銃弾は確実にアインスポリスを狙っていたのだから。
「抵抗を確認っと。……ボス?」
とりあえずの確認とフレイアはジェフティに聞く。それを聞いたジェフティは大きく溜息を吐きながらも、彼らに命令する。
「止むを得まい。三人とも、敵EFを行動不能レベルにまで破壊。および、犯罪者を逮捕せよ!」
「「「
待ってましたとばかりに、三人は活き活きと返事した。
EFにおける操作法は基本的にはツインスティック操作だが、カスタマイズ次第では、身体トレースシステムと思考トレースシステム、そして音声認識システム等がある。
デカEFにおいては、ハンドル・アクセルペダル・チェンジレバーを使用したドライバーアクションシステムと音声認識システムが採用されていた。
「いっくぜぇー!」
叫ぶ火逗埜は一気にアクセルを踏み込んだ。
疾走してくるアインスポリスを見てか、犯罪者達のEF用移動車両がスピードを落として、停止する。同時に荷台に乗っていたEFが飛び降り、レゴは手にしている銃器を構え、ファングは両手にレーザーナイフなどを持ち、足裏のローラーを利用した高機動モードで突進にかかる。
正面から襲い掛かる敵EFに火逗埜は
「くらえっ! バァァァルカンッ!!」
フロント部の左右に設置されたバルカン砲が火を噴き、撃ちだされた無数の弾幕が一機のファングを捉える。
表面装甲を幾つか撃ち抜き所々から爆発が起き、肩などから紫電が走る。そのままバランスを崩して倒れるファング。
残る二機はアインスポリスを横切り、後方のツヴァイスローワーへと向かう。
ツヴァイスローワーの横に獲りついた二機のファングがレーザーナイフで切り刻む。ツヴァイスローワーの装甲が火花を散る。
だが、所詮はそこまでだった。装甲は斬れるどころか、表面装甲にレーザーの焦げ目を残すばかりで、一向にダメージらしいものができない。
「無駄だよ。デカEFの中でも僕のツヴァイスローワーは一番装甲が硬いんだ。その程度のレーザーナイフじゃあ、表面装甲を貫くだけでもあと一年はかかるよ」
ふん、と自慢するように鼻を鳴らす轟乾。
「轟乾、遊んでいる場合じゃないわよー。……スライダーミサイル!」
後ろを走っていたフレイアのドライレスキューの下部から発射された二発のミサイルが地面を滑るように飛び、ツヴァイスローワーに取り付いていたEFの足に直撃。支えを失ったEFはもつれるように地面を転がる。
「ああ! フレイアー、僕の獲物が〜」
「遊んでいるゴウが悪いのよ♪」
「あとはレゴが二機。ちょろいもんだぜ!」
火逗埜はアクセルを踏み、銃を構えるレゴに迫る。
当然抵抗するため銃弾を放つレゴ二機。しかし飛来する弾丸は一発もアインスポリスを捉えることはできない。
「スライダーミサイル!」
アインスポリスの下部から、ドライレスキューと同様に二発のミサイルが発射された。一発は一機の足に、さらに一発は隣のもう一機の銃を持つ腕を破壊した。まだ両足が健在していた方のレゴは戦闘続行を試みようとしたが、正面から体あたりされたアインスポリスによってEF用移動車両の後方にまで吹き飛ばされた。
火逗埜はEF用移動車両の正面にアインスポリスを止め、外部スピーカーをONにする。
「車両に乗っている者達は直ちに降りて大人しく投降しろ。言い分は取調室で聞かせてもらう」
火逗埜の言葉に従い、二台の車両から運転手が二人降りてくる。
「……ん?」
ふと先頭車両の助手席から降りてきた最後の一人に火逗埜は目を向ける。
黒人でアフロヘアー。サングラスをかけており、筋肉質の肉体が巨漢さを醸し出しているその男を、火逗埜はただ者でないと直感した。そして同時にアインスポリスから送られてくる映像を見ていたジェフティも同じ感想を抱く。
