日常の中の気付かぬ世界


1 :黒い翠鳥 :2008/04/18(金) 22:21:48 ID:WmknrAnA

はじめまして、こんにちは。
自分は黒い翠鳥と申します。

しがない腕で書かれた物語ではありますが、御用とお急ぎでない方はちょっと手を止めてご覧頂けたら幸いです。

それでは、黒い翠鳥の綴る物語、始まりとさせていただきます。


18 :黒い翠鳥 :2009/01/14(水) 15:40:03 ID:WmknrAnA

巫女と神様

なんだかんだで現在午前十時。
俺達は刻流(こくりゅう)山の山道を登っていた。

本当なら学校にいなければいけない時間だが、冬至曰く、認識干渉で誤魔化しているので問題ないとの事。
でも、授業に出ていない事には変わりないんだよな……
後で誰かにノートでも見せてもらった方がいいかも知れない。

まぁ、それはそれとして今登っている刻流山は若葉山の隣に位置する山で、標高は百五十メートルと若葉山より少し高い。
目的の場所は山頂近くにあるんだが、これが結構遠かったりする。
山道が整備されて登り易いのが救いか。

「祭りの時に登るのは苦にならないんだが、普通に登ると大変なのは何でだろうな」

「祭りは夜店が並ぶ故、楽しみながら登るからではないか? まぁ、竜樹(マイ・フレンド)が祭り好きと言うのもあるであろうが」

そう返したのは冬至だ。
知広ちゃんと雫も一緒に来ている。

俺達が目指しているのは天乃花(あまのはな)神社と言う神社。
年に四度、四季の祭りが催されるため、地元の人間ならまず知らない人はいない。
もちろん俺も、毎回その祭りを楽しみにしている。

「天乃花神社で祭っているのって、確か天乃花森姫(あまのはなのもりひめ)って神様だったよな」

「うむ、この地を鎮守(ちんじゅ)する神族、天乃花森姫に会ってもらう。なに、神族と破壊者は共生関係。神族だから偉いという訳ではない故、あまり気を張ることもあるまい」

「親しみやすい方ですからすぐに仲良くなれると思うのです」

「親しみやすい神様か……」

知広ちゃんの言葉を聞きながら道の先を見ると、神社はすでにあと少しの所まで来ている。

ちなみに、今朝の誤解はまだ解けていない。
なかなかいい機会が無かったからな……などと考えていると、神社の大鳥居の下に人影があるのが見えた。
巫女服を纏った黒髪の女性が佇んでいる。

「………あ……(ゆう)さん……」

雫も気が付いたようだ。
『悠』さんって名前なのか。

「出迎えとは有り難いな。丁度竜樹(マイ・フレンド)に紹介しておかねばと思っていた所だ」

「理解者関係でか?」

「うむ、彼女も破壊者なのだ」

破壊者、災魔と戦う者。
彼女がその四人目。
昨日、最後の一人も知り合いなんじゃないかって思ったけど、流石に違ったか。

巫女服を着ているからには天乃花神社の巫女さんなのだろう。
衣装のせいか、どことなく神秘的な感じがする。

そして、五分もしないうちに俺たちは大鳥居の前まで到着した。

「四市名(じょう)、御苦労様である。天花嬢は社の方に?」

「はい、新しい理解者の方にお会いする準備はできていますよ」

冬至とそんな会話をした後、巫女さんは俺の方を向いてほほ笑んだ。

貴方(あなた)が新しい理解者ね。はじめまして、私はこの神社で巫女をしています四市名(よしな) (ゆう)です」

そう言って頭を下げる巫女さん。
長く伸びた奇麗な黒髪を先の方で結っており、印象としては、凛とした感じがする女性だ。

「あ、はじめまして。陰宮 竜樹です」

後で冬至に聞いた話だが、四市名さんは俺より一つ上。
高校二年生なのだそうだ。
流石に学校が違うそうなので面識は無い。
ただ、何かこの人、どこかで見たことがある様な気がするんだが……

「陰宮さん、私の顔に何か?」

いつの間にか四市名さんの顔を凝視していたらしい。

「あ、いえ。何でも無いです」

「そうですか? では、森姫様がお待ちです。どうぞこちらへ」

そう言うと四市名さんは俺達を先導して、社の方へ歩いて行く。
後ろをついて行くと、雫が寄って来た。
その顔が、ちょっとだけむくれているように見えるのは気のせいか……

「しかし、祭り以外でここに来るのも久しぶりだな」

祭りを除けば……初詣(はつもうで)以来かな。
やっぱり雰囲気が違う。
祭りの時には鳥居の近くまで屋台が並び、祭壇(さいだん)では巫女さんが神楽(かぐら)を……

「あっ!」

「………!? ………どうしたの?」 

「あ、いや、何でも無い」

思い出した。
そう言えば前回の祭りで神楽を踊っていた巫女さんだ。
天乃花神社の祭りでは、毎度季節の恵みに感謝を捧げ、巫女さんが神楽を奉納(ほうのう)する。
その美しい舞を見る為に、遠くから訪れる人もいる位だ。

そんな事を考えながら、丁度境内を半分まで入った時だった。

「へぇ〜、君が新しい理解者君か」

どこからか、そんな声が聞こえてきた。

辺りを見回してみるが、俺達以外には誰もいない。
木が多いから、陰に隠れちゃってるんだろうか。

「あ〜、違う違う。上だよ上」

「上?」

見上げてみると、その人物はいきなり俺の目の前に降ってきた。

「うわ!」

「あ、ごめん、驚かせたかな」

どうやら木の上から声をかけていたようだ。

それは一人の女性だった。
見た感じ、四市名よりも少し上くらいの歳だろうか。
茶色い髪を短く切りそろえ、その爽やかな笑顔は活発的な印象を受ける。
綺麗や可愛いよりもカッコいいって感じだな。

そして一際(ひときわ)俺の目を引いたのが、その人が持ている本だった。
普通の本では無い。
百科事典より二回りくらい大きな本が、肩から下げられた専用のホルダーに納まっている。

「も……森姫様! 社の中で待っておられる手筈では!?」

「ごめん、悠。じっと待っているのって結構退屈でさぁ」

四市名さんも驚いている。
ここでこの人が出てくるのは予定外だったらしい。
……と言うか、今、四市名さんが言った名前は……

「えっと…あなたが天乃花森姫様?」

「お、自己紹介もまだなのによく分かったね。そう、ボクが天乃花森姫。みんなは天乃花から取って天花(てんか)って呼んでくれてるから、それで呼んでくれると嬉しいかな」

「はぁ…そうですか」

「あ、あと、『様』なんて付けなくていいよ。別に偉いってわけじゃないし、そんなの付けられるとくすぐったくて参るからさ」

なるほど、確かに親しみやすいかもしれない。
そう言えば『様』はいらないって言われたけど、四市名さんは『森姫様』って呼んでいたよな……
巫女だからかな?

「ところで、君の名前も教えて欲しいんだけど、いいかな?」

「あ、はい。陰宮 竜樹と言います」

「竜樹君か。よろしく!」

俺の手を取り、笑顔で握手する天乃花森姫……天花さん。
なんか……全然、神様って感じがしないな。
見た目が人間と全く変わらないってのが原因かもしれないけど。

「あー、今、全然神っぽくないなーとか思ったでしょ」

「あ、いえ、そんな事は……」

思ったけど……

「ボクって全然神々しくないからさ、いつも新しく来る理解者君にはそう思われちゃうんだよね」

「はぁ……」

「天花嬢、こんな所で長話もなんである故、社の方に入らぬか? 『契約』の方もせねばならぬし」

「あ、そうだね。ごめんね、竜樹君。気が効かなくて」

俺は別に構いませんが……
それよりも今、冬至が言った単語の意味の方が気になる。

「なぁ、冬至。今言った『契約』って何だ?」

「うむ、そう言えばマイ・フレンドに言い忘れていたな」

ちょっとだけ『しまったな……』って顔で答える冬至。
もしかして、結構重要な事ですか?

「『契約』とは『破壊者の契約』の事なのです」

「『破壊者の契約』?」

「はい、私達の『纏衣の呪布』は神族の力の一部を人に扱えるようにしたものなのです。それを自分用に調整してもらう事で、纏衣を纏えるようになり、破壊者になる。その調整の事を『破壊者の契約』と言うのです」

「……って事は、要するに破壊者になるための儀式みたいなもんか?」

「そんな感じですね」

どんなものかちょっと興味がある。
だけど……それ以上に気になる事が……

「……冬至、さっき『契約をせねばならぬ』って言わなかったか? ……つまり、『契約』をする事は決定事項なのか?」

……悪いが、俺は破壊者になる気なんて無いんだが……


19 :黒い翠鳥 :2009/02/02(月) 21:17:34 ID:WmknrAnA

契約

「粗茶ですが…」

「あ、どうも」

俺は四市名さんからお茶を受け取りながら、『破壊者の契約』とやらの準備をしている天花さんの方に目を向けた。

(うぐいす)色の命の炎で描かれた複雑な幾何学模様(きかがくもよう)が、球状の存在操作術式を構築(こうちく)している。
完成までは特に俺がやる事は無いらしいので、他のメンバーと一緒にお茶を頂いた。

