JUDAS


1 :アクロス=レザストロ :2007/04/12(木) 15:36:00 ID:kmnktiY3

この作品は最近新小説広場が作られたのを知らないで、旧小説広場に 
書いた奴なんですが、再び書きます。いや、書き直します。
けど、あれとは一応違くなるようにします。
あれは放置状態でいきますので、間違えないようにしてください。
まだ、若輩者ですので下手ですが、頑張りたいと思います。
アドバイスしてくれる人がいましたら感想室に書いちゃって下さい。
遠慮しないで思った事を言いまくっていいです。
それでは『JUDAS』をお楽しみ下さい。


2 :アクロス=レザストロ :2007/04/12(木) 20:31:58 ID:kmnktiY3

序章

「脱走だー!!」
城から大声が聞こえてきた。
それを合図に、脱走した彼は走る。
その手には、一人の子供の手が握られていた。
(もう気付いたか・・・流石とでもいっておこうか・・・)
彼はそう思いながら目の前の森に飛び込んだ。

そのころ、城内は慌ただしかった。
まだ城の中にいるかもしれないから大量の兵が城を走り回っていた。
「脱走したのは?」
全身に黒い鎧をつけている大男が静かに近くの兵に聞いた。
「はっ!Fー6970と・・・もう一人」
「もう一人とは?」
男に聞かれて、戸惑う兵。
「それが・・・その・・・」
その兵の様子に苛々したのか、男は壁を強く殴る。
男に殴られた壁は、いとも簡単に砕けた。
「言え!俺の命令に逆らうつもりか!」
男の声には怒りが含まれていた。
それに怯えきった兵は慌てて答える。
「は、はい!脱走者は・・・」
兵はそこで止め、意を決したかのように続けた。
「四天王の・・・」
その先を聞いた男は驚きを隠せなかった。
「・・・あいつが・・・だと?」

彼は、森を後少しで抜ける所だった。
「もうすぐ出口だ、頑張れ!」
彼は一緒にいる子供の方を向き、呼びかけた。
そして視線を前方にもどすと、誰かが立ちふさがっていた。
「・・・ここは通さないよ」
幼げな顔をしているが、どこか大人のような雰囲気がある青年は、
手に持っている槍を構える。その槍は、2メートル程の長さだった。
「・・・おまえなら、わかってくれると思っていたのに・・・」
彼は腰の鞘から剣を引き抜く。
青年に向かって彼は駆ける。そして、青年も駆ける。
「はぁぁぁぁ!」
彼は剣を振り上げる。青年は、軽くそれを防いだ。
彼は後ろに跳躍し、青年を見る。が、そこには誰もいない。
上、そう彼は直感し、上空を見上げる。
遥か上空から、青年が槍を振り下ろしている。
「くっ!」
受け止めるのは無理だと判断したのか、彼は後ろに転がって避ける。
青年は着地すると素早く彼に向かって槍で突いた。
彼は横に跳んでかわした。少し体勢を崩したが、素早く立て直して青年を見る。
槍は突き出したままだ。隙ができた、そう思った彼は斬りつける。
青年は素早く槍を構え直し、彼の心臓部分を狙って突きを出した。
「甘いっ!」
彼は上に跳躍し、空中で一回転して剣を振り下ろす。
その剣は青年の右肩から腰まで切り裂いた。
「ぐおおおおおお!!」
青年は槍を落とした。それを見た彼は子供の手を引き、走った。
後ろで青年が倒れる音がしたが、彼は振り返らず、走った。
「・・・何故なんだ・・・ソルよ・・・」
青年の最後の言葉は、誰にも聞こえる事はなかった。


3 :アクロス=レザストロ :2007/04/13(金) 20:27:39 ID:kmnktiz3

一章

「・・・もう一度依頼内容を確認します」
ここは、ルダ王国と呼ばれる国の中心都市『モレイス』である。
とても活気に溢れている街である。
そんな街の路地裏にある、知る人ぞ知る『なんでも屋』の事務所。
その中では二人の男が話していた。
「ここから南にある廃墟で謎の集団が暴れているので、退治してほしい。
報酬は・・・五万レタ。これでいいですね?」
紅の髪と青の瞳をしている男が、依頼人に確認をする。
彼の名はジュダ・ガイアス。なんでも屋を営んでいる男だ。
ジュダには相棒がいるのだが、今は買い出しで席を外している。
ちなみにレタとはお金の単位で、日本円と同じくらいだ。
「ああ。私は廃墟探検が趣味なのだが、そいつらのおかげで探検ができないんだ」
依頼人は答えた。ジュダは少し考えていたが、
「・・・わかりました。お引き受けいたしましょう」
と、依頼を受けた。


「おう姉ちゃん、ちょっと俺達に付き合えや」
依頼人を事務所の外まで送り、相棒が帰ってくるのを待っていたジュダだったが、
帰ってこないので心配し、探しに行こうと事務所から一歩出ると・・・いた。
「困ります!やめて下さい!」
三人の男に絡まれている、透き通った青色の髪をしていて、巫女服を着ている女性を見て、
ジュダはその様子を見て呆れていた。
(この街にもまだいたんだ・・・命知らずの馬鹿)
そう思っていると、三人の男が女性によって吹き飛ばされた。
一人ジュダの方向に飛んできたが、ジュダは軽くかわした。
「なにしてんだよ、セーラ」
ジュダに声を掛けられた女性は、慌てて振り返る。
「ジ、ジ、ジュダさん!?いつからいたんですか!?」
「最初から」
ジュダに答えられると、彼女は耳まで真っ赤になった。
「・・・私が格闘で男の人吹き飛ばしたの、見ましたよね?」
「ああ」
「・・・も〜、ジュダさんには凶暴な女性だって思われたくないのに・・・」
セーラは顔を手で覆って、座り込んでしまう。
その時、ジュダはセーラの後ろに吹き飛んだ男が起きあがっているのに気が付いた。
右手にはナイフを持っている。
「死ねぇぇぇ!!」
ナイフを構えた男は、ジュダ達に向かって走ってくる。
「・・・やれやれ」
ジュダは一瞬で男との間合いを詰めた。
突き出されたナイフをかわし、ジュダは男のナイフを持っている右手を掴む。
そして左肘で男の腹にエルボーをする。
「ぐあっ!」
ジュダは男の手を離し、男がその場にうずくまったのを確認すると、
男の顎にアッパーを放った。直撃した男は空中で一回転し、地面に叩きつけられた。
もう動かないのをジュダは確認すると、セーラを見た。
「セーラ、仕事だ。早く準備しろ」
ジュダの言葉にセーラは顔を上げる。そして、立ち上がった。
「・・・はい!」
元気良く返事をしたセーラは、買い物籠を持って事務所に入った。


4 :アクロス=レザストロ :2007/04/14(土) 21:28:41 ID:kmnktiYH

二章

『【デス・エンジェル】の四天王、『ソル・ディーチ』が
この街に潜伏している可能性あり。見かけたら警察までご連絡下さい。賞金は五十万レタ』
 ジュダはセーラを連れ、街の中央広場にある掲示板の中の、一枚のポスターを見ていた。
 たまたま通りかかった人がその様子を見て、声をかける。
「おい、そこのあんた。もしかして『ソル・ディーチ』を狙っているのか?
・・・命を無駄にしたくなければやめておいた方がいいぜ。
なにしろ【デス・エンジェル】の四天王は一人一人違う、
強力な能力を持っていると聞いたからな。
ま、捕まえようとしても顔がわからなければ意味がないがな。それに・・・」
 ジュダは無言でその場を後にし、南へ向かった。セーラも急いで後に続く。
 ・・・男はこの後、一時間程度話続けていたらしい・・・


「ここか・・・問題の廃墟ってのは」
 その廃墟は廃棄されてから十年は経っているようだ。
 所々腐っていたり、穴が空いていたりした。
 中には人の形をした穴もあったりしたが、ジュダ達はあえてツッコミを入れなかった。
「謎の集団とやらはこの中か・・・いくぞ、セーラ」
 ジュダがセーラを見ると、廃墟の近くに積まれているゴミを眺めていた。
「・・・どうした、セーラ?」
 ジュダが聞くと、彼女は何でもない、とだけ答えた。


「・・・セーラ、気を付けろ。それなりにやる奴等のようだ」
「はい。数は・・・上手く気配を隠してますが、七人ですね」
 廃墟に入って最初に発した言葉はそれだった。
 ジュダは一歩下がった。今までジュダがいたところには、矢が刺さっている。
「・・・そこのソファーの後ろ、セーラ」
「はい」
 セーラは袖から鉤爪を取り出し、一瞬で五メートル程の距離にあるソファーの後ろへ行った。
 そして、そこにいた男を切り裂いた。
「!!」
 天井のシャンデリアが微かに揺れて音を立てたのを、ジュダは聞き逃さなかった。
「駄目だなぁ・・・自分で居場所ばらして・・・」
 ジュダは跳躍し、シャンデリアの上に乗る。
 そこには、男が二人いた。
「目の付け所は良かったけど、一人死んだ程度で取り乱すなよ」
 ジュダは腰の鞘から剣を抜き、男が油断してる間に切り倒した。
「ジュダさ〜ん!後一人ですけど、見えますか?」
 シャンデリアの下から、セーラの声が聞こえた。
 ジュダが下を覗くと、二人の男の死体がセーラの足下に転がっていた。
 正直、自分より強いかもしれない、そう思ったジュダだった。


5 :アクロス=レザストロ :2007/04/15(日) 18:10:57 ID:kmnktiYH

三章

「後一人?セーラが三人で、俺が二人。・・・後二人じゃないか?」
 十メートル程の高さにあるシャンデリアから飛び降りて、
ジュダはセーラに聞いた。セーラは、指さして答える。
「あそこにいるので私は四人です」
 ジュダがゆっくりとセーラの指さした方向を見る。
 そこには、イスに座っている男がいた。辺りには、鮮血が飛び散っている。
 男はぐったりとしていて、動く気配がない。
「・・・セーラは四人か。確かに、後一人だな」
 ジュダはそう言い、廃墟の奥へと進む。
 ロビーにはもういないと判断したためだ。
「こういう時は一番奥にいるんですよね?」
「ああ、戦いやすいフロアは奥の可能性があるからな」
 根拠はないが、二人は奥へと進む。


