泣かない彼女と猫の国


1 :たま :2006/11/20(月) 22:06:23 ID:PmQHzHkm

こんにちは。元・村萩千柚穂です。

ではでは。どうぞ。


2 :たま :2006/11/20(月) 22:07:33 ID:PmQHzHkm

プロローグ ネコのウタ


A.







しゃん

しゃん しゃん


降る音 何か 鈴振る 仔等に

割り入る巫女の 静かな歌声

滲む空の 涙と影の

儀式は何処へ 我らは何処へ

全ては貴方の思うがままに

総ては貴方の想うがままに

君は何を見つめているのか

永遠に 解かることは 無い と

呟く 歌は 戻らぬが故に

しゃん しゃん

しゃん


3 :たま :2006/11/20(月) 22:09:31 ID:PmQHzHkm










聞き流してくれてかまわない。




…いきなりだけど。


泣けない、っていうのは結構珍しいことだと思う。
泣かないっていうのなら、そこそこあるのだろうとはと思うけど。
だけど別にあたしは自分が泣けないということには一考にして悲観なんかしていないので、問題は無い。多分。

夜泣きの時期(かなり短かったらしい)が終わった頃から、あたしは一度も泣いたことがない。
それはお母さんもお父さんも自分の記憶も肯定していることなのできっと間違いは無い。
お父さんにはそんな良いことでもない、と言われたが、別に自慢で言っているわけじゃないし、無駄に熱い(世間的には青春を謳歌している、ともいう。だがそれも過剰に)同級生達には裏でも表でも何度も文句をつけられたり、非難の声を浴びせられたことか。
まあ、そんなことはどうでもいいのだけれど。

とりあえず、そんなこんなであたしは今日も生きている。


4 :たま :2006/11/20(月) 22:10:35 ID:PmQHzHkm

第一章  泣かない彼女



「だから…ごめん!由はさ、強いし一人でも大丈夫だけど、アイツはオレが守ってやらないとだめなんだよ…だから、別れ」
「あっそ。で?」
「へ?」
―初秋というには暑すぎる九月の初め、とある学校の昼休み。
一応この地域では一、二を争う広さの校庭で、夏休み明けというのにもかかわらず多くの生徒が騒いでいる中、昇降口近くにある少し大きめの木の下で二人の生徒が向きあっている。どうやら別れ話らしい。
一人は男で、背は170くらいだろうか。
ルックスもそこそこで、性格もそこそこのまあどこにでもいそうな平凡な男。
もう一人は女で、こちらは背は165そこそこ、顔は可愛いというより綺麗な方で、その顔になんともいえない冷めた表情が貼り付いている。
「別れたいんでしょ?そんなのわかってたからべつにいいんだけど。他になんか用でもあるの?」
「な…ちょ、お前少しは泣くとかしろよ!そしたら俺も少しは考えるのにさあ!」
「はあ?たかがデート2、3回しただけで何言ってんの?大体告白してきたのもあんただよね?自分勝手にも程があると思うんだけど」
そう言い放って彼女はスタスタと早歩きで昇降口へと向かった。
衝撃のあまり一時停止していた彼は、少しの間開いていたままの口をやっとの思いで動かし、言った。
「か、可愛くねえ女だな!……っ!」
そのあとの言葉が思いつかず口を噤んでしまったが、どっちにしろ彼女はその言葉を聞いてなんかいなかった。
彼の言葉は、ただ他の生徒たちの喧騒に呑みこまれていった―。


5 :たま :2006/11/20(月) 22:12:09 ID:PmQHzHkm



泣いて男に媚びる女は嫌いだ。

彼女―南崎由は瞬間的にそう思った。

というかそれはたとえどんな悲しい事があっても涙を流すことができない女のただの僻みと言われればそれまでだが。
だけど別に泣くことだけが悲しんだり、寂しがったりする表現方法ではないと思う。そんなことどうでもいいけど。
何にしろ自分には『悲しい』とか『寂しい』とかそういう類の感情が皆無に等しい程足りていないというより無いとは自分自身でもそう思う。が、そういう感情がなければ生きていけない世界では多分ないので、特別変なようには思わない。おおよそ自分の下らない持論だけれど。
そこで由は思考を止めた。授業が始まる。
今日の五時間目は数学だ。全くを以ってやる気は無い。



