Dark of Night〜黒き騎士〜


1 :真幻・瞬璃 :2007/07/21(土) 11:37:44 ID:n3oJkJze

日常とは退屈なものだ。
いつもと変わらぬ朝。
いつもと変わらぬ学校。
いつもと変わらぬ景色。
何もかも変わり映えのしない日常、そのものが。
否定しておくが別にそれが嫌いだというわけではない。
むしろ学校でダチとくだらないことで駄弁るのは楽しいと思うし、そういったことがかけがいの無いものなのだとも思う。
けれど、そうだと分かっていても俺は思ってしまうのだ。

――ああ、退屈だ……と。

理由の一つは俺の特質。
その特質とは自慢じゃないが俺は何でも出来てしまうこと。
もっとも、初っ端から何もかもが完璧に出来てしまうというわけではない。というか、そんな完璧な人間がいてたまるものか。
そう。俺は、いわゆる『努力が報われる人間』だった。
最初はどんなにド下手でも、遅くて一年。速くて半年も努力を怠なければ何故だか超高校級のクラスにまでなれてしまう。
スポーツから何まで、この才能は幅広い。――何故か、勉強には適用されないのが鬱だが。
最初は楽しもうと色々なことを試してきた。
野球、サッカー、水泳、陸上……その他もろもろ。
だが、いくら楽しいと思っても、それらが長続きすることは無い。
正直、嫉妬やら何やらがうっとおしすぎるのだ。
確かにこんな馬鹿みたいな才能がある。だけど、それは俺がたまたま授かってしまったものだ。それを有意義に使って何が悪いというのか?
大体、お前達は俺の努力を知っているのか?俺が、それをどんなに研磨を重ねてきたのかを。
そして結局、今は格闘技一般に絞ってやっている。
――そうしないと、自分の身さえ危なかったことさえあったから。言わば自己防衛に始めたもの。
やめろと言って辞めれば、それを気に入らないと言って大人数で俺を囲む。
そう。それが二つ目の理由。

――そんな糞みたいな連中を見るのが退屈だ

そう思ってしまった。
もう嫌になってしまった。
他人の努力を認めず、他人の才能を認めず、ただ自分の利己を求める奴らには。
そして、いつもと変わらぬ退屈な日常の最中。
俺の運命は加速度的に回ることとなる。


2 :真幻・瞬璃 :2007/07/21(土) 11:41:15 ID:n3oJkJze

会合・黒騎士との出会い


太陽が一日での役目を終えようとする夕刻。
オレンジ色に染まったアスファルトの道を俺――鳴滝 亜紀也は歩く。
学校指定の黒い学ランと、俺の黒く、短く刈った髪を夏近いこの季節特有の生暖かい風に当たって軽く揺れる。

「……だりぃ」

ため息と共に出た言葉に答える者は誰もいない。
退屈だ退屈だ、と想い始めてから出てきたこの口癖。ついには独り言にまで出るようになったか。
学校生活には別になんら支障は無い。――部活動関係を除いてだが。
それなのに感じるこの虚無感。
胸の中に大きく空いた孔が満たされないようなこの感覚。
退屈と思う心。
全てが全て……煩わしくて仕方が無い。

「とはいっても……こんなの、世界が変わりもしない限り無理なんだろうな……」

再び呟く独り言。答えなどは聞こえるはずもなく、虚無に消え去る。
思わず呟いた退屈からの脱出法。それはありえないと思っているのにそうなって欲しいと思う願望。
まぁ、無理だろう。
そんな漫画や小説のように都合のいいことなど起こるはずがない。
理屈では分かっている。
けれど、心はそれを望んでいる。