「・・・誰だ?」
 一番奥の部屋に入ると、低い声が聞こえた。
 声のした方を向くと、ジーパンを履いている、上半身裸の人間がいた。
 背中には、大剣を背負っている。
「俺達は・・・何でも屋だ」
「何でも屋?」
 男はオウム返しで聞く。ジュダは頷いた。
「ああ。仕事でお前らを抹消しに来たんだ。悪いが、死んでもらう」
 ジュダは剣を構える。セーラも鉤爪を構える。
「【デス・エンジェル】の幹部を務める俺が、たった二人に負けるか!」
 男は大剣を引き抜き、構える。
「セーラ、『アレ』で行くぞ」
「わかりました」
 その言葉を合図に、男は斬りかかってくる。
 セーラは持ち前のスピードを生かし、男の後ろへ回り込む。
 そして、鉤爪を振り下ろす。男は大剣で防いだ。
「はぁぁぁぁ!!」
 ジュダはその隙をついて、斬りかかる。
 その時だった。ジュダは後ろへ吹き飛んだ。
 誰も触れていないのに吹き飛ばされ、ジュダは驚きを隠せない。
「ジュダさん!?」
 セーラの意識が一瞬だけジュダの方へ行った。
 男はその隙を見逃す筈がなく、セーラを蹴りで吹き飛ばした。
「ああっ!!」
 セーラは壁に叩きつけられる。
「セーラ!」
 ジュダは急いでセーラに駆け寄る。
 何故自分が吹き飛ばされたのかも考えながら。
「大丈夫か?」
「は、はい・・・大丈夫です」
 セーラを抱き起こしたジュダは、男を見る。
 男は、笑っていた。
「・・・そうか。幹部クラスにもあったんだっけな。特殊能力」
「その通りだ。まあ、四天王クラスにはもっと強力な能力があるらしいが、
貴様等ならこの衝撃波を出す能力でも楽勝だがな。フハハハハ!!」
 男が言った説明に、ジュダは笑みを浮かべた。
「説明ありがとう。衝撃波なら、打つ手はある」


6 :アクロス=レザストロ :2007/04/18(水) 20:23:31 ID:kmnktiYL

四章

「さあ、行くぞ!」
 ジュダは両手で持っていた剣を、右手で構える。
 そして、男に向かって突進した。
「ふん、打つ手があるだと?一般人に何が出来る!」
 男は大剣を構え、衝撃波を飛ばす。
「もう俺にはそんなもん効かねぇ!」
 ジュダは左手を握り、前に突き出す。
 その時だった。衝撃波が・・・消えた。
「な、なにぃ!」
 男は驚きを隠せなかった。
 自分の能力がこの一般人と侮っていた男に消されてしまったから。
「どこ見てんだよ、俺はこっちだぜ」
 一瞬で男の死角へ飛び込んだジュダは、笑みを浮かべながら、剣を男の腹に突き刺した。
「がはっ!!」
 ジュダは返り血を浴びる。だが、拭おうとせず、相手の出方を窺う。
 すると、男はジュダの方へ倒れてきた。ジュダは素早く剣を抜いて下がる。
「幹部の割には雑魚だな」
 目の前に倒れている男を見下ろし、ジュダは言った。
「・・・貴様・・・本当に一般人・・・か・・・?」
「誰も一般人と言った覚えはないぜ」
 剣を鞘に収めながら、ジュダは答える。
「・・・何故、剣をしまった・・・」
「あんたに特別サービスだよ。面白い物見せてやる」
 彼は笑みを浮かべながら、セーラを手招きした。
 そしてセーラが近寄ってきたら、耳打ちした。
「・・・いいんですか?」
「別にいいよ。それに、たまには出さないとあいつも可哀相だし」
「・・・わかりました」
 セーラは頷き、何か呪文のような言葉を呟き始める。
「・・・我の中に眠る力よ・・・今こそ我に力を貸したまえ・・・」
 セーラの周りに、闇が集まってきた。
「現れよ!『ダークドラゴン』!敵を殲滅せよ!」
 呪文を言い終わった時、セーラの周りに集まっていた闇が、龍の姿になった。
「な・・・ドラゴンだと・・・!まさか、お前等が・・・!」
「その通り。じゃあ、さよなら」
 ジュダがゆっくり横にどく。そこには、巨大な口を開けている龍がいた。
「そのうちボスも送ってやるから、あの世で報告でもするんだな」
 その時、何かが噛み砕かれる音が聞こえた。鮮血が飛び散る。
 男の断末魔の悲鳴が、廃墟でいつまでもこだましていた。
 セーラは見ていられないらしく、目を逸らしていた。
「・・・安らかに眠ってくれ・・・」


7 :アクロス=レザストロ :2007/04/21(土) 20:48:25 ID:kmnktixm

五章

「・・・確かに五万レタ、頂きました」
 廃墟から戻ってきたジュダ達は、喫茶店で依頼人から報酬を受け取っていた。
「本当にありがとう!これで探検が出来るよ」
「依頼ですから。礼を言われる程の事じゃありません」
「そうですよ、依頼を果たすのは私達にとって義務みたいなものですから」
 依頼人とは親身にならず、与えられた依頼は必ず成功させる。
 それが彼等だ。・・・おかげで依頼人から良い印象をもらったことはない。
「それでは、事務所に帰らせてもらいます」
 ジュダは席を立って、出口に向かって歩く。
 セーラも後に続いた。


「・・・思っていた以上に早く見つかったな」
「五年も経って何が早く見つかったんですか?」
 ジュダ達のいた席の後ろで、二人の男が話している。
「ふん、あいつが相手なんだ。十年はかかるかと思っていた」
 一人は、オールバックの黒髪をしていて、アロハシャツを着ている。
「馬鹿ですね。十年も経ってたらあっちから乗り込んできてますって」
 もう一人は、緑色の髪をしていた。
 額にはバンダナを巻いていて、和服を着ている。
「・・・何故乗り込んでくるとわかる?ゼルスよ」
 ゼルスと呼ばれた緑色の髪をしている青年は、呆れたような顔をした。
「・・・あなたが何で四天王に選ばれたのかがわかりません。
四天王は強さだけで選ばれるものでもないでしょう?ジェキさん?」
 ジェキと呼ばれたアロハシャツを着た男は、頭を掻きながら笑って言った。
「はははははっ!!俺は戦いの時しか頭が働かねぇんだよ」
「・・・まぁ、知ってましたけどね・・・」
 ゼルスはテーブルの上に置いてある紅茶を、口に運んで一口飲む。
「いいですか?あの事件から十年も経ったら、Fー6970は二十歳。
つまり、成人です。この意味がわかりますか?」
「まったくわからん!」
「偉そうに言わないでください。つまり・・・あの能力も強化される」
 ゼルスがそこまで説明したら、ジェキもわかったようだ。
「そうか、そういう事か。・・・なあゼルス」
「無理です」
「なら仕方ないな・・・って、まだ何も言ってないのに!」
「どうせ、あれが最大にパワーアップされたのと戦いたいと言うんでしょう?」
 ジェキの言いたい事がわかっているゼルスは、紅茶をもう一口飲んだ。
「・・・あれとやっても誰も勝てませんよ」
「何故そう思う?」
「あれは最強の『破壊の力』ですから。良くて生還。悪くて死亡。
ま・・・生還したとしても、死にかけだと思いますがね」
 ゼルスはそこまで言って、席を立った。
「何処へ行くんだ?」
 ジェキの質問に、ゼルスは答えない。
「・・・あれの所へ行くなら、無駄だぞ」
「・・・何故?」
「モランが行ったから」
 ジェキの言葉に、ゼルスが驚いた。
「あいつが!?何故!?」
「・・・ほら、五年前の」
 落ち着いてゼルスは五年前の事を思い出す。
「・・・ああ。あれか」
「そうだよ。念のため、ウィドを付いて行かせたがな」
「・・・馬鹿!四天王で一番キレやすい奴を付いて行かせるなぁ!」
 ゼルスは急ぎ足で歩く。
「おい、何処行くんだよ!」
「あれの所!代金はジェキさんが払って!」
「え?・・・おい!待てよ!」
 急いで追いかけようとするジェキ・・・が、店員に止められた。
「はいはい、代金は払ってくださいね。五百レタになります」
「・・・俺、今月の給料まだもらってないのに!ゼルスの馬鹿野郎!」


8 :アクロス=レザストロ :2007/04/22(日) 20:49:47 ID:kmnktixm

六章

「あの・・・ジュダさん、一つ聞きたいんですけど・・・」
「手短に頼む」
 事務所に帰って来た二人はニュースを見ながら話していた。
「さっきの依頼で衝撃波を出す人がいましたよね?」
「いたっけ?」
「いました。それで・・・衝撃波ってどうやって消したんですか?」
「簡単な事だ。同じ衝撃波をぶつけた」
「そうですか・・・その、怒ってますか?」
 セーラの言葉に、ジュダはテレビから目を離してセーラを見る。
 恐る恐るセーラはジュダの顔を見てみる。その顔には・・・感情が含まれていなかった。
「・・・なんでそう思う?」
 ジュダは表情を全く変えずに聞いた。
「えっと・・・何故かいつものジュダさんと違う気がして・・・」
「・・・そうか」
 ジュダはまたテレビに視線を移す。
(・・・間違ってたら私すっごい失礼ですよね・・・)
 そんな事を考えながらセーラもテレビに視線を移そうとする。
「・・・セーラ、なかなか鋭いな」
「・・・え?」
 また、セーラがジュダを見ようとした時だった。
『たった今臨時のニュースが入りました!
ルダ王国の中心都市を囲む四つの街が、ほぼ同時に壊滅した模様です!』
「!!」
 セーラは驚いてテレビを見る。その画面には、壊滅した街が映し出されていた。
(・・・やはり、喫茶店にいたのは・・・)
 ジュダはソファーの上に置いた剣を取り、立ち上がる。
「行くぞセーラ!」
「は・・・はい・・・」
 何処へ行くのか、とセーラは聞きたかったが答えてくれなそうなのでやめておいた。


「・・・遅かったか・・・」
「何ですか?この人達・・・」
 事務所から出て大通りへと走ると、謎の兵隊が街を襲っていた。
「昨日の奴等の仲間だ!もう来るなんて・・・計算違いだ・・・」
 ジュダはそう言って剣を抜いた。
「【デス・エンジェル】!!お前等が狙っている男はここにいるぞ!!」
 ジュダが叫んだ言葉で、兵隊が全員こちらを向く。
(どういう事?狙っているって・・・ジュダさんが何故?)
 その時、兵達の間から二人の男が歩いて来る。
 一人は、全身に黒い鎧を着けている。
 もう一人は、坊主頭で槍を手に持っている。
「・・・ようやく見つけたぞ」
「五年の捜索、ありがとう、モラン・デーダ。ウィド・ギルダー」
 モランと呼ばれた男は手に持っている槍を構える。
「もう逃がさん!ここで死ね!」
 ウィドという鎧を着けた男は、背中から斧を取り出す。
「その女はこちらで貰ってやる。おとなしく逝くといい」
「はははっ!四天王一番の短気が、偉そうにするな」
 セーラは、ジュダの殺気に思わず一歩下がる。
(ジュダさん・・・?)


