リーリアント 〜ただ翻弄されて〜


1 :副島王姫 :2007/10/10(水) 02:54:53 ID:oJrGY3oG

え〜と、18歳未満の方はブラウザのバックでお帰り下さい。ダメなら15歳で。
……すみません。過激な表現があるつもりはないのですが、覚めてからみるとさすがに恥ずかしくて。というか、まだ犯罪者になりたくないので。
はっきり言いますと、ベッドシーンがあります。多分、PTAの方が見たら大事かと。決して、お父さんお母さんの前で読まないで下さい。
別に、やおいとかじゃありませんが。この年齢制限が要らないとお思いの方がいらっしゃいましたら、ご連絡ください。
最後になりましたが、このような措置の遅れたこと、深くお詫びいたします。
あ、「リーリアント〜お節介な愛〜」は大丈夫です。あれはキスシーンぐらいしかありません。(一回ヤバめのギャグが・汗)


   序章

 はあ。またか。
 あたしは母さんから届いた手紙を見た。内容はあまり読めない。乱暴に封が開けられて、あちこち塗り潰されてるからだ。
 検閲ってやつらしい。かろうじて分かるのは、弟がまた風邪をひいたらしいこと。あたしの稼ぎが足りてるのかどうかも分からない。多分、向こうでも似たような状態だろう。
 仕方なく、手紙を読むのは諦めて外に出た。弟は小さな風邪でもよくこじらせるから、薬を送った方がいい。今から買って送れば、今日の最終便に間に合う。手紙をつける時間はないけど、どうせ塗り潰されるんだからメモでもいいだろう。
 慌ててて、うかつにも酔っ払った兵士に気がつかなかった。足を止めてまずいと思ったけど、兵士は目の前にいた。あちゃー。
「す、すいません」
 謝って離れてやりすごそうとしたけど、そうはいかなかった。別に、兵士が剣を抜いたわけでもない。ただ――そう、近くの壁に頭から突っ込んだのだ。
 言っておくが、あたしは何もしていない。断じて何もしていない。――したのは――
 あたしは、いきなり横から現れて鞘のついた大剣を兵士に叩き込んだ男を見た。年のころは十八、九。黒髪に青い目のけっこうな男前で、細い身体に立派な旅用の外套を纏っていた。多分、貴族。後ろに、この町のじゃない兵士がいる。
 ……どうしよう。騒ぎになっちゃったよ。
 さいわい、酔っ払いの兵士は気絶してた。そそくさと逃げようかとも思ったけど、その前に貴族の男があたしの腕を掴んだ。
「来い」
 彼が言うと、取り巻きの兵士があたしの周りを囲んだ。逃げられそうにないな……。
 仕方なく、あたしは男にひきずられるように、彼の後についていった。