「なぁ、冬至。今の内にハッキリと言っておくが、俺は破壊者になる気は無いぞ」

正直に言って俺には災魔と戦う自信も、信念も、覚悟も無い。
そんな事じゃ、例え破壊者になっても知広ちゃん曰く足手まといになるだけだろう。

「まぁ、そうであろうな」

「………その方が……いい……」

「強制はしないのです」

三者三様に即答された。

だいたい予想していたのだろう。
別に俺を破壊者にしたかった訳じゃないのか。
むしろ雫はならない方がいいって言っているし。

「だが、どちらにせよ、『契約』はしてもらう必要があるのである。破壊者になる為ではなく、自分の身を守るためにな」

「自分の身を……守るため?」

このままでは何かまずい事でもあるのだろうか。

「陰宮さん。災魔が認識妨害で相手に自分の存在を隠し、人を不幸にして力を得るという話は昨日しましたよね」

「あぁ、覚えてる」

「災魔は認識妨害が効く相手を直接襲ったりはしません。あくまで理操術を使って間接的に災いを起こすのです」

「まぁ、怪物に襲われたなんて話、聞いた事ないしな」

だけど、それが『契約』とどう繋がるのだろうか。

「その理由は、襲っても相手がそれを理解できないため、命の炎が手に入らないからなのです」

後で聞いた話なのだが、認識妨害中に相手を傷つけても、相手はそれを受け入れてしまう。
初めからこうだったと思ってしまうそうなのだ。
災魔は感情によってあふれてきた命の炎を餌にする。
つまり、認識妨害で感情が起きなければ、襲っても無駄足なのだ。

だったら認識妨害を解いてから襲えばいい───と言う訳にもいかないらしい。
認識妨害を解けば、当然自分の存在を相手に知られる事になる。
それは、『災魔と言う怪物の存在そのものが気付かれていない』と言う戦略的優位性(アドバンテージ)を失うという事だ。
メリットよりもリスクの方が(はる)かに大きい。

「ですが、理解者は別なのです。認識妨害が効きませんから、直接襲っても感情が起きます。災魔にとってはご馳走なのです。死の恐怖は最上級の負の感情ですし」

「あとは、危険要因を排除(はいじょ)しておくという意味もあるようなのである。理解者は破壊者になる可能性もある故にな」

「……もしかして、俺って結構危険な状況にいるのか?」

二人がうなずく。

「……マジかよ……そう言う危ない事は先に言って欲しいんだが……」

「すまぬ、竜樹(マイ・フレンド)。だが、悪戯(いたずら)に不安要素を増やすのはどうかと思ったのでな。『契約』までは吾輩達がついている故、そうそう危険な事にはならないと思ったのだ」

冬至はそう言って頭を掻いた。
確かに今のところ危険な目には合っていない。
運が良かったのか、冬至たちの護衛のおかげか……

「しかし、いつまでも私達が一緒にいる訳にも行きません。ですから、陰宮さんには最低でも災魔から逃げられるくらいにはなってもらう必要があるのです」

知広ちゃんが説明を続ける。

「そのためには『契約』をするのが一番早いのです。もっとも、正式な契約と違って、防御関係の力しかもらえないのですが」

その力で逃げきるか時間を稼ぎ、その間に破壊者が駆け付けるという訳らしい。
攻撃するための力を貰えないのは……まぁ、悪用されやすいし、破壊者もいるから必要ないという事だろう。

「まぁ、『契約』しないといけない理由は理解したよ」

生身で災魔から逃げられるとは到底思えないしな。

「お待たせ。『契約』の準備が出来たよ」

丁度、天花さんから声がかかる。
必要な術式の構築が終わったようだ。

さて、『破壊者の契約』とやらを体験してみる事にしますか。

「あ、そうそう。ボク、ちょっと元の姿に戻るけど、気にしないでね、竜樹君」

「元の姿……ですか?」

「そう。この姿は一応、人化体(じんかたい)……簡単に言うと人間モードなんだ」

なるほど、人と変わらない姿だなと思っていたら、そう言う姿になっていたからなのか。
……と言う事は、本来の天花さんはもしかしたら人間とは全然違う姿なのかもしれない。

「それじゃ、いくよ。『神衣』解放!!!」

声とともに天花さんの手がホルダーに納まっていた本に触れる。
すると、ホルダーに納まっていた本が勝手に飛び出し、天花さんの前でページが捲れていった。
ページがめくれる度に、そこから鶯色の幾何学模様が飛び出し、術式を構成していく。

その最後のページが開かれたとき、本は鶯色の光の粒子になって弾け、天花さんを覆い尽くす。
そして、術式が中央に向かって集束し、それに巻き込まれるように光の粒子も消えていった。

そこには本来の姿に戻った天花さんがたたずんでいる。
その姿は……

「……何と言いますか……あんまり変わってませんね……」

服は変わっている。
なんか神様っぽい(おごそ)かな衣服になっている。
あと、本を持って無い。

だけど、天花さん自身は変わって無い。
どこか見えない部分が変わっているのかも知れないが……

「あはは。まぁ、ボクは『深き黒森の一族』って言う、元々人に近い姿の神族だからね。もっと人間離れした姿を期待してたんなら、極神体(きょくしんたい)って言う戦闘モードもあるけど、見せてあげようか?」

「あ、いえ、別にいいです」

あるんだ……戦闘モード。

「それじゃぁ、『破壊者の契約』を始めてもいいかな?」

「はい、お願いします」

「わかった。じゃ、ちょっとコレ持ってこの中に入って」

渡された纏衣の呪布を持って、術式の中に入る。

「じゃぁ、いくよ。」

そう言うと、俺の周りの術式が、一気に輝きを増した。

「その呪は、理を操る術……万物を知る、英知の証……」

視界が、鶯色で(おお)い尽くされる。

「……中略(ちゅうりゃく)……」

「中略!?」

「天乃花森姫の名において、汝の纏いし衣を授けん」

周囲を覆っていた術式が、纏衣の呪布に収束していく。
辺りに満ちていた鶯色の光はゆっくりと消失し、纏衣の呪布だけが残った。

「はい、これで終了」

「あ、もう終わりですか」

結構早いな。
……と言うか、途中の『中略』が、すっごく気になるんですが……

「今のでその纏衣の呪布を、竜樹君用に調整したんだ。後は纏衣解放すれば理操術を使えるようになるよ。使い方は……雫ちゃん、教えてあげてくれる?」

「………ん……わかった………お姉さんが……手取り……足取り……腰取り………教えて……あ・げ・る……」

「いや、腰は取らんでいいだろ……」

からかわずに教えてくれると有難いんだけどな……


20 :黒い翠鳥 :2009/02/17(火) 08:13:25 ID:WmknrAnA

超甲星エルクシオン

竜樹君との契約が終わった後、ボク(天花)は冬至君と一緒にお茶を飲んでいた。
いや〜、やっぱり悠の入れるお茶はおいしいなぁ。

竜樹君は境内で纏衣の呪布の使い方を特訓中。
さっきから社の中にまで声が聞こえてくる。

「なかなか、苦戦しているみたいね」

「まぁ、大丈夫であろう」

冬至君がお茶菓子を突きながら答えてくる。

竜樹(マイ・フレンド)の想像力はなかなかの物だぞ。まぁ、小難しい理論を説明するよりは合っていると思うのである」

纏衣の呪布を使うのに必要なのは想像力だ。
使いたい理操術をイメージすれば、それを纏衣の呪布が読み取って術式を構築してくれる。
もちろん、術式が難しいほど、強く確かなイメージが必要になってくるけど。

「冬至君がそう言うのなら、大丈夫ね」

「うむ。問題あるまい」

そう言った後、冬至君は自分の湯呑を手に取る。
昔の戦隊物の絵柄が入ったやつだ。
本当にこういうの好きだよね……冬至君って。

「あ、そうそう。一つ、天花嬢の耳に入れておきたい話があるのだ」

「……? なにかあったの?」

「うむ。一昨日の午前七時半頃、雫嬢が災魔と交戦したのは知っているであろう」

「うん。逃げられたって聞いたけどね」

「そして同日午後八時、同じく雫嬢が災魔と交戦。残された理操術の『術紋(じゅつもん)』から、先の災魔と同個体(どうこたい)と判明した」

『術紋』と言うのは理操術の指紋みたいな物だ。
術式の特定の場所を調べる事で、誰の使った理操術なのかわかるのだ。

「それも知ってる。また逃げられちゃったんだよね。朝の時の戦力とかを考えたら、雫ちゃんなら絶対倒せると思ったんだけどなぁ……」

「それが……強くなっていたのだよ」

「……え?」

そんな筈は───

だって、災魔の強さは基本的に持っている命の炎の量で決まっちゃう。
でも、災魔は自分で命の炎を生み出すことが出来ない。
だからそれは、どこかで災いを起こしてきたって事。
半日で強くなったからには、それなりの規模の災いを起こす必要がある。

「でも、ボクの鎮守してる土地ではそんな災害、無かったよ」

どこか遠くへ行ってから災いを起こして───って、わざわざ戻ってくる必要が無い。
だとしたら、他に可能性は……

「どこか命の炎が溜まってる所から手に入れて来たとか……」

遊園地や観光名所など、喜や楽で溢れてきた命の炎が溜まっている場所もある。
たまにそれを狙って災魔が現れたりするんだけど。

「それならばむしろ良かったのであるがな。残念ながらそういった所にあの災魔が現れた形跡は無いのである」

災いを起こした訳でも、自然に集まったものを手に入れた訳でもない。
じゃぁ、どうやてその災魔は……

「あと、可能性として考えられるのは……誰かがあの災魔に命の炎を与えたと言った所であろうか」

「え? な、何の目的で?」

「……分からぬ。もとより可能性と言った程度の話であるしな。だが、もしそうならかなりの量を与えた事になる。そんな事が出来るのは、神族か……」

「災魔の最上級の存在……『始祖(しそ)災魔(さいま)』」

「…………うむ……」

始祖の災魔───

ボクがそう言ったとき、冬至君の表情が一瞬だけ変わった。
とても深い……憎悪(ぞうお)の表情に……

「場合によっては、マイ・プロフェッサーの力を借りねばならぬかもしれぬ」

「まだ、『この世界』にいるのかな? じっとしてる事、少ないのに」

「高確率でいない気がするのである。一応、ダメ元で連絡してみるが」

異界の渡り手(ワールド・ジャンパー)』なんて呼ばれてるくらいだしね。

「そう言えば冬至君、やっぱりお義母さんとは呼ばないんだ?」

「……まぁ、確かに吾輩の里親ではあるが……やっぱり何か抵抗があるのである。見た目も吾輩と大して変わらぬしな」

そう言って頭をかく冬至君。

「それに、吾輩のキャラ(・・・・・・)的には『教授』(マイ・プロフェッサー)の方が合っているであろう。吾輩の技術の基礎はマイ・プロフェッサーから教わったものであるしな」