9 :アクロス=レザストロ :2007/04/23(月) 20:46:08 ID:kmnktixm

七章

「ジュダさん!どういう事ですか!?狙われているって・・・」
「それは今答えられない。一つ言える事は、俺は奴等から見れば『JUDAS』だって事だ」
 ジュダは剣を構えた。
(ジューダス・・・?確か意味は・・・『裏切り者』・・・まさかジュダさん!?)
「どうした?かかってこいよ。四天王で一番の雑魚、ウィド!」
「何だと!!ぶっ殺してやる!!」
 挑発されて、怒ったウィドは斧を片手にジュダへと突っ込んで来る。
 それを見たジュダは左手を握った。
(よし!ゼロ距離で衝撃波を放てば、流石の奴も致命傷を負うはず!)
 自分の思惑通りにいった事に、思わずジュダは口元で笑みを作った。
 だが、それも一瞬だった。
「喰らえっ!『風烈斬』!」
 上から、声が聞こえてきた。ジュダは後ろへ大きく跳躍する。
 ウィドも同じようにした。セーラが何事かと思い見てみると、
「えっ・・・」
 ジュダとウィドの間に、大きな斬撃の後があった。
 恐らく、後少し反応が遅れていたら二人ともこれの犠牲になっただろう。
「・・・一番厄介な奴が来たな・・・」
 ビルの上には、和服を着た青年が二本の剣を構えていた。
「・・・四天王の天才、ゼルス・ティルリア」
「久しぶりだね・・・えっと、今はジュダって呼んだ方がいい?」
 ゼルスは笑顔だった。が、とてつもない殺気が感じられる。
「・・・何で四天王が二人も・・・しかも一人はゼルスかよ・・・」
 ジュダがゼルスを恐れているのには理由がある。
 ゼルスは、たった一日で一つの国を壊滅させた事があるのだ。
 四天王の中で奴が一番強いのだ。だが、そんなゼルスと同等に戦える奴が一人いる。
「・・・ゼルス!やっと見つけたぞ!」
 ゼルスの隣にアロハシャツを着た男が現れる。
「五百レタ払え!」
「いいじゃないですか、五百レタくらい。それより、あれがいるんですよ」
 ゼルスはジュダ達を指さす。
「おいおい・・・何でジェキ・モーレイドまでいんだよ・・・」
 彼は四天王のジェキ。ゼルスと同等に戦える男。
「当然でしょう?『JUDAS』には罰を与えなければいけないのですから」
「その罰って・・・死の事だよな?」
「もちろん」
 ジュダの言葉に、ゼルスは笑顔を崩さず頷いて答えた。
「バーハルを殺した罪、受けてもらう」
「・・・俺とあいつの道は違っていた。戦うしかなかったんだ」
「本当に?」
「・・・・・・」
 ジュダは言葉に詰まってしまった。
「そう言っておいて、仲間を殺した責任から逃げたかったんじゃないの?」
 ジュダは、何も言い返さない。ゼルスは畳みかけるように言う。
「君は言い訳をしているだけだ。仲間を裏切った罪から逃れる為に。
そして・・・仲間を殺した事を正当化する為に」
 そこまで言うと、ゼルスとジェキはビルから地面に飛び降りる。
「君がいくら言い訳しようが、バーハルを殺したという事実は変わらない。
・・・バーハルを殺し、【デス・エンジェル】を裏切った事をあの世で後悔するがいい。
Fー6970は僕達が貰い受ける。だからジュダ・・・いや、『ソル・ディーチ』
永遠の眠りにつかせてあげるよ!」


10 :アクロス=レザストロ :2007/04/24(火) 19:46:48 ID:kmnktixm

八章

「『ソル・ディーチ』・・・?まさか掲示板に載ってた!?」
「・・・四天王が三人か・・・勝ち目は無いな」
 セーラは驚きの声をあげたが、ジュダはそれを気にする余裕が無い。
 四天王の三人とモラン。そして、大量の兵隊からどうやって逃げるか考えていた。
(まずウィド、奴は短気だから楽勝だ。モランはどうしても俺を殺したいらしいな。
ま、その方がかわすなら楽だが。ジェキは・・・普段馬鹿だが、戦いの時は冴えてる。
普通にやったらかわすのは不可能。あれを使いたい・・・が、ゼルスがいると使えない。
ゼルスと戦っても勝つのは無理。強さが違いすぎる・・・あ!あれなら上手くいく筈・・・)
 ジュダは元四天王。だから強力な特殊能力を持っている。
 その一つが衝撃波を出す事だ。
「やめた。お前等に勝つのは無理だし」
 ジュダは剣を鞘に戻す。そして、ポケットに手を入れた。
「四天王三人とこの数に俺が勝てる訳ないだろ?」
 その様子に一人だけ不信感を持ってる奴がいた。・・・ゼルスだ。
(おかしい・・・ソルはこんな簡単に諦める奴だった?
違う。彼は最後まであがく男だ。なら何故・・・?)
 ゼルスはジュダを観察する。その瞬間、
「・・・ま、あくまで勝つのは無理だ。勝つのは・・・な」
 ゼルスは、確かに見た。この絶対的な危機を前にして、笑ったジュダを。
「なら逃げりゃいいんだ!」
 そして、ジュダが何かを地面に叩きつけた瞬間、辺りを煙が覆った。
「・・・煙玉?僕には効かないと知ってるのに・・・?」
「ああ、知ってるからこそ使ったんだ。お前が消せる、と油断した所を狙う為にな!」
 煙の中から、ジュダが右手をかざして現れた。
 その顔には、微かに笑みが含まれていた。
「しまっ・・・」
「燃えろ!『炎舞』!!」
 その瞬間、ゼルスの体が炎に包まれる。
 これがジュダの二つ目の能力、『焔』だ。
「最後に喰らえ!」
 ジュダは左拳を前に突き出す。
 衝撃波が起きて、ゼルスは後方百メートル程のビルに吹き飛んだ。
「ゼルス!!」
 その時、【デス・エンジェル】全員の意識が吹き飛んだゼルスに向けられた。
(作戦通り!後は逃げるだけだ!)
 ジュダは呆然としているセーラの手を取る。
「セーラ、事情は後で説明する。だから今は、俺と一緒に逃げるぞ!」
「は、はい!」
 彼等はこの場から早く離れる為、走った。
「ウィド様!ジェキ様!あいつ等、逃げます!」
 いち早くそれに気付いた兵が叫ぶ。
「何っ!・・・くっ、第一小隊と第三小隊は奴等を追え!
残りの部隊は街の出入り口を封鎖しろ!」
 ウィドは素早く指示を出す。
「了解しました!」
 兵隊達は指示通りに動く。
「・・・忘れてたよ。あいつは悪知恵なら四天王で一番だったって事」
 ゼルスは、一瞬で百メートル程の場所から戻ってきた。
 彼は、本気を出せば光速で走る事が出来るのだ。
「ゼルス、無事だったか。なら・・・」
「無駄です」
「そうか。・・・って前にもあったろこのパターン!」
「追いかけて路地裏にでも誘い込まれたらどうするんです?
こちらの方が数は上だと言っても、狭い場所じゃ関係ありません」
 ゼルスは冷静に事実を述べる。その直後、彼は嬉しそうな顔をした。
「ゼルス、どうした?」
「いえ、ソルの知能が全く落ちていないのを見て嬉しいんですよ。
・・・これでようやく本気のソルと戦う事が出来ますからね・・・」


11 :アクロス=レザストロ :2007/04/25(水) 20:57:02 ID:kmnktizA

九章

「・・・やっぱ四天王は追ってこないか」
 ジュダは走りながら後ろを確認する。二十人程度追ってきている。
「流石ゼルス。俺の考えに気付いたか・・・」
 路地裏に誘い込んで、特殊能力を駆使して一人ずつ倒す。
 それがジュダの作戦だったのだ。上手くいけば全員倒せたかもしれない。
(俺が倒せなくても『ダークドラゴン』がいるから勝率はかなり上がるんだが・・・)
 追いかけてこなかったものは仕方ない、そう思って路地裏に走り込む。
「セーラ、そこの酒場に隠れろ。一掃したら俺もいく」
「わかりました。無事でいて下さいね!」
 セーラは酒場に飛び込む。ジュダはその場で立ち止まり、後ろを向く。
 その時、兵達が路地裏に飛び込んでくる。
「お前等馬鹿だなぁ・・・俺の能力知ってるならもっと警戒しろよ」
 ジュダは両手をかざす。
「・・・まとめて消す!『炎龍爆』!!」
 ジュダの手から、小さな龍の形をした炎が大量に現れる。
「な・・・なんだアレ・・・」
 兵達はそれを見て、すっかり怯えていた。
「あ、俺の能力もしかして知らなかった?なら、その身に刻みこんでやる!」
 その瞬間、龍が兵に襲いかかる。
「う・・・うわああああ!!」
 兵が逃げまどうが、龍は逃がさない。
 龍が噛みつくと、爆発が起きた。
「あ、忘れてた。それ、触れると爆発するから気を付けろよ〜」
 ジュダが笑顔で言った時には、もう全員爆発した後だった。
「・・・楽勝すぎるんだよ」
 死体の山にそう言い残し、ジュダは酒場に入った。


「ゼルス、これからどうするんだ?」
「待ってください。・・・もうすぐ味方の兵が来ます」
 ゼルスがそう言った瞬間、兵が一人走ってきた。
「ゼ、ゼルス様!た、大変です!」
「予測つくけど、話せ」
「標的の二人を追いかけていた第一小隊と第三小隊が、壊滅しました!!」
「やっぱり・・・もういいよ、下がって」
 ゼルスは兵を下がらせると、笑顔で三人を見る。
「ね?僕達も追いかけたらあんな風になったかもよ?」
「・・・ちっ・・・」
 その言葉に言い返せず、ウィドは舌打ちする。
「ゼルス、なら・・・」
「だから無理ですって」
「・・・毎回何故俺の言いたい事がわかるんだ・・・」
「ジェキさんのちっぽけな脳なら言いたい事はすぐわかります。
大通りに誘おうと言うんでしょう?ソルは四天王で一番の悪知恵の持ち主です。
そんな策に引っかかると思いますか?思いませんよね?
ソルはあくまで僕達を路地裏に誘い込もうとする。ソルの能力は遠距離からも使える。
だから、路地裏の近くから攻撃して、寄ってきたら逃げ込む。それの繰り返しです」
 ゼルスは説明する。こんな状況でも冷静でいるのは、ゼルスとジェキだけだ。
「なら、ゼルスの・・・」
「それも無理です」
「・・・たまには最後まで言わせろよ」
「超高速で移動してソルに接近しても龍が出たらどうするんですか?
僕に死ねって言うんですか?僕はまだ死にたくありません」
「打つ手なし・・・か」
「・・・仕方ないですね。この僕に任せてください」
 その言葉に全員がゼルスを見た。
「ゼ・・・」
「策なんてないですよ?」
「・・・お前、早すぎだ。まだ名前も言ってなかったのに」
「あはは、わかりやすいジェキさんがいけないんですよ。
簡単です。この街には出口が四つある。それを全て閉めて、
門番として僕らが一人ずつ門の前にいればいいんです。
これなら、ソルは僕達の一人と必ず戦わなければいけません。
・・・倒した人の手柄って事でいいでしょう?」
 皆、異議はないようだ。
「よし!絶対逃がしませんよ、ソル!」


12 :アクロス=レザストロ :2007/04/29(日) 20:20:45 ID:kmnktixi

十章

「・・・もう追ってこないようだな・・・」
 ジュダはカウンターの陰から外を窺っていた。そして、セーラを見る。
「・・・話すよ。俺が誰で、どんな事をしてきたのか。全てセーラに話す」
「ジュダさん・・・」
 セーラは不安そうな顔をしている。恐らく『聞いて良いの?』とでも思っているんだろう。
「えっと・・・俺が十七歳だった頃から話そうか」
 ジュダは語り始める・・・