普通だった。
何もかもが、彼にとっては平坦平常極まりなく。
彼にとって平凡な日常だった。
周りには外傷はなく瞳孔も開いていない、意識のないだけの人間の体が土に塗れ老若男女問わず幾つも散らばっていた。
そしてそれらに一番目に見え共通しているものが…まるで闇に蝕まれるように段々体の端から消えていっている、ということだった。
数十分もすれば完全に消滅してしまいそうなスピードでそれは進行していく。
そして彼は、一言―
ごちそっさん、と呟き笑い、どこかへと消えてしまった。
ただそれは消滅するという意味ではなく、ものすごい速さでその場を去ったといったことなのだが。
普通だった。
何もかもが、彼にとっては平坦平常極まりなく。
彼にとっては平凡な日常だった。



「…」
開いている。鍵が開いている。
学校が終わり、特に部活動もやっていない由は、まっすぐに学校から十五分ほどで着くマンションにある自宅に帰ってきたのだが。
朝は確かに掛けていったはずが、なぜか鍵は開いていた。
だがすぐに納得し、ドアを開けてただいまも言わずに部屋の中へと進む。
そしてリビングに入ると、予想どうりの人物がポテトチップスを食べながら座っていて、こちらを見てにっこり笑う。
「あ、お姉ちゃん。おかえりなさい」
綺麗という表現が似合う由に対して、まだ幼さが残り可愛いという表現のほうが似合う顔。
少し茶色が混ざった栗色の髪の毛を両サイド下にゆるく結んでいる。
まだ中学生と思しき彼女に、由は簡潔に感想を述べた。
「帰って」
そうすると彼女は一瞬黙って、今度は声をだして笑う。
「あははっ、ごめんねお姉ちゃん、勝手に家に入って。でもちょっと聞きたいことがあったんだー」
「あたしは聞きたいことなんかないから」
そう言って由は彼女のいるリビングの隣にある、ただ広い寝室にバッグを投げ入れ向き直る。
「だから早く出てって。というかそれは不法侵入罪じゃない?」
「そんなの気にしてないくせに。あたしが出てったほうがいいのは、ただ面倒だからでしょ?」
「わかってるなら早くして」
言うと由は、近くにある低い棚の上に置いてある電話の個機の電源を切る。
そして念のため、ケータイの電源も切ろうと寝室に投げ入れたバッグの中から取り出し、開けた瞬間。


6 :たま :2006/11/22(水) 19:10:45 ID:PmQHzHkm

ヴ、

ヴヴヴッヴッヴヴヴヴヴ


ケータイが唸る。
「…」
はあ、とため息をつく。本当に面倒くさい。
このまま切ってしまえば楽なのだけど。
そうすれば、絶対家に押しかけられたりする。本末転倒だ。
決心して、素早く開く。髪の毛で隠された右耳に押し付けるように、ケータイを当てる。
「はい」
『愛は!?』
開口一番に叫ばれる。耳が痛い。
三十代ももうすぐ終わるくらいの歳の、女性の声。
『そこにいるんでしょう!?』
「いるけど」
『早く愛を解放して!今度もまたその、冷たい目で愛を脅したんでしょう!母親譲りの、その、冷たい目でッ!!酷い……!!人でなし………ッッ!』
彼女はいたって本気だ。芝居がかったその言葉も、涙声で響いている。おそらく溢れんばかりの水が彼女の眼球を覆っている。
どうでもいいけど、高い声で叫ばれると頭が非常に痛い。もう慣れたが。
これが由の日常だった。少なくとも、彼女にとっての日常。
平穏ではないけれど、退屈ではない。
『あなたは何をすれば気が済むの!?何回私達を悲しませれば気が済むのよ!』
『ほら、また黙ってやり過ごそうと思っているんでしょう!悲劇のヒロインみたいにみんなに思わせて!私達を悪者にして……っ!!』
『そうよ…悪魔よ!あなたは悪魔…・・・私たちの幸せを奪い取る残酷な悪魔……!!これ以上、私たちから何を奪おうというの!?』
繰り返す繰り返す。


7 :たま :2006/12/04(月) 21:09:48 ID:PmQHzHkm

彼女にしか、意味なんて有りもしない言葉。

――音が鳴る。
鳴る。警報。境界線。断界線。
啼る。鳴り、響く。


ああ――頭が痛い。


『早く愛を……』
『人でなし、人でなし人でなし、…………ッ!―――――――――!!』
もう、相手の発する言語の殆どがそこらの悪質ないたずら電話と大して内容が変わらなくなると、頃合を見計らったように由はしばらく閉ざしていた口を開く。
「……すいませんすぐに返します」
冷淡とも無表情ととれる声で、切るが早いか即座にケータイの電源を切った。
その様子をずっと見守っていた彼女―もとい、由の父親の再婚相手、中宮理加の連れ子で三歳下の義妹、中宮愛は立ち上がり帰る準備をする。
「…もう、時間だね…。お母さん…心配してるし、私はそろそろ帰るよ。……いつも迷惑かけてごめんね、お邪魔しました…お義妹ちゃん。用事は、また明日」
それだけ言うと返事を待たずに玄関へ行きドアの外へと消えていく愛を横目に見ながら、由は思った。