「名前は?」
「リ、リリアです」
「年は?」
「……十八」
 軍の建物なんて入るの初めてだよ。割と小奇麗な部屋で、高そうな家具もある。あたしは、ふかふかのソファに座っていた。両脇に兵士。目の前――向かいにさっきの男。
 あまり興味なさそうな様子で、質問ばっかりしてきた。これってこの人の仕事なのかな? 聞きたくて聞いてるんじゃないみたい。あたしが何を言っても反応を見せずに、さっさと次の質問をしてくる。メモもとっていない。
「……分かった。もういい」
空が暗くなった頃、紅茶を啜って彼は、
「今すぐ仕事先に辞表を出して住まいを引き払え」
「……は?」
 あたしは、思わず声を出していた。辞表って……要するに、仕事やめろってこと? しかも部屋を引き払え?
「聞こえなかったか?」
 無表情に、事務的にあっさり言う彼に、あたしはしどろもどろに、
「……な、何で?……ですか?
 仕事やめろって……それじゃどうやって……」
「うるさい黙れ」
 うわ。初めて感情のある声だと思えば、なんてめんどくさそうな……。
「逆らうな。言うとおりにしろ」
 うわ横暴。
「あ、あなた一体何ですか? 何で私が仕事やめてここから出て……、さっきも言ったけど、家は私が仕送りしないと……弟だって熱を出して……」
「うるさい」
 彼は、ぴしゃりと言って紅茶を飲み干し、
「百セメト……でいいか?」
 は? 何その大金?
「お前の実家に月百セメト送る。ついでに、お前の村に医者を派遣する。それでいいな?わかったらさっさと仕事を辞めて来い。言うとおりにしないなら、このままさらうぞ」
「……え? あの、どういう……」
「分かった、もういい」
 嘆息して、彼は兵士に、
「こいつの部屋に行って、荷物を全部を持って来い。仕事先と大家に通告もしておけ。こいつのことは忘れろとな。近所の住人にもだ」
 兵士が出て行って、彼と、状況の分かっていないあたしが残された。
「お前はこっちだ」
 また彼はあたしを引きずって、別の部屋に連れ込む。居室のようだった。あたしをベッドの端に座らせると、その前に立ち塞がって、
「いいか」
 あたしを見下ろしながら、つまらなさそうに、でもぴしゃりとした口調で言う。
「お前はこれから、俺の目の届かない所へ行くな。俺の指示に従い、逆らうな。お前が言うことを聞いていれば、お前とお前の家族の生活は保障する。それで文句ないな?」
 それだけ言うと、あたしから興味をなくしたようにクロゼットの方へ行って、旅用の上着を脱ぎ始めた。
 ……いやあの……分からないことだらけなんですけど……。
 何なんだ? この人。
 室内着に着替えた彼は、それ以上あたしに構う様子は見せなかった。


   1、傲慢な王子

「……ん……」
「やっと起きたか」
 ごとごと揺れる振動が伝わってくる。目をこすって辺りを見ると、馬車の中……なのかな? 乗合馬車とはかなり違う。広い部屋に向かい合わせで長椅子があり、横には窓。あたしは椅子の片方に寝かされていた。向かい側には彼しかいない。
 窓の外は、もう昼近かった。
「だから寝ておけと言ったんだ」
 昨夜……確か……。
 あたしは、ぼんやりと思い出し――顔を引きつらせた。
「あなたのせいで眠れなかったんでしょ!」
 すました顔で外を見ている彼には、悪びれた様子もない。この横暴専制君主。
 こいつは……こいつは……あたしを部屋から出さず――部屋の横にお風呂とトイレがついてたけど、そっちに行くのも一苦労、挙句、寝る時一緒のベッドに押し込んだのだ。あたしが床で寝ると言って暴れると、いきなり手枷を持ってきてベッドにつないで……おかげであたしは空が白むまで眠れなかったわよ!
「うるさい黙れ」
 事も無げに言うと、彼は立って、馬車のドアを叩く。ドアが開いて、兵士が入ってきた。
 テーブルにお皿やパンを並べて兵士が去ると、
「さっさと食べろ」
 自分もパンをちぎりながら言う。
 昼の陽射し。
「どうした? 口に合わんか?」
「いや、そうじゃなくて……あなた……朝ごはん食べてないの?」
「お前が眠りこけていたんだろう。さっさと食え」
 ……なんだ……こいつ……
「ねぇ、まだ名前聞いてないけど……」
「リュシオス。お前はリュシーと呼べ」
「何してるの? やっぱり貴族……よね?」
「黙って食え」
 ……すましちゃって……
 彼――リュシオスは、名前以外は教えてくれなかった。

「ねぇ、リュシー」
 三日後、同じく馬車の向かい合わせに座って。
「リュシーってば」
 あたしは、無表情で何かのファイルに目を通しているリュシオスに声をかけていた。
「リュシオス」
 彼の目が、動く。
「分かった。リュシー」
 目はファイルに戻った。
この三日間で、いろいろと分かった。彼は名前しか教えてくれなかったけど、まあ、見てれば分かる。淋しがりやなんだ。一人で眠れないのも、あたしの姿が消えないようにしてるのも。強引にあたしを側に置いてるけど、別にそれ以上は何もしない。草食動物のような人だ。
 そして、かなり我侭で傲慢。周りの都合を気にしない。時々こいつは王様かと思う。頼むより命令することに慣れてるみたい。
 暫く、馬車の振動と彼がファイルをめくる音だけが響いた。
「リリア」
 外を見ていたあたしが振り向くと、リュシオスはファイルを畳んでいた。
「次の町に寄る。一緒に来い」
 まだ日は高かった。