「はっ!せい!せいやぁ!」
 二人の男が木刀で戦っていた。二人とも同年代くらいだ。
「うおおおおお!!」
 紅の髪をした青年が下から木刀を思い切り振り上げる。
 相手の青年は防ごうとするが、威力の高さに負けて木刀が弾かれた。
「ぐっ・・・」
 そして、首もとに木刀が突きつけられる。
「・・・俺の勝ちだ」
 紅の髪をした青年・・・『ソル・ディーチ』が笑顔で言った。
「ソルすげぇー!」
「相手はこの村で一番強いのに・・・ソルが最強って事になるのね」
「いえいえ、危なかったですよ。あっちが勝ってもおかしくなかった」
 ソルは笑顔のままだった。しかも、動いたというのに息一つ切らしていない。
「ソル!やったわね!」
 突如、ソルは後ろから誰かに抱きつかれた。ソルは、後ろにいるのが誰かすぐわかった。
「・・・ルイ姉さん。毎回抱きつくのやめてよ・・・重いんだから」
「あ〜、女性に重いって言っちゃ駄目なんだよ」
 彼女はルイ・ディーチ。ソルの姉だ。ソルと同じの紅の髪。
 この村一番の美人と言われる程の美しさだ。おまけに、スタイルも良い。
 今まで何人もの告白を受けてきたが、全て断っている。
「・・・さっさと結婚したら?」
「だって私はソルが好きなんだもん」
「・・・ブラコン・・・」
「ブラコンって言ったなぁ!今日のご飯作るのソルね。決定」
「何それ・・・どうせ俺が毎日つくってんじゃん」
「気にしない気にしない。家で待ってるから」
 ルイはソルからやっと離れる。そして、走っていった。
「・・・よし、食材買って帰るか」
 その時、ソルは自分に視線が集中している事に気付いた。
「・・・いいよなぁソルは・・・」
「ああ、あんな素敵なお姉さんがいてな・・・」
「羨ましいよ、ルイさんと一緒に住んでるなんて・・・」
 ここに留まっていると、大変な事になりそうなのでソルはさっさと走り出した。


 ・・・この時はまだ知らなかったんだ。
 この日常が、一瞬で崩れる事なんて・・・


13 :アクロス=レザストロ :2007/04/30(月) 16:24:40 ID:kmnktixi

十一章

「ソル。明日が何の日か覚えているか?」
 ソルが村で一番強いと決まった日の翌日の夕方、散歩していたら男に声を掛けられた。
「覚えてます。確か『成人の儀式』でしたよね」
 足を止めたソルは、男に向き直る。
「えっと、今年成人になった女性で一番美しい人が舞を踊るんですよね」
「その通り、今年はもちろん?」
「・・・ルイ姉さんか・・・」
「そうだ!ソルの姉、ルイさんだ!今年が一番楽しみだぜ!」
 男が嬉しそうにしているのを見て、ソルは呆れていた。
(馬鹿みたい。そんな下心があるから姉さんがいつまで経っても結婚しないんじゃないか。
毎日早起きして一日三食全部作ってる俺の身にもなってくれ)
 彼は疲れたらしい。毎日三食全部つくり、洗濯もし、掃除もしている。
 ・・・普通、立場が逆だろう。それより、家事もしない女性が結婚できるのだろうか。
「やめた方がいいですよ。ルイ姉さんは家事しませんから」
「ルイさんの為ならどんな事でもする覚悟だぜ」
「・・・貴方、絶対誰とも結婚できません。キモイです」
 この人と一緒にいると変人扱いされそうなので、さっさと歩き始める。


「・・・ただいま」
 家に帰ったソルは身構える。・・・が、何も来ない。
(あれ?いつもだったらルイ姉さんがいきなり抱きついてくるのに・・・)
 だったら何故身構えるのか?いつきてもかわせるようにだ。
 ・・・かわせたことは一回も無いが。
「・・・あ、そうか」
 ソルは明日の予定を思い出す。
(明日の儀式で踊る舞の練習か・・・何か調子狂うなあ・・・)
 いつも嫌がっていたが、無いと何かが変らしい。
(・・・何か帰ってきたって気がしないんだよなあ・・・)
 日常と化してしまっていたらしい。帰ってくると、ルイが抱きついて来ることが。
「ま、平和でいいかもな。さっさと飯の準備しよ」
 ソルは、さっさとキッチンに向かう。
「・・・今日の飯、姉さんが嫌いなのたくさん入れよ」
 ・・・意外とソルはこういう所で復讐するようだ。


14 :アクロス=レザストロ :2007/05/03(木) 14:11:22 ID:kmnktixi

十二章

「・・・今日の夜からか。『成人の儀式』は。・・・姉さん、いい加減離してくれない?」
「いやよ。昨日ソルが私の嫌いな物たくさん入れたから、今日は好きにさせてもらうの」
 昨日の復讐、そういう事でソルは朝からルイと行動させられている。
 もちろん、ルイに腕を抱かれて。
「・・・いや、離してくれないと夜道で後ろから襲われそうなんだけど」
 ソルは周りの視線を感じ、心が疲れ切っている。
 明日から夜道に気を付けよう、そう思ったソルだった。
「ソル、いいなあ。ルイさんとデートなんて」
「ああ、替わってもらいたいよ」
「ルイさんって何でソルが好きなんだろ」
「そりゃあ・・・弟だから?」
「それに、顔もまあまあだし」
「家事全般できるし」
「その上強いと・・・だからこの村の女性はみんなソルに惚れてるんですよねぇ」
 聞いてはいけない事が聞こえた気がしたので、ソルは聞き流していた。
「ソル、ちょっといいか?」
 呼び止められ、声のした方を見ると昨日の男だ。
「何ですか?姉さんが欲しいならいつでもあげますけど」
「ソルひどい。私はこんなにソルが好きなのに」
「好きならたまには家事手伝ってくれよ・・・用件は何ですか?」
「えっと、儀式の道具を買いに街まで行って欲しいんだが」
 男の言葉に、ソルは驚いた。
「ええええっ!!まだ儀式の道具買ってなかったんですか!?」
「悪い!ソル行ってくれ!大体の人は儀式の準備で忙しいから、お前しかいないんだ!」
「・・・仕方ないですね」
 ソルは腕に抱きついているルイを見る。
「姉さん、舞の練習で時間潰しててくれる?」
「ソル、行っちゃうの?」
「もし完璧に舞を踊れたら、一日付き合ってあげる!」
「よ〜し、舞の練習頑張るわよ!」
 段々ルイの扱いに慣れてきたソル。一瞬でやる気にさせた。
「それじゃ、行ってきますので」
「おう、悪いな。デートの邪魔して」
「いえいえ、むしろ助かりました」
 ソルは笑顔で金を受け取り、街に向かって歩き始める。



 この約束は・・・永遠に果たされないが・・・


15 :アクロス=レザストロ :2007/05/04(金) 14:44:25 ID:kmnktixi

十三章

「往復で・・・六時間はかかるな。今は午前9時だから・・・帰ってくるのは午後3時頃か」
 余裕じゃん、とソルは呟く。
「今日の舞、姉さんが完璧に踊れませんように・・・」
 ・・・彼は何を願っているのだろうか。やはりデートは嫌らしい。
(命は一つしかないから、無駄にしたくないんだよね)
 ルイとデートする=村の男に恨まれる=夜道で襲われる。
 彼の中ではこんな方程式が出来ていた。
(やっぱり夜道で襲われるは外せないよな〜)
 既にどうでもいいことを考えているソルである。
 でも、夜道で襲われるが何故外せないのかわからない。
 それは永遠の謎になりそうだ。


「・・・あれか、今日祭りがあるっていう村は・・・」
 村の近くの丘から双眼鏡で村の様子を見てる男達がいた。人数は・・・五人。
「正面から行って、ぶっ潰すか」
「祭りは一番人が集まる・・・」
「いきなり襲って逃げまどう人を切り裂く。ククク・・・面白そうだ」
「・・・殺人・・・最高・・・」
 男達は笑っている。
「でも、強い奴がいたらどうする?」
「こっちは五人・・・楽勝だろ」
「・・・囲んで・・・隙を・・・斬る・・・」
 男達は鞘から剣を抜く。
「そうだな。さあ・・・」
 一人が剣を上空に挙げる。他の四人も同じようにする。
「「「「「パーティの始まりだ」」」」」
 同時に言い、彼等は走り出す。目標の村へと向かって・・・


16 :アクロス=レザストロ :2007/05/05(土) 19:42:34 ID:kmnktixi

十四章

「・・・それにしても、街まで暇だな・・・」
 ソルは、自分の村に危機が迫っているとも知らず、ゆっくりと歩いていた。
「うーん・・・いいのかな、俺が村を離れて・・・」
 一番強い奴が村を離れる、その危険性に気付いたソルは足を止めるが、
「ま、どうにかなるだろ」
 再び街に向かって歩き始める。
(・・・大丈夫・・・だよな・・・)


「・・・すごいルイ!もう完璧よ!」
「やったー!これならソルと一日デートできるのね!」
 舞の練習をしてたルイだが、舞を教えてくれている女性に完璧と言われ、喜んでいた。
「明日はソルと一緒に何処行こうかな〜、街まで出かけようかしら」
 今日ソルは街まで行ってるから「また行くの?」と嫌そうにするだろう。
(約束は約束だもんねソル。今日デート出来なかった分連れ回すからね)
 その時、ルイに舞を教えていた女性が、クスッと笑った。
 それに気付いたルイは、首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「ルイは本当にソルが好きなのね。姉弟なのに・・・」
「もちろんですよ。けどソルは・・・私を姉としか見てない」
 ルイは、いつもは見せない悲しげな表情をした。
「・・・私は、ソルを弟じゃなくて一人の男性として見てるのに・・・」
 ルイの目には、涙が浮かんでいた。
「・・・どうしてなの?何でソルは私を姉としか見てくれないの?
私はこんなにソルが好きなのに・・・」
 彼女の頬を、涙が伝う。普段の彼女からは想像できない事だ。
「ルイ・・・それは・・・」
 女性が何かを言いかけた時、
「た、大変だぁ!!」
 男が慌てて走ってくる。
「どうしたの?」
 ルイは急いで涙を拭き、尋ねる。男は慌てて答える。
「変な五人組が来て、村の人間を殺しまわってるんだ!」
「何ですって!」
「まだ村の入口付近だから、ここに来るまで時間がかかる筈だ。だから、ルイだけでも・・・」
「私だけ逃げろって言うの!?・・・そんなの出来ない!」
「ルイ、逃げてソルにこの状況を知らせてきて。まだ街に着いていない筈だから」
 逃げるのを拒むルイ。自分だけ生き延びるなら一緒に死ぬのを選ぶのだ。
「早く!この状況を救えるのは、ソルの知恵と強さしかないのだから!」
 女性に強く言われ、ルイは戸惑いながらも走りだそうとした時だった。
「おやおや、こんな所にもいたんだ」
「・・・しかも結構美人な娘もいるねえ・・・」
 二人の男が笑みを浮かべながら現れる。手には、血塗られた剣を持って。
「安心しなよ。俺達は他の三人とは違って、君等を楽に死なせてあげる事が出来るから」
 二人の男はゆっくりと剣を構える。ルイは震える事しか出来ない。
(嫌・・・ソル、助けて!)