大人しくなりすぎて気持ち悪い、これもまた面倒だなあと。
また明日も来るのか、面倒だなあと。
本当に、頭が痛くて――薬を買いにいくのが、めんどくさいなあと。




8 :たま :2006/12/26(火) 23:18:21 ID:PmQHzHkm


世の中というものは決定的に不公平だと思う。
まず圧倒的に人間が多い。
コレは進化の過程の上で我らは選ばれたのだとかほざく奴らがちらほらいるが、いい加減にしろお前たち。本気でそう言ってやりたい。というか今現在でも人間以外の生物の種類は余裕に一万種類以上いるといわれているのにもっと昔となれば億は下らない。そんな説も有力でつまり何が云いたいのかというと、そんな膨大な数の中で猿だけがこれだけ著しく進化を遂げたのだから無理はないかも知れないが付け上がるなよということだ。

…説明が長すぎたか。話が脱線した。
まあまとめてしまえば、人間は生まれない者や生きる前に殺されるというのに、死なないということは絶対に無い。ありえない。
故に、私はこの世界が理不尽でならないと思うのだ。

「なーんてね」
くすくす、と放課後の教室で一人、静かな笑い声を漏らす女がいた。
名前は狩沢(かりさわ)水町(みまち)。17歳で、この明日(あけひ)高校の
2年―――そんな設定に(・・・・・・)なっている(・・・・・)
「くすくす…そろそろあいつもこっちにくるかな?」
窓に目を向け、誕生日を待てない子供の様に輝いた目をしながら呟いた後、もう少しだけ空を見つめ教室を出る。
そして彼女が出ていった後の教室の床は――
赤く紅く、まるで血に染まっているかのように、


真っ赤なチョークが、ぎっしりと敷き詰められていた。


9 :たま :2007/01/04(木) 13:10:07 ID:PmQHzHkm

第二章  赤色カタルシス

街に、流れる音楽。
それと雑踏。もうすぐ落ちる太陽が、赤く照らす空。
騒々しいこの街をとても楽しそうに歩く影。
水町は大量の荷物を手や肩に乗せて進んでいた。
同世代の女子の中でも低いほうだと思われるその体はひどく華奢で、手も足も細かった。
周りから見れば、彼女があれだけの荷物を持っていることがまるで合成写真かのように見える程。
ましてや――苦痛に顔を歪めるならまだわかるものの、何も背負ってないかのように軽やかな足取りで歩いていく姿は少なくとも周りの人間の目を惹いた。
当人はどうしているかというと、そんな事には目もくれず機嫌が良さそうに鼻歌を歌って横断歩道を渡っているところだった。
ピコンピコン。赤になりかけの信号がなる。
だが彼女は気づかず、悠々と横断歩道の真ん中を歩いていた。
そのとき。
車の野太いブレーキ音が鳴った。
彼女は最後まで気づかず―――
そのまま、トラックに撥ねられた。



10 :たま :2007/01/09(火) 20:08:12 ID:PmQHzHkm


自分は生きてはいけなかったのだと思う。
死んだほうがいいのだ、自分の様な存在は。
存在するだけで人を不快にさせるような。
存在するだけで人を死に追いやるような奴は。
きっとあのとき、死んでおけばよかったのだ。

だけどそれでも今生きている。
由が生きているのはただ生きるためだ。
死ねばいいとは思うが死にたいとは思わない。つまりは他力本願。
這いつくばってまで生きたいとは思わないがわざわざ高いところから落ちるような馬鹿げた真似もしたくない。
生きていてごめんなさいと謝るくらい卑屈ではないし、
生きるために人を殺すくらい生き汚くもない。できればそう思いたい。
人は自分を特殊だというけれど、あくまで私は私であって超能力を身に付けたわけでもずば抜けた肉体能力を持ち合わせているつもりでもなく。
ただ泣けないという理由でそこまで迫害されるというのはどういうことなのだろうか。
確かに小学生くらいの頃まではその事を多少は疑問に思っていた。だが年を重ねるにつれいやでも世間というのは見えてくるものであって、自分の周りにいる普通の人間は大抵自分自身と大きく異なるものをもっている人間を敬遠するか忌み嫌うかしたがる生物らしいと知ったのはもう高校生に入る前あたりだろうか。
絶望はしなかった。疑問は持ったにしろ人間に対して希望といった感情を感じたことはないのでそれも当然のことだった。