「急いでるのかと思ったわ。宿以外降りないから」
「急いでいるが?」
 彼の後について町を歩きながら言うと、当然のように言ってくる。
「じゃあ、何か用事があるの?」
「うるさい黙れ」
 そういえば、今日は兵士がついてないな。
 大きな町だった。あたしがいた町の何倍も大きい。リュシオスは、慣れた様子で町を歩き(歩幅が大きいので合わせるのが大変だった)、下町を無視して閑静な方へ行く。うわ〜、高そうなお店ばっかり……。
「……リリア」
「何?」
「…………」
 呼んだだけかい。
 あたしが立ち止まると、店の入り口でこっちを振り返っていた。
「早く来い」
 小走りに店に入ると、洋装店だった。吊るし売りじゃない。念のため。彼に捕まった日に、かなり高そうな服を渡され、今着ているのもそれなのだが……。
 リュシオスと何やら話していたお店の人がこっちに来て、巻尺を当てて、
「ええ、大丈夫です」
「急いでくれ。間に合わせは宿に」
「畏まりました」
 会話は終ったようで、慣れた調子で手近なソファに座る。あたしの採寸が終ると、
「予定が詰まっている。ぐずぐずするな」
 言うなり、あたしの手を引っ張って店を出た。

「着替えろ」
 宿の部屋――溜息の出るような豪華な部屋だ――に入るなり、服を放ってきた。
「……重い服」
「礼装だ。間に合わせだがな。……ほら」
「な! ……ちょっと!」
 当然のようにあたしの後ろに回り込み、背中のファスナーを下ろし始める。
「一人では着られないぞ」
「だからって……」
「うるさい黙れ。下着は取らん」
 冷たいアイスブルーの瞳に何の感情も浮べず、さっさとあたしを着替えさせると、
「まずは歩き方だ」
 あたしから数歩距離をとって言う。
「……そう。止まるときは右足を斜め後ろに……そうだ」
 続いて礼の仕方に振り返り方に部屋への入り方、とにかく色々と細かいことばかり教えられる。
「……こんなの覚えてどうするの……」
「俺が知るか」
 思わず呟いたあたしの言葉に、リュシオスが言い、
「こんな形骸的なことばかり……いずれ放逐してやる」
「……王様になるような言い方ね」
「うるさい」
こころなしか、いつもの「うるさい」とは違うような気がした。

「……で、分かるか? リリア」
 礼儀作法の次は、歴史だった。外でリュシオスが買い込んできた本の一冊を開き、書いてあることにリュシオスが補足を加えていく。
「ん? この書き方は走りすぎだな……シオデンの行政が寛容な民族性を持ち、テシアの特殊性を容認したために……」
 歴史を暗記しているみたいだった。本のどこにも書いていないことも言うし、何を訊いても答える。多分、本が残っていないとあたしが思い出せないと思って用意しただけだろう。
 服は、さっきの礼装のまま。肩が凝るが、これに慣れないといけないと言って、着替えさせてくれない。
 やがて、時計の鐘が鳴った。
「よし、今日はもういい。風呂に入って休め」
 言うと、あたしの服をはだけさせ、目もくれずにテーブルにつく。寝巻き姿で戻ると、部屋の明かりを落とし、テーブルのランプだけで書類を読んでいた。
「……お風呂空いたよ」
「ああ。寝ろ」
「リュシーは?」
「これが終ったら寝る。先に寝ろ」
 羽根ペンを走らせながら言う。こっちには視線も向けない。
「……忙しいんだ……」
「それがどうした」
「あたしに構ったから……」
「うるさい黙れ」
 横になってからも、紙をめくる音と羽根ペンの音が止まなかった。