「やれやれ……ついには現実逃避、ってか?俺もヤキが回ったかな……」

自分から自分へと向けて嘲笑う。
傍から見たらどんなに滑稽に見えるだろうか?とも考えもしないで嘲笑う。
だが、その嘲笑は――



――ならば……我がその道を示そう



突然聞こえてきた謎の声に一気に引っ込む。

「なっ!?」

そして、一瞬の間に入れ替わる光景。
今、俺の目の前に広がるのは闇、闇、闇……。
まるで照明を落とした劇場のような深淵の空間。
そこに、俺は立っていた。

「な、何だよ……これ。俺、幻覚でも見てるのか……?」

闇に響く俺の声。
誰も答えるはずがないと思っていたその問いは、思わぬ人物?のところからその答えを聞くこととなる。

『幻などでは無い。これは紛れも無い現実。――汝が望んだ非・現実的な出来事よ』

闇の中に、まるでスポットライトが当てられたみたいな光が生まれる。
そこにその姿を顕わにされたのは俺と――もう一人。
いや……それは人であるのかさえ分からない。
何故ならそこに居たのは……――黒と言う黒に埋め尽くされた漆黒の鎧に全身を包んだ騎士、だったのだから。
最初は驚いたが次第に冷静になっていく心は慎重に相手の姿を観察する。
良く見れば黒だけではなく、鎧の肩の装甲の端には竜を思わせるレリーフが刻まれ、背中にはまさに中世の騎士を連想させる巨大な槍――ランスが光当たるそこでその存在を主張している。
その姿を、素直にカッコいいと思ってしまった。
鎧から発するその雰囲気。重み。――にじみ出る強さが、不覚にもカッコいいと自分に思わせた。
鎧は言葉を発する。

『さて……汝が選べる道は二つ』

「俺の意見は無しか?」

『一つ。我との会合を夢とし、終わらせるか』

こっちに何か言う権利はないわけね……
だが、と思う。
気分が高揚する。
いつぶりだろうか?興奮と言うものを覚えるのは?もう随分とその感覚を覚えていない。
そして、直感している。
これが退屈から抜けだせる、唯一つの道なのだと……――。
二つ、と鎧は三つの指を曲げ、二つの指を掲げる。

『――二つ。我と契約し、汝が言う退屈という鎖から解き放たれるか?』

「――」

『さぁ、選ばれよ。選ぶ権利は汝にある。平穏を望むのも良し。我との契約と言う劇薬に身を任せるのもまた良し。好きにするがいい』

両手を広げてまるで称えるかのように黒き鎧は俺に言う。
さぁ、俺はどうするか?
間違いなく、こいつを受け入れれば退屈ということは無くなるだろう。俺も何故だか知らないが確信している。
だが、それと引き換えになるのは何か?――日常だ。
普通に朝を起きて、飯を食って、学校に行ってダチと馬鹿やって、道場に通って家に帰って寝る。
そんな当たり前の日常が、この決断で無くなる。
しかし――不思議と、俺の心はその事実に対して揺らいでなどいなかった。
いや、むしろ当然だと言うべきか。
何を迷う必要がある。
俺は――こういうのを望んでいたのではないか。
だから――俺は迷い無く――

「決まってる――」

『ならば、申してみせよ』

顔が、綻ぶのが止められない。
自分でも笑っているのが自覚できる。
己の、高揚感がたまらない。

「決まってる。俺はお前と――」

――その言葉を言い切った……




「契約する。それが俺の――答えだ」


3 :真幻・瞬璃 :2007/07/21(土) 19:58:49 ID:n3oJkJze

契約・そして、旅立ち


『クク……フハハハ!!』

俺が答えを言った途端、いつのまにか目の前にいた黒き鎧は笑い声を上げた。
――今思うがどっから声だしてんだ?こいつ。

『面白い! 面白いぞ! 汝!! いやはや……適当に声をかけて見たと言うのにとんだ拾い物をしたものだ、我は! 数多の契約者を見てきたが、即答したのは汝が初めてだ!』

「……んで? 契約っても何すりゃいいんだよ。言っとくが俺に魔法なんて真似は出来ないぞ」

『ああ、心配ない。我との契約は至極、簡単な物。――我と汝が互いの名前を知る、それだけだ』

「何だ?そんなものでいいのか?」

てっきり、血を捧げるとか魂を差し出すとかを考えていたのだが。
……そう思うとかなり俺の判断は早計だったと思える。
だがしかし、そうだとしても俺は契約の方を選んだのだろう。――結局、俺が真に欲してたのはかけがえのない日常ではなく、俺の感性を刺激する危険と言うスパイスだったのだ。

