日常の中の気付かぬ世界 第二章


1 :黒い翠鳥 :2009/09/16(水) 14:53:24 ID:WmknrAnA

初めての方、はじめまして。
前作も読んでいただいた方、お久しぶりです。
黒い翠鳥です。

この作品は前作『日常の中の気付かぬ世界』の続きにあたりますので、初めての方はそちらを先に読んでいただけると幸いです。
前作を読んでいただいた方は今作も見放さずに読んでいただけると筆者が喜びます。

今回はとある方の小説や感想室でも大暴走を繰り広げたアノヒトが登場します。

それでは、竜樹や雫達の織りなす物語『日常の中の気付かぬ世界』の第二章、開幕です。


2 :黒い翠鳥 :2009/09/16(水) 15:14:54 ID:WmknrAnA

古の記憶

それは……(いにしえ)の時の出来事……



「うぅ……うぅん……」

「おっ、起きたね! おはよー」

私の膝に頭を乗せて眠っていた少女が目を開けた。
まだ意識がはっきりしないみたいで、とろーんとした瞳でこっちを見つめてる。

「もうお昼過ぎだぞ、お寝坊さん」

その言葉に反応してか、少女は私の膝から跳び起き、ごしごしと目を(こす)る。
やがて意識がはっきりしたのか、キョロキョロと周囲を見回し、こう言った。

「ここ……どこ? ボク、ラディアスさんに会いに童守(・・)の里に来て……えっと……それから……」

「ん? あ〜、やっぱり記憶が飛んじゃてたかぁ」

私は苦笑いを作ってポリポリと頭を掻く。
本当の気持ちを隠すために。

この子は好きな相手に会う為に、この地にやって来た。
本当なら今頃、ラディアスと楽しい時間を過ごしていたかも知れない……
あんな事が起こらなかったら……

「実はね……お昼ごろキミがやって来てさ、皆でお茶でも飲みながら話に花を咲かせてたんだ。その時、私は『銘酒 神殺し』ってのを飲んでたんだけど……それをキミが間違って口にしちゃったみたいでさぁ」

『銘酒 神殺し』ってのは文字通り神様も一瞬で酔いつぶれるほど強いお酒で、下手に飲むとその日の記憶が吹っ飛ぶと言われてる。
私が酔えるお酒ってこれくらいしか無いんだけど、これって需要あるのかなぁ?

「で、酔いつぶれて丸三日寝てたんだよ」

「……嘘……」

もちろん大嘘。

記憶が無いのは私が封印したから。
アレは、忘れた方がいい。
思い出したら、多分この子の心は耐えられない……

「だったら……ここは……」

刻流山(こくりゅうやま)の刻流神社だよ」

これは本当。

ここはラディアスが童守の里を鎮守(ちんじゅ)する為の神社。

「……ごめんなさい。ご迷惑をかけちゃったみたいで……」

「え? あ、き、気にする事無いよ。元はと言えばあんな席でお酒を飲んでた私が悪いんだし!」

「そうだ、ラディアスさんは? 居るんだよね?」

うっ……やっぱ、それ聞くよね……
はぁ……これはとっても非常に言い辛いなぁ……

「それがね、キミが眠っている間に大変な知らせが来たらしいんだ。それで、当分留守にするって飛び出して行っちゃった……」

これも嘘。

ラディアスは今、全ての世界から閉ざされた場所にいる。
私が……そこに閉じ込めた。
それがラディアスを救う、唯一の方法だったから。

「ラディアスさん……いないの?」

傍から見ていても落胆(らくたん)しているのが分かる。
そんなの、この子には似合わない。

「あ、でも、千年くらいで帰って来るみたいだよ! 『寂しいかも知れないけど、必ず帰って来るからね』ってキミに伝えてって言ってたし!」

「本当……?」

「うん!」

これは本当。

伝えて欲しいと言われたのは本当。
千年で帰って来るってのも本当。

その時、また同じ事が起こらないなんて保障はないけど。
それは、これからの私次第。

「そっか……だったら、ボクは待ってる。それで、帰って来たらボク……ラディアスさんに告白するんだ!」

あ、そう言えばこの子、まだ告白してないんだっけ……
多分ふられる事は無いと思うけど……千年待たせちゃうのは罪悪感あるなぁ……

「そう言えば、ラディアスさんがしばらく留守にするって事は……だれが童守の里を鎮守するの?」

ラディアスはここの土地神。
それが居なくなるって事は、その土地の衰退(すいたい)を意味する。
千年間ともなると、そこに住む人間にとっては大問題だ。

「う〜ん……しばらくは私がやってもいいんだけど、ずっとって訳にはいかないからなぁ」

「だったら……ボクじゃダメかな……」

「キミが?」

う〜ん……悪くは無いけど、大丈夫かな……災魔とかいる訳だし……

「ボクだって、もう子供じゃ無いよ! 鎮守だってちゃんと出来る!」

「だけど……」

「それに、ラディアスさんが帰ってきたら、一番にお帰りなさいって言いたいんだ!」

その為に、ここで待ちたいって事か……
決意は、固そうだなぁ。

「わかった。キミならラディアスも納得するだろうし。大変だろうけど、頑張るんだよ!」

「うん!」

「じゃぁ、せっかくだし、神主さんに言って神社の名前も変えてもらおう!」

「え?」

私の提案に、この子の目がギョッとなった。
そんなに驚くところ?

「だ、だめだよ! ここ、ラディアスさんの神社なんだし……ボクは留守を預かるだけなんだよ?」

「そうだけど……一時的とはいえ、土地神が変わるんだよ? 祭る方も誰を祭ってればいいのか分らなくなるじゃん」

「そ、そうなの?」

まぁ、別にラディアス神社とかついてた訳じゃないから、変えなくても問題ある訳じゃないけど。
何と言うか……ノリ?

「何がいいかな? あんまり仰々(ぎょうぎょう)しいのは気張っちゃうだろうから……」

そうだねぇ……
なるべく分かり易く……名前から取ろうか。

「うん、天乃花神社にしよう! ラディアスが戻ってくるまでよろしくね! 天花(天乃花森姫)」



         ◇            ◇            ◇            ◇



それから800年の時が流れ────現代。



「たっだいま〜! 元気してた?」

「お帰りなさいませ、総帥(そうすい)

私が部屋の扉を開けると、中に居た女性が軽く頭を下げる。

「今度はどちらへ行かれていたのですか?」

「ルエローネ。ほら、ダビラって名前のお祭りがあるじゃん。あれに行って来たの」

それは異世界にある国の名前。
世界を渡っていろんな祭に顔を出すのが私の趣味。

「しかし、ダビラがあったのは基準時間で80日も前のはずですが?」

「あ〜、それがねぇ。お祭りの最中に隣国が攻めて来たり、闇の秘密結社が世界征服を目論んだり、恐怖の大魔王が復活したりで私が帰ろうとする度に厄介事が起こるんだもん」

月(現地では違う名前で呼ばれてたけど)が落ちて来たり、そこで知り合った男の子がラブコメな展開を繰り広げたり、色々あったなぁ。

「全部片付けてたら、帰るのが遅くなっちゃった。3回くらい人類滅亡の危機があったし」

「そうですか。まぁ、総帥の放浪癖は皆が知っていますから良いですが……」

放浪癖って……否定できないなぁ。

「そんな事より、例の件はどうなってる?」

「No32.クーディルアの事ですか? 解析は順調に進んでいます。ただ、SLシステムの製作の方は難航(なんこう)しているようですが」

あれは200年後にラディアスを助ける切り札。
800年かかってやっと見つけたものだから、慎重に行かないとね。

「それと、話は変わりますが、古柳さんから連絡がありましたよ」

「冬っちから?」

「はい。何か気になる事があるとか……詳しくはこちらに」

そう言うと、彼女は机の上に置かれたパソコンを操作し、画面をこちらの方へと向けた。

え〜と、何々?

「…………確かに、これはちょっと気になるね」

半日で強化された災魔。
始祖の災魔出現の可能性。

「何か嫌な予感がするよ。冬っち、相手が始祖の災魔だと犠牲をかえりみないから」

始祖の災魔を倒す為なら……あの子は自分の命を引き換えにするくらいやりかねない。

「では、戦団に召集(しょうしゅう)をかけますか? 既に手筈は整えておりますが」

「いや、いいよ。私が行くから」

「総帥自らですか?」

「うん。実璃(みのり)に託された、大切な忘れ形見だからね」

ちょっと、過保護かもしれないけど。

「そんな訳で行ってくるよ。お土産は何がいい?」

「時雨堂のシュークリームでお願いします」

「おっけ〜!」

「行ってらっしゃいませ」

そんなやり取りをして、部屋を後にした。

「私の取り越し苦労ならいいんだけど」

そう呟いて私は目的の場所へ跳ぶ。
この私の作った世界から……
天乃花森姫の……天花のいる世界に……

異界を渡る────


3 :黒い翠鳥 :2009/10/14(水) 23:50:49 ID:WmknrAnA

二枚のチケット


―――side 竜樹―――


それはいつもの昼休み。
俺が知広ちゃんと共に災魔との死闘をくぐり抜けてから今日でちょうど二週間目になる。

あの後、俺は天花さんと正式に『破壊者の契約の儀』を行い、無事破壊者になった。
訓練の方もそれなりに順調だし、下位レベルの災魔相手なら何度か勝利をもぎ取った。
もっとも、冬至達との模擬戦では知広ちゃんにすら一度も勝った事は無いが。

で、今俺が何をしているかと言うと……

「うおぉ〜〜〜疲れたぁ〜〜〜〜」

机にうつ伏せながら、情けない声を上げていた。
丁度明日に控えた校内マラソン大会の為に、午前中の授業が全部体育に置き換わっていたのだ。

破壊者の訓練の成果もあってか最近は多少体力が付いてきたが、それでも俺にとっては十分な悪夢だ。
何度認識干渉をして逃げ出したくなった事か……

その度に雫に励まされ、何とか走り抜いたけど、まだ明日が残っている。
はぁ……ホント鬱だ……

「オ〜スッ、竜樹! 大丈夫か?」

沈んでいた感情が無理やり引き揚げるような声。
こりゃ、咲人だな……

前にも似たような事があったと思いながら───そういえばあの時は雫だったなと思いだして───起き上がる。
案の定、目の前にいたのは咲人だった。

「大丈夫に見えるか?」

「いや、見えねーな」

そう言いながら笑う咲人。

「……で、何か用か?」

「おぅ! そーだった。竜樹、コレいらねーか?」

そう言って咲人が取り出したのは二枚の映画のチケットだった。

『ウォー・キングダム〜封印されたレジェンド・カード〜』と(めい)打たれたそれは、確か同名のカードゲームを題材にしたアニメ映画だったと思う。
前にテレビで宣伝しているのを見ただけで詳しくは知らないが、公開は(しばら)く先だったと思うが……

「どうしたんだ? それ……」

「弟がコレ好きでな。試写会に応募したら当たったらしーんだケド、学校の文化祭が被っちまって行けなくなっちまったらしくてよ。誰か要るヤツいねーかと思って貰ってきた」

そうか……弟君…残念だったな……

だけど、俺にとっても別に興味のあるものでも無いしなぁ。
第一『ウォー・キングダム』がどんなカードゲームか知らないし。
巷ではそれなりに流行っているらしいが……

「で、要るか? ペアチケットだから雫とでも行ってきたらどうだ?」

「俺はいいや。……って言うか何で「……行く……」そこで雫の名前が……って、オイ……」

いきなり話の途中に割り込まれたと思ったら、いつの間にか雫がいた。
しかも、いつもより目が輝いているように見えるのは俺の気のせいか?

「………行きたい……竜樹……お姉さんと……一緒に行こ?」

言葉の出ない俺を無視して、咲人は「そうかそうか」と頷きながら……

「じゃ、コレやるよ。日程は次の日曜だからな。じゃ、楽しんできなよ、お二人さん」

そう言ってチケットを雫に渡すと、さっさと教室から出て行ってしまった。

「………隣町の映画館………昼の一時から……だって………八時に……駅前で待ち合わせ……いい?」

「え? あ、ああ」

雫が妙に嬉しそうに見えたので、思わず頷いてしまった。
こうして俺の日曜日の予定はいつの間にか決まってしまったのである。



そして、その日の放課後────



「んな訳で日曜日に映画に行くことになったんですが……」

「デートかぁ、いいなぁ〜」

「いや、デートじゃ無いですから」

俺がそんな会話をしているのは喫茶店『ざしきわらし』のテーブル席。
話相手は天花さんだ。
知広ちゃんから「破壊者関係で話があるので来てほしい」とのメールを貰い、やって来たら天花さんがいたので話し込んでしまったと言った具合いだ。

「いや〜、青春だね」

「……からかい甲斐(がい)のある弟みたいに思われているだけですよ。前にそんな事を言ってました」

三年くらい前に………

「お待たせしました!」

知広ちゃんが注文のアイスコーヒーを置く。
その対面、天花さんの前にはフルーツパフェ。
天花さんは甘いもの好きらしい。

「ところで、楽しそうでしたけど何の話をされていたのですか?」

「竜樹君がね、日曜日に映画館でデートするんだって」

「デートじゃないですって……」

天花さんはどうしてもデートにしたいらしい。

「へぇ〜、奇遇なのです。私も日曜日はデートなのです。お望みでしたらお勧めデートコースを調べておきましょうか?」

「いや、いい。……と言うか知広ちゃん、彼氏いたんだ」

初耳だ……
まぁ、俺も理解者になるまではそこまで仲が良かった訳じゃないし。
知らない事くらい、山のようにある。

「あれ? 竜樹君、知らないの? 冬至君の事だよ?」

「え゛っ!?」

マジですか!?

あの特撮オタクに、こんな可愛い彼女が居たのか……
まぁ、仲いいなぁとは思ってたけど。

「それに、彼氏ってより婚約者だよね。婚約指輪も貰ったんでしょ? いいなぁ、ラブラブで」

「それは……まぁ……」

知広ちゃんの顔が耳まで真っ赤になった。

婚約指輪って……知広ちゃんはまだ中学生だし、冬至だって高校生だろ!?
驚きを通り越してある意味尊敬するぞ……
真似したいとは思わないが。

「そ、それより、陰宮さんもせっかくのデートなんですから海月さんに恥をかかせちゃダメですよ!」

恥ずかしいのか、知広ちゃんは無理やり矛先を俺に変えた。

「デートじゃないって。……と言うかよく相手が雫だと分ったね」

その部分は聞いてなかったと思ったけど……

「他に誰か居るのですか?」

「……そりゃぁ、いないけど……」

雫とは恋仲ではないと言っているんだけどなぁ……
周りからはどんな風に見られているんだろう。

「まぁ、それはとりあえず横に置いておいて、知広ちゃん、破壊者関係で何か話があったんじゃないのかい?」

そのために俺は呼ばれたのだ。

幸い……と言っていいのかどうか、店内に俺達以外の客はいない。
そのため、知広ちゃんも掛かりっきりでいられるのだし。

「あ、はい。竜樹さんに『同盟証(どうめいしょう)』が届いたのでお渡ししておこうと思って」

「『同盟証』?」

「こちらです」

そう言って渡されたのは青いカードが一枚。
いつの間に撮ったのか俺の顔写真が印刷されており、あとは意味不明な記号の羅列(られつ)が書かれているのみのシンプルなカードだ。

「陰宮さんはまだ、『理解者同盟』について説明を受けておられませんでしたよね」

「ああ。……と言うか、初耳だ」

「簡単に説明しますと、『理解者同盟』は『久神機関(ひさがみきかん)』の下部組織で、破壊者達の支援(しえん)を目的に結成(けっせい)されました」

破壊者とは、己の命をかけて災魔と戦う者達。
理解者の中でその道を選ぶのはほんの一握りだ。
大抵の理解者はそんな覚悟、持つことは出来ない。
俺だって最初はそうだった。

だけど、自ら戦う覚悟を持てなくても、少しでも破壊者達の力になりたいと思う人もいる。
そんな人たちに災魔を理解する力を失った元破壊者達が加わって『理解者同盟』は作られた。

その構成員は別に理解者である必要は無い。
災魔を理解する力を失ったとしても、その時の記憶まで無くなるわけではないのだから。
自身の経験を元に、破壊者達に様々な支援を行う。
それが『理解者同盟』なのだ。

そして『同盟証』は同盟向けの破壊者である証。
要するに『纏衣の呪布』の代わりだ。
普通の人は『纏衣の呪布』を付けいている事を気付けないのだから。

知広ちゃんから聞いた内容は、だいたいこんな感じだった。
ちなみに、『久神機関』については教えてもらっていない。
必要無いと判断されたのだろうか。

「『ざしきわらし』も同盟施設ですよ。その同盟証があれば、うちの全メニューが半額になるのです。」

そ、それは凄い。
金の無い学生にとっては物凄く嬉しいぞ。

「あと、ついでに地下にある施設が使えるようになりますよ。無論、立ち入り禁止の部屋もありますが」

あぁ、俺が以前泊まった部屋の事か。
他にもいろんな設備を備えているって聞いたが……
どう見てもメニュー半額より、そっちの方がメインじゃないのか?

「データルームなんかもありますから、デートコースを調べたりするのもばっちりです」

「いや、デートの話はいいから………」

結局、そのあとは日曜日の話になり、俺が無理やり適当な話題に切り換えるまで一時間近く続いたのだった。


4 :黒い翠鳥 :2009/11/18(水) 15:47:16 ID:WmknrAnAtD

男の夢とカードゲーム

―――side 雫―――


待ちに待った日曜日。
私は駅前に続く道を走っていた。

時間は既に八時半を回っている。
完全に遅刻だった。
その理由が昨晩(きのう)は楽しみで眠れなかったなんて……
私は遠足前日の小学生かって突っ込みたくなる。

二人っきりで映画を見に行くのだ。
デートだって考えても間違ってないよね。
……まぁ、きっと竜樹にその気は無いんだろうけど。

集合場所を指定したのだってデートっぽさを高めるためだったのに……
余計な事しなければ良かったかなぁ……
家が隣同士なんだし、迎えに来てもらえば遅刻なんてしなかったはずだ。

竜樹……怒ってないかな……
せっかくのデートが台無しだよ。
竜樹に振り向いてもらうチャンスなのに。

このきっかけを作ってくれた咲人には凄く感謝してる。
このデートで頼りになるお姉さんをアピールして、竜樹をメロメロにしちゃうんだから!
だけど、感謝すればするほど、私は咲人に酷い事をしているような気になって来る。
咲人はそんな事は無いって言ってくれたけど……咲人は……

ううん。今はそんな事を考えている時じゃない。
もっと急がないと。



そして私が駅前についたのは、時計の長針が\に差し掛かった時だった。

竜樹の姿はすぐに見つかった。
大きな時計のオブジェに腰掛け、辺りを眺めている。

よかった……まだ居てくれた……

急いで駆け寄ろうとすると、竜樹もこちらに気が付いたようだ。
オブジェから立ち上がり、こっちに歩いてくる。

「………ごめん………待った? ……よね………」

合流したところで、私はそう切り出した。
竜樹の返事はと言うと……

「いや、別に」

素っ気ない。
怒ってる……
これは怒ってるよ……竜樹。

「………ほんと……ごめん………」

悪かったのは私なんだけど、ずっとこんな雰囲気なのは耐えられない。

「………今度……お()びするから……機嫌直して……」

柏手を打って頭を下げる。
すると、竜樹は困惑気味な表情で頭を掻いた。

「別に怒ってないから安心しろ。まぁ、遅刻はいいことじゃないけどな」

本当?
本当に怒ってない?

