徒然なるままに。
誰かが急かす。
嗚呼もっと速く、と。
私は頷く。
嗚呼もっと速く、と。
鳴りやまぬ音に私は世界を知る。
切り取られた今に私は世界を知る。
生きている。
それはこの鼓動。
私の手はそれを握る
それは私の手を握り返す
何かを確かめるように
何かを分け合うように
私の手はそれを強く握り返す
まずは服を脱ぎましょう
外の世界のほこりも全部
ここは持ち込み禁止です
さあさあ素早く脱ぎましょう
次に支度がまってます
ではでは寝巻に着替えましょう
それは貴方のための特別製
中はふわふわ
外はかっちり
なのに軽くてよく動く
色はどれでも選べます
よしよしとてもよく似あう
お待ちかねですベッドです
まだまだ寝てはいけません
まずはそっと座りましょう
貴方の体を包み込む
このふわふわシーツも特注です
なになに匂いが気になると?
わが社はお日様仕様です
結構お高いんですよ
やれやれようやく完了です
無音の真白い枕に
騒音響く頭をのせて
ようやく静かになりました
それでは貴方
どうかゆっくりおやすみを
それは私を強く支える
上を向かず前を向けるように
それは私を突き抜ける
白く鈍く光りながら
私はここにいるんだと
大地に垂直に立とうとする
それは私が曲がることを拒む
時間をかければ次第に曲がっていくのに
どうして今は、まだ、まだ、と言うのだろう
それは私を強く支える
小さく小刻みに揺れながら
私という肉塊を突き抜けて
私を前に向かせる
それは私の地軸
熱い
私はこの熱さの意味を知る
貴方を追うこの胸のリズムで
これは私とあなたを繋ぐ
この世で最も神聖な誓約
枷ではないのよ
罰も科せない
破られると
私があなたに二度と会えない
会えない
ただそれだけ
右を向いても左を向いても
身動きがとれない
痛みの降るちっぽけな世界で
何も痛みを感じないよう
モルヒネをたっぷり射ったら
頬を伝う涙さえも
わからなくなって
冷えていく唇から
洩れたおえつが
何を呪ったのか
わからなくなった
ゆっくり、と
奪われゆく痛みに
何故か安堵よりも
ぞわぞわ背中を走ったのは
焦燥感
ゆるりと瞼を閉じてしまいたいのに
モルヒネを射った痕がちりちり
ちりちり痛む
その痛みにとらわれないよう
私は新しいモルヒネを
沢山用意しはじめる
ま白い壁に
四方八方足元から咲いた影が映る
どこから光が当たっているのか
背を向けているのか
前から当たっているのか
何もわからぬ私に
壁が笑う
影は沢山あるのにお前はひとり独り
くるくる、と影が回る
私が回っているのか
壁が回っているのか
何もわからぬ私に
影が喚く
お前は下しか見ようとしない
お前は上しか見ようとしない
ぐるり
足を取られ転んだ私に
ようやく影は見えなくなった
軋んだ針が
刻んだ時に
錆びた思い出が
鈍い痛みを呼び覚ます
追いかけてくる夜に
逃げ込んだのは月の夢
醒めない宴に
忘却のワインを乾杯
くるくる回る笑い声と
三日月形の口元に
冷えた血が体を廻ったら
やっぱりここはまだ
昨日のままだった