『そんなものとは心外だな? 名とはそのものの本質を表す物。例え、それが偽りであったとしてもお互いにその名を交わすと言うことはそこに何かしらの縁を紡ぐと言うことよ。――それにな、これから汝が行く世界では名前を知られることが命取りになることさえありえるということを忘れるな』


……確かに名とは本質を表すもの、と良く聞く。
なるほど。
確かに名前の交換とはある意味では契約、という上で一番ふさわしものなのかもしれない
いや、それよりも……

「――やっぱ、お前と契約すると違う世界に行くのか……」

『何だ? てっきり汝ならば悟っていると思っていたのだが? 今更、自分の決断に後悔を抱いたか? それとも――怖気づいたか?』

「それこそ、『まさか』だ」

俺は、望んでいたのだ。ずっと、ずっと。退屈を抱き始めたときから。
この、未知と言う危険を孕んだスパイスを。
なのに何故、怖気づく必要などがあるというのか。
むしろ先ほどからいくら抑えようとしても興奮が止まらないというのに。
そんな俺の意思を感じ取ったのか。
黒き鎧は軽く笑い声を上げたような気がした。
ふと、黒き鎧の兜がこちらを見る。――あるはずが無いのに、強い眼光を見た気がした。

『すまぬすまぬ。そうだな……そんな面白い汝だからこそ、我は次元をも超えて汝に惹かれたのやも知れぬ。では、汝――』

「――亜紀也。鳴滝 亜紀也だ」

俺は待ちきれなくなって自分の名前を口走った。
それを聞いて一瞬、呆けたような感じを受けたのか、黒き鎧は動きを止める。が、すぐに動き出し、俺の前に膝まづく。

『――我が名は【黒騎士 レヴィンゼル】。汝――否、ナルタキ・アキヤに我が不動の刃を捧げることをここに誓おう。――ここに契約は完了した。以降、我が槍は汝と共にあり、汝に立ちさがるもの全てを貫こう』

そういって槍を掲げる鎧――否。
【黒騎士 レヴィンゼル】の体がこの場に溢れる闇を打ち負かすほどに強気光に包まれる。

「くっ……!」

視界が奪われ、それと同時に右手に感じる鋭い痛み。
光が失われ、視界が戻るとその痛みを感じた右手に在ったのはレヴィンゼルの鎧と同じ漆黒の手甲。
いや、少し違うか。
黒一色に染められていたはずのそれには金色に染められた焔のようなレリーフが刻まれ、手の甲には白銀の宝石のようなものが龍の紋章の中心に据えられていた。
――なるほど。これが所謂、契約の証と言う奴か。
軽く右腕を振ってみるが不思議と重さは感じない。やはり、これもファンタジー特有の金属みたいなものなのだろうか?
しかも、この手甲はまるで自分の手と一体化しているかのようにスムーズに俺の動きをトレースする。
現代の科学でも、ここまでの機能性を持つ物は再現できないだろう。

「……悪くないな。気に入った」

『それは何よりだ。マイ・マスター』

手甲から脳に直接響いてくるようにレヴィンゼルの声が聞こえてくる。
その声色は何処か嬉しそうだ。
……行動が逐一こいつに監視されてるのが少し嫌だが、それでも退屈を打ち破る極上のスパイスの前には変えがたい。
さて……と。

「じゃあ……連れてってくれよ。レヴィンゼル。――俺を退屈させない世界とやらにな」

『御意に……』

手甲から響く声が聞こえると闇から現れる古い、洋風の扉。
……もう少し派手なのを期待していた、というのは内緒だ。
しかし、俺はそれ以上に思うことも無く。
何の戸惑いも無しにその扉に手をかけた――