「あ、でも、せっかくだから貰えるもんは貰っとく。お詫びって何してくれるんだ?」

抜け目ないなぁ……
でも、その表情や口調からは怒りの感情を感じられない。
良かった。本当に怒ってないみたいだ。

ただ、ちょっと困った。
実はお詫びの内容までは考えて無い。
お昼奢るとかじゃ何だし…………あ、そうだ。

「………明日の朝……私が竜樹を……起こしに行く………………裸エプロンで……あたっ!!」

最後のは竜樹のハリセンが額に直撃したせいだ。
……どっから出したの? そのハリセン。

「却下だ!」

「………駄目?」

男の子の夢だって聞いたよ?
あ、そっか。 それだけじゃ足りないんだね。

「………じゃ……朝食も作る………もちろん裸エプロン……はうっ!!」

「何考えてんだ!」

本日二度目のハリセンが炸裂した。

「………まだ足りない? ………欲張(よくば)りさんめ……じゃぁ……」

「違うわ!」

「………大丈夫……認識妨害するから……家族には……気付かれない………」

「そう言う問題じゃねぇ!!」

三度目のハリセンが来たけど、真剣白刃取りで防いだ。
そう何度も同じ手はくわない。

「やっぱお詫びはいらないからさっさと行くぞ。もうすぐ次の電車が来るし」

そう言って切符売場に向かう竜樹。
私も後を追う。

「そう言えば、その服見たこと無いな。新しいやつか?」

竜樹が、歩きながらそんな事を言ってきた。
あ、気付いてくれたんだね。

今日の私の服装は白いレースをあしらった黒いワンピース。
この日の為に竜樹好みの服をチョイスして来たんだよ。
竜樹の事はお姉さんが一番良くしっているのだ。

本当はもっとおめかしして来るつもりだったんだけど、時間の関係で断念した。

「うん、可愛いじゃないか。似合ってるぞ」

竜樹の手が、ポンと私の頭に乗せる。
その瞬間私の歩みが止まった。

「ん? どうした?」

可愛い……可愛い……可愛い……
似合ってる……似合ってる……似合ってる……

「大丈夫か? 雫?」

心の中で、竜樹の言葉が木霊する。
期待はしてたけど、まさかこんな素直に言ってくれるなんて……
嬉しいやら恥ずかしいやら。

その言葉で停止した私の思考が再起動するまで、十分近い時間がかかってしまった。



それから、電車に揺られてしばらく……



隣町についた私達は、とあるゲームセンターにやって来た。
割と規模の大きい所で、有名なものからマイナーなものまでかなり種類が豊富らしい。
らしい……って言うのは単に受け売りだからだ。

最初は何処に行こうとか、色々計画を立ててたんだけど、遅刻したせいで時間が足りない。
どうしようか悩んだ後、ゲームセンターなら竜樹と偶に行くことがあるからお互いに楽しめるかなって思ってここにした。

「………あ……行き過ぎた………」

「惜しいな、もう少しで取れそうだったのに」

今、私達がやっているのはクレーンゲーム。
最近は景品の種類も豊富で、中々侮れない。
定番のぬいぐるみはもちろん、お菓子やキャラクターフィギュア、果ては生き物まであったりする。
もっとも、どれもそう簡単には取らせてはくれないけど。

「結構難しいな。もう一回やるか?」

ガラスケースを覗き込みながら、竜樹が聞いてくる。

「………ううん……取れそうにないから……いい……」

五回失敗した時点で私は諦めた。
そこまで欲しい景品があった訳じゃないし、あんまりお金を使い過ぎる訳にも行かない。
他にも行きたい所があるんだし、引き際が肝心だよね。

「………次は…………あっ!!」

別のゲームをしようと辺りを見回した私の視界に、ある物が映った。
反射的にそっちに向かい、それを確認する。

「………新章……もう稼働してたんだ………」

もう一週間は後だと思ってたのに。
そう思いながら第七章と書かれたPOP広告を見ていると、すぐに竜樹がやって来た。

「どうした? 雫。ん? それは……ウォー・キングダム・コマンダーステイション?」

竜樹が筐体(きょうたい)に書かれた文字を読んでいく。

「ウォー・キングダムって、今日見に行く映画のやつか?」

「………うん……それの対戦ができる………」

コマンダーステイションはウォー・キングダムと言う対戦型TCG(トレーディング・カードゲーム)の対戦をする事が出来る筐体だ。
対戦といっても、CPU(コンピュータ)相手に略式のルールで行えるだけ。
おなじ対戦をするなら人間相手の方がいい。

むしろメインはこれでしか手に入らないカードの方。
ただ、百円で一枚しか出てこないのでかなり割高だ。

「俺、このカードゲーム全然知らないんだが、雫は知ってる?」

「………うん……簡単に説明……しようか?」

「ああ。頼む」

頼まれた。
ここは分かり易くしっかり解説して、頼れるお姉さんをアピールだ!

「………んと……ウォー・キングダムは……プレーヤーが……司令官になって……ユニット……ストラテジー……ウエポンのカードを使って(略)」

「……ふむ……」

「ユニット同士が戦う時は戦力の高い方が(中略)ストラテジーは指定が無い限りいつでも使えるけど基本的に使いきりで(中略)ウエポンは条件を満たさないと使えないけど強力なものが多くて(中略)カードには属性があってそれが使用可能属性と違ったら(中略)ライフポイントにダメージを受けたらエナジーポイントが(中略)特殊能力には永続型と起動型があって基本的には(以下略)」

「…………すまん、ちょっといいか?」

「同じカードはデッキに四枚まで入れられるんだけどレジェンドカードは全部で……って……どしたの? ……竜樹………」

こころなしか一歩引いているように見えるのは気のせいですか?

「もうおっけい。よく分からんが何となく分かった。にしても、珍しく饒舌(じょうぜつ)だったな」

………え?

あっ!! しまったぁ!!
いつの間にか自分の世界に入ってた……

引いた?
子供っぽいって思われた?
むしろ痛いお姉さん?

「雫がこんな饒舌になるとは……そんなに面白いか?」

「………う……うん………」

否定しても仕方ないので正直に肯定しておく。
個人的な贔屓(ひいき)目を除いても、流行っている事には違いない。

「この筐体でゲームが出来るんだよな。カード持ってなくても出来るのか?」

「………うん………」

足りないカードはゲーム内で借りる事が出来るし、対戦前にカードが出てくるからそれを使う事もできる。

「それじゃ、せっかくだし一回やってみるかな。雫、やり方教えてくれよ」

「………あ……うん……最初にそこに……百円入れて………」

お金を入れるとメニュー画面になるので簡単モードを選んでもらう。

「………下から……カードが出てくるから……取って………」

「あ、これか。どれどれ……お、何か光ってんのが出た」

「………何が出たの?」

覗いてみるとそこに書かれていたイラストとカード名は……

「………!! ……『海底からの奇襲』!!」

そ、それって事前情報で私が一番欲しかったカードじゃない!
紹介されていたレアリティがかなり高かったから手に入れるのは難しいと思ってたのに。
しかもその中でも数十枚に一枚しかないって言われてるイラスト違いのパラレルレアですよ!!

初めてでこれほどのレアカードを引き当てるなんて……何と言う神引き!!
竜樹……恐ろしい子……

「………いいなぁ………」

思わずつぶやいてしまった。

「ん? 欲しいのか?」

「………うん……出来たら……交換(トレード)を………」

あ、でも、何と交換すれば!?
カードはやらないみたいだから要らないだろうし……
他に竜樹が欲しがりそうなものは……

「あげるよ。俺には必要ないし」

「………え!? ……いいの?」

竜樹……このカードの価値分かってるの?
いや、わかって無いんだろうけど……

「いいよ。こう言うのは使う奴が持ってた方がいい」

そう言ってカードを渡して来る。

結局、私はそれを受け取ってしまった。
でも、これってかなり高価だから心苦しいな……

あ、そうだ。

「………じゃ……代わりに……私が……裸エプロンで……はうっ!」

ハリセン再び!
ほんと、何処に持ってたの?

竜樹に他意は無かったと思う。
言葉通り、使う人が持っていた方がいいて思ってくれただけだろう。

だけど、嬉しかった。
何より、竜樹がくれたって事が。

このお礼は必ずするよ。

「………ありがとう………」

このカード、大切に使うね。


5 :黒い翠鳥 :2009/12/12(土) 22:39:57 ID:WmknrAnAtD

映画と雫と余計な痛み

―――side 竜樹―――


ゲーセンで散々遊んだ後、俺達はちょっと早めの昼食を摂りに、とある店へと入った。
有名と言うほどでは無いが、それなりに口コミで人気な洋食屋だ。

昼食の場所にこの店を選んだのには三つの理由がある。

一つ目は自分がまだ行ったことの無い店だったから。
美味しいと言う噂だが、好みもあるし、実際に食べてみない事には分からない。
そんな訳で物は試しと入ってみた訳だ。

とりあえず俺はカツカレーを注文したのだが、どうやら当たりだったらしい。
生憎とそれを言葉で表現できる程には語彙(ごい)を備えていないので詳しい評価は控えさせてもらうが、かなり美味かった。
今度知広ちゃんに食べてもらって、レシピを書いてもらおう。

二つ目はここが理解者同盟の施設だと言う事だ。

早い話が同盟証で割引が効く。
これはかなり重要だ。
とくに俺のような金の無い学生にとっては。

そして三つ目……

「………ん……美味しい………」

それは今、雫が食べているメニューの存在だ。

ぶっちゃけ、カツカレーだ。
ただ、その大きさがまともでは無い。

五十センチを超える大皿に山と積まれたバターライス。
溢れんばかりに注がれた辛口のビーフカレー。
皿の半分を隠すほどの巨大なトンカツと、これでもかとふられている粉チーズ。
総重量は多分五キロを楽に超えているだろう。

俗に言う大食いチャレンジメニューだ。
そして雫はそれを顔色一つ変えず、せっせと胃の中へ送り込んでいる。
ちなみに制限時間は三十分。

現在はまだ十分と少しほどしか経過していないのだが、そのカレーの八割が雫のお腹の中に納まっていた。

隣でストップウォッチを持っている店員が目を丸くしている。
無理もないだろう。
小学生か良くて中学生ほどの容姿の女の子があの大山を消し去っているのだから。

これだけ説明すれば分かってもらえると思うが、雫はその容姿に似合わず、非常に食べるのだ。
どこにそれだけの食べ物が入るのかと毎度のことながらツッコミたくなる程に。
まぁ、もう慣れたが……

しかもこれだけ食べておきながら全く太らない。
世の体重に悩む女性達が聞いたら間違いなく羨ましがるな。

もっとも、実際はそんなに良いものじゃなく、これだけ食べないと身体を維持できないと本人は言っていた。
詳しい理由は聞いていないが、エネルギーの消費量が半端ではないかららしい。
そう言う体質なのだそうだ。

さて、残りのカレーが僅かになったのだが、雫の食べるスピードは変わらない。
そして遂に、最後の一口を食べ終わる。

「………完食………」

「時間は……十二分二十二秒。おめでとうございます!!」

店員の声に辺りから歓声が上がる。
どうやら、こんな小さい子の挑戦と言う事で注目を浴びていたらしい。

笑顔でピースサインを作る雫を店員がポラロイドカメラで撮影し、出来た写真に日付とタイムを入れる。
壁には同じようにこのメニューを制覇した人たちの写真が貼ってあったが、どれも雫のタイムには及ばない。
まったく、いつもながら早い。
俺の方はまだ普通のカレーを食べきっていないのだが……

だけど、雫の実力(?)はこんな物では無い。
この後に発するであろうセリフを、俺は簡単に予測できる。

「………あの………二杯目……挑戦してもいいですか?」

予想通りだ。
その発言に、その場にいた全員の固まった。
そりゃ、そうだろな。

そして雫はこれまた俺の予想通り、二回目の特盛りカツカレーを綺麗に食べきったのだった。
ちなみに記録は十六分ジャストだった事を付け加えておく。



         ◇            ◇            ◇            ◇



暗雲が世界を暗闇に閉ざし、鳴り響く雷が空を照らす。
そして荒れ果てた岩山に立ち、向かい合う二組の男と魔物。

片方の男は少年。従えし魔物は竜。
少年は傷ついた身体に鞭打って、両の足でしっかりと大地を踏みしめ相手の男に視線を向けている。
満身創痍なのは竜も同じであり、翼は破れ、牙は折られ、爪は砕かれた。

対峙するは仮面をつけた怪しげな男。従がえし魔物は細い四肢をしならせた巨大な悪魔。
少年とは違い、服にさえ傷一つない状態で少年を見据えている。
悪魔はギョロリとした眼球を不気味に動かし、主人の命令を待っていた。


───────────────────────────────────────────


────えーと……突然何かと言いますと、これは今俺たちが見ている映画の話です。

簡単に内容を説明すると、ある男がウォーキングダムの大会を開いて強い司令官(プレイヤー)を集めました。
その中には主人公も居て、ライバル達と白熱した戦いを繰り広げます。
しかし、その大会は世界の崩壊を企む仮面の男が、あるカードの封印を解くために開催した罠だったのです。
敗者から抽出したエネルギーでカードの封印を解こうとする仮面の男。
それに気づいた主人公と仲間たちが阻止しようとするも、あと一歩のところで封印が解かれてしまった。
このままでは世界は闇に閉ざされ、滅んでしまう。
主人公は封印されていた悪魔を倒すため、仮面の男に対戦を挑み善戦するも、悪魔の前には歯が立たない。
そして先ほどの場面に至る。

あ、適当に読み流しちゃって結構ですよ。

ぶっちゃけすごくツッコミ所が多かったんだが、すべてスルーした。
事前に雫から『………突っ込んじゃダメ……そー言うものって割り切って……楽しんだほうが……いい………』と忠告されていたのだ。
まぁ、確かに毎回ツッコミを入れていたら楽しむどころじゃないからな。

事前にルールを教えてもらったおかげで何とか内容は理解出来ていたが、やっぱりちょっと分からない所もある。
あの封印されていた悪魔、戦力3000って言って主人公達が驚いていたけど、それってどれくらい強いの?

ちなみに雫はと言うと、隣でLLサイズのポップコーンを食べながら興奮気味にスクリーンに見入っている。
その左手が、いつの間にか俺の右手の甲に重ねられていた。


───────────────────────────────────────────


『フフフ……『ヘヴンリ・ドラゴン』の戦力も尽き、ドラゴンを守っていた『命の代償』の効果も、もはや失われたも同然。次の私のターンの攻撃で、貴様の風前の灯火の命は尽きる」

仮面の男は不敵に笑う。
実際、少年のライフは僅かに1。
自軍のユニット(ヘヴンリ・ドラゴン)が破棄された瞬間、少年は敗北する。

『諦めて降参(サレンダー)したらどうだ? この『ディアボロス』(封印されしカード)を倒せるカードなど存在しない!』

『そんな事……してたまるかよ……』

少年は持てる力を振り絞り、自分の山札(デッキ)に手を伸ばす。

『命のひとかけらでも残されている限り、俺は諦めない! 俺は……仲間たちと共に作り上げてきたこのデッキを信じる! 俺のターン、ドロー!!』


───────────────────────────────────────────


クライマックスです。
雫が盛り上がってるのがわかります。

ところで雫さん? さっきから握っている左手に力が入ってませんか?
ちょっと痛いんですけど。
既に振りほどけないほどに強く握られているんですが。

放して欲しくて声をかけてみたが、スクリーンに完全に心奪われていて聞いてない!
なんか握る力が更に強くなってる気がするんですが……


───────────────────────────────────────────


『信じれば、デッキは答えてくれる!! 俺はフィールドにセットされたウエポンカード『覇者の紋章』を発動し、『ヘヴンリ・ドラゴン』に装備。さらに手札からストラテジーカード『遥かなる頂』を発動! このカードは『覇者の紋章』を装備したユニットをランクアップさせる!!』

ドラゴンの周りに光が集まり、徐々に形を成していく。

『集う命の輝きが、新たな意思を紡ぎだす! 邪を払う刃と成れ!! 光臨!! 『ヘヴンリ・ドラゴン Advanced Mode』!!!』

『な、何だと? そのカードはまさか!!』

そこには、鎧を纏った神々しい竜の姿があった。

『あの人に託されたこのカードが、貴様の野望を打ち砕く!!』


───────────────────────────────────────────


痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!!!!

千切れる、千切れる、千切れる、千切れる、千切れる、千切れる!!!!!!

ちょっと雫さん! 展開が最高潮で興奮してるのは分かりますが、いい加減手を離してください!!

映画館の中なので大声を出す訳にもいかないし。
……ってか、雫ってこんなに握力強かったの!?
潜在能力解放しちゃってない!?

何か手の先が紫色に変色し始めてるんですけど!!
手の感覚が無くなってきましたよ!?
握る力、更に強くなってません!?

え? 丁度スクリーンの中で竜が悪魔に攻撃を仕掛けたところ?
あ、最絶頂なんですね。
そりゃぁ、力も入りますよね。

……って、ぎゃあぁぁぁ!! いい加減離せぇぇぇっ!!!