「そっか……でも……あっ!!」

「ん? どうされた? 天花嬢」

「災魔の気配……商店街の南口の近く……大した強さじゃないと思うけど……」

その時、ボクの『植物情報網(プラント・ネットワーク)』が、災魔の気配を感知していた。

ボクは『深き黒森の一族』。
草木を操る神族、植物神。

植物同士を理操術でリンクさせる事で、ボクはこの土地中の様々な気配を感知できるのだ!
まぁ、穴も結構多いんだけど……

「では吾輩が出撃しよう。商店街の南口付近であるな」

「いつもゴメンね。ボクが戦えればいいんだけど……」

「そんな無茶な事は言わないでいただきたいのである」

冬至君の意見はもっともだ。

実際、ボクでは災魔に勝つことは出来ない。
断わっておくけど、ボクが弱いって訳じゃない。
特に極神体になれば、冬至君達四人を相手にしても勝てる自信はある。
でも、災魔は別だ。

災魔の持つ特殊な理想術───『神無の世界』
それはボク達神族の力を無力化する力がある。
たとえそれが極神体であったとしても。
災魔は、私達神族にとって天敵なのだ。

ただし、同じ神族の力でも、神族以外の命の炎を使って作った理操術は無力化できないみたい。
破壊者が使う『纏衣の呪布』自体は神族の力だけど、その力が災魔に有効なのはこのためだ。

「さて、商店街までとなると少々遠いな。『ランド・パンサー』で行くとしようか」

冬至君は左手でベルトのバックルを掴むと、右腕を顔の横に持ってくる。

「ソウルパワー・フルチャージ! イグニッション!!」

銀色のバックルを引き抜き、円を描くように回しながら、それを右腕に装着する。

「超・甲・変・身! 『エルクシオン』!!!」

叫びながらポーズを決めるとバックルが変形する。
同時に銀色の術式が冬至君の周囲に展開した。
理操術は周囲の存在情報を書き換え、戦うための鎧を作り出す。

フル・フェース・ヘルメットに金と銀で彩られた全身を覆う装甲。
メタルヒーローって言われる特撮ヒーローの姿。

冬至君のバックル───正式名称は『クリエート』って言うそうだ。
それは、人工の纏衣の呪布。
冬至君が作った対災魔用兵器───抗魔装甲(こうまそうこう)

ちなみに、冬至君はこの姿の時、『超甲星エルクシオン』を名乗って特撮ヒーローになりきっている。
だからエリクシオンって呼んであげると喜ぶんだ。
気分ってのは感情に繋がり易いから、破壊者にとっては結構重要なんだよね。
理操術のエネルギー源は命の炎だしね。

「それじゃぁ、災魔の方をよろしくね。エルクシオン!」

「うむ。吾輩に任されよ! 来い! 『ランド・パンサー』!!」

冬至君が叫ぶと、クリエートが再び動き出す。
近くに作られた術式の中に光の粒子が集まり、新しい存在を作っていく。
それが終わったとき、そこにあったのは一台のバイク。
しかも無駄に派手な装飾がある、よく特撮ヒーローものに出てくるようなやつだ……

「とうっ!」

冬至君は無駄にジャンプしてバイク(ランド・パンサー)に乗ると……

「では、天花嬢。行ってくるのである!」

それだけ言い残してバイクで走って行ってしまった。

さてと……それじゃぁボクは……

「冬至君……バイクに乗るのは外に出てからにしようよ……」

ちょっとだけ愚痴(ぐち)を言いながら、床に残されたタイヤの跡の補修(ほしゅう)を始めるのだった。


21 :黒い翠鳥 :2009/03/01(日) 21:03:32 ID:WmknrAnA

雫の護衛

「はぁ〜、疲れた〜」

もう日も沈みかけた夕刻。
基本的な理操術の訓練を終えた(竜樹)は、ようやく家に帰ってきた。

二晩ほど戻らなかったので親に何か言われるかと思ったが、とりたてて何事もなく、いつも通りの日常の一コマが展開されただけだった。
冬至の言う、認識干渉とやらはしっかり効いているようだ。

「理操術って凄いんだな…」

そう言いながら二階に上がり、自分の部屋に入る。
当然の事ながら、部屋には誰もいない。

俺は荷物を部屋の隅に放り投げると、そのまま寝台へ仰向けに倒れ込んだ。
途端に今まで蓄積されていた疲れが一気に襲ってくる。

「うおぉぉぉ……疲れたぁぁぁ〜〜〜」

体がと言うより精神的に疲れた。
思ったより『強く確かなイメージ』ってのは難しい。
漠然としたイメージだけでは纏衣の呪布は読み取ってくれないのだ。

例えば、早く走る理操術を使いたいなら早く走る姿をイメージするんじゃ効果は薄い。
筋肉を強く働かせるイメージや、地面を強く蹴ると言った少しでも具体的なイメージの方が有効らしい。
しかも、それを使うのは災魔に襲われた時なんだから、周りの事や災魔の様子も意識しながらやらないといけない。

あと、命の炎を使うと妙にだるくなる。
理解者になりたてで命の炎の量が少ないかららしいけど。

「身が持たないよなぁ……全く」

もちろん今日一日でマスター出来る訳も無く、明日からも放課後に特訓するそうだ。
そしてもうひとつ。
明日からは『理解者ではなくなる為の訓練』もしないといけない。

理解者である以上、災魔に襲われる可能性は決して低くは無い。
では、それを最も減らす方法は何か?

答えは簡単だ。
理解者でなくなれば良い。
災魔は理解者を襲うのだから当然と言えば当然だ。

ただ、言葉で言うのは簡単だが、順調に行っても一カ月以上の期間がかかるらしい。
望んで得た事じゃ無いのに、失うためには相当苦労しなければいけないとは、難儀なものである。

「まぁ、結局は出来なきゃ俺の身がヤバイんだが……」

「………がんばっ………お姉さんが……優しく……教えたげる……」

「お手柔らかに頼むよ……って、へ?」

ちょっと待て、俺。
この部屋には俺以外誰も居ないはずだ。
今俺は誰と話していたんだ?

いや、誰かは分かる。
こんなしゃべり方をするのは俺の周りには雫以外には居ない。
しかし、一体何所から?

「雫? どこに居るんだ?」

「………こっち……」

声のする方向を見ると、いつの間にか開けられた窓が一つ。
その外側、一階の屋根の上に雫が立っていた。

「そんな所で何やってんだ? ……って言うか、危ないだろ……」

「………一度……やってみたかった………幼馴染(おさななじみ)定番(ていばん)……窓越(まどご)しに……会話………」

「いや、それ多分違うと思うぞ」

窓越しは窓越しだが、絶対にこう言う物では無かったはずだ。
それにしても、窓越しの会話って漫画とかではよくあるシチュエーションだが、実際にこれをやっている幼馴染っているのだろうか。

「取り合えず入れ。そんな所よりは中の方がいいだろ」

「………うん……お邪魔……する………」

そう言うと雫は窓に片手をかけ、それを支点にしてヒョイっと飛び込んできた。

「………幼馴染の定番……その二……窓から出入り………」

「いや、それはもう良いから……」

なんか疲れが倍増した気がする……

「それで、何か用か? それとも暇だったから遊びに来たか?」

中学生の頃から少なくなったが、両親が共働きの雫は、暇な時よく俺の所に遊びに来ていた。
流石に窓から入られた事は無かったが……

「………ん……用の方……理解者関係……」

雫は部屋の隅に放ってあったクッションを引っ張ってくると、その上にちょこんと座る。

「………お泊りに……来た……」

「……はい!?」

いきなり何故ですか!?
まぁ、理解者関係と言っていたから怪しい理由では無いと思うが……
それでも、年頃の女子が思春期真っただ中の男子の家に宿泊とはどうかと。
別に何もする気は無いけどさぁ……

「………竜樹……今……災魔が来たら……逃げ切れる?」

「今、災魔が襲って来たらか?」

「………うん……竜樹……『契約』したばかり……だし………訓練……した後……命の炎……少ない………」

ああ、なるほど、そう言う事か。

理解者はいつ災魔に狙われるか分からない。
家の中とて安全とは限らないのだ。
ぶっちゃけ、今襲われたら死ねる。
理操術だってまともに使えないのに。

まだ俺は、誰かに守ってもらわないといけない程度のレベルなのだ。
雫は、その為に来てくれた。

それを断るわけにはいかない。
……って言うか、断ったら俺の身がヤバイ!

「確かに雫に守って貰えるなら心強いけど……食事とか寝る場所とかはどうするんだ? まぁ、寝る場所は俺のベッドを使えばいいか。雫が嫌じゃなければ……だが」

「………一緒に寝るの?」

「いや、俺は床にでも寝るって…」

「………そう……残念………」

いや、残念がるなよ。

「………でも……大丈夫………冬至君謹製(きんせい)……携帯寝袋(けいたいねぶくろ)……持って来た………食事とかは………家に戻る………」

パッと見手ぶらに見えるんだが、何処に持ってるんだろうか。

「ところで、ふと思ったんだが……雫ん家、隣なんだからわざわざ泊まりに来なくても大丈夫なんじゃないか?」

破壊者って災魔の気配を感知できるんだよな、確か。
理操術の訓練の時に知広ちゃんが言ってた気がする。
理解者でも訓練すれば出来るらしい。

「………無理……じゃない………でも……寝てる時とか……気付かない……かも……だから……近くの方が……いい………」

それから雫は急に悲しそうな表情になって……

「………それとも……竜樹……私と居るの……嫌?」

「うっ……」

何か捨てられた子犬の様な目になっている。
こんなの見せられたら嫌とは言えないじゃないか……
まぁ元よりそんな気は無いが。

「嫌じゃねぇって……何でそうなるかな……」

「………じゃ……一緒に居ても……いい?」

「当たり前だ。せっかく雫が付きっきりで守ってくれるって言うんだからな。むしろ俺が頭下げて頼まなきゃならん事だ。よろしく頼むよ……」

「………ん……お姉さんに……お・ま・か・せ………」

雫の顔が急に笑顔になった。
何かそれを見ているだけでホッとした気分になってくる。

そんなこんなをしていると、下から母親の呼ぶ声が聞こえた。
どうやら夕食の時間になっていたようだ。

「………早く……行った方がいい………私も……夕食……済ませとく………」

「ああ。そうさせてもらうよ」

そう言って部屋を出ようとして、俺はドアの手前で一度足を止めた。
そして雫の方を振り返りながら……

「わざわざ俺なんかの為に……ありがとな……雫…」

「……………ん………」

それだけ言って下に降りて行った。


22 :黒い翠鳥 :2009/03/25(水) 22:32:50 ID:WmknrAnA

二股?