17 :アクロス=レザストロ :2007/05/06(日) 18:47:04 ID:kmnktixi

十五章

「…!!」
 ソルは街の目の前まで来ていたが、足を止めて後ろを振り返る。
「今…ルイ姉さんが俺を呼んだ気がした…」
 嫌な予感がする、そう思ったソルは村に向かって走る。
「頼む…何も起きていないでくれ…」


「…ボス、どうやら下っ端が遊んでいるようですよ」
 ルダ王国の北にある建物の一番奥の部屋で、二人の男が話していた。
「…どこにいる?」
 ボスらしき男が尋ねる。
「えっと…ここから南東のちっぽけな村です」
「…殺せ。我等は意味の無い殺生はしないと決まっている筈だ。それを破った奴は…」
「死あるのみ…か。相変わらず厳しいですね」
「いいから早く行ってこい。…バーハルよ」
 バーハルと呼ばれた幼げな顔をしている青年は槍を手に取る。
「了解しました。…今月の給料上げてくださいね」
「考えておこう」
「ありがとうございます」
 礼を言い、バーハルは部屋を出ていった。


「…後少しで村に…」
 ソルは、休憩無しで村に向かって走っている。だが、目の前に現れた人を見て足を止めた。
 その人は、彼と同じ紅い髪で今日舞を踊る筈の人…ソルの姉、ルイ・ディーチだ。
「ルイ姉さん、無事だったんだ…よかった…」
「ソル!よかった、今呼びに行こうかと思ってたんだけど…今の私では無理だったから」
 ルイの言葉の意味が、ソルはわからない。
(今の私では無理だった…?)
「ソル、村が襲われてるの!」
「何だって!?くそっ!俺が離れなければ…」
 ソルは悔やむ。あの時すぐ戻ればよかったんだ、と。
「みんな戦ってるけど…殺されていく。そして…私も…」
 その時、ルイの体が崩れ落ちる。ソルは支えてやった。
「姉さ・・・!」
 ルイの背中を見てソルは絶句する。
 傷だらけで、何かに斬られたような跡がたくさんある。
「姉さん!大丈夫!?医者を…」
「いいのよソル…私はもう助からない」
「そんな事…言うな!」
「…それより、私の話を聞いて。…お願い」
「…わかったよ」
 ソルはルイの…最後の願いを聞き入れる為その場に寝かせ、膝枕をしてやる。
「死ぬ前に言っておきたいの。私の…ソルへの気持ちを…」
「姉さん…?」
「ソル…私は、貴方が好きだった。姉弟としてじゃなく…」
「……うん」
「けどソルは、私を一人の女として見てくれないよね…」
「それは…」
 ソルは、言葉に詰まってしまう。
「私は…ソルの事が好き。何が起きても、それは変わらないの…」
「姉さん…俺は…」
「最後くらい、ルイって呼んで」
 ルイは微笑んで言った。
「わかった。…ルイ、ごめん。お前の気持ちに気付いてたのに…俺は…」
「いいの…私は…今ならこれでいいと思ってるから…
ソルの気持ち知ったら、余計悲しくなっちゃうから…」
「ルイ…」
「今までありがとう…姉らしくなくて…ごめんね…」
 ルイの瞼が、閉じられる。それが、何を意味するのか…
「ルイィィィィ!!」
 ソルの叫びが、森の中で響き続けた。頬を、涙が伝う。
「許さねぇ!絶対あいつらは殺す!村のみんなの為にも!」


18 :アクロス=レザストロ :2007/05/09(水) 15:11:45 ID:kmnktixL

十六章

「これで全員殲滅完了かな?」
「しかし、【デス・エンジェル】で溜まったストレス解消には丁度良かったな」
 彼等の周りには、血の海が出来ていた。転がっている死体は無惨にも切り刻まれている。
「けど、【デス・エンジェル】にこの事がバレたらどうする?」
「バレねえよ。工作ならしておいたからな」
「……ん?」
 一人の男が、何かに気付く。
「てめえらか…」
 紅の髪をした青年、ソルが剣を構えている。
「許さねぇ…殺す!」
 ソルは突進した。男達は、血で染められた剣を構える。
「命知らずか…望み通り殺してあげよう」
 一人の男が、剣を振り下ろす。
「はあっ!」
 ソルはそれを剣で弾いた。
「何っ!!」
 男は驚きを隠せない。
「うおおおおお!!」
 ソルは思い切り剣を振った。が、それは二人目の男に止められる。
「ぼうっとしてんなよ!」
「ああ…悪い」
 男は謝罪し、剣を構え直す。それを見たソルは、後ろに走った。
「逃げる気か!逃がさない!」
 五人はソルを追いかける。……ソルが笑みを浮かべていたのも知らず。
 ソルは走って森に飛び込む。五人が後を追いかけていった時、足場がなかった。
「うおおおおっ!?」
 五人の男は、成す術もなく落ちた。
「……簡単だったな」
 そう言ったソルの手には、ライターが握られていた。
「貴様!何の真似だ!」
「敵討ちだよ」
 穴の下から聞こえてきた声にそう返した。
「それより、何か足下に液体あるでしょ。何だと思う?」
「知るか!!」
「待て!この匂い……まさか、ガソリンか!?」
 聞こえてきた声に笑顔になる。
「正解。それじゃ、プレゼントだ」
 ライターに火を点け、落とし穴に投げ入れた。
「灼熱の業火の中で、踊り狂うがいい」
 穴の中からは、断末魔の悲鳴と何かが焼ける匂いがした。
「ルイ……敵討ちは終わったよ……」


19 :アクロス=レザストロ :2007/05/12(土) 14:52:18 ID:kmnktixL

十七章

「……うわぁ……あいつら、ここまでやったのか……」
 滅びた村を見て、バーハルは呟く。
「見つけたら死刑確定だな……」
 村の奥へと歩いていくバーハル。


「これでいいかな……」
 そう呟いたソルの前には、四角形の石の墓が建てられていた。
『ルイ・ディーチ、ここに眠る』と書いてある。
「みんなの仇は討ち取った。だから、安心して眠ってくれ」
 ソルは微笑んで墓に語りかける。
「……ところで、そこにいるのは誰だ?」
 後ろを振り向くソル。そこには、誰もいない。
「……いや〜バレるなんて、気配は消した筈だけど……」
「甘い。完全に消せてなかったよ。普通じゃ気付かないが、俺ならな……」
 物陰から出てきた青年。それを見て、ソルは剣の柄に手をかける。
「待って!俺は君に危害を加えるつもりはない!」
「だったら右手の槍は何だ?」
 青年は慌てて槍を置く。
「これでいい?」
「……何をしに来た?」
「ここに来た五人組を始末しに」
「何故?」
「上からの命令。こんなことするなんて計算外だった……」
 それを聞いたソルは、剣の柄から手を離す。
「……そいつらなら俺が燃やした」
「嘘!?君って強いねぇ」
「だけど……俺は村を……ルイを守れなかった……」
 悲しそうに墓を見るソル。それを見た青年はある提案をする。
「守るための力が欲しければ、ウチに来ない?」
「……お前についていけば、力が手に入る……だと?」
「そうだよ。ま、君の自由だけどね」
 青年の提案に、ソルは少し考える。が、すぐに
「ついていくよ。もうこんな犠牲は出したくない……」
 と答えた。
「ありがとう。そうだ!君の名前聞いてないや。何て言うの?」
「ソル……ソル・ディーチだ」
「ソルかぁ……俺はバーハル。よろしくね」
「ああ、よろしく」
 そして二人は握手を交わした。


 最初に出会うのが、こいつじゃなければよかった……
 ソルがそう思うのは、まだ先の話……


20 :アクロス=レザストロ :2007/05/14(月) 14:31:37 ID:kmnktixL

十八章

「……えっと、バーハル?」
「何?」
「お前の所属してる組織って……」
 歩き始めて一時間程経ったあと、ソルが聞いた。
「ああ、話してなかったね。説明するよ」
 バーハルは振り返らず話す。
「俺が所属してるのは【デス・エンジェル】って言う組織」
「【デス・エンジェル】?聞いた事ないな……」
「それが普通だと思うよ。俺達は本来表には出てこないから」
「表には出てこない……?」
 ソルは首を捻る。
「要するに、裏の仕事……もしかして!」
「その通り。俺達は暗殺とかが、主な仕事」
 この事実を聞き、ソルは不安になる。
(本当に俺、付いていっていいのかな?)
 だが、力が欲しかったソルはその不安を頭の中から消す。
「【デス・エンジェル】には四天王がいるんだ。その全員が桁外れの強さを持っている」
「お前は、四天王じゃないのか?」
 ソルの問いに、バーハルは頷く。
「四天王と俺を比べたら、ゴミ屑と銀河系だよ。あの強さは人を越えてる。俺は幹部クラスって所だよ」
「人を越えた強さ……それが、俺にもあったら……」
「さ、着いたよ」
 バーハルが立ち止まる。ソルが前を見ると、古びた建物があった。
「……本当にここか?」
 信じられない、といった表情でソルはバーハルを見る。
「ここだよ。入りなよ」
 仕方なさそうにソルは建物に入っていく。


「……チェックメイト。僕の勝ちです」
「……くっそぉ!また負けた!」
 入ってすぐ、ロビーのような場所に出た。外は汚かったが、中は綺麗だ。中央のテーブルで二人の男がチェスをしている。緑色の髪をした男と、アロハシャツを着ているオールバックの髪型をしている男がやってるようだ。勝ったのは緑色の髪をした男。
「何だあの人達……」
 ソルは遠くからその様子を見ていた。すると、アロハシャツを着ている方が、こちらに気付いたようだ。
「あ……ジェキ様とゼルス様だ」
 バーハルはようやくチェスをしていたのが誰か気付いた。
「誰だ?」
「四天王最強と言われてる二人組」
 四天王が何故こんな所でチェスをしているんだ?と思ったが、口には出さない。
「へえ〜、新入りかい?」
 後ろから声が聞こえた。急いで後ろを向くと、さっきまでチェスをやっていた筈の緑色の髪をしている男だ。
(何時の間に!?)
「ごめんごめん。驚いた?」
「ゼルス様、光速で移動されたら初めてじゃなくても驚きますよ」
 緑色の髪をした男……ゼルス・ティルリアは笑顔だった。
「これが見えたら四天王確定だからね。試したんだ」
「おいゼルス。初対面の人を驚かせるなんて……」
「いいじゃないですか。死ぬ訳でもないですし。そうでしょう、ジェキさん?」
「遮るなよ……」
 アロハシャツを着た男……ジェキ・モーレイドは言葉を遮られて脱力している。
「……えっと、ソルです。よろしくお願いします」
「個性的なメンバーだけど、何とか慣れてね」