スクリーンはエンドロールに切り替わり、周囲のお客さんも徐々に退室を始めていた。
俺はと言うと、やっと雫から逃れた右手を擦りながら、感覚が回復するの待っている。
『天満月』(あまみつつき)を使ったほうがいいかも知れん……

ちなみに、その犯人である雫は無意識だったらしく、今も俺の手を握っていた事に気づいていない。

「………ねぇ……映画……どうだった?」

席を立ちながら、無邪気にそう聞いてくるくらいだ。

「えーっと……そうだな。たまにはこう言うのも悪くないな」

それは正直な感想だった。
最初は子供っぽいんじゃないかと思ってたけど、中々どうして楽しめる。
あとは、映画に出てきた日本チャンプが雫に似ているなと思ったくらいか。

ただ、一番印象に残ったのが雫の握力だってのは映画を見に来た身としてはどうなのだろうか。
まぁ、それは言わなかったけど。

「………そう……良かった……」

なんだか上機嫌な雫とともに席を立つ。
悪くない気分だ。
これは咲人に感謝だな。

そう言えば入る時にプロモーションカードなるものを貰ったのだが、これはどうしようか。

雫にあげようか……
いや、そもそもこの映画のチケットは秋穂君(咲人の弟の名前。夏芽ちゃんの双子の弟)の物だったんだし、秋穂君にあげるべきか。
映画に行けなくて残念な思いをしているんだろうし。

「………ねぇ……竜樹………この後暇?」

「この後か? 別に何も予定は無いけど?」

と言うか、映画を見た後のことは何も考えていなかった。
せっかく隣町まで来たのだし、そのまま帰ると言うのも味気ないな。

「………少し歩いたところに……水明公園(みずあきこうえん)って言う……自然公園があるの………一緒に……行かない?」

水明公園か……そう言えばそんなのがあったな。
小さい頃に何度か言った事があるのだが、最近はとんと御無沙汰している。
まぁ、何の予定もないし、たまには公園でのんびりするのも悪くないだろう。

「そうだな。久しぶりに行ってみるか」

「………うん………」

そんな会話をしながらスクリーンのある部屋を出る。
この映画館は広く、いくつかの部屋で同時に違う映画が上映されているのだ。

丁度別の部屋でも上映が終わったらしく、別の一団が出口に向かって歩いて行く。

「ん? あれは……」

その中に俺は見知った顔を見つけた。
………と言うか、見逃せないくらいに目立っている。

完全に場違いであろう白衣。
黒縁眼鏡のヒーローオタク。

古柳 冬至。

「お〜い、冬至!」

「うん? お、竜樹(マイフレンド)。こんな所で会うとは奇遇であるな」

俺の声に冬至も気づいたようだ。

「お前も来てたのか。何を見たんだ?」

「吾輩か? 吾輩は『獣王戦隊ヒャクレンジャー −百獣大行進−&アーマド・ライダーF −集結! 九大ライダー− 豪華二本立て』である」

やっぱりそれか。
予想はついていたが。

「やはり何度見ても良いものであるな」

冬至の事だ。すでに五回……いや、十回くらい見てるんだろうな。

「あの、どうかしましたか? 冬至さん」

「お、知広ちゃん。こんにちは」

「………こんにちは……」

「あ、陰宮さんに海月さん。こんにちはなのです」

冬至の後ろから知広ちゃんが現れる。
まぁ、デートって言ってたから当然居るよな。

だが冬至よ、せっかく女の子と映画に来るのに戦隊&ライダー物は無いんじゃないのか?
俺も人の事は言えないが、俺は別にデートじゃないし。

「おっと、マイフレンド。本来ならば先の映画についてじっくり語りたいところなのであるが、吾輩はこれから知広とツーリングに行くのでな。これにて失礼させてもらうのである」

「それでは御機嫌ようなのです」

知広ちゃんがお辞儀をして、冬至が白衣を翻しながら去っていく。
冬至のバイクって、まさか戦隊物やライダーに出てくるような派手な奴じゃないよな。

「………一緒にツーリング……いいなぁ………」

「へ?」

隣を見てみれば、指をくわえて見ている雫がいる。
時折、チラチラと上目遣いでこちらを見てくるんだが……
なんかちょっと可愛い。

つーか、これはアレですか?
俺にツーリングに誘えと───遠まわしにそう言っていますか?
バイクどころか免許すら持ってないぞ。

「……雫、水明公園に行こうか……」

「………うん………」

遠回しなお願いはとりあえずスルーして、俺たちは歩いて自然公園に向かうのだった。


6 :黒い翠鳥 :2010/01/14(木) 02:00:57 ID:WmknrAnAtD

アイスの塔と輪入道

―――side 竜樹―――

「たまにはこんなのも悪くないな」

映画を見た後、俺たちは水明公園にやって来た。
県内でも有名な自然公園らしく、結構な人出で賑わっているようだ。

軽食などを売る屋台もそれなりに出ていたので、二人でアイスクリームを購入し適当なベンチに腰掛ける。
ベンチにちょこんと座り、美味しそうにアイスを()める雫の姿は微笑ましいものがある。
あぁ……和みのある光景だねぇ。
普通なら……

ぶっちゃけて言おう。
今の俺は相当ハラハラしている。
もう全然和むどころじゃない。

その理由は雫の持っているアイスクリームだ。
サイズが半端じゃないのだ。
……いや、サイズ自体は普通なのか?

この場合は高さが半端じゃないと言うのが正しいか。
雫の手には塔のごとき高さに積まれたアイスクリームがあった。

その数、数えてみたらなんと十二段。
高さにして七十センチを優に超えている。
……って言うか、頼むほうも頼むほうだが、積んだほうも積んだほうだ。

しかもアイスなのだから当然、だんだんと溶けてくる。
そうでなくても、すぐに倒れて来そうで怖いぞ!
全く心臓に悪い。
そしてそれを倒さずに器用に食べる雫のバランス感覚は、ある意味驚愕(きょうがく)に値する。

「………? ………竜樹も食べる? ………食べかけ……だけど……」

俺の視線に気づいたらしく、そんな事を言いながら十二段アイスを差し出してくる雫。
物欲しそうに見えたのか?

「いや、いい。俺はそんなには食えん。」

それに俺はまだ自分のアイスを食べ終えて無いんだが。
当然、俺のは普通のアイスだ。
そんな事より、早いとこそれ食いきって俺を安心させてくれ。

雫は「………そう……」とだけ言うと、再びアイスを嘗め始めた。

しかしまぁ、昼にあれだけ食って、映画館でもLLサイズのポップコーン一人で食べてたはずなんだがなぁ……
甘いものは別腹ってか?
正直、見ているこっちが胸焼けを起こすぞ。

そう思って雫から目をそらすと、見えるのはのどかな公園の風景。
休日だからか、家族連やカップル、旅行者等の姿も見える。

「平和だねぇ」

不意に、ぽつりとつぶやく。

その平和を乱す存在……災魔。
未だに大した数ではないが、これでも何度か災魔と戦って来た身だ。
微力ながら、俺もこの平和な風景を守っているのだと思うと、頑張ろうと思えて来る。

そう言えば以前知広ちゃんに、このような場所では喜や楽の感情によって放出された命の炎が溜まっていると言われたことがある。
それを狙って災魔が現れる事もあるらしい。

しかも、そんな場所で災いを起こせば、それまでの感情との差によって、効率よく命の炎を得る事ができるとも聞いている。
ここは、災魔にとっては良い餌場(えさば)なのだ。

縁起(えんぎ)でもない。
そう思って別の事を考えようとした時だ。

「…………っ!!!」

感じ取ってしまった。

幾つもの色を混ぜ合わせた灰色。
無機的でありながら、巨大な命の炎。
災いをもたらす魔物の気配。

「ずいぶんと嫌なタイミングで来るじゃないか」

いや、良いタイミングと言うべきか。
ここには、丁度よく俺たちが居るのだから。

「いくぞ、雫!」

「…っ! …ちょっと待って……」

突然の事で焦ったのか、雫は残っているアイスに一気にかぶりつく。
わずか数口で、あの塔のようなアイスが雫の胃袋に収まってしまった。

……って、そんなに一気に食べたら!

「………んんんっ………」

頭を抱えてうずくまる雫。
やっぱりキーンと来たんだな。

こんな時に不謹慎だが、そんな雫は結構……いや、かなり可愛いかった。
微妙に和んだね。

「大丈夫か?」

「………う……うん………」

「それじゃ、行くぞ!」

雫が落ち着くのを待って、俺達は気配のする方に走り出す。

「「纏衣解放!!」」

存在操作術式が俺達を包み、戦うための鎧を作る。
この公園には全く似つかわしくない衣装だが、認識妨害のおかげでそんな事を気にする必要はない。

身体強化の理操術を発動し、一気に加速する。
前方に、展開途中の集命領域が見えた。

「雫!」

「……うん! ……武装解放!」

雫の周囲に、纏衣の呪布によって八本の鎖が生み出される。

鎖の名は『鱗鎖(りんさ)
主人の意思で自在に動かすことができる雫の武装。

「………術式破壊…」

雫が集命領域の一角を指差(ゆびさ)すと、鎖がそこに向かって伸び、先端の突起が術式に突き刺さる。
すると、そこから集命領域を構成していた存在操作術式が消えていく。

鱗鎖の特殊能力『術式破壊』
その名の通り、発動・展開されている存在操作術式を破壊する事ができる能力だ。

ただ、その為には対象の術式を作るのと同じだけの命の炎が必要らしい。
それ故に効率自体は悪く、多量の命の炎を持つ雫でなければ割に合わないと、前に冬至が言っていた。

雫の命の炎がどれ位あるのか、俺はよく知らないのだが。

「………散命領域!」

続けて、新たな術式が展開される。
紺碧(こんぺき)の術式が、見渡す限りの彼方まで広がっていった。

術式内から人を払う理操術、散命領域。
人の認識に干渉するこの理操術によって、普通の人は無意識の内にここから離れようとしてしまう。
なるべく一般人を巻き込まないようにする、破壊者達の常識だ。

数十秒も経たないうちに、見える範囲にはすっかり人がいなくなってしまった。
これで、存分に戦える。

「……来る…後ろ!」

「応っ!」

声と同時に、俺は横へ跳ぶ。
直後、俺が寸前までいた場所を、何かが高速で通り抜けて行った。

それは五十メートルほど直進すると、速度を落として停止する。
ギラリと、その眼が俺達を睨んだ。

「カシャカシャカシャカシャ!!」

巨大な口が、声を立てて笑う。
それは───巨大な車輪だった。

昔の牛車についているような車輪。
側面には、禿()げた男の顔のようなものがあり、全体から自身が燃え尽きてしまうんじゃないかと思うほどの炎が噴きあがっている。
たしか、昔読んだ妖怪図鑑のイラストで見た気がする。
確か、輪入道とか言ったっけ。

以前の(ぬえ)っぽいのと言い、災魔と妖怪って何か関係があるんだろうか。

「カシャカシャカシャッ!!!」

笑い声と共に災魔の纏っている炎が更に勢いを増す。
余計な事を考えている場合じゃないみたいだな。

「………竜樹!」

「ああ、行くぞ雫! 武装解放!!」

俺の言葉とイメージを読み取り、纏衣の呪布が術式を展開する。
常盤色(ときわいろ)の輝きから生み出された()れを、両手でしっかりと握り構える。

一メートルを超える刀身を持ち、切断にも刺突にも優れた混血剣。
鮮やかな緑で彩られた漆黒のバスタードソード。
俺専用の纏衣武装。

名は─────まだ無い。
今度皆に募集してみようか………

っと、そんな事を考えるのは後でいい。
今はその前にやる事がある。

巨大な車輪が迫りくる。
炎を纏ったそれは、高速で回転しながら俺たちに襲いかかって来た。

「おっと!!」

相手の突進を直前で横に跳んで避けると、カウンター気味にバスタードソードの刃を叩き込む。

「うぉっ!?」

だが、その刃が衝突した瞬間、バスタードソードが下向きに弾かれた。
車輪の回転に、バスタードソードが巻き込まれたのだ。
バランスを崩した俺の目の前を、災魔の顔が通り過ぎる。

「………捕縛して! …鱗鎖!!」

間髪入れずに雫が鱗鎖を災魔に向かって伸ばす。
高速で地を駆ける災魔だが、以前の鵺っぽいのと違ってその動きは直線的だ。
予測さえしていれば捕らえるのはそう難しくは無い。

進行方向から投網のように展開した鎖が、災魔の逃げ場を奪う。

「………捕らえた………」

鎖が、災魔を拘束する。

「カシャカシャカシャッ!」

「…え!?」

だけど、それはほんの(わず)かな間だけだった。
災魔が不気味に笑うと、次の瞬間には拘束していた鎖が弾け飛んだ。

「………っ!」

「そんなバカな!」

奴の高速回転は、鱗鎖の拘束さえも簡単に引き千切るほどなのかよ!

災魔はそのまま直進すると、百数十メートルほど進んで反転、再び戻ってくる。
反転する隙を狙うという作戦も考えたが、俺達の理操術では射程外だ。

「………十二球海・六剣…」

雫の周りに、理操術によって作られた水球が現れ、それが六本の剣へと変わる。
これは以前の訓練の時に見せてもらった事がある。

滄海千器(そうかいせんき)』と言う、雫の得意技だ。

その水で作られた武器は普通に使う事もできるけど、基本的には撃ち出すことで遠くの敵を攻撃する遠距離用の技。
ただ、それでも最大射程はともかく、有効射程は精々(せいぜい)50メートルだと前に言っていた。
反転の隙を狙う作戦には使えない。

元々これは狙撃用ではなく、数を頼りにした殲滅用(せんめつよう)の理操術なのだ。
百メートル以上の距離を狙撃(そげき)するような命中精度は期待できない。

「………全海掃射!!」

故に雫は、(わず)か三十メートルという距離まで災魔を引きつけてから『滄海千器』を放った。
だが、それでも災魔の回転による防壁(ぼうへき)を貫く事は出来ず、俺の剣と同じように弾かれてしまう。

「………っ……」

それ位は予想できていたようで、雫は災魔が衝突する寸前に身を(ひるがえ)し、華麗(かれい)に回避した。

だが、あの突撃はかなり不味い。
その速度と見た目の質量から考えても、相当な威力を持っているのが分かる。
直撃すれば纏衣を着ていても無事じゃ済まないだろうな。

加えて正面からの攻撃は、ことごとくあの高速回転に阻まれてしまうから厄介だ。
狙うなら側面しかないだろう。
あの災魔の突撃をかわしつつ、すれ違う一瞬に側面(コイツの場合は顔面か?)に一撃を叩き込む。
正直、あの速度を相手にするのはかなり難しいと思うが、他に思いつかないし……

「………竜樹……」

「どうした?」

「………考えがある………協力して……」

そう言って雫は、残っている鱗鎖を構えた。

「………私が……隙を作るから………一発大きいのを……お願い……」

大技の準備をしておけって事か。

俺は「あぁ」と頷くが、どうやって隙を作るつもりなのだろうか。
鱗鎖を総動員しても、ほんの僅かしか止められなかった相手だ。
その程度の時間じゃ、狙いが合わせられない。

「………来る……」

反転して戻ってくる災魔に、雫が鱗鎖の標準を合わせる。

「カシャカシャカシャカシャカシャッ!」

「………今……」

不気味に笑う災魔と対照的に、雫は静かに鱗鎖を放つ。
鱗鎖は災魔に向かって一直線に伸びて行き───

「カシャッ?」

「へ?」

災魔の目の前で突き刺さった。

そんな事で災魔の動きは止まらない。
そのまま直進する災魔は───

「なっ!?」

鱗鎖の上を、一直線に走っていく。
しかも、いつの間にか鱗鎖は比例グラフのような曲線を描いている。
それに沿って走って行った災魔は当然───

「カシャッ!?」

真上に跳ね上げられる!!

「………回転体当たりには……方向を変えて対処するのが……・お約束………」

どこのお約束かは知らないが、なるほど、空中なら身動きが取れない。
理操術を使えば別だが、雫には『術式破壊』がある。
存在操作術式を壊せば、理操術は発動しない。

「ナイスだ、雫!」

落下してくる災魔に合わせて、俺は理操術を発動させる。
命の炎を推進力に変え、災魔に向かって突撃をかける。

これが今、俺の出来る最強の技。
名を───

風砕牙(ふうさいが)っ!!!」

疾風のごとく迫り、その速度を持って災魔に剣を突き刺す。

「カシャァァァッ!!!」

バスタードソードは災魔の眉間(みけん)に深々と突き刺さる。
同時に、剣の中に込められた理操術が解き放たれた。

剣を中心に、強大な衝撃波が放たれる。
馬鹿でかい音とともに()ぜる災魔。

衝撃波による内部からの攻撃。
それが『風砕牙』。

衝撃波によって砕かれた核の気配を感じ取りながら、着地する。
とりあえず、これで一安心だ。

───と、その時だった。
視界の片隅に、それを見たのは。

「あれ?」

池に面した広場の木陰に、一人の少年の姿があった。
木の幹に片手をついて、こちらを見ている。

その少年と目が合う。
少年が、にこりと笑った。

認識妨害が展開している今の俺は、普通の人間には気付くことすら出来ない。
それに、散命領域はいまだに展開している。
基本的に、普通の人間がこの中に入ってくることは無い。

だけど、この少年はここにいる。
───理解者───なのだろうか。

「なぁ、雫!」

「………なに?」

「あそこの……って、あれ?」

雫を呼ぶために目を離したのは一瞬。
すぐに視界を元に戻した。
でも、その時、そこに少年の姿は無かった。

開けた場所で視界は良好。
隠れられそうな場所は無い。
しかし、そこには人はおろか、動物の気配すらない。

「見間違い……か?」

そうは思えない。
けど、少年のいた痕跡すら見当たらない。

あの少年は、いったい何だったのだろうか。
そんなモヤモヤした気持ちを抱えたまま、戦いは終わりを告げた。


7 :黒い翠鳥 :2010/02/16(火) 00:06:55 ID:WmknrAnAtD

訓練と神技と告白と……


―――side 竜樹―――

それは、雫と映画を観にいた翌日の放課後の事。

「形状を変更。剣の形に」

確認するように声を出して理操術を発動させる。

俺が持っていた直径十センチ位の銀色の玉が溶けるように変形し、一振りの剣に代わる。
形状はバスタード・ソード。
俺の纏衣武装に近い。
ただ、大きさは二十センチ程度の小さなものだ。

寸法(サイズ)を変更。全長百二十センチに」

今度は大きさが変わり、ちゃんと剣と呼べるほどのものになる。
ただ、そのまま引き延ばしたので密度が薄くなっている。

「質量を変更。重さを二.五キログラムに」

剣のずっしりとした重みが腕に伝わる。
更に性質を変更。
剣が発火し、刀身に炎を纏う。
そしてまた形状を変更する。

これを何度も繰り返し、理操術を使う感覚を、イメージを現実化させる感覚を身体に刻み込む。
基本的には纏衣の呪布が術式を構築してくれるのだが、このように訓練する事で、発動の速度・効果・効率などを高める事ができるのだ。

「術式の構築速度も性質構成も大分、良くなったのです。無音発動(イメージのみでの発動)がまだ不安定ですが、そろそろ次の訓練に移っても良いかもしれません」

「おっ! マジかっ!」

現在、俺は天乃花神社で理操術の訓練の真っ最中だ。
講師は知広ちゃん。
雫と悠さんは別の場所で訓練をしている。

そして冬至は……

「ふむ、あとはここの駆動部を接続すれば……」

多種多様な部品を理操術で作っては、巨大な建造物を組み立てていた。
一週間ほど前から作っているが、何なんだアレは……

「なぁ、知広ちゃん。今更なんだが、冬至は一体何を作ってるんだ?」

最初は車サイズだった物体が、今では一軒家クラスの大きさにまでなっている。

「あれですか? 巨大ロボットの胴体らしいのです」

「は?」

「ですから、冬至さんは40メートル級の搭乗型ロボットを作っているのです」

あぁ、そう言われてみれば仰向けになったロボットの身体に見えなくもない……

……って、ちょっと待て!
巨大ロボットですか!?
今までいろんなもん作って来たのは知っているが、巨大ロボまで作り始めるとは……
まさか変形合体までしたりしないだろうな。

「男の夢らしいのです」

否定はしないが……
一週間でこれだけ作ったのは大したものだけど、完成までどれだけかかる事やら……

「ん? ちょっと待てよ?」

このロボットのパーツは理操術で作られているはずだ。
術式を組んでいたから間違いない。

理操術は物体の持つ存在情報を無理やり書き換える技術であり、書き換えられた存在情報には元に戻ろうとする力が働く。
つまり、理操術で作られた物質は長時間その状態を維持できない。
なのに、一週間前に作られた部品はいまだその形状を留めている。
ずっと書き換え続ければ別だろうけど、そんな事をするにはどれ程の命の炎がいる事か……

「知広ちゃん……ちょっと疑問があるんだけど」

「? 何なのですか?」

俺は今考えていた事を知広ちゃんにそのまま伝えた。
すると、知広ちゃんは「あ、その事ですか」と納得した風になる。

「あれは『神技』と呼ばれる、理操術より上位の力なのです」

まぁ、理操術の一種ではあるんですけどね──と、微笑む知広ちゃん。

「『神技』?」

「はい。影宮さん、理操術は存在情報を書き換える事で物体を変化させているのは分かりますよね」

すみません、実はいまいち分かってません。
自分で使うとは言っても、その術式を構成する処理をほとんど纏衣の呪布がやってくれているから出来るのであって、感覚的にしか理解できないのだ。
だが、そんな俺をお構いなしに知広ちゃんは続ける。

「実は、物体を構成する重要な要素には『存在情報』の他にもう一つ『概念』という物があるのです」

「『概念』?」

確か物事の本質的な特徴という意味だっけか?