――そして、始まる。俺の一生かけたって忘れることの出来ない冒険が……――


4 :真幻・瞬璃 :2007/07/22(日) 09:00:53 ID:n3oJkJze

戦闘・己の弱さ


退屈と言う名の現実。
そんな世界に飽き飽きしていた俺――鳴滝 亜紀也は学校の下校途中、黒き鎧の騎士――レヴィンゼルと出会った。
レヴィンゼルが提示してきた契約とは、己と契約を交わす代わりに俺を退屈から抜け出させてくれるというもの。
かけがえのない日常。友達。家族。
その他もろもろ……その全てを俺は捨て、レヴィンゼルと契約し、新しい世界への扉を開けた――


「……んで?レヴィンゼル。一体全体、どういう状況なんだ、これは?」

腕を組み、今の状況に少しの動揺と、呆れと、興奮を覚えながら己の手甲に宿る黒き騎士へと問う。

『ふむ……時空移動を敢行し、着いた森の中でウルフ型の『獣魔』五体に囲まれている。以上』

「的確な説明をありがとう」

結論。この黒騎士、常識と言うものを理解してねぇ。
まぁ確かに、レヴィンゼルの言った通りの状況なのは否定しない。
レヴィンゼルが『獣魔』とか呼んだ化け物は右に一体。左に二体。正面に一体と斜め右に一体。それぞれ軽装の鎧を身につけて、夜であるというのにも関わらず、鋭く光る爪と牙の存在を主張している。
んで……何故だかお誂えむきに背後で気絶していると思われる赤毛の小さい女の子がいるわけだが……。

「にしても……お約束にも程があるんじゃないのか?レヴィンゼル」

『じゃないのか?と言われてもな……言っておくが、わざとではないぞ。これは本当に、たまたまという奴だ』

「さいですか」

とりあえず選択の余地は二つ。
逃げるか……――戦うか、だ。
まず一つ。逃げることだが……これはほぼ100%無理だろう。
俺一人ならば逃げ切れる自信はあるが、背後にいる女の子を連れて逃げることは出来ない。
いくら知らない人間だからといって……助けないほど俺は人間と言う奴を辞めちゃ居ない。たとえ、甘いと言われようがそこはゆずっちゃいけないところだと思っている。
となると、残るは唯一つ。『戦う』こと。

「ま……これしかないか」

大体、あちらさんがもう逃がす様子は無さそうだしな。
今にもその鋭い牙を向けてこっちに襲い掛かって来そうだ。
俺は左手を軽く下げ、右手を軽く顎に当てるような構えを取る。体に無駄な力は入れずとも、瞳に力を入れること忘れない。柔にして剛。それが俺のスタイル。

『少し唐突だが初陣と言う所か……マスター。して……我の力についてだが』

「別に今更、説明しないでもいい。もう何となく分かってる――」

本当はレヴィンゼルの力なんて使わずに化け物とブルファイトでもやってみたい気がするが、さすがにかかっている命が自分だけではないために自重する。
まずレヴィンゼルの力だが、俺の右手に契約の証である手甲が装備された時からおぼろげながらその力の片鱗が俺に流れて来ている。
恐らく、レヴィンゼルの口調から察するに無意識なのだろうが。つか、力の持ち主が自分の力量を自覚してないのはどうよ?とも思う。
しかし、それすなわちレヴィンゼルが知覚出来ぬほどにその力は強大だということ。言ってみればコップから水が溢れ出しているようなものだ。
それにレヴィンゼルに力を教えさせない理由はもう一つある。
ぶっちゃけ、レヴィンゼルの力に契約者たる俺が追いついていないのだ。もし、俺がレヴィンゼルに教えられた通りに力を使ってしまったら俺と言う器が耐え切れない可能性がある。
要はおぼろげながらも流れてくる力の情報を自分だけの力で使いこなさなければレヴィンゼルの全てを理解することなど出来ない。

――上等だ。

どんなゲームだって最初っからレベルが1で始まるものなのだ。
これは現実だが……いや、だからこそ、か。最初からレベル100で始まるほど、世界は都合よくは出来ていない。

【ガァアァアアアアアアアアアアア!!!】

『来るぞ、マスター!! 』

夜に響く雄たけびを上げながら月下の元に鋭い牙を向けて狼のような化け物が襲い掛かってくる。
レヴィンゼルの声を合図に俺は右横に回避行動を取る。
正面から襲い掛かってきた奴の攻撃は避けたがすぐに右にいた犬野郎から爪での攻撃が俺へと振り下ろされる。