雫が(竜樹)の部屋に泊まるようになってから一週間が過ぎた。

その間に刻流里市に現れた災魔は合計三匹。
俺もその内の一匹に遭遇(そうぐう)した。
一緒に付いて来てくれていた雫のおかげで事無きを得たが、俺一人だったらヤバかったかもしれない。

まぁ、それも遭遇したのが訓練の後だったからの話。
理操術の訓練の方は割と順調で、命の炎さえ満タンなら、災魔から十分逃げ切れる自信はある。
これは昨日、天花さんが太鼓判(たいこばん)を押してくれた。

その為、訓練の時間までは一人で自由に動ける。
昨日までは護衛として破壊者の誰かが常に(そば)に居てくれたのだ。
おかげで命拾(いのちびろ)いしたこともあったし……
いくら感謝しても足りないな、こりゃ。

特に雫と一緒にいた時間が長いだろう。
家でも一緒だったしな。

ちなみに、雫は今部活に出ている。
今までは護衛の為に部活を休んだって言ってたからな……
いまだに何部なのかは知らないんだけど。

そんな訳で、久々に一人で街を歩んだが、う〜ん……なんか隣が寂しいな。
前回この辺に来た時は雫と一緒だった。
その時の顔が心なしか嬉しそうだったんだが、あれは何だったんだろうな……

そんな事を考えていた時、視界の端に見知った人物が映る。
少し先のスーパーから出てきたセーラー服の女の子。
『ざしきわらし』の看板娘、知広ちゃんだ。

「おーい、知広ちゃん。こんにちは」

「あ、陰宮さん。こんにちはなのです」

「夕食の買い物か?」

「あ、はい。それと、お店の食材が少し足りなくなりそうなのでついでに」

学校の帰りらしい知広ちゃんの両手には、(かばん)とスーパーの袋が握られていた。
結構な量が入っているみたいで、袋がパンパンになっている。

「それ、重そうだな。俺も丁度『ざしきわらし』に行く途中だったし、俺が持つよ」

そう言って知広ちゃんからスーパーの袋を取り上げる。
ざしきわらし云々(うんぬん)(うそ)だけど、特に何所(どこ)へ行くとも決めてなかったし、それもいいだろう。

「それは竜樹さんに悪いのです。自分で持ちますから」

「気にするなって。知広ちゃんには世話になりっぱなしだからな。たまには年上らしい事をさせてくれよ」

「……そう言う事でしたら、お願いするのです」

「任しとけって!」

それから俺たちは並んで『ざしきわらし』に向かう。

「そう言えば、知広ちゃんって料理上手いよな」

「そうですか?」

ふと、袋の中の食材を見ながら思った事を口にする。

災魔と破壊者の話を聞いた日、初めて知広ちゃんの料理を食べた。
その後も理操術の訓練の時に、何度か軽食やおやつを作って来てくれた事があった。
どれも美味(うま)かった。

「店に出しても十分通用する味だと思うけどな」

俺なんてカレー位しかまともに作れないのにな……

「そう言ってもらえると嬉しいのです。でも、どうしてもオリジナルよりは味が落ちるのですよね……」

「オリジナル?」

「はい。そうですね……例えば昨日持って来たケーキなのですが……」

ああ、昨日は知広ちゃんがモンブランを作って来てくれて、みんなで食べたんだよな。
あれも美味(おい)しかったよ。

「あれ、実は時雨堂(しぐれどう)のモンブランをそのまま再現しただけなのです。そこから手を加えるのは苦手なのでして」

ちなみに時雨堂ってのは隣町にある有名な洋菓子店(ようがしてん)だ。

「再現しただけねぇ……」

でも、そんなもんなんじゃないのかな。
本を見ながら作れば本の料理は再現できるけど、そこから(さら)美味(おい)しくしようってのは中々難しいと思う。

「再現できるだけでも十分だと思うけどな。レシピが分からないと大変だろ」

それともどこかでレシピを手に入れたんだろうか?

「そうでもないのです。食べてみれば大体の作り方は分かりますから」

え?

「流石に一つ食べただけで完全にってのは無理ですけどね。十個くらい食べれば九分九厘(くぶくりん)いけるのです」

それって凄い才能じゃないのか?
でも漫画とかでは結構……
いや、流石に漫画の中だけの話だよな……

色々考えてしまったが、その考えはすぐに中断を余儀(よぎ)なくされる。

「うっす! 竜樹。こんなトコで何してんだ?」

いきなり後ろから声を掛けられたのだ。
振り返るとそこには友人が一人、笑顔で立っている。

咲人(さきと)か。俺は今から『ざしきわらし』に行くところ。そう言うお前は何してんだ?」

「オレか? オレは暇だからその辺をブラブラってな」

別に俺に用があるとかって訳じゃないのか。
たまたま見かけたから声をかけてみただけって所だな。

「えっと……陰宮さん、この方は?」

「あぁ、俺の友達の……」

「『舞波(まいなみ) 咲人(さきと)』だ。よろしく、(じょう)ちゃん」

そう言って笑顔を見せる咲人。

「舞波……もしかして、夏芽(なつめ)ちゃんのお兄さんですか?」

「お、夏芽の友達か? ああ。妹が世話んなってるな」

夏芽ちゃんってのは咲人の二歳違いの妹だ。
そう言えば知広ちゃんと同い年だったな。

「あ、私は深川 知広っていいます。家は『ざしきわらし』って喫茶店をやっているので、来て頂けると嬉しいのです」

「へぇ、あそこの嬢ちゃんか。今度寄らせてもらうゼ」

宣伝活動(せんでんかつどう)も忘れない知広ちゃんであった。

「ところで、竜樹」

「何だ?」

「いつの間に仲良くなったかは知らねぇケド、二股(ふたまた)は感心しないぞ」

「は?」

いきなり何を言いだしますか、コイツは……

「お前には雫がいるだろ。しかもここ最近、いつもベッタリ一緒だったじゃねぇか。それなのに雫が部活に行ってる隙に、嬢ちゃんと一緒に嬢ちゃん家に行くんだろ。何か(やま)しい事でもあるんじゃないか?」

「何もねぇって! 前に世話になった礼に荷物持ちを買って出ただけだ!」

「どーだか。何か下心でもあるんじゃねぇのか? 人気の無いところへ着いたらいきなりガバッ! っとか」

「そうなのですか!? (おく)(おおかみ)なのですか!? やっぱり陰宮さんも男の人……けだものなのです」

「だぁ! 何でそうなる! ……ってか、知広ちゃんも乗らない!!」

冗談で言っているのは分かる。
言動が思いっきりわざとらしいし。
でも何か、すっごく馬鹿にされてる気分になるのは何故だろうな。

「おっと、これ以上竜樹が怒らねぇ内に、オレはオサラバすっかな。じゃあな、竜樹&深川の嬢ちゃん」

咲人はそう言うと、二、三度手を振って俺達とは逆方向へ去って行った。
あいつは何がしたかったんだ?

「面白い方ですね」

「そうか? まぁ、悪い奴じゃぁないが……」

「それは分かるのです。命の炎の色が()んでいましたから」

「へぇ。そう言うの、わかるんだ」

「はい。統計学(とうけいがく)ですから、絶対と言う訳ではないのですが」

俺はまだ、命の炎を直接見る事は出来ないから咲人の命の炎が何色なのかはわらない。
ただ、知広ちゃんの話では、澄んだ山吹色(やまぶきいろ)をしているらしい。
咲人が理操術を使えれば、魔法陣の色として見えるんだけどな……

「!? 陰宮さん!」

突然、知広ちゃんが叫んだ。
その表情が瞬時に(けわ)しくなる。

「っ! この気配は!」

僅かに遅れて、俺はその理由を知る。

気配を……感じた。
いくつもの異なる色を混ぜ合わせたような灰色の気配。
無機的(むきてき)でありながら、並の人間を(はる)かに上回る命の炎の存在感。

それは災いをもたらす者……災魔の出現を伝える気配だった。


23 :黒い翠鳥 :2009/04/15(水) 09:18:14 ID:WmknrAnA

星蛍

「「纏衣解放(てんいかいほう)!!」」

(竜樹)達の声が同時に響く。
俺の常盤色(ときわいろ)と、知広ちゃんの橙色(だいだいいろ)の存在操作術式が、瞬時に纏衣を構築していく。

俺が纏うのは緑と黒を基調とした胸当てと同色の(すね)当て。
左手の肩から手の甲までが金属に覆われ、小型ながら盾らしきものが装備されている。
そして額には、竜を象った額当て。

戦うための衣を纏い、気配を感じた方向に目を向けた。

「ヒュイィィィィィィィ!!」

視線の先で、災魔が吠える。

その姿……頭は(さる)、胴は(たぬき)、手足は(とら)、尾は(へび)
こいつを俺は知っている。
前に雫と戦っていた……俺が初めて出会った災魔。

災魔はこちらをしっかりと見据(みす)え、低く(うな)っている。
どう見た所で、その狙いは……

「陰宮さん、おそらくあの災魔の標的は私達なのです。ですから、私がこの場で食い止めている間に出来るだけここから離れてください。
災魔と戦うのは破壊者の役目なのです。」