「はい、『概念』とは、それが何であるかという事です。例えば私なら、人間と言う概念を持っていますし、深川知広と言う概念も持っています。女性や学生と言う概念ももちろん持っています」

俺なら影宮竜樹と言う『概念』がある訳だな。

「そして、いくら存在情報を書き換えても元に戻ってしまう原因は、この『概念』があるからなのです」

書き換えた存在情報が概念に引きずられて、また書き換えられちゃう訳ですね──と知広ちゃんは続ける。

「じゃぁ、もしその『概念』の方を書き換えられれば……」

「はい。その状態で安定してしまいますので、元に戻る事は無くなるのです。その『概念』を書き換える方法が、『神技』なのです」

なるほど、理屈はなんとなく分かった。
どうすればその『概念』とやらを書き換えられるのかは見当もつかないが。

「まぁ、普通の人間……いえ、神族ですら『四柱竜(しちゅうりゅう)』と呼ばれる上位種族しか使えないものですし、そう言うのもあるんだ位の認識でいいと思うのです」

……って事は、冬至はその上位種に匹敵する実力があるってことか!?

「あ、冬至さんはちょっと特殊なので例外的に考えた方がいいのです」

そうですか……

「実はその例外って、割と多いのですけどね(ぼそっ)」

「ん?」

「いえ……あ、そうそう。一つだけ影宮さんにも使える神技があるのです」

「本当に!?」

俺にも使えるのか!?
一体どんな……

「『認識干渉』って言うのですけどね」

「え?」

『認識妨害』とか『散命領域』とかの事だよな……
基本の理操術じゃないのか?

「あれも、一応神技なのです。正確には、その劣化版みたいなものですが」

……正直、それを聞いたら凄いんだか凄くないんだか分からなくなってきた……



         ◇            ◇            ◇            ◇



「次の訓練はここで行うのです」

そう言った知広ちゃんの後ろには直径五十メートルくらいの池がある。
奥には小規模ながら滝もあり、滝行(たきぎょう)も出来そうだ。

「ここで何をすればいいんだ? わざわざ水着に着替える必要があるってことは水に入るんだろうけど」

今、俺は水着を着ている。
競泳用の上下一体型のやつだ。
先ほど、知広ちゃんに言われて着替えてきた。

季節は既に十月も終わろうかというところ。
正直、水着になるような気温ではないが、冬至謹製の保温水着にはそんな事関係がない。
布一枚だというのに何という温かさ。
何故か水着に覆われていない部分も暖かい。

まぁ、それは置いておいて、今まで行って来た訓練の主な目的は理操術の質の向上だった。
ならば次は……

「まず、水の上に立ってください。ゆっくりでいいのです」

知広ちゃんが一歩踏み出すと、その脚は沈むことなく水面を踏みしめた。
水を固体化させているのか、それとも表面張力を高めているのか。

ちなみに知広ちゃんは水着ではない。
普段着のままだ。

「分かった。よし、いくぞ……」

俺も続いてゆっくりと一歩を踏み出す。
ずっと理操術の訓練はしてきたんだ。
これ位なら出来る……ハズ。

足元の水に理操術を展開。
水面を固定し、足場にする。
踏みこんだ一歩は僅かに沈んだものの、無事水面を踏みしめていた。

「よし」

そのままもう片方の足を出す。
慎重に理操術を構築し、無事に両足で立つことに成功する。

しかし、知広ちゃんは何でもないように歩いているが、これ実はかなりきつい。
水の上に立つという事は、その状態に合わせて常に術式を変化させていかなければならない。

形状を変化させるものを固定するというのは、思いの他難しかった。
ぶっちゃけて言うと、イメージし辛いのだ。
堅い水など見たこともないし、完全に固めると氷になってしまう。
気を抜いたら理操術が解けてしまいそうだ。

あと、バランスが取りづらい。
一部だけを固定しているため、結構揺れるのだ。
これは水に浮いたタライ二つに片足ずつ乗せているという感覚が近いかもしれない。

「な、なぁ。知広ちゃん。これって何かコツとかないのか?」

「コツですか?」

そう言われて、知広ちゃんが軽く首を捻った。

「そうですね。参考になるかは分かりませんが、私は硝子(ガラス)をイメージしているのです」

知広ちゃんが靴先で水面を叩くと、コンッコンッと水とは思えないような音が聞こえてきた。

「ガラスか……」

「まぁ、どうすれば良いかを考えるのも、この訓練の内なのです。これは状況に合わせて常に最適な理操術を構築する訓練ですから」

考えるのも訓練の内ね……

「では、とりあえず中心まで行ってみるのです」







それから結構な時間をかけて俺は池の中心まで歩いて行った。
たったそれだけなのに、既に五度以上沈みかけている。
ここから岸まで戻る事が出来るのかも怪しくないか?

「影宮さん、ここからが本番なのです」

「お、おう」

「これから一つイベントが起きますので、イメージを崩さないようにしてくださいね」

でないと、溺れちゃいますから。と、微笑む知広ちゃん。
イベントって……一体何が……

「ん?」

ふと、近くの水面に気泡が浮かんでいるの見つけた。
あ、なるほど。
あそこから何か出て来る訳だな。

だんだんと多くなってくる気泡。
それはまるで気づいてくれと言わんばかりに。
突然出て来るなら先に気づかれちゃダメだろ。
そして、予想通りに何かが現れる。

「………頑張ってる?」

雫だった。
ずっと池の中にいたんだろうか。
濡れた髪を浮かべながら、水面から頭だけを覗かせている。

「おう、何とかな」

雫の出現にも対応出来たし、これなら何とか……

「………そう………」

そう言って雫が水面に上がってくる。
水面下から押し上げられるように上がってくる光景は違和感あるよなぁ。

ちなみに雫の着ている水着はスクール水着だった。
それも、何故か白い。
妙に似合っている気がしたが、普通のスクール水着なら小学校のころから見ているのだから、今更何とも思わない。

「!?」

……が、気づいてしまった。
雫は今、濡れている。
そして、白い水着と言うのは透けやすいのだ。

要するに見えてしまった訳だ。
具体的にはよーく見れば一応あるなと思える胸部の、先端なんかが……

「うわっ!」

その瞬間、足元の理想術が解けた。
足場を失った俺は、当然ボチャンという音を立てて池の中へ沈んでしまう。

「…っ! 竜樹!」
「陰宮さんっ!」

だって仕方ないじゃん……
画像ならともかく、肉親以外のを生で見た事なんて無かったんだもん。
当然、小さい頃に一緒にお風呂に入った事があるなんて幼馴染の定番設定は無いので、雫のも初めてだ。

まぁ、いきなり池に落ちたのにパニックにならなかったのは、幸いかな。
なんと言うか、その……眼福でした。
そんな事を考えながら、俺はゆっくりと水面に浮かんで行くのだった。



         ◇            ◇            ◇            ◇



「海月さん……陰宮さんの気を引く方法が間違っていると思うのです(ぼそっ)」

「ん? 何か言った? 知広ちゃん」

「いえ、別に何も……」

池に落ちた事でずぶ濡れになってしまった俺は、四市名さんの用意してくれた焚火に当たりながら濡れた身体を乾かしていた。
冬至謹製の水着のおかげで寒くはないが、濡れたままというのは微妙に気持ちが悪い。

雫は水着を着替えに行っていて、ここにはいない。
今雫を見るとさっきの光景を思い出してしまいそうなので、正直ありがたかった。

「あ〜、見事にずぶ濡れだね」

「はは、面目ない」

天花さんがやってきて、暖かい飲み物を渡してくれた。
ちょっと赤み掛かった黄色い液体。
天花さんの事だから、何かの果実のジュースだろう。
植物神だし。

飲み物を受け取ると、天花さんはそのまま俺の隣に腰を下ろす。

「雫ちゃんにしてやられたって感じかな?」

「まぁ、そんな所です」

多分天花さんは、俺が雫に驚かされて池に落ちたと思っているのだろう。
訂正する気は無い。
そう思っているのならそう思っていて欲しい。

「そうそう、雫ちゃんと言えば……」

嫌な予感がする。
出来れば今は雫の話題は避けたいんだが……
さっきの事を思い出しちゃいそうだし……

「昨日はどうだったのかなぁ?」

「どう……とは?」

予想は出来るがあえて聞く。
出来れば違う答えを期待しながら。

「昨日の雫ちゃんとのデートの事に決まってるじゃん!」

予想通りだった。

「デートじゃ無いですよ」

「またまた〜、で、どうだった?」

どうもこうも無い。
ゲーセン行って、昼飯食ってから映画。
あとは水明公園でだらだらしてただけだ。
特に面白い話は無い。

災魔と戦闘があった事は昨日の内に報告済みだし。

「ご期待に添えるような話はありませんよ」

「え〜! つまんないじゃん!」

そうは言われても……

「いいもん。雫ちゃんに聞くから」

雫に聞いたところで無いものは無いと……

「じゃぁさ、知広ちゃんはどうだった?」

「え? 私ですか?」

天花さんの矛先が、知広ちゃんに向いた。

「私も、特に面白い話は無いのです」

知広ちゃんは何でもないように答える。

「ウインドーショッピングしてから映画を見て……冬至さんのバイクでツーリングした後、二人で食事をして帰ったのです」

「映画かぁ。冬至君の事だから……やっぱり戦隊もの?」

御名答です、天花さん。

「そして食事は、夜景の奇麗な高級レストランでロマンチックに!」

いや、流石にそれは無いでしょう……

「はい。とってもいいお店なのです」

……って、マジなの!?

「知広ちゃん、前から行きたがってたもんね」

「はい。昔、お父さん達と一度だけ行った事があるのですが、その時のお料理の味が忘れられなくて……」

まぁ、デートでそう言う所へ連れていければ、彼氏としての甲斐性もあるんだろうけど……

「これは是非、あの味を盗みたいと思っていたのです」

目的そっち!?
そう言えばそんな技術持ってましたね。
食べただけで作り方が分かるって言う……

「で、うまく行った?」

「それが……やっぱり二回じゃ完全には無理でした。できればもう一回食べておきたいのです」

……三回食べただけで再現出来るなら、十分凄いと思う。

「じゃぁさ、それを理由に次のデートの約束をしちゃえば……」

「あ、再来週にまた行く約束をしたのです。今度こそ完全に再現できるようになるのです」

大丈夫なのか? 冬至……主に懐具合が……

「竜樹君はどうなの? 次のデートの約束」

「してませんよ。第一、デートじゃないですし」

別に雫とは恋仲じゃないんだけどなぁ。

「俺の事より、天花さんはどうなんですか? いい人とか居ないんですか?」

「え、ボク?」

とりあえず自分から矛先を外したくて言った台詞だったが、天花さんの顔が予想外に赤くなる。

「……居るんですか?」

「えっと……その……片思いなんだけどね……」

意外だった。
天花さんの、その恥じらう姿が。
いつものノリなら、この程度はさらっと受け流しそうなのに。

「……相手はどんな人……いや、神なんですか?」

俺もたまに忘れるけど、天花さんは『深き黒樹の一族』。
植物を司る神だ。
相手が人じゃ無いとは言い切れないけど、多分神族だろう。

天花さんをここまで恥じらわせる相手とは、一体どんな神なんだろうか……
ちょっと興味が湧いた。

「年上なんだけど、私が小さい頃からよく遊んでくれていたんだ。人間の感覚で言うなら、近所の優しいお兄さんって所かな」

天花さんの頬が、ますます赤くなる。

「優しくって、頼もしい、とっても可愛い神なんだ」

可愛い? カッコいいではなくて?
童顔なんだろうか……

「告白とか、しないんですか?」

「え!? 告白!?」

天花さんが一瞬、ビクッと跳ねた。

「じ、実はね……次に会ったときに告白するつもりなんだ……」

「え? 本当ですか? 凄いじゃないですか。応援してますよ」

俺自身はそんな経験は無いのだが、相当勇気がいる事だろう。

「ただ……ね……今何処で何をしているのか……全然知らないんだ……」

天花さんの顔が、急に暗くなった。
え!? もしかして俺、おもいっきり地雷踏みました!?

「千年くらい帰ってこれないらしくて……ボクの事、忘れちゃったりしてるかもしれないし……他に好きな神が出来ちゃってるかも知れないし……そもそもボクなんかじゃ相手にしてもらえないかもしれないし……」

更に暗くなる天花さん。
まずい、これは非常に不味いぞ。

「そ、そんな事ないですよ。よく遊んでくれたんでしょ? 忘れたりする訳無いですよ。天花さんの思いも、きっと伝わりますって!」

「……そ、そうだよね。きっと大丈夫だよね」

良かった、少しだけ明るくなった。

「そうですよ。俺がもし、その人……じゃない、神を見かけたら、すぐに天花さんに知らせますから」

「私も探してみるのです。だから元気を出して下さい」

「うん……ありがとう、竜樹君、知広ちゃん」

目に涙を溜めながらも、なんとか明るさを取り戻した天花さん。
やっぱり、この神に落ち込んでいる姿は似合わない。
何より、誰が相手でも、そんな姿は見たくないものだ。

「ただ、私はその方の容姿を知らないので、教えていただけると助かるのです」

うん、俺も知らない。
それが分からなければ探しようがないよな。

「わかった。ちょっと待ってね」

そう言って、天花さんは理操術を構築する。
その術式の中に、一人の少年の姿が浮かび上がった。

「名前はラディアスさん。フルネームだと、ラディアス・フォム・ガルディアス」

「これは、八百年前の姿なのですか?」

「うん。でも、あんまり変わってないと思うよ。彼って幼形成熟する神だから、これで十分大人なんだ」

見た目の年齢は、雫とドッコイドッコイって所か。
確かに可愛い男の子だ。
でも、この人……

「あの、この人……いや、神か……俺、昨日見ましたよ?」

「え!?」

「本当なのですか!?」

本人だという確証は無い。
たまたまよく似た人だったのかも知れない。
もしかしたら、俺の見間違いだった可能性もある。

でも……そこに映し出された姿は………
災魔との戦いの後、散命領域の中で俺と目が合った少年に、瓜二つだった。


8 :黒い翠鳥 :2010/03/31(水) 20:24:44 ID:WmknrAnAtD

番外編? 混血剣の名は……


―――side 竜樹―――

「………そう言えば……竜樹……纏衣武装の名前……決まった?」

訓練も終わって、焚火にあたりながら皆と雑談を交わしていた時、突然雫がそんな事を言い出した。

ちなみに、今ここに居るのは俺、雫、冬至、知広ちゃん、悠さん、天花さんの六人。
童森の破壊者&土地神様全員集合だ。

「いや、まだ決まってないな」

なかなかいい名前が思いつかなかったし。
正直、そのまんま『バスタードソード』でいいかな。などと考えていたりもする。

「………じゃ、じゃぁ……私……付けてもいい?」

「別にいいけど」

変な名前じゃなければ……
特にこだわりも無いし。

「………やった! ……だったら……竜樹の『竜』を『(旧字体)』に……『()』を『(女偏に臣の方のき)』にして……読みを変えて……(たつ)ひ「却下っ!!である!」……!? ……なんで!?」

否定したのは俺じゃない。
今の声は……冬至だ。
しかも大声で。

他のみんなも何事かとこっちを見ていた。

「なんで駄目なんだ? 結構いい名前だと思うんだけど」

何かルールとかあるのか?

「あ、いや、その……被ると言うか……今後に差し支えると言うか……えぇい! とにかく、それは駄目なのである!」

何か凄い剣幕だな……ちょっとびびった。

「じゃぁ、冬至。何かいい名前があるか?」

「そ、そうであるな……」

正直あんまり期待していない。
冬至に任せたら、どこかの特撮物から持って来そうな気がする。

「……『エクスカリバー』とかどうであるか?」

おや、何か冬至らしくない気が……
まぁ、それは置いておいて……エクスカリバー……アーサー王伝説に登場するやつか……かっこよくはあるんだが……

「名前負けしてるな……確実に」

ちなみに俺のバスタードソードは『鱗鎖』の術式破壊や『レインボー・ファントム』の光の操作といったような特殊能力は無い。
『風砕牙』は単にバスタードソードを媒介にした理想術ってだけだし。

特徴と言えばせいぜい他のより堅くて丈夫と言った程度だ。
……欲しかったなぁ……特殊能力……

「ふむ……では、『ヘラクレス……」

ギリシア神話に登場する英雄か。
やっぱ名前負けしそう……

「……オオカブト』とかどうであるか?」

「虫かよ!!」

ヘラクレスオオカブト……世界最大のカブトムシの名前である。

「それとも、『コーカサスオオカブト』の方が良かったであるか?」

「どっちも却下だ!」

剣に付けたい名前じゃないな。

「纏衣武装の名前ですか?」

興味を引いたのか、知広ちゃんが入って来た。
そうだ、知広ちゃんなら色々知っているし、いい名前を出してくれるかも。

「ああ。なかなか決まらなくて。何かいい名前を知らないか?」

「そうですね……」

知広ちゃんはしばし考えた後……

「『カーボナード』ではどうでしょうか」

「カーボナード?」

「『黒色ダイヤモンド』の事なのです。陰宮さんの纏衣武装も黒くて堅いですし、似合っていると思うのです」

流石知広ちゃん。
これにしようかな……

「黒いダイヤ。オオクワガタの事であるな」

「………マグロ……」

西洋松露(トリュフ)の事だね」

上から冬至、雫、天花さんだ。
……ごめん、知広ちゃん……何故か違うのにしたくなった……

「もしくは……『掃除機』なんてどうですか?」

「掃除機!?」

何故に!?