「エイル。あの男を調べてくれないか?」
「了解」
すぐさまエイルはコンソールパネルを操作し、映像の男とSMD基地に保存されている犯罪者データベースにあるリストと照合する。検索時間は数秒とかからなかった。
「照合確認。名前はゲッセー・ボルコーネ。Aランクの凶悪犯罪者ですね。……犯罪件数は48件。内容ですが、一般市民への殺人、電脳世界側では中小企業のデータベースへのハッキング行為及びその機密情報の流出と転売行為、登録前のEF強奪、EFによる電子建造物の破壊。現実世界では金品強盗、女性への拉致監禁及び性的暴行です」
「……おかしいな」
「何がですか?」
何やら腑に落ちないジェフティの呟きにエイルは首を傾げる。
「奴は自分のEFを持ち出していない。それに確かゲッセー・ボルコーネといえば、最近の犯罪によく名前が出ている凶悪犯罪組織『TG』に接触したという情報もある」
「TG……。主にカスタマイズしたEFを利用した犯罪を起こす組織ですね。電脳警察は当然ですが、電脳軍も手を焼かせている連中だそうで」
「うむ。だからこそ、奴がEFを用意していないことに、俺は疑問を抱いている。……嫌な予感がする」
「ボスの予感はよく当たりますしね」
そういう二人は送られてくる映像を見つめた。
◇
「えすぅーえむぅーでぃいーの諸君っ!」
黒人男性――ゲッセーは大きく両手を広げて声質は低いながらも盛大な声をあげた。その声はデカEFに内蔵された集音マイクによって騒がしくコクピット内に響いた。
「ぐお! いきなり大声だすんじゃねー!」
耳を両手で押さえながら火逗埜も大声で返す。
だがゲッセーはそれを無視して喋るのを続ける。
「貴様達が現れることなど、最初からお見通しなのだよっ!」
「もしかして、あたし達を呼ぶために銀行強盗なんかを? どーりで人質を簡単に返すわけね」
納得したようにフレイアは頷く。
「つまり、僕たちはアイツの誘いにうまく乗っちゃったってことなの?」
「そういうことなんだろうな。……気にくわねーけど」
ふっ、とゲッセーが不敵に笑う。
「ま、そういうこった。……つーわけでだ」
そういいながらゲッセーは懐から何かを取り出す。
「ん? ボール?」
「ボールだね」
「ボールだわ」
ゲッセーの手元にあるのは何処にでもあるような銀色のボールであった。
「何をするつもりかはわかんねーけど。EFに乗っていないお前に、俺達のデカEFから逃げられると思うなよ」
火逗埜の言葉にゲッセーは笑いがこみ上げるのを抑えきれず大きく笑いあげる。
「あはははっ!! 俺様がEFを持ち出していないと思っていたのか? こりゃ傑作だぜ。貴様等SMDはロクな情報持ってねーんだな!」
ゲッセーのその言葉、そして銀色のボール。その二つを考え、ジェフティは思考を巡らす。やがて辿り着いた結論がジェフティを叫ばせた。
「そうか!? 皆、大至急ゲッセー・ボルコーネを拘束しろ! そのボールを使わせてはならん!」
だが、ジェフティの言葉も空しく、火逗埜達が動き出す前にゲッセーはボールを空高く真上に放り投げた。
「あはははっ!! もう遅い! 出でよ破壊の機械兵器! 正義を語る糞共に、貴様の力を見せつけろ! ――デッド・タイラント!!」
その叫びに応えるように、空中にあるボールが眩い光を輝かせながら分解される。分解されたパーツは粒子化し、プログラムへと変化した。バラバラに組まれていたプログラムはソートで分けられ、予め組まれていた本来のデータへと姿を変える。
プログラムは徐々に巨大な人型へと形を成していく。その光景に火逗埜達は驚きを隠せない。
「おいおい。まさか、アレって……」
「……ちょっとマズイかも」
