クロディス・ファイル


1 :たーとる :2007/06/02(土) 20:54:18 ID:PmQHQHoA

 ぷしゅっと、気のぬけるような音が聞こえた。それぐらい勢いよく血が吹き出たのだ。
「わぁお」
 思わず外国人っぽい反応をとってしまった。が、決して私は帰国子女なんかではない。なんかなんて付けると失礼か?
 そう、私は帰国子女のようなたいそうな者ではない。よし、OK。
 っていうか、『わぁお』が平仮名っちっくな発音ってあたりでもうそんなこと誰も思わないかってやつ。ごめんなさい、ちょっとナルシ入ってました。
 それよりも私、目の前の状況どうするんだろう?
 いきなりの出来事にちょっと考えなくても良いようなことばかり考えていた。んでもって、そんなことしても状況が変わる気配はまったくゼロ。良くなったかっていうと、悪くなりました?
 だって後は私だけだし。
 私は目の前に倒れている………死んでいるかな、これは。暗いからよく見えないけど、頭部損傷だしね。血も吹き出てたし、すぐに手当も出来ないし。時々体がびくって動いているのは多分………神経が痙攣しているからだね。
 瞳孔見たり脈計るまでは言いたくないけど………死んでるな、アレは。
 死亡時間は………あぁ、時計止まってたんだ。壊れちゃったんだね、アノ磁場のせいでさ………高かったのに、通販で。っていうかキャラものだし。レアものだし………応募者全員だから違うか………。
 死因は頭部損傷によるショック死?それともアノ勢いよく吹き出た血による失血死?とにかく笑えない死に方だろうな。
 可愛そうに。まだまだ人生これからなのに………私と一緒にいたって理由で殺されちゃうなんて。運が悪い。間が悪い。
 だから素直にそう思える。
「ごめんね」
 自然と口から言葉がこぼれる。
 あぁ、この体になって何回この単語をつぶやいただろう。きっとあの日以来、言わない日など無かったぐらい。言わない人などいなかったぐらい。
「次はおねーさん」
 少女の言葉が私に向けられる。
「あなたは………正解?」
 暗くてホントによく見えないけど、少なくとも私よりは年下。でも殺しのプロ。どうゆう世の中だよ全く。町のど真ん中に殺し屋の子供がいるなんて。
 きっと変なクスリを飲まされ続けたんだろうな。あの子は多分、体を切られても痛みを感じないだろう。拳銃で撃っても倒れないだろう。そして、今まで殺した人のことなど、微塵も覚えていないだろう。
 だから私の顔も覚えれないんだよ。
「おばかさん」
 口に出してそう言った。しかし少女は首を少し傾げる動作をしただけで、特別何も思わなかったようだ。すでに知能も低下している。
 少女の体がぐらりと傾いた。危なっかしい足取り。そして手つき。着ている制服は血にまみれている。黒い冬服なのに、赤黒い。分かりにくなこれは。
 少女が私に向かって走り出してきた。一直線に走る。そして、私の腹部にぐさりと手を刺す。腹部に違和感。鈍い感覚が私の脳に伝わってきた。
 避けられないワケじゃないのに、私はそれを拒んだ。
 これだけのためにこうなってしまった少女達。だったらせめて………死ぬその瞬間にでも、生きる意味を与えたかった。
 偽善かもしれないけど、達成感を与えたいなんて言ったら………
「あ」
 それが少女の最後の言葉だった。
 瞬間、少女の小さな背中に直径二十センチほどの穴が開いた鉄パイプが刺さる。少女はそのまま私にもたれかかるように事切れた。腹部に刺さった手は、ずるりと少女の体重に任せて抜けていった。その感触も、既に慣れた物。
 私は目を開いたままの少女の顔の当たりにしゃがむと、そっと目を閉じさせる。
「ごめんね」
 そして立ち上がった。
 向こうから一人の少女がやってくる。少女は夏服のセーラー服を着ていて、髪はかなり短い。そして無表情。
 私は少女に近寄る。
「ありがと、ひだり」
「無事………でよかった」
 少女は小さな声でそう言うと私の穴の開いた服を見る。私は心配ないよと言い、服をめくって腹部を見せた。
 先ほど少女に刺された腹の穴は、既にふさがっている。
「直るの、早くなってきたんだ。さすがだね」
 巫山戯たように言うと、少女は無表情のまま私の腹部に触れる。
「最近痛覚もマヒしてきた。もうすぐ私も人じゃなくなるんだね」
 私がそう言うと少女は小さく頷いた。
「ふふ、あと少しだもんね。それまで護衛、よろしくお願いしま〜す」
 私の言葉に、少女は再び小さく頷く。
 私の名前は由佳。遠山由佳。少女の名前はひだり。私は今不死者のなりかけだ。そしてひだりは私の護衛。
 不死者になるまでの、護衛。


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