「ちぃっ!」

避けられないと悟り、右手にある手甲で弾くとそのまま左の拳を顔面にぶち込む。
手ごたえあり。
だが、直撃したというのにまったくダメージを受けたという様子が無い。
それに少し驚いてくると続いて襲ってくる第三、第四の化け物たち。
他方向からの攻撃。しかも、『獣魔』とかいう人を超えた動きを完全にかわすことはできず。
学ランが切り裂かれ、腹の皮一枚切り裂かれ、そこから一筋の血が流れる。

――出し惜しみなんてしてる暇ねぇ……!

たった数回の攻防だったが、すぐに俺は決断する。――そうしなければ待っているのは『死』あるのみ。
一足飛びして距離をとりながら思うのは契約した黒の騎士レヴィンゼルの力。


その大まかな内容は――『闇』


正確には俺が『闇』として認識する概念を、形にする力――。
恐らく、この力には先があるのだろうがとりあえず俺が今使え、把握できる力はそれだ。
丁度いいことに今は夜と言う名の闇。
作り出す素材など、いくらでもある!

「……理念確定・素材適用・武具選定」

口に出す言葉は別になんら意味はない。ただ、無意識の内に自己を集中するために出た言葉。
もう目の前には何体もの『獣魔』が迫ってきている。
失敗など、許されない。

【ガァアアアアア!!!】

迫り来る牙。振るわれる爪。
体を襲う重圧・死の恐怖。
それをも無視し、自分の想像に、闇を重ねて、己の従者となった騎士の力を重ねることによってそれを二振りの刃と為す――

「てやぁああああっ!!」

『握られた』
そう知覚した瞬間。
俺は剣術の基本なんか無視して襲い掛かってきた牙や爪よりも速く、想像した剣を渾身の力を込めてふるった。
一瞬の静寂。

吹き上がる鮮血。すでにそこにいた化け物の命は、五つから三つへと減っていた。


「あっぶね……だが――ぶっつけ本番にしては上々と言ったところだな」


目の前に立つのは首と胴体が立たれた狼のような化け物。
それをいともたやすく寸断したのは俺の両手に握られている二振りの漆黒の刃を持つ刀。
小太刀、という脇差と太刀の中間に位置する日本特有の片刃の刃と峰が分かれている人を斬るのに最も適した刃。
咄嗟に思いついたのが結構、特殊な武器だったことに自分で少し苦笑する。

『小太刀……それも二刀もあそこまで操るとは。マスター、何処かで剣でも習ったのか?』

「いんや空手や柔道、ボクシングとかはやったけど、剣は自己流。なんか剣道って奴は性に合わなくってね」

というか、剣道の形を極めても多対一においての戦いには対応できなかったのだ。
――なにせ、俺を襲ってくる奴らは一対一でなんて絶対に来ない。大勢で群れを為して所謂、リンチという奴をしてきたからな。剣道では対応しきれなかった。
だが、皮肉にもそんな経験が五対一という状況下でも俺の体を動かしてくれている。
ちなみに二刀流なのはもろに俺の趣味だ。

「なんにせよ、軽いし、切れ味も想像以上だ……さぁ」

残り三体を瞳に据え、俺は二振りの刃をいつもと同じように構える。
気のせいか?
この剣を持った途端、体が軽くなり、感覚も鋭くなっているような気がする。
まあ、何にせよ。今の状態だったらひとかけらも負ける気が起きないが。

「闇が終わらぬ内に――終焉を刻もう!!」

今度はこちらから先手を取る。
今までとは比べ物にならないほどの風を受ける感覚。
ほぼ一瞬にして『獣魔』の懐に入りこむと即座に振りかぶっていた両腕を切断。
ついて首を一切の躊躇無く跳ね飛ばし、これであと二匹。