「お掃除の強い味方なのです。頼りになるという意味で。それに、某ゲームの最強武器なのです」

某ゲームって何だ!?

「竹箒の纏衣武装を使う破壊者の方もいると聞いていますし、悪くないと思うのです」

竹箒の纏衣武装って……俺だったら泣きたくなるな。

「はい! はい! ボクもいいかな?」

「天花さん?」

「これなら、竜樹クンも絶対気に入ると思うよ」

ずいぶんな自信だ。
天花さんのセンスは良く知らないけど、これは期待できるかもしれない。

「命名……『ラフレシア』「却下!」……えぇ〜? どうして?」

今回否定したのは俺だ。
だってなんか臭って来そうなんだもん。
腐臭を発する植物の名前を剣に冠したくは無いなぁ……

関係は無いが、俺は『ラフレシア』が寄生植物であるという事を最近知った。

「じゃぁ……『スマトラオオコンニャク』「却下ぁっ!!」……むぅ……我儘な……」

植物神だし、植物系の名前なのは分かるが、なんでわざわざ腐臭のする(くさい)植物を選ぶんだ?

それともあれか? 大きさで選んでるのか?
単体として最大の花と、最大の花序を持つ花。
ちなみに、世界記録に認定されているのは後者だそうだ。

「もうちょっと綺麗……と言うか普通の名前のは無いんですか?」

「普通じゃ面白くないでしょ?」

変な名前よりはよっぽどいいです……
これから命を預けていく武器なんだ。変な名前は付けたくない。

「ねぇ、悠。悠は何がいいと思う?」

「私ですか? そうですね……」

天花さんから話を振られた四市名さんが顎に手を当てる。
凛とした雰囲気的と相まって、考える姿も絵になるなぁ。
四市名さん、美人だし。

……あれ? 何か雫が睨んでない?
俺、何かした?

「気に入るかどうかは分かりませんが、『日の下開山(ひのしたかいざん)』などどうでしょう。意味は『天下無双』」

お、かっこいい。
相変わらず名前負けしている感は否めないが。

「つまり『横綱』の事です」

「……すみません、違うのにします」

ごめんなさい。イメージに合いませんでした。
決して横綱が悪いという訳では無いのですが……

「………竜樹……我儘……」

雫からの視線が痛い。

分かってるよ。分かってるけどね……
半分以上はまともじゃ無かったと思うのは気のせいですか?

「………そんな竜樹に……とっておきの名前……付けてあげる……」

「おっ、何だ?」

まともなので頼むよ……

「………『運命の赤い糸』……」

「え?」

えっと……何か違わなくないか? それ……
糸って、むしろ切られる側じゃ……
いや、運命の糸だから切れないのか?
それって(なまくら)っぽくないか?

って言うか、むしろ……

「恥ずかしいから止めとく……」

流石にそんな名前を剣に付けられない。
新しい理解者の人とかが来た時、どう説明するんだよ……

「じゃぁさ、『フェレスト・ドゥ・アーウル・リアナート』なんてどうかな?」

「フェ、フェレ……なんですか?」

突然天花さんが提案した名前を聞いて、俺は首をかしげる。
日本語じゃないのは分かり切っているが、英語ですか?
自慢じゃありませんが、俺の英語の成績はかなり下の方ですよ?

「『フェレスト・ドゥ・アーウル・リアナート』。長いなら普段は『フェレスト』って呼ぶといいよ。ドゥルクレア語……ボク達神族が使ってる言葉なんだけど、意味は『絆を守る剣』。『フェレスト』だけだと、『絆』だね」

神族の言葉って事は、異世界の言語ですか。
そりゃ、分かる訳がないや……

うん。なかなかいいんじゃないか?

「『フェレスト』……うん、いいですね。それにします」

「……竜樹(マイ・フレンド)。良いのであるか? その名前で」

冬至が神妙な顔をしてるんだが……

「何か不味いのか? もしかして、何か違う意味があるとか……」

天花さんを疑うつもりはないが、違う国の言葉で別の意味があるのかも知れない。
それがあんまり良くない言葉だったり……

「……いや、別にそう言う訳では無いのであるが……竜樹(マイ・フレンド)がそれで良いのであれば……うむ、『絆』と言う名の剣。実に良いではないか」

「ちょっと待て。その言い方、凄く気になるんだが」

「なに。吾輩の案が採用されなくてちょっと拗ねてみただけなのである。気にする程の事ではない」

「そうなのか?」

流石に『エクスカリバー』とか『ヘラクレスオオカブト』とか付けるのは躊躇(ためら)うんだが。
まぁ、問題が無いなら別にいいか。

「ふぅ……武装解放」

一息ついて、俺は自分の纏衣武装を構築する。
ずっしりとした重みが、俺の手に伝わる。

「『フェレスト』………………絆を守る剣か」

いい名前だ。
この剣を名前負けさせない為にも、俺ももっと強くならないとな。



……実はフルネームで言おうとして、覚えきれていなかったから言えなかったと言うのは秘密だ。
後で天花さんにもう一度聞いておこう……



         ◇            ◇            ◇            ◇



―――side 冬至―――

「『フェレスト』……うん、いいですね。それにします」

天花嬢の提案に満足そうに頷く竜樹(マイ・フレンド)

「……竜樹(マイ・フレンド)。良いのであるか? その名前で」

その本当の意味を分かっていないであろう竜樹(マイ・フレンド)に、思わず口を出してしまった。

「何か不味いのか? もしかして、何か違う意味があるとか……」

「……いや、別にそう言う訳では無いのであるが……竜樹(マイ・フレンド)がそれで良いのであれば……うむ、『絆』と言う名の剣。実に良いではないか」

『フェレスト・ドゥ・アーウル・リアナート』

絆を守る剣。
間違ってはいない。
間違ってはいないのであるが……

……わざわざ言うほどの事でも無いであるか?
まぁ、これはおそらく天花嬢の遊び心……もしくは雫嬢の後押しをしているつもりなのであろう。
天花嬢、その手の話は好きだった筈であるし。

自分の案を一蹴された事に対する、軽い意趣返しのつもりなのかも知れぬが。

「ちょっと待て。その言い方、凄く気になるんだが」

「なに。吾輩の案が採用されなくてちょっと拗ねてみただけなのである。気にする程の事ではない」

とりあえず竜樹(マイ・フレンド)が不審がっているので、問題無いと言っておくのである。
咄嗟に考えた理由故に少々説得力が無かったのであるが、納得してくれたようなので良しとする。

気に入ったのか、竜樹(マイ・フレンド)は纏衣武装を構築してその名を口にした。
途中の沈黙が思いのほか長かったのが気になったのであるが……
まぁ、おそらくフルネームで言おうとして、覚えきれていなかったので言えなかったと言ったところであろう。

『フェレスト・ドゥ・アーウル・リアナート』

最後のリアナートとは直訳すると『守護』の意味である。
ドゥルクレア語の文法上、これは名詞になるので『守護者』となり、剣の名前である故に『守る剣』となる。

ここまでは問題ない。
問題なのは『フェレスト』の方である。

直訳すると『絆』なのは間違っていない。
しかし、これは非常に強い絆、運命的な絆を意味する言葉なのである。
普通に絆と言う時には『ヴルスト』を使うのが一般的である。

その後の『ドゥ』は対象を指定する言葉であり、『アーウル』とは水の(したた)り──つまり『雫』の事であるな──を意味する。
『アーウル』と言う単語を雫嬢と言う意味で使っている訳であるな。

そして『フェレスト』を異性に対して使う場合、それは雫嬢の言った『運命の赤い糸』とほぼ同意義。
要するに『フェレスト・ドゥ・アーウル・リアナート』とは『竜樹(マイ・フレンド)と雫嬢を結ぶ赤い糸を守る為の剣』と言う意味なのである。

雫嬢が竜樹(マイ・フレンド)を好いているのは吾輩も知っている。
と言うか、ここにいる竜樹(マイ・フレンド)以外の四人には既に周知の事実である。

逆にあれだけ直接的にアピールされているのに、それに気付いていない竜樹(マイ・フレンド)の鈍さといったら……
いや……竜樹(マイ・フレンド)にとっては雫嬢は『幼馴染』と言う枠に納まってしまっている故に、そちらの方面に考えが行かないのかも知れないであるが……

まぁ、何にせよ天花嬢はそんな雫嬢を応援する為にこの名を言ったのであろうか。
竜樹(マイ・フレンド)の纏衣武装に赤い糸の名を付ける事で、言霊の力によって雫嬢との繋がりを強くし、振り向かせようとしているのかも知れぬ。
ただ、天花嬢の御利益に縁結びは無かった筈なので、効果のほどはあまり期待できないと思うのであるが……

まぁ、本人が気に入っているなら良いであるか。
わざわざ吾輩が口を出す事でもあるまい。

例え破壊者と言えど、普通はドゥルクレア語を耳にする事すら無いのである。
この場でドゥルクレア語を話せるのは天花嬢と吾輩くらいのものだ。
故に、竜樹(マイ・フレンド)がその意味に気づく事も無いであろうし。

気付いたら気付いたで、それまでに雫嬢とくっついれば問題無いのである。





雫嬢には後で意味を教えておくとしよう。
柄では無いが、吾輩も雫嬢を応援するのである。

それを少しでも楽しそうだと思ってしまうとは……吾輩も『マイ・プロフェッサ』に染められて来ているのであるかな。


9 :黒い翠鳥 :2010/04/30(金) 22:54:47 ID:WmknrAnAtD

お節介とお姉さん

―――side 雫―――

それは、竜樹の纏衣武装に名前を付けて数日後の金曜日。
HRを終えて部活へと向かおうとしていた時の話だ。

「よっ! 雫! ちょっといいか?」

咲人が声をかけてきた。 
何やら機嫌が良さそうなんだけど、何かあったのかな?

「………なに?」

「明日の秋祭りの事でちょっとな」

出てきたのは天乃花神社であるお祭りの話だった。

明日と明後日の二日間に行われるお祭りで、この辺じゃ結構有名なのだ。
普段はあまり人の訪れない天乃花神社も、この時ばかりは大勢の人で賑わう事になる。

そしてお祭り好きの竜樹が物凄く楽しみにしている行事だ。
咲人の機嫌のよさも、この辺りに原因があるのかも知れない。

「ぶっちゃけて聞くけど、明日は何か予定あるか?」

「………特に無い……」

本当は竜樹と二人でお祭りに行きたいと思ってたんだけど、恥ずかしくて未だ誘えていない。
だから今のところ予定は無い。

ちなみに、明後日は破壊者全員で行く事になっている。

「だったらさ、オレらと一緒に祭に行かないか?」

どうしようか……
出来れば竜樹と行きたいけど、断るのも悪い気がする。
折角(せっかく)の咲人からのお誘いだし。

………あれ? 咲人、今、オレ”ら”って言った?

「ちなみに、竜樹も来るぞ」

「…っ! 行く!」

即答していた。
流暢に話すのが苦手な私にしては早かった。

「オーケイ、雫も参加っと。あと、秋穂と夏芽とその友達が二、三人来る予定だ」

全員で八人前後。
結構大人数だけど、その中に”お祭りモード”の竜樹を入れて大丈夫かな?

この時の竜樹はかなりテンションが高い。
自重してくれればいいんだけど……
無理だよね……幼馴染の私が言うんだから間違いない。

「………分かった……集合場所……何処にする?」

「夕方五半時に大鳥居の前って事で頼むゼ」






夕方五時半、大鳥居の前……

咲人は確かにそう言った。






「なぁ、雫。集合時間、五時半だよな?」

「………その筈………」

「集合場所、大鳥居前だよな?」

「………私の記憶が……確かなら………」

「ここ、大鳥居前だよな?」

「………ここ以外の大鳥居……私は知らない………」

お祭り当日、私達は約束の内容を思い出しながら、お互いに確認を取り合った。

現在、午後五時四十五分。
約束の時間は十五分も前に過ぎている。

だけど、いまここに居るのは……

「………何で……竜樹だけ?」

「俺が聞きたいよ」

時間を過ぎても、咲人達が現れる気配は無い。
携帯電話に掛けてみても、圏外か電源が入っていないって言うメッセージが流れるだけだ。
充電するのを忘れていて、そのままになっているのかもしれない。
秋穂君や夏芽ちゃんの携帯番号は知らないし……

最悪、知広ちゃんに連絡を取ってもらおうかなんて考えていた時、竜樹の携帯の着信音が鳴り始めた。

「あ、咲人からだ」

電池が切れていた訳じゃ無かったんだ……
じゃぁ、何で繋がらなかったんだろう?

「おい、咲人! 今何処に居るんだよ! ……は? とっくに大鳥居前で待ってるっての! 何っ!? そう言う事はちゃんと伝えろよ!」

携帯の向こうの声が聞き取れないのでよく分からないが、竜樹の言葉から察すると咲人は何か重要な事を伝え損ねたみたい。
もしかして、集合場所が変わったとか?

「じゃ、今からそっちに……何? ……分かった、八時前に此処(ここ)だな……ああ、分かった」

会話がひと段落したらしく携帯を耳から話した竜樹は、それをそのまま私の方へ向けた。

「雫、咲人から話があるってさ」

携帯電話を受け取ると、繋がったままのそれを自分の耳に当てる。

「………咲人? ………代わったよ?」

「おう、雫か。スマンな。集合場所変わったの言い忘れてた」

……やっぱり。

「流石に弟妹の友達をこれ以上待たせるのは悪いから、別行動にしようゼ。その後の合流とか詳しい事は竜樹に聞いてくれ」

あんまり反省してなさそうな声にはちょっとだけ腹が立ったけど、竜樹と二人っきりと言うのは願ったり叶ったりだ。
それを考えると、待ちぼうけさせられた事は許してあげようかな。

そんな事を思ってた。咲人の次のセリフを聞くまでは。

「……悪いな。 お節介 (余計なお世話)焼かせてもらったゼ。竜樹と楽しんできなよっ!」

言い終わると、そのまま通話が切られた。

それで分かった……「伝え忘れた」なんてのは嘘だ。
最初からそうするつもりだったんだ。

咲人は私の気持ちを知っていて、時折こんな風に竜樹と二人っきりで遊ぶ機会を作ってくれる。
先の映画もそうだった。
 お節介 (余計なお世話)はオレの趣味だからな──なんて言いながら。
私が咲人を■■■時から……

また、借りが増えちゃったかな。

「………竜樹……集合はいつ?」

そう言いながら携帯電話を返す。

「八時前に此処にだってさ」

あと、二時間……
せっかく咲人が作ってくれた機会だ。無駄には出来ない。

「………じゃぁそれまで……私達だけで……目一杯……楽しもう………」

「……そうだな。折角の祭りだ。楽しまなくちゃ損だ」

ちょっとだけ不機嫌だった竜樹が笑顔になっていく。
多分、すぐに”お祭りモード”になるだろう。
やっぱりお祭りの時の竜樹はそうじゃないと。

「………最初は……何処にする?」

「そうだな、あそこにしようぜっ!」

こうして、私と竜樹の『祭』は始まった。









「うまいっ!! やっぱり祭りで食べる鯛焼きは格別だな!」

「………うん……おいしい………」

軽快な祭りばやしの中を竜樹と並んで歩く。
いつもと違う雰囲気のせいか、出店で食べる食べ物は一層美味しく感じられる。

隣を歩く竜樹は、さっきから妙にテンションが高い。
まぁ、竜樹の”お祭りモード”だ。
いつもの事だけにもう慣れた。

「さてっ! 次は金魚すくいでもするかな! それとも、りんご飴でも食うか?」

「………りんご飴………」

「うしっ! ちょっと待ってろよ!」

そう言うと竜樹は、人混みの中を器用に避けならが走って行く。
遠くにりんご飴と書かれた暖簾(のれん)が見えるから、あそこまで行ってくるつもりなんだろう。

体育の授業じゃ、すぐにへばるのに……
まったく、祭りの時だけは別人だ。

竜樹の消えて行った方を見ていると、人混みの中に混じるカップルの姿が目に付いた。
まさか二人っきりになれるとは思ってなかったから普段着で来ちゃったよ……
そうと分かってたらもっとお洒落して来たのに!
たとえば浴衣とか……は寒いよね、流石に。

それはともかく、『お祭り』と言うフィールド補正がかかっている今なら、魅力ど〜んとアップだった筈なのだ。

「………咲人……もうちょっと早く……言ってくれれば……良かったのに………」

いや、とんだ言いがかりなのは分かってるけど。

「ん? 誰が何を言うって?」

「…!?」

ふとその声で我に返ると、目の前にりんご飴を二つ持った竜樹がいた。
早っ!! もう帰って来たの!?

「ほい、りんご飴!」

「………ありがと………」

お礼を言ってりんご飴を受け取る。
うーん……今の私、全然お姉さんっぽく無い。
よし、ここは一つお姉さんっぽい所を見せちゃおう。

「………ねぇ……竜樹……あれやろう………」

私が指さしたのは一軒の射的屋。
頼りになるお姉さんをアピールする為には、こんなゲーム性の高い出店がいいよね。

「………一回……やります………」

お金を払って弾を受け取る。
弾は五発。

「………竜樹……何か欲しいもの……ある?」

「欲しい物か?」

「………うん……お姉さんに……お・ま・か・せ……だよ………」

竜樹は並べられている的を一通り見ると───

「う〜ん……別に無いな」

無いの!?
ここは竜樹が欲しがっているものを、お姉さんが格好良く取ってあげるところでしょ!?
これじゃ、頼りになるところをアピールして好感度アップっていう計画が………

ならせめて、格好良いところだけでも!