「よし、少し休め」
 馬車の中で、文学のレクチャーに一区切り付け、リュシオスが言う。
「疲れたか?」
「リュシー、昨夜寝た?」
「ああ。何ならお前の寝言、教えてやろうか?」
「それ、寝てないってことだよ」
「うるさい」
 と、彼は一瞬物憂げな顔をし、
「もう半分か……」
窓の外を見ながら言う。
「……え?」
「目的地まであと半分だ」
 顔は、もういつもの無表情に戻っていた。
 半分……そっか。
「みんな……どうしてるかな……」
「家族か?」
「うん」
「会わせてやれないが手紙ぐらいは届けてやる。時間をやるから書きたければ書け」
羊皮紙と羽根ペンを寄越しながら言ってくる。
「う〜ん……」
 何から書くべきか……
「ねぇ、今どこに向かってるの?」
「黙って書け」
 ん〜と、トルタの風邪の具合はどうですか?……もう知ってると思いますが、とんでもない男にさらわれました。我侭で傲慢な淋しがりやで、名前以外教えてくれなくて、いっつも無愛想な顔してて口癖は「うるさい黙れ」です……
「はい」
 色々、思いつく限りをてんでばらばらに書いてリュシオスに渡す。無論、下書き以下の落書きだ。
「封をしろ」
 中に目もくれず、当然のように言ってくる。
「見ないの?」
「何で俺がお前の家族宛の手紙を見るんだ?」
「だって、郷里の手紙は全部役所で……」
「一緒にするな」
「あ、珍しい」
「何がだ?」
「だって、リュシーが嫌そうにしてる」
 と、彼は、溜息をついて、
「そんなもの、これからいくらでも見せてやる」
 ちょっと、切ない表情だった。

 リュシーは、彼の言うとおり段々不機嫌になってきた。目的地まであと二日になった朝、あたしが起きると、見慣れない格好をしてふんぞり返っていた。男の人の礼装だろうか? 何やら、模様だか何だかが大きく刺繍されている。
「……何? その服」
「うるさい黙れ」
 言ってから、少し間をおいて、
「連中の目が多くなるからな。隙を見せられないんだ」
 ばつが悪そうに言い直す。
 今までは旅の貴族という格好だったけど、何だか籠の中の鳥みたい。外見ばかり立派で……。
「リリア」
 リュシーは、あたしを手招きして横に座らせる。
「どしたの?」
「黙れ」
 それから出発まで、彼は、あたしの肩に寄りかかっていた。

「……リリア……」
 いつもは、同じベッドにいれば触らないのに。
リュシーは、今夜珍しく、あたしから手を離さなかった。時々離しかけるけど、すぐに埋め合わせのように抱き寄せる。寝言で名前を言うのも、前はなかった。
「リリア……」
 そっと彼の顔に触れると、落ち着いたように寝息が小さくなった。
 リュシーの話では、明日の昼頃に目的地に着く予定だった。

「リーリアント」
「……え?」
 馬車が見たこともないような大きな町を通る中、不機嫌そうにリュシーが呟いた。
「お前の名前だ。リリアでは愛称ぐらいだからな。表向きはカズラールの養子ということにしてリーリアント・フォルデーク・カズラールだ。覚えておけ」
 リュシーは前から着てる立派な服で、あたしも礼装――間に合わせじゃないやつを着せられていた。もう昼。
「ここって王都?」
 かなり前から見えていた、大きなお城を見ながら言うと、リュシーが不機嫌そうに相槌を打つ。
 建物の多い場所を最初は通っていたが、やがて立派で静かな建物が秩序よく並んだ場所に変わっていく。馬車は、そんな中でも特に立派な建物に入っていった。

「ここ、リュシーの家なの?」
 いやもう、うちのボロ小屋が人の住む場所と思えなくなるほど立派なところだった。
「家出先だ。帰りたくないからな」
 言いながら、あたしの手を乱暴に握って馬車から降りる。
 初老の男の人が、待っていた。……ここってもしかして、玄関? いや、あの門からここまでだけでも……やめとこう。
「お待ちしておりました。リュシオス様」
 にっこり笑って言うと、あたしを見ながら、
「リーリアント様ですね。恐れながら貴女様の後見人となりますカズラールでございます。お見知りおきを」
「陛下は?」
 早く済ませたいと言う様に、リュシーが口を開いた。
「明日の朝に、とのことです。できれば今夜より城に……」
「行かんと伝えろ!」
 こんなに苛立ってるリュシーは初めてだった。彼に握られた手が、たまらなく痛かった。
 その夜は、昨夜以上にあたしを呼び、離そうとしなかった。