「あ、あぁ。分かった」

正直、俺と知広ちゃんの戦力には雲泥(うんでい)の差がある。
助けにならないのなら、足手纏いにならないようにするのが正解だろう。

「だけど知広ちゃんは一人で大丈夫なのか? 確か戦闘は苦手なんじゃ………」

纏衣の呪布の説明を聞いた時に、そんな事を言っていた記憶がある。
自分は主に後方支援(サポート)担当だと。

だけど、そんな心配をよそに、知広ちゃんはにこりと笑うと……

「大丈夫なのです。確かに他の破壊者の方と比べると見劣りするかもしれませんが………それでも陰宮さんよりはずっと強いのです。
冬至さん達が来るまでの時間稼ぎくらい、問題ありません」

そう答えて、知広ちゃんは前へ出る。

「まずは、『散命領域(さんめいりょういき)!』」

知広ちゃんの足もとに橙色の術式が輝き、それが周囲に向かって広がっていく。

この理操術は、災魔の使う『集命領域(しゅうめいりょういき)』と正反対の効力を持つ。
つまり、術式の中から人を払う力があるのだ。
災魔と破壊者の戦いに一般人を巻き込まないようにする為と、仲間に災魔の出現を知らせる役目がある。

破壊者の戦いでは、まずこの理操術を使うのが定石(じょうせき)なのだそうだ。

「来なさい! 貴方(あなた)の相手は私なのです!」

「ヒュイイィィィィィ!」

それに応じるように災魔が雄叫(おたけ)びをあげた。
同時にその四肢(しし)が大地を蹴り、知広ちゃんに向かって駆け出して来る。
その速度は、以前見たときよりも更に増している。

「龍の火炎弾!!」

対して知広ちゃんは、災魔を迎撃するために理操術を発動させた。
(いく)つもの炎の塊が生み出され、それが災魔めがけて連続して放たれる。

「キュイイィィィィィッ!!」

迫る火球に対して、災魔が吠える。
衝撃波が、いとも簡単に火球を打ち消した。
この程度の炎では足止めにもならない。

「でしたら、白輪の……」

「キュイィ!!!」

知広ちゃんはすぐに別の理操術を使おうとしたけど、もう間に合わない。
それよりも早く、災魔が飛びかかる。

「知広ちゃん!」

災魔の爪が、無防備な知広ちゃんに向かって振り下ろされ……

「ヒョオゥ!?」

「え!?」

……そのまま知広ちゃんの体をすり抜け、地面に突き刺さった。

そして、そこに居たはずの知広ちゃんの姿が蜃気楼(しんきろう)のように消え去る。

「何処を狙っているのですか?」

声を追って振り向くと、知広ちゃんは近くの民家の屋根の上にいた。

「どうしました? 私はここなのです」

「ヒョォ!! ヒュイイイィィィィィィィッ!!!」

挑発された災魔が、そこに向けて収束咆哮を放つ。
だが結果は同じ。
収束咆哮は知広ちゃんの体をすり抜け、そこにあった姿が()き消える。
そしてその時、知広ちゃんの姿は災魔の背後にあった。

「無駄なのです」

そう言った知広ちゃんのストールが、静かに風になびいた。

知広ちゃんの操るストールの纏衣武装『レインボー・ファントム』。
それは光を操作し、幻影を作り出す。
さっきから災魔が攻撃していたのは『レインボー・ファントム』によって作り出された幻だった。
しかも、自分の声を再生する理操術を中に組み込む事で、より本物との区別をつき難くしている。

「ヒュイィィッ!!」

自分の背後にいる破壊者に気付いた災魔は、振り返り様に爪を振るい、破壊者を切り裂こうとする。

だけど、それもまた幻。
その爪は幻をすり抜け…………ガキンと言う金属音と共に、幻の中の何かにぶつかった。

直後、その何かが爆発した。

「ヒョオオォォォゥゥッ!!!」

瞬時にして炎が燃え上がり、爆風と爆音が周囲を震わす。
その爆発が災魔の前足の片方を吹き飛ばした。

「どうですか? 冬至さん謹製(きんせい)空中機雷(くうちゅうきらい)坑魔兵装(こうまへいそう)星蛍(ほしぼたる)』の威力は」

本物か幻かは分らないが、少し離れた位置に知広ちゃんが立っている。

訓練の中で冬至から聞いた。
坑魔兵装───それは抗魔装甲と対を成す、もう一つの対災魔用兵器。
冬至が作った擬似的(ぎじてき)な纏衣武装。

知広ちゃんに足りない攻撃力を補うためのもう一つの武器。
空中に浮遊し、知広ちゃんの意思一つでいつでも爆破可能な爆弾。
それが、空中機雷の坑魔兵装。
名を……星蛍(ほしぼたる)

ちなみに、坑魔兵装と抗魔装甲は基本的に同じ物だ
武器か防具かで冬至が適当に分けているらしい。
アバウトだなぁ……

「ヒュイイィィィィィ!!」

足の一つを破壊された災魔が唸る。
災魔の本体は、体の中を自在に移動する核であり、その体は理操術で作られた仮初めのものでしかない。
だから全身を粉々にしたとしても、その核を壊さない限り再生する。
この程度のダメージじゃ、足はすぐ元に戻ってしまうだろう。

だけど、災魔が体を再生させるためには、命の炎を使って体の存在情報(そんざいじょうほう)再度構築(さいどこうちく)し直さなければならない。
この災魔がどれくらい命の炎を持っているのかは分からないけど、いずれは命の炎が底をつき、再生も行動も不可能になる。
災魔だって不死身ではないのだ。

黒い霧のような物が集まり、災魔の前足を形作る。
再生を終えた災魔は、すぐさま知広ちゃんを狙って飛びかかる。
だが、その爪も牙も、知広ちゃんの幻影を()でるだけ。
その度に星蛍の爆発が、災魔の体を削っていく。

「そんな単純な攻撃では、当たらないのです」

相手の攻撃を幻影で華麗にかわし、星蛍の配置された空間へと誘導する。
そんな知広ちゃんの戦いぶりに、俺はいつの間にか見惚(みほ)れていた。

「キュイイイィィィィッ!!」

だから……忘れてしまっていた……

「陰宮さん! 危ない!!」

「へ?」

俺は逃げなければ(・・・・・・)ならなかった(・・・・・・)事を……

「キュゥイイイィィィィィィィィィィッ!!!」

災魔の狙いがは、いつの間にか俺になっていた。
それに気付いた時、既に目の前には、振り上げられた災魔の爪があった。


24 :黒い翠鳥 :2009/05/15(金) 10:20:10 ID:WmknrAnA

振り向かずに往け

災魔の爪が振り下ろされる。
鋼鉄以上の強度を誇る纏衣でさえ、布きれのように引き裂く獣の刃。
触れればまず無事では済まない。

だけど、(竜樹)はとっさに何をする事もできず────

「陰宮さん!!!」

────横から突き飛ばされた。

僅かに遅れて、俺が居たはずの空間を災魔の爪が通過する。
その直後、災魔の眼前で爆発が起こった。
爆発に巻き込まれた災魔は、四肢を砕かれながら後方へ吹き飛ばされる。

一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。

「大丈夫ですか?」

隣に、知広ちゃんが俺を(かば)うようにして倒れていた。
ここで、やっと理解した。
災魔の爪が振り下ろされた瞬間、知広ちゃんは俺を押し倒す事で強引に回避をさせたのだ。

そして、至近距離から星蛍を使った。
俺に届かないように自分の体を間に挟んで…………

「俺は大丈夫……だけど……」

知広ちゃんは……痛々しかった……
至近距離で放たれた星蛍は、知広ちゃんの背を焼き、大きな火傷を作っている。

「私は平気なのです。このくらい、理想術ですぐ治せますから」

そう言って知広ちゃんは立ち上がる。

「それよりも、陰宮さんは早くここから離れてください」

「で……でも……」

こんな状態の知広ちゃんを置いて、自分だけ逃げるのか?
万全の状態ならばそれが正解だろう。
だけど、今は……

「陰宮さんがいても、戦力にはならないのです。それに、陰宮さんが居れば、私は陰宮さんを守りながら闘わなくてはなりません」

その通りだった……
最初に言われた通り、俺が早くこの場所から離れていれば、知広ちゃんは災魔だけに集中する事が出来た。
俺を守る必要もなく、火傷も負わずに済んだだろう。

「でしたらどうする事が最良なのか、分かっていただけると思うのです」

「………わかった。けど、知広ちゃん、大丈夫なのか?」

「はい、陰宮さんも見ていたはずなのです。私は一度も、災魔の攻撃を受けていませんから」

そう言うと知広ちゃんは、起き上った俺の体を散命領域の外の方へと向け、軽く背中に手を当てた。

「行ってください。このまま振り返らずに全力で………後ほど、勝利の朗報(ろうほう)をお届けするのです」

「ああ………待っている………」

そのまま俺は、戦いの領域の外へと────走り出した。



         ◇            ◇            ◇            ◇



陰宮さんが走り去るのを見届けて、(知広)は再び災魔へと視線を向けた。
丁度、災魔の方も四肢の再生が終わったようです。

「ヒュイイィィィィィ!」

災魔は(うな)りを上げると、散命領域の外へと向って駆け出します。
攻撃の当たらない私を無視して、陰宮さんの方を追うつもりですか。

でも……

「行かせないのです!」

直後、災魔を襲う星蛍の爆発。

そのパターンは既に予測済みなのです。
その通り道には、核を砕くのに十分な星蛍を仕掛けてあります。
これで……

「キュイイイィィィィッ!!」

「っ!!」

その爆発から、健在な災魔の姿が現れました。

「……防御力を、上げてきたのですか」

再生するときに、存在情報(そんざいじょうほう)を書き換えていたようですね。
でも、その為にはかなりの命の炎を使ったはずです。
その気配の大きさから考えて、再生可能な回数は片手で足りるでしょう。

「でしたら、こちらも威力を上げます!」

星蛍にそれだけ命の炎を使う分、背中の治療が(おろそ)かになりますが、仕方ありません。
先ほどの三倍以上の命の炎を込めた星蛍を、レインボー・ファントムで不可視に変える。
威力を上げた分、数が減ってしまったのが難点ですが、これを散命領域のいたる所に配置。

ここはもう見えない地雷原────私の領域です。

当然、私の姿もレインボー・ファントムで消し去り、同時に複数の幻影を作ってかく乱する事も忘れません。

「ヒュイィ……」

しばらく、私と災魔はにらみ合っていました。
星蛍を警戒しているのでしょうか、仕掛けてくる様子がありません。

それならそれで、一向に構いません。
星蛍は微速(びそく)ながら動かす事が出来ます。
これで包囲網を狭めれば……

「キュイイィィィィィッ!!」

突然、災魔が吠えました。
収束咆哮では無い、広範囲に衝撃波を広げる咆哮。
でも、大した威力ではないのです。
理想術を使わなくても、纏衣だけで十分に防ぎきれる威力。

何のつもりですか?
星蛍の誘爆を狙った?
それとも、攻撃が当たらない事に業を煮やして、全体攻撃を仕掛けてきた?

