いつからだろう。
そうすることが恥ずかしかった。
いつからだろう。
そうすることが恥ずかしくなくなった。
いつからだったろう。
自分のこんな変化に気付くようになったのは。
のぼってくのぼってく。
どんどんどんどん。
それと同時に私の心拍数も上がってく。
そしてとまった。
そして、落ちた。
「……っ!!」
腕を突っ張れば怖くない。友達がそう教えてくれたから思いっきり、これでもかというくらいに腕を突っ張る。でも、それは嘘だった。だって、怖くて声がでないから。
落ち終わって私は放心状態。
「大丈夫?」
隣に席に座っていた彼に顔をのぞかれる。
私は黙って頷いた。
彼と遊園地に遊びに来て、もうすぐ帰ろうかというころ。
私が落下系ジェットコースターが苦手と知っていて、ずっと我慢してくれてた彼。でも、ついに彼は言った。
「なぁ、一個くらい落下系のジェットコースター乗らへん?」
彼はこれでも大分我慢してくれてる。この遊園地の売りはジェットコースター。嫌というほどジェットコースターがある。それでも日も沈んだこの時間まで彼は一度も乗りたいといわずに我慢してくれてた。それはわかる。それに、もうほとんど遊園地の乗り物は乗りつくした。確かに、そう言いたくなるだろう。
嫌だ。だけど、彼はたくさん我慢をしてくれている。私だって一つくらいの我慢は必要だ。そう思い勢い余って言ってしまった。
「そうやね。せっかくやし一個くらい行っとく?」
今となっては全力後悔。いや、もういい。忘れよう。悪夢は過ぎ去ったのだから。もう終わったのだ。よくやった私。お疲れ私。偉いぞ私。
ジェットコースターから降りて、そろそろ帰ろうと出口に歩いていくと途中一際眩しいものが目にはいった。
「あ、私メリーゴーランド乗りたい」
光を撒き散らしながら、くるくると回る馬や馬車。
華やかな場所。
私は自然とそこへ目がいった。
「おー。ええやん。まだ時間あるし、いっときますか」
闇の中でまぶしいくらいに輝くメリーゴーランド。
でも、わかってる。
乗ってみればそんな華やかなものではないということを。
でも、知っている。
この光の中にしかない楽しみも。
まぶしい光に向かって彼と歩きながらふと話す。
「なんか、メリーゴーランドって動き出すとそんな激しいわけでもないやん? 正直地味やし」
どの馬が一番かわいいだろう。どの子もかわいいけれど、その中で一番かわいい馬を探す。彼は馬を選ぶわけでもなく、馬選びにうろちょろする私の後についてきた。
「でも、なんかめっちゃ楽しいんさな。なんやろ。メリーゴーランドに乗ってるってことが楽しいんさ」
一番かわいいと思える子が見つかると、思わず顔がほころぶ。塗装が剥げつつあっても、支柱が鉄臭かったとしてもそのこのかわいさには変わりがない。私にはそう思える。
「子どもの頃とかはどうやったんか覚えてへんけど、たぶん今の楽しさとは違った気がする。しかも、中学生のこととかメリーゴーランドみたいなお子様な乗り物なんて乗れへん! ……とか思って乗れんくって」
一番かわいい馬にまたがるとそれだけで、ドキドキしてくる。
彼は私の隣の馬にまたがるとおかしそうに笑う。
「でも、今乗っとるやん」
彼の乗ってる馬も塗装が取れかけている。でも、光の中だとそれもかわいく見えるから不思議だ。
「それが、逆に高校生とか大学生とかもっと上になると、また乗れるようになるんさな。なんやろうな、これ」
メリーゴーランドが動き出した。
ゆっくりゆっくり。
予想通りに地味な動き。でも楽しい。
「多少、歳くった証拠や」
彼は嫌味ではなく笑いながらそういう。
「だんだん考え方なんて変わっていくもんやから。そんな気持ちの変わりように気付けたんやから、それも……よくいえば、多少大人になったってことなんちゃう?」
彼のほうが私より少し大人だと私は思う。お互い欠点だらけで、かみ合わないこともあるけれど、最終的には彼がなだめてくれる。そして、私に新しい考え方を教えてくれる。それはとても新鮮で、驚きで。そして、また彼に惹かれていく。
自分で良いとか、嫌だとかちゃんと決めてあとから後悔しないようになりたいと思った。そのときの一番を一番大事にして。それならきっと後悔はないから。彼と過ごしてそう思えるようになった。確かに私は変わっていった。
この変化を大人になったと呼ぶのだろうか。
「なれたんかな」
疑問を口にすれば彼は笑顔で答えをくれた。
「まぁ、多少なら。きっと。もっと時間がたてばもっと変わってくるやろ」
彼のいうように、もしかしたら私たちは少し大人に近づけたのかもしれない。
でも、まだまだずっと子どもで。少し進んだだけ。子どもから一歩はなれ、大人に一歩近づいただけ。なったわけではない。
それがいい事なのかはわからない。進んだ分だけ後ろにあったものを忘れてきてしまうから。新しく知った気持ち。それと同じだけ気持ちがなくなっていく。それは、私にはいい事なのかわからない。
それでも、こう思う。
今の私は。
「変わってくかもしれんけど、今はメリーゴーランドに乗って、あなたと話して、考えて、新しいことを知って。そういうんが、めっちゃ楽しい」
昔の自分も未来の自分もそう思ってくれるかは、もうわからないし、まだわからない。
でも、今の私はそう思う。
今の私はそれがいいんだ。
「私はメリーゴーランドだいすきなんさ」
小さい頃だいすきで。
子どもっぽいと思い好きになれなくて。
それでもやっぱり。
私はだいすき。
くるくるまわる回転木馬。
まわるまわるメリーゴーランド。