狙うは真中にある40cmくらいの丸っこい鯨の縫いぐるみ。
ちょっと落ちにくそうだけど、あれだけ大きければ当たり易いよね。

弾をセットして縫いぐるみに狙いをつけ、引き金を引く。

ポンッ! ──という音と共に飛び出した弾は、縫いぐるみの中央に命中した。

縫いぐるみが、反動で少し後ろに下がる。
それ位じゃ落ちはしなかったけど、もう何発か当てれば落ちそうな気がする。

「………よーし………」

狙いをつけて、残り四発を順に発射していく。
結果───まともに当たったのは最初の一発だけだった。
残りは外れるか端の方に当たって、縫いぐるみの丸みに弾道を逸らされた。

最初のは単にまぐれだっただけかぁ……
せっかく竜樹がいるのに、こんないいとこ無しじゃ終われない!
もう一回やればきっと……

「おっちゃん! 俺も一回ね!」

「あいよっ!」

その前に、竜樹が嬉々として弾を受け取っていた。
すぐさま弾をセットして狙いを定める。

「弾道修正上下4、左右-6……いや、-5か?」

何やら良く分からない事を呟いて、引き金を引いた。

ポンッ!

「………あ……」

だけど弾は的に当たる事無く、小さなキャラメルの箱の(わず)かに右を通り過ぎて行った。

「………惜しい………」

「あちゃぁ! 読み違えた! 左右-6で良かったのかよ! これ位出来なきゃ『光祭陸離(こうさいりくり)』の奴には勝てないってのにっ!」

………? 光彩陸離?
いや、微妙にイントネーションが違った気がする。

「ま、仕方ないか。弾道は修正した! 次は外さない!」

そう言って再び弾を込めると、今度は狙いをつける素振りすら見せずに引き金を引く。

ポンッ! ──ポンッ! ──ポンッ!

連続して響く発砲音。
的の方を見てたから良く分からなかったんだけど、何でそんなに早く撃てるの?
単発式だよね、これ……

しかも狙いは正確みたいで、さっきのキャラメルを含めた三つの的が次々に倒れる。

────そうだった、竜樹は『祭』と名の付く物(体育祭は除く)に関しては物凄い能力補正がかかるんだった。
射的みたいなゲーム性の高い屋台はもちろん、くじ引きでも千円あれば必ず上位の景品を取ってくる程に。

しまった。これじゃ頼りになるお姉さんをアピールなんて無理じゃん!

「ラストォッ!!」

今度は、奇妙な構えを取る。
銃を持った右手をまるで弓を構えるように引き、対照的に左手は前へと突き出している。

「………竜樹……何を………」

言い掛けた瞬間、竜樹が動いた。
引いていた右手が突き出される。

それと同時に聞こえた発砲音。
放たれた弾は、寸分の狂いもなく私が狙っていた鯨の縫いぐるみに命中した。
縫いぐるみはそのまま一気に後ろへと弾かれて落下する。

「………す……凄い………」

もう何発か当てないと落ちないと思っていたのに、たったの一発で落としちゃった。

「見たか! 突きのインパクトの瞬間に弾を放つ事で更なる加速を与え、従来以上の威力を得る! これが『光祭陸離』──荻原(おぎわら) 彩歌(さいか)に勝つ為に編み出した新技、『加速射撃(アクセラレーション)』!」

………荻原 彩歌って誰?

「凄いな、ボウズ。まさかこれが落とされるとは思ってなかったぞ」

「いや、俺なんてまだまだですよ」

竜樹は店主のおじさんから景品を受け取ると───

「ほい、これはやるよ!」

鯨の縫いぐるみを、私の前に差し出してきた。

「………え?」

「さっき狙ってたみたいだから、欲しいのかと思ったんだが……いらなかったか?」

言えない……見栄(みえ)を張ってただけだなんて……

「ま、せっかく雫の為に取ったんだからさ、受け取ってくれよな!」

「………う……うん……ありがと……お姉さん……嬉しいよ………」

そう言って縫いぐるみを受け取る。
はぁ……本当なら私がここでプレゼントする筈だったのに。

「ここの祭りは俺の庭みたいなもんだからな! 他に欲しいのがあったら言えよ! ばっちり取ってやるからな!」

………ま、いっか。

今日の竜樹は凄く頼もしく見える。
本当に、祭りの時だけは別人なんだから。

竜樹がどんなつもりでこの縫いぐるみをくれたのかは分からない。
単に欲しがってるみたいだから片手間で取ってあげようくらいの感覚だったのかも知れない。

でも……こんなプレゼントをくれるって事は、私にも少しは脈があるって思ってもいいよね……竜樹!


10 :黒い翠鳥 :2010/05/30(日) 22:51:56 ID:WmknrAnAtD

天花とラディアス


―――side 竜樹―――

「────九十七────九十八────九十九────百!」

声に合わせて、百匹目の金魚が水を張った受け皿の中に落ちる。
そう、今俺は金魚すくいの真っ最中なのだ。

「で、時間は……思ったよりかかったな」

ただ(すく)うのも何なので、百匹掬うまでのタイムを測定していたりする。
ちなみに結果は(かんば)しく無かった。
『光祭陸離』ならこの二割減のタイムを叩き出すだろうし。

さて、網はまだ破れて無いからまだまだいけるんだが────どうせ持って帰れないし、ここらで止めとくか。
実は親に金魚を持って帰るのを禁止されているのだ。

まぁ、原因は一昨年の夏祭りで大量の金魚を持ち帰ったからなんだが。
正確には覚えていないけど、確か二百匹弱位だったか。

流石にそんな数の金魚を入れられる水槽は無かったので、庭に池を掘ったのはいい思い出だ。
ちゃんと俺が世話をしてるんだから、もう少し増やしたっていいじゃないか。
なんて愚痴っても仕方ないか。

「雫、この金魚持って帰るか?」

一応聞いてみる。
鯨の縫いぐるみを抱えた雫は、フルフルと首を横に振った。
要らないようなので、受け皿の中で泳ぐ金魚達を水槽に戻してやる。

「んじゃ、次は何処にすっかな!」

綿飴でも食べるか?

「………えっと……じゃぁ………」

雫がそう言いかけた時だった。
不意に、誰かに見られているような気がした。

俺は破壊者になってまだ日が浅いから断言できるほど気配に詳しい訳じゃない。
それでも、以前に比べて格段に気配に鋭くなっている…………気がする。

これは────敵意は無いな。
どちらかと言うと、観察するような視線?
少なくとも災魔では無い。

「あっちか────っ!!」

落ち着いて気配を感じ取り、そちらに視線を向ける。
そこに居たのは、一人の少年だった。

目が合うと、少年はにこりと笑う。
俺は……この少年を知っている。

最初にこの子を見たのは、雫と映画を見に行った日。
公園で災魔を倒した後に少しだけ。
二度目は天花さんが理操術の映像の中。

その時、彼の素情を知った。
それは、天花さんが思いを寄せる(ヒト)

「雫っ! ちょっとそこで待ってろ!」

理由も告げずに走る。

せっかく見つけたのだ。
天花さんとの約束もある。
せめて本人かどうかの確認だけでも……

「ちょっとそこの方! ラディアスさん!」

天花さんから教えてもらった名前を叫ぶ。

だけど、声が届かなかったのか無視されたのか人違いなのか───
彼はくるりと向きを変え、あっと言う間に人混みに紛れてしまった。
駄目だ、あっという間に見失った。

「………竜樹! ………どうしたの!?」

後ろの方で雫が呼ぶ声が聞こえる。

仕方ない。
とりあえず、知広ちゃんに連絡しておこう。
雫にも話しておいた方がいいよな。

そう考えながら、俺は雫のもとへ戻って行った。



         ◇            ◇            ◇            ◇



その少しだけ前───



―――side 冬至―――

「えっと、『末吉』です。残念なのです」

「吾輩は……ふむ、『凶』であるか。しかし、待ち人来ると……」

祭囃子(まつりばやし)の響く天乃花神社で、吾輩と知広は御神籤(おみくじ)を広げた。

両方とも、あまり良くない結果である。
ここは四市名嬢にお(はら)いをしてもらうべきであろうか。

「ま、あんまり気にする事ないと思うよ。それより、一緒に屋台で食べ歩きしない? さっき美味しそうな鶏卵焼きのお店見つけたんだ」

暇なのであろうか、祭壇の端に座った天花嬢が、足をぶらつかせながら話しかけて来る。

そう言えば、確か御神籤とは神託を簡略化させた物であったはず。
ならば、御神籤よりも本人の言葉の方が優先されてしかるべきではないか。
故に、やはり気にしない事にした方が良いであろう。

「はい、みんなで行くのです。四市名さんもどうですか?」

「すみませんが、私は神楽の準備があるので」

そう言えば前回から四市名嬢が舞っているのであったな。

「じゃ、お土産買ってくるよ!」

そう言って祭壇から飛び降りた天花嬢と共に、三人で屋台の並ぶ山道の方へ向う。
出来れば知広と二人っきりが良かったのであるが、知広が同意してしまっては吾輩も強くは言えぬ。

「知広ちゃん、せっかくのデートなのに邪魔しちゃってごめんね」

分かっていたのであれば、遠慮して頂きたいのである。

「構わないのです。冬至さんとは、また今度デートする約束をしているので」

「あ、この間言ってたやつだね」

「はい、楽しみなのです」

そう言ってもらえると吾輩もうれしいのである。

「そう言えば、暫く『エンブルグ』にも行ってなかったであるな。そろそろ久神機関の方にも顔を出しておいた方が良さそうであるし、その時に一緒に行くであるか?」

「はい! 久しぶりなので、楽しみなのです」

「? 知広ちゃん、『エンブルグ』って?」

あ、天花嬢は知らなかったであるな。

「私と冬至さんの馴れ初めの場所なのです」

あの時はマイ・プロフェッサーの陰謀で色々あって大変だったのである……
まぁ、知広と出会えた事には感謝しているのであるが。

そんな事を考えていた時であった。

「あ、着信なのです」

知広がポケットから携帯電話を取り出す。
マナーモードにしているようで、着信音は鳴っていないのである。

「陰宮さんからなのです」

マイ・フレンドからであるか。
一体何の用であろうか。

「……もしもし……はい……はい……え!?」

話していた知広の表情が驚きに変わった。

「天花さん!」

「どうしたの?」

「陰宮さんが、祭りの中でラディアスさんらしき方を発見したそうです。見失ったみたいですが」

「!? 本当!?」

ラディアス・フォム・ガルディアス。

吾輩は直接会ったことはないが、マイ・プロフェッサーから話だけは聞いている。
『黒き滅びの一族』の中でも上位クラスの力の持ち主であり、マイ・プロフェッサーの親友の一人である。
そして、天花嬢の思い(ビト)

「私の『植物探索網(プラント・ネットワーク)』で探してみるよ!」

だが、おそらくは他人の空似……人違いであろう。
何故ならラディアス殿は今───

「見つけた!! この気配、間違い無い! ラディアスさんだよ!」

「陰宮さん、お手柄です!」

「!?」

そんな馬鹿な!?

「陰宮さん! ラディアスさんの居場所を伝えます。そのまま追ってください! 私達もすぐに行くのです!」

「今、竜樹君達の場所から北北西に130メートルの所!」

マイ・プロフェッサーの話では、ラディアス殿は今『世界の牢獄』の中に居る筈。
そこから自力で出る事は理論上不可能だ。
例え、マイ・プロフェッサーのように『異世界に移動できる力』を持っていたとしても。
何故ならあの中には『時間』が存在しないのだから。

故にラディアス殿がここに居るなら、誰かが連れ出した事になる。
だが、そんな真似が出来るのは吾輩の知る限りマイ・プロフェッサーくらいなものだ。

マイ・プロフェッサーにしても、そんな事はしないだろう。
親友を連れ戻したいのは山々であろうが、それが出来ない理由がある。

いや、今重要なのはどうやって『世界の牢獄』から出たかではなく、そのラディアス殿が本物であるか否かだ!

天花嬢は『植物探索網(プラント・ネットワーク)』で本物と判断したようだが、それを誤魔化す方法が無い訳ではない。
いや、誤魔化す必要すら無いかもしれない。

吾輩の思いつく限りの最悪────その一歩手前まで含めれば────その可能性は、実は低く無い。
事は最悪を想定して動くべきだ。

「待て、天花! そいつは────っ!」

叫ぶ!
だが、もう遅かった。

既に天花の姿も、知広の姿も無い。

「なっ!? どっちへ行った!?」

考えている間に、ラディアスを追って行ったのか。

不覚っ!
思考にのめり込んで、周りが見えなくなっていたとは!!

携帯で連絡を……
駄目だ、知広は竜樹と通話中のはず。

このまま二人がラデアィスと出会ったら取り返しのつかない事になる!
焦りが、冷静な思考を奪っていた。


それは───『吾輩と言うキャラクター』を忘れるほどに───


「クソッ!! ()の杞憂であってくれ!!」

今はただ、それだけを願って走るのみ───



         ◇            ◇            ◇            ◇



―――side 竜樹―――

『陰宮さん、そのまま直進してください』

「了解。雫、このまままっすぐだってよ!」

「………ん……わかった……」

知広ちゃんからの指示を雫に伝えながら、刻流山を駆け抜ける。

既に本道からは外れ、道無き道を強引に突っ切っていた。
結構な距離を走ったが、いまだにラディアスさんの姿は見えない。
纏衣を着ていなければ、とっくにバテている。

「雫、大丈夫か!?」

「………ん……平気………」

俺は汗だくなんだが、雫は涼しい顔ですぐ後ろを付いて来ていた。
流石に縫いぐるみは置いて来たようだが。

そう言えば、俺より体力あるんだよなぁ。
こんなに小さいのに。

「でも、ラディアスさん、何処へ行く気なんだろ……」

祭りに来たわけじゃ無いだろう。
天花さんに会いに来た───にしては神社と違う方へ向ってるし。
単なる散歩───って、俺たちが全力で追いかけても追いつけない速度なのにか?

う〜ん……分からない。
ま、追いついて聞けば分かるだろう。

『ラディアスさんの動きが止まりました。80メートル前方───』

「わかった。いくぞ、雫!」

「………ん………」

立ち並ぶ木々を縫って走ると、数秒も行かないうちに急に視界が開けた。
目の前には直径百数十メートルほどの平野が広がっている。


そこに───彼は居た。


「こんにちは、また会ったね」

振り返りながら、彼は俺たちにそう言った。
俺たちが追って来ていた事は気付いていたようだ。
あどけない表情でニコリと笑ってみせる。

「君たち、天花の守護者(ガーディアン)でしょ。前に災魔と戦う所を見せてもらったよ」

天花さんを知っている……
やっぱり、人違いじゃないみたいだ。

「守護者ってのは良く分かりませんが……俺達は破壊者ですから」

「あ、そっか。今はそう言うんだね」

そう言って頭をかくラディアスさん。

「ラディアスさん……ですよね。天花さんが会いたがっているんです。よかったら、会ってあげてくれませんか?」

彼が天花さんの前から姿をくらました理由。
俺はそれを知らない。
でも、出来る事なら会ってあげて欲しい。

「そうだね……思ったより早く帰って来れたし。本当はもう少し復調してからと思ったんだけど、これだけ回復すれば十分かな」

「回復って……怪我か何かしていたんですか!?」

「前に大きな戦いがあってね。その時に。でも、もう大丈夫だよ。十分回復したからね」

もう一度、笑顔を見せるラディアスさん。
もしかしたら、天花さんと会えなくなったのはそれが原因なのかもしれない。

「じゃぁ、会いに行きましょうよ。天花さんも、きっと待ってますから」

「そうするよ。でも、”行く”必要は無いかな?」

「はい?」

「………竜樹………あれ………」

雫が指さした方向。
そこに居たのはこちらを見て立ち尽くしている天花さんと、携帯を手にした知広ちゃん。
どうやら俺達より少し遅れて追い付いたようだ。

「……ラディアスさん……」

「久しぶりだね。天花」

天花さんが、一歩一歩ラディアスさんに近づいて行く。
八百年分の思いを込めて……


その足が……途中で止まる。


「どうしたんだい?」

「本当に……ラディアスさんなんだよね」

「そうだよ。八百年も会いに来なかったから、僕の事なんて忘れちゃったかな」

「…………そんな事ないよ……でも……なんか…………」

何故か、天花さんが戸惑っている。

「あれから色々あったしね。雰囲気も変わっちゃったかも」

そんな天花さんを見て、クスリと笑うラディアスさん。

「でも、ちゃんと僕は帰ってきたよ。言ったよね。『寂しいかも知れないけど、必ず帰って来るからね』って」

「!! ……ラディアスさん……」

『必ず帰って来るからね』

それを聞いた天花さんは一気に駆け出し、ラディアスさんに飛びついた。
それは、天花さんをずっと繋ぎ止めていた言葉だったのかもしれない。

「ずっと……ずっと心配してたんですよ! どうして急に居なく無くなっちゃったんですか!?」

「ごめんね。絶対にやっておかないといけない事があったから」

眼尻に涙を浮かべている天花さんと、ほほ笑んだままのラディアスさん。

やがて、天花さんは抱きしめていた両腕を放し、立ち上がった。
片手で、自身の涙を拭い去る。

「そうだ。天花に会ったら言おうと思ってたことがあるんだ」

「えっ……何?」

「それはね──────」

その瞬間、ゾクリとした感覚が、全身を駆け巡った。
俺の第六感が、ヤバイと告げる。

だけど、何も出来なかった。
俺がそれを理解した時、それは既に終わっていたのだから。

「───死んで───」

「え?」

その答えを聞いたとき、俺が見たのは───

驚愕で固まった知広ちゃんの表情と───

鉤爪と黒い鱗を備えた姿へと変化したラディアスさんの右腕。

そして───肩から脇腹まで引き裂かれ、鮮血で染まった───天花さんの姿だった。





それを見て、ラディアスさんは───ただ、笑っていた。


11 :黒い翠鳥 :2010/08/07(土) 23:31:46 ID:WmknrAnAtD

知広の力と守りの戦い


―――side 知広―――

「うぅっ……」

「天花さん!!」

驚愕は一瞬。
苦痛に漏れる天花さんの声を聞いて、私はすぐに飛び出しました。

既に纏衣はしているのです。
あと、必要なのは間に割り込む為の力。

袖口の中に仕込んである冬至さん謹製のホルダーから握り(グリップ)を両方の手の中に滑り込ませます。
握り(グリップ)だけのそれに命の炎を込めると、仮初めの存在が刃を形成してナイフになるのです。

もちろんただのナイフではありません。
冬至さんが何年も前から様々な概念を込め続けている護身用ナイフの複製品。
鋼鉄さえも簡単に切り裂くこのナイフの名前は、『坑魔兵装・双闘の牙(デュアル・ファング)』。

「はあぁっ!!」

走る勢いを殺さず、そのままラディアスさんに斬りかかります。

「お、おっと」

それは”ひょいっ”と言う擬音が聞こえてきそうなくらいあっさり避けられてしまいました。

でも、これでいいのです。
これで天花さんとラディアスさんの間に割り込めました。
これ以上、天花さんを傷付けさせないのです!