【ガァッ!!】

たたきつけられる爪。
しなやかながらも強靭な筋肉から放たれるそれさえも、今の俺はたやすく受け止めると即座にもう片方の剣で胸を一突き。
心臓を貫かれた獣は何も出来ないままに絶命。
残るは一匹。

「終わりだ……」

そして、次々と訪れる死に呆然としていたのか。動きを止めていた『獣魔』の背後に回りこみ、最速の斬撃を以って殺戮を敢行する。
崩れ落ちる命『あった』物。
気付いた時には既に俺の体は獣魔の血液によって真っ赤に染まっていた。

これが――この世界で初めて奪った命。

そう自認したとき、何とも思えないずっしりとした重さが、俺を襲った。










side 黒騎士


はっきり言おう。
我がマスター『ナルタキ・アキヤ』は我にとって嬉しい誤算だった、と。
最初は威勢の良い若者だと思っていただけだったのだが……ウルフ型の『獣魔・ウルフェル』との戦闘を見てその考えを改めた。
あらゆる武術を学び、それを自分なりにアレンジしたのであろうそのキレのある動き。我流とはいえ、速さを利用して一気に対象を断ち切るその剣。そして――即座に我が力を想像するその発想力。
なにからなにまで……未熟だが今までの契約者とは一線をかくものがある。

――あるいはこの青年なら……この世界を。

託せるかもしれない。
そう思った瞬間、手甲を通じて一体となっている契約者たる青年の異変に気付く。
今まで確固たる存在としてそこに在ったはずの二振りの小太刀が跡形も無く闇に消え、重く膝をついてしまう。

「うっ……」

『どうした、マスター?』

その言葉をかけると同時、あれほどまでに強さを見せていた青年が胃から物を吐き出す。
そこに居たのは確かな弱さを見せるただの青年だった。

「ちっ……」

汚れた口元を強引に左腕の袖で拭う。
必死に自己を保とうとしているが今にも倒れそうなほどに疲弊しているのは一目瞭然だった。
……そうか。我は悟る。

「情けねぇ……あんな大口叩いといてこれかよ……」

――このナルタキ・アキヤという人間はまだ16、7のただの青年に過ぎないのだ。
どれほどの強さを持とうとも。どれほどの意思があろうとも。
殺した存在が人でないとしても、『命』を刈り取ったことに耐え切れるほどに精神が追いついていない。
弱弱しく木に寄りかかる青年を見て、我は一抹の心配と言う感情と、少しの安堵を抱いた。

――だが……これでいい。これでいいのだ。マスターよ。

どんな命でも。例え化け物だったとしても。命の重さを知らない者が人を救える道理は無い。
現に、未熟だが強く、それでいて弱さを持つ我が主は見事に一人の少女を救って見せた。それは紛れも無い事実。
だからこそ、我はこのマスターに希望を託そう。


――我が叶えられなかった平和を……我が主が作り出してくれると信じて


5 :真幻・瞬璃 :2007/07/23(月) 10:10:15 ID:n3oJkJze

想いと信念

しばらしくして命を奪ったという事実に対して襲い来る吐き気が治まり、ようやく立てるまで回復する。
どうやら俺と言う奴は自分が思っていた以上に善人をやってたらしい。
だが、さっきの化け物と戦って一つ分かった。
『殺らなきゃ殺られる』
ここは本当にファンタジーの世界。力が無ければ死が待っている残酷な世界。
これからは躊躇なんてしてられない。一瞬の迷いが自分への死に繋がる。

『……落ち着いたか?マスター』

「ああ……」

さっきはレヴィンゼルの力があったから何とかあの化け物に勝てた。
――強くならなければいけない。
本能的にそう思う。ならなければ死。
死にたくない。その心が俺にそう思わせる。
退屈やら何やらなど言ってられない。もはや、そういったレベルを超えてしまっている。
なんて俺は甘かったのか。
別の世界に行くとなればこういった危険があることさえ、分かっていたはずなのに。