21 :アクロス=レザストロ :2007/05/17(木) 15:46:06 ID:kmnktixJ

十九章

「……ってことでソル。君にはこれをつけてもらう」
「何ですか、それ」
 バーハルが取り出した物を見たソル。それは……腕輪だった。
「何って……腕輪だけど?」
「いや、見ればわかる。何でそれをつけるんだ?」
「あ、そういう事か。じゃあ説明するよ。ここ見て」
 そう言ってバーハルは腕輪の内側を指さす。言われた通りソルはそこを見てみる。
「ん……何か書いてあるな」
 腕輪の内側には、何か文字が書かれていた。が、見たことのない文字だ。
「これは古代の言葉なんだ」
「何て書いてあるんだ?」
「確か……『我は求める。全てを越える力を。我は願う。争いの無い世界を。我は待ち続ける。全ての絶望を打ち消せる光が現れるのを』だったよ」
 ソルはその言葉を聞き、何かが引っ掛かったようだった。
(力……絶望……光……何かおかしい……何処だ?何処がおかしいんだ?)
「どうしたの?」
 心配そうにソルの顔を覗き込むバーハル。
「ああ……何でもない」
 ソルは微笑んで答える。そして、腕輪を受け取った。
「ちょっと案内したい場所があるんだ。ついてきて」
 バーハルはそう言って歩き出す。ソルもついていった。


「さ、ここだよ」
 歩き始めて数分……大きな窓のある所でバーハルは足を止めた。
「その窓の外を見てみて」
 ソルは言われるがまま、窓の外を見てみる。
「……え?」
 窓の外には、信じられない景色が広がっていた。
「驚いた?」
「驚くに決まってるだろうが……」
 何と……子供達が遊んでいたのだ。中には滑り台、砂場、後はサッカーゴールなどがあり、子供は充分楽しめそうだ。
「何で子供がいんだよ。ここは保育園でもやってんのか?」
 そう言った途端、バーハルは真剣な顔になる。
「保育なんてしないさ。俺達が必要なのは使える手駒。こいつらは、俺達の計画に必要なんだ」
 バーハルの様子が突如変わり、驚きを隠せないソル。
「こいつらは後七年もすれば、俺達の為に働く駒となる。そのときが、頃合……」
 混乱状態に陥りそうだったソルは、何とか今の状況を頭に整理しようとしている。
(駒……計画……子供か。つまり、この子供達は何らかの力を持っているって事か。問題は、その力が何かってこと)
 素早く情報を整理し、バーハルを見る。
「どうしたの?ソル」
 バーハルは、いつもの状態に戻っていた。
「部屋に案内するよ。ついてきて」
 バーハルは歩き出す。その後ろ姿を見て、ソルは困惑していた。
(一体何なんだよ。この【デス・エンジェル】って組織は……)


22 :アクロス=レザストロ :2007/05/20(日) 17:59:15 ID:kmnktixJ

二十章

「……何で腕輪をつけなきゃならないんだ?」
 部屋の中でソルは腕輪を眺めていた。
(説明するとか言って何も言わなかったし……)
「ソル、入るよ」
「ノックしたらどうだ?」
 ノックも無しでいきなりバーハルの声が聞こえ、多少驚いたソル。ドアの方を見ると、もうバーハルは部屋の中に入っていた。
「食事の時間だから呼びに来たんだ」
「食事?ここは食事を出してくれるのか?」
 ソルの言葉にバーハルは頷く。
「食堂があるんだよ。行こう」


「……ここが、食堂?」
 食堂は、学校が丸ごと入りそうな広さだった。
「そうだよ。一応【デス・エンジェル】の中からウェイターとか出してるんだ」
 バーハルの言葉にソルは周りを見渡す。確かに、正装を着た男が忙しそうに走り回っている。
「こんだけ広けりゃ大変だよな……ん?」
「どうしたの?」
「今、ウェイトレスが見えたんだが……」
「へ?」
 ソルの指さした方向を見るバーハル。確かに、ウェイトレスがいる。
「あれ?」
 バーハルは首を傾げる。そして、何かを思いだしたように何度も頷く。
「ああ、そうだった……」
「どうした?」
 ソルが聞くとバーハルは、
「君の反応が楽しみだ」
 と言った。
「ウェイトレスさん!」
「何でしょうか?」
 振り返ったウェイトレスの顔を見て、ソルは絶句した。信じられない。いや、信じたくもない光景だったからだ。ソルは一瞬自分の目がおかしいのかと思った。今の自分に出来る最大の速さで情報を整理する。
(落ち着け俺!目の前にいる奴があいつの訳ねぇ!そうだ、これは夢だ。つーか夢であって欲しい。よし、一回下から見てみよう)
 ソルは視線を下に移す。長い足。膝上のスカート。可愛らしいフリルのついた服。そして、顔。間違いない。
「……何でお前が……」
 ソルの目の前にいたのは、緑色の髪をした人だ。思わずソルは叫んだ。
「何でゼルスがウェイトレスやってんだよー!!」
「あ、ソル。席に座りなよ」
 叫んだソルに全く動揺せず、空いてる席を指さすゼルス。
「ゼルス、俺の質問に……」
「お願い☆」
 一点の曇りも無い笑顔を見せられ、ソルは断れなくなり、渋々席に座る。
「それじゃあ、ゆっくりしてってね」
 ゼルスは立ち去る。ゼルスが去っていった方向を見ながら、ソルは呟く。
「一瞬女と見間違えたんだが……俺はおかしいか?」
「いや、大丈夫。全員見間違えた事あるから」
「絶対あの笑顔は反則だって……何も言えなくなった」
 ゼルスの女装は完璧だ。どんな奴だって見分ける事はできないだろう。
「……後で聞かねぇとな。女装してる訳を」


23 :アクロス=レザストロ :2007/05/23(水) 20:41:31 ID:kmnktixJ

二十一章

「ご注文はお決まりでしょうか?」
 ソルとバーハルが座っている席に、ウェイトレス姿をした奴がやってきた。四天王最強と呼ばれる内の一人、ゼルスだ。
「なあ、一つ聞きたいんだが……」
「スリーサイズは秘密です☆」
「そう、聞きたくもない。何でお前がウェイトレスの格好してるんだ?」
 ゼルスのボケを軽く流して、ソルは質問する。
「話せば長くなります」
「嘘だろ」
「嘘って……ひどいなぁ、そんなに僕信用ない?」
「ない。いいから早く話せ」
「ひどい……私、泣きそう……」
 ゼルスは泣きそうな顔をする。その顔は、本当に女性みたいだった。流石のソルもこれに冷たくする事は出来ない。
「……ごめん。とりあえず、泣かないでくれ……」
「いや、泣かないよ?で、質問何だっけ」
 ゼルスの言葉にソルは思わず握り拳を作った。
「ソル、抑えてね」
「わかってる……何でウェイトレスやってんだよ」
 バーハルに止められ、ソルは拳を開く。
「えっと、理由は二つあるんだ。一つは、給料」
「給料?」
 ソルの言葉に、ゼルスは頷く。
「これって時給いいんだよね。時給五千レタなんだよ」
「やっぱ金かよ……もう一つは?」
「僕があまりにもかわいいから♪」
「……で、理由は?」
 ゼルスのボケを流したソル。
「ツッコミが欲しかったな。えーと、この前ボスが悩んでたんだ。この組織には華が無いって」
「ほう、それで?」
「だから、僕が癒しになればいいなあってこの格好したの。そしたら凄い好評なんだ」
「まあ、確かに似合ってるけどさぁ……」
「でしょ?痴漢しちゃ駄目よ」
「したくもねえ。で、メニューは何処にあるんだ?」
 テーブルの上を見渡すソル。確かに、メニューらしき物はない。
「それは貴方の心の中に……」
「うん、そうか。で、メニューは?」
「……ソルって僕に冷たくない?」
「気のせいだ。メニューは?」
「メニューは無いよ。好きな物を頼めばいいんだ」
 一瞬ゼルスの言葉を理解出来なかった。
「好きな物だと?」
「うん」
 ソルは少し考える。そして、口を開いた。
「カツ丼にカレーうどん、カレーライス、ラーメン、オムライスにパフェよろしく」
「ソルってそんなに食べるの?僕はいつものよろしく」
「かしこまりました。すぐに持ってまいります」
「本当に何でも作れるの!?」
「言ったじゃん。好きな物頼んでいいって」
 ゼルスは超極上の笑顔を見せる。
「【デス・エンジェル】って凄い組織だな……」


24 :アクロス=レザストロ :2007/05/26(土) 15:27:33 ID:kmnktixJ

二十二章

「……ふう、食った食った」
 ソルは頼んだ物をあっさり食べ終えて、自室でゆっくりしていた。
「……あ、この腕輪の意味聞くの忘れてた……」
 すっかり忘れてた事を聞きに、ソルは部屋を出ていった。


「……そうか。ではジェキとバーハルを連れて向かう。もう下がっていいよ」
 ロビーで、ゼルスとジェキ、バーハルが集まっていた。皆、真剣な顔をしている。
「何してんだ?」
「ああ、ソルか。ちょっと洒落にならない任務やらなくちゃいけなくなったんだ……」
 バーハルの言葉に、ソルは首を捻る。
「こりゃ、生きて帰れるか心配だよ」
「それほどやばいのか?」
 バーハルは無言で頷く。
「……なあ、俺もついていっていいか?」
「!?何言ってるの!?いくら俺達でもソルを守りきれるか……」
「いいじゃん。ついてこさせれば」
 そう言ったのは、ゼルスだ。
「その代わり、死んでもしらないよ。自分の身は自分で守ってね」
「……ああ!」
「……ゼルス様が一番相手の恐ろしさ知ってるのに、何でOKしちゃうかなぁ……」


 任務で向かう事になったのは、ルダ王国の隣にある国、シーダール国だ。この国は世界最強の騎士団『ドーリア騎士団』というのがこの国の平和を守っている。今回の任務では都市には全く近づかない。国境の近くにある村で大変な事が起きているらしい。
「……村に来たのはいいが、人っ子一人見あたらねえな」
「……村の奥から死臭がする。行ってみよう」
 ゼルスを先頭に隊列を組み、先へ進む。


「……これは!!」
 村の奥には、人の原型を留めていない死体が大量にあった。
「この傷口……間違いない」
 人はどれも切り裂かれていたり、噛み砕かれたような跡がある。
「……何か来る……」
 ソルが呟く。その時、後ろに気配がした。
「誰だっ!!」
 全員が自分の武器を取り、後ろを向く。そこにいたのは……青色の髪をした少女だった。
「……女の子……?」
 ソルは完全に油断し、武器を下ろした。それと同時に、ゼルスがソルを抱きかかえて横へ跳んだ。ソル達がいた場所を、巨大な何かが通過した。
「あれは!?」
 全身が黒で、背中には大きな翼。鋭い牙。全てを切り裂けそうな爪。
「うわ〜、ドラゴンの中で最強の『ダークドラゴン』だよ……勝てるかな?」
「今日俺は初めて恐怖を感じたよ。ドラゴンなんてどうやって倒せばいいんだよ!」