「手を出せ」
 言うなり、あたしの左手を掴み、強引に指輪をねじ込んだ。カズラールさんのお屋敷から馬車で出発して、どこかに向かう途中である。
「あれ、この模様……」
 指輪には、リュシーの服と同じ模様があった。リュシーは、拗ねたような顔をしている。
 リュシーは、口を開こうとしなかった。でも、諦めたように不機嫌に口を開く。
「俺の家族が出てくる。とんでもなく嫌な連中だ。お前は口をきくな。何を言われても黙って、俺の側にいろ。いいな?」
 それだけで、後は何も言わない。ガタゴトと、馬車が揺れる音だけが響いた。

「リュシオス・ゼル・フェルキンド・オーヴェ・ファイクリッド様、御帰城!」
 馬車を降りるなり門のところで上がった声に、あたしは弾かれたように彼を見た。
 着いた場所は、王城。この国の名前はファイクリッド。お城に……帰ってきたって……?
「リュシー?」
 彼はただ、あたしを抱き寄せただけだった。

 リュシーが家族を嫌いなのは、よく分かった。すぐに謁見の間に通されて、国王陛下と対面して、リュシーのお兄さんやお姉さんたちとも会ったけど……なんでこんなに嫌な人間がいるんだろう。
 あたしは、リュシーに言われたとおり、黙って聞いていた。リュシーは、国王陛下の誕生日の式典に呼ばれて、戻ってきたんだ。今日は、式典の前の挨拶に寄っただけで、まだここにいなくちゃならない。リュシーは、ここに長居するつもりはなくて、挨拶だけ済ませて帰ろうとしたけど……国王陛下が引き留めた。このお城にも、リュシーの部屋はあるらしい。リュシーは、そこで後で国王陛下と面会することになってしまった。
 何人もいる侍女を無視して、リュシーは乱暴に部屋のソファに座ると、溜息をついた。
 本当に、辛そう。
「リュシー……」
 あたしが彼の顔に触れようとして出した手を、リュシーは掴んで、
「しくじった」
 憂鬱そうに呟いた。
「やっぱり、ここの流儀じゃ向こうの方が上だしな。俺は十の時にここから逃げ出したから、慣れてもないし……」
「……リュシー」
「そんな顔しなくていい。お前はいるだけでいいんだ」
 彼の手が、あたしの顔に触れるか触れないかという時、ノックが響いた。
「リュシー、入るわよ」
「これはこれは。姉上。
 どうなさいました?」
 さっき会った、この国の王太子。リュシーの一番上のお姉さん。
「あら、ご挨拶ね。一年ぶりに帰ってきた弟に会っちゃ、いけないのかしら?」
 言って、彼女はあたしに視線を移し、
「初めまして。リリアちゃん。部下から聞いているわ。リュシーの愛人だそうね」
「恋人です。姉上」
「あら? そうだった?」
 痛っ!
 いきなりあたしの左手をひねるように持ち上げて、しげしげと見てから、
「やっぱり、物好きは母親譲りかしら? 王家の者という自覚と誇りはある?」
 言って彼女は、何人か女の人の名前を出した。血筋がどうとか、家柄がどうとか、結婚相手にどうかって言ってるみたいだった。リュシーは丁寧に断った。
「……俺は直系の中では一番末席だからな」
 お姉さんが帰った後に、リュシーが言う。
「俺が王位を継ぐことなんてないんだ。王位継承権なんてただの飾りだ。それでも、やっぱり王族以外からみると、魅力らしい。俺を娘婿にすれば、正統な直系王族の肩書が手に入るってんで、裏で金やら人やら動いてるんだ。
 道具だよ。他にも、外交とかに使えるらしい。人質とか。」
 自嘲気味な言い方。疲れてる。
 初めて会った時、いきなり無表情にあたしに無茶を言って困らせた人物とは思えない。
と、リュシーがあたしに微笑んだ。
「初めて会った時な」
 疲れた微笑み。でも、これが初めて見る彼の笑顔だった。
「ちょっと困らせてやるつもりだった。……まぁ、一目で気に入ったんだ。ちょっとからかって、お茶を濁して終るつもりだった。
 でも、俺が絡むよりも早く、お前が酔っ払いに絡まれて……気がついたら、お前を引っ張って連れて帰ってた。権力で拘束して……。こんな力、振りかざすのもまっぴらだったのに。
 もっと他の手段で、お前を口説いていたら後悔もなかったと思うんだけどな」
 言って、彼があたしの頭に手を置いたとき、外の空気が変わった。
「親父が来る」
 言うなり、リュシーはあたしを引き寄せると、いきなり唇を奪った。
「ごめん」
 顔を離すなりそう言うと、奥の部屋にあたしを押し込め、
「父上が帰られるまで出すな」
 側にいた侍女に言った。その言葉どおり、侍女が二人入ってきて、あたしは隣の部屋から聞こえる声を聞くしかなかった。
 リュシーが母親に似てきたと、王様は言った。お母さん、殺されてた。リュシーとお兄さん、お姉さんたちは母親が違って、リュシーと同じ両親の兄弟は、二番目のお姉さんだけだった。でも、そのお姉さんは、リュシーが十の頃に、お母さんと一緒に殺されたそうだ。
 何で、王様がこんなこと話してるか分からなかった。でも、じきに分かった。
あたしだ。あたしのことを言ってるんだ。
 リュシーがおとなしく城で言うことを聞くならそれでよし、そうでなかったら、あたしがリュシーのお母さんやお姉さんのようになるって、そう言ってるんだ。
 リュシーは、国王たちの道具。玩具。そしてあたしが、リュシーを縛り付ける枷。そう言ってるんだ。
 リュシーは、脅しを突っぱねた。毅然としていた。
 国王様が帰ってから、あたしを奥の部屋から出して、左手にねじ込んだ指輪を外して投げ捨て、抱き締めると、
「ごめん。連れて来るんじゃなかった」
 そう言って、またキスした。泣きながら。
無茶苦茶な男だと思ってたけど、こんなファーストキスだとは……正直言って思ってなかった。

