電波なお話。


1 :小豆 :2007/03/27(火) 20:51:12 ID:PmQHsHuF

……ねぇ。

なんだよ。

君は、どうしてLASの会長をやらないの? 誘われてるでしょ?

……面倒だから。

「神の子」なのに?

その呼び方は止めろ。

あはは。恐いな、睨まないでよ。

はぁ……。会長なら、お前がなるんだろ?

うん。僕には、夢があるからね。

だったら、俺はお前のそばでそれを応援する。それで十分だ。

……君の方が、会長になるのは簡単なのにね。

まぁな。皮肉なもんだ……。

それでも僕は、君をいつか追い越すよ。そして、君のそばで、世界のトップに立つ。

……楽しみだな。あるかどうかも分からない、俺よりも上にいくお前の未来が。

ふふ……。
僕は、君がそばにいてくれれば、それでいいから。だから、僕のそばから離れないで。

……分かってる。






遠い遠い、昔の話。
君と僕の。
お前と俺の。
昔話。
あの夢は、叶うことなく。
今も、願い続けている。


39 :シルヴァイン :2007/10/01(月) 22:40:14 ID:n3oJtLmD

かつて

かつて、真紅が敬愛し傾倒し崇拝し

尊敬した魔道士がいました。



魔道士は正義を愛し、厳格であり
ただ一人を寵愛しました。
身を切る様な冬の日に、魔道士は死にました。

真紅は魔道士の歳をとうに超えました。
真紅は魔道士をこちらに向かせたくて、彼は向きませんでした。
真紅は・・・魔道士の真似をして花言葉を語りました。

ただひとり寵愛を受けた彼は喪に服したまま刑事となり
いつの日からか白の手袋を外さなくなりました。
魔道士の愛した正義を掲げ、戦い続けました。



真紅が求めた寵愛を、その身に受けた彼と
受けられなかった真紅は

魔道士が大好きで、墓に黄色い花を供えました。
いつも、いつまでも。


40 :小豆 :2007/11/06(火) 00:01:59 ID:xmoJm4rD

血の海の中で


「……ゴホッ」
「っ! 孤征!」

 咳が止まらない。
 しかも咳をする度に、血を吐いてしまう。

「……はっ。いよいよ、死ぬのか?」
「馬鹿! あたしを置いて死んだりなんかしたら、許さないからね!」

 ……どうしてこんなことになった?
 妖魔をひとりで相手したのが悪かったのか?
 朱温と共に戦っていれば、こうはならなかったのか?

 ……いや、違う。
 それでは駄目だ。

「……朱温」
「なに……?」
「お前に怪我がなくて、よかった」

 そうだ。
 これでいい。
 血を流すのは、俺だけで十分だ。

「……ばか」

 泣くなよ、朱温。
 俺はお前の為になら、いくら血を流しても平気だから。


41 :シルヴァイン :2007/11/18(日) 22:18:00 ID:n3oJtLmD

熱でもあるのかね。

「寒い・・・・」
静桐遊凪がぽつりとつぶやいた。
今気がついたが、結構に寒かったのだ。
だからとりあえず横にあったローブをひっつかんでかぶり、
相棒を揺すった。
「んー・・・・あと何枚だー・・・・・」
低い声が伏せたまま返る。
「あと50枚ー」
「殺す気かー。」
新しい魔道書を二人で書いているのだ。
それの既定の枚数まで、あと五十枚。
もう世も更けきって、日曜日の早朝にかかりつつある。
「剣核、」
「あ?」
「寒い。」
「術でもかけろ世界一の大魔道士さん。」
なあ、と一言、
「ねよーぜもう。眠い。」
「は?現実見て言えそういうことは。」
しーらね。と遊凪は。
「寒ぃんだ。」
ほれほれ、と剣核よりは細身、しかし力強い赤の腕が
漆黒の腕に絡まり、強くベッドの方向へ引いた。
「ちょ、おい、二人で寝るには狭いだろ」
「じゃ剣核、横へ座ってろ。」
確かに遊凪のベッドであるそれのよこには椅子があった。
溜息と共に椅子に座り込めば、遊凪は剣核の腕をひっつかんだままで
こてんと眠り込んでしまった。
ぎゅ、と強く腕が握られている。
「・・・・・・・・早く言えって・・・・」
溜息。


どうやら魔力の乱れを見るところ、校長は風邪をひいたらしい。

「熱でもあるのかね・・・・。」
剣核はただ腕を握られたまま、しばらくそうしていた。


42 :シルヴァイン? :2008/01/07(月) 13:31:47 ID:xmoJtFrD

面食らうようなそれの名は


鳳凰は太古の昔から、五族の中でリーダー格でした。
力が強いからというのではなく、
周りが畏怖したからというのでなく・・・・
自然とそうなっていくのです。
鳳凰は、太古の昔から・・・圧倒的なカリスマを持っていました。