25 :アクロス=レザストロ :2007/05/29(火) 19:48:19 ID:kmnktixJ

二十三章

「普通にやっても勝ち目はないし……逃げながら考えよう!」
「その方が良さそうだね。逃げる!」
 一斉に後ろへ走る四人。それを追いかけるドラゴン。
「でも、ドラゴンなんて本当に勝てるのかよ!」
「普通のドラゴンなら希望はあったよ。でも……あれは厳しいなぁ……」
 ゼルスが後ろにいるドラゴンを見て答える。
「しょうがないね……僕が囮になろう」
「何だと!?」
「僕は光速で走れる。だからあんなのに捕まらないよ。……たぶん」
 四天王最強と呼ばれるゼルスがここまで自信が無い。それほどあのドラゴンは強いようだ。
「そんな事……」
 ソルが何か言いかけた時、ある事がソルの頭に思い浮かんだ。
「……わかったゼルス。囮は任せる」
「「ソル!?」」
 その言葉を信じられなかったのか、バーハルとジェキが同時に声をあげた。
「一つ聞く。何秒まで耐えられる?」
「何秒でも耐えられるよ」
「よしっ!ジェキ!お前も何か能力ある?」
 ソルはジェキの方を向く。
「え?ああ、一時的に自分の体を強化するのと、触れた物を鋼鉄にする能力が……」
「最高じゃん!バーハル、お前の視力は?」
 今度はバーハルの方を向いてソルが聞く。
「え、視力?両目とも5だけど」
「オーケー!ゼルス!合図するまであいつを引き寄せておいてくれ!」
「了解!」
 ゼルスはその場で立ち止まり、双剣を構えてドラゴンの前に立つ。
「君の相手は僕が務めよう。かかってきなよ!」


「うん、このくらいなら大丈夫かな。バーハル、ゼルスとドラゴン見える?」
「大丈夫、余裕で見えるよ」
 隣にいたバーハルが答える。
「で、ソル。お前に何か策があるようだが?」
「ああ、今からそれを話すよ」
 ソルは話し始めた……


「……って所かな」
「ふむ……いけるかもな」
 作戦を聞いたジェキが呟く。
「どう?やってみる?」
 ソルはジェキとバーハルの顔を交互に見る。
「……よし、やろう」
「これなら上手くいくかも……」
 どうやら二人は了解したようだ。
「さ、二人の了解も取れたし、作戦開始!」


26 :アクロス=レザストロ :2007/06/10(日) 11:44:18 ID:kmnktiYG

二十四章

「……『アレ』使えれば一発なのに……使う訳には……おっと!」
 ゼルスは紙一重でドラゴンの攻撃をかわしていた。
「この力馬鹿。素早いから厄介な事この上無いよ」


「バーハル、準備は出来た。合図を!」
「わかった!」
 バーハルは詠唱を始める。そして、足下に譜陣が浮かび上がった。
「空よ!我の意思に従え!我の言葉を力に!」
 雨雲が集まってくる。
「全てを洗い流す雨を降らせよ!」
 ポツポツと、雨が降り始めた。


「雨?バーハルからの合図かな?」
 合図だと判断したゼルスは後ろを向いて走る。ドラゴンがそのすぐ後についてくる。
「さぁ、ソルの作戦とやらを見せて貰うよ」
 その瞬間、上空にソルが現れる。
「くらえドラゴン!!」
 ドラゴンの視線はソルに移った。その瞬間にジェキが一本の木を持ってドラゴンの足下に現れる。
「我の腕よ!今こそ力の限界を超せ!」
 ジェキの腕は光に覆われる。ドラゴンは上空にいるソルに気を取られてジェキに気付いてない。
「うおおおお!!」
 ジェキはバットを振るかの様に木を振った。走って来ているドラゴンに直撃する。ドラゴンは後ろに吹き飛ぶ。これが、ソルの狙いだ。力が強い奴はその力を利用して倒す。全員の能力を使った最善の手。
「やったか?」
 着地したソルがドラゴンの様子を窺う。ドラゴンは消滅していく。
「作戦完了。ソル、ご苦労様」
「上手くいくなんて思ってなかったけどな」


27 :アクロス=レザストロ :2007/06/16(土) 12:24:57 ID:kmnktixG

二十五章

「……で、この子供はどうするんだ?」
 ソルは、倒れている子供を見る。ドラゴンの消滅と同時に倒れたのだ。
「僕達が預かるよ。……それより、そろそろここを離れないと」
 ゼルスはお姫様だっこで少女を抱える。
「何故だ?都合が悪い事でも?」
 ソルは首を捻る。その時、何処かに行っていたバーハルが帰ってきた。
「ゼルス様、貼ってきました」
「ご苦労。さ、行こうか」
 ゼルスは村の出口へ向かう。
「……何のことだ?……ま、いいか」
 三人の後ろに、ソルも続く。


「ここか?化け物が現れた村というのは」
 白い鎧を見に纏った騎士が、先程までソル達がいた村の入口に現れる。その後ろには、三百程度の兵士がいる。
「はっ!国境近くにある村というのはここしかありませんので、間違いないと思われます!」
 後ろにいた兵士の一人が答える。
「よし。第一陣!村の様子を見てくるんだ!」
「了解!」
 五十人程度の兵が村の中へ入っていく。
「ドーリア様。一つお聞きしたいことが……」
「何だ」
「はっ……村を滅ぼす程の敵を相手に、何故少数編成を?」
 その問いに、『ドーリア騎士団』の隊長、ドーリアが迷い無く答える。
「我等が大群で動いたとなれば、民は何が起きたのかと不安になる。民をわざわざ心配させる事はない」
「流石隊長です!民の事を一番に考えるなんて」
 ドーリアは憧れの的とされている。人を身分で差別する事は無く、目上の人にも対等に意見を言う。その上剣術も出来るのだ。彼は今となっては、シーダール国の国民全員から尊敬されていた。
「隊長!村の家にこんな物が貼ってありました!」
 走り寄ってきた兵から紙を受け取るドーリア。
「これは……!!」
 それには、異形の槍を持っている天使が描かれていた。
「間違いない。【デス・エンジェル】の紋章……くっ!我等はまた奴等に先を越されたというのか!」
 化け物現れる所に【デス・エンジェル】あり。紙の裏にそう書かれていた事には、誰も気付かなかった。


28 :アクロス=レザストロ :2007/07/26(木) 15:32:35 ID:kmnktixi

二十六章

「……あ、ゼルス様とジェキ様!」
 本部に帰ると、ロビーにいた子供が駆け寄ってくる。
「どうしたんだい?」
 ゼルスは笑顔で用件を聞く。
「……えっと、ボスが帰り次第新しく入った奴を連れて来いだって」
「ボスが? わかった。ありがとね」
「うん、じゃあね〜」
 子供はこっちに手を振りながら走っていった。
「……っていう事だけどソル、いい?」
 ゼルスがソルを見る。別に断る必要はないと判断したソルは頷く。
「ボスが何の用だろう……?」
 難しい顔をしながらゼルスは歩いていく。ゼルスの様子に首を傾げながらも、ソルは後に続く。


 ボスの部屋は建物の一番奥にあった。何度も曲がり、十分程でついた。
 その部屋の扉は鉄で出来ており、中から鍵をかければ破るのは至難の業だろう。
「さ、ソル。どうぞ」
 ゼルスはソルの為に道を開ける。ソルは扉を開けようと、扉に歩み寄る。
 そして、扉の前に着いた瞬間、扉が勝手に開いた。
「……え?」
 上を見上げる。そこにはセンサーのような物があった。
「これってまさか……」
 自動ドアだったのか、そう言おうとしたが、やめた。
 皆が苦笑していたのだ。聞くまでもなかったな、そう思ってソルは部屋に踏み入る。
「────!」
 瞬間、空気が変わった。空気が、とてつもなく歪んでいる。吐き気を覚える。頭痛がする。生きてる心地もしなくなってきたが、何とか耐えて中に入った。
「────くそ、何なんだよコレ……」
 ソルはどんどん中に入っていくが、不快感は消えない。それどころか段々強くなる。気を抜けば今すぐにでもその場に倒れてしまいそうな体で、奥へ向かう。
「大丈夫?」
 ソルは隣を見る。そこには心配そうな顔をしているゼルスがいた。
 そのゼルスさえも顔色が悪い。
「……ああ、大丈夫……自分の心配もしろよ……」
 まだ心配そうにしてたが、ソルは出来るだけ見ないように進む。
「……この空気いつもよりずっと歪んでる……ボスは何を……?」
 ゼルスはソルが倒れても支えられる位置を歩いていく。それに気付いたソルは少し笑みを浮かべた。


29 :アクロス=レザストロ :2007/08/27(月) 14:45:20 ID:kmnktiYL

二十七章

「……ここか……」
 ソルは歩みを止める。前を見ると、階段があった。
 ゆっくりと上を見上げる。階段の一番上は、カーテンが仕切られていて、シルエットを映し出している。が、玉座のシルエットしか映っていなく、外見は判らない。
「……ボス! これは……」
「何の真似だと訊きたいのか、ゼルス」
 気を抜けば声だけで気圧される程の威圧感を、シルエット越しにボスは放っていた。
───逆らえば殺される。ソルの本能が、そう告げていた。
「なに、只のテストだ」
「テスト……? この、敵意のこもった殺気が?」
 ゼルスが、多少怒っているように感じる。何故?
 思案しても解らない物は脳内から排除し、ボスを睨む。
「ボス……ですか。訊いておきます。何故俺を試す必要が?」
 テスト、と言ったからには俺を試す理由があったのだろう。
 そう確信したソルは少し強気に訊く。
「……それは僕も訊きたいですね。ボス、教えてくれますか?」
「……いいだろう、だが、もう一人登場してもらう」
 ソル達の後ろから、足音が聞こえてくる。急いで振り向いた先には、全身黒の鎧を着た大男が、そこにはいた。身長は190センチ後半ぐらいあるのではないだろうか。がっしりとした体つきをしている。
「ボス、何の用だ。こちらも暇ではないんだからな。早めに済ませろ」
 あの圧倒的な威圧感を放っている存在に、偉そうに話す男。
 説明を求めようと、ソルは隣のゼルスに視線を送る。……珍しくゼルスが心の底から呆れたような顔をしていた。
「彼はウィド・ギルダー。一応四天王の一人です」
 ソルの視線に気付いたのか、紹介するゼルス。
「……で、ボス。四天王、後一人は呼ばないのですか?」
 この場には、四天王三人がいることになる。ゼルス、ジェキ、ウィドの三人だ。
 ならもう一人いる筈だが……? 辺りを見渡しても他の人物はいない。バーハルがいるが、彼は四天王ではない。
「その事についてだが……、
ゼルス・ティルリア、
ジェキ・モーレイド、
ウィド・ギルダー、
そして、ソル・ディーチ!」
 今この場にいるバーハル以外のフルネームを呼び、一泊置いた後───
「お前たちを、四天王に任命する!」
───信じられない言葉を、言った。