それから、リュシーは方針を変えた。カズラールさんのお屋敷では、相変わらずあたしを離さなかったけど、もうお城に連れて行こうとはしなかった。行く前に、決まってキスして、愛してるって言って、……それだけだった。お城から帰るなりあたしを抱き締め、泣きながらあたしに謝って……。無茶苦茶な彼はいなかった。
ある日、丸一日帰ってこなかった。次の日の明け方帰ってくると、
「終った。帰ろう」
 そう言ってあたしを抱き締め、そのまま眠った。あたしをきつく抱き締めたまま。
 国王様の誕生日の、翌朝だった。


5 :副島王姫 :2007/10/13(土) 07:05:11 ID:oJrGY3oG

改稿原稿(再)

だあぁああっ! 間違えてキーを押してしまいました。(滝汗)
ぶち壊しなので、最初から。……つくづく、すみません。
……こんな所でミスるな。王姫の阿呆! やっぱり一度、死んで来い!

「リリ……」
 帰ってきたと、振り返ろうとし、リュシオスは目を見開く。
「……リリア!?」
 状況は――認識できた。ただ、声を荒げる。
「あ……そんな……リリア! リリア!」
 震える手と声で彼女を抱き締め、
「何とか言ってくれ! リリア! リリア!」
 と、突然、リリアを離した。そのまま、彼女をここまで連れてきた将軍に詰め寄る。
「……皇帝陛下にお話したい」
 静謐な、声。
「殿下の件は、今朝から全て私の一存で判断するようになっております。お取次ぎは致しかねます」
「貴様!」
 将軍が手を挙げて制した。指し示した先には――兵士に、喉元に槍を突きつけられたリリア。状況が分かっているのかいないのか、彼女に反応はない。
「どうなさいますか?」
「貴様らぁッ!!」
 慌てて兵士からリリアを取り戻すと、ただ叫んだ。
「リリア……畜生……畜生」
 将軍が去ってから、リュシオスはただ呟き続けた。起きているが意思の無い、妻を抱き締めて。