太古の昔、五族の血をひいた青年たちは記しました。


炎の朱雀は四族の剣となり

風の白虎は四族の翼となり

水の青龍は四族の知となり

地の玄武は四族の盾となり

光の鳳凰は四族の導となることを。

そして、それぞれがそれぞれの守護者であることを。
一族が危機に陥った際は、
その身を危険にさらそうとも
必ず四族が救うことを。


その約束が果たされる時が来ました。
朱雀の剣が押し負けようとする時が。



昔、ほんのつい最近の昔。
第158代 鳳凰家当主 鳳凰煉喜
第158代 朱雀家当主 朱雀桐明
白虎家・158期壱ノ番 白虎切言

と、世界を変えられるだけの地位と才能と、心を併せ持つ、
幸いな力を携えた三人がいました。
幸いなことに三人は魔道校へと通い、生徒会長として出逢いました。
三人は約束をしました。現代へと続く、幸いな約束を。

三人が三人とも、誰も束縛しないことを。
誰かが危機にあるその時は、世界など放り出して救うことを。
笑って皆が暮らせる世を作ることを。

三人は改編魔術を作りました。
鳳凰が《制裁》を 朱雀が《鉄鎚》を 白虎が《断罪》を
それぞれがそれぞれのためになるように
友の力になるために。
天よりの視線であるそれの名をつけました。
ゆえに三人は《三天道士》と呼ばれました。


"面食らうような"と白虎が称したその出逢いは・・・・・
そう確かに運命とでもいうべきものでした。
そして今、その朱雀は、死にかけています。
今、約束は果たされるべき時を迎えました。


43 :小豆 :2008/03/05(水) 20:58:56 ID:ncPiWHtG

生徒会長=死神

 私立琉球女子高等学校。名門中の名門であり、金持ちのお嬢様たちが通うその女子校に、不審者が侵入したのは、今から数十年前のことだった。
 犯人は単独だったのだが、何せ非力なお嬢様ばかりの高校である。あっさりと生徒たちは人質にされ、犯人は教室に立てこもった。犯人が拳銃を所持していたのもあって、警察はなかなか動けず、長期戦になるだろうと思われ始めたその時、事件は急展開をみせた。



 だだっ広い部屋の中。絨毯が敷かれた床の上にあるのは、高級なデスクとイス。そこに座るのは、ひとりの女子生徒だった。彼女は長くて綺麗な黄色の髪と、髪と同じ色の大きな瞳をもっていた。肌は透き通るように白く、まるで陶磁器のようだ。
 彼女は高く澄んだ綺麗な声で、ぽつりと呟く。
「……警察には、任せておけないようですわね」
 彼女はイスから立ち上がると、傍らに置いてあった細長い布の包みを手に取った。それは彼女の身長よりも長く、見た目お嬢様の彼女には動かせそうに無い代物だった。しかし彼女は、それを両手で引き寄せると、軽々と持ち上げた。包みの中で、カシャン……と、何か硬質な物同士が触れ合う音がする。
 そして彼女は、部屋からゆっくりと出て行った。



 一方、犯人の立てこもる1年D組の教室では……。
「お前ら、騒ぐんじゃねぇぞ! 少しでも変なことしやがったら、端から殺してやるからな!」
 犯人はわめき散らしながら、近くの机を蹴り飛ばした。どうやら、かなり混乱しているようだ。生徒たちは恐怖のあまり、端の方に固まって縮こまっている。
 だが、その中のひとり、背が低くて細身の生徒が、震えながら立ち上がった。
「あ、あなたは、何が目的なんですか……? こんなことをして、ただでは済まされませんよ?」
「ああ!? お前、死にてぇのか!」
「きゃああ!」
 犯人はいきなりその生徒の髪を乱暴につかむと、銃口を後頭部に突きつけた。教室中を、恐怖が埋め尽くす。銃の冷たい感触を背後に感じながら、女子生徒は恐ろしさのあまり顔が蒼白になった。その時。
 ━━━━コンコン。
 教室の扉が、ノックされた。人質の生徒たちも、犯人も、みんなが扉に視線を向ける。ガラガラ……と、引き戸が引かれ、先ほどの黄色い髪の生徒が入ってきた。
「……お邪魔しますわ」
 にこりと微笑む彼女。その美しさに、誰もが見とれる。と、犯人は我を取り戻し、彼女に向けて叫んだ。
「な、なんだお前は!」
 それに対し彼女は、物腰穏やかに、笑顔で応えた。
「わたくしはこの琉球女子高等学校の生徒会長、光月菖蒲ですわ。……あなたを、止めに来ましたの」
 ガシャンッ!
 折りたたまれていた刃が、その姿を表す。布が取り払われたそれは、漆黒に輝く大鎌だった。
「なっ!」
 犯人は驚きの声を漏らす。その一瞬の隙に、菖蒲は大鎌を携え、犯人との間合いを一気に詰めた。
そして、その大きな鎌を振りかぶる。
 ヒュッ!
 空気を斬り裂く音が、響いた。菖蒲が狙いを定めたのは、拳銃を持つ犯人の右腕。犯人は間一髪の所で腕を引き、それを避けたのだが、そのために銃を突きつけていた生徒には逃げられてしまう。
 そしてその、一瞬あと。
「……ッ!」
 犯人は恐怖に顔をひきつらせ、静止していた。その喉元には、背後からのびる大鎌の刃が。
「……わたくしの大切な生徒たちに危害を加えるなど……わたくしにとっては、許し難いことですの

