魔導空戦騎


1 :テキサス忍者◆xPWcL3Lt :2007/01/14(日) 04:26:03 ID:P3x7kkW3

 覆面姿で久しぶりに投稿開始します。
 この数ヶ月、ほとんど書いてなかったのでリハビリも兼ねて♪
 だいぶスローペースになるかもしれませんけど、生暖かく見守って下さいなー。


2 :テキサス忍者◆xPWcL3Lt :2007/01/14(日) 04:26:58 ID:P3x7kkW3

プロローグ

 空──深い青がどこまでも高く広く続いている天空の平原。
 かつてこの空を多くの巨大な騎士達が飛び交い、紺碧の空を深紅に塗り替える戦いがあった。
 今は亡国となったレンデキア王国の王マルドゥスが、セペンテニア王国より差し向かわされた刺客によって暗殺されたことに起因したその戦いは、今日では王の名にちなんでマルドゥス戦役と呼ばれている。
 広大なハバクト大陸の北部一帯をその戦場とした熾烈で長大な戦いは莫大な戦死者を出し、しかしその命を代償はレンデキア王国の滅亡という一つのちっぽけな答えしか導き出さなかった。
 戦勝国であるセペンテニア王国も長引いた戦禍の中で大地と人の心の荒廃が進み、終戦後両王国の国力差にはさほどの違いも無いほどだった。
 一人の野心家の妄動に始まり、なにも果たされぬまま終わった無為の戦いである、と後に人はこの戦を語った。
 戦いに関わったか、もしくは巻き込まれた人々は、往々にして悲観的にマルドゥス戦役を嘆くものだが、リード・フルストンは違っていた。
 終戦直前、レンデキア王国の敗北がほぼ決定的と見なされていた当時、リードは七歳だった。そのために戦については多くを知らず、また記憶も曖昧だが、ただ一つ鮮明に覚えていることがあった。
 レンデキア王都シュヴェルカンデ近郊の村にまでセペンテニア王国軍が頻繁に攻め入るようになった頃のこと、リードは村の住人が避難している壕を抜け出し、一人平原で遊んでいた。
 春の陽気に包まれた平原では、名も無き草花が鮮やかな色彩を放っていた。そこに誘われてくる虫たちを観察している時、突如頭上で轟音が呻って通り過ぎていった。
 空を仰ぐと、四騎の騎士が王都へ向かって猛進していくのが見えた。
 リードは逃げることもなく呆然とその厳つい後ろ姿を眺めていた。すると再び轟音が平原を震わせた。今度のは先ほどの四騎とは比較にならないほどの、まさに耳をつんざくような爆音だった。
 振り返ると、ちょうど平原がゆるやかな勾配になって丘をかたどっているその上に、一騎の騎士が静かに宙に佇んでいた。
 くすんだ銀色の甲冑が陽光を浴びて不気味な輝きを帯びていた。ずんぐりとした胴体の上に乗っかっている頭はリードの方へと向けられていた。その頭の中央に鈍く光る赤い点と目があった。そう思ったとき、騎士は甲冑を躍動させ、一跳びでまたたくまにリードの目前へと迫っていた。
 空の青さが銀色の巨体によって覆い隠され、そこで初めてリードは恐怖を覚えた。巨体故の威圧感、そして顔の赤い光点に満ちた殺意。
 逃げようとするが恐怖によって地面に脚が張り付いて動けない。
 セペンテニアの騎士は音もなく手にした黒い杖の先をリードへと向けた。杖の先には丸い穴が空いていた。杖の黒さよりも深い、闇の色を湛えた虚ろな空。そこに仄かな白い光が輝き始めたとき、リードはそこに自分の死を感じた。
 恐怖はすでにリードの小さな身体に収まりきらないほどに膨れ上がり、すでにリードはなにも考えることができなくなっていた。
 闇の中で殺意を帯びた光が大きくなる。その時間は一秒にも満たなかったかもしれない。だがリードにとっては永遠にも感じられた。
 両親の穏やかな笑みが脳裏に揺らめきだした瞬間だった。沈黙の平原に草のなびく音と小鳥の軽やかな歌声が蘇った。
 と同時に頭上で炸裂する爆音。
 気づくと、平原の上で濛々と煙を上げて横たわるセペンテニアの銀の騎士の姿があった。その虚空を掴むようにもたげられた腕が、力無く崩れ落ちる。
 何が起きたのか分からず、ただ目の前の騎士の残骸を見つめているリードの頭上で声がした。
『もう大丈夫だよ』
 と。
 声のした方を見ると、先程まで銀の騎士が浮いていたところに、純白の甲冑をまとった騎士がいた。
 胸当てに描かれた曲がりくねった十字の紋章はレンデキアの騎士の証である。
 太陽よりも眩しく輝くその巨体にリードは目を細めた。セペンテニアの騎士に感じた鋭い威圧感はそこに無く、代わりにすべてを包み込むような優しさを放っていた。
『ここは危険だ。早く壕に戻りなさい』
 静かに騎士は語りかけてきた。
 リードはなにも答えることが出来ず、ただ大きく頷くと、きびすを返して村へと駆けだした。
 しばらく走って振り返ると、騎士は白い甲冑を悠然と飛翔させていた。向かう先に、四つの銀色の点があった。先ほど王都へ向かったセペンテニアの騎士達だろう。
 四つの点に、白い一つの点が重なる。
 そこまで見て、リードは再び走り出した。
 その後、レンデキアの騎士がどうなったのかは分からない。
 ただ、彼が忠誠を誓っていたレンデキア王国はすでに亡いということだけは確かである。
 あの出来事があってから、リードは騎士を志した。だが、そう早くない内に戦いは終焉を迎え、目指すべきレンデキアの騎士は存在を失った。
 こうして窓から雲一つ無い青空を見上げるたびに、十年前のあの春の日のことを思い出す。
 初めて死を感じたあの日、そして初めて生を感じたあの日。
 空には戦後の虚無感と、明日への希望が共存している。
 リード・フルストンは空が好きではないが、また嫌いでもない。


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