30 :アクロス=レザストロ :2007/10/07(日) 01:47:03 ID:kmnktiYD

二十八章

「今……なんて……」
 信じられない、というような表情でボスを見るゼルス。ジェキも同じようにしていた。
 ウィドは、完全に苛ついているとわかる舌打ちをし、バーハルは驚きこそしたがすぐに平静を取り戻し、ソルを見る。
 ソルは、ボスと周りの四人を見てとりあえず冗談ではないと理解し、一言。
「お断りします」
「!?」
 ゼルスがソルを振り向いたが、それは気にも留めない。
「四天王だかなんだか知らないけど、何が狙いなんですか? 新参者を上の地位に置くなんて、何か狙いがあるんでしょう?」
 この部屋の空気が変わろうと、それはソルの知った事ではない。
「俺が欲しいのは、地位とか金じゃない。全てを超越する、守る為の力だ」
 そう、あの時……姉が死んだ時にソルは、力が欲しいと思った。
 もう、大事な人間を死なせない為。そして、姉を殺した組織【デス・エンジェル】を滅ぼす為。
 ソルは、力を手に入れたらここを滅ぼす気だった。だが、その考えは次の瞬間に消える。
「くくく……ソル・ディーチよ、勘違いするな」
 ボスが呟いた次の瞬間───

「貴様じゃ何年経っても俺には勝てねえよ」

───この部屋を覆っていた殺気が、もっと濃くなった。
「───!?」
 肌で感じた瞬間、ソルは床に手をついていた。
(何だ……この……殺気は……!!)
 ソルを覆う感情、それは絶対の恐怖。自分の足で立つ事すら不可能だった。
「…………!!」
 言葉を発する事すら出来ない。
───逃げたい。今すぐ、この場から。
 しかし、足が恐怖で震え、這いつくばるくらいしか出来ない。
 周りを見渡すと、ゼルスは倒れそうながらも両の足で何とか立っている。少し押せば倒れてしまいそうな程、僅かな力だった。
 ジェキは片膝をつき、それでも立ち上がろうとしていた。だけど、膝は数ミリも上がらない。
 ウィドは、忌々しそうにボスを睨んでいるが、両膝をついていて、全身には汗が流れていた。
 バーハルは、手元にあった槍を地面に刺して、それを支えに立っているような状態だ。
「さぁ、ソル・ディーチ。もう一度言おう。四天王に任命する」
 ソル達を嘲笑しながら、ボスは訊いた。
「あ……」
───訊くまでもない。ソルにはもう、選択肢は一つしかないのだから。
「四天王に……ならせて……頂きます……」
 そして、殺気は一瞬で収まった。全員がその場に、座り込んだ。
 圧倒的な力の差。四天王は、ボスの足元にすら届いていなかった。


31 :アクロス=レザストロ :2007/10/13(土) 00:38:03 ID:kmnktiYc

二十九章

「……まったく、ボスは何を考えているんだ……革命」
「俺が知る訳……」
「ジェキさんには訊いてない」
「酷いな! 革命返し!」
 【デス・エンジェル】本部のロビーでソル、ゼルス、ジェキ、バーハルの四人はトランプの大富豪をやっていた。
 結局あの後は何も無く、そのまま解散したのだ。
「俺、何かした覚えはないんだが……革命返し返し」
「まだ入って数日だしねぇ……革命8流し」
「うわ、そこで流すか……」
 何故大富豪をやっているのか。それは、四天王の今月のリーダー決めだ。
 基本的リーダーには危険なミッションが回ってくる。それを避ける為に大富豪で奮闘中なのだ。バーハルはウィドの代わりらしい。
「ソル、過去に何かしたの? 11バックのツーカード」
「その線が一番有り得そうだね。 9のツーカード」
「覚えは無いのか?」
 ジェキはテーブルに3を二枚出しながらソルに訊く。
「……俺、村から外に出た事少ししか無いしな……」
 ソルは首を傾げながらジョーカーを二枚出して流す。
「そんな目立つ事はしてませんよ……多分」
 2のスリーカードを場に出して流すソル。
「じゃあ、何が原因だ?」
「ゼルスとタメ口で話してるからじゃないか?」
「その理由はどうかと思いますけど……」
 そして、ソルが1のスリーカードを場に出した瞬間、ソル以外が固まった。
「……ちょっと待ってよソル。何でそんな手札いいの?」
「え? 俺がシャッフルして配ったんだぞ。細工してない訳ないだろ。あがりっと……」
 最後に5を出して席を立つソル。勿論、全員からの非難の視線を受けて。
「イカサマ無しなんて一言も言わなかっただろ?」
「言ってないけど……」
「じゃ、いいよな」
 ソルはこの前バーハルに連れられて見た子供が一杯いる場所へ向かうことにした。
 どうせ四天王だからって今までと変わらない。
「……でも、他の奴からの注目浴びるんだよなぁ……」
 嫉妬と尊敬、羨望の眼差しを全て受けているソル。正直、居心地が悪い。
「我慢あるのみだな……」
 廊下をこの前通った様に歩いていくソル。一度、通った道なのでほとんど迷わずに進んでいった。


32 :アクロス=レザストロ :2007/10/21(日) 00:45:26 ID:kmnktiYc

三十章

「……ん?」
 子供が沢山居た場所───ソルは保育園と呼ぶ事にした───には先客がいた。
 緑色の長髪に、和服を着た美人。その上、スタイルが良い。
 一瞬、大和撫子を想像したが───髪が黒くないから違うとソルは否定する。
「あの〜」
「はい?」
 こちらを向いた女性の顔を見て、ソルは固まる。
 何故なら、その顔は自分のよく知っている顔だったから。

「ゼ……ルス?」

 ───そう、今まで大富豪をやっていたゼルスにそっくりな顔だった。
「ゼルス? それは兄さんの名前ですけど……」
 多少困惑しながらそう答える女性。
「兄、さん?」
「はい。ゼルス・ティルリアは私の兄です。私はエリン・グレスト」
 エリンと女性は名乗った。けど、ソルは引っ掛かった所を訊く。
「何故、ゼルスとファミリーネームが違うんだ?」
「両親が離婚して私は母親に、兄さんは父親に引き取られたんです。【デス・エンジェル】で再会しました」
 淡々と説明するエリン。ソルは納得した様に頷き、保育園の中を覗く。たくさんの子供達が遊んでいるのが見えた。
「エリンはどうしてここに?」
「子供達の世話ですよ」
 エリンは扉の前に立ち、ソルを見る。
「良かったら一緒にどうですか?」
 エリンの笑顔の申し出を受けて、ソルは思う。
(何でこの兄妹は美がこんな追求されてんだよ。不公平だ……)
 きっと両親も凄い美しい方だったんだな、とどうでもいい事を思いつつ、
「ああ、お手伝いさせてもらうよ」
 そう言って、エリンの隣にソルは並ぶ。
「それでは、行きましょう」
 エリンは扉を開く。そして、子供達の視線を一斉に受けた。
「あ〜、エリン姉ちゃんだ〜!」
「本当だ! また遊びに来てくれたの?」
 扉を開けて数秒でエリンの周りに子供達が集まっていた。
 人気が有るんだな、とその様子を見ながらソルは苦笑した。
 すると、ようやくソルの存在に気付いたのか子供が一斉にこちらを向く。
「……この人誰だー?」
「えっと、俺はソル・ディーチって……」
「わかった! エリン姉ちゃんの彼氏だ!」
 その言葉に吹き出しそうになるがソルは耐えた。
「あらあら、何を言ってるのよ。ソルは恋人未満、友達未満よ」
「それって赤の他人って事だろ!」
 自分が恋愛対象に見られてない事に少し落ち込みつつツッコミを入れる。
「それに、ソルって私の好みを180度程外しているもの」
「俺ってそんな駄目か!?」
「ふふ、冗談よ、冗談。本当は150度くらい」
「大して変わらないじゃん!」
「あら、30度の差は距離に換算すると42、195キロにもなるのよ」
「何処の駅伝だ!! しかも俺は更に×5で好みから離れてるし!」
「あら。必死ね」
 ソルは、やっぱり兄妹の性格の悪さは似ているなと心の底から思った。


33 :アクロス=レザストロ :2007/10/30(火) 18:16:30 ID:kmnktixk

三十一章

「……疲れた〜」
 エリンに一通りツッコミを入れた後、子供達と遊んでいたソル。いや、遊ばれていた方が正しいのだろうか。ソル一人で逃げる鬼ごっこや怪獣役をやらされてエリンに本気でかかってこられたり。やはり兄妹なのだろう。実力はソルの数段上だった。兄がゼルスというのもよくわかったソルだった。
「はは、情けないわねあの程度で」
「……大半はお前だ、悪魔め」
「あら、こんな可愛い私を悪魔だなんて……失礼しちゃう」
「ゼルスもしそうな返答をありがとう。兄妹そろってナルシストか」
 実際、ソルの疲れた原因はそれだけではない。子供が心配そうにソルを見上げてきた。
「ソルお兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。えっと……D−3043」
 ───この子供達は全て名前がなく、番号で呼ばれていた。
 つまり、それだけの数字と顔を覚えなくてはいけない。いくらソルでも、きつかった。
 しかも数字には規則性が無い。記憶力が完全に試されていた。
「C−5696、水持ってきてあげて!」
「は〜い」
 エリンは完璧に記憶してるのか、わざわざ指差して言っている。その後に見せる馬鹿にしたような表情がソルの心に精神的ダメージを与える。
「まったく、番号なんて面倒なだけだろ」
「そう? 覚えれば楽よ」
 子供から水の入ったコップを受け取り、飲み干す。
「……番号じゃ覚えるのがきつい。特徴が無ぇもん」
「あ、記憶力悪いからって言い訳だ〜」
「だから、俺が全員に名前を付ける!」
 そう宣言し、とりあえず水を持ってきてくれたC−5696を見る。
「えっと……お前は今日からミネードだ!」
「みねーど? ……うん、わかった」
「じゃあ、お前はシャール。お前はソリアで、お前が……」
 さっき遊んでた時に考えていたのかと思うほどテキパキと名前をつけていくソル。それを見て少し唖然としてたエリンは苦笑する。
「じゃ、私も手伝おうかしら」
「おっ、頼むぜ。そろそろ名前が無くなって来てるから」
「わかった、じゃあ君は……子供A!」
「待て!!」
 いろいろふざけたネーミングをしたエリンを止める。
「何よソル。あ、いい名前すぎた?」
「それがいい名前なら『ああああ』でもいい名前だ。真面目に付けろ」
「わかった! ボク、子供Aだね!」
「落ち着けぇぇぇ!! 鵜呑みにするなぁ!!」
 そのまま受け入れてしまいそうな子供を止めたソル。この子供達は素直すぎた。



 数十分が経ち、ようやく全員の名前が付け終わった。あの後もエリンの変なネーミングを止めようとしたり、子供がそれを受け入れそうになるのは何とか阻止した。


novel plaza system
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produced by COLUN.