 背後から聞こえてきたのは、もちろん菖蒲の声だった。
「はっ……。何が“大切な生徒”だ。キレイゴトなんて……ッ!」
 言いかけで犯人は口ごもる。漆黒の刃が、犯人の喉に触れたのだ。菖蒲は静かに、落ち着き払った声音で言う。
「これ以上、戯言を仰るようでしたら……」
 にこり、と、彼女は麗しい微笑を浮かべて。
「……首、落としますわよ?」
 ぞっとするほどの低い声で、言い放ったのだった。
「ひっ!」
 犯人は力が抜け、そのまま床にへたり込んでしまう。菖蒲は犯人が取り落とした拳銃を、犯人の手が届かない位置まで蹴り飛ばしてから、生徒たちに温かい笑顔を向けた。
「……皆様、怪我はございませんこと?」



 そして事件は、解決した。
 後の光月一族族長、光月菖蒲の手によって。


44 :シルヴァイン? :2008/03/12(水) 12:52:47 ID:ocsFWAVk

それはすべて昔の話で

「昔、俺達の世界には皇帝がいたんだ」
真紅が語るのは、もう昔の話。
「氷の魔術を使う、皇帝だった」

「皇帝はグラルデーンの校長で、とても素晴らしい魔道士だったが……
世界中の人間が認める一番の功績がある。
それが、今この世界で活躍する多くの魔道士を育て上げたことだよ」


「名家の当主職に就いた《三天道士》鳳凰煉喜、朱雀桐明、白虎切言、
グラルデーン現校長、波結初樹、現魔道警察警視総監、一世聖、
現魔道警察西国支部長、鬼島浬…その他大勢、それに俺と」

「皇帝は人材を育てることに長けていた。
誰よりも長く生きることを望まれていたが…
60年を生き切ることなく、身を切るような寒い日に逝った」

「皇帝は早くに逝くことがわかっていたのかもしれないな。
最も寵愛したかつての生徒で、そのころ刑事となっていた、
鬼島浬に自分が持っているすべて、遺産も研究論文も何もかもすべてをやって、逝った」