「ちょっとどころじゃないかもよ……」
やがて、
全長は20メートルはあるだろう。黒く無骨な装甲のところどころには凶悪なトゲが取り付けられており、まるで暴走族を連想させる。ゲッセーは黒い光の膜に包まれ、デッド・タイラントの胸部へと吸い込まれていった。
「ギ、ギガントタイプのEFかよ……!」
巨大なEFを見上げながら火逗埜は呟いていた。
ギガントタイプとは、大型重機とされる巨大機動兵器のことである。一般には販売されていないタイプで、大抵はスマートタイプのEFをカスタマイズしたことにより大型化することが多く。基本的には十五メートル以上のEFはギガントタイプとされる。ギガントタイプのほとんどは非合法改造されたものであり、電脳警察や電脳軍による取り締まりもしているが、その脅威のパワーと武装によりまともにやり合える相手ではない。
ゲッセーが出した銀のボールはそのギガントタイプの召還ツールであったのだ。大型重機は持ち運びが不自由で、スマートタイプのEFよりも目立つ。であるからにして、EF研究施設で開発された、ギガントタイプを圧縮データ化してボールに詰める『リコールボール』という画期的な発明があったのだが、一時期凶悪なハッカーによって開発データをコピーされ、それが非合法闇市に流れたのをきっかけに犯罪組織がリコールボールを悪用する事件が多発していた。
今回使用されたのもリコールボールであったが、SMDが携わる事件では今回が初めてであった。だからこそ、最初ゲッセーがリコールボールを出したときには気付くことができなかったのだ。
「ふはははっ。SMDの諸君、俺様のデッド・タイラントの力で死ぬがいい!」
コクピットからの映像で見下ろすゲッセーは、コンソールを操作してデッド・タイラントを起動させる。頭部のメインカメラであるモノアイが赤く灯った。
「やばい、動くぞ!」
近くにいた火逗埜が慌ててギアをバックに切り替えてアインスポリスを後退させる。続いて轟乾とフレイアも後退した。
「逃がさねーぜ、SMD!」
デッド・タイラントの両肩に装備されたバルカン砲が火を吹く。ばら撒かれた弾が地面に穴を開けていき、一番近くのアインスポリスのフロントと天井部に数発被弾した。
衝撃がアインスポリスのコクピットにまで響く。火逗埜は少し呻きながらも反撃は忘れなかった。
「にゃろ! スライダーミサイル!」
後退するアインスポリスの下部よりミサイルが二基発射された。ミサイルはデッド・タイラントの両足に直撃する。だが所詮はそこまで。ギガントタイプの装甲には到底ダメージはなかった。
「あはははっ! 無駄だ無駄だ。その程度の攻撃で俺様のデッド・タイラントはビクともしねーぜ!」
後退するデカEFを追いかけるようにデッド・タイラントも一歩ずつ前へと踏み出す。
「くそっ、こうなったらアレをするしかねぇーみたいだな!」
「アレかー。……だね。どうみても」
「そうみたいね。このままやられっぱなしってのも癪だし」
火逗埜の提案に二人は素直に頷く。
「よっしゃー。エイル!」
叫ぶ火逗埜の言葉と同時に、エイルが扱っているモニターから忙しく点滅する文字と、サイレンのようなコール音が鳴った。それをエイルは慌てることなく冷静に確認。
「デカEF各機より、エマージェンシープログラムの要請シグナルを確認。……ボス?」
「うむ!」
ジェフティはすぐ近くにある司令席に向かい、懐から出した一枚のカードを卓上に設置されているモニターの横にあるカードスリットに通す。すると、モニターに『SMDEF GVモードへの移行を承認』と表示された。
そしてジェフティはモニターに映る三人へ向けて高々に叫んだ。
「エマージェンシープログラム発令! デカEF、