どちらにしても、攻撃力が低すぎる……

「……!! まさか!?」

気付くよりも一瞬早く、災魔が動いた。
不可視のはずの星蛍を巧みにかわしながら、幻影に惑わされる事なく近づいてくる。

防御……いえ、回避を!
駄目、間に合わない!!

「ヒュイィ!!」

「きゃぁっ!!」

災魔の突進によって弾き飛ばされた私は、近くの建物の壁に叩きつけられた。
コンクリートの壁が、人型にめり込む。
纏衣を着ていなかったら、多分即死でした。

「…っくぅ………」

全身を走る痛みをこらえながら、立ち上がる。
すぐに、災魔が再び吠えた。

これで確信した。
あの咆哮は攻撃じゃない。
反射した音から障害物の距離と方向を測定し、視覚で捉えられない物の位置を把握する────
あれは……ソナーなのです。

気付くのが遅すぎました。
全身の痛みで、体が言う事を聞いてくれません。
回復する時間なんて、与えてなどくれないでしょう。
逃げることすら、今の私にはできません。

でも、私だって破壊者なのです!
レインボー・ファントムが無力でも、私には冬至さんの作った星蛍があります。
まだ、諦めるには早いのです!

いま、私に出来る最大威力の星蛍を精製(せいせい)……
これを攻撃に合わせてカウンターで爆発させれば、災魔の核まで届くはずです。

問題は、私もその爆発に巻き込まれてしまう事ですが……
耐えれば……耐え抜けばいいだけです!
私は、まだ生を諦めてはいませんから!!

さぁ、勝負なのです!!!


25 :黒い翠鳥 :2009/06/16(火) 13:17:55 ID:WmknrAnA

選択した後悔

……走る……

………走る………

…………走る…………

全力で、振り返らずに……ただひたすらに逃げる。
自分を守る為に傷ついた、少女に背を向けて。

いいのか?
本当にいいのか?

「……クッ!」

間違ってはいない。
これが、最良の選択のはずだ。
何度も、自分に言い聞かせる。

心配する必要は無い。
知広ちゃんは……強い。
(竜樹)なんかよりずっと……

あの子が負けるはずが無い。
何度も何度も、繰り返す。

それでも、不安は収まらない。
それは、あの背中を見てしまったからか……

自分のせいで負ってしまった火傷は、軽いものではなかったはずだ。
もしそれが、致命的な事態に繋がったとしたら……
一度考えてしまうと、負の思考の連鎖は止まらない。

走り出して直後に一度だけ、それ以降聞こえなくなった星蛍の爆発音。
それが余計に、不安を掻き立てる。

間違えるな……走れ……全力で……振り返らずに!
俺が戻ったところでどうなる!
ただの足手纏いにしかならないじゃないか!

遠くから声が響いてくる。
それは、知広ちゃんと戦っていた災魔の咆哮。
嫌な予感が、全身を駆け巡る。

いや、駄目だ!
間違えるな!

俺が戻ったって、何もできやしない。
破壊者でない俺には、災魔と戦う力なんて無い。
そう望んだのは、破壊者にならない事を選んだのは、俺自身の筈だ!!

「くっそぉぉぉぉ!!!」

叫ぶ───己の無力を嘆いて。

叫ぶ───己の浅はかさを呪って。

叫ぶ───抑えきれない不安から逃げる為に。

『私達に…それを止める力があるのなら……私は戦う………私にも…失いたくない人がいるから……』

不意に思い出された言葉。

なぜ、災魔と戦うのか。
それを聞いた俺に返された、雫の答え。

俺にだって、大切な人がいる。
知広ちゃんだって、失いたくない人の一人だ。
だけど、俺には災魔を倒す力は……災魔を止める力は……

「……っ!!」

踏み締めた右足が、強引に体を静止させる。
それを軸にして、ねじるように体を反転。
舗装されたアスファルトの大地を蹴り、今までと逆向きに走り出す。

「忘れてんじゃねぇぞ! 竜樹!!」

自分に向って叫ぶ。

「確かに俺は破壊者じゃない! でもな!」

加速する。
体が軽い。

「正式な契約じゃなくても、俺だって『破壊者の契約』をしたんだ!」

纏衣が──その証が、イメージを──想いを現実に映し出す。

「俺にだって纏衣が──守るための力があるじゃないか!」

想いを速さに変えて、もと来た道を駆ける。

戻ったところで、何も出来ないかも知れない。
もしかしたら、後悔する事になるかもしれない。
でも───戻らずに後悔するよりはずっといい!

再び響く咆哮。
視界の遥か先に映る災魔の姿。
知広ちゃんの姿は見えない。
レインボー・ファントムで姿を消しているのか?

災魔の視線の先に、人型に陥没したコンクリートの壁が見える。
嫌な予感が、全身を駆け巡る。

災魔が、壁の人型に飛びかかろうとする仕草を取った。
間違いない。
あそこに知広ちゃんがいる!

「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

声を上げながら更に加速!
散命領域に侵入し、災魔との距離が一気に縮まる。

災魔が人型の窪みに飛びかかった瞬間、俺も最後の一歩を蹴る。
そのまま、空中の災魔に向かって………

薄翼(はくよく)旋風(つむじかぜ)!!!」

命の炎を思いっきり込めた理操術を───叩き込む!!

「ヒョオォゥ!!」

災魔の横っ腹で発動した理想術が、巨大な力の塊となって災魔を弾き飛ばす!
短い叫び声を上げながら、災魔は向かいの建物の塀に高速で突っ込んでいく。
それでもなお止まらず、そのまま塀を砕いて建物の中に消えて行った。

思いのほか威力があったんで俺自身驚いたが、今はそんな時じゃない。

「知広ちゃん。えっと、そこにいるんだよな」

俺が視線を向けた一見何も無い空間に、知広ちゃんの姿が現れる。
立っているだけでやっとと言った感じで、それでもその瞳は力強く俺を見据えていた。

「………どうして、戻って来たのですか?」

半分、(とが)めるような視線。
でも、俺は臆さず応えられる。

戻ってきた理由を──この選択を選んだ理由(わけ)を。

「何か、嫌な予感がしてね。もし、そのまま逃げていたら、きっと後悔するような気がしたんだ」

そのまま、災魔の突っ込んでいった建物の方を向く。

「だったら、どっちにしろ後悔するかもしれないなら、やれる事全部、やってから後悔したいと思ってね」

『薄翼の旋風』は本来、相手との距離を取ったり、体勢を崩したりする為に使う理想術だ。
それ自体にダメージを与える効果は無い。
壁にぶつけた程度で倒せる相手なら、知広ちゃんがとっくに倒している。

「ヒュイイィィィィィ!」

予想通り、無傷の体で現れる災魔。

「確かに俺は破壊者じゃない。でも、俺だって理想術は使える。盾代わり位にはなれるはずだ」

正直、俺に出来るのは時間稼ぎが精々だろう。

だったら、とことん時間を稼いでやる!
知広ちゃんの傷が癒えるまで。
その星蛍が、災魔を倒すまで!

「俺の盾は、絶対に君を守り抜く。だから、今は回復に専念して。知広ちゃんには、あいつを倒してもらわないといけないからね!」

「……はい!」

そう答えた知広ちゃんの体を、橙色の存在操作術式が包み込む。
あれは確か、『天満月(あまみつつき)』って言う回復の理想術。

「ヒュイィィ!」

災魔が短く唸り、姿勢を低くする。
飛びかかる前の予備動作。

対して俺は、左腕に装着された小さな盾を構える。
今、俺の持つ最堅の盾で迎え撃つ為に。

「キュイイィィィィィ!」

災魔が飛びかかる。
その爪に、鋼鉄すら切り裂く破壊力を宿して。

でも、これから先には、一歩たりとも通さない!!

「『黒鱗盾(こくりんそう)!!』」

その言葉とイメージを元に、纏衣が命の炎を燃料にして、俺の望む術式を組み上げる。
黒い半透明の盾が俺の眼前を覆い、災魔の爪を阻む。
金属通しがぶつかる様な音が響き、鍔迫り合いの如く俺と災魔はお互いに激しくせり合う。

「…ッ…」

襲いかかる巨大な重圧。
目の前に迫る、人知を超えた怪物の恐怖。
それが、一瞬ごとに俺の精神を──命の炎を削っていく。

だけど負ける訳にはいかない。
知広ちゃんが災魔を倒すまで、俺は絶対に倒れない!!