「素晴らしい魔道士だったよ。本当に。
正義の好きな人だった。自分の愛した正義を貫いた。

あの人を知っている今の魔道士はみんな………
誰ひとりの例外もなく、正義を貫こうとしているのさ」


45 :小豆 :2008/04/04(金) 00:26:38 ID:ncPiWHtG

愛に溺れる

 真っ暗な部屋の中でひとり。布団にくるまって、静かな寝息をたてる者がいた。彼は最初、穏やかな眠りに就いていたが、不意に感じたどす黒い殺気に、慌てて目を覚ます。瞬時に、いつも隠し持っているナイフを取り出すと、殺気を感じる方へと、刃を向けた。
 刹那。両者の動きが、止まった。相手の握るナイフは彼の喉元に、彼のナイフは相手の喉元につきつけられる。どちらともが微動だにできない、張り詰めた緊張感が広がった。
「……こんな夜中に、いきなり何や?」
 彼は、相手を睨みつけたまま、静かな、落ち着き払った声音で聞く。しかし相手は、言葉を返そうとしない。それにわずか、彼は苛立ちを覚えた。
「何とか言うたらどうや? ……なぁ、詩」
 名前を呼ばれ、彼にナイフを向ける相手……詩は、何の感情も浮かばない、まるでガラス玉のような目で、彼を見つめた。そして、ゆっくりと口を開く。
「……2択だ、颯夏。お前がそのナイフをおろした瞬間、俺はお前を斬り殺す。もし、それが嫌なら、お前が俺を斬り殺せ。お前が死ぬか、俺が死ぬか……分かりやすくて、簡単だろ?」
 言いながら詩は、おぞましい微笑を浮かべた。その目はやはり、笑ってなどいなかったけれど。
「相変わらず唐突やなぁ。……せやったら」
 颯夏は、詩に負けないくらい、凍りつくような笑顔をつくり。
「……俺は3択目を、作ってみよか?」
 彼はあろうことか、自分のナイフを自分の首筋へとあてた。
「な……っ!」
 これには流石に、詩も動揺を隠せない。その隙を、颯夏は待っていた。
 ナイフを握り締める詩の手を、下から蹴り上げる。詩のナイフは宙を舞い、綺麗に颯夏の手中に収まった。そして彼はナイフを2本とも、2人には手の届かない位置まで放り投げてから、改めて詩の眼を見据える。
「ほな、聞かせてもらおか。……何で、こないなことしたん?」
 ビクッと、まるで親に叱られる子供のように、詩は身を震わせた。颯夏の鋭い視線から逃げるように、彼は目を伏せる。
「……苦しいんだ。お前と、いると。離れたいのに、離れられない。……だから、どっちかが死ねば、楽になれると思った」
 詩の言葉に、颯夏は盛大なため息をついた。そして。
「ド阿呆。言うとることと感情が、ちぐはぐやないか。……そんなに泣くんやったら、最初からすな、この阿呆が」
 ぽた……ぽた……と、詩の足元には次々と水滴がこぼれ落ちる。そして彼は、崩れ落ちた。そんな詩を、颯夏は抱きしめてやる。
「……お前が苦しいんは、俺もよう知っとるわ。ほんでも、お前は俺がおらな、生きていかれへんのやろ? せやったら、多少の苦しみは我慢せぇ。苦しんで、苦しんで、苦しみ抜きぃ。俺はお前が楽んなるの、許さへんからな」
 すると詩は、涙をこぼしながらも、無理に笑って。
「……ははっ。酷いな、颯夏。……それでも俺は、お前を愛している。少なくとも、心が狂って、死んでしまいそうなくらいにはな」
「わぁっとる。……俺も、そうやしな」



 それなら2人で。
 死ぬまでその愛に、溺れてみようか。


46 :シルヴァイン的な何か :2008/04/10(木) 15:02:14 ID:WmknrckH

ぼくの せかい


桐生慧介は唸っていた。
なぜなら頭がぼんやりと熱いからだ。
それだけではない。
全身の間接が全て痛むのだ。

「うううう…」
いい加減あきらめて病院いってくださいよーと
弟子の僧達が言うのが聞こえるが、彼からすればとんでもない!事。
「た、たかだか風邪で病院なんか行けるかアホ…!!」
桐生慧介、ただいまインフルエンザ中である。



「馬鹿ですか。馬鹿なんでしょう。
注射痛いから嫌ってどんな言い訳ですかそれ?」
はーぁ、と盛大なため息と拳骨一発。
それが最愛の弟子から慧介が貰ったものだった。
「今季流行ってるインフルエンザは大人が罹ると酷いって
先生がちゃんと言ってた筈ですよ」
無論俺は接種してます、と優は言う。
「だって針って想像しただけで痛いんやもんー!
同じ理由で歯医者にも行けません!!」
「アホか貴様!!」
その返答には、優だけでなく多くの人間の言葉が重なった。
40度近い熱がある癖に、嫌に元気な男である。


続く?


47 :小豆 :2008/04/26(土) 20:00:56 ID:ncPiWHtG

あなたの望むままに

 ────え……で……。
 誰かが、大きな声で叫ぶのが聞こえる。もう、痛みは感じなくなっていたけれど、体がとてもだるい。このまま、闇に身を委ねてしまいたいくらいに……。
 ────楓!
 ああ、わたしの名を呼ぶ、この声は……。大好きな、だいすきな、あの人のものだ。