「いきなり斬りかかって来るなんて、怖いなぁ」

「貴方に言われたくはありません」

あくまで穏やかに行ってくるラディアスさん。
一応警戒してか、少し距離を取っています。

天花さんは────大丈夫とは言えませんが、息はあります。
すぐさま回復の理操術を展開しますが、ラディアスさんから目を離す訳にも行かないので、必然的に選択できる理操術は限られてきます。
どうにかして回復に集中できる状況を作らないといけません。

「ラディアスさん……どう言うつもりですか?」

あれは本気でした。
全力という意味では無く、本当に殺すつもりだったという意味で。
これでも私は『久神の使徒』ですし、その位の事は分かるのです。

「どう言うつもりって……言葉通りだよ。僕は天花に死んで欲しかったんだよ」

──死んで──

その言葉通り、ラディアスさんは天花さんを殺そうとしました。

「何故? どうしてそんな事を──」

「何故って……そりゃぁ、それが僕の存在意義だからに決まってるよ」

その言葉には、一片の迷いもありませんでした。
まるで、何を当り前な事をと言わんばかりに。

…………大体予想が付いたのです。
ラディアスさんの──いえ、コイツの正体!

ようやく状況に理解が追いついたのでしょう。
陰宮さんと海月さんがそれぞれの武器を構えます。

遅いとは言わないのです。
私ですら一瞬思考が止まったのですから。
もっとも、戦場においては十分致命的ですが。

「その”存在意義”を持つ相手には心当たりがあるのです」

それは天花さん限定ではなく、神族全員が対象なのですが、この場合は些細な問題です。
そして、相手がラディアスさんの姿をしている。
これでかなり正体を絞り込む事が出来ます。

もっとも、この相手が本当にラディアスさんではないと言う証拠は無いのですが────

「貴方、ラディアスさんではありませんね」

ですので、ちょっとカマをかけてみるのです。

「僕がラディアスで無いとすれば、僕は一体誰なんだい? 他人の空似? 双子の兄弟? それとも変幻自在の変装名人?」

「もう、正体は割れているのですよ。 五番目の始祖の災魔。『裏切りの悪夢』 レビアラード!」

その言葉に、相手がピクリと反応しました。

神族を滅ぼす事を”存在意義”とする存在。
その名は────災魔。

そして、その全ての災魔の元になった三十一体の原初の災魔────それを始祖の災魔と呼びます。
圧倒的な命の炎と高い知性を備え、ひとたび力を振るえば、『天災』級の災いを引き起こす。
二千年以上にも及ぶ破壊者との長い戦いの歴史の中でも討伐が確認されたのが僅か五体と言う超大物なのです。

「レビアラードはその姿を自由に変える事の出来る災魔です。そして、その戦法は相手の親しい方に化けて油断を誘い、接近したところで殺害すると言うもの……まさに現状そのものです」

過去に見た資料からレビアラードの情報を読み上げていきます。
このやり取りは、言ってしまえばただの時間稼ぎです。

始祖の災魔の戦闘能力は通常の災魔の遥か上を行きます。
海月さんや陰宮さんには失礼ですが、この三人で始祖の災魔を倒せるとは思っていません。
倒せるのはヒーローでは無い(・・・・・・・・)冬至さんだけでしょう。

私たちでは倒せない理由は三つ。
一つ目は単純に戦闘能力の差。

天花さんへの攻撃と、私からの攻撃の回避。
その二つから判断出来る技量、攻撃力、反応速度、機動力、その最低ラインでさえ私達を上回っています。
もちろん、これが全力と言う事は絶対に無いでしょう。

二つ目は天花さんの存在です。

普通の状態なら足手纏いになる事はありません。
『神無の世界』があるとは言え、その範囲から出てさえしまえば理操術は使い放題なのです。
攻撃は『神無の世界』によって無力化されますが、回復やサポートは私達より遥かに強力なのですから。

しかし、今は致命傷に近い傷を負い、意識も朦朧としている状態。
おまけに何故か理操術がまともに効いてくれません。
回復は進まず、現状維持が精一杯なのです。

かと言って回復を止める訳にはいきませんから、必ずこちらへ一人取られる事になります。
少ない戦力が更に減ってしまうのです。

そして三つ目。

海月さんと陰宮さんが人を相手に武器を振るった事が無いと言う事です。
もちろん、模擬戦くらいは何度も行っていますが、人間相手に命がけの戦闘などありませんでした。

当然です。
世界的にみれば驚くほど平和なこの日本で育った普通の高校生が、そんな経験などあるはずが無いのです。

あ、私や冬至さんは別ですよ。
『久神の使徒』は普通では無いのです。

相手が正確には人で無いとは言え、容姿は人間の少年そのもの。
現在は右腕が変化していますが、その程度です。

おまけに相手は意思があるところをはっきりと見せています。
獣のような災魔ならともかく、この相手を傷つけるのは躊躇するでしょう。
例え頭では敵と分かっていても、人の姿が感情を納得させないでしょうから。

ですから、布陣は海月さんが天花さんの治療。
私が前衛で戦いつつ、陰宮さんが援護といったところでしょうか。
援護なら海月さんの方が優れているのですが、陰宮さんの治療能力にはいささか不安が残るので……

もういっその事、陰宮さんには天花さんの護衛に付いてもらった方が良いかもしれません。
後ろを気にせずに戦えますし。

そして冬至さんが来るまで時間を稼ぐしか無さそうですね。
四市名さんもいる筈ですが、飛行能力付きの抗魔装甲を纏う冬至さんの方が早いでしょう。

「海月さん、陰宮さん。こちらへ来てください!」

ラディアスさん……いえ、もうレビアラードでいいでしょう。
レビアラードを挟んで反対側にいたお二人が、天花さんの傍へ合流します。

その際にレビアラードが何か仕掛けて来るかと思いましたが、特に何もありませんでした。
一応、牽制はしていましたが、それが功を奏した訳では無さそうです。
簡単に言えば……舐められてますね、私達。

とりあえず一旦集まれたので思考共有を使って作戦を伝えます。

「ちょ、ちょっと待てよ! 知広ちゃんが前衛って……」

伝えた瞬間に陰宮さんが声を上げました。
多分、以前戦闘が得意ではないと言った私が前に出る事を心配してくれているのでしょう。

ですが……そう言う事は思考共有で言ってください。
何のために思考共有(相手に知られない方法)で伝えたのか分からなくなります。

それに、確かに私は戦闘が得意ではありませんし、主にサポート担当なのですが……それは『久神の使徒』としての話なのです。
これでも、陰宮さんよりは強いんですよ?

海月さんは納得してくれたようで、小さく頷いてすぐに天花さんの治癒を始めました。

「君が僕の相手をしてくれるの? 残念だけど、前に見せてもらった君の実力じゃ、僕の相手にはならないと思うけど?」

『前に見せてもらった』と言うのは、多分鵺の姿の災魔を倒した時の事でしょう。
冬至さんが「監視をしていた相手がいる」と言っていましたし。

まぁ、確かに始祖の災魔が相手では私も陰宮さんも五十歩百歩────取るに足らない相手かも知れません。
でも、それが命取りですよ!

「じゃ、ちょっとだけ僕と───遊んでよ!」

そう言うと同時に、レビアラードが駈け出しました。
元々大した距離は開いていなかったので、一瞬で間合いを詰められます。

そのまま勢いに載せて振るわれた右腕の鉤爪。
双闘の牙(デュアル・ファング)で受け止めるのは却下。
確実に力負けします。

なら……”受け流す”までです!

迫りくる鉤爪に添えるように左手の双闘の牙の刃を走らせ、その軌道を逸らします。
そのまま右手の双闘の牙をカウンターでレビアラードの腹部に────

「──クッ!!」

惜しいです。
カウンターを仕掛けた瞬間、レビアラードは地面を蹴り、私の頭上を飛び越える事で攻撃をかわしてのけました。

跳躍の軌道は振り返った私から見て、斜め左の方向。
正面へ飛ばなかったのは天花さんを守る陰宮さんが居るからでしょう。

好都合です。
私の追撃はまだ終わっていません。
振り返った時には既に準備は完了しているのです。

結晶弾(クリスタル・ブリッツ)──発射(ファイア)!!」

「なぁっ!?」

着地しようとした瞬間に合わせて、私は攻撃を放ちます。
狙いは着地した足元。
まずは機動力を奪うのです!

「くっ、これは!」

空中で回避姿勢を取れなかったレビアラードに、私の攻撃が”着弾”しました。
その瞬間、相手の足元が結晶化し、地面に縫い付けます。

「……初めてみる武装だね……纏衣武装をいくつも持っているなんて、中々面白いヒトだ」

「それはどうも……」

そう言って私は両手に持った”二丁拳銃”を構えます。

自動拳銃(マシンピストル)の坑魔兵装────『双極の咆哮(ツヴァイ・オブ・ハウンド)
双闘の牙(デュアル・ファング)』と握り(グリップ)を共有する遠距離用の武装。
内蔵の術式によって瞬時に砲身と刀身を変更可能で、様々な種類の弾丸を放つ事が出来ます。

鵺のような災魔の時は改造中で使用できず苦戦してしまいましたが、おかげでレビアラードに知られていなかったのは幸運でした。
知っていたなら無暗に跳んだりしなかったでしょうから。

今回使ったのは結晶弾(クリスタル・ブリッツ)
着弾と同時に発動する術式が、相手を包み込むように結晶体を作り出し、閉じ込めてしまいます。

結晶化範囲は一発に付き直径50センチ程度。
この結晶は術式の展開を妨げる機能があり、それ自体の強度と相まって中から破壊する事は簡単には出来ません。
主に足止め・捕獲用に使う弾丸です。

「動きを封じるのは良い策だけど、この程度、僕が壊せないとでも思ったかい?」

レビアラードが右腕を振り上げます。
確かにこの結晶体を中から壊すのは難しいですが、外からなら理操術が使える分、比較的壊しやすいのです。

でも、そんな暇はありませんよ?

結晶弾(クリスタル・ブリッツ)──全自動連射(フル・オート・ファイア)!!」

「ちぃっ!」

結晶弾(クリスタル・ブリッツ)の最大装弾数は一丁につき30発。
それを毎秒五発の速度で連射します。

「舐めるなっ!!」

流石にレビアラードもこれを無視出来ないようで、こちらを追撃してきました。
振るわれた爪は衝撃波を生み出し、それが弾丸を誘爆させていきます。

当然、小さな弾丸では衝撃波を止める事が出来ず、私も横に飛んで衝撃波を回避しまた。
すぐに銃口をレビアラードに向け攻撃を再開したのですが、少々遅かったようです。
回避の為に連射を途切れさせた僅かな時間で構築したのか、レビアラードが展開した盾のような障壁に結晶弾(クリスタル・ブリッツ)が阻まれました。

これでは障壁の表面を結晶化させるだけで意味がありません。
むしろ障壁が堅くなってしまいます。

なら────

「レインボー・ファントム──暗幕(ブラック・カーテン)

レインボー・ファントムが光を操作し、レビアラードの周囲に暗闇のカーテンを作り出します。
これでとりあえず、視覚を制限できた筈です。
こちらからも相手が見えないのが難点ですが、相手の位置は分かっていますから問題ありません。

私は『双極の咆哮(ツヴァイ・オブ・ハウンド)』を『双闘の牙(デュアル・ファング)』に変更。
レビアラードには私の位置が見えていない筈ですので、背後から奇襲をかける事にします。

後ろに回り込み、暗幕(ブラック・カーテン)を抜けて私が見たのは無防備なレビアラードの背中──

「視覚を奪った位で、姿を隠したつもりでいたのかい?」

──ではなく、私を待ち受けていたレビアラードの爪でした。

これは、かわせません。
私の行動を気配で読み取っていたのでしょう。
その爪の軌跡は私が『双闘の牙(デュアル・ファング)』を突き立てるよりも早く────



────私の幻影を切り裂きました。



「なにっ!?」

「掛かりましたね。結晶弾(クリスタル・ブリッツ)──全自動連射(フル・オート・ファイア)!!」

攻撃の直後に出来る一瞬の隙。
その瞬間に殺到する結晶弾(クリスタル・ブリッツ)

「くぁっっ!!」

一発でも当たればそれで終わりです。
次々と命中する結晶弾(クリスタル・ブリッツ)によって、レビアラードの身体はあっと言う間に結晶体の中に閉じ込められていきます。

レビアラードの視界を絶ったところで、気配でこちらを見つける事は予測済みでした。
なのでそれを利用して、”私の気配を持った幻影”を使ったのです。

とは言え、そんな物をそう簡単に作る事は出来ません。
冬至さん謹製の抗魔装甲──身代わり人形(スケープ・ドール)

試作品らしいですが、冬至さんの持たせてくれたこのアイテムのおかげで何とか作る事ができました。
これ、結構使い道がありそうなのです。

さて、この話はこれ位にして────

「捕獲、完了なのです」

暗幕(ブラック・カーテン)が消え去り、結晶弾(クリスタル・ブリッツ)が弾切れになるころ、レビアラードは完全に取り込まれました。
こうなると、そう簡単には抜けだせません。
相手を完全に取り込んだ場合、結晶体は内部の状態を完全に固定するように働くからです。

これは取り込んだ相手の生命維持の役割もしています。
……一応、捕獲用ですからね。

ですが、問題はこの後です。
倒そうと思えばこのまま倒す事も不可能ではありません。
相手が始祖の災魔なら、迷わずそうするべきでしょう。

ただ、一つ問題があるのです。
先ほどからほぼレビアラードと断定していますが、この相手が本物のラディアスさんである可能性も(ゼロ)では無いのです。
あれが本心ならまだしも、なんらかの精神操作などを受けたせいだったりしたら……

殺らなければ殺られる状態ならそんな事考えていられませんが、こうして完全に捕獲に成功してしまえば、そんな余裕もでてくるのです。

「とりあえず、久神機関の施設で解析してからにしましょうか」

それよりもまず、天花さんの治療が先なのです。
そう考えて天花さんの所へ向かおうと背を向けた時────

「知広ちゃん!! あれっ!!」

「え?」

陰宮さんの声に振り向いた私が見たもの…………
レビアラードを覆う結晶体────それが燃え上がっています。



────闇のような”黒い炎”で。



「これはっ……」

私は気が付きました。
この黒い炎の正体と──それが意味する事を。

結晶弾(クリスタル・ブリッツ)──再装填(リロード)──全自動連射(フル・オート・ファイア)!!」

すぐさま『双極の咆哮(ツヴァイ・オブ・ハウンド)』に命の炎を注ぎ、再装填(リロード)を行います。
通常の銃とは違い、カートリッジを入れ替える必要はありませんが、理操術が弾丸の構築するまでに一定の時間がかかります。

結晶弾(クリスタル・ブリッツ)であれば一発につきコンマ7秒。
それを出来た先から叩きこんでいきます。
ですが黒い炎の勢いは強く、結晶体を消し去る速度は衰えません。

この黒い炎は間違いない──究極たる理操術である神技が一つ。
概念を破壊する神技──『終焉の劫火』──

それは魂すら消し去ると言われ、(冬至さんの類例のような例外を除いてですが)神族においても『四柱竜(しちゅうりゅう)』が一柱、『黒き滅びの一族』と呼ばれる種族のみが行使できる神技の筈です。

レビアラードは姿、仕草、理操術までも真似する事が出来ますが、神技だけは再現不可能。
そしてラディアスさんはその『黒き滅びの一族』──破壊神だと聞いているのです。

つまり────

「本物の……ラディアスさんなのですか?」

ぽつりと呟いた独り言に、答えは返ってきません。
そうこうしている内に黒い炎は結晶体を消し去り、ラディアスさんの上半身が──続いて下半身が自由になります。

私も既に結晶弾(クリスタル・ブリッツ)を撃ち続けるのを止めています。
これ以上は時間稼ぎにもならないでしょうから弾丸を最大まで装填(リロード)しておく方が良いでしょう。
もちろん『双極の咆哮(ツヴァイ・オブ・ハウンド)』はラディアスさんの方を向けたまま、構えを解いてはいません。

「危ない危ない。危うくやられちゃうところだったよ」

完全に復活してしまったラディアスさん。
さて、これからどうしましょうか……

同じ手が二度通用するとは思えませんし、第一身代わり人形(スケープ・ドール)がもう有りません。
正直勝てる可能性は1%を切ってます。
冬至さん、早く来て下さい!!