         ◇            ◇            ◇            ◇



『黒鱗盾』に守られながら、(知広)は『天満月』の術式を紡ぐ。

全く、陰宮さんも無茶をするのです。
危うく最大火力の星蛍に巻き込んでしまうところでした。

でも、おかげで助かったと言ってもいいでしょう。
あの方法で私が生き残れる確率は、かなり低かった筈ですから。

今、陰宮さんは私の目の前で、災魔との戦っています。

『絶対に君を守り抜く』

その言葉通り、幾度となく繰り出される災魔の爪は、決して私の所に届く事なく『黒鱗盾』に阻まれていした。

陰宮さんにとって、災魔と正面から戦うのは初めての筈です。
経験した事の無い命のやり取り。
怖くないはずは無いのです。
それでも、彼は戦っています。

なら、私がそれに応える方法はひとつです。
陰宮さんが守ってくれている間に、確実にあの災魔を倒せるようになっておくこと。
その為にはせめて、まともに体が動かせる位には回復しておかなければ話にならないのです。

でも、時間的な余裕はそうありません。
『黒鱗盾』は確かに強力な理操術なのです。
あれを破壊するのは私でも骨が折れるでしょう。

ですが、それほどの理操術…………理解者になってまだ間もない陰宮さんがどれだけ維持出来るのでしょうか。
あの盾は、長くは持たない筈です……

今の状態で、最も短時間で準備できる作戦は……

武器になりそうなのは先ほど周囲一帯に配置した星蛍。
相討ち覚悟で精製した最大火力の星蛍もまだ手元にあります。
これを同時に爆発させれば災魔の核を破壊するには十分です。
もちろん、私たちが巻き込まれないように、ある程度離れた位置で爆発させる必要があります。

「陰宮さん!」

そう言って、ある理操術を展開した右手で陰宮さんの背に触れます。

思考共有(しこうきょうゆう)

その名の通り、私の思っている事をそのまま陰宮さんに伝えることのできる理操術です。

伝えたのは災魔を倒す作戦。
星蛍を一か所に集め、そこに災魔を『薄翼の旋風』で弾き飛ばし、一斉起爆。
単純ですが、すぐにでも実行可能な策です。

ですから、あと少しだけ頑張ってください。
それはちゃんと伝わったようで、陰宮さんは一瞬だけこちらを向くと力強くうなずいてくれました。

戦闘中の余所見は危険なのです。

周囲一帯に配置された星蛍を、全速で一か所に移動させます。
手元の星蛍は、思いっきりぶん投げてそこに近づけました。
元々そんなに早く移動させる事は出来ないのですが、今回はいつも以上に遅く感じます。

そんな焦れったい時間が過ぎ、星蛍の配置が終わったのは時間にして僅か四・五十秒後の事でした。
その時間が、私にはずっとずっと長く感じられました。
陰宮さんの『黒鱗盾』は…………大丈夫、まだ健在なのです。

丁度災魔が陰宮さんから距離を取り、様子を窺っているようでした。
あと必要なのは、『薄翼の旋風』を確実に決められる一瞬の隙。
それを生み出す方法を『思考共有』で伝えます。
勝負は、次に災魔が飛びかかって来たとき!

「キュイイィィィィィ!」

姿勢を低くした災魔が、全身のバネを使って一気にこちらに飛びかかってきました。
そのまま陰宮さんめがけて爪を振り下ろし……

「ヒョオゥ!?」

その爪が、陰宮さんをすり抜けます。
それは、レインボー・ファントムの幻なのです!

攻撃を外した事でできた無防備な一瞬。
その一瞬に肉薄し、『薄翼の旋風』を……

「!!?」

その瞬間、全身を駆け巡る強烈な痛み。
急な全力での動作に体が悲鳴を上げていました。
体が、完全には回復していなかったのです。

焦り過ぎました。
いくら短期決戦の必要があったからと言って……
それは、致命的な隙を作る事を知っていた筈なのに。

その痛みで、全てが遅れました。
『薄翼の旋風』の展開は間に合わず、災魔もすでに次の攻撃態勢に……

振り下ろされる災魔の爪。
防御も、回避も間に合わない。
その時私は、覚悟していました。
破壊者として戦う以上、常に隣に存在する『死』と言う可能性を……

でも、その爪が私に届く事はありませんでした。
災魔の爪が、私の目の前で止まったのです。
まるで、見えない何かに遮られるように。

「ヒュオゥ!?」

災魔が不思議そうな顔をした、その瞬間でした。

「『薄翼の旋風!!!』」

災魔の体が吹き飛ばされ、星蛍を仕掛けた場所に突っ込んでいきます。

「知広ちゃん、今だ!」

「!!」

その声で、私は我に返りました。
今、私がやらなければいけない事は……

「星蛍、一斉起爆です!」

その瞬間、災魔の体は星蛍の引き起こした紅蓮の大爆発の中に飲み込まれていきました。


26 :黒い翠鳥 :2009/07/14(火) 20:59:37 ID:WmknrAnA

決意とヒーロー

爆発の煙が晴れた時、そこには何も無かった。
あった物は全て、星蛍の一斉起爆によって砕かれ、消し飛ばされていた。

「………勝った……のか?」

「……はい、もうあの災魔の気配はありません」

(竜樹)の問いに、知広ちゃんが静かに答えた。

既にレインボー・ファントムの幻影は解かれ、俺の姿は知広ちゃんの前に現れている。
さっき透明なまま話しかけたらかなり驚かれたんだが……自分でかけたのに忘れてたのか?

「はぁ〜〜〜、疲れた〜〜〜」

そう言って倒れるように地べたに座り込む。
正直なところ、まだ手の震えが止まらない。
怖かった……足が(すく)まなかったのが不思議なくらい。

でも、勝ったんだ……
俺も、知広ちゃんも生きている。

知広ちゃん達は、こんな闘いをずっと続けてきたのか……

「なぁ、知広ちゃん。ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「なんですか?」

「破壊者になるには、どうすればいいんだ?」

座ったまま知広ちゃんを見上げ、俺はそう言った。

「………どういう心境(しんきょう)の変化なのですか? 前は破壊者になる気は無いと……」

「後悔しちゃったんだよ。戦いを、知広ちゃん一人に任せて逃げた事をさ……」

もしかしたら俺が戻らなくても知広ちゃんは災魔を倒していたかもしれない。
でも、そうでない可能性だってあった。
知広ちゃんが災魔に敗れるという未来もあり得たのだ。

今回に限った事じゃない。
これからずっと続いて行く戦いにも、常にその可能性は付きまとう。

それでも知広ちゃん達は、大切な人達を守る為に戦い続けてきた。
だったら、俺が破壊者になって知広ちゃん達を守る……なんておこがましい事は言わない。
だけど、そんな知広ちゃん達を置いて、自分だけ逃げたくは無い。

「もう後悔はしたくない。俺にだって、守りたい人がいる。その為に、戦う力が欲しい!」

もしかしたら、俺にも守れるかも知れないのだ。
ずっと、俺を守ってくれていた破壊者達を。

「陰宮さん……その場の勢いで言っていませんか?」

「そうかもな。いつかこう言った事を後悔する時が来るかもしれない。でも、言わずに後悔するよりはずっといい」

「……………」

知広ちゃんは無言で俺を見つめていたが、やがてニコリと顔を緩ませ………

「分かりました。ですが、今は気分が昂っているからそう思っているのです。一度冷静に考えて、それでも気が変わらなければ、明日、もう一度聞かせて下さい」

「あぁ、そうするよ。でも、思いは変わらないと思うけどね」

そう、この決意は変わらない。
そして、俺も知広ちゃんにほほ笑み返そうとした…………その時だった。

「「!?」」

感じ取ってしまった。
知広ちゃんも気付いただろう。
灰色の────災魔の気配を。

「そんな、あれでもまだ倒せなかったのか!?」」

「いえ、これは……」

気配の方向に黒い霧が集まり、災魔の姿を形作る。
柄の無い(つち)のような体と、目も鼻も無い頭のてっぺんにある巨大な口。
蛇のようにも見えるその全身には無数の毛が生えている。

さっきの鵺のような災魔とは全然違う。
えっと…………野槌(のづち)ですか? コレ……

「……って、二匹目かよ!」

やばい。
さっきの戦いで結構命の炎を消費している。
知広ちゃんだってまだ完全に回復した訳じゃない。

もしこの災魔がさっきの災魔と同レベルの力を持っていたら……

俺は立ち上がり、知広ちゃんを庇うように前えへ出る。
今、災魔を倒せるのは知広ちゃんだけなのだ。
『黒鱗盾』の存在操作術式を展開する。

黒い半透明の盾が、災魔を(さえぎ)るように俺の左腕に出現した。
鎌首を持ち上げ、襲いかかる隙を窺っている災魔。
相手がどんな力を持っているのかは分からないけど、さっき誓ったばかりだ!

「知広ちゃんが戦えるようになるまでは、俺が指一本触れさせない!」

折角(せっかく)だが、竜樹(マイ・フレンド)。それは吾輩の役目なのである」

「え?」

突然、俺の前に何かが舞い降りた。
災魔と俺達との間に降り立ったそれは、金と銀の装甲に包まれたメタルヒーロー。

「右手に勇気! 左手に希望! 愛と正義をこの身に纏い、災いの魔物打ち砕く! 闇を貫く銀の閃光───超甲星! エルクシオン!!! 只今参上!」

シャキン!! と言う効果音と共にポーズを決め、災魔に向かって名乗りを上げた。
同時に炸裂する五色のバックファイヤー。

うゎ、危な!
今、目の前で爆発したぞ!?