 血まみれの彼女は、ゆっくりと重たい瞼を押し上げる。最初に目に飛び込んで来たのは、自分程では無いが、それでも傷だらけの大好きな人だった。
「楓! 私が分かるか!?」
「…………ひ……らぎ、ね……さま?」
 息も絶え絶えに、楓は苦しそうに呟く。その様子に、柊はよりいっそう顔を蒼白にした。
「もうすぐ医者が来る。目をしっかり開けていろ」
 柊はそう言ったが、楓は今にも事切れてしまいそうで、いつまで保つか分からない状態だった。そんな中、息をするのも辛いはずなのに、楓はゆっくりと口を動かし、言葉を紡ぐ。
「……柊姉様。もう、痛みを感じません。どうか、このままゆかせてください。あの時あなたに拾われていなければ、間違いなく散っていたこの命です。今更、惜しむことなどありません……」
 彼女の台詞に、柊は怒鳴り声を返す。
「馬鹿なことを言うな! お前はこんなところで死んでいい人間か!?」
 しかし楓は、苦しそうに咳き込んで血を吐いた後に、ついに目を閉じてしまった。
「……楓は、柊姉様の為に死ねるなら、何も後悔しません。むしろ、本望です。あなたの為に生き、あなたの為に戦い、あなたの為に死ぬ。それが、一ノ葉楓という人間の、存在意義ですから……」
 彼女の必死な言葉にも、柊は強い語調を崩さない。
「目を開けろ、楓! お前の世界の中心が私だと言うのなら、今ここで死ぬことを私は許さん!!」
 すると楓は、もう一度目を開けた。焦点の合わない視線をしばらくさまよわせたかと思うと、柊のもとでその視点が定まる。
「……柊姉様は、どうしてわたしを生かそうとするのですか? わたしには、あなたに執着してもらえる程の価値はありません……」
「私にはお前が必要だ。死なれては困る」
 即答した柊に、楓は返す言葉が無かった。鮮血よりも赤いその瞳から、涙がこぼれ落ちる。
「柊姉様……。楓は、嵐よりも激しく、海よりも深く、あなたを愛しています。あなたに必要とされるなら、例え手足がもがれようとも、わたしは生き延びるでしょう」
「それでいい。お前が死ぬ時は、私が死ぬ時だ」
「はい……」
 そして楓は嗚咽混じりにも、力強く頷いたのだった。


48 :小豆 :2009/01/31(土) 22:57:18 ID:ncPiWAVi

数年後の君


「……どけ。邪魔や」
 鋭く睨みを利かせた俺に対し、彼は極上の笑みを浮かべて。
「断る」
 あっさりとそう言った。

 目が覚めたら、すぐ目の前に彼の顔があった。丁度押し倒されたような恰好である。何かしてくるわけではなく、ただ、俺をからかうのが目的だということは百も承知。何年も一緒にいれば、これくらいのことでは動揺しなくなってくる。数年前なら、相当焦っていただろうけど。
 平静でいられる分、彼の思う壺にはならずに済むのだが、このままでは起きれない。はっきり言って邪魔だ。
「……ええ加減にせんと殴るで」
 眉間の皺を更に濃くする。すると、彼は楽しそうに笑って。
「クイズに答えれたら、どいてやるよ」
 仕方なく、視線だけで先を促す。彼はいたずらっ子のような笑みで。
「それでは問題です。……今日は、何の日でしょう?」
 ……なるほど。目的はこれか。
 唐突に理解した。だが、問いの正解を素直に答えてやるほど、俺はお人好しでもない。
 さて、どう応えようか。
「……何だ、わからないのか?」
 無言で考え込んでいた俺に、彼はごり押しでそう言った。向けられるのは、俺を試すかのような目。この状況をこの上なく楽しんでいるその目に、俺はついに切れた。
 ドカッ。
「いッ!」
 膝で思い切り蹴り上げる。彼は苦痛に顔を歪め、腹を押さえて横に転がった。その隙に、俺はさっと起き上がる。床に転がる彼に視線を落とし、冷たく言ってやった。
「調子に乗るからそうなるんや。ど阿呆が」
 自由の身になった俺は、さっさと扉まで歩いていく。ドアノブに手をかけ、少し考え事をした後、未だに転がったままの彼を振り向いた。


 腹の激痛に耐えながら視線を動かすと、片手をドアノブにかけたまま、こちらを振り返る彼の姿が見えた。いつの間にやら、彼の背丈はだいぶ俺に近づいてきている。それでもまだ、頭ひとつ分ほどは俺の方が高いのだけれど。
 彼は俺を一瞥し、扉に向き直る。小さな溜め息がひとつ、聞こえた。そして。
「……せっかくの結婚記念日やのに、いつまで寝とるつもりや? お前も早ぅ起きてこい」
 俺に背中を向けたまま、それだけを言って部屋から出て行ってしまった。俺は腹の痛みも忘れ、しばらくぽかんとする。次第に何を言われたのか理解し、そして。
「……何だよ。覚えてたのか」
 どうしようもなく、嬉しくなった。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.