――いや……ワカラナイようにしていただけか。

退屈がなくなるなどと、都合の良いことだけを考えていただけの自分が嫌になる。

『……そう己をいたぶる物じゃない。何であれ命を殺したということに対するマスターの反応は正しい。――あれが、普通だ』

「レヴィンゼル……お前、俺の心が分かるのか?」

『いや。だが、何となくは……な。それにな、これでもマスターの何百倍も長い時を過ごしているのだぞ。それぐらい察せないでどうする』

「確かにな。だけどよ、レヴィンゼル。いくら俺の反応が正しいからって言っても……――そんな甘さを容認しちゃこの世界じゃ生きていけない。……そうじゃないのか?」

甘さ。
それはこの世界においては命取りにしかなりえないもののはず。
なら……捨てなくては。
俺はむざむざと死ににこの世界にやってきたわけじゃない。
だが、そんな俺の考えを右手の手甲に宿るレヴィンゼルは鼻で笑うと。

『ふん……この馬鹿マスターが。聡明だと思っていたのは我の思い違いか?』

有無を言わせない口調でそう言い切った。

「なっ……!」

『たかだか十数年しか生きてない身で己の甘さを捨てる。そんなことは不可能であるし――人として捨ててはいけない物だ。分かっているのか?命に対する甘さを捨てた時。それはすなわち、命の重さを忘れるということだ。いいか?確かに我は騎士だ。この身を主に捧げ、主の妨げになるものは何であろうと『排除』する。だが……マスターは違う。命の重さを忘れる必要なんてありはしない』

「だけど……そんなんじゃ」

『自分が死ぬ、か?――それこそふざけるなだ。それをさせぬために我がいるのだろう?』

虚言など、レヴィンゼルは言っていない。
ただ己の正当な評価から来る絶対の事実を言っているだけだ。
その言葉を言い返せることは出来ず、ただ俺は黙って手甲から響いてくる自分の騎士の話に耳をかたむけた。

『いいか、マスター。確かにこの世界は命を取らなければ自分の命が危うい時もある。その過程で命をとってしまうこともあるだろう。だがな――それで死を甘受するようになってはいけない。信念無き殺戮は――ただの殺人鬼を作り出すだけだ』

「信念無き……殺し」

『とりあえず我がいえることは後一つだけ。マスター。どんなに小さいことでもいい。――己を突き動かす信念をその胸に抱け。この世界に来て最初に求めることは力でも、金でもなんでもない。ただの心持ち一つだけなのだと』

「俺の信念……」

レヴィンゼルの言葉の一つ一つが、俺の心の中に響いていった。
確かに、その通りだ。
俺は退屈しのぎと言ってもいい考えでここに来た。だが――その次は?
俺は何を思う。俺は何を思って何をするかなど、全然考えてなどいなかった。
自分に向かって苦笑する。
まったく、とんだ『相棒』をもったものだと。
ここまで対等に俺へと意見をくれる奴なんて、ダチでも早々いなかったのに。

「……そうだな。どうせ何もすることないし、探してみるか。――俺の信念とやらを、さ」

『良い返事だ、マスター』

「名前で呼べよ、レヴィンゼル。どうにもマスター、ってのは俺に合わないしよ」

『了解した、アキヤ。――正直、助かったぞ。何百歳も年下の小僧をマスター呼ばわりするのはどうにも抵抗があったのでな』

「てめ……いきなり態度デカくなってないか?」

『ハハハ……何を言う。――これが地だ』

「殴っていいか?」

『やってもいいが我は所謂、オリハルコンという奴で出来ていてな……ぶっちゃけ、アキヤごときの拳などでは揺らぐどころかアキヤの拳を壊すぐらいするぞ?それでもいいのならほ〜れ、ほれ。我は逃げも隠れも出来んからやってみるといい』

「ぐっ……」

前言撤回。
こいつを少しでも良いパートナーだと思った俺が馬鹿だった……。
これからのこいつとの付き合いを考えると微妙に頭が痛くなり、思わず頭を垂れる。何かレヴィンゼルが笑ってるような気がするが無視だ。

「ん……ん」

ふと、人の声がする。
やべ……自分のことばっかりで倒れていた女の子のことを忘れてた。
とりあえず、むかつくことを言っていたレヴィンゼルを無視して未だ倒れたままの女の子の元へと駆け寄った。


6 :真幻・瞬璃 :2007/07/24(火) 18:58:51 ID:n3oJkJze


SIDE ???