「暗転したときにこの術式を組んでなかったら、流石の僕も不味かったかな。やるじゃないか、見直したよ」

なるほど、あの時に終焉の劫火の術式を組んでいたのですね。
相手の目を奪うつもりが、隠れ蓑にされてしまった訳ですか。

「だけど遊ぶのももう飽きたかな。そろそろ終わりにさせてもらうよ」

そう言って大きく息を吸い込むラディアスさん。
これはまさか……

灼熱の吐息(ヒートブレス)

そしてラディアスさんの口から灼熱の炎が放たれます。

ラディアスさんは『四柱竜』が一柱、『黒き滅びの一族』──つまりは竜の一族。
息攻撃(ブレスアタック)もお手の物と言ったところですか。

「セット、突風弾(ブラスト・ブリッツ)──発射(ファイア)

ですが私とてそう簡単に倒されたりしません。
突風弾(ブラスト・ブリッツ)は直接的な威力こそありませんが、巨大な空気圧を発生させ、相手を吹き飛ばす事ができます。
特に息攻撃(ブレスアタック)に対しては有効で、威力によっては跳ね返す事さえ可能です。

ラディアスさんの灼熱の吐息(ヒートブレス)と私の突風弾(ブラスト・ブリッツ)がぶつかります。
流石に跳ね返したりは出来なかったようですが、息吹(ブレス)を押しとどめる事には成功しました。

「今のを防げるのか。ならこれはどうだい?」

間髪いれずにラディアスさんが次の攻撃に移ります。
その手には光る球体、色は藤色(淡い青味の紫色)

染光弾(せんこうだん)──命の炎の塊をエネルギーに変換しながら放つ、割とポピュラーな理操術です。
発動時にその光が命の炎の色に染まる事からこの名が付いたと言われています。

威力はそこに込められた命の炎に比例するため、場合によっては一撃必殺級の威力がある場合もあるのです。
なら、私はこれで受けて立ちます。

「セット、大砲弾(カノン・ブリッツ)

弾丸ではなく砲弾。
今現在、『双極の咆哮(ツヴァイ・オブ・ハウンド)』が実戦で使える(・・・・・・)中で最大の威力を持つ弾です。

「受けてみなよ、染光弾!!」

大砲弾(カノン・ブリッツ)──発射(ファイア)!!」



放たれた光弾と砲弾は空中で衝突し──────ませんでした。



いえ、それ以前に光弾の狙いがずれています。
そのまま進んでも私には当たらな────

────いえ、当たります────私ではなく────

その射線軸上にいる────天花さんに。

そうです、ラディアスさんには私を倒さなくてはならない理由は無いのです。
天花さんさえ殺せれば、目的は達成されるのですから。

「天花さん!!」

追撃は間に合いません。
それよりも、光弾が届く方が早いのです。

「させるかよっ!!!」

ですがその前に立ちふさがる影がありました。
『黒鱗盾』を展開した陰宮さんです。

光弾は『黒鱗盾』と激突し、激しい光を放ちます。
つばぜり合いのような衝突のあと、光弾の輝きが弱まってきます。

──防いだ。

多分、陰宮さんはそう思ったのでしょう。
陰宮さんの口元がわずかに釣り上った瞬間でした。

「がはぁっ!!!」

「陰宮さん!?」
「…っ竜樹!!」

『黒鱗盾』さえも突き破り、”それ”は陰宮さんの腹に突き刺さりました。

藤色に輝く光の刃。
染光針(せんこうしん)──染光弾を貫通力に特化させた理操術です。

誰が放ったのかなど言うまでもありません。
その傷は一見しただけで内臓の奥深くにまで達しているのが分かります。

即死は(まぬか)れたようですが、確実に致命傷なのです。
早く理操術で治癒しないと──

「──っ!!」

駆けつけようとした足を強引に(ひね)って向きを変え、『双闘の牙(デュアル・ファング)』を振います。

「おっと、動揺したかと思ったら、そうでも無かったみたいだね」

双闘の牙(デュアル・ファング)』を回避して一歩だけ下がるラディアスさん。
隙を見せればその爪がいとも簡単に私を切り裂くでしょう。
非常に不味いです。

海月さんだけでは天花さんと陰宮さんの二人を同時に治癒する事は出来ません。
かといってラディアスさんを足止めしておかなければ確実に天花さんを狙うでしょう。

……駄目です、良い手が思いつきません。
このままでは誰かが────

巨人の大槌(ギガンド・ナックル)!!!!」

「──ッ!!?」

突然響き渡る轟音。
その瞬間、ラディアスさんが視界から消失しました。

それが、視界外へ”殴り飛ばされた”からだと気づいたのは、直線状になぎ払われた木々と、目の前に立つ男の人の右腕に展開された理操術を見てからでした。

「大丈夫か? 知広」

ピンチに現れたその人物を見て、私は安堵します。
危ない時にはいつも助けてくれる。

ヒーローの姿(エルクシオン)ではなかったけれど、白衣を纏った冬至さん(私のヒーロー)が、そこにいました。


12 :黒い翠鳥 :2010/11/24(水) 20:24:10 ID:WmknrAkcVG

始祖の災魔を壊す者


―――side 冬至―――

「知広、状況連絡!」

「はいっ!」

ラディアスを殴り飛ばした”俺”は知広と認識共有を行い事態を把握する。

瀕死の天花と竜樹。
奴の語った存在意義。
黒い炎──終焉の劫火──

正直最悪の可能性が当たってしまった恐れが高い。
まぁ、それは奴に直接聞いて確かめればいいだけの事。
今はこの状態をどうにかするのが先だ。

まずは天花と竜樹の治癒。
奴もすぐに戻ってくるだろうから時間が無い。

二人の傍に駆け寄るが、治癒を続けていた雫の努力も空しく回復の気配が見えない。
それはそうだろう。
『黒き滅びの一族』に受けた傷は治癒を受け付けない。

その原理は既に解明されている。
攻撃の際に込められていた命の炎が傷口から対象の体組織に侵食する。

その命の炎は侵食した細胞を壊死させ、治癒を促す理操術の効果を阻害する。
要するに毒のようなものだ。
正確にはもっと複雑な原理があるが、要約すればそう言う事。

無論、対処法も研究されている。
一番手っ取り早いのは、大量の命の炎で毒を洗い流してしまう方法。

ただし、これは本人の命の炎で行わなければならない。
他者の命の炎で行えば身体が拒絶反応を引き起こし、傷口を広げる事になりかねないからだ。

しかも、本人の命の炎と言えど、大量に注ぎ込まなければならない為、身体自体が耐えられないと言ったケースも存在する。
実際、竜樹は耐えられないだろう。
天花は大丈夫かもしれないが、意識が朦朧としている以上──いや、朦朧どころか既に気を失っていたか──それも出来ないだろう。

流石に俺も他者の命の炎は扱えない。

他には侵食された細胞を切り剥がし、無事な細胞に治癒の理操術を使うと言う方法もあるが、今回は無理そうだ。
かすり傷程度ならともかく、致命傷に近い傷でそんな事をすれば死んでしまうだろう。
正直、この場での治癒は不可能に近い。

出来るとすれば治癒では無く、”復元”か”代替”。

もっとも、前者は理操術では荷が重く、神技が必要となってくる。
俺は神技を使うことは出来るが、短時間で復元が可能な程の技術は無い。

よって、現在可能なのは”代替”による延命のみ。

死んだ体組織を代替品に置き換える。
イメージとしては義手や義足、もしくは臓器移植なんかが近いだろう。
そうして命を取りとめさえすれば、後日改めて治癒や復元をすればよい。

そう判断して、俺は懐からケースに入った六角形の機械を二つ取り出す。
握った拳に隠れてしまうほどしかない大きさのソレは、対象の状態を解析し、欠損部位の代替物を作り出す事ができる抗魔装甲。

名を『偽態草(オルタナティヴ)

俺が以前、天花から譲り受けた寄生植物を解析して作った物だ。
まだ試作品に近いものであり、あまり使いたくは無いが、そんな事を言っていられる状況でも無い。
それを二人の傷口に当てると、理操術によって作られた擬似生体組織が見る間に傷口を塞いでいく。

とりあえずは正常に作動してくれたようだ。
だが、これはあくまで応急処置。
一命は取り留めた筈だが、予断は許されない。

「知広、雫……二人を頼む」

「了解なのです」

「(……コクン)」

さてと……

俺は知広と雫に二人を託し、吹き飛ばしたラディアスの方を向く。
まだ姿は見えないが、その気配(命の炎)はここからでもはっきりとその存在を伝えて来る。

それに煽られた俺の記憶が、憎悪が、俺の意思を変化させようとする。
それを壊せと……その存在を許すなと……思考を破壊へと特化させる。

ま、まだだ。
それを無理やり抑え込み、自分の感情(・・)を繋ぎ止める。
まだ奴には聞かなければならない事がある。
それに……ここでそう成れば、確実に知広を──皆を巻き込む。

「冬至さんっ!」

「どうした?」

そんな俺の精神状態に気付いてか、後ろから知広が声を掛けて来た。

「あれを……特化思考を使うのですか?」

「……ああ」

使うと言う表現は正しくない。
俺の意思で成る訳では無いからな。
しいて言えばトラウマか狂乱に近い物だ。

だが、訂正する余裕は無いので肯定する。

「────御自愛を──忘れないで欲しいのです」

「…………」

知広のその言葉には────肯定出来なかった。

特化思考になれば、その言葉さえ意識する事は無い。
全ての思考を、相手を破壊する事のみに特化させる。

故に特化思考。
初めて始祖の災魔に出会い、目の前で■■■を■■■た俺が生み出した生き残る為の(精神的自衛)手段。

知広はその後も何か言いかけたが、すぐに口を(つぐ)んだ。
何故なら、奴がすぐ近くまで戻って来ていたのだから。

「いきなり酷いじゃないか。何か僕に恨みでもあるのかい?」

理由など、あの状況だけで十分だ。
それに、見つけた瞬間に魂で理解した。
無理やり抑え込まねば正気を保っていられないほどの特化思考の発動がその証。

コイツは俺にとって”壊すべき”敵。


”始祖の災魔”


知広も一度は予想したようだが、生憎とレビアラードでは無い。
そして、その正体を確定する決め手になるのが”終焉の劫火を使用した”と言う知広の情報。

始祖の災魔と言えど、神技を直接使える災魔などいない。
だが、間接的になら使用する方法が無い訳ではない。
自分が使えないなら、使える奴に使わせればいいのだ。

つまり……『黒き滅びの一族』を操る事が出来れば、災魔が『終焉の劫火』を使う事も可能。
そして、それが出来る──相手の身体を乗っ取ることのできる始祖の災魔を、俺は知っている。

「恨みか……当然あるに決まっているさ……三十一番目の始祖の災魔。『移ろう狂気』 リュティード!」

知広達をここまでしてくれたんだからな。

データだけなら知広も知っている筈だからその可能性を考えても良さそうなのにと思ったが……
実際、知広は「え!? 本当に!?」って顔をしてる。

そう言えば現在の状況が”封印中”となっていたから除外した可能性も有るな。
あの封印は理論上、いかなる存在にも中から破るのは不可能だ。

しかし、事実としていまコイツはここに居る。

「へぇ……知ってるんだ、僕の名前。さっきそこの娘にレビアラードなんて旧式(・・)と間違われたばっかりだし、分かってくれる相手がいて嬉しいよ」

奴は本当に楽しそうに言った。

データで知っている限り、『移ろう狂気』 リュティードの能力は相手の身体に寄生し、乗っ取る事の出来る能力。
乗っ取った相手の能力を限界まで引き出し、その命が尽きれば次の相手に──宿主を殺した相手に寄生する。
寄生条件はリュティードに触れる事だった筈だ。

無論宿主が死んでいなくても、それより強い身体を求めて宿主を変える事もある。
さっきは奇襲だったから良かったが、基本的に接近戦は自殺行為だろう。

「リュティード、貴様に一つ聞いておきたい事がある」

これだけは確認しておかなければならない。
コイツを破壊する(・・・・)前に。

「うん? 何? 今の僕は気分がいいから何でも答えちゃうよ?」

「そうか、なら答えてもらおう。誰が貴様の封印を解いた? 『幻神王』か?」

数ある通り名の中から、最もリュティードが知っていそうな名を告げる。
これでYESと答えるならば、最悪の可能性が一気に現実味を帯びて来る。
リュティードを倒す為に『幻神王』が封印を解き、返り討ちにあって殺されたと言う恐れ。

まぁ、『幻神王』は死んだ位じゃ平気で生き返ってくるのだが、それを封じる手段も皆無ではないのだ。
だが、リュティードの返答は俺にとって予想もしなかった答えだった。

「誰がって、変な事を聞くねぇ。自力で解いたに決まってるよ」

なっ、何だと!?
そんな馬鹿なっ!!

アレは封印された者が解く事は出来ない。
封印を解こうとする思考すら許されないからだ。

「聞きたい事はそれで終わりかい? 無ければ僕は早く天花を殺したいんだけど……」

「ああ。時間を取らせて悪かった。もう聞く事は無い……」

そう言って俺は懐から指輪を取り出し指にはめる。

特殊な性質を持つ貴重な宝石をあしらい、神技によって数々の概念を組み込んだこの指輪。
過去に知広に送ったペアリングの片割れ。
これは俺の本気の証。

「後は貴様を壊すだけだ」

「やれやれ、やる気満々だね。いいよ、相手をしてあげる。君の力、見せてみなよ」

リュティードも構えた。
ただし、ここでは不味い。

ここで戦えば確実に知広達に被害が出る。
『特化思考』なら尚更だ。
対象を破壊する為には、周囲への被害を考慮に入れないのだから。

「リュティード、場所を変えさせてもらうぞ」

「へ? 何でそんな事を──うわっ!?」

最後まで言わせる必要は無い。
どの道、強制的に変えさせてもらうのだ。

俺はリュティードに『薄翼の旋風』を叩きこむ。
攻撃力は無いが、相手を吹き飛ばのに特化した理操術。


方向性は……”上”


「ぐっ!」

それを受けたリュティードはギャグ漫画でアッパーを食らったキャラの如く空中へ叩き上げられる。

「術式砲弾・『薄翼の旋風』、連続構築!」

本来、『薄翼の旋風』は吹き飛ばす対象に触れる事で、そこに術式を発動させる理操術だ。
だが、リュティード相手にそれをするのは不味いと言う事は先ほど述べた通り。

そこで使ったのが『術式砲弾』と呼ばれる技術。
その名の通り、術式を砲弾のように飛ばし、着弾地点で理操術を発動させる。
要するに『双極の咆哮(ツヴァイ・オブ・ハウンド)』の弾みたいなものだ。

と言うか、『術式砲弾』を容易に扱えるように抗魔兵装に組み込んだのが『双極の咆哮(ツヴァイ・オブ・ハウンド)』なのだが。

全弾発射(フル・ショット)!」

「っ!!」

『薄翼の旋風』が続けざまに命中し、さながら多薬室砲(たやくしつほう)のようにリュティードを空中へと弾き飛ばす。
その加速は、並の破壊者なら死んでも可笑しくない程だが、リュティードもしくは寄生されている『黒き滅びの一族』が相手では力不足だろう。

俺もすぐさま飛行用の抗魔兵装を起動させ、あとを追う。
エルクシオンのブースターとは違う、三対の光で出来た翼のような飛行ユニット。
それを全力で稼働させ、空中へと舞い上がる。

「『薄翼の旋風』!!」

空中で更なる『薄翼の旋風』の連続発動。


もっと、もっと、もっと。


更に上空へと弾き上げる。
しかし、リュテードもただ成されるがままには成らない。

「っ!! 舐めるな!」

リュティードの背から、羽が広がる。
薄い結晶のような素材で構成された藤色の羽。
それをもって術式砲弾を回避せしめる。

羽と言ってもこの手の神族が持つ物は羽ばたいて飛ぶ訳ではなく、理操術にて飛行する際の媒体なので、普通の翼では不可能な機動を行う事が出来るのだ。
俺の飛行ユニットと原理は同じ……と言うか、アレを再現したのが俺の飛行ユニットだとい言うのが正しい。

『薄翼の旋風』は避けられてしまったが、もう十分だろう。

現在の高度は既に約一万メートルを超えているのだ。
これはジェット旅客機の飛行高度に匹敵する。
普通の人間なら間違いなく高山病にかかる高度だろう。


ここでなら、特化思考と成っても全力で戦える!!


リュティードが大きく旋回しながら、黒い爪を煌めかせて迫ってくる。
天花よりも先に俺を始末する事を決めたのか。
まぁ、そうでなくては困る。

「術式多重構築・『白狐円月輪』!!」

俺は理操術によって作られた無数の光のチャクラムを放つ。

「この程度っ!」

だが、リュティードは腕を一振りするだけでその半数以上を消し飛ばしてしまった。
残りのチャクラムが迫るも、ほとんどがリュティードの飛行速度に振り切られてしまう。

かろうじて数発命中したが、その程度では理操術の障壁──纏衣と同じ性質の物──に阻まれてダメージを与えた様子は無い。
チャクラムの雨を抜けてきたリュティードの爪が迫る。

「はぁっ!!」

振りかぶられた漆黒の爪。
振り抜かれれば纏衣ごと俺を切り裂くのは間違いないだろう。


だが、気づいているか?


俺が放った『白狐円月輪』の密度にバラつきがあった事を。

追撃する事でその雨を容易に抜けられるように放っていた事を。

その結果、俺に到達するまでの道筋が限定されてしまっている事を。



つまりそこには────罠がある。

「星蛍、一斉起爆!!」

「!?」



その瞬間に走る閃光と紅蓮の炎。
そして耳に残る巨大な爆音。
高レベルの災魔ですら一瞬で塵と変える大爆発が、辺り一帯を支配する。

抗魔兵装・星蛍の爆発だ。

無論、指向性を持たせておいたため、俺には殆ど被害は出ていない。

「ぐっ……今のはあの娘の……」

しぶとい……

まぁ、俺もあの程度で始祖の災魔が倒せるとは思っていない。
問題無い。
これは単なる足止めだ。

「元々知広の抗魔兵装は俺が作った物だ。俺が同じものを持っていたとしても不思議ではないだろ?」

リュティードの意識が少しでも俺の言葉に向いてくれたら御の字だ。
そう思い、一応説明をしてやる。
その間に新たな術式は完成した!

「さて、次はこれを食らいなぁっ!!」

「!?」

その理操術にリュティードは反応出来なかった。
星蛍の爆発が与えたダメージは思いの他軽くは無かったのだろう。
それはリュティードに直撃する事となった。

放たれたのは全長二メートル程の流線形の何か。
否、全長二メートル程…………重量数十トンを誇る超高密度の金属の塊。

それを音速すら上回る速度で打ち出す。

『質量弾・星鎚(マス・インパクト)

「────────っ!!!」

悲鳴すら置き去りにしてリュティードは弾き飛ばされる。
超音速で放たれる超質量の弾丸。
その運動エネルギーをまともに受けたのだ。

俺はすぐに飛行ユニットを使って加速し、追いすがる。
目を離して、リュティードに逃げられてはたまったものではない。
幸いにもリュテードは俺の視界から外れる事は無かったが……

「やってくれるね……今のは結構効いたよ」

無傷とは行かないようだが、それでもダメージは予想したほど大きく無いように見える。

星鎚(マス・インパクト)』を喰らってこの程度とは……
流石は始祖の災魔と言った所か?

「どうやら君の相手をするには全力を出さなければいけないようだ」

その瞬間、大気が震える。

リュティードの命の炎が一気に燃え上がる。

「『神衣解放』」


その言葉をトリガーに、リュティードの体が変質する。


腕、脚、首元……体の至る所に黒い鱗が生え、その全身を褐色の肌が覆う。
臀部(でんぶ)から延びるのは爬虫類のような漆黒の尾。
頭には角が有り、その瞳はトカゲを思わせる縦に細い瞳孔と、その左右に三角形の模様が刻まれている。
遠目に見たらそれは十字のように見えるだろう。

その姿は、黒い竜人。

『神衣解放』───神族がその真の姿に戻る時に紡がれる(ことば)

”神体”を使ってくるか。
まぁ、それは予想の範囲内だ。

それよりも問題なのは俺がそろそろ特化思考を抑えられないと言う事だ。
出来れば俺が正気の内に──欲を言えばさっきの『星鎚(マス・インパクト)』で──仕留めたかったが、仕方ない。
ここならもう巻き添えで被害が出る事は無いだろう。

そろそろ頃合いか。
ならば俺も全力で行こう。

俺は抑え込んでいた特化思考を────”生存本能”を解き放つ。

さぁ、ここからが本番だ。



















始祖の災魔と対峙した時、恐怖による精神崩壊を防ごうと脳が感情を消し去る。

本能が、打開手段として原因の排除を選択する。

それに不必要な機能を停止させ、全てをその為に特化させる。

全てはただ、生き残る為に────



────────────特化思考────────開始。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.