結論。
死に損なった自分はどうすればいいのか。
それは――きっと、生きればいいのだ。
生きて生きて。生きて。
いつかまた機会があれば、死ぬ。
そんなものだと思う。


そんなことを暇つぶしか何か知らないがとにかく考えていた由はふと足を止めた。
いつの間にかついていた横断歩道の信号がちょうど赤になったところだったからだ。
周りにいる者も皆止まっている。
止まっている、筈―――なのに。
一人だけ、戻ることもせず横断歩道の真ん中あたりを進む。
目の前には発車寸前の車たち。
誰かが危ないと言った。
だけど誰も助けるために飛び出すなんて陳腐なことはしなかった。
そのまま、大きな荷物を背負った女は轢かれた。


11 :たま :2007/02/08(木) 14:40:38 ID:PmQHzHkm

「……………ッ」
悲鳴。
フラッシュバック。フラッシュバック。
赤、紅、…血。
白と黒のコントラストに、じわじわと容赦無く鮮血が滲みこむ。
既にただの肉塊と化したそれ(・・)は、ところどころから崩れていく。
薄い吐き気。
思い出しては、いけない。
ノイズ。
嫌だ、と、脳が叫んだ。

瞬間――


12 :たま :2007/03/03(土) 15:42:15 ID:PmQHzHkm


「……え?」

ほんの少しだけ由が目をつぶった間に、その光景は消え去っていた。
大事故。悲惨。そのような単語が浮かぶ、つい二、三秒程前まで目の前にあった現実。
白昼夢だとも、幻覚だとも思わない。そこまで自分を信じているわけでもない。以前からその兆候があれば自分を疑うこともできた。
けれど、今の現象は明らかにおかしい。ただ純粋に、ありえなかった。

まるで事故など無かったかのように、赤信号が光る信号機の元にはある種平凡な顔をして立ち止まった幾数もの人間がいて。
道路には沢山の車が行き交っている。勿論、血痕など何処にも無い。
目眩がする。自分側と向かい側の人ごみの中を目だけで捜してみても、今さっき轢かれたはずの華奢な少女は見当たらなかった。
混乱と疑問が頭の中を埋め尽くす。確かに自分は見た。蜂蜜色のショートヘアが血に染まるところを。人が肉塊に変わるところを、また(・・)見たのだ。

…?

なにか引っかかるような感じがしたが、きっと些細なことだ。気にしないようにした。
とにかく、変だ。違和感とでも表せばいいのだろうか。いや、そんなものは感じて当たり前なのだろうが。
そんなことを思っていると、
「ッ」
一瞬、だけ。見えた。
彼女の。彼女の顔。
実に健康的な色をした唇で弧を描く。
にぃ、と。笑って呟く。その声はなぜか由の耳元で聞こえた。
――見いつけた。
何のことか分からず、再度目を閉じる。
次に開けたときはもう、先ほどのようなものはなにも聞こえなかったしなにも見えなかった。
安心は、この際するべきではないのだろう。
しかしそれ以上このことを考える気にもならず、静かに深呼吸した。
もっとも、胃の中に入ってくるのはガソリンの匂いのする汚染された空気だけだったのだが。