目が覚めるとそこは真っ暗な森の中でした。
あれ……?僕、何でこんなところに……?
その考えの次に浮かんできたのは確かに根付いた恐怖の映像が蘇る。

――……!!

思い出した瞬間、体が震える。
自分に牙を、爪を、狂気を向ける『獣魔 ウルフェル』の姿が目にこびり付いて離れない。
まさかこの森まで『獣魔』がいるなんて……。
本当、この世界はどうなっているのだろう?なんでこんな辺境の地まで現れる事態になってしまっているのだろう?
いや……それよりも、何で僕は生きてるのだろう?
『獣魔』に人並みの情なんてあるはずない。気絶した僕と言う獲物を逃すはずが無いのに……

「おっ、気がついたか?」

その理由はすぐにはっきりした。
僕の側にある岩に座っている一人の男の人。
どんなつくりで作られているのかわからない不思議な黒の服とその右手には服と不釣合いな漆黒の手甲が付けられている。
僕を見ている瞳も、夜風に揺れる短い髪も漆黒で、まるで闇と言う空間から抜け出してきたみたいな人。
周りには動かなくなったウルフェル達。
これだけ揃えば充分だろう。――この人が、僕を助けてくれたのだ。

「ふむ、たいした怪我も無いみたいだし、大丈夫だな」

「あなたは……?」

「俺?俺は……アキヤ。アキヤ・ナルタキだ。まあ、旅人って言ったところだ」

随分、珍しい名前だ。
それに今時、旅人なんて……。
なんだか不思議な雰囲気を持っている人だけど、僕を助けてくれたであろう事実は変わりない。
最大限の感謝の意をこめて頭を下げる。

「とりあえず……――助けてくれてありがとうございました」

「別に。言っちゃ悪いが自分に降りかかる火の粉をふりはらったらたまたまあんたを助けることになっただけだ」

そう言い切る姿に何ら嘘は無いように思える。
優しげな外見と違い、随分と淡白な人だと思った最中。
何処からともなく、脳に直接響くような声が、聞こえてきた。

『何を言っているのだか……どう考えたって助ける気満々だったくせにな……いやはや、これがアキヤの世界で言う『つんでれ』とか言う奴か?』

え?え?
これは何処から聞こえてきてるの?

「黙れ、この腐れ騎士!」

『腐ってて結構。どうせ数百年過ごした老獪だしな。久々に契約したのだからこれぐらい、いじるのは許せ』

「――今、俺は全力でお前と契約したことを後悔してる」

いきなり手甲に向かって叫び始めたナルタキさん。
まさかあの手甲って……

「魔装機……」

この世界で失われた魂が宿っているとされる今の世界ではほとんど見ることの出来ない武器の総称。
同じく失われた魔術を再現することの出来る唯一無二の存在にして今では王都の騎士の中でも一握りしか持っていないという……
しかも、人語を話す物なんて本でも見たことがない。

『ほおう……今の世界にその総称を知る者がいるとは……娘、平民にしては博識だな。感心したぞ』

「むす……!?」

「レヴィンゼル、そんなにお前のその……『まそうき』だっけ?その総称知ってるとすごいのか?」

『うむ。今のこの世界ではほとんど失われた技術だからな。相当、古い文献を見て調べる以外に知る方法は平民には無きに等しい。そこから考えるとその年齢にしてその知識を持ってること自体が驚嘆に値する』

「あ、あの……ちょっと?僕は……」

「へぇ……じゃあすごいんだな、君。女の子なのに……」

あっダメだ。
もう抑えきれない……ってか、この人たち、僕の話聞く気ないし。
切れていいですよね?切れてよいですよね?
いくら命の恩人とはいえ、いくら褒めてくれたとはいえ、譲れないところはあると思うんです。ぼかぁ。
ハイ、3・2・1

「僕は男だぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

僕の叫び声はこれでもか、というぐらい夜の森に響いた……


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甘辛流小説家ギルドGAIA
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