「……ごめん……」
 ――夜。
 もはや抱いている演技をする必要も無く、彼女をすがるように抱き締め、祈るように言う。
「……ごめん……リリア……」
 泣いていた。
「守れない……守れなかった……俺は……俺は……
 リリア……リリア……」
 虚ろな、彼女の顔を覗き込む。相変わらず、表現というものがない。
「寝ようか……」
 ぽつりと言って、彼女をベッドに寝かせる。彼も、いつもの――いや、かつてのように横になった。
 小さな子がぬいぐるみでも抱き締めるように、ただただ抱き締める。
「……抱いて」
 やがて聞こえたリリアの声に、リュシオスは急いで顔を上げた。
 久々に――遠くから聞こえた彼女の声。
「リリア! 喋った? 今なんて……」
「抱いて」
 アイスブルーの目に一瞬宿った希望が、消える。
「リュシーなら良かった! なのに……なのに……
 リュシーが抱いて! リュシーならいい!」
「あ……あ……リリア……」
 怯えたようなアイスブルーの瞳に、恐怖を宿し、目を見開いていた。
 あれほど愛したリリアが……。あれほど愛してくれた、包んでくれたリリアが――。

 傷ついた、――瞳。

 ――あ、あなた一体何ですか?――あなたのせいで眠れなかったんでしょ!――リュシーってば――宿以外降りないから――ちょっと!――王様になるような言い方ね――あたしに構ったから――それ、寝てないってことだよ――みんな……どうしてるかな――リュシーが嫌そうにしてる――どしたの?――ここって王都?――リュシー……――何考えてんのよ?――ごまかすな!――別に――ねぇ、リュシー――わ、わかった――リュシオス――うるさい黙れって――どういう変化なの?――あんたいい加減にしなさいよ!――よくご存知ですこと――襲いたきゃ襲えば?――そんな目しなくていい――年、いくつ?――大丈夫。側にいる――この変態!――礼儀って言葉を――リュシーに?――調子悪いね――ふざけないで!――大丈夫――……分かんない……――何でそんなに――どうするの?――一緒に行く――一人にしたら死んじゃうわよ!――大丈夫だから!――……馬鹿……――そんなリュシーが好き――駄目だよ。リュシー――

 その目は、もう彼の知るものではない。彼を、安心させてくれない。彼を、甘えさせてくれない。

 ――リュシー――大丈夫――愛してる――リュシー……――

 ――リュシー――

「……あ……ああ……」
 どれぐらいそんな時が流れたか。リュシオスは、ただ、恐怖を写した瞳を閉じ、彼女の身体を抱き締め、
「……母さん……姉さん……」
 泣きながら、呟いた。
 いくら強がっても。いくら責任を背負っても。
 彼は――十六の少年だった。

「陛下」
 将軍が報告に来た。うっすらと、笑みを浮べている。
「リュシオス殿下よりご伝言です。陛下のご提案を受け入れると」
「……ガレーン卿のご計画通り、ですね」
 ガレーン卿――そう呼ばれた男は、肩を聳やかせ、
「所詮は子供。扱い易いものです。……それに、まだあの小娘の生命もありますし。いくらでも利用できますよ」
「ああ、あと、もう一つご伝言が」
 将軍の言葉に、一同が注目し、
「放って置いてくれ、だそうです」
 誰からともなく、嘲笑が洩れた。

 オーヴェルト帝国がファイクリッド王国に宣戦布告したのは、その2ヵ月後。3ヶ月を待たず、フェルキンド・オーヴェルト公国が生まれた。ファイクリッドを裏切った、ファイクリッド最後の王族、リュシオス・ゼル・フェルキンド・オーヴェ・ファイクリッドの手によって、オーヴェルトの属国として。以後、フェルキンドは、ファイクリッドの名を取り戻せないまま、1300年にわたる服従の歴史に甘んじることになる。


――了。

失礼しました!(BY王姫) キーを押し間違えるとは……ごめんなさい。
ちょっと、リリアの回想がしつこかったかな?と反省。う〜みゅ、どうするか……。彼女の台詞、疑問符が多かったですね。
とにもかくにも、ここまでお付き合い下さいまして、ありがとうございます!


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