「エルクシオン! 来てくれたのですね!」

「うむ。ヒーローはヒロインのピンチには必ず()け付けるのである!」

えっと、すみません。
俺だけ話について行けてないんですけど……

「なぁ、知広ちゃん。こいつ、冬至だよね」

俺の事、マイ・フレンドって呼んだし。

「そうですよ。 あ、でも、変身してる時はエルクシオンって呼んであげて欲しいのです」

ノリがいいんだね、知広ちゃん。
ついでに知広ちゃんは冬至のヒロインですか。そうですか。

「ブオ〜〜〜」

突然現れた妙な(やから)に、災魔が威嚇(いかく)の声を上げる。
野槌が鳴くのかは知らないが、コイツはこんな風に鳴くんだ……

「ナックル・オン」

エルクシオンの右腕に白銀のガントレットが装着される。

「ファースト・ブーストォ!!」

全身に装備されたブースターが展開し、そのから炎が()れる。
それを推進力にして、一気に災魔に肉薄(にくはく)する。
野槌のような災魔もその巨大な口を持って襲いかかるが、加速したエルクシオンの速度には追いつけず、むなしく空を切るだけだった。

「クロック・ブレイカー!!!」

エルクシオンの拳が、災魔に炸裂(さくれつ)する。
ダメージは大した事は無い。
災魔なら五秒とたたずに復元してしまうような小さな傷。

しかし、それが再生する事は無かった。
いや、再生する時間が与えられなかった。
災魔の動きが、展開された術式の中で停止する。
エルクシオンの攻撃が炸裂した瞬間から、災魔の時間が破壊されたのだ。

「来い! ランドパンサー! カノンモード!」

突然どこからか一台のバイクが走って来た。
それは空中に踊り上がると、五人組のヒーローが怪人に止めをさす時に使うようなバズーカ砲へと変形する。
五人がかりで使うような巨大なバズーカ砲をエルクシオンは軽々と持ち上げ、災魔へとその標準を合わせた。

「愛と正義を力に変えて、未来を照らす光となす! 今、必殺の──シャイニング・E・ブラスター!!!」

バズーカ砲から五色の光線が混ざり合うように放たれる。
それは理操術に(とら)われた災魔に命中し大爆発を引き起こした。
紅蓮の炎が燃え上がり、辺りを真っ赤に染め、災魔の体を……核を焼き尽くす。

「バースト・エンド!!!」

再度起こる大爆発。
その爆発に背を向け、ポーズを決めるエルクシオン。
何かカッコいい……

そして炎が消えたとき、災魔の気配は完全に消失していた。

「大丈夫か? 知広にマイ・フレンド」

「ああ」

「大丈夫なのです」

次の災魔が現れる気配は無い。
どうやら、これでやっと終わったらしい。

二匹目が出てきた時にはどうしようかと思ったが、何とか今無事に生きている。
戦いの場に戻ってきたことを後悔せずに済みそうだ。

「ありがとう、冬至。おかげで命拾いしたよ」

「ノンノン。吾輩の名はエルクシオンだ」

……やっぱ、そう呼ばないと駄目なのか?

「ありがとう、エルクシオン。おかげで助かった」

「なぁに、知広とマイ・フレンドが無事で良か……っ!?」

突然、エルクシオンが明後日の方を振り返った。

「どうした? 冬……エルクシオン」

俺もその方向を見るが、遠くにある背の低いビルと銭湯の煙突位しか見えるものは無い。
特に変なところは見当たらないけど……

「ちょっと野暮用(やぼよう)を思い出したのである。吾輩はこれにて失礼!」

そう言うとエルクシオンはブースターを()かせながら飛び去ってしまった。
何だったんだろう……
まぁ、とりあえずは一件落着か。

それよりも、今凄く気になっている事がある。
この戦いで建物とか結構破壊されちゃったんだけど、どうすればいいんだろう……コレ……



         ◇            ◇            ◇            ◇



「あーぁ。やられちゃったか、あの災魔。結構な量の命の炎を分けてあげたんだけどなぁ」

竜樹達のいる場所から遠く離れたビルの上で、少年は一人呟いた。
その視線は二匹の災魔が倒された場所に向いている。
ここからその位置まで1km以上離れていると言うのに。

「一人くらい削れるかなって思ったけど。結構強い『守護者(ガーディアン)』が居るみたいだ」

自分より(はる)かに弱いとはいえ、それなりの強さの災魔だった筈だ。

特にあの鎧を着た奴。
後詰めに一匹目よりも(・・・・・・)強い災魔(・・・・)を仕込んでおいたのに、それをあっさりと倒されてしまった。
(あなど)ってたら、痛い目を見そうだ。

「もう少し情報を集めた方がいいかな……あっ」

鎧を着た奴がこっちを振り返った。

「ありゃ、気づかれちゃったか」

気配は押さえてたんだけどな……
悠長(ゆうちょう)に構えていたら、すぐにやって来るだろう。

ここで一戦交えるのも悪くは無いけど……

「こっちもまだ本調子じゃないし、今日は引こうかな」

そう言った少年の背中から、薄い結晶のような羽が現れる。

「じゃ、次に会える時を楽しみにしているよ」

決して相手には届かない言葉を残しながら、少年は青い空の中へ飛び去って行った。


27 :黒い翠鳥 :2009/08/15(土) 15:09:33 ID:WmknrAnA

エピローグ

「うむ……やはりマイ・プロフェッサーとの連絡は取れぬか」

喫茶店『ざしきわらし』の地下。
その一室でパソコンを操作していた吾輩(冬至)は、ふとキーボードを叩いていた手を止めた。

「お疲れさま。どうでした?」

「予想通りであるな。『久神(ひさがみ)機関』に問い合わせたのだが、行方不明との事である」

知広が運んできたコーヒーを手に取り、口をつける。
うん、美味い。

「大方、どこかの世界で厄介事にでも首を突っ込んでいるのであろう。まぁ、マイ・プロフェッサーなら心配するだけ無駄と言う物だ。」

「確かにそうなのです」

マイ・プロフェッサーをどうこう出来る存在など、そうそうおらぬ。
かの、『雪白のレグナス』でもなければ……

「ところで、マイ・フレンドの方はどうであるか?」

「先ほど天花さんの所へ向われました。海月さんが付いて行かれましたから、道中の危険は無いと思うのです」

あの戦いから三日。
今日、マイ・フレンドは完全な『破壊者の契約』を行い、はれて破壊者となる。

結局、心変わりはしなかった。
予想通りと言えば予想通りである。
それほど長く一緒の時を過ごしてきた訳では無いが、伊達(だて)に吾輩もマイ・フレンドと呼んではいない。

面倒くさがりに見えて、意外に意志が強い。
特に、友の為ならば尚更………
マイ・フレンドはそう言う奴なのである。

「破壊者として言うならば、マイ・フレンドが戦力に加わってくれるのは頼もしい限りである」

「そうですね。先日の戦いでは危ない所を助けてもらいましたし。あの時の陰宮さんは格好良かったのです」

「なんだ、惚れたのであるか?」

吾輩、嫉妬(しっと)なのである。

「まさか。冬至さんの方が格好良かったですよ。それより『破壊者として』と言う事は、本音の方はどうなのですか?」

「できれば……マイ・フレンドには戦いを知らぬまま理解者でなくなって欲しかったのである」

本来この世界に足を踏み入れるのは、吾輩だけで十分だった(はず)だ。

「吾輩が……『久神(ひさがみ)使徒(しと)』が居ながら、マイ・フレンドを巻き込んでしまう事になるとは情けない」

「……そうですね。私がもっと強ければ、陰宮さんが戦う必要もなかったのです」

「あ、いや、知広が気にする必要は無いのである」

少々不味い話題だったであるか。

「それより、マイ・フレンドが破壊者になると言うのであれば、吾輩も全力で答えるべきであろう。気になる事もあるしな」

「私達の戦いを監視していた相手の事ですか?」

「うむ。結局逃げられてしまい姿すらまともに確認できなかったが、痕跡(こんせき)は残っていたのである」

もしかしたら、(ぬえ)の姿をした災魔に命の炎を与えたのもそいつかも知れない。

正体も目的も不明。
だけど、この件だけで終わりとは思えないのである。
何か、嫌な予感がする。

「分かりました。それなら私が調べてみるのです。戦力では(おと)るかもしれませんが、情報収集力では負けないのです。『久神の使徒』は、冬至さんだけではありませんから」

「ありがたいであるな。吾輩は情報収集において知広の右に出るものを知らぬ。これ以上頼りになる者はおらぬな」

「ふふ。おだてても何もでませんよ?」

事実を言ったまでである。
吾輩に調べられて知広に調べられない情報など無い。

「ただ、無理はしないで欲しいのである。今回の相手……もしかしたら『始祖(しそ)の災魔』かもしれないからな」

あの災魔に与えられた命の炎の量を考えれば、その可能性は決して低くない。
もしそうだったら、知広では力不足だ。

「その場合、知広は一切手を出すな。『始祖の災魔』は俺がぶっ壊す(・・・・・・)!!」

「……冬至さん。『吾輩キャラ』が崩れているのです」

「な!?」

これは俺……いや、吾輩としたことが……
吾輩は吾輩であって、吾輩なのである…………うむ、大丈夫なのである。

「すまぬ、知広。少々取り乱したのである」

「全くなのです。名前を言っただけで『素』が出るのでは、キャラを作っている意味が無いのです」

ごもっともである。
これでは『素』の自分を封印している意味がない。

「まぁ、私は『素』の冬至さんの方が好きなので、二人っきりの時はそのままでいてくれた方がいいのですが……」

「…………検討しておくのである」

面と向かって言われると恥ずかしいであるな。

「あ、そろそろ三時ですね。もうすぐクッキーが焼きあがるので、一緒に食べましょう」

「お店の方はいいのであるか?」

「まだお父さんだけで大丈夫なのです。それでは、焼け具合を見て来るのです」

そう言って出て行った知広から、吾輩は再びパソコンに視線を戻した。

まだまだやるべき事は沢山ある。
大変だが、マイ・フレンドや知広の事を思えば苦にはならないのである。

とりあえずは新型抗魔兵装の基礎理論を仕上げておく事にしよう。
今日は、泊まり込みになりそうなのである。

         ◇            ◇            ◇            ◇

日常の中の気づかぬ世界。

第一章──END

第二章に続く────


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甘辛流小説家ギルドGAIA
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