やがて赤が青に変わり、周りの人間が歩き出す。
由も、少し遅れて足を踏み出した。


13 :たま :2007/04/20(金) 23:54:18 ID:PmQHzHkm



なんだかんだで世界は回っているらしく。

どれだけ人が憂鬱になろうが時が止まることを願っていようが、時間は進むことを止めないらしい。
窓越しに聴く雨音は耳朶を打つ。
午後七時、外はもう十分に暗い。
結局家に帰っていたら頭痛は止まっており、わざわざ買いに行った薬は今のところ金の無駄遣いということになった。
まあいい、こうして飛んでいく金はすべて親が勝手に口座へ毎月振り込む、あまりにも多すぎる生活費から出されているので、由はあまり気にならない。
だからと言って決して毎回無駄な金を浪費しているわけではない。バイトはしていないがそのかわり友達もいないので遊び歩くこともまったくと言っていいほど無く、自然に金は貯まる。
風呂にも入り特にやることも無いので、ベッドに潜る。ちなみにテレビは一応設置してあるが滅多に見ない。情報は新聞で事足りるし、そもそもそんなに情報を必要としている暮らしはしていないので、最低限の近況を知っていれば勉強にも支障はないからだ。
最近寒くなってきたので毛布の暖かさは格別だ。いつもより早く頭は思考が緩慢になる。まどろみ、目を閉じる。
明日は土曜日なので基本的に学校は休みだ。勉強熱心な方ではないので由は目覚ましをセットしない。時計の針の音がなんだか癪に障るので、電池を抜き取りベッドの隣にある小さな引き出しの一番上に入れる。
疲れているのだろうか。もう駄目だ。思考をするのもひどく辛い。
眠る。


14 :たま :2007/08/06(月) 20:22:25 ID:PmQHzHkm




AM:0:20 コンビニ


かさり、と安っぽい緑色の紙が擦れ音を立てる。
水町は雑誌を読んでいた。否、読んではいない、寧ろただ捲って眺めている、というほうが正しい。要するに彼女は暇を潰していた。
深夜のコンビニは意外にも人気が多く、水町や店員を除いてもざっと見五人ほどは買い物かごを持ってうろうろしていたり、雑誌を立ち読みしていたり、商品棚の前で真剣な顔をして立っていたりしているのがわかる。
年齢層もほとんどばらばらそうで、ああ人間というのは夜に寝ずになにをやってるんだと自分のことを棚に上げふと思う。くあ、と喉が震えあくびが出た。
誌面から顔を上げると、窓越しに彼を見つける。
自動ドアが作動する音がして、コンビニの人口密度が増える。少し頭を回して間もなく、自分を見つけたらしい彼はこちらに近づいてきた。相変わらずフードを目深くかぶり、いくら外が明るいからって夜にそんな格好じゃあ危ない、と、いつものように思考して水町は口を開いた。
「遅かったねえ。あんたらしくもない」
「少し手間取った」
彼はぼそぼそと小さく呟く。寝癖がつき、首もとまで無造作に伸びた黒髪を軽くかき回す。
「やっぱり、生活リズムとか狂う?」
「ある程度は。状況が状況だから、身体もおかしくなる」
だるそうに低音で喋る彼に対し、水町は上機嫌に高めのアルトで返した。
「そんなもん?」
「そんなもんだ」
よく聴いていると所々変な内容になっている会話を特に気にとめる者はいなく、二人は話を続けた。


15 :たま :2007/09/09(日) 22:09:11 ID:PmQHzHkm

「あ、んで、見つけたよ。あのこ」
「早いな」
「そりゃまあ力入れてますし。同じ学校だとやっぱ見つけやすいよね」
「……学校? 通ってんのか?」
「そ。体、ちょっと借りてね」
ちょんちょん、と胸の辺りを指して水町が言うと、隅でなにやらいかがわしい雑誌を熱心に読み耽っていた頭部ソーラー式おじさんがこちらをちらちらと見る。が、会話の内容を聴いているわけでもなさそうなので水町が無視していると、変に神経質な彼はその視線が気に障ったのか呟いた。
「場所変えよう」
「べつに大丈夫じゃない?」
「外のほうが話しやすいし」
「ま、いいけど」
そう言うと、雑誌を手にとって水町が言った。
「これ、買っていい?」
「なにに使うんだよ」
「燃やすの」
「…………ふーん」
レジに向かって歩いていく水町を尻目に彼はさっさと外の駐車場へ出る。証明写真の機会の横に背をつけ座り、ずれたフードを被り直した。
疲れからだと推測される眠気に身を任せようと目蓋を閉じて、道路の騒々しさにふと耳を傾けると、それが意外と心地よいことに気づく。
眠りに落ちそうになり、ふわ、と不思議な感覚がしたかと思うと、水町の声で急激に現実へと戻された。
「こんなとこで寝ないよー……って、あれ、あの子じゃない?」
「どこ」
「こっち来るよ。ほら立って、隠れよう」
「なんで」
睡眠を邪魔されたのが気に食わないのかさっきよりも若干不機嫌に言う彼の手をとって、水町は光の死角となっている駐車場の隅にうずくまる。
寝ぼけ眼でコンビニに入っていく彼女を小さく指差して、言った。
「ほらネコ、あの子だよ、由ちゃん」


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.